① 新しく発症した症例の診断法と予後予測因子
② 神経保護治療と代替治療
③ motor fluctuationおよびジスキネジアを伴う症例の治療
④ パーキンソン病に伴ううつ,精神症状,痴呆の評価・治療
さて今回は①の「新しく発症した症例の診断法と予後予測因子」について勉強したい.同時にガイドラインがどのように作られていくのかも見てみたい.例えば病棟で,典型的所見に欠けるパーキンソニズムの患者さんを担当し,「どんな臨床所見,検査所見がパーキンソン病と類縁疾患の鑑別に有用か?」という課題を検討会で発表するよう割り当てられたとしたら,どのように過去の論文を選択・reviewし,最終的な結論を出すだろうか?このPractice parameterは,そんな疑問の解決方法を学ぶのにはモッテコイの教材となる.
疑問1;どんな臨床所見,検査所見がパーキンソン病とその類縁疾患の鑑別に有用か?
さて解答の導き方のポイントとして,以下の点に注目すべきと思われる.
どんなsearch termを用いて,どのデータベース(Medlineなど)を検索したのかを明示する
検索した論文のうち使用可能と判断した論文の基準(inclusion criteria)を予め決めておく
論文のエビデンスレベルを,診断の有用性の観点からClass I~IVにクラスわけする
どのエビデンスレベル(Class I~IV)の論文がいくつ存在するかによって,推奨の度合いをLevel A, B, C, Uとしてレベル分けする
例えば,疑問1の場合,search termとして,Parkinson disease,neurologic examination, clinical characteristics,neuroimaging,radionuclide imaging,ultrasonography,differential diagnosis,autopsy,SPECT,PET,challenge,olfactoryを選択している.inclusion criteriaは「少なくともPD群,比較する群とも10症例以上の論文」としている.結果として,176論文が検索され,48論文がreview articleもしくは内容が不適切であったため除外し,128論文をreviewした.うちinclusion criteriaを満たしたものはわずか31論文であった.次に31論文を内容別に,Drug challenge,Olfaction,Diagnostic neurophysiologic testing,Diagnostic neuroimagingに分類し,ついでエビデンスのClassの判定,最後に推奨レベルの決定という手順を踏んでいる.
これらはいざ行うとなると労力を要し,研修医の先生方には嫌がられそうだが,疑問に対する解答を厳密に導き出すためにはこのような作業が必要ということを理解することは大事なことである(Medlineをざっと見て,都合の良さそうな論文を拾うだけではダメということ).またこういった観点から以前取り上げた「慢性頭痛の診療ガイドライン」を眺めてみると,臨床的疑問を掲げたのち解答を導き出すという同様の方法をとっているものの,論文のinclusionの基準や,論文のエビデンスレベルをどう判断した上で,推奨のレベルを決めたかという過程の記載にかなり乏しく,推奨レベルをどう決めたのか良く分からない部分が少なくないということが分かる.
さて本題に戻り,以下,疑問に対する解答(勧告)を列挙する.
疑問1;どんな臨床所見,検査所見がパーキンソン病とその類縁疾患の鑑別に有用か?
推奨
①初期のパーキンソン病と類縁疾患の鑑別に有用な所見としては,
1) 発症時ないし病初期における転倒
2) Levodopaに対する反応性不良
3) 発症時において症状が対称性であること
4) 早い進行(3年間でHoehn and Yahr stage IIIに到達)
5) 振戦を認めない
6) 自律神経障害
(3 Class II + 1 Class III studies→Level B)
②初期のパーキンソン病と類縁疾患の鑑別に有用な検査に関して
1) Levodopaないしapomorphineによるchallenge testはパーキンソン病の診断確認に有用 (1 Class I + 1 Class II studies→Level B)
2) 嗅覚試験はパーキンソン病とPSP・CBDの鑑別に有用,しかしパーキンソン病とMSAの鑑別には有効ではない(3 Class II studies→Level B)
3) ただし,これらの検査が臨床的診断基準にまさるというエビデンスはなく(Level U),また検査所見の最適な組み合わせについてもエビデンスはない(Level U).
4) 以下の検査は鑑別診断に有用ではないと考えられる;clonidineによるGH刺激試験(1 Class II study),眼球電図(2 Class III studies),SPECT (1 Class III study)(いずれもLevel C).
5) 以下の検査はエビデンス不十分で判断ができない;ウロダイナミクス(1 Class III study),自律神経検査(4 Class III studies),尿道・肛門括約筋筋電図(1 Class III study),MRI (2 Class III studies),脳実質超音波(1 Class III study),FDG PET(1 Class III study).(いずれもLevel U).
疑問2;どんな臨床所見が進行具合の予測に有用か?
推奨
① 新しく診断されたパーキンソン病患者において,高齢発症(定義は57~78歳とさまざま)(2 Class II + 1 Class III studies),および初発症状が筋強剛・寡動であること(2 Class II studies)はパーキンソニズムの進行がより早いことを示す予測因子となる(Level B).
② 併存疾患の存在(脳卒中,聴覚・視覚障害)(1 Class II study),姿勢反射障害・歩行障害(1 Class II + 1 Class III studies),男性であること(1 Class II study)も予測因子になる可能性がある(Level C).
③ 初発症状が振戦であることは,予後が良好であること,およびlevodopaによる治療効果が長期つづく可能性を示唆する因子となるかもしれない(1 Class II + 1 Class III studies→Level C)
④ 高齢発症,痴呆,ドパミンハン反応性の減弱は早期からの介護施設への入居や生存期間の減少を予測因子として使用できるかもしれない(1 Class II study→Level C).
Neurology 66; 968-975, 2006