Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(10月30日)  

2021年10月30日 | 医学と医療
今回のキーワードは,デルタ株に対する免疫は2 回目のワクチン接種から数ヵ月後に全年齢層で低下する,ワクチン接種で神経合併症のリスクが高まるが,感染するとよりリスクが高い,最終の抗CD20治療からの期間と全治療期間は,ワクチン接種後の抗体反応低下と関連する,重症COVID-19では感染早期にTGFβが不適切に増加し,NK細胞の機能と早期のウイルス防御を阻害している,重症化リスク因子を持つの外来患者に早期にフルボキサミンを使用することで,救急搬送ないし転院を抑制できる,です.

最初の論文はイスラエルの感染者数の変動に,ワクチン接種後数ヶ月で効果が低下したことが影響していることを示した報告です.現在,感染状況が落ち着いていますが,イスラエルと同じ轍を踏まないために,ブースター接種の機会が来れば必ず行うことが推奨されます.興味深い報告はサイトカインの1つ,TGFβが早期に増加する症例では,がん細胞やウイルス感染細胞を攻撃するナチュラルキラー細胞(NK細胞)の働きに変化が起きて重症化が生じることが示されました.TGFβ受容体阻害剤などに重症化抑制効果が期待できるかもしれません.最後に以前から話題になっていた抗うつ薬フルボキサミンの重症化抑制作用に関する大規模研究が報告されました.

◆デルタ株に対する免疫は,2 回目のワクチン接種から数ヵ月後に全年齢層で低下する.
イスラエルはファイザーワクチンを接種することで,COVID-19の流行が急激に抑制された.その後,感染者がほとんどいない時期を経て,2021年6月中旬から流行が再燃した(図1).



この再燃の原因について検討した研究が報告された.2021年6月以前にワクチン完全接種を受けたイスラエルの「全住民」を対象に,2021年7月11日~31日の期間の感染および重症化を検討した.結果としては,60歳以上の人では,7月11日~31日における感染率は,2021年1月にワクチン完全接種を受けた人の方が,2か月後の3月に完全接種を受けた人よりも高かった(率比1.6;95%CI,1.3~2.0).40~59歳では率比1.7(95%信頼区間,1.4~2.1),16歳~39歳の人では,率比1.6(95%CI,1.3~2.0)であった.重症化率は,60歳以上では1.8(95%CI,1.1~2.9),40~59歳では2.2(95%CI,0.6~7.7)であった(16~39歳では人数が少なく算出不能).以上よりデルタ株に対する免疫は,2 回目のワクチン接種から数ヵ月後に,全年齢層で低下したことが示された(図2).→ イスラエルの経験から学び,ブースター接種をしっかりと行い,第6波を最小限に抑える必要がある.
New Engl J Med. Oct 27, 2021.(doi.org/10.1056/NEJMoa2114228)



◆ワクチン接種で神経合併症のリスクが高まるが,感染するとよりリスクが高い.
COVID-19の感染や予防接種に関連した稀な神経合併症の報告が増えている.英国から,アストラゼネカワクチン(n = 2041万7752人)またはファイザーワクチン(n = 1213万4782人)の初回接種後28日間,およびPCR検査陽性後(n = 200万5280人)の神経学的合併症について検討した.アストラゼネカワクチンでは,ギランバレー症候群(発生率比(IRR),2.90,接種後15~21日目)および顔面神経麻痺(IRR,1.29,15~21日目)のリスクが上昇した.ファイザーワクチンでは,出血性脳卒中のリスクが上昇した(IRR,1.38,15-21日).スコットランドのコホートでは,アストラゼネカワクチンとギランバレー症候群との関連がさらに裏付けられた(IRR,2.32,1~28日目).PCR陽性の検査後28 日間では,ギランバレー症候群を含むすべての神経学的転帰のリスクが大幅に高かった(IRR,5.25).全体として,アストラゼネカワクチンの接種を受けた1000万人あたり38件,PCR陽性後には1000万人あたり145件のギランバレー症候群の過剰発生があると推定された.以上よりCOVID-19ワクチンを接種すると神経合併症のリスクが高まるが,COVID-19の感染はよりリスクが高まることが分かった(図3).
Nat Med. Oct 25, 2021.(doi.org/10.1038/s41591-021-01556-7)



◆最終の抗CD20治療からの期間と全治療期間は,ワクチン接種後の抗体反応低下と関連する.
英国から,多発性硬化症(MS)患者473名を対象とした,COVID-19ワクチン後の対する抗体産生に対する疾患修飾療法の影響を検討した研究が報告された.結論は,疾患修飾療法を受けていない場合と比べ,抗CD20モノクローナル抗体とフィンゴリモドの使用は,ワクチン接種後のseroconversionの低下と関連していた(オッズ比0.03と0.04).その他の薬剤はいずれも未治療群と有意な差はなかった.最終の抗CD20治療からの期間,ならびに全治療期間が長いことは,ワクチン接種に対する抗体反応低下と有意に関連していた.またT細胞免疫に関する予備的研究では,抗体陰性の被験者の40%に抗SARS-CoV2 T細胞反応が測定できた.以上より,疾患修飾療法の中には,MS患者のCOVID-19ワクチン接種後の抗体が減弱するリスクをもたらす薬剤があることを認識する必要がある.
Ann Neurol. 22 October 2021 https://doi.org/10.1002/ana.26251

◆重症COVID-19では感染早期にTGFβが不適切に増加し,NK細胞の機能と早期のウイルス防御を阻害している.
ナチュラルキラー(NK)細胞は,RNAウイルスを含むさまざまなウイルスに対して顕著な防御活性を持つ自然免疫系のリンパ球である.COVID-19では,活性化された「適応的」表現型を持つNK細胞が増加しているにもかかわらず,NK細胞の機能が変化している可能性が指摘されていた.ドイツから,COVID-19におけるウイルス量の減少がNK細胞の状態と相関すること,NK細胞が感染した標的細胞を認識することでSARS-CoV-2の複製を制御できることが示された.重症のCOVID-19では,細胞傷害性エフェクター分子が高発現しているにもかかわらず,NK細胞はウイルス制御,サイトカイン産生,細胞傷害性に顕著な欠陥を示した.COVID-19の全病期におけるNK細胞の単一細胞RNAシーケンシング(scRNA-seq)により,ユニークな遺伝子発現が明らかになった.インターフェロンによるNK細胞活性化の転写ネットワークには,細胞接着,顆粒エクソサイトーシス,細胞媒介細胞傷害に関連する遺伝子の発現が低下した支配的なTGFβ応答が認められる.重症のCOVID-19では,TGFβの血清レベルが感染後2週間以内にピークに達し(図4),その結果,TGFβ依存性にNK細胞の機能が大きく阻害されることがわかった.これと対照的に,軽症患者のTGFβは発症後3週間を過ぎてからわずかに増加するのみであった.以上より,重症COVID-19では感染早期のTGFβの不適切な増加が,NK細胞の機能と早期のウイルス防御を阻害している可能性が示された.TGFβの抑制により,重症化を防げる可能性が出てきた.
Nature. Oct 25, 2021.(doi.org/10.1038/s41586-021-04142-6)



◆重症化リスク因子を持つの外来患者に早期にフルボキサミンを使用することで,救急搬送ないし転院を抑制できる.
近年,COVID-19に対する抗うつ薬フルボキサミン(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の治療効果が期待されている.ブラジルからフルボキサミンの重症化抑制効果を検討するTOGETHER試験が報告された.糖尿病や高血圧などのハイリスク因子を持つブラジル人成人を対象とした偽薬対照無作為化試験である.フルボキサミン(100mg,1日2回,10日間)または偽薬のいずれかに割り付けられた.主要評価項目は,COVID-19による救急搬送,または三次病院への転院のいずれかとして定義される「入院」の複合エンドポイントとした.結果はフルボキサミン群,偽薬群741名ずつ割り振られた.COVID-19により「入院」した患者の割合は,偽薬と比較してフルボキサミン群で低く(79/741例[11%]対119/756例[16%];相対リスク[RR]0.68),かつ優越性が認められた(リスク差5.0%).主要評価項目の結果は,修正intention-to-treat解析では同様の結果(RR 0.69),per-protocol解析ではより大きな結果(RR 0.34)が得られた.死亡については,ITT解析で,フルボキサミン群17名,偽薬群25名であった(OR 0.68),per-protocol解析では各1名,12名であった(OR 0.09).緊急性の高い有害事象に有意差はなかった.以上より,COVID-19と診断された高リスクの外来患者に,早期にフルボキサミン(1回100mg,1日2回,10日間)を使用することで,救急搬送ないし転院を抑制できる可能性がある.
Lancet Global health. Oct 27, 2021.(doi.org/10.1016/S2214-109X(21)00448-4)

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RFC1遺伝子関連疾患は小脳と感覚神経だけの疾患ではない.

2021年10月25日 | 脳血管障害
回診でRFC1 (replication factor C1)関連遺伝子疾患の画像について議論になりました.この疾患は,原因遺伝子RFC1のイントロンに,両アレル性AAGGGリピート(ペンタヌクレオチドリピート)の異常伸長を認めます.代表的な表現型はCerebellar ataxia with neuropathy and vestibular areflexia syndrome(CANVAS)で,両側の前庭機能障害,小脳性運動失調,感覚神経障害を主徴としますが,慢性咳嗽を呈したり,パーキンソニズムや自律神経障害を呈して多系統萎縮症(MSA)類似の表現型を示したりします(Ann Neurol. Sep 16, 2020.doi.org/10.1002/ana.25902).その他,姿勢保持障害,水平方向サッケード低下,舞踏運動,ジストニアも呈します(Neurology. 2021;96:e1369-e1382;図1).問題の画像所見については2つの論文に注目したいと思います.



◆最近,Neurology誌に報告された研究では,中央診断を行った31人(罹患期間範囲0~23年)において,小脳萎縮は最も特徴的な所見であるものの必発ではなく(28/31名;90%;図2A),小脳半球よりも虫部に多く認めた(70%対87%).89%の患者では軽度~中等度の萎縮であったが(図2B),一部では罹患期間10年で高度の小脳萎縮を来した(図2C).しかし罹患期間20年で小脳萎縮を来さない症例もあった(図2D).つまり小脳萎縮の程度は罹病期間によらないことが示唆される. その他の所見として,主に頭頂葉に目立つ大脳萎縮を42%で,脳幹萎縮を13%,大脳基底核(淡蒼球)の信号異常(図2G)を6%で認めた.大脳萎縮に影響する因子は高齢で,脳幹萎縮に影響する因子は罹病期間であった.つまり疾患に直接関連しているのは脳幹萎縮と考えられた.脳幹萎縮は,嚥下障害,尿意切迫・尿閉,垂直および水平方向サッケード低下と関連していた.
Neurology. 2021 Mar 2;96(9):e1369-e1382. doi: 10.1212/WNL.0000000000011528.



◆最近のMov Disord誌に本症の脳障害の構造的特徴について報告された.22名の患者(平均年齢62.8歳,罹患期間10.9年)と同数の健常対照に対し3T MRIを実施し,大脳灰白質と白質,小脳を比較した.症状としては,運動失調,感覚障害,前庭反射障害のほか,パーキンソニズムや錐体路徴候も認めた.画像解析では,広範囲かつ比較的対称的な小脳と基底核の萎縮を特徴とすること,脳幹はすべての部位で体積減少が認められること,大脳白質(主に脳梁)が傷害される一方,大脳皮質の損傷はむしろたもられることが分かった.
Mov Disord. 2021 Jul 9. doi: 10.1002/mds.28711.



以上のように,RFC1遺伝子関連疾患は純粋に小脳や感覚神経のみ侵される疾患ではなく,大脳基底核や大脳深部白質も障害が及ぶことが示されています.


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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(10月23日)  

2021年10月23日 | 医学と医療
今回のキーワードは,ようやくできたLong COVIDの定義,デルタ株感染による死亡の抑制にファイザー・アストラゼネカワクチンとも90%以上の有効性,12~18歳の青年に対するデルタ株感染防止にファイザーワクチンは90%以上の有効性,イベルメクチンの中毒症状として錯乱,運動失調,痙攣が生じる,ワクチン誘発性免疫性血栓性血小板減少症に伴う脳静脈洞血栓症の予後は改善してきている,です.

WHOが265名もの関係者を世界中から集めて大規模なデルファイ法(集団の意見や知見を集約し,統一的な見解を得る手法の一つ)を行い,複雑で困難であったLong COVID(WHOのいうpost COVID-19 condition)の定義を作成しました.これを機に,研究や診療が推進されることが望まれます.

◆ようやくできたLong COVIDの定義.
COVID-19後遺症として,long COVID,long-haul COVID,あるいはWHOが推奨するpost COVID-19 conditionなどさまざまな用語が提案されている.いずれにしてもその定義は難しく,研究や診療の方針を策定する上で問題となっている.今回,WHOから標準化された定義に最も重要な領域(ドメイン)と評価項目が決定された.具体的には大規模な2ラウンドのデルファイ法を行い,その後,コンセンサスプロセスを繰り返し行った.議論は第1ラウンド265名,第2ラウンド195名が参加し,その構成は患者,研究者,外部専門家,WHO職員,その他の5つのグループであった.最終的に12のドメインが決定された.各ドメインは複数の評価項目で構成され,計45項目が作成された.

【12のドメイン】
1 SARS-CoV-2感染の既往
2 SARS-CoV-2感染の検査での確認
3 症状が出現した後(無症状の場合は検査結果が陽性であった日から)3ヵ月以上経過していること
4 症状が継続している期間が最低でも 2 カ月間
5 症状および/または障害として,認知機能障害,疲労,息切れ,その他
6 症状の最小限の数
7 症状のクラスター化
8 症状の時間的経過の性質(変動する,増悪する,新規発症,持続,再発)
9 COVID-19の十分に報告されている合併症の後遺症(脳卒中,心筋梗塞など)
10 他の診断では説明できない症状
11 異なる集団への定義の適用;子供やその他の人々のための分離した定義を含む
12 日常生活機能への影響



【post COVID-19 conditionの定義】
SARS-CoV-2感染の可能性が高い,または確定した既往歴のある人が,COVID-19の発症から通常3ヵ月後に,少なくとも2ヵ月間持続する症状を持ち,他の診断では説明できない場合に生じる.一般的な症状としては,疲労感,息切れ,認知機能障害などがあるが,その他の症状(付録に記載)もあり,一般的には日常生活に影響を及ぼす.症状はCOVID-19の急性エピソードから回復した後に新たに発症することもあれば,初期の状態から持続することもある.また,症状は時間の経過とともに変動したり,再発したりすることもある.小児については別の定義が適用される場合がある.
A clinical case definition of post COVID-19 condition by a Delphi consensus, Oct. 6, 2021(https://bit.ly/3GdixCb)

◆デルタ株感染による死亡の抑制に,ファイザー,アストラゼネカワクチンとも90%以上の有効性.
スコットランドの18歳以上の成人を対象とした,デルタ株感染による死亡に対するワクチンの有効性についての研究が報告された.COVID-19による死亡を,死亡診断書に記載された場合と,PCR陽性後,28日以内の死亡と定義した.11万4706 人のPCR陽性感染者が対象となった.感染の99.5%がデルタ株によるものであった.201人が死亡した.デルタ株による死亡に対する完全ワクチン接種(2回目の接種から14日以上経過)の有効性は,ファイザーワクチンで90%,アストラゼネカワクチンで91%であった.以上より,いずれのワクチンとも,デルタ株による死亡を十分に抑制できることが分かった.
New Engl J Med. Oct 20, 2021(doi.org/10.1056/NEJMc2113864)

◆12~18歳の青年に対するデルタ株感染防止に,ファイザーワクチンは90%以上の有効性.
イスラエルからの報告で,12~18歳の青年を対象としたデルタ株へのファイザーワクチンの有効性について報告がなされた.新規感染者の95%以上がデルタ株であった.9万4354人のワクチン接種者と同数の未接種対照者とのマッチングができた.ワクチンの有効性は,初回接種後14~20日目で59%,初回接種後21~27日目で66%,2回目の接種後7~21日目で90%であった.症候性感染に対する有効性は,初回接種後14~20日目で57%,初回接種後21~27日目で82%,2回目の接種後7~21日目で93%であった.以上より,ファイザーワクチンは,12~18歳の青年におけるデルタ株感染全体と症候性感染の両者に対して,高い有効性を示した.
New Engl J Med. Oct 20, 2021(doi.org/10.1056/NEJMc2114290)

◆イベルメクチンの中毒症状として胃腸症状のほか,錯乱,運動失調,痙攣が生じる.
オレゴン州の中毒センターはからの報告.イベルメクチン中毒が2021年には増加し,21件の通報があった.ほとんどが60歳以上であった(年齢中央値64).11名はCOVID-19予防のため,10名は治療のためにイベルメクチンを服用した.3名は医師または獣医師から処方を受け,17名は獣医師用の製剤を購入していた(1名は不明).ほとんどの人は初回の大量かつ単回の内服後2時間以内に症状が発現した. 6名が入院,4名はICUで治療を受けたが,死亡した者はいなかった.胃腸障害が4名,錯乱が3名,運動失調と脱力が2名,低血圧が2名,痙攣が1名であった.入院しなかった人の多くは,胃腸障害,めまい,錯乱,視覚症状,発疹などであった.
New Engl J Med. Oct 20, 2021(doi.org/10.1056/NEJMc2114907)

◆ワクチン誘発性免疫性血栓性血小板減少症に伴う脳静脈洞血栓症の予後は改善してきている.
ヨーロッパから,アデノウイルスベクターワクチン接種後の,ワクチン誘発性免疫性血栓性血小板減少症(VITT)による脳静脈洞血栓症(CVST)患者の死亡率が,時系列で改善しているかを検討した論文が報告された.結果として266例の患者が同定された.2021 年 3 月 28 日までの死亡率は 47/99(47%)であったのに対し,それ以降では36/167(22%)と減少した(p < 0.001).以上より,VITT後の予後に対して,早期発見ないし治療の改善が有益であったものと考えられた.
Eur J Neurol. Sep 18, 2021(doi.org/10.1111/ene.15113)



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大幅改訂した頭痛の診療ガイドライン2021

2021年10月22日 | 頭痛や痛み
頭痛の診療ガイドライン2021」が発刊されました.最新エビデンスに基づいて「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」が 8年ぶりの大幅改訂です.大きな変更点は,二次性頭痛の項目が追加されたことと(このためタイトルも慢性頭痛から頭痛に変更になりました),抗CGRP関連抗体による片頭痛治療が含まれたことになります(図右下).このため368ページから512ページに増えました.私も2019年2月のガイドライン作成委員会(荒木信夫委員長,竹島多賀夫副委員長)から勉強させていただき,「CQ2-1-1片頭痛はどのように分類・診断するのか」「CQ2-1-7片頭痛の予後はどうか(片頭痛自然史,片頭痛の慢性化も触れる)」を担当しました.国際頭痛分類第3版と本書は,まさに「頭痛診療のバイブル」です.ぜひお手元でご活用いただければと思います.

頭痛の診療ガイドライン2021





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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(10月16日) 

2021年10月16日 | 医学と医療
今回のキーワードは,ワクチン接種はlong COVIDにおける120日後の重症度と生活への影響を軽減する,long COVIDの疲労は発症16~20週後で13%~33%の患者に認められる,急性期COVID-19では少なくとも1種類の疼痛症候群が71.6%に認められる,60歳以上で何らかの神経症状を合併すると死亡率が約2倍増加する,Grausの自己免疫性脳炎を満たす症例の臨床像や画像所見は多彩である,ワクチン接種後の血小板減少症候群を伴う血栓症の51%に脳静脈血栓症が生じる,アストラゼネカワクチンは多発性硬化症,NMOSDの再発を起こしうる,です.

英国における検討で,ワクチンの2回接種はlong COVIDの出現を半減させる可能性が報告されていますが(Lancet Infect Dis. 2021),910名が参加したフランスの検討でも,試験開始120日の評価で,ワクチン接種群ではlong COVID症状が軽く,完全に症状が消失する患者の割合が2倍多く,生活への影響も少ないことが報告されました.ワクチン接種は,感染したとしても,long COVIDによる症状や影響を軽減できることから,あらためて接種をお勧めしたいと思います.一方,アストラゼネカワクチンの新たな有害事象として,多発性硬化症やNMOSD患者の再発を招くことが報告されました.これらの患者ではmRNAワクチンの接種を推奨すべきと考えられます.

◆ワクチン接種は,long COVID患者における120日後の重症度と生活への影響を軽減する.
フランスから,ComPaRe long COVIDコホートのデータを用いて,long COVID患者に対するワクチン接種の効果を検証する試験の結果が報告された.参加者は910名で,ワクチン接種群と対照群に455名ずつ割り付けた.接種群は観察期間の開始から60日以内に初回のワクチンを接種した.545名(60.1%)が感染し,81名(8.9%)が入院した.評価項目は,ベースラインから 120 日後に,疾患の重症度(long COVID ST,範囲 0~53),完全寛解患者の割合,患者の生活への影響(long covid IT,範囲 0~60),許容できない症状を報告した患者の割合などとした.120日後までに,ワクチン接種群はlong COVID症状が軽く(STスコア13.0対14.8,平均差-1.8, 95% CI -2.5-~1.0),完全寛解患者割合が2倍で(16.6%対7.5%, HR: 1.97, 95% CI 1.23~3.15)(図1),生活への影響も少なかった(ITスコア24.3対27.6,平均差:-3.3,95%CI -6.2~-0.5).許容できない症状を報告した患者の割合も減少した(38.9%対46.4%,リスク差-7.5%,95%CI -14.4~-0.5).以上よりワクチン接種は,感染したとしても,120日後のlong COVIDの重症度と生活への影響を軽減する.
pre-prints with THE LANCET. Sep 29, 2021.(https://ssrn.com/abstract=3932953)



◆long COVIDの疲労は発症16~20週後で13%~33%の患者に認められる.
急性期およびlong COVIDにおいて,疲労は重要な症状である.今回,感染症後の疲労に関する国際共同研究(Collaborative on Fatigue Following Infection:COFFI)が行われ,他の感染症を含めたシステマティックレビューとナラティブレビューが報告された.COVID-19のコホート研究では,持続的な疲労が一部の患者で示され,発症後16~20週間で13%~33%の頻度であった(図2).前向きコホート研究では,疲労は多くの急性全身性感染症,特に伝染性単核球症の一般的な転帰であること,ならびに内科的および精神科的な原因を除外した後の感染後疲労の頻度は,6 ヶ月後に10%~35%であることが示された.COVID-19後疲労は,末梢臓器障害(end-organ injury),精神疾患,または特発性COVID後疲労に分類できる.COVID-19後疲労の病態を明確にするために,スクリーニング質問票,疲労や気分,その他の症状を含む標準化された問診,末梢臓器不全や精神疾患を特定するための検索を行うことが推奨される.
Open Forum Infect Dis. 2021 Sep 9;8(10):ofab440. (doi.org/10.1093/ofid/ofab440)



◆急性期COVID-19では少なくとも1種類の疼痛症候群が71.6%に認められる.
トルコから急性期COVID-19の痛みについての研究が報告された.電話にて51項目の質問に回答してもらった.222名が参加した(回答率83.5%).少なくとも1種類の疼痛症候群を報告したのは159名(71.6%)で,内訳は,筋痛が110名(49.6%),頭痛109名(49.1%),神経障害性疼痛55名(24.8%),多関節性疼痛30名(13.5%)であった.痛みの種類は,1種類のみが66名,2種類が46名,3種類が42名,4種類すべてが5名であった.程度は軽度から中等度であった.ロジスティック回帰分析では,これらの疼痛症候群の間には有意な関連性があり,とくに神経障害性疼痛と頭痛の間には強い関連が認められた.以上より,痛みはCOVID-19で高頻度に認められ,疼痛症候群の間に有意な関連があり,共通の病因の存在が伺われる.
Eur J Pain. Oct 8, 2021.(doi.org/10.1002/ejp.1876)

◆60歳以上で何らかの神経症状を合併すると死亡率が約2倍増加する.
COVID-19患者の神経症状および合併症の頻度とその影響について検討したシステマティックレビュー,メタ解析が報告された.50件の研究が対象となり,患者14万5721人(入院患者89%)が検討された.24の神経症状と17の診断(合併症)が確認された.頻度の高い神経症状は,疲労(32%),筋痛(20%),味覚障害(21%),嗅覚障害(19%),頭痛(13%)であった.診断別では,脳卒中は2%で,虚血性脳卒中ないしTIAが1%,出血性脳卒中が0.31%,脳静脈血栓症が0.31%であった.また神経精神症状24%,脳症7%,骨格筋障害5%,運動異常症1%であった.年齢別で60歳以上の患者では,急性錯乱/せん妄を34%に認め,60歳以上では何らかの神経症状を合併することで死亡率がは約2倍に増加した(OR 1.80,95%CI 1.11~2.91).
Neurology. Oct 11, 2021.(doi.org/10.1212/WNL.0000000000012930)

◆Grausの自己免疫性脳炎を満たす症例の臨床像や画像所見は多彩である.
Mayo ClinicからCOVID-19感染後の自己免疫性脳炎(AE)の頻度と特徴について報告された.2つのコホートを検討した(①検査室コホート:自己免疫性脳症ための神経IgG検査を受けた連続した556名,➁脳症コホート;COVID関連のコンサルトを受けた31名).結果として検査室コホートのうち18名(3%)がSARS-CoV-2スパイク蛋白抗体陽性で,うち2名がAEと診断された.脳症コホートでは5名がAEと診断された(前者の2名も含まれた).AEの頻度は,2020年にCOVID-19と診断され治療を受けた1万384人の0.05%に相当した.この5名は,GrausによるAE診断基準(2016)のdefinite(n=1),probable(n=1),possible(n=3)を満たした.発症年齢の中央値は61歳(46~63歳)で,3名は女性であった.5人全員が神経性IgG陰性で,検査した4人はCSFでSARS-CoV-2 PCRおよびIgGインデックスが陰性だった.症状やMRI(図3),脳波所見は多様であった(せん妄5名,痙攣発作2名,菱脳炎1名,失語症1名,運動失調1名).ADEM症例なし.possible AEの3 名は自然に回復した.definiteの1名(辺縁系脳炎)は免疫療法に反応したが,気分障害と記憶障害が残った.probableの1名(菱脳炎)は,免疫療法にもかかわらず死亡した.残りの26人の脳症コホート患者は,中毒性・代謝性疾患と診断された.Grausの診断基準を適用することで,感染症に起因する中毒性・代謝性疾患との鑑別が可能であった.
Neurology. October 11, 2021.(doi.org/10.1212/WNL.0000000000012931)



◆ワクチン接種後の血小板減少症候群を伴う血栓症の51%に脳静脈血栓症が生じる.
ワクチン接種後の血小板減少症候群を伴う血栓症(TTS)症例における脳静脈血栓症(CVST)の頻度を検討したシステマティックレビュー,メタ解析が報告された.ウイルスベクターワクチン接種に関連して血栓イベントが発生した4182名のうち,370名のCVST患者を対象とした69件の研究が定性分析,23件の研究が定量的なメタ分析が行われた.TTS症例のうち,プールされたCVSTの割合は51%であった(図4).ワクチン接種後に血栓イベントが発生した非TTS患者と比較して,TTS患者はCVSTの可能性が高かった(OR 13.8).TTSおよびTTSに関連したCVSTの死亡率は,それぞれ28%および38%であった.血栓症はワクチン接種後2週間以内に発症し(平均10日),血栓症の危険因子がなくても,主に45歳以下の女性(69%)が罹患した.ワクチン接種後のTTS発症の予測因子の特定にはさらなる研究が必要である.
Neurology. Oct 5, 2021.(doi.org/10.1212/WNL.0000000000012896)



◆アストラゼネカワクチンは,多発性硬化症,NMOSDの再発を起こしうる.
ブラジルから,アストラゼネカワクチン(AZD1222)の初回接種と密接な関連を持って再発を来した9名の患者(MS 8例,NMOSD 1例)が報告された.これらの患者は,中央値で6年間安定しており,疾患活動性が上昇していた所見はなく,処方の変更もなかったが再発した.ワクチン接種後,中央値で13日(7日~25日)経過した時点で,障害の拡大とMRI上の新たな病変を伴う新たな再発が生じた.稀ではあるもののAZD1222の有害事象として,MS/NMOSDの再発が生じる可能性がある.→ MS,NMOSD患者ではアストラゼネカワクチン接種は避けるべき.
Mult Scler Relat Disord. Oct 12, 2021.(doi.org/10.1016/j.msard.2021.103321)

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認知症,変性疾患におけるてんかん発作の有病率 ―待望の剖検例の検討―

2021年10月12日 | てんかん
高齢者てんかんの診療ではその背景(原因)疾患を考えることになります.画像上,脳血管障害がなく,またアルツハイマー病(AD)も考えにくい場合,他の認知症や神経変性疾患が背景にある可能性も考えます.しかしこれまで,病理学的に診断が確定した症例を用いて,AD以外の認知症や神経変性疾患のてんかん発作の有病率を示した研究は知る限りにおいてありませんでした.今回,ドイツよりNeurobiobank Munichに登録されている454名の臨床データを検討した研究が報告されました.AD 144名,レビー小体病(LBD)103名, 進行性核上性麻痺(PSP)93名,前頭側頭葉変性症(FTLD)53名, 多系統萎縮症(MSA)36名,大脳皮質基底核変性症(CBD)25名が含まれました.全経過中のてんかん発作の有病率を算出し,疾患間で比較を行っています.

結果としては,各疾患のてんかん発作の有病率は,AD 31.3%,CBD 20.0%,LBD 12.6%,FTLD 11.3%,MSA 8.3%,PSP 7.5%でした(図).やはりADでは LBD,FTLD,MSA,PSPと比べて有病率が有意に高いことが分かります.しかし残念なことに鑑別に役立つと思われる発作型に関する記載はありませんでした.また認知障害が初発症状である場合,そうでない場合と比較しててんかん発作の有病率が髙いこと(21.1%対11.0%),運動障害が初発症状である場合,そうでない場合と比較しててんかん発作の有病率が低いこと(10.3%対20.5%)が分かりました.これは,認知障害では大脳皮質の障害をきたしやすいためと考察されています.CBDは,症例数は少ないですが,やはり大脳皮質病変を認めるため,有病率が上がるのかもしれません.最後に,MSAのみてんかん発作を呈した症例では,罹病期間が有意に延長することが示されました(12.3年対7.0年).MSAでは神経変性が高度になると(大脳皮質に変性が及び)てんかん発作を合併しやすくなるのではないかと考察しています.

以上より,AD以外の神経変性疾患でも10~20%と頻度は高くないもののてんかん発作を呈しうること,さらに初発症状が認知症であることはてんかん発作の危険因子になる可能性があることが示されました.臨床的に有用な報告だと思いました.
Vöglein J, et al. Seizure prevalence in neurodegenerative diseases-a study of autopsy proven cases. Eur J Neurol. Sep 2, 2021.(doi.org/10.1111/ene.15089)



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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(10月9日) 

2021年10月09日 | 医学と医療
今回のキーワードは,ファイザー・ワクチン6ヵ月後の液性免疫は,男性,65歳以上,免疫療法で大幅に低下する,ファイザー・ワクチンの重症化に対する予防効果は6カ月間しっかり持続する,リツキシマブ・オクレリズマブの使用は,COVID-19重症化の危険因子である,英国の専門家によるlong COVIDに関する35の提言,です.

Long COVIDにどのように取り組むか議論が進められていますが,病態や症状が複雑であること,エビデンスが十分でないことから,診断基準や治療ガイドラインの作成は世界的にも難航しています.今回紹介する最後の論文は,英国の33名の総合診療医と各診療科の専門医によるデルファイ法(※)を用いた35の提言です.long COVIDの患者さんをどのように診断し診療していくかを考える上で大変参考になりました.重要なことは最初に行う検査が正常であっても状況によって追加の検査を行い,正しく原因を見出すことと,社会復帰への支援を適切に行うことだと思いました.ただ脳神経内科医が1人も含まれていないためブレインフォグなどの認知機能障害についての議論は乏しく,これからの課題のように思いました.

※デルファイ法:集団の意見や知見を集約し,統一的な見解を得る手法の一つ.メンバーに個別に回答を求め,得られた結果を全員に見せ,再び個別に回答を求めるという過程を何回か繰り返す方式.

◆ファイザー・ワクチン6ヵ月後の液性免疫は,男性,65歳以上,免疫療法で大幅に低下する.
イスラエルではワクチンの接種率が高いにもかかわらず,COVID-19の症候性感染が増加した.この原因を検討する目的で,ファイザー・ワクチンを接種した医療従事者4868名を対象に,抗スパイクIgG抗体と中和抗体の有無を毎月検査し,6か月間の前向き研究を行った研究が報告された.また6ヵ月後の抗体格の予測因子を検討した.結果としては,IgG抗体は一定の割合で減少したが,中和抗体は最初の3カ月間は急速に減少し,その後は比較的緩やかに減少した(図1).IgG抗体値は中和抗体価と高い相関性を示した.2回目のワクチン接種から6ヵ月後の中和抗体価は,男性が女性よりも大幅に低かった(平均値の比,0.64).また65歳以上の人は18~45歳未満の人よりも低く(平均値の比,0.58),免疫療法を受けている者はそうでない者よりも低かった(平均値の比,0.30).以上より,ファイザー・ワクチンの2回目の接種から6ヵ月後,液性免疫は特に男性,65歳以上の高齢者,免疫抑制状態にある人で大幅に低下した.→ 液性免疫の低下に限った議論であり,ワクチンによる防御力低下とイコールではないことに注意が必要.
New Engl J Med. Oct 6, 2021.(doi.org/10.1056/NEJMoa2114583)



◆ファイザー・ワクチンの重症化に対する予防効果は6カ月間しっかり持続する.
β株とδ株が大半を占め,PCR検査が大規模に行われているカタールにおいて,ファイザー・ワクチンの効果の持続を検討した論文が報告された.ワクチンの有効性は,初回投与後2週間では殆どなかったが,3週目に36.8%に上昇し,2回目の接種1カ月後に77.5%とピークに達した.その後,効果は徐々に低下し,4カ月目以降は低下が加速,5~7カ月目には約20%に達した(図2A).



症候性感染に対する有効性は,無症候性感染に対する有効性よりも高かったが,同様に低下していった.しかしCOVID-19の重症,重篤,致命的な症例に対する有効性は,初回投与後3週目までに66.1%と急速に増加し,2回目の投与後2ヵ月間は96%以上に達し,6ヵ月間はほぼこのレベルで維持された(図2B).



以上よりワクチンの感染予防効果は,2回目の投与後にピークに達した後,急速に弱まっていくようだが,入院や死亡といった重症化に対する予防効果は,2回目の接種後6カ月間持続した.
New Engl J Med. Oct 6, 2021.(doi.org/10.1056/NEJMoa2114114)

◆リツキシマブ・オクレリズマブの使用は,COVID-19重症化の危険因子である.
多発性硬化症(MS)患者は,重度のCOVID-19に対して脆弱な集団であり,特に免疫抑制剤を用いた疾患修飾療法(DMT)を受けている人はその傾向が強い.今回,多施設共同研究で,MS患者における重症例の特徴を調査して研究が報告された.COVID-19が疑い例657名と確診例1683名が対象となった.入院は確診例+疑い例で20.9%,確診例で26.9%が, ICU入室はそれぞれ5.4%と7.2%,人工呼吸器装着はそれぞれ4.1%と5.4%,死亡はそれぞれ3.2%と3.9%であった.高齢,進行性MS,高度の障害はCOVID-19の予後不良と関連していた.ジメチルフマレートと比較して,確診例+疑い例のオクレリズマブとリツキシマブは,入院(aOR=1.56および2.43),ICU入室(aOR=2.30および3.93) と関連した(図3).またリツキシマブのみ人工呼吸器のリスクが高くなった(aOR=4.00).ナタリズマブと比較して,確診例+疑い例のオクリズマブとリツキシマブは入院(aOR=1.86および2.88)とICU入室(aOR=2.13および3.23)と関連した.またリツキシマブのみ人工呼吸器リスクが高まった(aOR=5.52).DMTsと死亡との間に関連は認めなかった.以上より,リツキシマブは入院,ICU入室,人工呼吸のリスク増加と,オクリズマブは入院,ICU入室と関連することが示された.リツキシマブ/オクレリズマブはCOVID-19重症化の危険因子である.
Neurology. Oct 5, 2021.(doi.org/10.1212/WNL.0000000000012753)



◆英国の専門家によるlong COVIDの診断や治療・ケアに関する35の提言.
Long COVIDに対する治療やケアに対するエビデンスは乏しい.このため英国から,プライマリーケアおよびセカンダリーケアの医師を対象にとしたデルファイ調査をオンラインで実施した.デルファイ調査とは,対象のテーマについて参加者に個別に回答してもらい,得られた結果をフィードバックし,他の参加者の意見を見てもらった後,再度同じテーマについて回答してもらい,これを繰り返すことである程度収束した見解を得ることを目指す方法である.回答者の90%以上が回答した推奨事項は,コンセンサスが得られたものとした.結果として,14の専門分野を代表する33人の臨床医(総合診療医が11名と最多,脳神経内科医は入っていない)が35の提言について合意に達した.以下,まずLong COVIDの症状を提示してから,35の提言を列挙する.提言のあとの( )は,強く同意,同意,いずれでもない,異議,強く異議の5段階に分けたうちの,強く同意,ないし同意した人の頻度を示す.

【Long COVIDの症状】
心筋炎・心膜炎,微小血管狭心症,不整脈,体位性頻脈症候群(PoTS)などの自律神経異常症,肥満細胞障害(蕁麻疹,血管浮腫,ヒスタミン不耐症など),間質性肺疾患,血栓塞栓症,脊髄障害・末梢神経障害・認知障害, 腎障害,新規発症糖尿病および甲状腺炎,肝炎および肝酵素異常,持続的な胃腸障害,新規発症アレルギーおよびアナフィラキシー,発声障害.

【提言】
■クリニックの組織化に関する推奨事項
1. WHO基準によるCOVID-19の臨床診断,または検査陽性の既往歴があり,上述の症状がCOVID-19感染から4週間以上持続する場合,long COVIDを考慮する(強く同意58%.同意33%).

2. 複数の専門分野にまたがるlong COVID外来は,この疾患の管理に関する複数の専門分野の知識と経験を持つ医師が主導すべきである(強く同意88%;同意6%).

3. 複数の専門分野にまたがるlong COVID 評価サービスを介して,個々の調査,管理,リハビリテーション計画を検討する.当初は医師主導の医学的評価と診断を優先し,補助的に理学療法士や作業療法士などの参加を検討する(強く同意70%,同意24%).

4. long COVIDクリニックを,IAPT(心理療法アクセス改善)や臨床心理士,保健心理士などのメンタルヘルスの専門家が主導するのは不適切である.彼らは専門家チームをサポートするのに役立つかもしれないが,潜在的な臓器障害を調査し管理するための専門知識を持っていない(強く同意82%; 同意15%).

5. 18歳以下の子供たちは,成人との症状や治療法の違いを熟知し,学校と緊密に連携している小児科専門医が運営する同様のサービスを利用する必要がある(強く同意79%;同意21%).

6. 精神疾患を有する患者は,精神疾患を持たない患者と同等の医療を受けるべきであり,医療サービスからトリアージされるべきではない(強く同意85%;同意15%).

■基礎疾患の診断に関する推奨事項
全身的アプローチ
7. long COVID患者において,COVID-19に関連しない問題が存在する可能性を調べるべきである.long COVIDは,他の原因が除外されない限り,十分な診断にはならない(強く同意64%;同意24%).

8. 病歴と診察を含む対面式の評価を実施し,COVID-19に関連しない他の診断を考慮して,血算,腎機能,CRP,肝機能,甲状腺機能,HbA1c,ビタミンD,B12,葉酸,マグネシウム,フェリチン,および骨密度を測定する(強く同意73%,同意27%).

呼吸器系
9. 呼吸器症状のある人は,早期に胸部X線検査を検討する.一見正常であっても,呼吸器疾患を除外するものではないことに注意する(強く同意82%,同意12%).

10. 簡易スパイロメトリーが正常でも,患者には瘢痕化,慢性肺塞栓,もしくは微小血栓を示唆する拡散障害が存在する場合があることに留意する.肺機能検査のために呼吸器科への紹介を検討する(強く同意70%,同意30%).

11. 息切れのある人では安静時および年齢に応じた簡単な運動テスト後の酸素飽和度を測定し,低酸素血症や運動時の脱飽和があれば検査を依頼する(強く同意52%,同意42%).

循環器
12. 息切れの原因が心臓にある可能性を考慮する(強く同意 82%,同意15%).

13. D-ダイマーが正常であっても,特に慢性疾患においては血栓塞栓症を除外できない場合がある.臨床的に肺塞栓症が疑われる場合には,循環器科への紹介を検討する.さらに血栓塞栓症は経過のどの段階でも起こりうることに留意する.(強く同意79%,同意18%).

14. 異常な頻脈や胸痛のある患者には,心電図,トロポニン,ホルター心電図,心エコーを実施する.心筋炎や心膜炎は心エコーだけでは除外できないことに注意する(強く同意67%,同意24%).

15. 胸痛のある患者では,心筋炎や微小血管狭心症を除外するために,心エコーが正常でも心臓MRIが適応となる場合があるので,循環器科への紹介を検討する(強く同意 76%,同意18%).

16. 動悸や頻脈のある患者では,自律神経異常症を考慮する(強く同意76%,同意21%).

その他
17. 蕁麻疹,結膜炎,喘鳴,異常な頻脈,動悸,息切れ,胸やけ,腹部筋痙攣や膨満感,下痢,睡眠障害,神経認知的疲労を有する患者では,肥満細胞障害を考慮する(強く同意46%,同意42%).

18. 仕事や社会的機能に支障をきたすほどの認知障害がある患者では,認知機能検査を検討する(強く同意70%,同意27%).

19. 関節腫脹や関節痛を認める患者では,反応性関節炎や新規の結合織病を検討し,適切な検査と専門医への紹介を行う(強く同意61%,同意36%).

■診療に関する提言:一般的アプローチ
20. 活動の数時間から数日で疲労の悪化がみられる患者には,初期の回復期における慎重なペース配分と休息が重要であることを強調する(強く同意82%,同意18%).

21. 患者の精神的な回復の時間経過を,仕事への復帰が長期化する可能性を反映するものに変更する(強く同意73%,同意27%).

22. 利用可能なリソースとして,労作後の症状悪化の管理,活動ペースの調整,鍼治療,診断別の管理などを示す(強く同意42%,同意49%).

23. 患者に,社会的処方,疾病証明書,経済的アドバイスを紹介する.疾病証明書に診断としてlong COVIDを記載するかどうかを患者と話し合う(強く同意79%,同意18%).

24. 臨床医は,long COVIDを持つ患者の職業状況(仕事をしている/していない,パートタイム/フルタイム,学生)を記録すべきである(強く同意 76%;同意24%).

25. 患者を定期的にフォローし,生物心理社会的,職業的な観点から経過観察を行う(強く同意58%,同意39%).

26. 新しい症状を報告することを推奨し,症状の変化への期待を促す(強く同意76%,同意24%).

27. long COVID研究として,WHO Case Report Formなどを用いて,患者のデータを提供することを検討する(強く同意67%,同意27%).

■診療に関する提言:特異的状況に対するアプローチ
28. 心臓に症状のある患者は,運動を始める前に,心拍数を最大値の60%(100~110/分程度)に抑えるように助言し,少なくとも心電図と心エコーを行うべきである.心膜炎を有する場合,運動は不整脈や心機能低下のリスクがあるため,監視下での運動負荷試験を検討すべきである(強く同意49%,同意42%).

29. 姿勢性起立性頻脈症候群(PoTs)を含む自律神経障害に対しては,まず水分,塩分,弾性ストッキング,特定のリハビリテーションを考慮する(強く同意55%,同意39%).

30. PoTSで非薬物療法に効果がない,または不十分な場合は,β遮断薬,イバブラジン,またはフルドロコルチゾンを検討する(血圧と反応をモニタリングする)(強く同意55%,同意39%).

31. 肥満細胞障害の可能性がある患者では,初期治療と食事のアドバイスを1ヶ月間試行することを検討する.標準用量よりも多い抗ヒスタミン薬が一般的に使用される.効果が十分でなければ,モンテルカストなどのセカンドライン治療を行うことや,アレルギー専門医への紹介を検討する(強く同意52%,同意42%).

32. 肥満細胞障害患者では,βラクタム系抗生物質,NSAIDs,コデイン,モルヒネ,ブプレノルフィンなどで副作用が起こりやすいことを知っておく(強く同意52%,同意39%).

33. 呼吸パターン障害に対しては,専門家による理学療法や,ヨガの呼吸法,瞑想などの代替療法を検討する(強く同意36%,同意42%).

34. 苦痛,著しい気分の低下,不安,または心的外傷後ストレス障害の症状を示す患者では,メンタルヘルスの評価を検討する(強く同意61%,同意39%).

35. 市販のサプリメントがよく使用され,ビタミンC,D,ナイアシン(ニコチン酸),ケルセチンなどがある.ナイアシンやケルセチンなどの薬物相互作用に注意する(強く同意64%,同意30%).

Br J Gen Pract. Oct 4, 29021(doi.org/10.3399/BJGP.2021.0265)


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現代の指導者に求められる「支援的」臨床教育アプローチ

2021年10月08日 | 医学と医療
Brain Nerve誌で企画,連載中の「脳神経内科領域における医学教育の展望」の2回目です.岐阜大学医学教育開発研究センターの西城卓也先生と今福輪太郎先生のご執筆です.少し内容をご紹介すると,我々医師は学生や若手医師を教えるための技術や理論を学ぶ機会がほとんどありませんでした.よって頼りは自身の過去の学習体験になりますが,学習者にはさまざまなタイプが存在するため,必ずしもそのまま活かせるとは限りませんでした.つまり指導医は自己流の指導法に依存する状況から抜け出すために,「臨床教育学のエッセンス」を理解することが求められます.今回,そのひとつとして「経験学習」を教えていただきました.経験から学ぶためには,図の「経験→省察→概念化→施行」というステップがあり,指導医は各ステップでいろいろな工夫ができること,またコロナ禍でもオンラインや疑似体験を活かせることを解説してくださいました.ぜひ本文をお読みいただき,教育に活かしていただければと思います.ちなみに「経験学習」は医学教育だけでなく,学び全般に利用できます.詳しくはこの理論の考案者Kolbによる「最強の経験学習(辰巳出版)」で勉強できます.





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Face mask sign ―マスク着用による歩行障害の増悪とその対策―

2021年10月03日 | 医学と医療
パンデミック以降,公共の場ではマスクの着用が当たり前になっていますが,マスク着用により歩行障害が悪化したという事例が報告されています.それは感覚性運動失調による歩行障害です.Pract Neurol誌が紹介する症例は,遺伝性脊髄小脳失調症2型(SCA2)の52歳男性で,小脳性運動失調に加えて末梢神経障害を認め,両膝関節以遠の深部覚が障害されていました(文献1).マスクを装着すると歩行が悪化し,転倒しやすくなることを自ら主治医に伝えました.実際に歩行速度が遅くなり,歩幅のばらつき,ふらつきが増強しました.

私達は立位を保つときに2つの感覚情報を用います.それは深部覚(関節の位置覚)と視覚です.本例のように関節位置覚の障害を呈する場合,視覚情報により代償されます.よって暗所や洗面時には代償がなされす,ふらついて転倒します(これがRomberg徴候であり,洗面現象です).ではなぜマスクで歩行が悪化するかというと,マスクにより歩行に重要な視野下方の情報が制限されるためと考えられています(文献2).とくにマスクをきちんと装着しない場合に視野の下方を遮ることが報告され,視野検査の新たなアーチファクトとしても報告されています(文献3).

このようにマスク着用による歩行の増悪は,感覚性運動失調に対して診断的意義があるだけではなく,転倒リスクの増加につながります.よって医療者は患者にマスクによる転倒リスクを伝えた上で,①歩行速度を落とすこと,②マスクをしっかりフィットさせること,③危険な場合は杖や歩行器を使うことを話す必要があります.一方,頻繁に足元を見るようにアドバイスすることは却って危険である可能性が指摘されています.

1) Pract Neurol. 2021 Sep 27:practneurol-2021-003174.(doi.org/10.1136/practneurol-2021-003174)
2) BMJ. 2020 Oct 28;371:m4133.(doi.org/10.1136/bmj.m4133)
3) J Glaucoma. 2020 Oct;29(10):989-991. (doi.org/10.1097/IJG.0000000000001605)




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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(10月2日)  

2021年10月02日 | 医学と医療
今回のキーワードは,Long COVIDの認知症状は,高齢者,重症者で頻度が高い,COVID-19重症化予測にI型インターフェロン自己抗体と単球上のLAIR1の発現確認が有用,COVID-19感染が引き金となりギラン・バレー症候群は生じうるものの頻度は高くはない,アストラゼネカ・ワクチン後のギラン・バレー症候群は10万回接種あたり1件,アストラゼネカ・ワクチン接種後に血小板減少症を伴う脳静脈洞血栓症は重症の傾向,です.

最初に紹介する論文はLong COVIDついて検討した英国の大規模研究です.8100万人もの個人医療データ,すなわち電子健康記録(Electronic Health Record;EHR)が土台となっています.EHRには医療記録のほか,検査や放射線診断,薬剤,ワクチン接種データなどが含まれます.患者も自身のデータの一部にアクセスできます.重要なことは認可を受けた複数の医療機関の間でデータをやりとりできることです.一方,電子医療記録(EMR:Electronic Medical Record)という言葉があります.病院などの1つの医療機関内において患者の健康情報を保持するもので,紙カルテを電子記録に置き換えたものといえます.強調したいのは「日本ではEMRは普及しているものの,異なる医療機関でデータ共有ができず,EHRとなっていないこと」です.その理由はEMRをEHRにするためには,プライバシーやセキュリティという問題を解決する必要があるためです.そのためには全国規模でデータ収集,共有するための戦略や支援が不可欠で,それは政府にしかできないことです.医療の先進諸国では,政府がこうしたEHR連携を推進するためにさまざまな支援策を提供しています.日本がCOVID研究で苦戦している一因はここにあります.国民を守るため,日本でもEHRの導入が望まれます.

◆Long COVIDの認知症状は,高齢者,重症者で頻度が高い.
英国からlong COVIDの特徴を明らかにすることを目的とした研究が報告された.27万3618人のCOVID-19生存者を含む8100万人の患者の電子健康記録(EHR)データに基づいて,後方視的研究を行った.long-COVIDの9つの中核症状について検討を行った.結果として,COVID-19生存者(平均年齢46.3歳)のうち,発症からの6ヶ月間において,9つの中核症状の1つ以上を認めた割合は57.00%,うち3~6カ月の期間に認められたのは36.55%であった.同様の頻度を9症状ごとに検討すると,呼吸異常(18.71%および7.94%),疲労(12.82%および5.87%),胸/喉の痛み(12.60%および5. 71%),頭痛(8.67%および4.63%),その他の痛み(11.60%および7.19%),腹部症状(15.58%および8.29%),筋痛(3.24%および1.54%),認知症状(7.88%および3.95%),不安/抑うつ(22.82%および15.49%)であった(図1).



これらはインフルエンザ後よりも高頻度に認められた(ハザード比は1.44~2.04).9症状に影響する因子をspider plotにて示すと,男性では頭痛が少ないこと,45歳以上で認知症状が増えること,入院・ICU管理で認知症状,呼吸異常,疲労が増えることが分かる(図2).つまりLong COVIDの認知症状は高齢者,重症者でより頻度が高いことが分かる.ちなみに認知症状の定義はICD-10のR41(「認知機能および認識に関わるその他の症状および徴候」),G31.84(「軽度認知障害」),G30(「アルツハイマー病」)など,「ブレイン・フォグ」を呈する患者が受ける可能性のある診断コードを用いている.
PLoS Med. 2021 Sep 28;18(9):e1003773.(doi.org/10.1371/journal.pmed.1003773)



◆COVID-19重症化予測にI型インターフェロン自己抗体と単球上のLAIR1の発現確認が有用.
COVID-19患者の一部は,I型インターフェロン(IFN)に特異的な自己抗体を有することが報告されていた.しかし,I型IFN抗体の全身への影響は不明である.今回,COVID-19患者284名のI型IFN抗体量の免疫系への影響を検討した研究がオランダから報告された.I型IFN抗体は,最重症患者の19%,重症患者の6%の末梢血サンプルから検出されたが,中等~軽症患者では認められなかった(図3).



シングルセル・トランスクリプトミクスを用いると,重症患者の骨髄系細胞では,I型IFN刺激遺伝子(ISG-I)反応が欠如し,I型IFN抗体と遺伝子発現低下が逆相関していた.またこの遺伝子の発現低下は,抑制性受容体である白血球関連免疫グロブリン様受容体1(LAIR1)の単球上での発現増加と相関した.このLAIR1の発現は,重症者において病期の早い段階で認められた.以上より,重症COVID-19を予測するために,I型IFN自己抗体を早期から検索すること,ならびに単球上のLAIR1発現の増加を確認することが有用である可能性が示唆された.今後,LAIR1の病態への役割の解明が注目される.
Sci Transl Med. 2021 Sep 22;13(612):eabh2624.(doi.org/10.1126/scitranslmed.abh2624)

◆COVID-19感染が引き金となりギラン・バレー症候群は生じうるものの頻度は高くはない.
COVID-19感染後のギラン・バレー症候群(GBS)の報告はあるものの,多くの論文が症例報告や小規模な地域での後方視的研究であるため,その因果関係については不明である.International GBS Outcome Studyは,現在進行中の前向き観察コホート研究で,筋力低下の出現から2週間以内のGBS患者を登録している.2020年1月30日から2020年5月30日までのデータを用いて,GBS患者におけるCOVID-19感染と臨床像について検討を行った.GBS患者49名が対象となり,うち8名(16%)に感染が確認され,3名(6%)に感染の可能性があった.これら11名のうち2名は最近のCampylobacter jejuni感染を示唆する血清学的所見を認めた.11名の臨床像は感覚運動異常が8/11名(73%),顔面神経麻痺が7/11名(64%)と高頻度であった.電気生理学的検査を受けた8名すべて脱髄型であり,これは同時期および過去の患者よりも高頻度であった[14/30 (47%), P = 0.012および23/44 (52%), P = 0.016].感染から神経症状が出現するまでの期間は中央値16日であった.またパンデミック時の患者登録が例年に比べて増加しなかったことから(図4),COVID-19とGBSとの強い関連は考えにくかった.以上より,GBS患者における22%の感染頻度は高いことから,COVID-19感染が引き金となってGBSを来す可能性はあるものの,そのような症例は多くはないものと推測された.
Brain, 2021;, awab279.(doi.org/10.1093/brain/awab279)



◆アストラゼネカ・ワクチン後のギラン・バレー症候群は10万回接種あたり1件.
オーストラリアのサーベイランスシステムSAEFVICに報告されたGBS 14症例の検討が報告された. 2021年7月5日現在,調査が行われたビクトリア州ではアストラゼネカ・ワクチンが146万9620回,ファイザー・ワクチンが88万2279回接種されているが,14名すべてアストラゼネカ・ワクチンの初回接種と時間的に関連し,接種後4週間以内に症状が出現した.Campylobacter jejuni感染に伴う急性運動軸索神経障害とした1名を除くと,GBS発生率は,アストラゼネカ・ワクチン10万回接種あたり1.0件で,予想されるバックグラウンド率である0.61件よりも高かった.時間的な関連性は必ずしも因果関係を証明するものではないが,ファイザー・ワクチン後のGBSの報告がなかったことを考えると,アストラゼネカ・ワクチンとGBSには関連がある可能性が示唆される.継続的な警戒が必要である
Ann Neurol. Sep 15, 2021(doi.org/10.1002/ana.26218)

◆アストラゼネカ・ワクチン接種後に血小板減少症を伴う脳静脈洞血栓症は重症の傾向.
アストラゼネカ・ワクチンおよびJ&J・ワクチン接種後に血小板減少症候群を伴う血栓症(TTS)もしくはワクチン誘発性免疫性血栓性血小板減少症(VITT)が報告されている.これらの患者の臨床的特徴と転帰についての19か国81病院による国際研究が報告された.ワクチン接種後の脳静脈洞血栓症(CVST)患者116名のうち,78名(67.2%)にTTSが認められた.76/78名はアストラゼネカ・ワクチンが接種されていた.対照群はパンデミック以前に CVST を発症した207 名とした.TTS患者は,来院時に昏睡状態であることが多く(24%),さらに脳内出血(68%)や血栓塞栓症を併発していることが多く(36%),47%が入院中に死亡した.TTSを認めないCVST症例や,パンデミック前のCVST症例と比較して予後が不良であった(死亡率;47%対5%対3.9%).以上より,アストラゼネカ・ワクチン接種後に脳静脈洞血栓症を発症し,血小板減少症症候群の基準を満たした患者は,重症で高い死亡率を示した.
JAMA Neurol. Sep 28, 2021.(doi.org/10.1001/jamaneurol.2021.3619)


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