今回のキーワードは,ワクチン後の変異株の感染例,Johnson & Johnsonワクチンの効果と安全性,アデノウイルスベクターワクチンと静脈血栓症に関する企業の見解,血液型は感染と重症化に関与しない,パンデミック禍において機能性(心因性)運動障害は増加する,抗amphiphysin抗体陽性の小脳性運動失調の症例報告,MIS-Cの特徴を伴わない小児の感染後急性小脳失調症の初めて報告です.
米国の研究で,ワクチン接種後2週以上経過し,ウイルスに対する十分な中和抗体が産生されたあとでも,2/417例で感染が生じたことが報告されています.いずれも変異株による感染でした.軽症であったことからワクチンが重症化防止効果を示した可能性はありますが,ワクチンを接種しても完全に感染を防止できるわけではなく,マスク着用などの感染防止対策を継続する必要性を示すものと考えられます.また前回,ワクチン接種後に生じた「機能性(心因性)運動障害」を紹介しましたが,ワクチンとは関係なく,COVID-19パンデミック禍において「機能性(心因性)運動障害」が増加していることが報告されました.脳神経内科医は,パンデミックおよびワクチンに伴う運動異常症を適切に見出し,治療する必要があります.
◆ワクチン後の変異株の感染例.
米国からの報告.ファイザーまたはモデルナワクチンの2回接種後,2週間以上経過した417名において,唾液を試料とするPCR検査を行った.この結果,女性2名においてCOVID-19感染が認められた(免疫を打ち破って感染するという意味で「ブレイクスルー感染」と呼ぶ).両者は咽頭痛や頭痛など軽度の風邪症状を呈していた.ウイルスの塩基配列を調べたところ,いずれも変異株で,1名はE484K,もう1名は3種類の変異(T95I,del142-144,D614G)を有していた.1名の血清では高いウイルス中和活性が認められたが(図1),それでも変異株では感染が生じうることが示唆された.以上より,ワクチン接種後でも変異株による感染が稀ながら生じることが示された.ワクチン接種後も,マスク着用などの感染防止対策を継続する必要がある.
New Engl J Med. April 21, 2021(doi.org/10.1056/NEJMoa2105000)
◆Johnson & Johnsonワクチンの効果と安全性.
Johnson & JohnsonのワクチンAd26.COV2.S(図2)は,スパイク蛋白完全長をコードする非複製型のヒトアデノウイルス26型ベクターワクチンである.
この効果を検証する国際的な無作為化二重盲検プラセボ対照第3相試験が報告された.主要評価項目は,単回の接種後14 日ないし28日以降に発症した中等から重症のCOVID-19感染に対するワクチンの有効性とした.また安全性についても評価した.対象は,1万9630名に実薬を接種し,1万9691 名に偽薬を接種した.結果は,接種後14日以降では有効率66.9%,接種後28日以降では有効率 66.1%の防御効果を示した(図3).有効率は重症~致死的患者の発生においてより高かった(14日以降で76.7%,28日以降で85.4%の防御を示した).死亡例は実薬群で3名(いずれもCOVID-19関連),偽薬群で16名(5例がCOVID-19関連)であった.重篤な有害事象の発生率は,両群間で同等であった.問題となっている静脈性血栓塞栓症は,実薬群で11名(1名は脳出血を伴う横静脈洞血栓症),偽薬群で3名であった(ほとんどのケースで基礎疾患を認めた).
New Engl J Med. April 21, 2021(doi.org/10.1056/NEJMoa2101544)
◆アデノウイルスベクターワクチンと静脈血栓症に関する企業の見解.
Johnson & JohnsonワクチンAd26.COV2.Sを接種後,高度の血小板減少を伴う脳静脈洞血栓症および肝静脈・脾静脈血栓症を呈したした48歳の白人女性の症例報告がNEJM誌に投稿された.著者らはアストラゼネカワクチンChAdOx1 nCoV-19でも同様の副反応が報告されていることから,両者に共通する非複製型アデノウイルスベクターベースのDNAワクチンが病態に関与する可能性を指摘した.
New Engl J Med. April 14, 2021(doi.org/10.1056/NEJMc2105869)
続いて, Johnson & Johnson社の研究者による回答が掲載された.まずワクチン接種者における静脈血栓症の発生率は,既報によるバックグラウンド(ワクチン接種のない通常の状況)の発生率(10万人年当たり0.2~1.57)の範囲内で発生していると述べている.つぎに2社のアデノウイルスベクターワクチンは,全く異なる生物学的効果を持つ可能性があると述べている(具体的には,Ad26.COV2.SワクチンはヒトのAd26ベースのベクターを使用しているのに対し,ChAdOx1 nCoV-19ワクチンはチンパンジーのアデノウイルスベースのベクターを使用している.導入遺伝子もfurin切断部位の修飾の有無で異なるなど).その上で,ワクチン接種後の血小板減少症を伴う静脈血栓症の病態解明にはさらなる検討が必要と述べている.
New Engl J Med. April 16, 2021(doi.org/10.1056/NEJMc2106075)
◆血液型は感染と重症化に関与しない.
一時,COVID-19と血液型に関する議論が盛んになされた.まず中国で,血液型A型は感染しやすく,O型は感染しにくいことが報告された.その後,イタリアとスペインで,A型は重症化のリスクが高く,O型は低いと報告された.しかしボストンとニューヨークで行われた検討では,血液型とCOVID-19の関連性は確認されなかった.相反する報告がなされているため,米国において,大規模な前方視的症例対照研究が行われた.対象は10万7796人,うち感染者1万1000 人以上となった.結論は感染のしやすさと重症度のいずれにも血液型との関連性は認められず,強く否定する結果となった.先行研究の多くはサンプル数が少なく,後方視的な観察研究であることに加え,疾患感受性や重症度とABO遺伝子との関連性が著しく不均一であることから,著者らは偶然の変動,出版バイアス,遺伝的背景,地理的環境,ウイルス株の違いなどが関与したと述べている.
JAMA Netw Open. 2021;4(4):e217429.(doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2021.7429)
◆パンデミック禍において機能性(心因性)運動障害は増加する.
機能性(心因性)運動障害は,器質性運動障害と区別される疾患であり,しばしば心理的なストレスが関与する.米国の単一施設から,パンデミック禍の機能性運動障害の頻度について検討した研究が報告された.2020年3月~10月と,2019年の同時期を,成人および小児を含め検討した.この結果,新規患者550人のうち45人(8.2%)が機能性運動障害の診断を受けた(うち75.6%が女性).内訳は振戦(53.3%),ジストニア(31.1%),ミオクローヌス(17.8%),チック(8.9%),常同運動(8.9%)の順に多く,複数の運動異常を認めた者が20.0%であった.一方,2019年には新規患者665人のうち34人(5.1%)が診断されていた.つまりパンデミック禍に新たに機能性運動障害と診断された患者が60.1%(小児コホートで90.1%,成人コホートで50.9%)増加したことになる(図4).パンデミックによる心理的およびその他のストレスの増加を反映しているものと考えられる.
Neurology. April 14, 2021(doi.org/10.1212/CPJ.0000000000001082)
◆抗amphiphysin抗体陽性の小脳性運動失調の症例報告.
失調歩行を呈し,のちに重症の興奮状態となった52歳男性の症例報告がNeurology誌に掲載されている.髄液では単核球優位の細胞数増多とIgG index上昇を認めた.髄液PCRが陽性であった.頭部MRIでは中脳から橋にかけて脳幹脳炎を示唆する異常信号が認められたが,小脳に異常所見はなかった(図5;既報でも小脳性運動失調を呈するCOVID-19症例で,画像検査において小脳に異常所見を認めないことが複数報告されている).血清を用いた自己抗体スクリーニングでは,抗amphiphysin抗体が陽性であったが,悪性腫瘍は認めなかった.プレドニゾロン(1mg/kg/day)開始後,症状は劇的に改善し,退院時(発症36日目)には自立歩行が可能となったが,半年後も軽度の小脳性運動失調は残存した.著者はCOVID-19で,細胞内シナプス抗原であるamphiphysinに対する抗体が誘発される可能性を指摘し,今後の検討が必要と述べている.
Neurology. April 14, 2021(doi.org/10.1212/WNL.0000000000012051)
◆MIS-Cの特徴を伴わない小児の感染後急性小脳失調症の初めて報告.
COVID-19の典型的症状(3日間の発熱と軽い呼吸器症状)を呈し,回復したその10日後に感染後急性小脳失調症(Acute Post-infectious Cerebellar Ataxia: APCA)を発症した13歳小児例がインドから報告された.四肢・体幹の失調を認めた.ミオクローヌスなし.臨床像はCOVID-19 に続発する多系統炎症性症候群(MIS-C)ではなかった.頭部MRIおよび髄液検査は正常.しかし血清,髄液中のCOVID-19抗体陽性.ステロイドハーフパルス療法(500 mg)にて急速に改善し,20日後には完全に回復し,自立歩行可能となった.COVID-19によって小脳エピトープと交差反応する自己抗体が産生される自己免疫性の病態が示唆された.
Mov Disord Clin Pract. March 31, 2021(doi.org/10.1002/mdc3.13208)
米国の研究で,ワクチン接種後2週以上経過し,ウイルスに対する十分な中和抗体が産生されたあとでも,2/417例で感染が生じたことが報告されています.いずれも変異株による感染でした.軽症であったことからワクチンが重症化防止効果を示した可能性はありますが,ワクチンを接種しても完全に感染を防止できるわけではなく,マスク着用などの感染防止対策を継続する必要性を示すものと考えられます.また前回,ワクチン接種後に生じた「機能性(心因性)運動障害」を紹介しましたが,ワクチンとは関係なく,COVID-19パンデミック禍において「機能性(心因性)運動障害」が増加していることが報告されました.脳神経内科医は,パンデミックおよびワクチンに伴う運動異常症を適切に見出し,治療する必要があります.
◆ワクチン後の変異株の感染例.
米国からの報告.ファイザーまたはモデルナワクチンの2回接種後,2週間以上経過した417名において,唾液を試料とするPCR検査を行った.この結果,女性2名においてCOVID-19感染が認められた(免疫を打ち破って感染するという意味で「ブレイクスルー感染」と呼ぶ).両者は咽頭痛や頭痛など軽度の風邪症状を呈していた.ウイルスの塩基配列を調べたところ,いずれも変異株で,1名はE484K,もう1名は3種類の変異(T95I,del142-144,D614G)を有していた.1名の血清では高いウイルス中和活性が認められたが(図1),それでも変異株では感染が生じうることが示唆された.以上より,ワクチン接種後でも変異株による感染が稀ながら生じることが示された.ワクチン接種後も,マスク着用などの感染防止対策を継続する必要がある.
New Engl J Med. April 21, 2021(doi.org/10.1056/NEJMoa2105000)
◆Johnson & Johnsonワクチンの効果と安全性.
Johnson & JohnsonのワクチンAd26.COV2.S(図2)は,スパイク蛋白完全長をコードする非複製型のヒトアデノウイルス26型ベクターワクチンである.
この効果を検証する国際的な無作為化二重盲検プラセボ対照第3相試験が報告された.主要評価項目は,単回の接種後14 日ないし28日以降に発症した中等から重症のCOVID-19感染に対するワクチンの有効性とした.また安全性についても評価した.対象は,1万9630名に実薬を接種し,1万9691 名に偽薬を接種した.結果は,接種後14日以降では有効率66.9%,接種後28日以降では有効率 66.1%の防御効果を示した(図3).有効率は重症~致死的患者の発生においてより高かった(14日以降で76.7%,28日以降で85.4%の防御を示した).死亡例は実薬群で3名(いずれもCOVID-19関連),偽薬群で16名(5例がCOVID-19関連)であった.重篤な有害事象の発生率は,両群間で同等であった.問題となっている静脈性血栓塞栓症は,実薬群で11名(1名は脳出血を伴う横静脈洞血栓症),偽薬群で3名であった(ほとんどのケースで基礎疾患を認めた).
New Engl J Med. April 21, 2021(doi.org/10.1056/NEJMoa2101544)
◆アデノウイルスベクターワクチンと静脈血栓症に関する企業の見解.
Johnson & JohnsonワクチンAd26.COV2.Sを接種後,高度の血小板減少を伴う脳静脈洞血栓症および肝静脈・脾静脈血栓症を呈したした48歳の白人女性の症例報告がNEJM誌に投稿された.著者らはアストラゼネカワクチンChAdOx1 nCoV-19でも同様の副反応が報告されていることから,両者に共通する非複製型アデノウイルスベクターベースのDNAワクチンが病態に関与する可能性を指摘した.
New Engl J Med. April 14, 2021(doi.org/10.1056/NEJMc2105869)
続いて, Johnson & Johnson社の研究者による回答が掲載された.まずワクチン接種者における静脈血栓症の発生率は,既報によるバックグラウンド(ワクチン接種のない通常の状況)の発生率(10万人年当たり0.2~1.57)の範囲内で発生していると述べている.つぎに2社のアデノウイルスベクターワクチンは,全く異なる生物学的効果を持つ可能性があると述べている(具体的には,Ad26.COV2.SワクチンはヒトのAd26ベースのベクターを使用しているのに対し,ChAdOx1 nCoV-19ワクチンはチンパンジーのアデノウイルスベースのベクターを使用している.導入遺伝子もfurin切断部位の修飾の有無で異なるなど).その上で,ワクチン接種後の血小板減少症を伴う静脈血栓症の病態解明にはさらなる検討が必要と述べている.
New Engl J Med. April 16, 2021(doi.org/10.1056/NEJMc2106075)
◆血液型は感染と重症化に関与しない.
一時,COVID-19と血液型に関する議論が盛んになされた.まず中国で,血液型A型は感染しやすく,O型は感染しにくいことが報告された.その後,イタリアとスペインで,A型は重症化のリスクが高く,O型は低いと報告された.しかしボストンとニューヨークで行われた検討では,血液型とCOVID-19の関連性は確認されなかった.相反する報告がなされているため,米国において,大規模な前方視的症例対照研究が行われた.対象は10万7796人,うち感染者1万1000 人以上となった.結論は感染のしやすさと重症度のいずれにも血液型との関連性は認められず,強く否定する結果となった.先行研究の多くはサンプル数が少なく,後方視的な観察研究であることに加え,疾患感受性や重症度とABO遺伝子との関連性が著しく不均一であることから,著者らは偶然の変動,出版バイアス,遺伝的背景,地理的環境,ウイルス株の違いなどが関与したと述べている.
JAMA Netw Open. 2021;4(4):e217429.(doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2021.7429)
◆パンデミック禍において機能性(心因性)運動障害は増加する.
機能性(心因性)運動障害は,器質性運動障害と区別される疾患であり,しばしば心理的なストレスが関与する.米国の単一施設から,パンデミック禍の機能性運動障害の頻度について検討した研究が報告された.2020年3月~10月と,2019年の同時期を,成人および小児を含め検討した.この結果,新規患者550人のうち45人(8.2%)が機能性運動障害の診断を受けた(うち75.6%が女性).内訳は振戦(53.3%),ジストニア(31.1%),ミオクローヌス(17.8%),チック(8.9%),常同運動(8.9%)の順に多く,複数の運動異常を認めた者が20.0%であった.一方,2019年には新規患者665人のうち34人(5.1%)が診断されていた.つまりパンデミック禍に新たに機能性運動障害と診断された患者が60.1%(小児コホートで90.1%,成人コホートで50.9%)増加したことになる(図4).パンデミックによる心理的およびその他のストレスの増加を反映しているものと考えられる.
Neurology. April 14, 2021(doi.org/10.1212/CPJ.0000000000001082)
◆抗amphiphysin抗体陽性の小脳性運動失調の症例報告.
失調歩行を呈し,のちに重症の興奮状態となった52歳男性の症例報告がNeurology誌に掲載されている.髄液では単核球優位の細胞数増多とIgG index上昇を認めた.髄液PCRが陽性であった.頭部MRIでは中脳から橋にかけて脳幹脳炎を示唆する異常信号が認められたが,小脳に異常所見はなかった(図5;既報でも小脳性運動失調を呈するCOVID-19症例で,画像検査において小脳に異常所見を認めないことが複数報告されている).血清を用いた自己抗体スクリーニングでは,抗amphiphysin抗体が陽性であったが,悪性腫瘍は認めなかった.プレドニゾロン(1mg/kg/day)開始後,症状は劇的に改善し,退院時(発症36日目)には自立歩行が可能となったが,半年後も軽度の小脳性運動失調は残存した.著者はCOVID-19で,細胞内シナプス抗原であるamphiphysinに対する抗体が誘発される可能性を指摘し,今後の検討が必要と述べている.
Neurology. April 14, 2021(doi.org/10.1212/WNL.0000000000012051)
◆MIS-Cの特徴を伴わない小児の感染後急性小脳失調症の初めて報告.
COVID-19の典型的症状(3日間の発熱と軽い呼吸器症状)を呈し,回復したその10日後に感染後急性小脳失調症(Acute Post-infectious Cerebellar Ataxia: APCA)を発症した13歳小児例がインドから報告された.四肢・体幹の失調を認めた.ミオクローヌスなし.臨床像はCOVID-19 に続発する多系統炎症性症候群(MIS-C)ではなかった.頭部MRIおよび髄液検査は正常.しかし血清,髄液中のCOVID-19抗体陽性.ステロイドハーフパルス療法(500 mg)にて急速に改善し,20日後には完全に回復し,自立歩行可能となった.COVID-19によって小脳エピトープと交差反応する自己抗体が産生される自己免疫性の病態が示唆された.
Mov Disord Clin Pract. March 31, 2021(doi.org/10.1002/mdc3.13208)