Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

Twitter @pkcdelta
https://www.facebook.com/GifuNeurology/

新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(4月24日) 

2021年04月24日 | 医学と医療
今回のキーワードは,ワクチン後の変異株の感染例,Johnson & Johnsonワクチンの効果と安全性,アデノウイルスベクターワクチンと静脈血栓症に関する企業の見解,血液型は感染と重症化に関与しない,パンデミック禍において機能性(心因性)運動障害は増加する,抗amphiphysin抗体陽性の小脳性運動失調の症例報告,MIS-Cの特徴を伴わない小児の感染後急性小脳失調症の初めて報告です.

米国の研究で,ワクチン接種後2週以上経過し,ウイルスに対する十分な中和抗体が産生されたあとでも,2/417例で感染が生じたことが報告されています.いずれも変異株による感染でした.軽症であったことからワクチンが重症化防止効果を示した可能性はありますが,ワクチンを接種しても完全に感染を防止できるわけではなく,マスク着用などの感染防止対策を継続する必要性を示すものと考えられます.また前回,ワクチン接種後に生じた「機能性(心因性)運動障害」を紹介しましたが,ワクチンとは関係なく,COVID-19パンデミック禍において「機能性(心因性)運動障害」が増加していることが報告されました.脳神経内科医は,パンデミックおよびワクチンに伴う運動異常症を適切に見出し,治療する必要があります.

◆ワクチン後の変異株の感染例.
米国からの報告.ファイザーまたはモデルナワクチンの2回接種後,2週間以上経過した417名において,唾液を試料とするPCR検査を行った.この結果,女性2名においてCOVID-19感染が認められた(免疫を打ち破って感染するという意味で「ブレイクスルー感染」と呼ぶ).両者は咽頭痛や頭痛など軽度の風邪症状を呈していた.ウイルスの塩基配列を調べたところ,いずれも変異株で,1名はE484K,もう1名は3種類の変異(T95I,del142-144,D614G)を有していた.1名の血清では高いウイルス中和活性が認められたが(図1),それでも変異株では感染が生じうることが示唆された.以上より,ワクチン接種後でも変異株による感染が稀ながら生じることが示された.ワクチン接種後も,マスク着用などの感染防止対策を継続する必要がある.
New Engl J Med. April 21, 2021(doi.org/10.1056/NEJMoa2105000)



◆Johnson & Johnsonワクチンの効果と安全性.
Johnson & JohnsonのワクチンAd26.COV2.S(図2)は,スパイク蛋白完全長をコードする非複製型のヒトアデノウイルス26型ベクターワクチンである.



この効果を検証する国際的な無作為化二重盲検プラセボ対照第3相試験が報告された.主要評価項目は,単回の接種後14 日ないし28日以降に発症した中等から重症のCOVID-19感染に対するワクチンの有効性とした.また安全性についても評価した.対象は,1万9630名に実薬を接種し,1万9691 名に偽薬を接種した.結果は,接種後14日以降では有効率66.9%,接種後28日以降では有効率 66.1%の防御効果を示した(図3).有効率は重症~致死的患者の発生においてより高かった(14日以降で76.7%,28日以降で85.4%の防御を示した).死亡例は実薬群で3名(いずれもCOVID-19関連),偽薬群で16名(5例がCOVID-19関連)であった.重篤な有害事象の発生率は,両群間で同等であった.問題となっている静脈性血栓塞栓症は,実薬群で11名(1名は脳出血を伴う横静脈洞血栓症),偽薬群で3名であった(ほとんどのケースで基礎疾患を認めた).
New Engl J Med. April 21, 2021(doi.org/10.1056/NEJMoa2101544)



◆アデノウイルスベクターワクチンと静脈血栓症に関する企業の見解.
Johnson & JohnsonワクチンAd26.COV2.Sを接種後,高度の血小板減少を伴う脳静脈洞血栓症および肝静脈・脾静脈血栓症を呈したした48歳の白人女性の症例報告がNEJM誌に投稿された.著者らはアストラゼネカワクチンChAdOx1 nCoV-19でも同様の副反応が報告されていることから,両者に共通する非複製型アデノウイルスベクターベースのDNAワクチンが病態に関与する可能性を指摘した.
New Engl J Med. April 14, 2021(doi.org/10.1056/NEJMc2105869)

続いて, Johnson & Johnson社の研究者による回答が掲載された.まずワクチン接種者における静脈血栓症の発生率は,既報によるバックグラウンド(ワクチン接種のない通常の状況)の発生率(10万人年当たり0.2~1.57)の範囲内で発生していると述べている.つぎに2社のアデノウイルスベクターワクチンは,全く異なる生物学的効果を持つ可能性があると述べている(具体的には,Ad26.COV2.SワクチンはヒトのAd26ベースのベクターを使用しているのに対し,ChAdOx1 nCoV-19ワクチンはチンパンジーのアデノウイルスベースのベクターを使用している.導入遺伝子もfurin切断部位の修飾の有無で異なるなど).その上で,ワクチン接種後の血小板減少症を伴う静脈血栓症の病態解明にはさらなる検討が必要と述べている.
New Engl J Med. April 16, 2021(doi.org/10.1056/NEJMc2106075)

◆血液型は感染と重症化に関与しない.
一時,COVID-19と血液型に関する議論が盛んになされた.まず中国で,血液型A型は感染しやすく,O型は感染しにくいことが報告された.その後,イタリアとスペインで,A型は重症化のリスクが高く,O型は低いと報告された.しかしボストンとニューヨークで行われた検討では,血液型とCOVID-19の関連性は確認されなかった.相反する報告がなされているため,米国において,大規模な前方視的症例対照研究が行われた.対象は10万7796人,うち感染者1万1000 人以上となった.結論は感染のしやすさと重症度のいずれにも血液型との関連性は認められず,強く否定する結果となった.先行研究の多くはサンプル数が少なく,後方視的な観察研究であることに加え,疾患感受性や重症度とABO遺伝子との関連性が著しく不均一であることから,著者らは偶然の変動,出版バイアス,遺伝的背景,地理的環境,ウイルス株の違いなどが関与したと述べている.
JAMA Netw Open. 2021;4(4):e217429.(doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2021.7429)

◆パンデミック禍において機能性(心因性)運動障害は増加する.
機能性(心因性)運動障害は,器質性運動障害と区別される疾患であり,しばしば心理的なストレスが関与する.米国の単一施設から,パンデミック禍の機能性運動障害の頻度について検討した研究が報告された.2020年3月~10月と,2019年の同時期を,成人および小児を含め検討した.この結果,新規患者550人のうち45人(8.2%)が機能性運動障害の診断を受けた(うち75.6%が女性).内訳は振戦(53.3%),ジストニア(31.1%),ミオクローヌス(17.8%),チック(8.9%),常同運動(8.9%)の順に多く,複数の運動異常を認めた者が20.0%であった.一方,2019年には新規患者665人のうち34人(5.1%)が診断されていた.つまりパンデミック禍に新たに機能性運動障害と診断された患者が60.1%(小児コホートで90.1%,成人コホートで50.9%)増加したことになる(図4).パンデミックによる心理的およびその他のストレスの増加を反映しているものと考えられる.
Neurology. April 14, 2021(doi.org/10.1212/CPJ.0000000000001082)



◆抗amphiphysin抗体陽性の小脳性運動失調の症例報告.
失調歩行を呈し,のちに重症の興奮状態となった52歳男性の症例報告がNeurology誌に掲載されている.髄液では単核球優位の細胞数増多とIgG index上昇を認めた.髄液PCRが陽性であった.頭部MRIでは中脳から橋にかけて脳幹脳炎を示唆する異常信号が認められたが,小脳に異常所見はなかった(図5;既報でも小脳性運動失調を呈するCOVID-19症例で,画像検査において小脳に異常所見を認めないことが複数報告されている).血清を用いた自己抗体スクリーニングでは,抗amphiphysin抗体が陽性であったが,悪性腫瘍は認めなかった.プレドニゾロン(1mg/kg/day)開始後,症状は劇的に改善し,退院時(発症36日目)には自立歩行が可能となったが,半年後も軽度の小脳性運動失調は残存した.著者はCOVID-19で,細胞内シナプス抗原であるamphiphysinに対する抗体が誘発される可能性を指摘し,今後の検討が必要と述べている.
Neurology. April 14, 2021(doi.org/10.1212/WNL.0000000000012051)



◆MIS-Cの特徴を伴わない小児の感染後急性小脳失調症の初めて報告.
COVID-19の典型的症状(3日間の発熱と軽い呼吸器症状)を呈し,回復したその10日後に感染後急性小脳失調症(Acute Post-infectious Cerebellar Ataxia: APCA)を発症した13歳小児例がインドから報告された.四肢・体幹の失調を認めた.ミオクローヌスなし.臨床像はCOVID-19 に続発する多系統炎症性症候群(MIS-C)ではなかった.頭部MRIおよび髄液検査は正常.しかし血清,髄液中のCOVID-19抗体陽性.ステロイドハーフパルス療法(500 mg)にて急速に改善し,20日後には完全に回復し,自立歩行可能となった.COVID-19によって小脳エピトープと交差反応する自己抗体が産生される自己免疫性の病態が示唆された.
Mov Disord Clin Pract. March 31, 2021(doi.org/10.1002/mdc3.13208)

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

27年ぶりの下位脳神経麻痺と初めての論文

2021年04月21日 | 医学と医療
多発下位脳神経麻痺には人名を冠した症候群があります.有名なものは脳神経Ⅸ,Ⅹ,ⅩI麻痺のVernet(ヴェルネ;頸静脈孔)症候群Ⅸ,Ⅹ,ⅩI,ⅩII麻痺のCollet-Sicard(コレ・シカール)症候群です.名称は知っていたほうが良いですが,むしろ大切なことは「どこに病変が存在するのか?」を推定するに役立つということです.Ⅸ,Ⅹ,ⅩIが頚静脈孔から出るまで共通の走行を取るため,頭蓋底に接した病変の存在が示唆されます.

右反回神経麻痺の患者さんを診察しました.軽度のカーテン徴候がありました.最初,頸静脈孔症候群の触れ込みだったのですが,舌の右偏位が見られました.「あれっ?じゃあ,Collet-Sicard症候群か」と思って,胸鎖乳突筋や僧帽筋の筋力を見ると筋力低下はありません.「Ⅸ,Ⅹ,ⅩII麻痺だ!この組み合わせ,かつて経験したような・・・」

実は27年前に一度だけ経験し,私が初めて症例報告をさせていただいた患者さんと一緒でした.この組み合わせには名前がありません.類似するものとしてスペインの耳鼻咽喉科医Antonio Garcia Tapiaが報告したTapia症候群(1904)があります.これは「軟口蓋の機能障害を伴わない,一側性の喉頭,舌麻痺(Ⅹ,ⅩII)」であり,頭蓋外の病変に起因するものです.私が担当した患者さんは本例と同様,軽度の軟口蓋麻痺を呈していたため,Tapia症候群「類似」として報告しました.ⅩI麻痺を伴わない理由は,ⅩIが図のように頚静脈孔を出たあと,後外側に向かい内頸動脈と離れる方向に走行するためです.つまり頭蓋底から少し離れた部位に病変を認める場合,このような組み合わせが生じます.研修医1年目に経験したこの患者さんは頭蓋外内頸動脈瘤でした.下記の先生がたにご指導いただいて初めて書いた思い出深い論文です.

下畑享良,中野亮一,佐藤修三,辻省次.Tapia症候群類似の多発性下位脳神経麻痺を呈した頭蓋外内頸動脈瘤の1例.臨床神経34;707-711,1994


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

コロナ禍の神経学教育 -エビデンスに基づく10個のヒント-@米国神経学会(AAN2021)

2021年04月20日 | 医学と医療
コロナ禍において医学教育をバーチャル形式に変更する必要が生じた.とくに問診や神経診察が重要である神経学の教育は,バーチャル化により大きな影響を受けた.図のように非人間的になりがちなバーチャル・ラーニングは,neurophobia(神経恐怖症)を助長する可能性があるため工夫が必要である.

米国神経学会(AAN)バーチャルミーティングが開催中であるが,関心を持った教育セッションがあった.タイトルはTelecommunication and How to Create Effective Virtual Teaching Material(Dr. Doughty & Dr. Kaplan)である.このなかで「オンライン学習のための効果的なエビデンスに基づく10のヒント」を挙げていた.経験的な教育論ではなく,エビデンスに基づくものであった.10のヒントは,大きく環境づくりと教材とツールに分類できる.以下,10個のヒントを示すが,個人的に有用と思った工夫のメモを示す.神経学の医学教育のピンチは,やりようによっては大きなチャンスになりうることを実感した.

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(1)環境づくり
1. 講師としての存在感を示し,維持する
2. 生徒からのフィードバックとコラボレーションを奨励する
3. 多様性を尊重し,包括的で公平な学習環境を構築する
4. ライブと録画講義のバランスをとる

(2)教材とツール
5. ケース(症例)・ベースド・ラーニング(CBL)
6. マルチメディア神経解剖学リソースの活用
7. 学生の参加を促進するツール
8. 議論を促進し,質問を管理するための計画を持つ
9. 患者との有意義な交流を図る
10. 意味のある評価で学習を定着させる
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ヒント1:講師としての存在感を確立し,維持する.
- 生徒は教師とのつながりを求めている
- 教員の関与が大きいほど学生の満足度と定着率が良くなる
- 学生との関係を構築するために,講義と関係のない会話もする
- 事前の教員紹介ビデオ視聴,毎日の連絡,講義後の双方向のやり取り.

ヒント2:学生のフィードバックとコラボレーションを奨励する
- セッション後に学生が(匿名で)フィードバックできる
- 学生の協力を促す-教育プログラムの改善などのアイデアを求める

ヒント3:多様性を尊重し,包括的で公平な学習環境を構築する
- 生徒の状況を認識する(インターネットや生活の環境の確認)

ヒント4:ライブと録画講義のバランスをとる
- 学生はライブ講義を好む
- ライブ講義は,1日3時間程度が効果的(90分×2回,30分休憩)
- 録画講義は長くすべきではない.15分以下が望ましい.

セクション2:教材とツール
ヒント5:ケース(症例)・ベースド・ラーニング(CBL)
- 神経解剖学を教えるためにケーススタディを使用する.
- 神経科学を臨床の学びに統合,応用することで,neurophobia対策になる

ヒント6:マルチメディア神経解剖学リソースの活用
- Functional Neuroanatomy, University of British Columbia, Canada(http://neuroanatomy.ca/)
- 2D神経放射線学,http://www.med.harvard.edu/AANLIB/cases/caseNA/pb9.htm など

ヒント7:学生の参加を促進するツール
- 投票機能,ウェブリンクやQRコード,ブレイクアウトルーム(仮説,治療計画,データ分析などのディスカッションに適する)の活用

ヒント8:議論を促進し,質問を管理するための計画を持つ
- 生徒の名前を覚え,信頼関係を築く
- 沈黙を受け入れる - オンラインではより重要
- チャットよりもアノテーション(注釈)を使い;チャットはZoom疲労を招く一方,アノテーションは,複雑な議論を促進する.

ヒント9:患者との有意義な交流を図る
- バーチャル患者インタビュー(学生は患者との交流を望む).

ヒント10:意味のある評価で学習を定着させる
- 学生が自分の学習を評価できるようにする
- オンラインでの不正行為を避けることが可能なオープンノート,オープンブック方式を採用した試験.
- 問題は,検索可能なものではなく,臨床的なビニェットに基づいた問題解決型のものとする.



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(4月17日) 

2021年04月17日 | 医学と医療
今回のキーワードは,東京オリンピック開催を再考すべし,顔とのフィット感を高める2重マスクは有効,COVID-19ワクチン後の機能性神経障害,脳で観察されるミクログリア活性化は全身の炎症に起因する,既感染者のワクチン接種1回で十分である(成人も高齢者も)です.

まず図1はNewYork timesの4月12日の記事です.記事には「タイミング的には最悪です.日本はコロナウイルスの抑制に懸命に取り組んできましたが,現在は感染者が増加しており,ワクチン接種率も遅れています.ある厚生労働省の担当者は,新型インフルエンザの蔓延によって医療システムが「崩壊寸前」になっていると語っています.この厳しい環境の中,世界各国から集まった1万1000人のアスリートと,コーチ,役員,オリンピックサポートスタッフ,メディア関係者などが参加します.東京大会は,3週間にわたる超広域イベントとなり,日本全国,そして世界各地で死や病気を引き起こす可能性があります」と書かれています(https://nyti.ms/3dshmml).



最初に紹介する論文はこのオリンピックについてです.一流医学誌に掲載されました.白血病に打ち勝った池江璃花子選手をはじめアスリートの晴れ舞台を誰もが見たいと思いますが,そのためには,世界で議論されている以下のような議論に日本は真摯に答える必要があります.

◆東京オリンピック開催を再考すべし.
BMJ誌のeditorialに標題の論文が発表された.副題は「安全な大会運営には重大な疑問が残る」である.著者らは「メリットとリスクについて透明性が欠けており,安全でも安心でもない」と警告している.以下,著者らの示す根拠を紹介したい.
・世界のワクチンの普及が不公平で,多くの低・中所得国ではアクセスが低いこと.
・低・中所得国で高いリスクにさらされているessential workerではなく,スポーツ選手を優先することに倫理的な問題があること.
・アスリートへのワクチン接種はワクチン外交を助長し,世界的な連帯感を損ない,ワクチンナショナリズムを助長すること.
・アジア太平洋地域の他の国々とは異なり,日本はCOVID-19感染をコントロールできておらず,変異株感染患者が増加していること.
・日本はPCR検査能力が限られ,ワクチンの普及が遅れていること.
・アスリートを適切に守るためには,オーストラリアがテニスの全豪オープン前に行ったように,日本も国境をまたぐことによる感染への明確な戦略を策定し,実施する必要があること.
・来日する選手,役員,放送関係者,マーケティングパートナーの検疫を免除することは変異株を輸入し,拡散させる危険性があること.
・国内旅行者の増加により感染者が増加し,世界に輸出される可能性があること.
・圧倒的な医療への負担と,効果のない検査・追跡・隔離計画が相まって,オリンピックへの大量動員が発生するアウトブレイクを封じ込める能力を著しく損なわせる可能性があること.
・COVID-19接触者追跡アプリは信頼性が低いこと.
・パラリンピックにおける障害者の健康と権利を守る方法について,公式にほとんど語られておらず,選手への配慮が欠け,リスクを過小評価していること.

さらに著者らは「日本と国際オリンピック委員会は科学的根拠に基づいた運営計画に示し,国際社会と共有しなければならない」「国際社会全体が安全を第一と考え,パンデミックを食い止め,命を救う必要性を認識している.科学的・道徳的な要請を無視して,国内の政治的・経済的な目的のために開催することは,世界の健康と人間の安全保障に対する日本のコミットメントに矛盾する」と述べている.世界に対する日本の態度を問う,きわめて重要な論文である.
BMJ 2021;373:n962(doi.org/10.1136/bmj.n962)

◆顔とのフィット感を高める2重マスクは有効.
最近,米国の公衆衛生当局はマスクの2重化を推奨している.実は自分も外来や回診,会議など人と会う機会が多い日は2重マスクにしている.しかし,一般的に市販されているマスクを単独,2重,もしくは組み合わせて使用した時の適合濾過効率はよく分かっていない.米国からの研究で3名のボランティアにより医療用プロシージャーマスクと布マスクの,塩化ナトリウムで粒子を用いた適合濾過効率の検討を行った.2枚目の医療用マスクを追加することで,適合濾過効率は1枚の時の55±11%から66±12%に改善した.布マスクは医療用マスクよりも適合濾過効率が悪く(41~44%),2重にすると適合濾過効率は改善したが,通気性が低下した. 布マスクの上に医療用マスクをすると,適合濾過効率がわずかに増加したが,医療用マスクを単独で着用した場合と変わらなかった.一方,布マスクの下に医療用マスクを装着すると,全体の適合濾過効率が著しく向上した(66~81%).医療用マスクを2重にしたり,布マスクの下に医療用マスクを装着することはマスクと鼻梁を含む顔面の皮膚との間の漏れを最小限に抑えることを意味する.マスクの本質的な限界要因は素材ではなくフィット感であることを示唆する.
JAMA Intern Med. April 16, 2021(doi.org/10.1001/jamainternmed.2021.2033)

◆COVID-19ワクチン後に生じる運動異常症の原因としての機能性神経障害.
ワクチン後に,体幹や手足の不随意運動が生じたり,反対に動きが止まったり,歩行困難になったりする動画がSNSやYouTubeに拡散し,すでに数百万回も視聴されている.これはワクチンへの不安を高めるものであり,医療者が一般市民に適切なコミュニケーションを取らなければ,ワクチン接種率の低下やパンデミックの不必要な長期化につながる恐れがある.そもそもこれらの動画のなかには,ワクチンが接種されたか不明であったり,「機能性神経障害」と診断してよいものがある.JAMA Neurol 誌において,ワクチン後の「機能性神経障害」について議論がなされている.「機能性神経障害」とは,症状を説明できる器質的病変がなく,原因がはっきりしない,心理的・精神的要因が関与する病態で,神経学と精神医学の接点に位置する.つまりワクチンに含まれる物質が直接の原因ではなく,むしろ身体への注意の高まりや,脅威,感情処理の障害などが重要な役割を果たしている.患者は自分の症状を不随意と認識していることから,仮病とは異なるものである.また,心理的ストレスが身体的症状に変換されるという初期の転換性障害のモデルは時代遅れのものとなっている.治療は診断に関する教育,身体的リハビリテーション,認知行動療法などが行われる.脳神経科医は「ワクチン後の機能性神経障害」を適切に診断し,かつ偏見なく説明をする必要がある.「ノセボ効果」,すなわち偽薬によって望まない副作用が現われることについても広く一般に伝える必要がある.→ 今後,本邦でも「ワクチン後の機能性神経障害」が生じる可能性があることを認識する必要がある.
JAMA Neurol. April 9, 2021(doi:10.1001/jamaneurol.2021.1042)

◆脳で観察されるミクログリア活性化は全身の炎症に起因する.
COVID-19における神経症状に関して,これまでのところ,脳へのウイルスの一次感染が重要な要因であるという証拠はほとんどない.米国から剖検を行った連続41名の臨床,病理学,および分子生物学的検討が報告された.平均年齢は74歳(38~97歳)で,27名(66%)が男性,34名(83%)がヒスパニック/ラテン系であった.24名(59%)がICUに入院した.入院関連合併症が多く,深部静脈血栓症/肺塞栓症が8名(20%),透析を要する急性腎不全が7名(17%),血液培養陽性10名(24%)が存在した.8名(20%)は入院後24時間以内に死亡し,11名(27%)は入院後4週間以上経過してから死亡した.各脳における20~30部位を病理学的に検査したところ,すべての脳で,全体ないし局所的な低酸素・虚血性変化,大小の梗塞(多くは出血性),神経細胞貪食を伴うミクログリア結節(炎症性結節)を伴うミクログリアの活性化が認められ,特に脳幹で顕著であった.大動脈の動脈硬化や細動脈硬化が見られたが,血管炎は明らかではなかった.28名の脳から採取した標本を用いて,ウイルスRNAとタンパク質の存在を調べたところ,qRT-PCRでは,大部分の脳でウイルスRNAレベルは低いか,非常に低いものの検出可能であったが,鼻腔上皮に比べてはるかに低かった(図2).RNAscope(RNA in situ hybridization)と免疫染色では,ウイルスRNAやタンパク質を検出できなかった.以上より,COVID-19脳における検出可能なウイルスのレベルは非常に低く,病理組織学的な変化とは相関していないことがわかった.大部分の脳で観察されたミクログリアの活性化,ミクログリア結節,神経細胞貪食は,脳実質への直接的なウイルス感染に起因するものではなく,むしろ全身の炎症に起因するものであり,おそらく低酸素・虚血の影響もある.生存者においてこれらの脳病理所見が,慢性的な神経学的異常の原因となるか,さらなる研究が必要である.
Brain. April 15, 2021(doi.org/10.1093/brain/awab148)



◆既感染者(成人)のワクチン接種1回で十分である.
COVID-19にすでに感染した人にワクチンを接種すべきかどうかは不明である.イタリアにおいて,観察的コホート研究に100 名の医療従事者が登録され,うち 38名は感染歴があった.ファイザーワクチンを接種し,ウイルス特異的中和抗体を,既感染者で1回目接種の10日後,感染歴がない者で2回目接種の10日後に測定した.この結果,中和抗体は既感染者1回接種で幾何平均力価569,未感染者2回接種で118と有意差が認められた(図3).年齢や性別による大きな差はなかった.また既感染者は,感染からワクチン接種までの期間により,1~2カ月(8名),2カ月以上~3カ月(17名),3カ月以上(12名)の3グループに分類されたが,幾何平均力価は順に437,559,694であった.つまり感染後3カ月以上経過してからワクチンを接種した場合,ブースター効果(体内で一度作られた免疫機能が再度抗原に接触することにより,さらに高まること)がより顕著に現れる可能性が示唆される.以上より,感染歴のある人のワクチン1回接種は,感染歴のない2回接種者よりも効果が大きいことを示すエビデンスとなる.
New Engl J Med. April 14, 2021(doi.org/10.1056/NEJMc2103825)



◆既感染者(高齢者)のワクチン接種も1回で十分である.
上述のように既感染成人が免疫を獲得するためには,mRNAワクチンを1 回だけ接種すればよいことが示されているが,既報の研究には高齢者は含まれていない.介護施設で暮らす高齢者は,感染後,重症化するリスクが高く,ワクチンに対する免疫反応も若年者とは異なる可能性がある.このため,感染の既往のある高齢者とない高齢者を対象に,ファイザーワクチンを1回接種した後の抗体レベルを比較した研究がフランスから報告された.102名の居住者のうち,60名は感染歴がなく,36名はPCR陽性かつ抗体陽性,6名はPCR陽性または抗体陽性であった.この36名全員(100%)が1回のワクチン接種後に抗体(SプロテインIgG)陽性となったのに対し,感染歴のない60名では29名(49.2%)のみ抗体陽性となった.また感染歴のある者の抗体価の中央値が40,000 AU/mL以上であったのに対し,感染歴のない者では48.0 AU/mLであった(P<0.001)(図4).以上より,感染歴がある場合,高齢者でもワクチンは1回接種で十分であることが示唆された.また感染歴が不明な人に2回目の接種が必要かどうかを判断するのに,事前に抗体レベルを測定することが有用と言える.1回接種で済ませることにより,既感染者における強い免疫に伴う副反応を避けることができ,かつ貴重なワクチンを節約することができる.
JAMA. April 15, 2021(https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2778926)



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

片頭痛・群発頭痛治療の新たな夜明け@Brain Nerve誌

2021年04月16日 | 脳血管障害
Brain Nerve誌4月号にて標題の特集を企画させていただきました.表紙は京都の三十三間堂の柳の葉です.三十三間堂は後白河上皇が自身の頭痛の平癒を祈って建立したとして知られています.毎年1月に行われる「楊枝(やなぎ)のお加持」は,聖樹とされる楊枝で観音に祈願した法水を参拝者に注ぐことで,特に頭痛に効くご利益があると伝えられています(写真右上).

片頭痛・群発頭痛の治療薬の大きな進歩は「トリプタン」によりもたらされましたが,それに匹敵する大きな変化が訪れています.CGRP関連抗体,ゲパントやディタン,さらに非侵襲的ニューロモデュレーション治療が臨床応用され,まさに新たな夜明けを迎えています.そして4月14日,抗CGRP抗体のエムガルティ®の薬価が発表され,4月21日に薬価収載,ついに保険診療で使えるようになります.薬価は120 mg/mL 1キット 4万5165円と高価な薬剤であり,作用機序,導入基準や使い分けなどの十分な理解が求められます.

これらを理解するための基本的知識,臨床試験のエビデンス,使用方法や本邦における見通しについて学ぶ機会にしたいと思い,以下にご紹介するエキスパートの先生方に執筆をお願いいたしました.まだ同様の企画はほとんどなく,脳神経内科医のみならず頭痛診療に関わる多くの医師や患者さんに読んでいただきたいと思います.
Amazonリンク
医学書院リンク

①片頭痛のメカニズム――予兆とCGRP/CGRP受容体拮抗薬に関連して(粟木悦子,竹島多賀夫)
②ゲパントとディタン(古和久典)
③CGRP関連抗体の片頭痛治療への応用(柴田 護)
④片頭痛・群発頭痛治療における非侵襲的ニューロモデュレーション(團野大介)
⑤群発頭痛の新しい治療(今井 昇)


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

COVID-19ワクチンに関する日本神経学会の見解

2021年04月14日 | 医学と医療
日本神経学会がCOVID-19ワクチン接種に関する学会声明を発表しました.学会ホームページに公開し,どなたでもご覧いただけるようになっております.なお神経筋疾患に焦点を絞った有効性や安全性についてのエビデンスは十分ではなく,基本的に国内外におけるエキスパートオピニオンになります.最終的には患者さん,ご家族との協働意思決定(shared decision making)を通して,ワクチン接種を受けるかどうかを決めることになりますが,議論のための情報としてご使用いただければ幸いです.なお本見解は,以下に示す8つの質問に答える形式でお示しいたしております.

Q1:神経疾患(脳卒中,認知症,神経難病)患者さんに接種を推奨するか?
Q2:副反応は,神経疾患(脳卒中,認知症,神経難病)患者さんで問題になるか?
Q3:免疫介在性中枢神経疾患患者さんに接種を推奨するか?
Q4:副反応は,免疫介在性中枢神経疾患患者さんで問題になるか?
Q5:免疫介在性末梢神経疾患患者さんに接種を推奨するか?
Q6:副反応は,免疫介在性末梢神経疾患患者さんで問題になるか?
Q7:免疫介在性筋疾患患者さんに接種を推奨するか?
Q8:副反応は,免疫介在性筋疾患患者さんで問題になるか?

一般社団法人 日本神経学会
代表理事  戸田達史
担当理事 下畑享良,西山和利
神経感染症セクション 
◯中嶋秀人,綾部光芳,大原義朗,髙嶋 博,坪井義夫,水澤英洋,吉田一人
免疫性神経疾患セクション
◯吉良潤一,磯部紀子,荻野美恵子,海田賢一,神田 隆,桑原 聡,清水 潤,中島一郎,中辻裕司,中根俊成,中原 仁,新野正明,村井弘之
末梢神経疾患セクション
◯楠進,安東由喜雄,池田修一,海田賢一,神田 隆,桑原 聡,小池春樹,園生雅弘,髙嶋 博
筋疾患セクション
◯砂田芳秀,青木正志,尾方克久,久留 聡,清水 潤,高橋正紀,戸田達史,西野一三,林由起子,松村 剛
(◯はセクションチーフ)

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

椿忠雄先生の蔵書とことば

2021年04月13日 | 医学と医療
写真の本は,新潟水俣病を発見し,SMONがキノホルムによる薬害であることを明らかにした,日本の神経内科学の父のひとり,椿忠雄先生の蔵書です.同窓の保住功教授(岐阜薬科大学)が個人的に御奥様から託されたものを,ご退官を機に引き継がせていただきました.全部で79冊あり,そのなかに「死の医学」に関する書籍が12冊,看護が5冊,日野原重明先生のご著書が4冊と,椿先生が死の医学や緩和ケアに強い関心をお持ちであったことが分かります.また神経学の教科書,例えば椿先生が監訳された「メリット神経病学」を読むと,医学の進歩により疾患概念が大きく変わったことを実感する一方,神経診察に関する書籍は現在と大きく変わりはなく,むしろWartenberg先生の「神経学的診察法」の訳本などは現在よりレベルが高く感じました.

過去に何度か読んだことがある,椿先生の文章を集めた「神経学とともにあゆんだ道」も,いま読んで初めて理解できる箇所がいくつもありました.例えば「新入生諸君に」という文章は,今の私より若い年齢で書かれたものですが,格調が高く,足元に及ばないと思わされる一方,「諸君の大学生活の目的の一つは人格の涵養であろう」という文章や,「私は本学の出身者ではなく,従って諸君の先輩ではないが,本学を愛し,本学学生に期待する気持ちは誰にも劣らないつもりである」という箇所は,今の自分にとても理解できるものでした.また「私はつまらない人間である」という椿先生の座右の銘(!)をタイトルにした文章では,「このことを知っているだけにいつも謙虚であらねばならぬと思うし,努力も人一倍しなければならないと思う.また,他人のやらないような実りのない仕事もやらねばならないと自分にいいきかせてきた.その結晶が今日の私の姿である」と書かれており,まさに自分への戒めのように感じました.椿先生の蔵書を少しずつ読み進めて学び,若いドクターに伝えていきたいと思いました.


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(4月10日)  

2021年04月10日 | 医学と医療
今回のキーワードは,副反応が多く見られるタイミング,ワクチン起因血栓促進免疫性血小板減少症(VIPIT),自己隔離率と検査率は相当低い,入院患者の亜急性期に高頻度に見られる認知機能障害,発症6カ月間における神経・精神疾患の発生率,COVID-19に関連する脳神経障害のメカニズムです.

COVID-19感染後の脳神経障害に関する重要な報告が2つなされました.Brain 誌では入院患者の亜急性期において,前頭・頭頂部の代謝低下を伴う認知機能障害を高頻度に認めることが示されました.一方,Lancet Psychiatry誌では,発症後6ヶ月において神経・精神疾患の診断を受ける推定発生率は33.6%と高いことが示されました.つまり「COVID-19は認知症や神経.精神疾患の危険因子」ということです.脳神経内科医の立場から,改めて感染を防止する必要性を強調したいと思いますが,現実は多くの人が予想した通り,瞬く間に第4波に襲われてしまいました.根本的な対策が行われず,同じことを繰り返しているように思います.我が国において科学的な対応を妨げているものは何なのでしょうか?

◆副反応は2回目の接種後1日目に最も多い.
米国疾病対策予防センター(CDC)は,米国内のCOVID-19ワクチン接種者からほぼリアルタイムでデータを収集する新しい調査システムV-safeを設立した.参加者は自発的に登録し,定期的にスマートフォンでメッセージを受信し,ワクチンの接種日から12カ月後まで,健康調査を行う仕組みとなっている.医療機関を受診した副反応については,電話調査が行われる.2021年2月21日までに4600万人以上がmRNAワクチンを少なくとも1回接種したが,うち364万3918人がV-safeに登録している.この結果,接種後0~7日目に,注射部位の反応(1回目:70.0%,2回目:75.2%)または全身性の反応(1回目:50.0%,2回目:69.4%)が見られることが分かった.初回接種後の副反応は,注射部位の痛み(67.8%),疲労感(30.9%),頭痛(25.9%),筋肉痛(19.4%)であった.ファイザー,モデルナ・ワクチンとも,2回目の接種後に大幅に副反応の頻度が増加し,疲労感(53.9%),頭痛(46.7%),筋肉痛(44.0%),悪寒(31.3%),発熱(29.5%),関節痛(25.6%)となった.これらは2回目の接種後1日目に最も多く報告され,また症状が治まるまでの期間は短かった.これらの情報をワクチン接種者に予め説明しておく必要がある.
JAMA. April 5, 2021(doi.org/10.1001/jama.2021.5374)

◆アストラゼネカ・ワクチンによる血栓症は,ヘパリン起因性血小板減少症に類似する.
SARS-CoV-2ウイルスのスパイク蛋白をコードするアデノウイルスベクターを用いたアストラゼネカ・ワクチン(AZD1222)では,一部の接種者に血栓症や血小板減少症が見られたことが報告され,注目されている.ドイツからその病態として,ヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia; HIT)と同様,血小板第4因子(PF4)に対する血小板活性化抗体によって引き起こされる可能性について検討した研究が報告された.対象はワクチン接種後に血栓症および血小板減少症を発症した9名(女性8名,中央値36歳;22~49歳)で,ワクチン接種後4~16日目に血栓症を発症していた.7名が脳静脈血栓症,1名が肺塞栓症,1名が脾静脈血栓症と脳静脈血栓症を呈した.4名が死亡した.過去のヘパリン使用者はいなかった.調べた4名全員が抗PF4/ヘパリン抗体が強陽性で,ヘパリンなしのPF4存在下の血小板活性化アッセイでも,全員が強陽性であった(つまりHITとは異なる).血小板活性化は,高濃度ヘパリン,Fc受容体遮断モノクローナル抗体,免疫グロブリンによって抑制された.治療としてはDOACのようなヘパリン以外の抗凝固薬や,重篤な症例ではIVIgも考えられる.なお本病態を「ワクチン起因血栓促進免疫性血小板減少症(vaccine-induced prothrombotic immune thrombocytopenia; VIPIT) 」と呼ぶことが提唱された.
Research Square. Mar 28, 2021(https://www.researchsquare.com/article/rs-362354/v1)
HITに関する私のブログ記事(https://blog.goo.ne.jp/pkcdelta/e/bab123cc381a0ac3059c5c6e31216158)

今朝のNew Engl J Med誌にもノルウェーから,13万人中5人の発症例(医療者;32~54歳,女性4名)の報告を掲載している.ワクチン接種後7~10日目に発生.いずれも脳静脈血栓症を呈し,1例は肝門脈血栓症を併発している.4名が脳出血を合併し,3名が死亡している.治療として免疫グロブリン静注とプレドニゾロンの併用を開始した後,血小板数は増加し(図1;黄色矢印),血栓症が増悪する徴候はなかった.一方,ヘパリンや低分子ヘパリンに代わる抗凝固剤は,進行中の脳出血を悪化させることが大いに懸念され,行えなかった.こちらのグループは,vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopenia (VITT) と呼ぶことを提唱している.稀な合併症であり,欧州医薬品庁(EMA)はワクチン接種のベネフットがリスクを上回るという立場を取っている.
New Engl J Med. April 9, 2021(doi.org/10.1056/NEJMoa2104882)



◆COVID-19が疑われる人の自己隔離や検査率は相当低い.
英国において,パンデミック発生後の11カ月間における自己隔離の遵守率を検討した研究が報告された. 5万3880人から7万4697件の回答を得た.完全な自己隔離の遵守率は半数に満たない42.5%であった.COVID-19の検査を依頼したのは18.0%で,1月下旬には22.2%に増加した.自己隔離を遵守しないことに関連する因子としては,男性,若年,家族に扶養している子どもがいる,社会経済的なグレードが低い,経済的困窮,重要な部門で働いている,であった.以上のように自己隔離や検査を行う割合はかなり低いことが明らかになった.改善のための経済的な支援が必要であり,さらに男性,若年者,重要部門で勤務する人への対策も必要かもしれない.
BMJ March 31, 2021(doi.org/10.1136/bmj.n608)

◆入院患者は亜急性期において,前頭・頭頂部の代謝低下を伴う認知機能障害を高頻度に認める.
ドイツからの前向きコホート研究.入院治療を必要としたPCR陽性患者を,2020年4月20日から5月12日の間にスクリーニングした.19歳以上で,少なくとも1つの新しい神経学的所見(味覚/嗅覚障害,モントリオール認知評価検査(MoCA)<26点,臨床神経学的な病的所見と定義)を呈した場合に対象に含めた.新たな症状を2つ以上呈した場合,感染性がなくなった時点で,神経心理学的検査,頭部MRI,FDG-PETを行った.対象となった入院患者41名のうち,亜急性期の29名(65.2±14.4歳,女性38%)について検討した.最も多かった所見は味覚障害と嗅覚障害で,それぞれ29/29名と25/29名の頻度で認められた.MoCAは18/26名で低下しており(平均21.8/30点),とくに前頭葉機能低下を示した.これは詳細な神経心理学的検査を行った15名においても確認された.FDG-PETは10/15名で異常所見を呈し,やはり前頭・頭頂部の代謝低下が主な所見であった.図2の上段はCOVID-19患者,中段は対象である.下段は糖代謝の空間共分散パターンで,前頭葉・頭頂葉の低下(青)を認める.この所見はMoCAの成績と高い相関(R2 = 0.62)を示した.



1名で剖検が行われ,大脳白質におけるミクログリアの活性化が認めたが(図3),神経炎症の所見はなかった.以上より,入院を要する患者の亜急性期において,前頭・頭頂部の代謝低下を伴う認知機能障害を高頻度に認められ,リハビリテーションや社会経済において重要な意味を持つものと考えられた.
Brain, awab009(doi.org/10.1093/brain/awab009)



◆発症6カ月間における神経・精神疾患の発生率.
英国から,COVID-19患者の発症6カ月間における14の神経,精神疾患の発生率と相対リスクを推定することを目的とした後方視的研究が報告された.8100万人以上の患者が参加しているTriNetX電子カルテネットワークから得られたデータが使用されている.COVID-19の10歳以上の患者を主要コホートとし,2つの対照群にはインフルエンザ患者群と,同時期にインフルエンザを含むあらゆる呼吸器感染症と診断された患者群を設定した.COVID-19患者23万6379人のうち,6か月間に神経,精神疾患の診断を受けた推定発生率は33. 62%であり,12.84%の患者がこれらの診断を初めて受けた.ICU入院患者ではそれぞれ,46.42%,25.79%であった.疾患別には頭蓋内出血0.56%,虚血性脳卒中2.10%,パーキンソニズム0.11%,認知症0.67%,不安障害17.39%,精神障害1.40%であった(図4).ICU入院患者では,頭蓋内出血2.66%,虚血性脳卒中6.92%,パーキンソニズム0.26%,認知症1.74%,不安障害19.15%,精神障害が2.77%と高くなった.COVID-19患者群は,インフルエンザ患者群と比べて,ほとんどの疾患で頻度が高かった.またCOVID-19の重症度が高い患者ではハザード比が高かった.以上より,COVID-19感染後6カ月間では神経,精神疾患の罹患率が高いことが示された.重症患者ほどリスクは高いが,重症でなくても生じうることも示された.
Lancet Psychiatry. April 06, 2021(doi.org/10.1016/S2215-0366(21)00084-5)



◆COVID-19に関連する脳神経障害のメカニズム.
JAMA Psychiatry誌にCOVID-19に関連する脳神経障害のメカニズムについての総説が掲載された.分かりやすい図で,脳血管障害→神経伝達系の機能障害→血栓症→神経細胞損傷→精神・神経症状を示している(図5).A. SARS-CoV-2ウイルスは,ACE2受容体を介して,膜貫通型プロテアーゼセリン2(TMPRSS2)の働きで内皮細胞に侵入する.B. 炎症性サイトカインの上昇と,ミクログリアの活性化によるキヌレニン,キノリン酸,グルタミン酸の分泌が起こる.C. 凝固カスケードとvon Willebrand factorの上昇により,血栓症,つまり微小な脳虚血が起こる.D. 神経伝達物質の枯渇,グルタミン酸の増加による興奮毒性,低酸素性傷害により,神経細胞の機能障害や喪失が起こる.E. 精神神経症状は,病変となったブロドマン領域によって異なる.また治療介入には,サイトカインの拮抗薬(エタネルセプト,インフリキシマブ),NMDA受容体拮抗薬(ケタミン),TNF-αおよび抗炎症経路抑制薬(アスピリン,セレコキシブ),キヌレニン経路調節薬(ミノサイクリン)が含まれる可能性がある.
JAMA Psychiatry. March 26, 2021. (doi.org/10.1001/jamapsychiatry.2021.0500)




  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

男性と女性におけるバーンアウトに関連する要因は異なる

2021年04月05日 | 医学と医療
日本神経学会は,医師のバーンアウトに対して先駆的な取り組みを行っています.2019年10月,医師のバーンアウトに関連する要因を明らかにし,今後の対策に活かすためのWEBアンケートを行い,脳神経内科医1,261名から回答を得ました.先日,第1報を発表し,バーンアウトの最大の要因は「自身の仕事を有意義と感じられないこと」であることを示しました.さらに今回,バーンアウト研究の第一人者久保真人先生(同志社大学),女性専門医に対するアンケートを行うなどこの問題に取り組んできた饗場郁子先生(東名古屋病院)らが中心となり,男女差を解析した第2報を発表しました.

この結果わかったことは,①勤務・生活状況では既婚者のみに有意な差が認められ,労働時間など勤務状況では男性のほうが厳しい条件で勤務していること,家事分担では女性の負担が重いこと,②日本版バーンアウト尺度による分析では,バーンアウトに性差は認められないこと,③しかしバーンアウトと関連する要因については,男女に共通するものとして「自身の仕事を有意義と感じられないこと」「個人/家族生活のために十分な時間が取れないこと」「事務作業に費やす時間が多いこと」「年齢」がある一方,男性特有のものとして「スタッフの充足」「脳神経内科を選ぶ動機となった活動に十分時間を費やせないこと」があり,女性特有のものとして「外来患者診察数」が見出されました.男女ごとに対策を考える必要性が示唆されます.本論文は以下からDLできますので,ご一読いただき,この問題に一層の関心を持っていただければと思います.

脳神経内科医におけるバーンアウト(第2報)―男性医師と女性医師の比較―.臨床神経2021;61:219-227 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(4月3日)  

2021年04月03日 | 医学と医療
今回のキーワードは,飲食店で感染対策を行うエビデンス,飲食店でマスク会食をするエビデンス,mRNAワクチンによる待望の胚中心の形成,「ワクチンパスポート」の根拠と政府の役割,無症状感染者でも3週間,唾液にウイルスを排出する,リポペプチドの経鼻投与による感染防止の成功(動物実験)です.

「まん延防止等重点措置」のなかでマスク会食が話題になっています.大阪府知事は会食の際のマスク着用を義務化したい考えなのに対し,神戸市長は「食事中にマスクを着けたり外したりすると,マスクに付着したウイルスを触る可能性がある」として否定的な見解を示しています.私たち医療者は,患者さんを診療するごとに携帯するアルコールで手指消毒をしますので,マスクを触ったら消毒するしかないと考えるのではないかと思います.ただ屋内での飲食店のリスクは飛沫感染だけでなく,空気感染も重要です.飲食店で感染対策に関するエビデンスを最初に紹介します.

◆飲食店で感染対策を行うエビデンス.
物理的距離(6フィート=1.8 m以上)を保つことが難しく,マスクを一貫して使用することができないレストランなどの屋内施設では,感染リスクが高まる可能性がある.2020年3月から4月にかけて,米国49の州とコロンビア特別区は,レストランでの店内飲食を禁止した.米国疾病対策予防センター(CDC)は,2020年3月1日から12月31日までの期間における,飲食店での食事の許可と,COVID-19患者数・死亡数との関連を検討した.レストランでの食事を許可後,41日から100日の間に1日当たりの感染者変化率が増加し,実施後61日から100日の間に1日当たりの死亡者変化率が0.9%ポイントから3.0%ポイントの範囲で増加した(図1).許可後すぐに増加しないのは飲食店をすぐに再開できなかったことや,客の感染への警戒感が原因と考えられる.%ポイントの増加は,1日の増加率の変化を意味するため,感染者数・死者数が指数関数的に増加することを示す.逆に,有効な飲食店対策は,相当数のCOVID-19感染と死亡を回避できる可能性がある.
MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2021;70:350–354(doi.org/10.15585/mmwr.mm7010e3)



◆飲食店でマスク会食をするエビデンス.
米国より報告された研究.エビデンスに基づき,屋内飲食店をマスク着用義務化後に再開した州と,マスク着用義務化前に再開した州を比較した.8週間後,マスク義務化をせずに再開した州では,643.1人/10万人の感染者が発生したのに対し,マスク義務化をした州では62.9人/10万人であった.死亡者数も,前者の31.7人/10万人に対し,後者は6.1人/10万人であった.図2が10万人あたりの予測患者数である.以上より,飲食店再開により感染者,死亡者数は増加するが,マスク義務化は対策として有効と考えられる(日本で議論されている食事中のマスク着用が行われているとは思えないが,それでも有効である).
この論文は昨年10月に発表されたもので,最新のJAMA誌における飲食店対策に関する小論文で紹介されていた.このなかで,屋内での営業を続ける飲食店に対し,マスク着用を義務付ける,十分な換気を行う,屋外での食事を提供する,60%以上のアルコールを用いた頻繁に手指衛生や清掃を行う,物理的な距離をとるためのレイアウトの工夫をするなどの対策が紹介されている.とくに換気が不十分な屋内空間で,無症状感染者が同席した場合,空気感染(エアロゾル感染)が生じるエビデンスを紹介している.対策は空気中の感染性ウイルスを運ぶ小さな飛沫や粒子の濃度を下げる換気しかない.CO2モニタリングなどの具体的な数値目標を設定すれば,飲食店も客も安心できると思う.
J Gen Intern Med. 2020;35(12):3627-3634(doi.org/10.1007/s11606-020-06277-0)
JAMA. April 1, 2021(doi.org/10.1001/jama.2021.5455)



◆mRNAワクチンは,持続する防御反応に必要な胚中心の形成を引き起こす.
COVID-19では持続する免疫反応に必要な胚中心の形成が抑制されることが知られている.このためワクチンにより,実際にリンパ節に胚中心が形成されるかは重要な関心事であった.米国から,ファイザーワクチンを2回接種した32名を対象に,末梢血およびリンパ節の抗原特異的B細胞反応を調べた研究が報告された.スパイク蛋白を標的としたIgG,IgAを分泌する形質芽細胞は,2回目の接種から1週間後にピークに達し,その後減少し,3週間後には検出されなくなった.形質芽細胞の反応は,血清抗スパイク結合抗体および中和抗体のピークと一致していた.腋窩リンパ節針生検では,全例でスパイク蛋白に結合する胚中心B細胞が同定された.胚中心は複数の参加者の2つの異なるリンパ節で認められた.さらにスパイク蛋白に結合する胚中心B細胞と形質芽細胞は,ワクチン後7週間まで流入領域リンパ節に維持され,形質芽細胞プールの多く部分はIgAにクラススイッチされた(つまり粘膜組織に移行して感染防御機能を果たす可能性がある).胚中心B細胞由来のモノクローナル抗体は,主に受容体結合部位を標的としていた.以上より,mRNAワクチンをヒトに接種すると,持続的な胚中心B細胞反応が誘導される.これによりメモリーB細胞や形質細胞への分化を介して持続的な液性免疫の確率が可能になることが示された.
Immunity. 2020;53(6):1281-1295.e5 (doi.org/10.1016/j.immuni.2020.11.009)

◆「ワクチンパスポート」の根拠と政府の役割.
医療従事者でさえワクチン接種が遅々として進まない日本に対し,先進国ではワクチン完了者に対する「ワクチンパスポート」の議論が活発化している.米国,英国,EUが検討中,オーストラリア,デンマーク,スウェーデンが導入を表明しており,イスラエルは,すでに「グリーンパス」を専用アプリとして発行し,ホテル,ジム,レストラン,劇場,音楽会場などへの入場を許可している.アメリカ・ニューヨーク州でも,ブロックチェーン基盤(ネットワークに接続した複数のコンピュータによりデータを共有することで,データの耐改ざん性・透明性を実現すること)の電子パスポート「エクセルシオール・パス(図3)」が導入されるが,劇場,アリーナ,イベント会場,大規模な結婚式への参加を許可するものである.
「ワクチンパスポート」の基本的な考え方は「自由や社会的に価値のある活動を制限する公衆衛生上の制限は,検証可能なリスクに合わせて調整されるべき」というもので,市民権法や公衆衛生の実践における中心的な原則であるそうだ.一方で反対意見もある.ワクチン接種者でも変異株による感染リスクが不明なことや,ワクチン接種者の優遇は,宗教的・哲学的にワクチンに反対する人にペナルティを与えることなどである.しかし今後さらにワクチンのエビデンスは積み重ねられること,ワクチン接種の拒否が,集団免疫の達成を困難にさせることを考えると,その拒否に見合った何らかの負担を負わせることは公平である考えである.
一方,「ワクチンパスポート」はコンサート・スポーツ会場,クラブ,レストランなどで運用されるため,政府は民間企業に対し,違法な差別となるような「ワクチンパスポート」の使用を禁止する明確な指示を含む,基準と境界線を定める必要がある.さらに政府は,民間で認証規則を作成する者が,ワクチンの有効性と限界に関する最新の科学的情報に容易にアクセスできるよう準備する必要がある.
New Engl J Med. March 31, 2021(doi.org/10.1056/NEJMp2104289)



◆口腔の上皮細胞に感染し,無症状感染者でも3週間,唾液にウイルスを排出する.
COVID-19では,味覚障害,口渇などの口腔内の感染を示唆する徴候を認めるものの,口腔内感染の詳細については不明であった.今回,口腔内に存在する細胞の種類を,まず単一細胞RNA sequencing (scRNAseq)を用いて特定した後,感染に必要なACE2とTMPRSSの発現を各細胞において検討した研究が,英国と米国の共同研究として報告された.結果として,唾液腺で22種類,歯肉で28種類の細胞クラスターを特定し,34の細胞亜集団(上皮細胞12種類,間質細胞7種類,免疫細胞15種類)に分類した.また唾液腺と歯肉のほとんどの上皮細胞には,程度の差はあるもののACE2,TMPRSSが発現していた.実際にCOVID-19感染者の唾液中には,ACE2とTMPRSSを発現する上皮細胞が存在し, SARS-CoV-2感染が示唆された.無症状感染者でも3週間近く口腔内でウイルスが作り続けられることも示された(図4).唾液中のウイルス量は味覚障害と相関していた.症状が回復すると,唾液中にSARS-CoV-2に対するIgG抗体が検出されるようになった.以上より,口腔内の上皮細胞が感染の重要な場所であることを示され,ウイルスを含む飛沫を排出することが明らかになった.
Nat Med. Mar 25, 2021(doi.org/10.1038/s41591-021-01296-8)



◆リポペプチドの経鼻投与によるSARS-CoV-2ウイルス感染の防止.
SARS-CoV-2ウイルスのスパイク蛋白は,ACE2を介して宿主細胞に結合し,膜融合により細胞への感染を開始する.オランダと米国の共同研究で,感染の重要な第一段階を阻害するリポペプチド融合阻害剤を設計した.具体的には,スパイク蛋白はACE2に結合してから大きく構造が変化し,細胞膜同士の融合が起こるが,その過程を阻害するようにリポペプチドを設計した.in vitroでの有効性とin vivoでの生体内分布に基づいて,二量体を選択して動物モデル(フェレット)で評価を行った.ペプチドにポリエチレングリコールやコレステロールを付加し,細胞膜からエンドソームに取り込まれ,宿主細胞の膜に融合して,ウイルス粒子と細胞膜との融合を阻害する.感染したフェレットと24時間同居させる2日前にこのペプチドを鼻腔内投与(点鼻)すると,未投与のフェレットでは100%感染するにも関わらず,投与したフェレットは感染から完全に免れた(図5).変異株にも有効であった.これらのリポペプチドは非常に安定しており,臨床試験次第であるが,みんなで食事する前に鼻にスプレーすると感染を予防できるということが可能になるかもしれない.ただポリエチレングリコールを用いていることから,将来抗体ができて,mRNAワクチン接種時にアレルギー反応が生ずる可能性はある.
Science. 2021 Mar 26;371(6536):1379-1382.(doi.org/10.1126/science.abf4896)



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする