CBDの臨床像と新しい臨床診断基準(1)からの続きです.
① CBDの臨床表現型サブタイプ
前述の臨床病型を参考に,まずサブタイプを提唱した.初期診断ではCBS,FTD,Aphasia,AD/ dementia,PSPSと5つに分かれるが,AD/ dementiaは除外した.この理由はもしADタイプを認めると,ADとの鑑別が難しく疑陽性が増えると考えられたためである.結果として以下の4つのサブタイプを提唱した.
1. Corticobasal syndrome (CBS)
2. Frontal behavioral-spatial syndrome (FBS)
3. Nonfluent/agrammatic variant of primary progressive aphasia (naPPA)
4. Progressive supranuclear palsy syndrome (PSPS)
以下,それぞれの定義を示す.
Probable corticobasal syndrome(Probable CBS)
a. 四肢の筋強剛ないし無動,b. 四肢ジストニア,c. 四肢ミオクローヌスのうち2つが非対称性で,加えてd. 口頬失行ないし四肢失行,e.皮質性感覚障害,f. alien limb phenomenonのうち2つ
Possible corticobasal syndrome(Possible CBS)
対称性でもよく,a. 四肢の筋強剛ないし無動,b. 四肢ジストニア,c. 四肢ミオクローヌスのうち1つと,加えてd. 口頬失行ないし四肢失行,e.皮質性感覚障害,f. alien limb phenomenonのうち1つ
Frontal behavioral-spatial syndrome(FBS)
a. 遂行機能障害,b. 行動ないし性格変化,c. 視空間異常のうち2つ
Nonfluent/agrammatic variant of primary progressive aphasia(NAV)
努力性の無文法言語に加え,a. 文法や文の理解が障害されているものの,比較的単一の単語の理解が保たれている,b. gropingで歪んだ発語(失行)のうち1つ
Progressive supranuclear palsy syndrome(PSPS)
a. 対軸性ないし対称性の四肢筋強剛ないし無動,b. 姿勢反射障害ないし転倒,c. 尿失禁,d. 行動変化,e.核上性眼筋麻痺ないし垂直方向性サッケードの速度低下
② CBDの臨床診断基準
上記の4サブタイプはCBDで認められるものの,他の背景病理(FTLDやPSP)でも認められるため,鑑別が難しく,他の変性疾患において作成されたような特異度の高い診断基準作りは難しいと判断した.このためCBDの臨床診断基準は,臨床症候の組み合わせにより以下の2つが作成されることになった.
1. Clinical research criteria for probable CBD (cr-CBD)
CBD以外の背景病理を含まないようにする診断基準
2. Possible CBD criteria (p-CBD)
幅広く症例,とくに背景病理がタウ病理である症例を拾い上げる診断基準.つまりpossible CBDはCBDだけでなく,他のタウ病理(PSP)によるものとオーバーラップする.
cr-CBDおよびp-CBDの除外項目
1. レビー小体病を示唆する所見:4-6 Hzの安静時振戦,L-DOPAへの良好な反応性,幻覚
2. MSAを示唆する所見:自律神経障害,小脳症状
3. ALSを示唆する所見:上位かつ下位運動ニューロン徴候
4. 語義失語ないし"logopenic" 型原発性進行性失語
5. 局所症状を説明しうる限局性病変
6. グラニュリン(GRN)遺伝子変異ないし血漿グラニュリン値低下,TDP43変異,FUS変異
7. アルツハイマー病を示唆する所見(髄液Aβ42/tau低下,Pittsburgh Compound-B-PET,アルツハイマー病を示唆する遺伝子変異:プレセニリンやapp遺伝子;つまりAD合併CBDは除外されることになる)
(コメント)cr-CBD,p-CBDとも発症は潜行性で,緩徐進行性である(CJDのような急速進行性の疾患を除外するため,症状は1年以上の持続とした).発症年齢はcr-CBDでは50歳以上とした.これにより98%のCBD症例が含まれ,FTLDのような若年発症しうる病態を除外できる.p-CBDでは年齢制限を設けなかったが,これはタウ遺伝子変異を有する家族例が除外されないためである.また2名以上の家族内発症はcr-CBDでは除外項目としたが,p-CBDではしなかった.認められるサブタイプも2つの診断基準で変えた.PSPSはCBDの表現型ではあるが,CBDよりもPSPで認めることが多いことから,PSPSはp-CBDにおいてのみ認めることにした.
③ 問題点
研究の問題点は,後方視的研究であり,判断のもとになったデータが必ずしも充分と言えない点である.今後,
バイオマーカーや関連する遺伝子が明らかになった場合にはもっと単純な診断基準になりうる.今後のさらなる改訂が必要である.また日本人にこのまま当てはめて良いのかが不明である.同じ4 repeat tauopathyのPSPでは日本人においてのみ小脳型であるPSP-Cが見られるが(下記総説参照),同様に人種による差異が認められる可能性がある.
いずれにしても,今後のCBDに関する臨床研究はこのいずれかの診断基準に従って行うか,もしくはCBSを対象にするのであればCBSの診断基準(メーヨー基準ないし改訂ケンブリッジ基準)に従って行っていくことになるものと思われる(下記総説参照).
Armstrong MJ et al. Criteria for the diagnosis of corticobasal degeneration. Neurology 80; 496-503, 2013
下畑享良,西澤正豊.CBSの臨床.Brain & Nerve 65; 31-40, 2013
下畑享良ら.進行性核上性麻痺における小脳症状と病理.Annual review 神経2012
① CBDの臨床表現型サブタイプ
前述の臨床病型を参考に,まずサブタイプを提唱した.初期診断ではCBS,FTD,Aphasia,AD/ dementia,PSPSと5つに分かれるが,AD/ dementiaは除外した.この理由はもしADタイプを認めると,ADとの鑑別が難しく疑陽性が増えると考えられたためである.結果として以下の4つのサブタイプを提唱した.
1. Corticobasal syndrome (CBS)
2. Frontal behavioral-spatial syndrome (FBS)
3. Nonfluent/agrammatic variant of primary progressive aphasia (naPPA)
4. Progressive supranuclear palsy syndrome (PSPS)
以下,それぞれの定義を示す.
Probable corticobasal syndrome(Probable CBS)
a. 四肢の筋強剛ないし無動,b. 四肢ジストニア,c. 四肢ミオクローヌスのうち2つが非対称性で,加えてd. 口頬失行ないし四肢失行,e.皮質性感覚障害,f. alien limb phenomenonのうち2つ
Possible corticobasal syndrome(Possible CBS)
対称性でもよく,a. 四肢の筋強剛ないし無動,b. 四肢ジストニア,c. 四肢ミオクローヌスのうち1つと,加えてd. 口頬失行ないし四肢失行,e.皮質性感覚障害,f. alien limb phenomenonのうち1つ
Frontal behavioral-spatial syndrome(FBS)
a. 遂行機能障害,b. 行動ないし性格変化,c. 視空間異常のうち2つ
Nonfluent/agrammatic variant of primary progressive aphasia(NAV)
努力性の無文法言語に加え,a. 文法や文の理解が障害されているものの,比較的単一の単語の理解が保たれている,b. gropingで歪んだ発語(失行)のうち1つ
Progressive supranuclear palsy syndrome(PSPS)
a. 対軸性ないし対称性の四肢筋強剛ないし無動,b. 姿勢反射障害ないし転倒,c. 尿失禁,d. 行動変化,e.核上性眼筋麻痺ないし垂直方向性サッケードの速度低下
② CBDの臨床診断基準
上記の4サブタイプはCBDで認められるものの,他の背景病理(FTLDやPSP)でも認められるため,鑑別が難しく,他の変性疾患において作成されたような特異度の高い診断基準作りは難しいと判断した.このためCBDの臨床診断基準は,臨床症候の組み合わせにより以下の2つが作成されることになった.
1. Clinical research criteria for probable CBD (cr-CBD)
CBD以外の背景病理を含まないようにする診断基準
2. Possible CBD criteria (p-CBD)
幅広く症例,とくに背景病理がタウ病理である症例を拾い上げる診断基準.つまりpossible CBDはCBDだけでなく,他のタウ病理(PSP)によるものとオーバーラップする.
cr-CBDおよびp-CBDの除外項目
1. レビー小体病を示唆する所見:4-6 Hzの安静時振戦,L-DOPAへの良好な反応性,幻覚
2. MSAを示唆する所見:自律神経障害,小脳症状
3. ALSを示唆する所見:上位かつ下位運動ニューロン徴候
4. 語義失語ないし"logopenic" 型原発性進行性失語
5. 局所症状を説明しうる限局性病変
6. グラニュリン(GRN)遺伝子変異ないし血漿グラニュリン値低下,TDP43変異,FUS変異
7. アルツハイマー病を示唆する所見(髄液Aβ42/tau低下,Pittsburgh Compound-B-PET,アルツハイマー病を示唆する遺伝子変異:プレセニリンやapp遺伝子;つまりAD合併CBDは除外されることになる)
(コメント)cr-CBD,p-CBDとも発症は潜行性で,緩徐進行性である(CJDのような急速進行性の疾患を除外するため,症状は1年以上の持続とした).発症年齢はcr-CBDでは50歳以上とした.これにより98%のCBD症例が含まれ,FTLDのような若年発症しうる病態を除外できる.p-CBDでは年齢制限を設けなかったが,これはタウ遺伝子変異を有する家族例が除外されないためである.また2名以上の家族内発症はcr-CBDでは除外項目としたが,p-CBDではしなかった.認められるサブタイプも2つの診断基準で変えた.PSPSはCBDの表現型ではあるが,CBDよりもPSPで認めることが多いことから,PSPSはp-CBDにおいてのみ認めることにした.
③ 問題点
研究の問題点は,後方視的研究であり,判断のもとになったデータが必ずしも充分と言えない点である.今後,
バイオマーカーや関連する遺伝子が明らかになった場合にはもっと単純な診断基準になりうる.今後のさらなる改訂が必要である.また日本人にこのまま当てはめて良いのかが不明である.同じ4 repeat tauopathyのPSPでは日本人においてのみ小脳型であるPSP-Cが見られるが(下記総説参照),同様に人種による差異が認められる可能性がある.
いずれにしても,今後のCBDに関する臨床研究はこのいずれかの診断基準に従って行うか,もしくはCBSを対象にするのであればCBSの診断基準(メーヨー基準ないし改訂ケンブリッジ基準)に従って行っていくことになるものと思われる(下記総説参照).
Armstrong MJ et al. Criteria for the diagnosis of corticobasal degeneration. Neurology 80; 496-503, 2013
下畑享良,西澤正豊.CBSの臨床.Brain & Nerve 65; 31-40, 2013
下畑享良ら.進行性核上性麻痺における小脳症状と病理.Annual review 神経2012