体重免荷トレッドミルという期待のリハビリ方法がある.これは患者さんの体を吊り上げて,体重の30~40%まで軽減させるようにし(免荷),トレッドミル上を歩行するものだ.歩行速度を徐々にあげていき,歩行の改善とともに体重の免荷の程度も減らしていく.何といっても歩行が自力で行えない早期から歩行訓練が行える点が魅力的である.いろいろな疾患に適応があるが,当然,脳卒中後の歩行能力の回復を図るために使用される.残念ながら当院にはないが,日本国内でもすでに使用されていると聞く.ただ,このリハビリ法の有効性に関するエビデンスと,適切な開始時期については確立されていない.今回,NEJM誌に体重免荷トレッドミルの有効性についての検討が報告された.目的は従来のリハビリより優れた方法なのか明らかにすること,そして開始のタイミングはいつが良いか明らかにすることである.
対象は脳卒中患者408 例(発症2ヶ月以内).歩行障害の程度を歩行の速度で評価し,中等度(歩行速度 0.4 ~0.8 m/秒)または重度(0.4 m/秒未満)の脳卒中症例を対象とした.そして,以下の3つのリハビリのいずれかに無作為に割り付けた.
①早期免荷トレッドミル群;発症後2ヵ月で体重免荷トレッドミルを開始
②待期的免荷トレッドミル群;発症後6ヵ月で体重免荷トレッドミルを開始
③在宅リハビリ群;発症後2ヵ月でPTが管理する自宅での運動プログラムを行う.それぞれ,各 90 分のセッションを 12~16 週間かけて計36回行った.
primary outcomeは,発症後 1 年の時点で機能的歩行能力に改善がみられた患者の割合で評価している.
さて結果であるが,歩行の改善は,早期免荷トレッドミル群と在宅リハビリ群のあいだで有意差なし(主要転帰の補正オッズ比 0.83,95%CI 0.50~1.39).待期的免荷トレッドミル群と在宅リハビリ群でも有意差なし(補正オッズ比 1.19,95% CI 0.72~1.99).歩行速度,運動機能の回復,平衡感覚,機能状態,QOL の改善についても,3つの群で同程度であった.待期的免荷トレッドミル群におけるリハビリ開始の遅れは,1年後の転帰に影響なし.
重篤な有害事象は10件あり,その発生率は早期免荷トレッドミル群で2.2%,待期的免荷トレッドミル群で3.5%,在宅リハビリ群で1.6%で,在宅リハビリが少ない結果であった.在宅リハビリ群と比較して,免荷トレッドミルを使った2つの群では,ふらつきやめまいの発現頻度が有意に高かった(P=0.008).重度の歩行障害例に関する検討では,繰り返し転倒する頻度は,早期免荷トレッドミル群では,ほかの2群と比較し有意に高率であった(P=0.02).
体重免荷トレッドミルによる歩行訓練が,従来行われてきた自宅での漸増運動に比べて優れていることを示せなかったという残念な結果になってしまった.とても残念な結果だが,新しいリハビリ法についても,エビデンスをきちんと作っていくことはとても大切さだとあらためて感じた.またFigureに脳梗塞後の歩行速度の回復曲線が示されているのだが,このような図はいままであまり見たことがなく,この回復曲線はまさに神経機能の可塑性を表しているのだろうと思った.少し話はそれてしまうが,脳梗塞の基礎・臨床研究も,可塑性回復を促進するような取り組みを積極的に進めるべきと感じた.
N Engl J Med 364:2026-36, 2011
対象は脳卒中患者408 例(発症2ヶ月以内).歩行障害の程度を歩行の速度で評価し,中等度(歩行速度 0.4 ~0.8 m/秒)または重度(0.4 m/秒未満)の脳卒中症例を対象とした.そして,以下の3つのリハビリのいずれかに無作為に割り付けた.
①早期免荷トレッドミル群;発症後2ヵ月で体重免荷トレッドミルを開始
②待期的免荷トレッドミル群;発症後6ヵ月で体重免荷トレッドミルを開始
③在宅リハビリ群;発症後2ヵ月でPTが管理する自宅での運動プログラムを行う.それぞれ,各 90 分のセッションを 12~16 週間かけて計36回行った.
primary outcomeは,発症後 1 年の時点で機能的歩行能力に改善がみられた患者の割合で評価している.
さて結果であるが,歩行の改善は,早期免荷トレッドミル群と在宅リハビリ群のあいだで有意差なし(主要転帰の補正オッズ比 0.83,95%CI 0.50~1.39).待期的免荷トレッドミル群と在宅リハビリ群でも有意差なし(補正オッズ比 1.19,95% CI 0.72~1.99).歩行速度,運動機能の回復,平衡感覚,機能状態,QOL の改善についても,3つの群で同程度であった.待期的免荷トレッドミル群におけるリハビリ開始の遅れは,1年後の転帰に影響なし.
重篤な有害事象は10件あり,その発生率は早期免荷トレッドミル群で2.2%,待期的免荷トレッドミル群で3.5%,在宅リハビリ群で1.6%で,在宅リハビリが少ない結果であった.在宅リハビリ群と比較して,免荷トレッドミルを使った2つの群では,ふらつきやめまいの発現頻度が有意に高かった(P=0.008).重度の歩行障害例に関する検討では,繰り返し転倒する頻度は,早期免荷トレッドミル群では,ほかの2群と比較し有意に高率であった(P=0.02).
体重免荷トレッドミルによる歩行訓練が,従来行われてきた自宅での漸増運動に比べて優れていることを示せなかったという残念な結果になってしまった.とても残念な結果だが,新しいリハビリ法についても,エビデンスをきちんと作っていくことはとても大切さだとあらためて感じた.またFigureに脳梗塞後の歩行速度の回復曲線が示されているのだが,このような図はいままであまり見たことがなく,この回復曲線はまさに神経機能の可塑性を表しているのだろうと思った.少し話はそれてしまうが,脳梗塞の基礎・臨床研究も,可塑性回復を促進するような取り組みを積極的に進めるべきと感じた.
N Engl J Med 364:2026-36, 2011