Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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体重免荷トレッドミルによるリハビリは従来のリハビリより優れているか?

2011年06月26日 | 脳血管障害
体重免荷トレッドミルという期待のリハビリ方法がある.これは患者さんの体を吊り上げて,体重の30~40%まで軽減させるようにし(免荷),トレッドミル上を歩行するものだ.歩行速度を徐々にあげていき,歩行の改善とともに体重の免荷の程度も減らしていく.何といっても歩行が自力で行えない早期から歩行訓練が行える点が魅力的である.いろいろな疾患に適応があるが,当然,脳卒中後の歩行能力の回復を図るために使用される.残念ながら当院にはないが,日本国内でもすでに使用されていると聞く.ただ,このリハビリ法の有効性に関するエビデンスと,適切な開始時期については確立されていない.今回,NEJM誌に体重免荷トレッドミルの有効性についての検討が報告された.目的は従来のリハビリより優れた方法なのか明らかにすること,そして開始のタイミングはいつが良いか明らかにすることである.

対象は脳卒中患者408 例(発症2ヶ月以内).歩行障害の程度を歩行の速度で評価し,中等度(歩行速度 0.4 ~0.8 m/秒)または重度(0.4 m/秒未満)の脳卒中症例を対象とした.そして,以下の3つのリハビリのいずれかに無作為に割り付けた.
①早期免荷トレッドミル群;発症後2ヵ月で体重免荷トレッドミルを開始
②待期的免荷トレッドミル群;発症後6ヵ月で体重免荷トレッドミルを開始
③在宅リハビリ群;発症後2ヵ月でPTが管理する自宅での運動プログラムを行う.それぞれ,各 90 分のセッションを 12~16 週間かけて計36回行った.
primary outcomeは,発症後 1 年の時点で機能的歩行能力に改善がみられた患者の割合で評価している.

さて結果であるが,歩行の改善は,早期免荷トレッドミル群と在宅リハビリ群のあいだで有意差なし(主要転帰の補正オッズ比 0.83,95%CI 0.50~1.39).待期的免荷トレッドミル群と在宅リハビリ群でも有意差なし(補正オッズ比 1.19,95% CI 0.72~1.99).歩行速度,運動機能の回復,平衡感覚,機能状態,QOL の改善についても,3つの群で同程度であった.待期的免荷トレッドミル群におけるリハビリ開始の遅れは,1年後の転帰に影響なし.

重篤な有害事象は10件あり,その発生率は早期免荷トレッドミル群で2.2%,待期的免荷トレッドミル群で3.5%,在宅リハビリ群で1.6%で,在宅リハビリが少ない結果であった.在宅リハビリ群と比較して,免荷トレッドミルを使った2つの群では,ふらつきやめまいの発現頻度が有意に高かった(P=0.008).重度の歩行障害例に関する検討では,繰り返し転倒する頻度は,早期免荷トレッドミル群では,ほかの2群と比較し有意に高率であった(P=0.02).

体重免荷トレッドミルによる歩行訓練が,従来行われてきた自宅での漸増運動に比べて優れていることを示せなかったという残念な結果になってしまった.とても残念な結果だが,新しいリハビリ法についても,エビデンスをきちんと作っていくことはとても大切さだとあらためて感じた.またFigureに脳梗塞後の歩行速度の回復曲線が示されているのだが,このような図はいままであまり見たことがなく,この回復曲線はまさに神経機能の可塑性を表しているのだろうと思った.少し話はそれてしまうが,脳梗塞の基礎・臨床研究も,可塑性回復を促進するような取り組みを積極的に進めるべきと感じた.

N Engl J Med 364:2026-36, 2011
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若年性パーキンソニズムにおける妊娠・出産の経験

2011年06月19日 | パーキンソン病
パーキンソン病は通常,中年以降に発症し,高齢ほど発症率・有病率が増加する疾患である.40歳以下で発症した場合を「若年性パーキンソニズム」と呼ぶが,20歳代に発症することは稀である.よってパーキンソン病における妊娠・出産は少ない.

一方,現在,判明している若年性パーキンソニズムの最も頻度の高い原因は,Parkinという蛋白質をコードするparkin遺伝子の突然変異によって生じる(PARK2というタイプ分類される).通常のパーキンソン病と似て,筋強剛,寡動,安静時振戦を呈するが,下肢にジストニアを認めたり,levodopa治療によりジスキネジアが生じやすいという特徴がある.常染色体劣性遺伝形式で,20歳未満で発症する若年性パーキンソニズムにおいて,parkin遺伝子の突然変異は約80%と高頻度に認められる.よってパーキンソン病患者さんが妊娠・出産するとすれば,PARK2である可能性が高いことになる.しかしながら,調べた範囲では遺伝子解析にてPARK2と診断された患者さんにおける妊娠・出産の報告はない.よって,妊娠・出産時の治療をどのように行えば,母子ともに安全であるか十分に分かっていない現状である.

今回,われわれはPARK2遺伝子変異を有する常染色体劣性遺伝性パーキンソン病患者さん(ARJP/PARK2)の妊娠・出産を経験した.患者さんは20歳代後半の女性で,双胎妊娠であった(二重絨毛膜・二重羊膜双胎妊娠).妊娠前,不思議なことにパーキンソン症状は排卵と月経のあいだに増悪を認め,さらに妊娠後にも増悪がみられた.

治療としては,妊娠前はwearing offが強く,levodopa/carbidopa (450mg/day),エンタカポン(400mg/day),セレギリン (7.5mg/day),ロピニロール (1.5mg/day)による治療を行っていたが,妊娠後の器官形成期においては,levodopa/carbidopaを除く抗パーキンソン剤を減量・中止した.当然,これに伴いパーキンソン症状は増悪し,ADLも低下したが,この期間は入院しケアを行うことで対処した.器官形成期後は十分量の抗パーキンソン剤を使用し,治療を行った.幸い,元気な双子の男児が誕生し,2歳までの経過観察で精神・運動発達は良好である.授乳については母乳を介した抗パーキンソン剤が児に与える影響についてエビデンスが乏しく,人工乳を用いた.

今回の経験で,以下のことを学んだ.
1) ARJP/PARK2のパーキンソン症状は,性ホルモンにより影響を受ける可能性があること.エストロゲンは基底核におけるドパミン神経伝達に影響を及ぼすことが知られており,このことが影響したのかもしれない.一方で,妊娠に伴う薬物代謝の変動が関与した可能性もある.
2)児の奇形を防ぐためには計画妊娠を勧めたほうが望ましい.抗パーキンソン剤の児への影響は十分な情報がなく,比較的安全なlevodopa/carbidopaのみにより治療を行うことが望ましい.これに伴う症状の増悪に対しては,入院してのケアを行うなど,十分な身体的・精神的サポートを行う必要がある.
3)器官形成期以後,すなわち妊娠の継続,出産,育児においては,十分量の抗パーキンソン剤を使用し,対処していただく必要がある.

以上のように,ご本人と十分にコミュニケーションをとりながら,時期に応じた細やかな治療を行うことがとても大切であるものと考えられた.

Successful twin pregnancy in a patient with parkin-associated autosomal recessive juvenile parkinsonism
BMC Neurology 2011, 11:72

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100万ビューを超えていました

2011年06月11日 | その他
アクセス欄を見たら100万ビューを超えていました(驚).留学中であった2004年に,臨床の勉強も続けようと,読んだ論文を備忘録代わりに書き始めたのがきっかけでした.最初のエントリーは「感染性心内膜炎に伴う脳塞栓症例に対し,いつ弁置換術を行うべきか?」でした(全然,記憶にありません).
 早いものでもう7年目のようです.読んでいただけることも多くなり,いつまでも匿名で書いていて良いのかずっと迷っていましたが,最近,実名に切り替えました.ありがたいアドバイスをいただいたり,新たな交流が生まれたり,感謝しています.出来る範囲で続けていきます.今後ともよろしくお願いいたします.
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片肺挿管を防ぐための適切な確認方法は?

2011年06月11日 | 医学と医療
珍しく神経内科以外の論文を読みました.レジデントの先生方との抄読会でチーフレジデントが抄読会に選んだ論文.最近,ベッドサイドで気管内挿管を行うことが幾度かあり,読んでみたとのこと.クリニカルクエスチョン(臨床的問題点)は「片肺挿管(気管内チューブが奥に進み過ぎで,いずれかの気管支にまで進めてしまうこと)」に気づくために最も有用なベッドサイドでのチェック方法は何か?というものである.

少し知識を整理しておきたい.気管支は左右の角度が異なるため(およそ右45度,左60度),右主気管支への片肺挿管になりやすい(誤嚥性肺炎も同じ理由で右に多い).よって聴診で左肺の音が聞こえないとき,片肺挿管を疑う.また視診・触診でも左胸郭の動きが悪くなる.なぜ片肺挿管が問題かというと,左肺が換気されず低酸素血症になることと,右肺が過度に膨らみ,圧外傷,気胸を来すことがあるためだ.
 
本題に戻る.論文はオーストリアからのもので,大学病院の麻酔科の先生による研究である.対象は19~75歳の婦人科ないし泌尿器科の待機手術患者160名.方法としては,気管支鏡を用いて,80名に気管へのチューブの留置,残り80名に右主気管支内へのチューブの留置を行なった.1年目のレジデント22名と2年以上の経験を積んだ麻酔医32名によって,挿管チューブの留置部位を,以下の4つの方法により診断させ,その感度・特異度を調べるというものである.

①聴診,②胸郭の動きの観察,③チューブの深さ,④①~③すべて

結果としては,レジデントは聴診法では55%で片肺挿管を見逃す結果となり,経験のある麻酔科と比較し,有意に頻度が高かった(オッズ比10.0,95%CI 1.4~434).片肺挿管の検出感度は,④(すべての組み合わせ)では100%検出可能,③チューブの深さでは88%となり,いずれも①聴診(65%)や②胸郭の観察(43%)より有意に検出感度が高かった.特異度については4つの方法で差はなかった.③に関して,チューブの深さは,平均で女性21cm,男性23cmであった.しかし,それぞれの20%,18%の患者で,チューブ先端の位置が,気管分岐部の直上2.5cm以内にあった.2.5cmというのは,頭の位置が動くことによって気管チューブが主気管支に届きうる距離と言われている.よって,1cmほど余裕を見て,女性20cm,男性22cmぐらいが良いという結論だ.ただし,人種差(体格差)があり,日本人におけるチューブの深さは若干短めでも良い可能性はある.

聴診のみでは案外,片肺挿管に気がつかないということに留意し,胸郭の動きの観察やチューブの深さも利用して挿管チューブの位置確認を行うことが大切ということである.もちろん最終的には胸部X線が確実である.

日常的に行われる診療手技にも疑問を持ち,答えをきちんと出していく姿勢はとても大切であることを改めて感じた論文でした.

Endobronchial intubation detected by insertion depth of endotracheal tube, bilateral auscultation, or observation of chest movements: randomised trial

BMJ. 2010 Nov 9;341:c5943. 

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L-DOPAの作用にアゴニストが与える影響 ―相加?相乗効果?―

2011年06月04日 | パーキンソン病
パーキンソン病の治療において,L-DOPAとドパミンアゴニストが主となる治療薬であるが,案外,二つの薬剤の相互作用は知られていない.すなわち,運動に対する効果は単純に2つの薬効の和でよいのか?それとも相乗効果が期待できるのか?逆にジスキネジアについては併用で相乗的に悪化するのか?そんな疑問に答える論文を病棟の抄読会で,若手の先生に教えてもらったので紹介したい.

米国オレゴン大学の研究である.特発性パーキンソン病患者さんで,wearing off現象とジスキネジアの合併を認める13名を対象としている.プラミペキソール(ビ・シフロール1mg,1日3回)内服群と偽薬群に分け,4週間内服後,L-DOPAを0.5および1.0 mg/kg/hで2時間点滴し,その効果を確認した.内服ではなく,L-DOPAを静脈注射しているのは,内服による吸収の影響を除去するためである.

主要評価項目はfinger-tappingの速度曲線(回/min)のAUC(area under the curve)を用いた(つまり,面積を用いてfinger-tappingの運動量を示し,無動の指標とした).副次評価項目として,薬効の持続時間,ONになるまでの時間,歩行速度,ジスキネジアのAUC.評価が終われば2群をクロスオーバーして再評価を行なっている.無作為化・二重盲検・偽薬対照・交差(交互)試験である.

結果として, L-DOPAとアゴニストの併用は単純に加算する以上に運動機能の改善をもたらし,L-DOPAに伴うジスキネジアも高度となった.なるほど,アゴニストを内服している場合,L-DOPAの効果は良くも悪くも強く出るということか.アゴニスト使用中にL-DOPAをアドオンする場合,運動改善効果とジスキネジア増悪作用がともに強く出る可能性を考え,うまくバランスを取るかたちに用量を決める必要がある.

Arch Neurol 67; 27-32, 2010 
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体重の重い人のtPA療法 ―用量は十分?脳出血の合併は?―

2011年06月02日 | 脳血管障害
日本ではtPA(アルテプラーゼ)使用量は体重あたり0.6 mg/kgとなっている.また上限も設定されていて60 mgである.欧米では体格が異なるため,0.9 mg/kgで上限は90 mgである.いずれも体重100 kgまでは良いのだが,100 kgを超えると体重あたりの単位投与量が減る計算になる.ここで体重100 kgを超えた人のアルテプラーゼ静注量はどうするべきかという疑問が生じる.60 mgないし90 mg上限で十分血栓が溶け,機能回復が得られるか?肥満者の多い欧米では一層,この問題は重要である.今回,ドイツなどのヨーロッパ諸国からの共同研究の結果が報告された.

対象は2002~2009年に行われたSITS-ISTRという大規模研究を用い,27910人が登録され,そのうち1190人(4.3%) が体重100 kg超であった(やはり少なくない!).アウトカムは神経症状の改善,脳出血合併,発症3ヶ月後のmodified Rankin Scaleや致死率にて検証.

結果としては,体重100 kg超の人は,それ以下の群と比較すると,アルテプラーゼ使用量は当然少なかった(平均0.82 mg/kg).その他の特徴としては,年齢が若く(62才 vs 70才,P<0.001),NIHSS点数が低かったが(10 vs 12,P<0.001),心血管系疾患の危険因子をより多く持っていた.発症24時間後の神経機能回復例は両群で差はないが,症候性脳出血は2.6% vs 1.7%で体重100kg超群に多かった(P=0.03).modified Rankin Scaleで評価したADL機能依存例は59.7% vs 53.6%で,体重100kg超群で高かった(P<0.001).死亡率には有意差なし.背景因子を調整すると,神経機能改善に加え,ADL機能依存度にも差がなくなったが,症候性脳出血の頻度はなお高く(OR, 1.6; 95% CI, 1.06 to 2.41; P=0.02) ,かつ死亡率も高かった(OR, 1.37; 95% CI, 1.08 to 1.74; P=0.01).

以上より体重100kg超群では,体重あたりのアルテプラーゼ量が少ないにもかかわらず,症候性脳出血が多いことになり,上限を設定する妥当性が確認された.ただし,体重あたりのアルテプラーゼ量が少ないにもかかわらず症候性脳出血が多い理由はよく分からない.しかしながら,SITS-MOSTという6483名を対象にした試験でも体重が小脳性脳出血の独立した危険因子である(OR, 1.32; 95% CI, 1.09 to 1.60)であることが報告されている(Stroke 39; 3316-3322, 2008).肥満者におけるtPA療法後の脳出血に注意をはらう必要がある.

Stroke 42; 1615-1620, 2011

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