Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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抗菌薬は入院中のせん妄の原因になる -抗菌薬関連脳症に注意-

2016年03月21日 | その他
せん妄は入院中,しばしば認められる合併症である.薬物が原因となることも多いが,抗菌薬に関連した「抗菌薬関連脳症(antibiotic-associated encephalopathy:AAE)」についてはあまり認識されていない.今回,AAEについての臨床,画像,電気生理学的所見をまとめた有用な総説が報告されたので要点をまとめておきたい.

1.システマティック・レビュー
1946年から2013年に及ぶ292論文391例について検討した.12の異なる分類に及ぶ54の抗菌薬が脳症の原因となった.性差は54%が男性,年齢の中央値は54歳(範囲1-94歳),頻度の多い抗菌薬の種類は順に,ペニシリン(72報告),セファロスポリン(69),抗真菌(65),キノロン(63),マクロライド(54),メトロニダゾール(29),スルホンアミド(19)であった.腎機能低下が25%の症例で認められ,とくにセファロスポリン関連脳症で72%と高率に認められた.

2.AAEの臨床像
症状
a. 精神症状(47%)スルホンアミド,キノロン,マクロライド
b. 痙攣(14%)ペニシリン,セファロスポリン
c. ミオクローヌス(15%)ペニシリン,セファロスポリン
d. 小脳性運動失調(5%)メトロニダゾール関連脳症で48%と多かった

出現時期
通常,治療開始5日以内に生じる.例外はイソニアジドとメトロニダゾールで,これらは約3週間で生じる.中止後の改善は通常5日以内で見られるが,メトロニダゾールは13日と長くかかる(いずれも中央値).

画像検査
メトロニダゾール関連脳症では全例でMRI異常が認められるが,その他では基本的に画像異常は認められない.前者では,歯状核,脳幹,脳梁などのT2高信号病変(図)を認める.脳波異常は施行例の70%に認められ,セファロスポリン関連脳症では95%に認められる.徐波化などの非特異的な所見が多い.

3.AAEの分類

1)Type 1 AAE
抗菌薬開始数日以内に痙攣・ミオクローヌス・異常脳波で発症し,異常画像所見を認めず,中止数日以内に改善するタイプ.ペニシリン,セファロスポリンで認めるタイプ.セファロスポリン関連脳症は腎機能障害を背景因子として有する.GABA受容体を介して抑制系伝達を傷害し,興奮性細胞毒性を来す(セフェム系のセフェピムでは,その側鎖が強力にGABA(A)受容体を阻害する).

2)Type 2 AAE
抗菌薬開始数日以内に精神症状(幻覚妄想や興奮,せん妄)で発症,痙攣や異常脳波は稀で,異常画像所見を認めず,中止数日以内に改善するタイプ.スルホンアミド(ST合剤),フルオロキノロン,マクロライド,プロカインペニシリンで認めるタイプ.ドーパミン系ニューロンの過剰刺激が原因と考えられている.プロカインはコカインと類似の動態を示し,シナプスのドーパミンレベルを増加させる.

3)Type 3 AAE
メトロニダゾール関連脳症(商品名フラジールなど).抗菌薬開始数週に小脳性小脳失調で発症,痙攣や異常脳波は稀だが,異常画像所見を認め,13日程度で改善するタイプ.メカニズムは十分に分かっていない(臨床神経555; 174-177,2015も参照).ただし,ウェルニッケ脳症と似たMRI所見を示すことから,共通する代謝障害が関与している可能性がある.

痙攣と精神症状の頻度をグラフにすると,図にように分類することができる.

4.AAEを理解する意義
短期間の抗菌薬の使用であれば,気が付かないうちに症状も数日間で改善するため気が付かなくても問題にならない.しかし重症である場合,脳症が遷延し,他の脳症を合併した可能性を考え,不要な検査や治療が追加されることになる.このようなことを避けるためにも,抗菌薬と症状の組み合わせをよく理解して,鑑別診断としてAAEを念頭に置く必要がある.

Shamik Bhattacharyya et al. Antibiotic-associated encephalopathy. Neurology, 2016
doi:http://dx.doi.org/10.1212/WNL.0000000000002455
 


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睡眠時無呼吸症候群に対するCPAP療法で肥満は改善するか?

2016年03月15日 | 睡眠に伴う疾患
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の増悪因子としては,男性,高齢,肥満,口腔の形態などが知られている.とくに体重は重要で,10%の増加で,SASの重症度を示す無呼吸・低呼吸指数(AHI)は32%も増加し,中等症以上のSASに6倍の頻度で増加する.SASに対する治療としてCPAP(Continuous Positive Airway Pressure)が行われ,とくに重要な治療となっている.CPAP治療後の体重変化は以前から注目されていたが,当初,少数例の検討で体重は減少するという報告が散見されたものの,近年はそれを否定する研究が報告されていた.Thorax誌に,CPAP後の体重変化についての初めてのメタ解析の結果が報告されたので紹介したい.

メタ解析の対象となった論文は,最低4週間以上,治療介入が行われた無作為対照試験で,評価項目はBMI(体格指数)と体重とした.結果として,25試験,3181名の肥満者が対象となった.

さて結果であるが,なんとCPAPはBMIを有意に増加させ,体重も増加させてしまった.詳しく結果をみると(図1のフォレストプロット),効果量(effect size)を示すHedgesのgとその信頼区間,さらに異質性(メタ解析の結果のばらつき)を示すI(2)統計量を順に示すと,BMIについてはHedgesのg=0.14, 95% CI 0.07-0.21, I(2)=16.2%,体重についてはHedgesのg=0.17, 95% CI 0.10-0.24, I(2)=0%.つまり,効果量はさほど大きくはないが,異質性は低く,データの信頼性は高いという解釈になる.公表バイアス(publication bias:研究を公表するときにpositiveな結果が,negativeな結果より公表されやすい)をファンネルプロット(図2)で評価すると,効果量の対称性が確認され,公表バイアスは乏しいことが確認される.

さらにメタ回帰分析を行ったところ,年齢,性,治療前BMI・体重,SASの重症度,CPAPのコンプライアンス,検討期間,研究デザイン,食事療法や運動の推奨は,CPAP後の体重増加に対する予測因子とはならなかった.CPAP後のBMI増加に対しては唯一,治療前の体重が予測因子となった.

ではなぜ体重が増えるのだろうか?複数の原因が指摘されているが,もっとも重要なのはCPAPが睡眠サイクルとエネルギー代謝に与える影響である.つまり徐波睡眠時(ステージN3;深睡眠)ではエネルギーは同化されるが,CPAP治療前は徐波睡眠が少なく,異化に傾いて生体物質を分解する方向にあったものが,CPAP治療後は徐波睡眠が増加し,同化に傾いて生体物質を貯蔵する方向に進むというものだ.ほかにマウスではSASによる間欠的低酸素は,lipolysis(脂肪分解)を招くことが知られていて,CPAPは脂肪分解を抑制することで体重増加をもたらした可能性がある.

いずれにしても,医師も患者さんもSASに対するCPAP療法を開始した場合,それだけで安心してはダメで,肥満を認める場合は体重を減らすための治療を平行して行う必要があることを認識する必要がある.

Drager LF, et al. Effects of CPAP on body weight in patients with obstructive sleep apnoea: a meta-analysis of randomised trials. Thorax. 2015 Mar;70(3):258-64.



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倫理コンサルテーションを学ぶ@日本臨床倫理学会

2016年03月07日 | 医学と医療
日本臨床倫理学会第4回年次大会(日本赤十字看護大学)に参加した.本大会では「倫理コンサルテーション」が充実し,より実践的なものとなっていた.「倫理コンサルテーション」とは医療や介護の現場において生じた様々な倫理的問題について,関係者間で意見の不一致や衝突があったり,悩みやコンフリクトが解決できない場合に,中立的第三者である倫理専門家の助言を受け合意形成を目指すというものである.10事例に対する「模擬倫理コンサルテーション」が行われ,私どもが問題提起してきた「クロイツフェルト・ヤコプ病における病名告知」の問題(臨床神経54;298-302,2014)も取り上げていただき,事例提供者として発表をさせていただいた.非常に悩み,解決方法を見つけ出せず,実際に相談(院外倫理コンサルテーション)をさせていただいた宮崎大学大学院医療倫理学分野の板井孝壱郎教授に座長をしていただき,私が経験した同じ悩みを参加者の方々と1時間半に渡り深く議論することができたのは,とても有意義で感動的な体験であった.

「倫理コンサルテーション」を学ぶ上で,知っておくべき基本的な事項として以下の2点がある.
1)臨床倫理4分割法(4 topics method)
Jonsenらが1992年に著書Clinical Ethicsにて示した倫理的な症例検討の考え方で,図のように「医学的適応(Medical Indication)」「患者の意向(Patient Preferences)」「QOL」「周囲の状況(Contextual Features)」という4つの項目に分けて検討を行う.これを道具(ツール)として使用し,問題の解決に役立てる.


臨床倫理4分割法(Jonsen ARほか著.赤林朗ほか監訳. 臨床倫理学 第5版. 新興医学出版社.2006;p13)

2)医療倫理の4原則
1)を行う上で念頭に置くべきものが「医療倫理の4原則」である.自律性尊重の原則とは「患者の自律的意思決定の尊重」,無危害の原則とは「患者に危害を及ぼさないこと」,善行の原則とは「患者に利益をもたらすこと」,忠実義務と公正の原則とは「医療資源の公平な配分」を指す.これを考えながら4分割法を埋めていくと,どことどこにジレンマやコンフリクトが生じているのか理解しやすい.

3)これらをいかに活用し,臨床倫理的問題の解決を目指すか?
以下,板井孝壱郎教授による解説をまとめたい.

(1)日常の臨床現場で起きている倫理的問題に気がつくことがまず大切である
「何かもやもやする,何かおかしい」といったことに気づく倫理的感受性(ethical sensitivity)が必要.ただし感情だけでは不十分であり,それに論理が加わって,初めて倫理的推論(Ethical reasoning)に繋がる.

(2)情報として何が足りていて,何が足らないかを確認する
このとき有用なのが,「臨床倫理4分割法」である.「エビデンス,患者さんの意向,QOL,周囲の状況」を調べていく.このうち「患者さんの意向,QOL」は,「人生という物語(ナラティブ)」を理解することにほかならない.
ただし,「臨床倫理4分割法」は唯一の方法でも万能な方法でもないことは認識しておくべき.あくまでもツールであり,作成すること自体が目的ではない.埋めれば自動的に答えがわかるわけでもない.何のために作成するのか目的意識を持つことが重要.

(3)それぞれの問題についてチームで話し合う
倫理的問題を個人の悩みにしない.医療現場はただでさえ疲弊している.精神的なBurn outを防ぐためにも倫理問題に関する支援が必要である.
また「人生という物語」を紡ぎだす際,単なる「想像力」に頼ってはいけない.1人の「想像」は時に「妄想」となり,「思いやり」は時に身勝手な「思い込み」へ変貌し,「独善」となりうる!これらを避けるために医療的な悩みを一人で抱え込まないことが大切である.関わる多職種で検討する過程が,なによりも大事である.
「人生という物語」を紡ぎだすのに必要なのは,「構成力(Einbildungskraft)」である.これは,根拠をひとつひとつ明確にしていくプロセス(ethical reasoning)とも言える.

(4)話し合う際には倫理原則を押し付けない
独善的なものは確かに良くない.ただし,独「善」は善意から生まれることも認識して,皆で良い方向を目指す必要がある.
医療倫理には「答えはない」ことがある.しかしそれは「全くない」のではない.情報を収集し,ポイント分析しつつ,問題の本質を見抜き,患者さんを中心に据えて,答えに近づいていくことが必要である.


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