標題の学会が10月15日から17日にかけて行われました.教育的な講演から最新のトピックスまであり大変充実した学会ですが,とくに学会員が経験した貴重な患者さんのビデオを持ち寄り,その不随意運動や診断・治療について議論するイブニング・ビデオセッションは人気企画です.例年,日本を代表するエキスパートの先生方が議論をされていましたが,今年から指名された東日本,西日本の専門医が議論を戦わせる形に変わりました.私も東軍メンバーに選んでいただき,貴重な経験をしました.さて今年の13症例一覧を記載します.ちなみに東軍が勝ちました (^^).
【問題編】
症例1.振戦に対しL-dopa/DCI合剤を17年間服用した87歳男性
60歳で振戦にて発症.書字困難.筋強剛や無動なし.L-DOPAによる治療が開始され,効果がないにもかかわらず17年間継続された.神経学的に姿勢時の振戦のみ.ビデオでジスキネジアを認めるか?診断は?
症例2.歩行障害,構音障害の76歳男性
家族内類症あり(常染色体優性遺伝).55歳ふらつき・転倒,構音障害,slurred speech.難聴,腱反射亢進,ビデオは舌の萎縮と線維束性収縮.筋生検で上腕二頭筋のgroup atrophy.診断は?
症例3.3年の経過で,左手・体幹の舞踏様運動と右足のジストニアを呈した39歳男性
25歳,右足を引きずる(右下肢ジストニアで発症).36歳,左手が勝手に動く(コレア).右足の動かしにくさ増強(ジストニア).筋強剛軽度.診断は?
症例4.半年前から進行性に痙性対麻痺様歩行障害を呈した51歳女性
左臀部筋痛にて発症.2,3ヶ月の経過で筋痛の範囲が拡大,対側にも及ぶ.踵を地面に着くことが困難になる.神経所見はジストニア,左下肢痙性,下肢腱反射亢進.既往歴に橋本病,1型糖尿病.診断は?
症例5.進行性の筋萎縮に小脳性運動失調を合併した65歳男性
家族内類症あるが,罹患者は全員男性.20歳歩きにくさにて発症,緩徐に進行し50歳失調歩行.60歳動作時のふるえ.神経学的に線維束性収縮,女性化乳房.頭部MRIでは明らかな小脳萎縮.診断は?
症例6.血栓溶解療法後に不随意運動を呈した72歳女性
左片麻痺にて発症した脳塞栓症に対し,tPA療法を施行.症状は改善したが,その後,左上肢にバリスム,ないしコレア出現.何が起きたか?
症例7.右内頚動脈狭窄に伴い左半身不随意運動を生じた一例
運転中に左下肢をよじるような動き出現.その後,左上肢にも出現(ヘミコレアないしヘミバリスム).左顔面の叱っめ面のような動き(これはヘミコレア).画像では右内頚動脈狭窄.片麻痺なし.病態は?
症例8.日内変動のある運動障害を示した同胞例
姉は19歳で,早期からジストニアあり.日内変動がある.眼球の上転固定(Oculogyric crisis)を認めた.認知機能正常.弟も類症.髄液ビオプテリン低下なし.診断は?治療は?
症例9.著しい痙性斜頸と頭部振戦にボツリヌス注射とクロナゼパムが奏効した41歳男性(最優秀演題)
24歳ふらつき,27歳頭部振戦(3-4 Hz),41歳緩徐眼球運動,ジストニア,首下がり,頸部回旋.首のdystonic tremorは腕を挙げたりする動作で増強するため,食事を摂ることが困難.頭部MRIでHot cross bun sign陽性,DATスキャンとり込み低下.ボツリヌス注射有効で不随意運動改善.診断は?
症例10.左下肢に多様な不随意運動と筋緊張異常を認めた74歳女性例
左足が勝手に動く(比較的ゆっくりとした動きで表面筋電図では振戦).また下肢で文字を書かせるとうまくできない.L-DOPA無効.左足関節内反.左上肢失調.筋強剛,痙性,ジストニア,皮質性感覚障害.診断は?
症例11.Wide baseとkinesie paradoxaleを呈した70歳男性例
68歳肝性脳症,69歳肝性糖尿病.Wide baseな歩行障害,精神症状.パーキンソン病の診断で治療され,STN-DBSまで施行されたが,最終的に治療困難で,すくみ足が増悪した.診断は?
症例12.意識のある四肢強直発作の19歳男性
10歳体がつっぱり倒れてしまう.体が浮くような前兆があり.その後,体全体の強直発作が出現.右上肢に痙攣(非対称性強直発作).脳波上異常なし.診断は?
症例13.L-DOPA投与が有効であった失調歩行の50歳女性
46歳転倒,ふらつきある.眼振なし.L-DOPA投与が有効(ビデオでは軽度の改善).小脳性運動失調はあるか?診断は?
【解答編】
症例1.ジスキネジアはなし.診断は本態性振戦?パーキンソン病患者でなければ,L-DOPAを17年内服してもジスキネジアは起こらない.
症例2.SCA36(Asidan).岡山大学より報告された脊髄小脳変性症と運動ニューロン病の両方の特徴を併せ持つ遺伝性疾患(Asidanは,Asida river familyに由来).nucleolar protein 56(NOP56)遺伝子のイントロン1のGGCCTGリピートの伸長.
症例3. PARK2 Parkin遺伝子異常(exon 2とexon 8のheterozygous deletion).
症例4.抗GAD抗体に伴うStiff-leg syndrome.この症候群には抗GAD抗体陽性例と陰性例がある.http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11748762
橋本病と1型糖尿病の合併から抗GAD抗体の関与を疑う.
症例5.球脊髄性筋萎縮症(SBMA).小脳性運動失調と小脳萎縮を合併しているが,一元的に考えるか,何らかの別の疾患の合併を考えるかが議論になったが,個人的には後者ではないかと思う.
症例6.視床下核や線条体などの病変(tPA療法に伴う出血)が想定されたが,MRI上は頭頂葉虚血病変がみられた.それが責任病変か,もしくは視床下核や線条体にMRIで捉えられない病変があるのか議論になった.
症例7.右大脳半球血流低下に伴うヘミコレア.もやもや病でも梗塞発症前に,ヘミコレアが生じることがあるが,これと同じ現象ではないかとの推論もあった.
症例8.チロシンヒドロキシラーゼ欠損症.常染色体劣性遺伝.治療はL-DOPAで良いとして,病態はGTP cyclohydrolase I(GCH1)欠損によるジストニアと思ったが,この疾患ではビオプテリン低下は生じなかった.チロシンヒドロキシラーゼ欠損ではoculogyric crisisが生じる(GCH1欠損・瀬川病でも生じるとのこと).チロシンヒドロキシラーゼ欠損症は遺伝子治療の適応もあり.
症例9.SCA2に伴う痙性斜頸,dystonic tremor.回答権がなく答えられなかったが,実は新潟大学でも同様の経験があり,過去に症例報告した.自験例でも4 Hzのdystonic tremorがADL上問題で,ボトックスが奏効しなかったが,L-DOPAが有効.SCA2のdystonic tremorの病態に黒質病変やpontocerebellar pathwayの関与が指摘されているが,L-DOPAの効果は前者の関与を示唆する.
Kitahara M, Shimohata T, Tokunaga J, Nishizawa M. Cervical dystonia associated with spinocerebellar ataxia type 2 successfully treated with levodopa: a case report. Mov Disord. 2009;24:2163-4.
症例10.Corticobasal syndrome.下肢で文字を書かせてうまくできないのは失行のようだ.背景病理までは分からず.
症例11.後天性肝脳変性症(Acquired hepatocerebral degeneration).肝硬変の0.8%で生じるという報告あり(Eur J Neurol. 2010;17:1463-70).パーキンソニズムと小脳症状が認められる.T1で淡蒼球高信号(マンガン蓄積).抗パーキンソン剤無効.肝移植で改善する例もある.
症例12.補足運動野てんかん.体が浮くような前兆は頭頂葉由来の症状で特徴的とのこと.意識が保たれている発作から,補足運動野てんかんも頭に浮かんだが,あまり向反発作ぽくはなく,脳波異常なしから違うなとてんかん以外の疾患を考えてしまった.補足運動野てんかんでは,脳波異常は同定できないことが多いようだ.
症例13.NIBA(Neurodegeneration with Brain Iron Accumulation)のひとつ,神経フェリチン症neuroferritinopathy(NBIA3:フェリチン軽鎖(FLT1)の遺伝子変異).あまり小脳性運動失調ぽくは見えなかった.MRIでeye of the tiger徴候的?(T2強調画像で鉄沈着による低信号はあったが,高信号の虎の眼球様状態はよくわからなかった).
【問題編】
症例1.振戦に対しL-dopa/DCI合剤を17年間服用した87歳男性
60歳で振戦にて発症.書字困難.筋強剛や無動なし.L-DOPAによる治療が開始され,効果がないにもかかわらず17年間継続された.神経学的に姿勢時の振戦のみ.ビデオでジスキネジアを認めるか?診断は?
症例2.歩行障害,構音障害の76歳男性
家族内類症あり(常染色体優性遺伝).55歳ふらつき・転倒,構音障害,slurred speech.難聴,腱反射亢進,ビデオは舌の萎縮と線維束性収縮.筋生検で上腕二頭筋のgroup atrophy.診断は?
症例3.3年の経過で,左手・体幹の舞踏様運動と右足のジストニアを呈した39歳男性
25歳,右足を引きずる(右下肢ジストニアで発症).36歳,左手が勝手に動く(コレア).右足の動かしにくさ増強(ジストニア).筋強剛軽度.診断は?
症例4.半年前から進行性に痙性対麻痺様歩行障害を呈した51歳女性
左臀部筋痛にて発症.2,3ヶ月の経過で筋痛の範囲が拡大,対側にも及ぶ.踵を地面に着くことが困難になる.神経所見はジストニア,左下肢痙性,下肢腱反射亢進.既往歴に橋本病,1型糖尿病.診断は?
症例5.進行性の筋萎縮に小脳性運動失調を合併した65歳男性
家族内類症あるが,罹患者は全員男性.20歳歩きにくさにて発症,緩徐に進行し50歳失調歩行.60歳動作時のふるえ.神経学的に線維束性収縮,女性化乳房.頭部MRIでは明らかな小脳萎縮.診断は?
症例6.血栓溶解療法後に不随意運動を呈した72歳女性
左片麻痺にて発症した脳塞栓症に対し,tPA療法を施行.症状は改善したが,その後,左上肢にバリスム,ないしコレア出現.何が起きたか?
症例7.右内頚動脈狭窄に伴い左半身不随意運動を生じた一例
運転中に左下肢をよじるような動き出現.その後,左上肢にも出現(ヘミコレアないしヘミバリスム).左顔面の叱っめ面のような動き(これはヘミコレア).画像では右内頚動脈狭窄.片麻痺なし.病態は?
症例8.日内変動のある運動障害を示した同胞例
姉は19歳で,早期からジストニアあり.日内変動がある.眼球の上転固定(Oculogyric crisis)を認めた.認知機能正常.弟も類症.髄液ビオプテリン低下なし.診断は?治療は?
症例9.著しい痙性斜頸と頭部振戦にボツリヌス注射とクロナゼパムが奏効した41歳男性(最優秀演題)
24歳ふらつき,27歳頭部振戦(3-4 Hz),41歳緩徐眼球運動,ジストニア,首下がり,頸部回旋.首のdystonic tremorは腕を挙げたりする動作で増強するため,食事を摂ることが困難.頭部MRIでHot cross bun sign陽性,DATスキャンとり込み低下.ボツリヌス注射有効で不随意運動改善.診断は?
症例10.左下肢に多様な不随意運動と筋緊張異常を認めた74歳女性例
左足が勝手に動く(比較的ゆっくりとした動きで表面筋電図では振戦).また下肢で文字を書かせるとうまくできない.L-DOPA無効.左足関節内反.左上肢失調.筋強剛,痙性,ジストニア,皮質性感覚障害.診断は?
症例11.Wide baseとkinesie paradoxaleを呈した70歳男性例
68歳肝性脳症,69歳肝性糖尿病.Wide baseな歩行障害,精神症状.パーキンソン病の診断で治療され,STN-DBSまで施行されたが,最終的に治療困難で,すくみ足が増悪した.診断は?
症例12.意識のある四肢強直発作の19歳男性
10歳体がつっぱり倒れてしまう.体が浮くような前兆があり.その後,体全体の強直発作が出現.右上肢に痙攣(非対称性強直発作).脳波上異常なし.診断は?
症例13.L-DOPA投与が有効であった失調歩行の50歳女性
46歳転倒,ふらつきある.眼振なし.L-DOPA投与が有効(ビデオでは軽度の改善).小脳性運動失調はあるか?診断は?
【解答編】
症例1.ジスキネジアはなし.診断は本態性振戦?パーキンソン病患者でなければ,L-DOPAを17年内服してもジスキネジアは起こらない.
症例2.SCA36(Asidan).岡山大学より報告された脊髄小脳変性症と運動ニューロン病の両方の特徴を併せ持つ遺伝性疾患(Asidanは,Asida river familyに由来).nucleolar protein 56(NOP56)遺伝子のイントロン1のGGCCTGリピートの伸長.
症例3. PARK2 Parkin遺伝子異常(exon 2とexon 8のheterozygous deletion).
症例4.抗GAD抗体に伴うStiff-leg syndrome.この症候群には抗GAD抗体陽性例と陰性例がある.http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11748762
橋本病と1型糖尿病の合併から抗GAD抗体の関与を疑う.
症例5.球脊髄性筋萎縮症(SBMA).小脳性運動失調と小脳萎縮を合併しているが,一元的に考えるか,何らかの別の疾患の合併を考えるかが議論になったが,個人的には後者ではないかと思う.
症例6.視床下核や線条体などの病変(tPA療法に伴う出血)が想定されたが,MRI上は頭頂葉虚血病変がみられた.それが責任病変か,もしくは視床下核や線条体にMRIで捉えられない病変があるのか議論になった.
症例7.右大脳半球血流低下に伴うヘミコレア.もやもや病でも梗塞発症前に,ヘミコレアが生じることがあるが,これと同じ現象ではないかとの推論もあった.
症例8.チロシンヒドロキシラーゼ欠損症.常染色体劣性遺伝.治療はL-DOPAで良いとして,病態はGTP cyclohydrolase I(GCH1)欠損によるジストニアと思ったが,この疾患ではビオプテリン低下は生じなかった.チロシンヒドロキシラーゼ欠損ではoculogyric crisisが生じる(GCH1欠損・瀬川病でも生じるとのこと).チロシンヒドロキシラーゼ欠損症は遺伝子治療の適応もあり.
症例9.SCA2に伴う痙性斜頸,dystonic tremor.回答権がなく答えられなかったが,実は新潟大学でも同様の経験があり,過去に症例報告した.自験例でも4 Hzのdystonic tremorがADL上問題で,ボトックスが奏効しなかったが,L-DOPAが有効.SCA2のdystonic tremorの病態に黒質病変やpontocerebellar pathwayの関与が指摘されているが,L-DOPAの効果は前者の関与を示唆する.
Kitahara M, Shimohata T, Tokunaga J, Nishizawa M. Cervical dystonia associated with spinocerebellar ataxia type 2 successfully treated with levodopa: a case report. Mov Disord. 2009;24:2163-4.
症例10.Corticobasal syndrome.下肢で文字を書かせてうまくできないのは失行のようだ.背景病理までは分からず.
症例11.後天性肝脳変性症(Acquired hepatocerebral degeneration).肝硬変の0.8%で生じるという報告あり(Eur J Neurol. 2010;17:1463-70).パーキンソニズムと小脳症状が認められる.T1で淡蒼球高信号(マンガン蓄積).抗パーキンソン剤無効.肝移植で改善する例もある.
症例12.補足運動野てんかん.体が浮くような前兆は頭頂葉由来の症状で特徴的とのこと.意識が保たれている発作から,補足運動野てんかんも頭に浮かんだが,あまり向反発作ぽくはなく,脳波異常なしから違うなとてんかん以外の疾患を考えてしまった.補足運動野てんかんでは,脳波異常は同定できないことが多いようだ.
症例13.NIBA(Neurodegeneration with Brain Iron Accumulation)のひとつ,神経フェリチン症neuroferritinopathy(NBIA3:フェリチン軽鎖(FLT1)の遺伝子変異).あまり小脳性運動失調ぽくは見えなかった.MRIでeye of the tiger徴候的?(T2強調画像で鉄沈着による低信号はあったが,高信号の虎の眼球様状態はよくわからなかった).