片頭痛に伴う脳梗塞は,国際頭痛分類第二版では1.5.4 Migrainous infarction(片頭痛性脳梗塞)と記載されている.診断基準は以下のとおりである.
診断基準:
A. 1.2「前兆のある片頭痛」を持つ患者に起こる頭痛発作で,1 つもしくは複数の前兆が60 分を超えて続くことを除けば,今までの頭痛発作と同様である
B. 神経画像検査により責任領域に虚血性梗塞病巣が描出される
C. その他の疾患によらない
つまり,前兆のある典型的片頭痛の発作中(誤解のないように!)に発生する脳梗塞のことである.その頻度は稀で,臨床的特徴についても十分に分かっていない.まとまった報告としては,10例未満の少数例のケースシリーズがある程度である(Cephalalgia 23:389-394,2003).今回,多数例での検討が,北欧とドイツより報告されているので,2つの論文を紹介したい.
まず北欧の論文(Eur J Neurol誌).対象は7つの頭痛クリニックにおける国際頭痛分類第二版の診断基準を満たす片頭痛性脳梗塞患者33名.これらの症例における危険因子,片頭痛に対する治療状況,脳梗塞の局在・症状と予後を検討した.33例中20名が女性(61%)で,発症年齢は39歳(19~76歳).古典的な脳梗塞の危険因子(高血圧,高脂血症,糖尿病)を認めることは,スカンジナビア人の若年脳梗塞患者と比較して稀であった.急性期において12例(36%)がエルゴタミン製剤もしくはトリプタンを使用していた.脳梗塞の局在は後方循環系に多く(27例;82%),小脳梗塞も7例(21%)で認められた.脳幹梗塞を来した2例を除き予後は良好で,完全回復ないし若干の後遺症を残すのみであった.卵円孔開存(PFO)の頻度は40%で,若年脳梗塞患者と比較して有意差はなかった.
つぎにドイツの論文(Neurology誌).11年のあいだに大学病院に入院した8137例のうち片頭痛性脳梗塞は17例(0.2%)であった.うち13例が女性で(76%),発症年齢は45歳.多くの患者が持続時間の長い前兆をみとめ,その内訳は視覚性前兆82.3%,感覚障害41.2%,失語5.9%であった.脳梗塞の局在は後方循環系に多く(12例;70.6%), 残り5例は(29.4%)が中大脳動脈領域の脳梗塞であった.11例(64.7%)が小病変を呈し,多発病変は7例(41.2%)で認めたが,複数の血管支配領域に及ぶ病変を認めた症例はなかった.またPFOを11例(64.7%)で認めた.
いずれの報告も,若年女性に多く,脳梗塞の局在は後方循環系に多かった(既報も同様).発症機序については,なお今後の検討が必要である.片頭痛性脳梗塞と遷延した前兆の鑑別は難しく,さらに頭部CTでは評価困難な場合がある後方循環系の脳梗塞が多いため,片頭痛患者が遷延する前兆を主訴に外来を受診した場合は,頭部MRIを確認したほうがよさそうである.
Eur J Neurol 18; 1220-1226, 2011
Neurology 76:1911-1917, 2011.
診断基準:
A. 1.2「前兆のある片頭痛」を持つ患者に起こる頭痛発作で,1 つもしくは複数の前兆が60 分を超えて続くことを除けば,今までの頭痛発作と同様である
B. 神経画像検査により責任領域に虚血性梗塞病巣が描出される
C. その他の疾患によらない
つまり,前兆のある典型的片頭痛の発作中(誤解のないように!)に発生する脳梗塞のことである.その頻度は稀で,臨床的特徴についても十分に分かっていない.まとまった報告としては,10例未満の少数例のケースシリーズがある程度である(Cephalalgia 23:389-394,2003).今回,多数例での検討が,北欧とドイツより報告されているので,2つの論文を紹介したい.
まず北欧の論文(Eur J Neurol誌).対象は7つの頭痛クリニックにおける国際頭痛分類第二版の診断基準を満たす片頭痛性脳梗塞患者33名.これらの症例における危険因子,片頭痛に対する治療状況,脳梗塞の局在・症状と予後を検討した.33例中20名が女性(61%)で,発症年齢は39歳(19~76歳).古典的な脳梗塞の危険因子(高血圧,高脂血症,糖尿病)を認めることは,スカンジナビア人の若年脳梗塞患者と比較して稀であった.急性期において12例(36%)がエルゴタミン製剤もしくはトリプタンを使用していた.脳梗塞の局在は後方循環系に多く(27例;82%),小脳梗塞も7例(21%)で認められた.脳幹梗塞を来した2例を除き予後は良好で,完全回復ないし若干の後遺症を残すのみであった.卵円孔開存(PFO)の頻度は40%で,若年脳梗塞患者と比較して有意差はなかった.
つぎにドイツの論文(Neurology誌).11年のあいだに大学病院に入院した8137例のうち片頭痛性脳梗塞は17例(0.2%)であった.うち13例が女性で(76%),発症年齢は45歳.多くの患者が持続時間の長い前兆をみとめ,その内訳は視覚性前兆82.3%,感覚障害41.2%,失語5.9%であった.脳梗塞の局在は後方循環系に多く(12例;70.6%), 残り5例は(29.4%)が中大脳動脈領域の脳梗塞であった.11例(64.7%)が小病変を呈し,多発病変は7例(41.2%)で認めたが,複数の血管支配領域に及ぶ病変を認めた症例はなかった.またPFOを11例(64.7%)で認めた.
いずれの報告も,若年女性に多く,脳梗塞の局在は後方循環系に多かった(既報も同様).発症機序については,なお今後の検討が必要である.片頭痛性脳梗塞と遷延した前兆の鑑別は難しく,さらに頭部CTでは評価困難な場合がある後方循環系の脳梗塞が多いため,片頭痛患者が遷延する前兆を主訴に外来を受診した場合は,頭部MRIを確認したほうがよさそうである.
Eur J Neurol 18; 1220-1226, 2011
Neurology 76:1911-1917, 2011.