今回のキーワードは,イスラエルの現状 -ワクチン接種は不可欠だが,それだけではデルタ株は抑えられない-,米国ではデルタ株が優勢になるタイミングでワクチンの感染予防効果が低下した,mRNAワクチンの有害事象として心筋炎は注意すべきだが,感染した場合に生じる重篤な有害事象のほとんどを抑制する,急性呼吸不全患者に対する腹臥位で気管内挿管は減少し,有害事象も見られない,COVID-19感染はtPA療法後の入院期間を延長させるものの,転帰には影響しない,抗凝固療法やECMOに伴う脳出血は予後を増悪させる,long COVID神経筋症状の4つのタイプ,です.
『日本人とユダヤ人(角川文庫)』という名著があります.日本人とイスラエル人はいくつかの共通点があるものの非常に大きな違いがあると指摘しています.「日本では安全はタダだが,イスラエルでは安全が全てだ.ユダヤ人は安全のためにはどんなコストもかける」ということです.今回のコロナへの対策を見ても違いは歴然です.しかし最初の論文に示すように,そのイスラエルでさえもマスク着用義務を撤廃した春頃と状況は一変し,苦戦しています.いずれにしても,日本はイスラエルの経験から真摯に学ぶ必要があります.
◆イスラエルの現状 -ワクチン接種は不可欠だが,それだけではデルタ株は抑えられない-
Science誌のニュース欄にショッキングな記事が掲載されている.イスラエルはワクチン接種率が世界で最も高く,12歳以上の78%が完全ワクチン接種状態である(大部分がファイザー・ワクチン).しかし図1のように,夏の初めにはほとんど認めなかった感染者が,6,7月頃から急増し,2月中旬以来の高水準となっている.ほとんどがデルタ株である.8月15日現在,重症または重篤な状態で入院している患者は525人だが,うち60%が完全ワクチン状態であった(つまりワクチンを打っていても重症化しうる).これはワクチンの効果が時間経過とともに弱まったためではないかという推測がなされた.
プレプリント論文によると,本年1月に接種した人は,4月に接種した人と比較して,ブレイクスルー感染のリスクが2.26倍に増加していた.また60歳以上で3回目接種(ブースター接種)をした人は,2回接種の人に比べて,入院する確率が半分になったという予備データがあり,かつ副反応についても,88%の人が3回目は2回目より軽いと答えていた.このためイスラエルは,7月30日からに60歳以上(現在は50歳以上)の人を対象に3回目接種に踏み切った.すでに100万人の人が3回目接種を受けたが,それだけでデルタ株を抑え込むことはできそうにないと述べられている.事実,本日アクセスしたworldometerによるデータでは過去最高に並ぶ程度に新規感染者数は増加,死亡者も増加傾向にある(!)(図2).
記事にはマスクや社会的距離の重要性が改めて指摘されていること,政府が最も恐れているのは感染拡大による病院への負担であり,病院でもスタッフは疲労困憊しており,PTSD(心的外傷後ストレス障害)にならないよう対策を開始していることが述べられている.
→ 2月に接種を開始した日本では,ブースター接種は10月には必要ということになる.また上述の通り,ワクチンのみでは感染増加は抑えられないことをイスラエルからしっかり学び,本気で感染拡大を封じ込める論理的・科学的な政策を行うべきことを行政に働きかける必要がある.
Science. Aug 20, 2021.(doi.org/10.1126/science.373.6557.838)
◆米国ではデルタ株が優勢になるタイミングでワクチンの感染予防効果が低下した.
米国6州の医療従事者4217名を対象とし,35週間にわたって週1回のPCRを行い,ワクチンの効果を検証する研究がCDCから報告された.対象者中3483名(83%)がワクチン接種を受けた(ファイザー65%,モデルナ33%,J & J 2%).デルタ株が50%以上を占めて優勢となった週では,488名の未接種者が中央値43日で19件の感染を経験し,2352名の完全ワクチン接種者が中央値49日で24件の感染を経験した.計算するとワクチンによる予防効果は66%であり,デルタ株が優勢になる前の数カ月間の効果の91%より低下した.これはワクチン接種からの時間が経過したためか,もしくはデルタ株の影響が考えられる.観察週数が限られて感染者数が少ないために,より多数例で慎重に解釈する必要がある.
Morb Mortal Wkly Rep 2021;70:1167-1169.(doi.org/10.15585/mmwr.mm7034e4)
◆mRNAワクチンの有害事象として心筋炎は注意すべきだが,感染した場合に生じる重篤な有害事象のほとんどを抑制する.
mRNAワクチンの安全性は良好であることが承認前の臨床試験で示されているものの,臨床試験では対象者数に限度がある.このためイスラエルから承認後のリアルワールドにおける16歳以上の接種者の安全性についての研究が報告された.有害事象は,ワクチン接種者と非接種者をマッチさせ,接種後42日間の追跡調査として評価した(1回目の接種から21日後と2回目の接種から21日後の評価).さらにワクチン接種者と COVID-19感染者における有害事象の比較も行った.ワクチン接種は,心筋炎(リスク比,3.24;リスク差,10 万人当たり 2.7 件),リンパ節腫脹(リスク比,2.43;リスク差,10 万人当たり 78.4 件)のリスク上昇と最も強く関連していた(リンパ節腫脹はワクチンでは当然起こりうる).また虫垂炎(リスク比,1.40;リスク差,5.0件/10万人),帯状疱疹感染(リスク比,1.43;リスク差,15.8件/10万人)もリスク上昇が見られた.しかしCOVID-19に感染した場合,心筋炎はリスク比18.28,リスク差10 万人当たり 11.0 件となり,ワクチンよりはるかにリスクが高くなった(図3).ほかにも心膜炎,不整脈,深部静脈血栓症,肺塞栓症,心筋梗塞,脳出血,血小板減少症などの重篤な有害事象のリスクが大幅に増加した.以上より,ファイザー・ワクチンは,心筋炎のリスクを増加させるが(10万人あたり1~5件),検討したほとんどの有害事象のリスク上昇とは関連しなかった.一方,COVID-19感染は心筋炎を含めた多くの有害事象のリスクを大幅に上昇させた.
New Engl J Med. August 25, 2021.(doi.org/10.1056/NEJMoa2110475)
◆急性呼吸不全患者に対する腹臥位で気管内挿管は減少し,有害事象も見られない.
覚醒下の腹臥位(うつぶせ)は,COVID-19患者の酸素化を改善することが後方視的研究や観察研究で報告されている.しかし予後を改善するかは不明である.フランスなど6カ国から,大規模無作為化試験において,重症患者の期間内挿管や死亡を防ぐために,腹臥位が有効かを評価した.急性呼吸不全で高流量鼻カニューレによる呼吸補助を必要とした成人1126名を,覚醒下の腹臥位群567名と標準治療群559名に無作為に割り付けた.主要複合転帰は,治療失敗(treatment failure),すなわち割り付け後28日以内に気管内挿管(=人工呼吸器管理)されたか死亡した患者の割合と定義した.試験から脱落した5名を除いて解析した.治療失敗は,腹臥位群で223/564名(40%),標準治療群で257/ 557名(46%)に発生した(相対リスク0.86[95%CI 0.75~0.98]).よって腹臥位は気管内挿管のハザード比は0.75(0.62~0.91),死亡率のハザード比は0.87(0.68~1.11)であった(図3).有害事象の発生率は低く,両群で同様であった.以上より腹臥位を行うことで,気管内挿管の必要性は減少し,有害事象も見られなかった.高流量酸素を必要とする患者における覚醒下での腹臥位を支持する結果である.
Lancet Respir Med. Aug 20, 2021.(doi.org/10.1016/S2213-2600(21)00356-8)
◆COVID-19感染はtPA療法後の入院期間を延長させるものの,転帰には影響しない.
虚血性脳卒中(脳梗塞)の治療には,tPAを用いた血栓溶解療法が行われる.COVID-19は,脳卒中の急性期治療に悪影響を及ぼし,かつ凝固促進作用があるため,tPA療法の治療成績に影響を及ぼす可能性がある.このため,ポーランドから,COVID-19感染の有無で,tPA療法の有効性と安全性を比較した研究が報告された.4つの脳卒中センターにて,tPA療法を受けたCOVID-19感染脳梗塞患者22名と感染のない48名を後方視的に比較した.感染あり群では,入院時NIHSSスコアの中央値が高く(11.0 vs. 6.5; p < 0.01),Dダイマーの中央値も高く(870 vs. 570; p = 0.03),肺炎の頻度も高かった(47.8% vs. 12%; p < 0.01).また「軽度の脳卒中症状(minor stroke symptoms)」(NIHSS 1~5点)が少なかった(2% vs. 18%; p < 0.01).感染あり群は感染なし群に比べて入院期間が長かったが(17日対9日,p < 0.01),感染が院内死亡率や退院時の機能状態に与える影響は,単変量解析でも多変量解析でも認められなかった.以上より,COVID-19感染はtPA療法後の入院期間を延長させるものの,転帰には影響しない可能性がある.
Acta Neurol Scand. Aug 20, 2021.(doi.org/10.1111/ane.13520)
◆抗凝固療法やECMOに伴う脳出血は予後を増悪させる.
欧州の多国籍登録機関LEOSS「Lean European Open Survey on SARS-Infected Patients」に登録された127施設のCOVID-19患者6537名における急性期の神経筋症状・合併症を分析し,それらが転帰に及ぼす影響について検討した研究が報告された.92.1%にあたる6020名が入院し,14.7%が死亡した.主な症状は,過度の疲労感(28.0%),頭痛(18.5%),悪心・嘔吐(16.6%),筋力低下(17.0%),嗅覚・味覚障害(9.0%),せん妄(6.7%)などであった.複雑で重篤な経過をたどった患者(53%)で最も多かった神経学的合併症は,虚血性脳卒中(1.0%)と脳出血(2.2%)であった.脳出血は重症期にピークを迎え,抗凝固療法やECMOの実施と関連していた.また過度の疲労感(OR 1.42)および神経変性疾患の既往(OR 1.32)は,好ましくない転帰のリスクを高めた.脳卒中および神経免疫学的疾患の既往は,COVID-19の短期的な転帰の悪化とは関連していなかった.以上より,主に入院患者を対象とした検討で,初診時の過度の疲労感や神経変性疾患の既往は,予後不良の転帰のリスク増加に関与していた.重症化を招く脳出血は,抗凝固療法やECMOなどの治療的介入と関連しているため,ウイルスによる直接的な合併症ではなく,間接的な合併症と言える.
Eur J Neurol. Aug 19, 2021.(doi.org/10.1111/ene.15072)
◆long COVID神経筋症状の4つのタイプ.
Brain誌にCOVID-19に伴う急性および慢性の神経筋合併症の病態に関する総説が発表されている.興味を引いたのはlong COVIDもしくはPASCの神経筋症状を大きく4つに分類した点である(図4).右上から時計回りに,①認知・気分・睡眠障害(脳霧,遂行機能障害,不安・うつ,興奮・精神症状),②自律神経異常症(動悸,POTS,起立性低血圧,体温調節異常),③疼痛症候群(筋痛,神経障害性疼痛,異常知覚,頭痛,耳鳴),④運動不耐性(筋力低下,動作時呼吸苦,疲労感)である.ただし論文にも記載されているようにこれらの後遺症は,長期的なコホート研究によって完全に定義されたものではなく,暫定的なものではある.
Brain. Aug 16, 2021.(doi.org/10.1093/brain/awab302)
『日本人とユダヤ人(角川文庫)』という名著があります.日本人とイスラエル人はいくつかの共通点があるものの非常に大きな違いがあると指摘しています.「日本では安全はタダだが,イスラエルでは安全が全てだ.ユダヤ人は安全のためにはどんなコストもかける」ということです.今回のコロナへの対策を見ても違いは歴然です.しかし最初の論文に示すように,そのイスラエルでさえもマスク着用義務を撤廃した春頃と状況は一変し,苦戦しています.いずれにしても,日本はイスラエルの経験から真摯に学ぶ必要があります.
◆イスラエルの現状 -ワクチン接種は不可欠だが,それだけではデルタ株は抑えられない-
Science誌のニュース欄にショッキングな記事が掲載されている.イスラエルはワクチン接種率が世界で最も高く,12歳以上の78%が完全ワクチン接種状態である(大部分がファイザー・ワクチン).しかし図1のように,夏の初めにはほとんど認めなかった感染者が,6,7月頃から急増し,2月中旬以来の高水準となっている.ほとんどがデルタ株である.8月15日現在,重症または重篤な状態で入院している患者は525人だが,うち60%が完全ワクチン状態であった(つまりワクチンを打っていても重症化しうる).これはワクチンの効果が時間経過とともに弱まったためではないかという推測がなされた.
プレプリント論文によると,本年1月に接種した人は,4月に接種した人と比較して,ブレイクスルー感染のリスクが2.26倍に増加していた.また60歳以上で3回目接種(ブースター接種)をした人は,2回接種の人に比べて,入院する確率が半分になったという予備データがあり,かつ副反応についても,88%の人が3回目は2回目より軽いと答えていた.このためイスラエルは,7月30日からに60歳以上(現在は50歳以上)の人を対象に3回目接種に踏み切った.すでに100万人の人が3回目接種を受けたが,それだけでデルタ株を抑え込むことはできそうにないと述べられている.事実,本日アクセスしたworldometerによるデータでは過去最高に並ぶ程度に新規感染者数は増加,死亡者も増加傾向にある(!)(図2).
記事にはマスクや社会的距離の重要性が改めて指摘されていること,政府が最も恐れているのは感染拡大による病院への負担であり,病院でもスタッフは疲労困憊しており,PTSD(心的外傷後ストレス障害)にならないよう対策を開始していることが述べられている.
→ 2月に接種を開始した日本では,ブースター接種は10月には必要ということになる.また上述の通り,ワクチンのみでは感染増加は抑えられないことをイスラエルからしっかり学び,本気で感染拡大を封じ込める論理的・科学的な政策を行うべきことを行政に働きかける必要がある.
Science. Aug 20, 2021.(doi.org/10.1126/science.373.6557.838)
◆米国ではデルタ株が優勢になるタイミングでワクチンの感染予防効果が低下した.
米国6州の医療従事者4217名を対象とし,35週間にわたって週1回のPCRを行い,ワクチンの効果を検証する研究がCDCから報告された.対象者中3483名(83%)がワクチン接種を受けた(ファイザー65%,モデルナ33%,J & J 2%).デルタ株が50%以上を占めて優勢となった週では,488名の未接種者が中央値43日で19件の感染を経験し,2352名の完全ワクチン接種者が中央値49日で24件の感染を経験した.計算するとワクチンによる予防効果は66%であり,デルタ株が優勢になる前の数カ月間の効果の91%より低下した.これはワクチン接種からの時間が経過したためか,もしくはデルタ株の影響が考えられる.観察週数が限られて感染者数が少ないために,より多数例で慎重に解釈する必要がある.
Morb Mortal Wkly Rep 2021;70:1167-1169.(doi.org/10.15585/mmwr.mm7034e4)
◆mRNAワクチンの有害事象として心筋炎は注意すべきだが,感染した場合に生じる重篤な有害事象のほとんどを抑制する.
mRNAワクチンの安全性は良好であることが承認前の臨床試験で示されているものの,臨床試験では対象者数に限度がある.このためイスラエルから承認後のリアルワールドにおける16歳以上の接種者の安全性についての研究が報告された.有害事象は,ワクチン接種者と非接種者をマッチさせ,接種後42日間の追跡調査として評価した(1回目の接種から21日後と2回目の接種から21日後の評価).さらにワクチン接種者と COVID-19感染者における有害事象の比較も行った.ワクチン接種は,心筋炎(リスク比,3.24;リスク差,10 万人当たり 2.7 件),リンパ節腫脹(リスク比,2.43;リスク差,10 万人当たり 78.4 件)のリスク上昇と最も強く関連していた(リンパ節腫脹はワクチンでは当然起こりうる).また虫垂炎(リスク比,1.40;リスク差,5.0件/10万人),帯状疱疹感染(リスク比,1.43;リスク差,15.8件/10万人)もリスク上昇が見られた.しかしCOVID-19に感染した場合,心筋炎はリスク比18.28,リスク差10 万人当たり 11.0 件となり,ワクチンよりはるかにリスクが高くなった(図3).ほかにも心膜炎,不整脈,深部静脈血栓症,肺塞栓症,心筋梗塞,脳出血,血小板減少症などの重篤な有害事象のリスクが大幅に増加した.以上より,ファイザー・ワクチンは,心筋炎のリスクを増加させるが(10万人あたり1~5件),検討したほとんどの有害事象のリスク上昇とは関連しなかった.一方,COVID-19感染は心筋炎を含めた多くの有害事象のリスクを大幅に上昇させた.
New Engl J Med. August 25, 2021.(doi.org/10.1056/NEJMoa2110475)
◆急性呼吸不全患者に対する腹臥位で気管内挿管は減少し,有害事象も見られない.
覚醒下の腹臥位(うつぶせ)は,COVID-19患者の酸素化を改善することが後方視的研究や観察研究で報告されている.しかし予後を改善するかは不明である.フランスなど6カ国から,大規模無作為化試験において,重症患者の期間内挿管や死亡を防ぐために,腹臥位が有効かを評価した.急性呼吸不全で高流量鼻カニューレによる呼吸補助を必要とした成人1126名を,覚醒下の腹臥位群567名と標準治療群559名に無作為に割り付けた.主要複合転帰は,治療失敗(treatment failure),すなわち割り付け後28日以内に気管内挿管(=人工呼吸器管理)されたか死亡した患者の割合と定義した.試験から脱落した5名を除いて解析した.治療失敗は,腹臥位群で223/564名(40%),標準治療群で257/ 557名(46%)に発生した(相対リスク0.86[95%CI 0.75~0.98]).よって腹臥位は気管内挿管のハザード比は0.75(0.62~0.91),死亡率のハザード比は0.87(0.68~1.11)であった(図3).有害事象の発生率は低く,両群で同様であった.以上より腹臥位を行うことで,気管内挿管の必要性は減少し,有害事象も見られなかった.高流量酸素を必要とする患者における覚醒下での腹臥位を支持する結果である.
Lancet Respir Med. Aug 20, 2021.(doi.org/10.1016/S2213-2600(21)00356-8)
◆COVID-19感染はtPA療法後の入院期間を延長させるものの,転帰には影響しない.
虚血性脳卒中(脳梗塞)の治療には,tPAを用いた血栓溶解療法が行われる.COVID-19は,脳卒中の急性期治療に悪影響を及ぼし,かつ凝固促進作用があるため,tPA療法の治療成績に影響を及ぼす可能性がある.このため,ポーランドから,COVID-19感染の有無で,tPA療法の有効性と安全性を比較した研究が報告された.4つの脳卒中センターにて,tPA療法を受けたCOVID-19感染脳梗塞患者22名と感染のない48名を後方視的に比較した.感染あり群では,入院時NIHSSスコアの中央値が高く(11.0 vs. 6.5; p < 0.01),Dダイマーの中央値も高く(870 vs. 570; p = 0.03),肺炎の頻度も高かった(47.8% vs. 12%; p < 0.01).また「軽度の脳卒中症状(minor stroke symptoms)」(NIHSS 1~5点)が少なかった(2% vs. 18%; p < 0.01).感染あり群は感染なし群に比べて入院期間が長かったが(17日対9日,p < 0.01),感染が院内死亡率や退院時の機能状態に与える影響は,単変量解析でも多変量解析でも認められなかった.以上より,COVID-19感染はtPA療法後の入院期間を延長させるものの,転帰には影響しない可能性がある.
Acta Neurol Scand. Aug 20, 2021.(doi.org/10.1111/ane.13520)
◆抗凝固療法やECMOに伴う脳出血は予後を増悪させる.
欧州の多国籍登録機関LEOSS「Lean European Open Survey on SARS-Infected Patients」に登録された127施設のCOVID-19患者6537名における急性期の神経筋症状・合併症を分析し,それらが転帰に及ぼす影響について検討した研究が報告された.92.1%にあたる6020名が入院し,14.7%が死亡した.主な症状は,過度の疲労感(28.0%),頭痛(18.5%),悪心・嘔吐(16.6%),筋力低下(17.0%),嗅覚・味覚障害(9.0%),せん妄(6.7%)などであった.複雑で重篤な経過をたどった患者(53%)で最も多かった神経学的合併症は,虚血性脳卒中(1.0%)と脳出血(2.2%)であった.脳出血は重症期にピークを迎え,抗凝固療法やECMOの実施と関連していた.また過度の疲労感(OR 1.42)および神経変性疾患の既往(OR 1.32)は,好ましくない転帰のリスクを高めた.脳卒中および神経免疫学的疾患の既往は,COVID-19の短期的な転帰の悪化とは関連していなかった.以上より,主に入院患者を対象とした検討で,初診時の過度の疲労感や神経変性疾患の既往は,予後不良の転帰のリスク増加に関与していた.重症化を招く脳出血は,抗凝固療法やECMOなどの治療的介入と関連しているため,ウイルスによる直接的な合併症ではなく,間接的な合併症と言える.
Eur J Neurol. Aug 19, 2021.(doi.org/10.1111/ene.15072)
◆long COVID神経筋症状の4つのタイプ.
Brain誌にCOVID-19に伴う急性および慢性の神経筋合併症の病態に関する総説が発表されている.興味を引いたのはlong COVIDもしくはPASCの神経筋症状を大きく4つに分類した点である(図4).右上から時計回りに,①認知・気分・睡眠障害(脳霧,遂行機能障害,不安・うつ,興奮・精神症状),②自律神経異常症(動悸,POTS,起立性低血圧,体温調節異常),③疼痛症候群(筋痛,神経障害性疼痛,異常知覚,頭痛,耳鳴),④運動不耐性(筋力低下,動作時呼吸苦,疲労感)である.ただし論文にも記載されているようにこれらの後遺症は,長期的なコホート研究によって完全に定義されたものではなく,暫定的なものではある.
Brain. Aug 16, 2021.(doi.org/10.1093/brain/awab302)