今回のキーワードは,感染成立に必要なウイルス粒子数,感染力増強とウイルス変異,米国でさえ集団免疫獲得には程遠い,COVID-19脳血管障害のメタ解析,COVID-19筋症の機序,神経筋合併症のための国際的レジストリ,サイトカイン・ストームの2つの主役,患者回復期血漿輸血は無効です.
一番印象的であった論文は,サイトカイン・ストームの本態に迫るSt. Jude小児研究病院からのCell誌の報告でした.いままでIL6のような炎症性サイトカインの「ひとつ」をターゲットにした臨床試験が行われ,期待を集めたものの十分な効果を示せませんでした.この研究では,感染により誘導されるTNFαとIFNγの「組み合わせ」により,PANoptosisと名付けられた複数の細胞死が同時に生じる現象とそのカスケードが初めて見出されました.あらためてCOVID-19は恐ろしい感染症だと思いました.
◆感染成立に必要なウイルス粒子数は1000.
オーストリアでは疫学的サーベイランスシステムが発達している.実際に第一波での主要なクラスターを同定し,かつ500以上のウイルスサンプルの全ゲノムシークエンスを実施している.この結果,感染者の個体内でのウイルス変異の動態が明らかになり,さらに疫学的に確認された感染者と次の感染者のペアの検討により,1000個のウイルス粒子により感染が成立することが示された.これはHIVやノロウイルスなどの他のウイルスよりも多い粒子が必要であることを意味する.感染成立には300~2000個の粒子を要するというプレプリント報告もある.1000個は平均であって,より少数でも感染が成立しうるとも記載されている.→ 感染者に接触しても,暴露するウイルス粒子量を減らせば感染リスクを減らすことができる!やはりマスク,社会的距離,長時間の接触回避,室内換気が重要.
Sci Transl Med. Nov 23, 2020(doi.org/10.1126/scitranslmed.abe2555)
◆感染力増強につながるウイルスの変異はまだ存在しない.
SARS-CoV-2ウイルスはまだヒト宿主に完全に適応しておらず,より高い感染性獲得を目指し変異を繰り返しているという説がある.英国から,これまでにSARS-CoV-2で観察された遺伝子変異の繰り返しが感染率の上昇と関連しているかを検証した研究が報告された.世界中の患者から分離された4万6723人のウイルスゲノムのデータを検討したところ,有名なD614G変異も含めて,感染性の増強に関連する変異は1つも確認されなかった.現時点では,突然変異によって,SARS-CoV-2ウイルスの感染力が有意に増加したという証拠はない.
Nat Commun 11, 5986, 2020.(doi.org/10.1038/s41467-020-19818-2)
◆大流行が1年続いている米国でも,集団免疫はまったく実現されていない.
米国の全土,すなわち50州を含む52の管轄地域で,SARS-CoV-2ウイルスに対する抗体を有する人の割合を検討した研究が報告された.17万7919 人の残留検体(血清)を対象としたこの横断的研究で,抗体を有する人の推定割合は 1%未満~23%であった.推定値が算出された49地域のうち42地域は,4回のサンプリング期間にわたって,抗体陽性率は10%未満であった.以上より,抗体陽性率は地域によって差はあるものの,ほとんどの人が感染の既往を得られなかったことになる.自然感染によって集団免疫を獲得するには「多くの死者や経済的損失といった犠牲をこれから何年も要する」と同じ号のコメンタリーは警告している.もう集団免疫でCOVID-19が封じ込めるという議論はやめるべきである.
JAMA Intern Med. Nov 24, 2020(doi.org/10.1001/jamainternmed.2020.7976)
◆COVID-19は虚血性脳卒中,とくにcryptogenic strokeの増加と関連する.
COVID-19に関連した脳卒中の発生および転帰について報告するコホート研究を集めたメタ解析が報告された.6万7845名の患者を含む18のコホート研究が対象となった.感染者のうち,脳卒中で入院したのは 1.3%(虚血性脳卒中1.1%,出血性脳卒中0.2%)であった.感染者群では,対照群と比較して,虚血性脳卒中はオッズ比3.58,潜因性脳梗塞(cryptogenic stroke)はオッズ比3.98と増加していた(図1).糖尿病は,対照群と比較して,感染者群でより有病率が高かった(オッズ比1.39).感染者群における脳卒中による院内死亡率は,感染のない脳卒中患者と比較して高かった(オッズ比5.60).以上より,COVID-19は虚血性脳卒中のリスクの増加と関連し,とくにcryptogenic strokeの増加と関連している可能性がある.また,死亡リスクの増加にも関連している可能性がある.
Ann Neurol. Nov 21, 2020(doi.org/10.1002/ana.25967)
◆COVID-19筋症はI型インターフェロノパチーである.
先日,COVID-19に伴う筋症がウイルス誘発性I型インターフェロノパチーである可能性を提唱する西野一三先生らによる仮説を紹介したが,これを支持する症例が米国から報告された.38歳男性が筋痛,発熱,近位筋優位の全身性の筋力低下を呈した.ヘリオトロープ発疹,Gottron徴候等はなかった.血清CKは2万9800 U/l,高感度トロポニンTが3157 ng/l,CRP 55 mg/lであった.心電図,心エコー,心臓MRIは正常.左三角筋の生検では,軽度の血管周囲炎症が認められたが,壊死や再生線維や筋膜周囲の萎縮は認められなかった.免疫染色では,筋鞘と筋形質上のMHCクラスI抗原の異常発現(図2A),および筋線維と毛細血管上のミクソウイルス耐性タンパク質A (MxA)の異常発現を認めた(図2B).毛細血管への膜侵襲複合体(MAC)の沈着は認めなかった.筋中のSARS-COV-2ウイルスは検出されなかった.レムデシビルの静注およびステロイドパルス療法を行い,その後,経口プレドニゾン(1日60mg)が処方され,改善した.発症から14日後の退院時には歩行が可能となり,CK値は5130 U/lまで低下した.本例はCOVID-19筋症は,I型インターフェロノパチーである可能性を示唆する.
N Engl J Med. Nov 20, 2020(doi.org/10.1056/NEJMc2031085)
◆神経筋症状および合併症を評価するための国際的レジストリENERGY.
COVID-19ではしばしば神経筋症状および合併症をみとめるが,世界的にその頻度や表現型は大きく異なっている.そのばらつきの大部分は,診断の精度,患者の訴えの解釈の違いによって説明できる.欧州神経学会(EAN)は,COVID-19の神経筋合併症および転帰のより正確な情報を得るために,国際的レジストリ(The EAN COVID‐19 registry;ENERGY)を作成した.神経筋症状および合併症が転帰に及ぼす影響を検討することも目的とする.登録対象は,COVID-19感染が疑われる,または確認された成人で,神経学的診察を受け,インフォームドコンセントを得ていることである.患者は12ヵ月後まで追跡調査され,偶発的な神経学的所見がないかどうかが確認される.8月19日現在,日本を含む69カ国の254施設から参加希望が寄せられている(図3).下記URLからコンタクトできる(https://bit.ly/36dP8Ik).
Eur J Neurol. Nov 21, 2020(doi.org/10.1111/ene.14652)
◆TNFαとIFNγの組み合わせは,複数の細胞死の特徴を持つ強烈な細胞死(PANoptosis)を誘導する.
米国からサイトカイン・ストームで誘導される種々のサイトカインを組み合わせ,骨髄由来マクロファージの細胞死を誘導できるか調べた研究が報告された.この結果,TNFαとIFNγの「組み合わせ」のみが,ピロプトーシス,アポトーシス,およびネクロプトーシスといった複数の細胞死を特徴とする細胞死を誘導することが分かった(頭文字を取ってPANoptosisと呼ぶ).TNFαとIFNγの組み合わせ刺激は,JAK/STAT1/IRF1カスケードを活性化し,iNOSを介してなんと一酸化窒素(NO)の産生を誘導し,さらにカスパーゼ8/FADDを介したPANoptosisを誘導した(図4).マウスにおけるTNFαとIFNγの組み合わせ刺激は,COVID-19による組織損傷,ならびに致死的なサイトカイン・ショックを引き起こした.またマウスにおいて,TNFαおよびIFNγに対する中和抗体は,SARS-CoV-2感染による死亡,敗血症,血球貪食性リンパ組織球症およびサイトカイン・ショックを防止した.以上より,TNFαおよびIFNγの組み合わせにより誘導される炎症性細胞死シグナル伝達経路を遮断することが有力な治療となる可能性がある.→ JAK1/2阻害剤やTNFα阻害剤の有効性もこれまでの研究で報告されており,本研究と矛盾しない.COVID-19のサイトカイン・ストームのメカニズムはいまひとつ明確でなかったが,いよいよ本質に近づいてきた印象がある.治療として,カスケードの一番上流をブロックするTNFαおよびIFNγの中和抗体の併用療法の効果が期待される.
Cell. Nov 19, 2020(doi.org/10.1016/j.cell.2020.11.025)
◆患者回復期血漿輸血は介入30日後の予後,死亡率を改善しない.
患者回復期血漿輸血はCOVID-19患者に対ししばしば行われ,主に観察研究に基づいて予後を改善することが報告されてきたが,十分なパワーをもったランダム化比較試験は行われていない.アルゼンチンから,重症COVID-19肺炎を有する成人の入院患者を2:1の割合で,回復期血漿群とプラセボ群に無作為に割り付けた研究が報告された.主要評価項目は,介入後30日後の患者の臨床状態とし,全回復から死亡までの6段階の順序尺度で評価した.計228名の患者が回復期血漿群に,105名がプラセボ群に割り付けられた.症状の発症から試験登録までの期間の中央値は 8 日間であった.注入された回復期血漿の総SARS-CoV-2ウイルス抗体価の中央値は1:3200であった.脱落例はなかった.30日目の時点で,臨床転帰の分布において,回復期血漿群とプラセボ群との間に有意差は認められなかった(オッズ比,0.83;P=0.46)(図5上).全死亡率は,回復期血漿群で10.96%,プラセボ群で 11.43%であり,リスク差は-0.46 ポイント(95%CI,-7.8~6.8)であった(図5下).介入後 2 日目の総 SARS-CoV-2 抗体価は,回復期血漿群で高くなる傾向があった.有害事象,および重篤な有害事象は両群で同等であった.以上より,患者回復期血漿輸血は,介入後30日後の臨床状態,および全死亡率を改善せず,無効と考えられた.
New Engl J Med. Nov 24, 2020(doi.org/10.1056/NEJMoa2031304)
一番印象的であった論文は,サイトカイン・ストームの本態に迫るSt. Jude小児研究病院からのCell誌の報告でした.いままでIL6のような炎症性サイトカインの「ひとつ」をターゲットにした臨床試験が行われ,期待を集めたものの十分な効果を示せませんでした.この研究では,感染により誘導されるTNFαとIFNγの「組み合わせ」により,PANoptosisと名付けられた複数の細胞死が同時に生じる現象とそのカスケードが初めて見出されました.あらためてCOVID-19は恐ろしい感染症だと思いました.
◆感染成立に必要なウイルス粒子数は1000.
オーストリアでは疫学的サーベイランスシステムが発達している.実際に第一波での主要なクラスターを同定し,かつ500以上のウイルスサンプルの全ゲノムシークエンスを実施している.この結果,感染者の個体内でのウイルス変異の動態が明らかになり,さらに疫学的に確認された感染者と次の感染者のペアの検討により,1000個のウイルス粒子により感染が成立することが示された.これはHIVやノロウイルスなどの他のウイルスよりも多い粒子が必要であることを意味する.感染成立には300~2000個の粒子を要するというプレプリント報告もある.1000個は平均であって,より少数でも感染が成立しうるとも記載されている.→ 感染者に接触しても,暴露するウイルス粒子量を減らせば感染リスクを減らすことができる!やはりマスク,社会的距離,長時間の接触回避,室内換気が重要.
Sci Transl Med. Nov 23, 2020(doi.org/10.1126/scitranslmed.abe2555)
◆感染力増強につながるウイルスの変異はまだ存在しない.
SARS-CoV-2ウイルスはまだヒト宿主に完全に適応しておらず,より高い感染性獲得を目指し変異を繰り返しているという説がある.英国から,これまでにSARS-CoV-2で観察された遺伝子変異の繰り返しが感染率の上昇と関連しているかを検証した研究が報告された.世界中の患者から分離された4万6723人のウイルスゲノムのデータを検討したところ,有名なD614G変異も含めて,感染性の増強に関連する変異は1つも確認されなかった.現時点では,突然変異によって,SARS-CoV-2ウイルスの感染力が有意に増加したという証拠はない.
Nat Commun 11, 5986, 2020.(doi.org/10.1038/s41467-020-19818-2)
◆大流行が1年続いている米国でも,集団免疫はまったく実現されていない.
米国の全土,すなわち50州を含む52の管轄地域で,SARS-CoV-2ウイルスに対する抗体を有する人の割合を検討した研究が報告された.17万7919 人の残留検体(血清)を対象としたこの横断的研究で,抗体を有する人の推定割合は 1%未満~23%であった.推定値が算出された49地域のうち42地域は,4回のサンプリング期間にわたって,抗体陽性率は10%未満であった.以上より,抗体陽性率は地域によって差はあるものの,ほとんどの人が感染の既往を得られなかったことになる.自然感染によって集団免疫を獲得するには「多くの死者や経済的損失といった犠牲をこれから何年も要する」と同じ号のコメンタリーは警告している.もう集団免疫でCOVID-19が封じ込めるという議論はやめるべきである.
JAMA Intern Med. Nov 24, 2020(doi.org/10.1001/jamainternmed.2020.7976)
◆COVID-19は虚血性脳卒中,とくにcryptogenic strokeの増加と関連する.
COVID-19に関連した脳卒中の発生および転帰について報告するコホート研究を集めたメタ解析が報告された.6万7845名の患者を含む18のコホート研究が対象となった.感染者のうち,脳卒中で入院したのは 1.3%(虚血性脳卒中1.1%,出血性脳卒中0.2%)であった.感染者群では,対照群と比較して,虚血性脳卒中はオッズ比3.58,潜因性脳梗塞(cryptogenic stroke)はオッズ比3.98と増加していた(図1).糖尿病は,対照群と比較して,感染者群でより有病率が高かった(オッズ比1.39).感染者群における脳卒中による院内死亡率は,感染のない脳卒中患者と比較して高かった(オッズ比5.60).以上より,COVID-19は虚血性脳卒中のリスクの増加と関連し,とくにcryptogenic strokeの増加と関連している可能性がある.また,死亡リスクの増加にも関連している可能性がある.
Ann Neurol. Nov 21, 2020(doi.org/10.1002/ana.25967)
◆COVID-19筋症はI型インターフェロノパチーである.
先日,COVID-19に伴う筋症がウイルス誘発性I型インターフェロノパチーである可能性を提唱する西野一三先生らによる仮説を紹介したが,これを支持する症例が米国から報告された.38歳男性が筋痛,発熱,近位筋優位の全身性の筋力低下を呈した.ヘリオトロープ発疹,Gottron徴候等はなかった.血清CKは2万9800 U/l,高感度トロポニンTが3157 ng/l,CRP 55 mg/lであった.心電図,心エコー,心臓MRIは正常.左三角筋の生検では,軽度の血管周囲炎症が認められたが,壊死や再生線維や筋膜周囲の萎縮は認められなかった.免疫染色では,筋鞘と筋形質上のMHCクラスI抗原の異常発現(図2A),および筋線維と毛細血管上のミクソウイルス耐性タンパク質A (MxA)の異常発現を認めた(図2B).毛細血管への膜侵襲複合体(MAC)の沈着は認めなかった.筋中のSARS-COV-2ウイルスは検出されなかった.レムデシビルの静注およびステロイドパルス療法を行い,その後,経口プレドニゾン(1日60mg)が処方され,改善した.発症から14日後の退院時には歩行が可能となり,CK値は5130 U/lまで低下した.本例はCOVID-19筋症は,I型インターフェロノパチーである可能性を示唆する.
N Engl J Med. Nov 20, 2020(doi.org/10.1056/NEJMc2031085)
◆神経筋症状および合併症を評価するための国際的レジストリENERGY.
COVID-19ではしばしば神経筋症状および合併症をみとめるが,世界的にその頻度や表現型は大きく異なっている.そのばらつきの大部分は,診断の精度,患者の訴えの解釈の違いによって説明できる.欧州神経学会(EAN)は,COVID-19の神経筋合併症および転帰のより正確な情報を得るために,国際的レジストリ(The EAN COVID‐19 registry;ENERGY)を作成した.神経筋症状および合併症が転帰に及ぼす影響を検討することも目的とする.登録対象は,COVID-19感染が疑われる,または確認された成人で,神経学的診察を受け,インフォームドコンセントを得ていることである.患者は12ヵ月後まで追跡調査され,偶発的な神経学的所見がないかどうかが確認される.8月19日現在,日本を含む69カ国の254施設から参加希望が寄せられている(図3).下記URLからコンタクトできる(https://bit.ly/36dP8Ik).
Eur J Neurol. Nov 21, 2020(doi.org/10.1111/ene.14652)
◆TNFαとIFNγの組み合わせは,複数の細胞死の特徴を持つ強烈な細胞死(PANoptosis)を誘導する.
米国からサイトカイン・ストームで誘導される種々のサイトカインを組み合わせ,骨髄由来マクロファージの細胞死を誘導できるか調べた研究が報告された.この結果,TNFαとIFNγの「組み合わせ」のみが,ピロプトーシス,アポトーシス,およびネクロプトーシスといった複数の細胞死を特徴とする細胞死を誘導することが分かった(頭文字を取ってPANoptosisと呼ぶ).TNFαとIFNγの組み合わせ刺激は,JAK/STAT1/IRF1カスケードを活性化し,iNOSを介してなんと一酸化窒素(NO)の産生を誘導し,さらにカスパーゼ8/FADDを介したPANoptosisを誘導した(図4).マウスにおけるTNFαとIFNγの組み合わせ刺激は,COVID-19による組織損傷,ならびに致死的なサイトカイン・ショックを引き起こした.またマウスにおいて,TNFαおよびIFNγに対する中和抗体は,SARS-CoV-2感染による死亡,敗血症,血球貪食性リンパ組織球症およびサイトカイン・ショックを防止した.以上より,TNFαおよびIFNγの組み合わせにより誘導される炎症性細胞死シグナル伝達経路を遮断することが有力な治療となる可能性がある.→ JAK1/2阻害剤やTNFα阻害剤の有効性もこれまでの研究で報告されており,本研究と矛盾しない.COVID-19のサイトカイン・ストームのメカニズムはいまひとつ明確でなかったが,いよいよ本質に近づいてきた印象がある.治療として,カスケードの一番上流をブロックするTNFαおよびIFNγの中和抗体の併用療法の効果が期待される.
Cell. Nov 19, 2020(doi.org/10.1016/j.cell.2020.11.025)
◆患者回復期血漿輸血は介入30日後の予後,死亡率を改善しない.
患者回復期血漿輸血はCOVID-19患者に対ししばしば行われ,主に観察研究に基づいて予後を改善することが報告されてきたが,十分なパワーをもったランダム化比較試験は行われていない.アルゼンチンから,重症COVID-19肺炎を有する成人の入院患者を2:1の割合で,回復期血漿群とプラセボ群に無作為に割り付けた研究が報告された.主要評価項目は,介入後30日後の患者の臨床状態とし,全回復から死亡までの6段階の順序尺度で評価した.計228名の患者が回復期血漿群に,105名がプラセボ群に割り付けられた.症状の発症から試験登録までの期間の中央値は 8 日間であった.注入された回復期血漿の総SARS-CoV-2ウイルス抗体価の中央値は1:3200であった.脱落例はなかった.30日目の時点で,臨床転帰の分布において,回復期血漿群とプラセボ群との間に有意差は認められなかった(オッズ比,0.83;P=0.46)(図5上).全死亡率は,回復期血漿群で10.96%,プラセボ群で 11.43%であり,リスク差は-0.46 ポイント(95%CI,-7.8~6.8)であった(図5下).介入後 2 日目の総 SARS-CoV-2 抗体価は,回復期血漿群で高くなる傾向があった.有害事象,および重篤な有害事象は両群で同等であった.以上より,患者回復期血漿輸血は,介入後30日後の臨床状態,および全死亡率を改善せず,無効と考えられた.
New Engl J Med. Nov 24, 2020(doi.org/10.1056/NEJMoa2031304)