毎年,世界中で2200万ほどの人々が脳卒中に罹っており,うち400万人がtPA療法が可能な地域に住んでいるのだそうだ.そのなかで高齢者の割合は年々増加し,80歳以上の患者はtPA療法が可能な国では年100万人ほど存在すると見積もられている.
tPA療法はヨーロッパでは発症3時間以内,80歳未満の患者に限って行われている.またECASS-IIIの結果から4.5時間まで有効であることも分かっている.11の臨床試験(計3977名)を検討したコクランレビュー(2009)では,経静脈的なtPA療法は身体障害を伴わない自立した生存者を有意に増加させる一方,3%の患者に生命に関わる脳内出血をもたらすことを示した.さらに発症6時間まではtPA療法は有効である可能性も示した(もちろん早期治療ほど予後良好となる).ただし,問題点として,80歳以上の患者がリスクの高さから臨床試験にあまり含まれておらず(前述の3977名のうち79名),tPA療法の有効性は不明である点が挙げられる.このためtPA治療基準を満たさない症例,とくに高齢者に対するtPA療法の有効性と治療可能時間の検討を目的として,the third international stroke trial 3(IST-3)が行われた.
研究は国際大規模ランダム化オープン比較試験として行われ,ヨーロッパ諸国を中心に12カ国,156施設で実施された.対象は発症6時間以内の脳梗塞患者で,2000年から2011年までに登録された3035症例であった.実薬・偽薬の2群に無作為に割り付けた.tPAの使用量は0.9 mg/kgとした.特筆すべき本研究の特徴的な点として,明らかにtPA療法が適応と考えられる患者と適応とならない患者は除外したことがあげられる(明らかに適応となる患者には通常通りのtPA療法が行われた).つまり治療効果が期待されるものの適応基準を明確には満たさない患者が対象である.主要評価項目は,発症6ヶ月の時点でのOxford Handicap Score(OHS)による評価で0~2点の,自立した生存者の割合である.
結果であるが,まず患者背景としては80歳以上の高齢者は53%(1617名)含まれていた(90歳以上の210名を含む).前方循環梗塞(TACI)は43%(1305例),心房細動は30%(914例), NIHSSによる重症度評価では16点以上は32%(970例)であった(42点満点で高得点ほど重症).割り付けはtPA療法群1515名,対照群1520名として行われ,全例がITT解析された.2群間において患者背景に有意差を認めなかった.主要評価項目である「発症6ヶ月における自立した生存者の割合」は,tPA療法群で37%(554例),対照群では35%(534例),オッズ比1.13(95%CIは0.95-1.35,p=0.181)と統計学的な有意差を認めなかったが,介入による絶対増加は1000人につき14人(95%CI:20~48)であった.
副次評価項目の6カ月後のOHSスコアの変化では,転帰が良好となった症例は,tPA療法群で27%と有意に多く(オッズ比1.27,95%CIは1.10~1.47,p=0.001),tPA療法群で障害が軽度となる生存者が多かった.また転帰良好な結果が得られる患者を1000人につき29人増加させた.治療開始7日以内の致死性,および非致死性の症候性脳出血の頻度は,tPA療法群で7%(104例),対照群では1%(16例)であり,tPA療法群で有意に高かった(オッズ比6.94,95%CIは4.07~11.8,p<0.0001).死亡率はtPA療法群で27%(408例),対照群で27%(407例)と両群間に有意差なし.しかし,発症7日以内に限るとtPA療法群11%(163例),対照群7%(107例)で,tPA療法群において有意に高かった(p=0.001).逆に発症7日から6カ月間では,tPA療法群16%(244例),対照群では20%(300例)となり,tPA療法群で有意に低かった(p=0.009)。
さらに主要評価項目に対するサブグループ解析が行われた.問題の年齢に関しては,80歳未満の患者は,80歳以上の患者と比較し有意に良好であったが(p=0.029),80歳以上の患者であってもtPA療法により,自立した生存者が1000人につき30人増加し有効性が確認された.
以上より,tPA療法は,80歳以上の高齢者を含むハイリスク患者に対する検討で,主要評価項目である自立した生存者の割合こそ改善できなかったが,発症6時間以内の治療であっても機能予後を改善することが明らかになった.ハイリスク患者において治療効果が得られた意義は大きい.主要評価項目において有意差が出なかった理由としては,tPA療法群で治療開始7日以内の症候性脳出血の頻度,および発症7日以内の死亡率が有意に高かったことが影響しているものと考えられる.
<font color="blue">よってハイリスク患者に対するtPA療法の予後をさらに改善させるためには治療早期の脳出血の合併,すなわち血液脳関門の破綻をいかに防止するか(血管保護療法の開発)が今後重要な意味をもつものと考えられた.
The Lancet, Early Online Publication, 23 May 2012
The benefits and harms of intravenous thrombolysis with recombinant tissue plasminogen activator within 6 h of acute ischaemic stroke (the third international stroke trial [IST-3]): a randomised controlled trial
tPA療法はヨーロッパでは発症3時間以内,80歳未満の患者に限って行われている.またECASS-IIIの結果から4.5時間まで有効であることも分かっている.11の臨床試験(計3977名)を検討したコクランレビュー(2009)では,経静脈的なtPA療法は身体障害を伴わない自立した生存者を有意に増加させる一方,3%の患者に生命に関わる脳内出血をもたらすことを示した.さらに発症6時間まではtPA療法は有効である可能性も示した(もちろん早期治療ほど予後良好となる).ただし,問題点として,80歳以上の患者がリスクの高さから臨床試験にあまり含まれておらず(前述の3977名のうち79名),tPA療法の有効性は不明である点が挙げられる.このためtPA治療基準を満たさない症例,とくに高齢者に対するtPA療法の有効性と治療可能時間の検討を目的として,the third international stroke trial 3(IST-3)が行われた.
研究は国際大規模ランダム化オープン比較試験として行われ,ヨーロッパ諸国を中心に12カ国,156施設で実施された.対象は発症6時間以内の脳梗塞患者で,2000年から2011年までに登録された3035症例であった.実薬・偽薬の2群に無作為に割り付けた.tPAの使用量は0.9 mg/kgとした.特筆すべき本研究の特徴的な点として,明らかにtPA療法が適応と考えられる患者と適応とならない患者は除外したことがあげられる(明らかに適応となる患者には通常通りのtPA療法が行われた).つまり治療効果が期待されるものの適応基準を明確には満たさない患者が対象である.主要評価項目は,発症6ヶ月の時点でのOxford Handicap Score(OHS)による評価で0~2点の,自立した生存者の割合である.
結果であるが,まず患者背景としては80歳以上の高齢者は53%(1617名)含まれていた(90歳以上の210名を含む).前方循環梗塞(TACI)は43%(1305例),心房細動は30%(914例), NIHSSによる重症度評価では16点以上は32%(970例)であった(42点満点で高得点ほど重症).割り付けはtPA療法群1515名,対照群1520名として行われ,全例がITT解析された.2群間において患者背景に有意差を認めなかった.主要評価項目である「発症6ヶ月における自立した生存者の割合」は,tPA療法群で37%(554例),対照群では35%(534例),オッズ比1.13(95%CIは0.95-1.35,p=0.181)と統計学的な有意差を認めなかったが,介入による絶対増加は1000人につき14人(95%CI:20~48)であった.
副次評価項目の6カ月後のOHSスコアの変化では,転帰が良好となった症例は,tPA療法群で27%と有意に多く(オッズ比1.27,95%CIは1.10~1.47,p=0.001),tPA療法群で障害が軽度となる生存者が多かった.また転帰良好な結果が得られる患者を1000人につき29人増加させた.治療開始7日以内の致死性,および非致死性の症候性脳出血の頻度は,tPA療法群で7%(104例),対照群では1%(16例)であり,tPA療法群で有意に高かった(オッズ比6.94,95%CIは4.07~11.8,p<0.0001).死亡率はtPA療法群で27%(408例),対照群で27%(407例)と両群間に有意差なし.しかし,発症7日以内に限るとtPA療法群11%(163例),対照群7%(107例)で,tPA療法群において有意に高かった(p=0.001).逆に発症7日から6カ月間では,tPA療法群16%(244例),対照群では20%(300例)となり,tPA療法群で有意に低かった(p=0.009)。
さらに主要評価項目に対するサブグループ解析が行われた.問題の年齢に関しては,80歳未満の患者は,80歳以上の患者と比較し有意に良好であったが(p=0.029),80歳以上の患者であってもtPA療法により,自立した生存者が1000人につき30人増加し有効性が確認された.
以上より,tPA療法は,80歳以上の高齢者を含むハイリスク患者に対する検討で,主要評価項目である自立した生存者の割合こそ改善できなかったが,発症6時間以内の治療であっても機能予後を改善することが明らかになった.ハイリスク患者において治療効果が得られた意義は大きい.主要評価項目において有意差が出なかった理由としては,tPA療法群で治療開始7日以内の症候性脳出血の頻度,および発症7日以内の死亡率が有意に高かったことが影響しているものと考えられる.
<font color="blue">よってハイリスク患者に対するtPA療法の予後をさらに改善させるためには治療早期の脳出血の合併,すなわち血液脳関門の破綻をいかに防止するか(血管保護療法の開発)が今後重要な意味をもつものと考えられた.
The Lancet, Early Online Publication, 23 May 2012
The benefits and harms of intravenous thrombolysis with recombinant tissue plasminogen activator within 6 h of acute ischaemic stroke (the third international stroke trial [IST-3]): a randomised controlled trial