Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(1月30日)

2021年01月30日 | 医学と医療
今回のキーワードは,イスラエルにおける高齢者の高いワクチン接種率,感染可能なウイルス検体は発症から最長12日,モデルナ社ワクチンのアナフィラキシーも稀,ワクチンを打てない人・注意すべき人,ワクチンスーパーステーション,米国神経学会のワクチン接種に関する立場声明,南アフリカ変異株へのワクチンの中和能は低い,神経合併症の出現タイミング,急性小脳性運動失調・ミオクローヌス,鼻咽頭拭い後の髄液漏に伴う髄膜炎です.

イスラエルはワクチン接種率で世界をリードしています.人口の33%がすでに1回目の接種を済ませたそうです.Nature誌のニュース欄に,ファイザー・ワクチンBNT162b2を接種した60歳以上の20万人と接種しなかった20万人を比較した予備的な分析が行われ,最初の接種から2週間後の段階で,PCR陽性となる頻度が接種群で33%低下していることが分かったと書かれていました.高齢者の75%以上がワクチン接種を受けているため,今後数週間の間に接種を受けた高齢者の入院・死亡が減少するかが次の焦点となります.そして2回目の接種を受けた数週間後に,より決定的な結果が得られることになります.高齢者のワクチン接種率が日本でどうなるか心配です.外来で「ワクチンは怖いから打たないつもり」というご高齢の患者さんに,「あなたは副反応が出るリスクは高くないし,感染したらコロナは死ぬので,考え直すように」と伝えました.接種率向上に向けて担当医の役割は大きいと思います.また今朝の報道番組で,イスラエル在住の日本のかたが,イスラエルの高いワクチン接種率について「戦争のため,死に対する危機感が高い.日本は平和ボケしている.意識を高めないとこの危機から脱出できない」と仰っていました.まさにその通りだと思います.
Nature. News. Jan 22, 2021(doi.org/10.1038/d41586-021-00140-w)

◆発症から感染可能なウイルスが消失するまで7日,最長12日かかる.
韓国からの報告.入院患者21名から得た呼吸器サンプルを用いて,発症から培養及びPCRが陰性化するまでの期間が報告された.患者の年齢中央値は62歳で,男性76%であった.サンプルは1~5日の間隔(中央値 2 日)で採取し,計165サンプルでPCR,89サンプルで培養を行った.ウイルスは29/89サンプル(33%)で培養された.発症から感染可能なウイルスが消失するまでの中央値は7日(95%CI,5~10日)最長,発症から12日後まで認めた.また発症からPCRでウイルスが消失する(24時間空けて2回PCR陰性)までの中央値は34日(95%CIの下限,24日)であった.解熱後3日まで感染可能なウイルスが認められた.感染性を持つサンプルは,PCRのサイクル閾値が28.4以下のもののみであった.培養陽性率は,発症からの時間が長くなり,サイクル閾値が高くなるにつれて減少した(図1).これらの情報は患者の隔離期間の指針となる.また濃厚接触者追跡の二次感染のリスクを推定する上で有用であろう.
New Engl J Med. Jan 27, 2021(doi.org/10.1056/NEJMc2027040)



◆モデルナ社ワクチンのアナフィラキシーも稀.
2020年12月21日~2021年1月10日の間に,ワクチン有害事象報告システムによるモニタリングにより,モデルナ社ワクチンmRNA-1273の初回404万1396名の接種後に,10名のアナフィラキシーが生じた(100万回あたり2.5名).9例では,ワクチン接種後15分以内に発症した(図2).アナフィラキシーに関連した死亡例は報告されていない.ちなみにファイザー・ワクチンでは100万人あたりに換算すると11.1名であった.MMWR. Jan 22, 2021.(doi.org/10.15585/mmwr.mm7004e1)



◆COVID-19ワクチンをすべきでないひと,および注意を要するひと.
禁忌
1)mRNA COVID-19ワクチンの過去の投与または成分に対する重篤なアレルギー反応(アナフィラキシーなど).
2)mRNA COVID-19ワクチン(ポリエチレングリコール:PEGを含む)の過去の投与または成分に対する重症度を問わない即時のアレルギー反応.
3)ポリソルベート(PEGとの交差反応性過敏症の可能性がある)に対する重症度を問わず即時のアレルギー反応.
注意
1)他のワクチンまたは注射剤治療に対する即時のアレルギー反応の既往歴.
2)中等度から重度の急性疾患.
米国米国疾病予防管理センター(CDC)パンフレット.(https://bit.ly/3oyB81s)

◆米国医療保険機関におけるワクチンの4つの課題.
1)希望があり,ワクチンを受ける準備ができている人の接種を成し遂げること.
2)予防接種に消極的な人々(一般市民と医療従事者の両方)の信頼を得ること.
3)「よくある質問」に答えるだけではなく,信頼関係を築くことを目的とした,一般市民とのコミュニケーションに取り組むこと.
4)地域において政府と他の機関を連携させること.
ワクチンを迅速かつ公平に成し遂げるためには,信頼を築き,運営を管理し,より効果的にコミュニケーションをとり,他の公的機関や民間機関と協力しなければならない.
New Engl J Med. Jan 27, 2021(doi.org/10.1056/NEJMp2100574)

◆決定からわずか5日,開始からわずか2週間で5万8千人にワクチン接種したサンディエゴ.
2021年1月6日,サンディエゴ保健局はパドレス球団を含む関係者と会議を行い,毎日5000人にワクチンを接種することを目標とした,ワクチンスーパーステーション開設に合意した.そのわずか5日後,カリフォルニア州初の大規模なワクチン接種施設が開設され,2週間後には5万8千人以上の地域住民がワクチン接種を受けた.来院者は駐車場の北側から入場し(図3A),登録テントに移動してワクチンの適格性と登録データが確認される(図3B).つぎに12台の車両が3つのテント(1つのテントに4台)で一列に並べられ,1テント1人の接種者が車両に乗っている12人に接種する(図3C).接種終了後,15分間のカウントダウンが開始され,3人の接種者は別のテントに移動し接種を行う.この方法だと,1時間あたり432回,1日で5184回の接種が可能になるという.パドレスは,球場Petco Parkに隣接する駐車場や,ドライブスルーを含むイベント実施ノウハウを提供した.またITインフラの整備(ワクチン接種の自己予約システム,電子カルテへの統合,駐車場全体の無線wifiなど),スタッフの配置計画(毎日300人以上の人員確保:臨床部門120人,管理部門180人),ワークフローの設計・最適化,交通の調整などが行われた.→ まさにプロジェクトXである.日本でもこのスピーディーさが求められる.
JAMA. Jan 28, 2021(doi.org/10.1001/jama.2021.0801)



◆米国神経学会のCOVID-19ワクチン接種に関する立場声明(position statement).
A4にして1枚程度の声明だが,重要なポイントは以下の3点.
1)米国神経学会(AAN)はワクチン接種の推奨を支持する.
2)脳神経内科医は,神経疾患患者に特有のエビデンスに基づく推奨に必要なデータを収集する努力を支援し,参加し続けるべきである.
3)ハイリスク患者へのCOVID-19の蔓延を緩和するために,AANは資格のあるすべての神経内科医がCOVID-19に対するワクチン接種を受けることを強く奨励し,また資格のあるすべての患者へのワクチン接種を支持する.
AAN. Statement on COVID-19 vaccination(https://bit.ly/36r9YDz)

◆南アフリカ変異株へのワクチンの中和能は低い.
スパイク蛋白質に変異を持つ SARS-CoV-2 変異体である英国B.1.1.7および南アフリカB.1.351が拡散している.米国からモデルナ社mRNA-1273を第1相試験で2回接種された8名(18~55歳)の血清が,これら変異株に対しても中和能を有するか検討した研究がプレプリント論文として報告された.英国株B.1.1.7に対する中和には低下はなかったが,南アフリカ株B.1.351に対する中和力は,感染防御に必要な水準を恐らく満たすものの,6.4倍低下していた(図4:対数グラフ).南アフリカ株に現在のワクチンは十分でない可能性もあり,B.1.351を標的としたワクチン開発がすでに始まっている.
bioRxiv. Jan 25, 2021(doi.org/10.1101/2021.01.25.427948)



◆神経合併症の出現タイミング.
スペインの第3次病院に,第1波が発生した3ヵ月間に入院したCOVID-19患者を対象に行われた前方視的研究.期間中に少なくとも1つの神経学的合併症(77種類の神経疾患)を発症した入院患者は71/2750名(2.6%)であった.最も多かった診断は,神経筋疾患(33.7%),脳血管障害(27.3%),急性脳症(19.4%),けいれん発作(7.8%),その他(11.6%:吃逆,ミオクローヌス・振戦,ホルネル症候群,横断性脊髄炎)であった.発症のタイミング(中央値)は脳血管障害5日(0~53日),けいれん発作5日(0~43日),脳症10日(0~47日),神経筋疾患23日(0~60日),その他23日(10~45日)であった(図5).つまり神経筋疾患は後期に発症し,脳血管障害と脳症は早期に発症した.また髄液PCR は15名全例で陰性であった.
Eur J Neurol. Jan 21, 2021(doi.org/10.1111/ene.14748)



◆急性小脳性運動失調・ミオクローヌス.
フランスから,COVID-19に関連した急性小脳性運動失調・ミオクローヌスの2症例に,既報の5例を追加した症例集積研究が報告された.これらの神経症候は,最初の症状が出現後,10日から6週間で合併した.4名の患者にオプソクローヌスまたはocular flutterが認められた.1名を除き,免疫グロブリン療法やステロイドパルス療法が行われ,1週間以内に顕著な改善が認められた.早期の治療開始により迅速な回復が見込めるため,この病態を認識することが重要である.
Eur J Neurol. Jan 25, 2021(doi.org/10.1111/ene.14726)

◆検体採取後の髄液漏に伴う髄膜炎.
スペインからの症例報告.41歳の女性.2020年3月に鼻咽頭拭い液を採取し,PCRを行ったが陰性であった.1週間後,金属味を伴う片側性の持続性鼻漏が生じたが,アレルギー性鼻炎の診断で治療を受けたが症状は改善しなかった.7月,鼻腔ドレナージでβ2-トランスフェリンが陽性,頭部MRIを実施したところ髄液瘻が確認された.β2-トランスフェリンは他の体液には存在せず,また1μl の髄液もあれば十分に測定が可能であり,髄液漏の診断に有用である.
Eur J Neurol. Jan 21, 2021(doi.org/10.1111/ene.14736)




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「移行医療」を実現するポイント

2021年01月28日 | 医学と医療
「移行医療」をご存知でしょうか?小児の病気,例えばてんかんのように,内服によって不自由なく生活できる病気はもちろん,先天性疾患や脳性麻痺,筋ジストロフィーといった重篤な病気に至るまで,医療の進歩により,成人の年齢に達することができるようになりました.しかし,脳神経内科医は小児疾患に馴染みがないため,成人になっても小児科の先生が継続して診療をされるケースが多くみられます.その弊害として,成人になっても小児科に通院することに患者さんが悩んだり,成人病や認知症を発症した場合,今度は小児科の先生に馴染みがないため対応が困難になったりします.

私は岐阜に異動し,小児から成人診療科への「移行医療」の大切さを学ぶ機会を持ちました.ひとつは小児科教授の故深尾敏幸先生より,てんかん患者さんの「移行医療を一緒に実現させましょう」と声をかけていただいたこと,もうひとつは週1回,国立病院機構長良医療センターの重症心身障害児(者)を含む3つの病棟の回診をさせていただき,「移行医療」の重要性を学んだことです.

昨晩,日本神経学会主催「小児科から成人診療科への移行を語る会」というウェビナーがあり,5人のエキスパートの講演を拝聴しました.東京都立北療育医療センターの望月葉子先生は,「移行医療」のポイントとして,①患者さんにあった医療の最適化,②患者・家族が病気を理解するための教育,③地域医療連携によるサポート,④地域カンファレンスのような社会資源の見直しが大切だと強調されておられました.そしてもう一つ繰り返し出てきたことは,「小児科医と脳神経内科医がお互いの顔が分かる関係を築く」ということでした.私は毎週,小児科医の先生方と一緒に回診をさせていただくことで,多くのことを勉強し,成人の病気に対する助言も行うことができました.両者の信頼関係を築いていくことが「移行医療」の成功の鍵なのだろうと感じています.

図は日本醫事新報社のサイトから引用




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筋萎縮性側索硬化症の意外な予後バイオマーカー,クレアチニン

2021年01月27日 | 運動ニューロン疾患
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の予後バイオマーカー候補として,ニューロフィラメント重鎖(NfH)および軽鎖(NfL),尿酸,クレアチンキナーゼ(CK),クレアチニン(Cre),アルブミン,フェリチン,脂質代謝プロファイルなどが報告されている.筋の代謝産物である血清CreとCKは,ALSにおける筋萎縮・変性を反映している可能性があり,安価で容易に入手できるという利点がある.またCreは ALS マウスモデルにおける検討で,神経保護的作用を示すことからも注目される.今回,ALS患者における男女ごとの血清CreおよびCK値と生存率の関連を調べた研究が中国から報告された.

方法は血清Cre(正常84-135μmol/L)とCK(正常140-310μmol/L)測定を経時的に行ったALS患者346名(男性218名,女性128名)を対象とした前方視的コホート研究である.生存期間の解析にはKaplan Meier分析と多変量Cox回帰を用いている.

さて結果であるが,男性は女性に比べてベースラインの血清Cre値とCK値が有意に高かった.多変量Cox回帰分析の結果,血清Cre値の低さは男性(≦61 μmol/L, HR: 1.629; 95%CI: 1.168-2.273)と女性(≦52 μmol/L, HR: 1.677; 95%CI: 1.042-2.699)の双方で生存期間の短さと関連していたが(図1A,B),血清CK値は生存期間と相関していなかった.また,Cre値はALSFRS-Rスコアと正の相関があり(つまりCre値が低いほど重症になる:図1C),1ヵ月あたりのALSFRS-Rの低下率とは逆の相関があった(つまり低値なほど進行が速い:図1D).



追跡期間中,血清Cre値は男女とも疾患の進行に伴って低下する傾向があり(図2A,B),Creの1ヵ月あたりの低下率が高い群(>1.5)では,低群(≦1.5)と比較して生存期間が有意に短かった(30.0ヵ月 vs. 65.0ヵ月,P < 0.0001;図2C).



以上より,血清Creは,容易に測定可能な信頼性の高い予後予測マーカーであり,ベースラインのCre値の低下は,男性,女性に関わらず,ALSの予後不良と短い生存期間を予測する可能性がある.血清Creのようなルーチンで行われているありふれた検査値でここまで分かるのか・・・と少なからずショックを受けた論文である.多数例の集積と縦断的調査という大変労力がかかることができるかどうかなのだろう.

Guo QF, et al. Decreased serum creatinine levels predict short survival in amyotrophic lateral sclerosis. Ann Clin Transl Neurol. Jan 15, 2021


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バーンアウトの最大の要因は「自身の仕事を有意義と感じられないこと」である

2021年01月26日 | 医学と医療
日本神経学会は,医師のバーンアウトに対して先駆的な取り組みを行ってまいりました.そして,2019年10月,医師のバーンアウトに関連する要因を明らかにし,今後の対策に活かすためのアンケートを行い,脳神経内科医1,261名から回答を得ました.このたび,その結果が「臨床神経学」誌に報告されましたのでご紹介したいと思います.本研究は,日本人医師のバーンアウトに対する調査としては最大級のもので,今後のバーンアウト対策において重要な役割を果たすものと考えています.

まず評価尺度として選んだ日本版バーンアウト尺度の下位尺度の平均は,情緒的消耗感(情緒的な資源の枯渇)2.86/5点,脱人格化(患者に対する無情で,非人間的な態度)2.21/5点,個人的達成感の低下3.17/5点という結果でした.以前からバーンアウト研究の対象となってきた看護師と比較すると,情緒的消耗感は低く,個人的達成感は高いという結果でした.おそらく脳神経内科医は仕事から比較的高い達成感,効力感を得ており,それが消耗感ひいてはバーンアウトの抑止につながっているものと考えられました.

また本研究で注目すべきは,本邦の脳神経内科医のバーンアウトは,労働時間や患者数といった労働負荷ではなく,「自身の仕事を有意義と感じられないことやケアと直接関係のない作業など」と強く関連していたことです.これらを改善する対策を,個人,病院,学会,国家レベルで進めていく必要があると考えられました.加えてバーンアウトにおける男女の違いも重要なテーマですが,これについては久保,饗場らによる第2報で詳細な検討を行っています.

本研究は新型コロナ・パンデミック前に行われた調査ですが,バーンアウトが「自身の仕事を有意義と感じられないこと」と関連することから,自身の専門と異なる新型コロナの診療に従事する医療者では,バーンアウトのリスクが高まることが想像されます.以下は本論文にない個人の意見ですが,パンデミック前からバーンアウトのリスクに曝されてきた医療者は,現在,さらに厳しい状況にあるものと考えられます.病床数の不足などハードウェアの面ばかり報道されていますが,むしろ医療者をバーンアウトからいかに守るかの議論が必要だろうと思います.本論文は以下からDLできますので,ご一読いただき,この問題に関心を持っていただければと思います.



脳神経内科医におけるバーンアウトの現状と対策―第1報―.臨床神経Jan 26, 2021

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(1月23日)  

2021年01月23日 | 医学と医療
今回のキーワードは,無症状感染者からの感染頻度,変異株にもファイザーワクチンはおそらく有効,ワクチン接種の基本知識,神経筋疾患患者におけるワクチン,嗅覚・味覚障害は眼窩前頭皮質の障害,脳静脈血栓症57例の特徴,トシリズマブと抗スパイク中和抗体の臨床試験です.

強調したいことが2つあります.1つ目はトシリズマブや抗スパイク中和抗体の臨床試験を見ても分かるように,いまだCOVID-19の予後を大幅に改善する特効薬はないということです.とくに高齢者や危険因子をもつ人は,感染後,重篤な後遺症が生じたり,死亡するリスクが高いことを改めて認識する必要があります.2つ目は,幸運なことに,ワクチンの有効性は極めて高く,かつ副作用は極めて稀ということです.以上より,ハイリスク群に含まれる人は基本的にワクチンを接種することが望ましく,それが自身の命を守り,ひいては医療崩壊を防ぐことにも繋がります.これらのファクトを多くの人に理解してもらうため,行政は正しく分かりやすく情報を伝えること,医療者も患者さんの副作用のリスクを評価しつつ,問題がなければワクチン接種を励ますことが求められます.またワクチン接種が始まれば流行が抑えられるような期待がありますが,実はワクチンが感染力を持つ無症状感染者まで抑制しているかは不明で,流行を本当に抑えられるのかについてはデータがないことが指摘されています(New Engl J Med, COVID-19 vaccine resource center; https://bit.ly/2NjHIMr).その無症状感染者からの感染頻度は,59%と高いというメタ解析が今回,報告されました.

◆無症状の感染者からの感染はなんと59%を占める.
米国から無症状感染者からの感染の割合についての研究が報告された.使用した推定値としては潜伏期間の中央値を5日としたメタ解析のデータを用い,感染期間を10 日間,感染のピークは3~7 日間で変動させた.結果として,全感染の59%は無症候性感染によるものであり,うち35%は発症前の感染者からの感染,残り24%は経過を通してずっと無症状の感染者によるものであった(図1).つまり新規のCOVID-19患者の半数以上が,感染しているものの症状のない人からの感染によるものと推定された.
→ 症状をもつ患者の特定と隔離だけでは,COVID-19の感染拡大を抑制できない.感染拡大の抑制のためには,無症状感染者からの感染リスクを減らすことが不可欠で,そのためにはマスク着用,手指衛生,社会的距離,そしてPCR検査の拡大が絶対に必要である.
JAMA Netw Open. 2021;4(1):e2035057.(doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2020.35057)



◆変異株にファイザー/BioNTechワクチンはおそらく有効.
英国における変異株B.1.1.1.7は,従来のウイルス株より感染力が強い.この変異株は,スパイク蛋白にアミノ酸変異を10ヶ所,有するため,中和抗体の効果が弱まることが懸念されている.ドイツから武漢基準株,もしくは B.1.1.1.7 変異株に由来するスパイク蛋白を含む偽SARS-CoV-2-Sウイルスを,COVID-19 ワクチンBNT162b2(ファイザー/BioNTech)を接種した16名の血清を用いて中和できるか検討した研究が報告された.16名のワクチン後の血清は,2つの偽ウイルスに対して同等の中和力価を有していた(図2).以上より,変異株がワクチンによって誘導される体液性・細胞性因子を含む複合免疫から逃れてしまう可能性は低い.すなわちワクチンは有効であると推測される.
bioRxiv. Jan 19, 2021.(doi.org/10.1101/2021.01.18.426984)



◆ワクチン接種に関して知っておくべき知識.
ハーバード大学医学部のPaul E. Sax教授によるワクチン接種に関するQ&Aが,New Engl J MedのCOVID-19 vaccine resource centerに掲載された.重要なポイントを列挙する.
1)ファイザー/BioNTechのワクチン(BNT162b2),モデナ社のワクチン(mRNA-1273)とも,驚くほどの効果があり,有効性はこれまでで最も効果的なワクチンに匹敵する.偽薬と比較して,約95%の確率でCOVID-19の罹患を低下させた.
2)いずれも2回接種であるが,1回目の接種からわずか10~14日後で,ある程度の予防効果がみられる.しかし疾病管理予防センター (CDC) ,食品医薬品局 (FDA)とも,可能な限り2 回接種を推奨している.
3)効果の持続期間についての情報はまだない.モデナ社のワクチンの第1相試験の結果からは,中和抗体はほぼ4ヶ月間持続する.
4)ワクチンが無症状感染者まで抑制しているかは不明である.よってワクチン接種が開始されても,従来の対策(マスク着用,手指衛生,社会的距離)は継続すべきことを強調する必要がある.
5)どちらのワクチンも100%とは言えないが,非常に安全である.しかしごく稀な副作用の事例がニュース報道され,実際のリスクとは不釣り合いな程度に懸念が増幅される可能性がある.副作用のリスクは,COVID-19で重篤となるリスクよりもはるかに低いことを理解してもらう必要がある.
6)最も多い副作用は注射部位の痛みで,とくに接種後12~24時間は痛みを伴う.疲労と頭痛も比較的多いが,高熱は一般的ではない.これらは通常,数日以内に消失し,非ステロイド性抗炎症薬で改善する.一般的に,高齢者よりも若年者に副作用が多く,1回目より2回目接種で多くみられる.
7)重篤なアレルギー反応(アナフィラキシー)の報告があるものの,稀であることを理解いただくことが極めて重要である.推定で約10万回に1回の頻度である.この頻度は他のワクチンよりは高いが,ペニシリンで報告されている頻度(5000 回に 1 回)と比べ大幅に低い.
COVID-19 vaccine resource center(https://bit.ly/2NjHIMr)

◆神経筋疾患患者のワクチン接種をどうするか?
神経筋疾患はCOVID-19罹患の高リスク群と考えられていない.しかし今後,十分な量のワクチンが入手できるうようになれば,米国ACIP(予防接種の実施に関する諮問委員会)やCDC(疾病対策予防センター)が神経筋疾患を優先群に含める可能性がある.米国から神経筋疾患患者のワクチンについての指針が,Muscle Nerve誌に掲載された.神経筋疾患患者への推奨部分のみ日本語訳する.
1)ワクチン接種は,16~18歳以上の人に推奨される.ACIP/CDCがリスクを評価し,決定したスケジュールに基づいて行われる.
2)ワクチンは同じ製薬企業のものを,初回注射とブースター注射の両方に使用する.他の会社のワクチンの14日以内に接種すべきではない.
3)免疫抑制剤,免疫調整剤を服用していない神経筋疾患患者は,COVID-19感染によるリスクが,ワクチンの潜在的なリスクを上回る可能性が高いため,ワクチン接種が推奨される.
4)免疫抑制剤,免疫調整剤を服用している神経筋疾患患者では,この集団におけるワクチンの安全性や有効性に関するデータは現在のところない.しかし感染リスクを減らすことによるワクチンの利点は潜在的なリスクを上回る可能性が高いことを理解する必要がる.有効性が低下したとしても,COVID-19感染症に対して有益である可能性がある.
5)自己免疫性神経筋疾患患者では,ワクチンの安全性と有効性に関するデータは現在のところない.しかしワクチンの臨床試験参加者では,偽薬と比較して自己免疫疾患や炎症性疾患を発症するリスクの増加は認めなかった.ワクチン接種において禁忌のない自己免疫疾患患者は,ワクチンを接種することができる.
6)ギラン・バレー症候群の既往歴がある人や自己免疫疾患のある人は,ワクチンに対する禁忌がない限り ,ワクチンを接種できる.
7)ワクチンが全身性のCOVID19感染を誘発するものではなく,患者のDNAを変化させるものではないことを,患者にカウンセリングにより説明する必要がある.
8)ワクチンの既知の副作用について理解してもらい,さらにCDCによるV-safeのようなワクチン安全性追跡プログラムへの参加を奨励する.
9)ワクチンが妊婦や胎児にリスクをもたらす可能性は低いと考えられるが,潜在的なリスクは不明である.妊婦がワクチン接種が推奨されている群に属する場合,ワクチンの是非について医療者と話し合う必要がある.
Muscle Nerve. Jan 20, 2021(doi.org/10.1002/mus.27179)

◆嗅覚・味覚障害の原因は眼窩前頭皮質の障害である.
発熱,全身の疼痛,咳嗽,嗅覚・味覚障害にて発症した25歳女性.翌月には嗅覚・味覚障害は改善傾向を示したが,回復期に入り,不快な悪臭と味覚異常を感じるようになった.内視鏡やCTで副鼻腔の異常はなし.ステロイド,ビタミン,亜鉛による治療と嗅覚訓練を行ったが,症状が3ヵ月持続した.神経学的診察でも異常なし.頭部MRIでも嗅球や嗅裂を含め異常なし.機能的MRI(fMRI)を施行し,快適な香り刺激によるBOLD活性化マップを作成した.右側の鉤・梨状皮質では強いBOLDシグナルを認めたが,眼窩前頭皮質のシグナルを認めなかった(図3).健常者では,嗅覚刺激により,一次嗅覚野(梨状皮質,扁桃体,内嗅皮質)と二次嗅覚野(眼窩前頭皮質,視床下部,島皮質)のBOLD活性化のパターンがほぼ一致する.とくに眼窩前頭皮質には二次および三次嗅覚野と味覚野が含まれている.以上より,COVID-19の嗅覚・味覚症状の持続には,眼窩前頭皮質を中心とした中枢嗅覚経路の障害が関与している可能性が示唆された.
JAMA Neurol. Jan 22, 2021(doi.org/10.1001/jamaneurol.2021.0009)



◆脳静脈血栓症57症例の特徴.
COVID-19に関連した脳静脈血栓症(CVT)に関するシステマティック・レビューが報告された.28論文から57症例を同定した.性差はなく,50歳未満の発症が11例で認められた.90%の症例で,神経症状は呼吸器症状後に出現し,その間隔は平均13日であった.多発病変が67%,深部静脈系の閉塞が37%,脳実質出血の合併が42%で認められた.COVID-19以外の危険因子(経口避妊薬,多血症,腫瘍等)は31%に認められた.院内死亡率は 40%であった.3万4331人のデータを用いたCOVID-19入院患者におけるCVTの推定頻度は0.08%であった.入院患者における脳血管障害の4.2%が CVT であった.
Eur J Neurol. Jan 11 2021(doi.org/10.1111/ene.14727)

◆英国で使用推奨されたトシリズマブは,ブラジルでは早期打ち切りになった.
REMAP-CAP試験により,英国にて使用が推奨されることになった抗ヒトIL-6受容体モノクローナル抗体(トシリズマブ;アクテムラ®)であるが,ブラジルでもその効果を検証する無作為化オープンラベル試験が行われた.対象は酸素吸入または人工呼吸器管理を受け,少なくとも2つの血清バイオマーカー(CRP,Dダイマー,LDH,フェリチン)に異常を認めた重症者とした.トシリズマブ(8 mg/kgの単回点滴静注)+標準治療(n=65)と,標準治療単独(n=64)の比較が行われた.主要評価項目は,15日目の臨床状態(7段階の順序尺度)とした.トシリズマブ群では65名中18名(28%),標準治療群では64名中13名(20%)が,人工呼吸器管理の継続ないし死亡した(オッズ比1.54,P=0.32).15日目の死亡はトシリズマブ群で11名(17%),標準治療群で2名(3%)であった(オッズ比6.42).データモニタリング委員会は,トシリズマブ群で15日目の死亡数が増加したため,早期に試験を中止するよう勧告した.
BMJ Jan 20, 2021(doi.org/10.1136/bmj.n84)

◆抗スパイク中和抗体の早期治療の効果.
スパイク蛋白に対する抗体薬バムラニビマブ(LY-coV555)単剤療法,およびバムラニビマブとエテセビマブ(LY-CoV016)併用療法の効果を検討するBLAZE-1試験が報告された.軽度~中等度の症状を有する外来患者613名に対して米国で行われた無作為化第2/3相試験である.今回,第2相部分の最終解析が報告された.5つの群(バムラニビマブ単剤療法の用量を変えた3群,バムラニビマブとエテセビマブの併用療法を行った1群,偽薬群)が含まれる.主要評価項目は,11日目におけるSARS-CoV-2対数ウイルス負荷の変化とした.第2相部分は577名を対象としたが,3種類の異なる用量のバムラニビマブ単剤治療では,偽薬と比較してウイルス負荷の変化に有意差はなかった.一方,バムラニビマブとエテセビマブを併用した群では,偽薬と比較して11日目のウイルス負荷を有意に減少させた(群間差,-0.57,P=0.01).即時過敏症反応は9例に報告された.現在,3相試験が進行中である.
→ 米国FDAは,軽症から中等症で,重症化の危険因子を有する患者を対象に,抗スパイク蛋白抗体の併用療法の緊急使用を認めている.今後,どのような患者に治療効果があるのか明らかにする必要がある.
JAMA. Jan 21, 2021(doi.org/10.1001/jama.2021.0202)




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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(1月16日) 

2021年01月16日 | 医学と医療
今回のキーワードは,感染症法,アナフィラキシーは極めてまれ,ワクチンは変異株にも有効?COVID-19とジャーナリストの姿勢,long COVID,退院6ヶ月の症状,脳への感染の証明,抗MuSK抗体陽性重症筋無力症,頭痛の特徴,リツキシマブ療法のリスク,善玉腸内細菌の減少です.

政府で検討されている感染症法等の改正案は信じがたいものでした.患者・感染者への入院強制や検査義務化等に刑事罰もしくは罰則を設ける方針で,憂慮すべき状況です.これまで結核・ハンセン病などで,法的な患者の強制収容が行われ,著しい人権侵害が行われた過去があります.現行の感染症法はその反省から生まれたものです.感染者個人に責任を負わせることは,倫理的に受け入れがたいものです.もしこれが成立すれば,①罰則を伴う強制は国民の恐怖や不安・差別につながること,②罰則を恐れるあまり,検査を受けない,あるいは検査結果を隠蔽する可能性が生じること,③入院できない状況にある人は一層,検査を受けなくなること,が容易に考えられます.むしろ安心してPCR検査を受けられる環境を作る政策が求められているのではないでしょうか.日本医学会連合の「感染症法等の改正に関する緊急声明」もご覧頂きたく思います(https://www.jmsf.or.jp/news/page_822.html).

◆ワクチン摂取によるアナフィラキシー・ショックは極めてまれ.
米国疾病予防管理センター(CDC)からの報告.2020年12月14日~23日の間に,ワクチン有害事象報告システムによる調査で,Pfizer/BioNTechのワクチンの1回目の接種を行った約190万人(1,893,360人)のうち21人がアナフィラキシーを起こしたと報告された.100万人あたりに換算すると11.1人で,インフルエンザワクチンの1.3例より多いとはいえ,極めて稀な副作用であると言える.また21人のうち15人(71%)はワクチン接種後15分以内に発症した(範囲2~150分:中央値13分)(図1).事前にアレルギーなどのリスク評価を行うこと,接種後はエピネフリン注射などのアナフィラキシーに速やかに対処できる準備が必要である.また接種後の経過観察のためのスペースと,医療が逼迫している中での人員確保が問題になるかもしれない.
MMWR. Jan 06, 2021(doi.org/10.15585/mmwr.mm7002e1)



◆ワクチン接種患者血清はN501Y変異株を中和できる.
英国と南アフリカで発生し,急速に広まったSARS-CoV-2ウイルスの変異株は,いずれもN501Y変異を有している.これは細胞侵入のためのスパイク蛋白に位置し,受容体(ACE2)への結合を増加させるため,感染者数の増加が懸念されている.米国からの研究で,Pfizer/BioNTechのワクチン第3相試験の参加者20名の血清を用いて,作成したN501ウイルスとY501ウイルスへの中和力価を調べたところ,変異株に対しても従来と同等に中和できることが分かった(図2).ただし南アフリカで広まり,抗体を寄せ付けにくいと危惧されるE484K変異株への中和効果はこの論文では検討されていない.
bioRxiv. Jan 7, 2021(doi.org/10.1101/2021.01.07.425740)



◆COVID-19に対して主流メディアはどう対処したか?
Nat Med誌は,主流メディア(New York Times紙,Le Monde紙など,米,仏,印,南ア,ブラジル)のジャーナリスト5人に,パンデミック時の科学報道について,インタビューした記事を掲載した.非常に興味深い発言が多かった.
「私達は読者に正直でなければなりません・・・私達は,一般の人々に誤った期待を与えないようにしなければなりません」
「私がやろうとしていることは,毎日科学者と話をすることです.どの科学的成果が重要なのか,それとも理解が深まるまで待たなければならないものはどれなのかを毎日科学者に聞いています」
「私が最も頼りにしている情報源は,自分達が知っていることに長けているだけでなく,自分達が知らないこと,つまりこの分野全体が知らないことについて,非常に正直で,慎重な発言をする人達です」
「どのプレプリント論文を選択するかについてかなり慎重になってきています.通常,良い研究をしていると評判の良いグループのものだけ選んでいます」
「私達は実際には,科学者に説明責任を負わせるために存在しているのです」
「私達にとっての大きな課題は,政府の発言の科学的根拠を検証することです」
「科学者から政府へのアドバイスとは何か,政府の意思決定プロセスの不透明さをどうやって打破するかが話題になっていました」
→ 日本のマスコミはどのように姿勢で対処しているのか伺ってみたいと思った.
Nat Med 27, 17–20 (2021). (doi.org/10.1038/s41591-020-01207-3)

◆ Long COVID
COVID-19は,軽症から重症の急性感染を呈するだけでなく,長期にわたる症状を呈しうる.初期症状は軽度であるものの,感染後何ヶ月もの間,さまざまな消耗性の症状に苦しむことがある.重症の急性COVID-19とは異なり,男性よりも女性に多い.この状態は「long COVID(ないしpost-COVID syndrome)」と呼ばれている.正式な定義はないが,2ヵ月以上の持続する場合を指す場合が多い.持続的な疲労,筋痛,体位性頻脈症候群(POTS)などの自律神経障害,体温調節異常,消化器症状,皮膚症状などを呈する.この状態はエボラなどの感染症後症候群と類似し,筋痛性脳脊髄炎(慢性疲労症候群)とも症状がオーバーラップする.感染と免疫不活化が誘因となって発症することが多い.背景には,感染後の高炎症状態の持続が考えられているが,病態は不明であり,今後の研究が必要である.→ 若者を中心に感染しても怖くないと考える人も多いと聞くが,単なる風邪ではないことを理解いただく必要がある.
Nat Med 27, 28–33 (2021).(doi.org/10.1038/s41591-020-01202-8)

◆退院6ヶ月における症状として,疲労・筋力低下,睡眠障害,不安・抑うつが多い.
退院したCOVID-19患者の長期的な状況を明らかにし,関連する危険因子を調査した研究が武漢から報告された.2020年1月7日から5月29日までの間に退院した患者1733 名を対象とした.症状発症後の追跡期間の中央値は186.0日であった.疲労または筋力低下(63%;1038/1655名),睡眠障害(26%;437/1655名)が最も多い症状であった.次いで,不安または抑うつが23%(367/1617名)に認められた.入院中に重症化した患者では,肺拡散能の障害や胸部画像の異常所見がさらに悪化しており,治療介入が必要な主な対象集団となっていた.追跡調査時に血液中の抗体を検査した 94 名のうち,中和抗体の陽性率および力価中央値は,急性期に比べて有意に低下していた(96.2%→58.5%および19.0→10.0).
Lancet. Jan 08, 2021(doi.org/10.1016/S0140-6736(20)32656-8)

◆SARS-CoV-2ウイルスの脳への感染能力が複数の方法により確認される.
米国からSARS-CoV-2の脳への感染能力を調べるために,3つの実験が行われた.第1に,ヒトの脳オルガノイド(いわゆるミニ脳;人工的に作られたヒト脳に似る3次元構造体で,一般にヒトiPS細胞から作成される)を用いて,感染した神経細胞と隣接する神経細胞の代謝変化という,感染の明確な証拠を確認した.またACE2を抗体でブロックするか,患者髄液を投与することで,神経細胞の感染を防げることも確認した.第2に,ヒトACE2を過剰発現させたマウスを用いて,経鼻的にSARS-CoV-2を感染させると,7日目には脳の広範囲(小脳を除く)に感染が見られることを確認した(図3;ヌクレオカプシド蛋白による免疫ラベリング).第3に,患者剖検脳において,大脳皮質神経細胞にSARS-CoV-2が検出され,免疫細胞の浸潤が抑制されている病理所見を確認した.以上の3つの結果は,SARS-CoV-2が直接,脳に感染する能力を示すものである.→ 懸念されることは,一度,中枢神経に感染した場合,潜伏するのではないかということである.某先生から「感染後,回復した神経疾患患者に,免疫抑制剤を使用して再活性化する可能性はないか?」との質問を頂いた.まだ明確な根拠はないが,強力な免疫抑制剤の使用は慎重であるべきかもしれない.
J Exp Med (2021) 218 (3): e20202135.(doi.org/10.1084/jem.20202135)



◆感染後,抗MuSK抗体陽性の重症筋無力症も発症しうる.
イタリアからの症例報告.77歳男性が,SARS-CoV-2感染の8週後に重症筋無力症(MG)を発症した.胸線の異常なし.抗MuSK抗体はRIA法では陰性であったが,cell-based assay(CBA)にて検出された(図4).治療としては,ピリドスチグミンの後,アザチオプリン1.5mg/kg/日を使用し,2ヵ月後に症状が改善した.これまで抗AchR抗体陽性例は報告されているが,陰性の場合,抗MuSK抗体の確認も必要である.また血清学的診断におけるCBAの重要性が示唆された.
Eur J Neurol. Jan 09, 2021(doi.org/10.1111/ene.14721)



◆頭痛は経過良好のCOVID-19患者の初期症状として生じる.
COVID-19における頭痛の特徴と関連する因子を検討することを目的とした症例対照研究がスペインから報告された.頭痛の特徴は,退院後の半構造化電話インタビューによって評価した.全患者379名中,48名(13%)が頭痛を呈した.うち30名(62%)は男性で,年齢中央値は57.9歳であった.頭痛は,年齢が若く,併存疾患が少なく,死亡率が低いことに加え,CRP低値,軽症の急性呼吸窮迫症候群(ARDS),口腔咽頭症状と関連していた.ロジスティック重回帰モデルにより,頭痛は Dダイマーおよびクレアチニン値,高流量鼻カニューレの使用,関節痛と相関し,尿素,高血圧は負の相関を認めた.頭痛の特徴は23/48名(48%)で聴取でき,頭痛発症が8/20名(40%),うち17/20名(85%)が軽度~中等度の強さであった.17/18名(94%)では圧迫性で,8/19名(42%)は頭部全体,7/19名(37%)は側頭部に局在していた.以上より,頭痛は予後の良好なCOVID-19患者に見られること,初発症状となること,圧迫性で頭部全体ないし側頭部の痛みを呈することが示唆された.
Eur J Neurol. Jan 08, 2021(doi.org/10.1111/ene.14718)

◆リツキシマブ療法を受けている多発性硬化症ではCOVID-19に罹患しやすい.
スペインから多発性硬化症(MS)患者におけるCOVID-19発生率と特徴について検討した研究が報告された.対象は93名で,MS患者における罹患率は6.3%であった.19名(20.3%)が入院し,2名(2.2%)が死亡した.多変量モデルにより,年齢(10年あたりのオッズ比[OR] 0.53),感染確定例との接触(OR 197.02),バルセロナ在住(OR 2.23),MSの罹病期間(5年あたりのOR 1.41),抗CD20療法を受けている期間(2年あたりのOR 3.48)は,COVID-19発症の独立因子であった.また年齢は重症COVID-19発症の独立因子であった(10年あたりのOR 2.713).血清学的検査を受けた79名のうち,45.6%が抗体陽性であったが,抗CD20(リツキシマブ)療法を受けていた症例では17.6%に減少した(図5).MS患者では,COVID-19の罹患率,危険因子,予後は一般集団と同様であるが,抗CD20療法を長期間受けた患者はCOVID-19に罹患するリスクが高く,抗体反応も生じにくい.
Eur J Neurol. Dec 19, 2020(doi.org/10.1111/ene.14690)



◆COVID-19では免疫調節能を有する腸内細菌が減少する.
香港からの報告.COVID-19患者の腸内細菌叢(マイクロバイオーム)が疾患の重症度と関連しているか,またもしその組成に変化がある場合,SARS-CoV-2ウイルスの消失で改善するのか検討された.100 名の患者から血液,便を得て,また27名では,ウイルス消退後30日までの便を連続的に採取した.腸内マイクロバイオームの組成は,便から抽出した全 DNA のショットガンシークエンシングによって確認した.この結果,COVID-19患者の腸内マイクロバイオームの組成は,薬剤治療の有無にかかわらず,非COVID-19患者と比較して有意に変化していた(p<0.01).Faecalibacterium prausnitzii,Eubacterium rectale,bifidobacteriaなどの免疫調節能を有する腸内細菌は,COVID-19患者では十分に発現しておらず,ウイルス消失の30日後までの便でも同様であった.さらに,この異常な組成は,炎症性サイトカインやCRP,LDH,ASTなどの血液マーカーの上昇と一致し,疾患の重症度に応じて層別化できた.以上より,COVID-19患者において,腸内細菌叢が宿主免疫応答の調節を介してCOVID-19の重症度に関与している可能性が示唆された.
Gut. Jan 11, 2011(doi.org/10.1136/gutjnl-2020-323020)


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脳梗塞に合併する頭痛の特徴

2021年01月14日 | 脳血管障害
脳神経内科医になりたての頃,急性発症の激しい頭痛で救急外来を受診した患者さんを担当し,クモ膜下出血を疑い,頭部CTを撮像したものの異常はなく,小脳梗塞であることが判明した経験がある.その時に脳梗塞も頭痛発症することを学んだ.今回,脳梗塞時にみられた頭痛の特徴を,対照群と比較し,前方視的に検討した初めての研究がロシアから報告されたので,興味深く拝読した.clinical questionは2つあり,(i) 脳卒中発症時の頭痛の典型的な臨床的特徴は何か?(ii) この頭痛と脳卒中のどのような病態が関連しているのか?である.

対象は,初発の脳梗塞患者550名(平均63.1歳,男性54%)と,対照群として,救急外来に受診し,急性の神経障害や重篤な障害を伴わなかった者(腰痛,膵炎など)192名(平均58.7歳,男性36%)である.

さて結果であるが,頭痛は脳梗塞患者の82/550名(14.9%),対照群の9/192(4.6%)に認められた(図).脳梗塞の頭痛で最も多いのは,初めて経験するタイプの頭痛で(全体の8.4%;頭痛の56%),主に片頭痛様であった.次に多いのはこれまでとは特徴が変化した頭痛で(全体の5.5%;頭痛の36%),主に緊張型頭痛様であった.残りはいつもと変化のない通常の頭痛であった.



次に頭痛に関連する因子としては,心原性脳塞栓症(p=0.002,オッズ比[OR]=2.4),後方循環系の脳梗塞(p=0.01,OR=2.0),15 mm以上の梗塞(p=0.03),小脳梗塞(p = 0.02,OR = 2.3),良好な神経学的状態(p = 0.01,OR = 2.5),および大血管の動脈硬化の低頻度(p = 0.004,OR = 0.4)であった.

以上より,脳梗塞の15%で頭痛を認め,その特徴はこれまでに経験のない片頭痛様の頭痛や,いつもとは異なる緊張型頭痛が認められることが多いことが分かった.また頭痛を合併する脳梗塞を見た場合,心原性脳塞栓症,後方循環系,小脳梗塞を疑う必要がある.

Headache at onset of first‐ever ischemic stroke: Clinical characteristics and predictors
Eur J Neurol. Dec 16, 2020(doi.org/10.1111/ene.14684)


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REM睡眠行動障害の臨床研究における倫理

2021年01月12日 | 睡眠に伴う疾患
REM睡眠行動障害(rapid eye movement(REM)sleep behavior disorder; RBD)は,夢内容の行動化を呈する睡眠時随伴症(パラソムニア)である.長期的な経過観察で,αシヌクレイノパチーの発症(phenoconversion)が高率に認められる.RBDは,他の検査(例えばドーパミン神経画像:doi.org/10.1093/brain/awaa365)との組み合わせによりαシヌクレイノパチーの早期診断を実現する可能性があり,病態修飾療法への応用が期待されている.その一方で,将来の発症リスクの告知は,患者に動揺をもたらす恐れがある.しかし患者には知る権利があることから,適切な時期や方法を事例ごとに検討した上で告知し,告知後はRBDに対する生活指導と治療を行い,精神的にも支援する必要がある.これら臨床倫理的問題については,2017年に総説「Rapid eye movement(REM)睡眠行動障害の診断,告知,治療」を執筆したので,ご一読いただきたい(doi.org/10.5692/clinicalneurol.cn-000961).今回,有名な高齢者コホートの追跡研究であるロッテルダム研究を行っているオランダのチームが,既報の文献と,その研究における経験を踏まえ,RBDの臨床研究に対する倫理的ジレンマについて議論した論文を報告したので紹介したい.

著者らが重視した問題は,「RBDのスクリーニングで陽性と判断された場合,研究参加者に情報を伝えるべきか?さらに睡眠ポリグラフ検査(PSG)にてRBDが示唆された参加者には,将来,αシヌクレイノパチーを発症するリスクについての情報を提供すべきか?」という2点になる.すなわちインフォームド・コンセントとリスク開示という2つの問題を議論している.

まず図のように,伝えることの利点と問題点を整理した後,結論として,研究参加者には,研究に参加してもらった理由や,参加したあとに起こりうること(trajectory)を知らせることは不可欠で,十分な情報提供を行うべきと述べている.しかし,RBDスクリーニング検査や単回のPSGが陽性であった場合の臨床的意義は確実ではなく,すなわち偽陽性の可能性もあることを考えれば,参加者にRBDの診断や将来の発症リスクについての詳細な情報を早期に提供することで,不必要に悩ませるべきではないと述べている.個人的には納得できる見解だと思った.



最後に倫理的ジレンマに直面する今後の研究への推奨を以下のようにまとめている.臨床研究に関連した内容であるが,RBD患者さんに対する日々の臨床にも参考になると思う.

【倫理的推奨事項】
1)研究計画書の作成において,初期の段階から倫理学者を参加させる.
2)コホート研究に参加するためのインフォームド・コンセントの一環として,疾患リスク情報の開示を伴う可能性のある追加研究の可能性について参加者に伝える.
3)詳細すぎる情報を提供して不必要な苦痛を与えないように,研究参加後に起こりうることを参加者に伝える.
4)研究計画書を作成する際には,リスク情報の開示に対する参加者または患者の希望を考慮に入れる.
5)リスク情報は安全な環境で,できれば知識のある主治医が伝えるべきであり,手紙や電話での情報伝達は避ける.
6)研究で用いられる診断基準は,臨床診断基準とは異なることが多い.これらの違いと研究結果の不確実性を認識する.参加者に情報を伝える際には,個々の研究結果の不確実性を認識する.
Dommershuijsen LJ, et al. Ethical Considerations in Screening for Rapid Eye Movement Sleep Behavior Disorder in the General Population. Mov Disord. 2020;35:1939-1944. (doi.org/10.1002/mds.28262)

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(1月9日) 

2021年01月09日 | 医学と医療
今回のキーワードは,変異株の拡散と意義,ワクチンの副作用を防ぐ4つの質問,ワクチン接種において医療者が果たす役割,長期の昏睡状態からも回復しうる,やはりギラン・バレー症候群を引き起こす,血清・髄液バイオマーカー,高力価回復期血漿の早期輸血の有効性です.

新しい英国の変異株(系統B.1.1.1.7)の8つの突然変異はすべてスパイク糖タンパク蛋白質のなかにあり,ヒトACE2受容体との結合強化,およびウイルスの複製に影響を及ぼす可能性が指摘されてと考えられています.このため科学者のなかで強い懸念が広がり,冷静かつ早急な対策を求める声が上がりました.マスク,物理的距離ソーシャル・ディスタンス,大規模な集会の制限などの公衆衛生上の介入は有効なはずですが,より感染性の高い強い変異体異株を制御するには,従来の,今まで以上に対策をより厳格に適用し,幅広く行っていく強化することが強く求められます.しかし「ビジネス関係者の入国,一転継続」というニュースが報道され,目を疑うとともに失望しました.科学的事実に則った判断を行わねば,事態はさらに悪化すると思います.エキスパートの意見に謙虚に耳を傾ける必要があると思います.科学者の勧告を政策に反映できる国に変えていかねばなりません.

◆SARS-CoV-2変異株の拡散とその意義.
変異株B.1.1.1.7(図1Aの20B/501Y.V1:オレンジ色)は,昨年,12月から急速に増加している(図1B).変異株が注目される理由として,①感染力の増強,②宿主の抗体による攻撃を免れる可能性,③現在のワクチンが有効ではない可能性が挙げられる.よってウイルスの変異を長期間モニタリングすることが極めて重要で,日本におけるウイルス変異の状況の公開が求められる.一方,論文によると,ウイルスが変異による進化をする際に,トレードオフ(何かを得ると,別の何かを失う)が生じるという.つまり受容体への結合力増強を獲得する変異は,別のなにかの特性に変化が起こるそうだ.→ ウイルスの弱体化が生じてほしいと神頼みしたくなる.
JAMA. Jan 6, 2021(doi.org/10.1001/jama.2020.27124)



◆ワクチンの副作用をいかに防止するか?
ワクチンに関する総説が米国から報告された.強調されるポイントは2点で,①ワクチンの成分に対する重篤なアレルギー反応の既往がある人には,ワクチンを投与しないこと,②ワクチン接種後15分間はすべての患者を観察し,医療者はアナフィラキシーの診断・治療ができねばならないことである.総説では,以下の4つの質問を行い,リスク層別化する具体的な方法を提案している(図2).
①以前注射を受けた際,強いアレルギー反応が起こらなかったか?
②ワクチン接種でアレルギー反応が起こった経験はないか?
③食べ物,ハチ刺され,ラテックスに対してアレルギー反応を起こしたことがあるか?
④ポリエチレングリコール(PEG)やポリソルベートを含む注射に対するアレルギー反応の経験はあるか?
この答えから,高リスク,中等リスク,低リスクに層別化し,ワクチン接種回避を含めた対策を指示する.具体的には,すべてNoの場合はワクチン接種後15分の経過観察でOK,①から③のうちひとつでもYesの場合は30分経過観察,2つ以上,あるいは④にYesの場合はアレルギー診断医の判断のもと接種を受けるかどうか決めることを勧めている.日本でも同様の対応が求められる.
J Allergy Clin Immunol Pract. Dec 31, 2020(doi.org/10.1016/j.jaip.2020.12.047)



◆ワクチン接種において医療者が果たす役割.
ヨーロッパ神経学会の学会誌の論説に,ワクチン接種において脳神経内科医が果たすべき役割について提言がなされている.ワクチン接種の妨げとなっているのは,安全性や副作用への懸念,信頼の欠如,噂や作り話,情報へのアクセス障害などである.しかしワクチンの安全性と有効性に対する透明を確保し,国民の信頼を確立することによって,上記の要因は克服できるかも知れない.神経疾患を抱える患者さんはCOVID-19に脆弱である.論説では「脳神経内科医は患者さんに寄り添って,信頼できる情報源となることができる.正しい情報を提供し,説明し,接種を勇気づけることで,個人と集団の免疫の達成に貢献できる」と述べている.
Eur J Neurol. January 01, 2021(doi.org/10.1111/ene.14713)

◆長期の昏睡状態からも回復しうる.
オランダから,COVID-19に伴う重篤な急性呼吸不全によりICUに入院した6名の患者が,昏睡状態から長期間を経て覚醒したと報告された.覚醒のパターンは,全例で,指示が入らない開眼から始まり,持続的な弛緩性脱力を呈した.鎮静剤を中止してから,指示に完全に従えるようになるまでの期間は8日から31日であった.つまり,COVID-19に伴う重篤な呼吸不全患者にみられる長期の昏睡状態は可逆的であり,たとえ長期の昏睡状態であっても予後予測は慎重に行う必要がある.
Neurology. Dec 21, 2020(doi.org/10.1212/WNL.0000000000011355)

◆SARS-CoV-2はやはりギラン・バレー症候群(GBS)を引き起こす.
COVID-19は,GBSの原因ウイルスかという議論がある.スペインからの報告で,2ヵ月間の感染ピーク時に,61の救急診療科に受診したCOVID患者7万1904人のうち,11人がGBSと診断された.GBSの相対頻度は,非COVID患者と比べ,COVID患者では高かった(0.15‰対0.02‰;オッズ比6.30).標準化された発生率は9.44および0.69症例/10万人年であった(オッズ比13.5).臨床的特徴に関しては,嗅覚・味覚障害は,COVIDに伴うGBS患者では,そうでないGBS患者と比べて高頻度で(オッズ比27.59),COVIDに伴うGBSを疑うヒントになる.予後に関しては,COVIDに伴うGBS患者ではICUへの入室頻度が高かったが,死亡率は増加しなかった.→ GBSは感染予防により減少している印象があるが,もし遭遇した場合にはCOVID-19を疑って対応すべきである.
Ann Neurol. Dec 09, 2020(doi.org/10.1002/ana.25987)

◆神経合併症の血清・髄液バイオマーカー.
神経合併症のバイオマーカー研究が2つ報告された.1つ目はスイスからで,重篤なCOVID-19患者29名,重篤な非COVID-19患者10名,および健常対照259名において,神経損傷に特異的なバイオマーカーである血清ニューロフィラメント軽鎖(NfL)を測定した.神経学的合併症と年齢を調整した後,血清NfLはCOVID-19患者では他の2群と比べて高値であった.sNfLの高値は短期的には好ましくない転帰と関連していた(図3).予後不良な患者では,神経細胞傷害が顕著であることが示された.
Ann Neurol. Dec 30, 2020(doi.org/10.1002/ana.26004)



2つ目は髄液の検討で,スウェーデンからの報告である.神経症状を有し,軽症から重症のCOVID-19患者19名を前方視的に検討した.神経症状は,精神状態の変化(42%),頭痛(42%),中枢性の筋力低下(21%),末梢性の筋力低下(32%)であった.NfL,GFAP,総タウ蛋白濃度は上昇し,それぞれ63%,37%,16%の患者で上昇していた.とくにNfLの上昇は,疾患の重症度,集中治療期間,意識レベルと相関していた.つまり髄液NfLは,疾患の重症度および中枢神経症状と相関することが示された.
Eur J Neurol. Dec 28, 2020(doi.org/10.1111/ene.14703)

◆COVID-19の中枢神経感染に関して1年間で分かったこと.
標題に関して,Nat Rev Neurol誌は,ポイントを5つにまとめて紹介している.
1)SARS-CoV-2 感染に関連した神経症候群としては,嗅覚障害,脳症,脳卒中が最も一般的であるが,その他にも多くの疾患が報告された.
2)ヒト生検試料の検討では,嗅上皮および嗅球の非神経細胞(支持細胞)のSARS-CoV-2感染が主な原因であることが示唆された.局所的な炎症や神経細胞の機能不全が生じている.
3)COVID-19でICUに入院した患者の多くがせん妄を発症しており,その機序が微小血管および炎症性機序にあることが示唆されている.
4)剖検例では,COVID-19ではアストロサイトとミクログリアの活性化,とくに脳幹では細胞障害性T細胞の浸潤が見られることが示されている.
5)SARS-CoV-2はPCRや免疫組織化学で,脳内に検出できるが,神経細胞に直接感染するのではなく,ほとんどが血管や免疫細胞に存在することが示唆されている.つまり全身性炎症反応,血栓形成促進状態が病態としてより重要である(図4).
Nat Rev Neurol. Jan 7, 2021.(doi.org/10.1038/s41582-020-00453-w)



◆スパイク蛋白質への高力価の回復期血漿を早期に輸血することで重症化を抑制できる.
発症後 72 時間以内の軽症高齢成人患者を対象に,SARS-CoV-2に対する高 IgG 力価(スパイク蛋白質へのIgG力価が1:1000以上)の回復期血漿を250 ml投与する無作為化二重盲検プラセボ対照試験が実施された.主要評価項目は,重度の呼吸器疾患とした.合計160名の患者が無作為化された.治療群では,80名中13名(16%)の患者で重度の呼吸器疾患が発症し,偽薬群では80名中25名(31%)で生じた(相対リスク,0.52;P=0.03)(図5左).輸血後24時間における血漿抗スパイク蛋白質IgG力価も有意に上昇していた(図5右).問題となる有害事象は両群とも観察されなかった.
New Engl J Med. Jan 6, 2021(doi.org/10.1056/NEJMoa2033700)




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特発性小脳失調症を対象とした多施設医師主導臨床試験のご紹介

2021年01月07日 | 脊髄小脳変性症
2021年1月4日から,岐阜大学医学部附属病院では,指定難病の「脊髄小脳変性症」のうち,特発性小脳失調症(これまでは皮質性小脳萎縮症と呼ばれていた疾患です)の方を対象に臨床試験を開始しました.これは特発性小脳失調症のうち,血清中に抗体(抗小脳抗体)を有する患者さんの体のふらつきやしゃべりにくさなどの症状に対して試験薬を点滴し,その効果を観察するものです.この試験は,臨床研究法で定められる特定臨床研究に該当し,すでに認定臨床研究審査で審査され,Japan Registry of Clinical Trials(jRCT)に公表されています(臨床研究計画実施番号 jRCTs031200250).
この試験は,岐阜大学医学部附属病院と信州大学医学部附属病院で開始しましたが,現在,さらに2施設で開始の準備中です.

今回の試験では,特発性小脳失調症の診断基準Yoshida K et al. J Neurol Sci 2018)を満たす患者さんにおいて,まず抗体(抗小脳抗体)の有無を調べます.試験は血液中に抗体をもっている患者さんが対象になります.使用する薬剤の一般名は,メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウムという薬剤です.本薬剤を1日に1g点滴して,3日間続けるという治療法を一般的に“ステロイドパルス療法”と呼びます.本試験では,2回のステロイドパルス療法を行います.



本試験に関心がある,または,本試験への参加をご希望される場合は,かかりつけ医にご相談され,岐阜大学医学部附属病院脳神経内科(吉倉延亮臨床講師)または信州大学医学部附属病院脳神経内科・リウマチ膠原病内科(中村勝哉講師)に紹介状をもって予約の上,受診してください.詳細およびお問い合わせはこちらのホームページをご覧ください.

また岐阜大学医学部附属病院ならびに国立病院機構東名古屋病院では「進行性核上性麻痺を対象とした医師主導臨床試験」も進行中です.こちらもぜひご相談いただければと思います.

新聞報道をしていただきました.



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