Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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脳梗塞の遺伝的因子に関するメタ解析

2004年11月30日 | 脳血管障害
虚血性脳梗塞の遺伝的要因に関するメタ解析の結果がロンドン大学から報告された.対象論文は2003年1月までにMEDLINEなどのelectronic databaseに報告されたcase controlないしnested case control study(追跡しているコホート集団から疾病が発生したら,これを患者群とし,対照群を同じコホート集団から選び,両者について過去の暴露要因の有無を比較する方法)の英文論文とした.診断は画像診断が行われていることを条件とし,検討対象は白人・成人に限定した.120論文が対象論文となり,計32遺伝子についての検討を行った(odds比と95%信頼区間を検討).結果として,以下の4遺伝子が統計的に有意差を認めた;factor V Leiden Arg506Gln (OR, 1.33; 95%CI, 1.12-1.58),methylenetetrahydrofolate reductase (MTHFR) C677T (OR, 1.24; 95%CI, 1.08-1.42),prothrombin G20210A (OR, 1.44; 95%CI, 1.11-1.86),angiotensin-converting enzyme insertion/deletion (OR, 1.21; 95%CI, 1.08-1.35).これらは候補遺伝子として多数の症例数が調べられた上位4つの遺伝子でもあったが(それぞれ4588, 3387, 3028, 2990症例が調べられた),その次に検討された3遺伝子であるfactor XIII, apolipoprotein E, human platelet antigen type 1には統計学的な有意差は見出せなかった.
いずれにしてもこれまでのところ,単一の遺伝子で強力な影響を及ぼす遺伝子は見つかっておらず,複数の遺伝子が関与して脳梗塞のリスクを上昇させるモデルが考えやすいと言えよう.

Arch Neurol 61;1652-1661, 2004

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多発性硬化症治療薬としてFDAに承認されたnatalizumabについて

2004年11月28日 | 脱髄疾患
11月23日,TYSABRI (natalizumab) が「MSの再発回数を減らす」という効能にて,FDAに承認された.2つの1年間にわたる第3相試験結果をもとにしての迅速承認である(1つは単剤の試験AFFIRMで,もう1つはInterferon beta-1aとの併用試験SENTINEL).
 このnatalizumabは「α4 インテグリン拮抗薬」である.MS患者における炎症性脳病変は,活性化したリンパ球や単球が関与する自己免疫反応に起因すると考えられている.糖蛋白である α4 インテグリンは,これらの細胞表面に発現し,血管内皮への接着や脳実質への移動において重要な役割を担う. natalizumab は,実験モデルやMS患者での予備研究において脳病変におけるα4 インテグリンの発現を減少させる.
 ちなみに本剤のプラセボ比較対照試験は2003年にNEJMに報告されている.研究モデルは無作為二重盲検試験で,RR型またはSP型MS患者計213例を,3 mg/kgのnatalizumabの静脈内投与群(68例),6 mg/kg の静脈内投与群(74 例),プラセボ群(71 例)の3群に割付け,28 日毎に 6 ヵ月間投与.主要エンドポイントは,6 ヵ月の治療期間中に毎月行ったGd造影MRIにおける新たなプラークの数であった.結果としては,natalizumab投与の両群で,新規プラークの個数が顕著に減少した.プラセボ群では患者1例当り9.6個であったのに対し,3 mg群では0.7個(P<0.001),6 mg群では1.1 個(P<0.001)であった.また再発は,プラセボ群27 例で見られたのに対し,3 mg群では13 例(P=0.02),6 mg群では14 例であった(P=0.02).健康状態に関する自己申告でもプラセボ群はわずかに悪化したのに対し, natalizumab群では改善を認めた.すなわち,再発性MS患者においてnatalizumab による治療は,6 ヵ月の期間で炎症性の脳病変をより少なくさせ,再発をより減少させた.
MSにおける再発予防の薬剤として,欧米で承認されていながら本邦では認可されていないものがいくつもあり,臨床の場で悔しい思いをすることが少なくない.NatalizumabはMRIにおける評価では極めて有効と考えられ,本邦でも速やかに治験が開始されることを願いたい.

N Engl J Med 348;15-23,2003
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筋緊張性ジストロフィー若年発症者における重症不整脈

2004年11月27日 | 筋疾患
筋緊張性ジストロフィー(DM1)は19p13におけるCTG expansionにより発症する,多臓器を障害する疾患である.そのなかで不整脈は予後因子と考えられているが,若年者では稀と考えられてきた.また,重症不整脈がDM1において初発症状となりうるのかも不明であった.
 今回,フランスから心臓合併症を認めたDM1若年者に関するcase seriesが報告された(retrospective study).症例は10~18歳の11症例(男8名,女3名)で,臨床像は先天性DM,小児型DM,および若年発症DMを含む.これらの症例におけるCTG repeatサイズはさまざまであった.不整脈の種類は,心室細動や心房粗動などの頻脈性不整脈が多く,伝導障害や心筋症は稀(心エコーは施行例全例で正常).経過観察中に2例が突然死,1例が心停止後蘇生された.半数の症例で運動により不整脈が誘発され,運動負荷心電図を行うことがDM1若年発症例で重要であると考えられた.以上の結果より,先天性および小児期発症例,ないし明らかな筋症状を示さない(asymptomatic)成人発症DM1においても重症不整脈を呈しうることが示唆された.
 実際に臨床上問題となるのは,DM1患者の子供の世代かもしれない.つまり,筋症状が明らかでなくても不整脈が生じうることから,臨床的に未発症と考えられても念のため運動負荷心電図を行うべきと考えられる(ただし遺伝相談や心理的サポートも重要になる).また今回の研究では不整脈の合併頻度についての記載はなく,DM1若年者においてどのぐらいの頻度で重症不整脈や突然死が生じるのかという情報が今後重要になると思われる.

Neurology 63; 1939-1941, 2004
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抗うつ薬(SSRI)使用者における異常出血の増加

2004年11月26日 | 脳血管障害
セロトニンは血小板凝集に重要な役割を果たす.SSRIはセロトニン再取り込み阻害作用を有するため血中セロトニン値に影響を与える.以上より,SSRIが異常出血のリスク増加につながる可能性が指摘されていた.この仮説を検証する目的で,オランダにおいて1992-2000年の9年間におけるnested case-control studyが行われた.オランダの85万人以上の投薬データベースから少なくとも30日のSSRI投薬を受けた患者群64000症例を対象とした.このうち異常出血の診断で入院した患者を同定した.またSSRIをセロトニン再取り込み阻害作用の程度で高,中間,低に分類し,各群において結果を評価した(ロジスティック回帰分析).
結果としては計196例の異常出血(尿路出血,上部消化管出血,脳出血,血尿,鼻出血,喀血,関節血症,血腫)を同定.入院のリスクは,中等度活性SSRIでodds ratio 1.9(95%CI 1.1 - 3.5),高度活性SSRIで2.6(95%CI 1.4 - 4.8)であった.以上の結果は,SSRI内服者ではセロトニン取り込み阻害活性の作用が強いほど異常出血のリスクが増すことを示唆する.SSRIは頻用される薬剤であるため,本報告は非常に重要であると思われる.とくに抗血小板薬や抗凝固薬,出血性素因のある患者など,今後,注意して使用する必要がある.

Arch Intern Med 164;2367-70, 2004
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Neuro-HAART;AIDS中枢神経症状に対する抗レトロウイルス薬の効果

2004年11月25日 | 感染症
AIDSに対するHAART(highly-active anti-retroviral therapy)が近年,一般的に行われつつあるが,中枢神経移行性の高い抗レトロウイルス薬(neuroactive drugs)を用いたHAART(neuro-HAART)が神経・精神症状に有効であるかどうかについては十分解明されていない.今回,オーストラリアからneuro-HAARTの効果についての検討が報告された.対象は97例のHIV陽性患者で,HAART施行期間は平均18.5ヶ月,年齢は平均48.14歳.Neuroactive drugを3剤以上使用した群41例とそれ以外のHAART群56例,さらにseronegativeのコントロール30例の3群を比較した(neuroactive drugはnevirapine,efavirenz,stavudine,zidovudine,lamivudine,abacavir,indinavirの7剤).評価項目は7つの神経心理学的検査.結果として,neuro-HAART群とHAART群では神経心理検査に明らかな差を認めず,neuroactive drugの使用数も結果に影響しなかった.しかし,neuro-HAART群とHAART群において神経・精神機能に障害を認める症例のみを比較すると(それぞれ16例,21例)verbal memoryが有意にneuro-HAART群で良好であった(p=0.04).この結果は,neuro-HAARTが有効性を発現するのは,ある程度,神経症状が進んでからということを示唆する.
いずれにしても,HAARTが普及し,日和見感染症がある程度抑制できるようになった現在,再重要課題は神経症状の抑制である.Neuroactive drugの組み合わせの効果についても,今後,検討する必要があるものと思われる.

Arch Neurol 61; 1699-1704, 2004

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SCA23の臨床像・連鎖解析

2004年11月25日 | 脊髄小脳変性症
オランダからSCA23の臨床像,および連鎖解析の結果が報告された.少なくとも3世代にわたる常染色体優性遺伝形式の1家系で,発症年齢は40~60歳代.表現促進現象については不明(第Ⅱ世代の情報が乏しいため).神経学的には小脳症状に加え,深部覚の障害と腱反射の亢進を認めている.経過は緩徐進行性.1例で剖検が行われ,病理学的にプルキンエ細胞層,歯状核,下オリーブ核の神経細胞脱落,小脳橋路の菲薄化,脊髄の後索・側索の脱髄,さらに若干の黒質ニューロンにおいてubiquitin陽性NII(1C2やataxin-3抗体は陰性)を認めた.Genome-wide linkage analysisではD20S199にて最大ロッドスコア3.46(θ=0)を得た.以上よりHUGOにて20p13-12.3はSCA23の遺伝子座位として認定された.同領域内でtriplet repeatをもつ遺伝子などについてcandidate gene approachが行われたが,今のところ原因遺伝子不明とのこと.
 
Brain 127; 2551-2557, 2004

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FMR1遺伝子CGGリピートは多系統萎縮症の原因となるか?

2004年11月23日 | 脊髄小脳変性症
FMR1遺伝子のCGGリピート延長は精神遅滞,運動障害,自閉症などを特徴とするfragile X syndromeの原因となるが,CGGリピートが50-200回続くPremutation expansion (PE)を有する男性は,PEを持たない男性に比べパーキンソン病によく似た振戦や失調歩行を13倍発現しやすいことが報告されている(fragile X-associated tremor/ataxia syndrome;FXTAS)(JAMA 291; 460-9, 2004). fragile X syndromeの有病率は男性で3600人に1人,女性で4000-6000人に1人と言われ,さらにFMR1にPEを有するアメリカ人の割合は高く,男性で259人に1人,女性で813人に1人と推定されている.
  今回,テネシー州Vanderbilt大よりMSAの原因として,FMR1遺伝子のPEが関与するかの検討が行われた.対象は65例のprobable MSA(男女を含む).CGGリピートは平均30(20~51)で,40以上の症例は3例のみ.これらの3例の臨床症状に関しては他の症例と比べ大きな変化を認めなかった.以上の結果からMSAの表現型においてFMR1遺伝子のPEが影響を及ぼしている可能性は低いものと考えられる.(図はFXTASに特長的な中小脳脚のT2WI highの異常信号)

J Neurol Sci 227; 115-118, 2004

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てんかん発作に伴う外傷は過度に心配する必要はない?

2004年11月22日 | てんかん
ミネソタ州ロチェスター(Mayo Clinicの所在地)において,てんかん患者の発作時における外傷の危険性についてretrospectiveなpopulation-based studyが行われた.患者は1975~1984年までにてんかんと診断された247名.外傷は口舌の外傷を除くすべてと定義した.外傷の危険因子を検討する目的で,外傷を認めない群との比較を行った.結果としては,2714人年の観察期間に,39名(16%)において計62外傷を認めた(44人年に1回の頻度).多くの場合(82%),外傷は頭部軟部組織の挫傷・裂傷で,多くは重症のものではなかった.単変量解析による危険因子の解析では①抗てんかん薬内服の種類が多いこと,②生活の自立が困難であること,③Rankin scoreが高いこと(ADLの状態が悪い),④全般性てんかんやいわゆるdrop attackの既往,⑤てんかん発作の頻度が高いこと,が挙げられた.多変量解析では,てんかん発作の頻度のみが唯一の危険因子であった.
つまり,てんかん発作に伴う外傷頻度は高くなく,かつ一般に軽症であったことから,外傷を避けるための過度の日常生活動作の制限は不必要であると言える.ただし,上述の危険因子を伴う場合にはより厳密なコントロールが必要であることを神経内科医,患者とも認識すべきである.

Neurology 63; 1565-1570, 2004

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ドネペジルは多発性硬化症の記憶障害を改善する

2004年11月22日 | 脱髄疾患
現在,本邦で認可されているAD治療薬はアセチルコリン・エステラーゼ(AChE)阻害薬であるドネペジル(アリセプト®)のみであるが,そのドネペジルが記憶・認知障害を合併するMS症例に対して有効かどうかニューヨーク州立大学が検討した.方法はsingle center double-blind placebo-controlled studyで,69症例に対しドネペジル10mgないし偽薬を割り付け,24週後に評価した.症例はRR,SP,PPを含み,IFN-betaを使用している症例はそのまま継続して使用可とした.評価項目はselective reminding test(SRT)におけるverbal learning とmemoryの項目,認知機能検査,患者および主治医の評価など.この結果,ドネペジル群は偽薬群と比較し,SRTのmemory testが有意に改善し(p=0.043),これは年齢,性別,EDSS,MSサブタイプなどの共変量に関わらず有意差は認められた.また患者,主治医ともドネペジル群において有意に記憶力の改善を報告医した(p=0.006およびp=0.036).重篤な副作用は認めなかったが,異常な夢の経験がドネペジル群で有意に多かった(p=0.010; 34.3% vs 8.8%).
 今後,多施設での検討が行われることになると思われる.またアセチルコリン系の賦活がなぜMSにおける認知・記憶障害に有効であるかの機序については良く分かっていない.

Neurology 63; 1579-1585, 2004 

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脳梗塞における超音波による血栓溶解治療

2004年11月21日 | 脳血管障害
閉塞した中大脳動脈に残存する血流を標的とした経頭蓋超音波ドップラー検査は,血栓がt-PAに曝露するのを促進する可能性がある(血栓内のフィブリン構造に変化を及ぼすことでt-PAとフィブリンの結合を増加させるらしい).
 今回,2 MHz の継続的経頭蓋超音波ドップラー検査がt-PAによる超急性期血栓溶解療法の効果を改善させるか,またその安全性についての検討が行われた(Texas-Houston Medical School).MCAの閉塞による脳梗塞を起した患者126 例に,症状出現後 3時間以内に t-PA 静注を行った.その後,超音波検査群(63 例),プラセボ検査群(63 例)に割り付けた.主要複合エンドポイントは,経頭蓋超音波ドップラー検査で判定した完全な再開通または著明な臨床的回復とした.副次的エンドポイントは,24 時間の時点での回復,3 ヵ月の時点での良好な転帰,3 ヵ月の時点での死亡とした.結果としては,各群とも3 例で症候性頭蓋内出血が起きた.t-PA のボーラス投与後 2 時間以内に完全な再開通または顕著な臨床的回復を示した患者は,試験群31 例(49%),プラセボ群19例(30%)で有意差あり(P=0.03).治療から24時間後,著明な臨床的回復を認めたのは超音波群24例(44%),プラセボ群21例(40%)で有意差なし(P=0.7).3 ヵ月の時点で良好な転帰(Modified Rankin Scaleでスコア0~1 と定義)を呈したのは超音波群で22/53例(42%),プラセボ群ので14/49例(29%)で有意差なし(P=0.20).以上より,継続的に行う経頭蓋ドップラー検査は,脳卒中からの回復率の上昇に有意差を認めなかったものの,プラセボ検査と比較しt-PA による動脈の再開通率を増大させ,とくに出血合併症の増加もなかった.
 以上の結果から,経頭蓋超音波ドップラーを治療として行うかどうかは判断しにくい感じもするが,少なくともt-PA静注時代を迎え,経頭蓋超音波ドップラー技術の習得は神経内科医にとって不可欠なものになると言えよう.

N Engl J Med 351;2170 -2178, 2004

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