麦角系アゴニストによる心臓弁膜症に関して厚生労働省の見解が示され,カバサールの添付文書が改訂された.これによると非麦角系アゴニストを第一選択とするよう記載されている.またカバサール使用中の場合,定期的な心エコーが必要とされている(本剤投与開始の心エコー検査が必須で,さらに投与開始後3~6 ヵ月以内に,それ以降は少なくとも6~12 ヵ月毎に心エコー検査を行う必要がある).しかし,アゴニスト投与患者における心エコーは保険請求できないそうだ(苦笑).私には予想以上に厳しい判断に思えた.たしかにアゴニストによる心臓弁膜症は問題ではあるが,現時点で,心不全まできたす症例がいるのかどうか,また薬剤使用量との発症リスクについては十分なデータがない状態ではなかったのではなかろうか.今回の麦角系アゴニストという選択肢を事実上奪ってしまう措置は,過剰反応のように思えてしまう.タミフル問題でたたかれた厚生労働省が問題が生じる前に責任回避の措置をしているように思えるのは私だけであろうか?
さてカバサールやペルマックスをやめざるを得なくなると,pramipexole(商品名;ビ・シフロール)を使用する頻度が増えるのではなかろうか.PramipexoleはドパミンD2受容体ファミリーに強い親和性をもつ非麦角系ドパミン・アゴニストで,副作用としては他のドパミン・アゴニストと同様に,嘔気,突発的睡眠,幻覚,病的賭博・性欲亢進などの衝動性の行動を呈する.今回,pramipexoleに伴う副作用としての下腿浮腫とその危険因子に関する臨床研究がアメリカから報告されている.
方法はretrospectiveにカルテを確認するという方法である.Philadelphiaの退役軍人病院にて行われたstudyで,2002年12月から2004年12月の期間を対象としている.2変量ないし多変量ロジスティック回帰モデルを用いて,合併する疾患や他の薬剤,パーキンソン病の状態など,どのような因子が下腿浮腫の危険因子となるのか検討した.下腿浮腫の出現時期に関する検討はKaplan-Meier 法と多変量Cox比例ハザードモデルを用いている.
さて結果であるが,273名の患者がpramipexoleを使用していた.このうち38名 (16%)に下腿の浮腫が認められた.多変量ロジスティック回帰モデルにて検討した危険因子としては特発性パーキンソン病であること (オッズ比4.80; 95%CI, 1.54-14.98; P = .007),冠動脈疾患の既往(オッズ比3.35; 95%CI, 1.51-7.46; P = .003),糖尿病の既往(オッズ比3.12; 95% CI, 1.01-9.60; P = .05)の3つが判明した.Pramipexoleの内服量と下腿浮腫の発生率および重症度については関連がなかった.治療開始後最初の1年間に下腿浮腫が出現する危険性は7.7% (95% CI, 4.5%-12.9%)で,冠動脈疾患の既往のある患者ではより進行が早かった.結論として,下腿浮腫はpramipexoleを内服中のパーキンソン病患者において少なからず見られる副作用であり,冠動脈疾患の既往は危険因子として重要であるということである.
ただし本研究の問題点を挙げるとすれば,まず対照群がないことが致命的である.このために冠動脈疾患の既往が交絡因子として浮腫の発生に関わっている可能性が否定できない(この場合,pramipexoleは浮腫の直接の原因ではないということになる).またpramipexoleが浮腫を引き起こすとした場合もその機序は全然不明である.もう一つの問題点は,浮腫を認めた患者の心機能の評価をほとんど行っていないことである(その理由として,担当したのはみな神経専門医で,pramipexoleにより浮腫が生じることを知っていたからと言っている!?).そうは言っても下腿の浮腫を見れば心機能を評価するべきではなかっただろうか.今後,使用が増えると思われるpramipexoleだけに,下腿浮腫の出現に注意して診療する必要があると思われた.
Arch Neurol 2007; 64 (published on line)
さてカバサールやペルマックスをやめざるを得なくなると,pramipexole(商品名;ビ・シフロール)を使用する頻度が増えるのではなかろうか.PramipexoleはドパミンD2受容体ファミリーに強い親和性をもつ非麦角系ドパミン・アゴニストで,副作用としては他のドパミン・アゴニストと同様に,嘔気,突発的睡眠,幻覚,病的賭博・性欲亢進などの衝動性の行動を呈する.今回,pramipexoleに伴う副作用としての下腿浮腫とその危険因子に関する臨床研究がアメリカから報告されている.
方法はretrospectiveにカルテを確認するという方法である.Philadelphiaの退役軍人病院にて行われたstudyで,2002年12月から2004年12月の期間を対象としている.2変量ないし多変量ロジスティック回帰モデルを用いて,合併する疾患や他の薬剤,パーキンソン病の状態など,どのような因子が下腿浮腫の危険因子となるのか検討した.下腿浮腫の出現時期に関する検討はKaplan-Meier 法と多変量Cox比例ハザードモデルを用いている.
さて結果であるが,273名の患者がpramipexoleを使用していた.このうち38名 (16%)に下腿の浮腫が認められた.多変量ロジスティック回帰モデルにて検討した危険因子としては特発性パーキンソン病であること (オッズ比4.80; 95%CI, 1.54-14.98; P = .007),冠動脈疾患の既往(オッズ比3.35; 95%CI, 1.51-7.46; P = .003),糖尿病の既往(オッズ比3.12; 95% CI, 1.01-9.60; P = .05)の3つが判明した.Pramipexoleの内服量と下腿浮腫の発生率および重症度については関連がなかった.治療開始後最初の1年間に下腿浮腫が出現する危険性は7.7% (95% CI, 4.5%-12.9%)で,冠動脈疾患の既往のある患者ではより進行が早かった.結論として,下腿浮腫はpramipexoleを内服中のパーキンソン病患者において少なからず見られる副作用であり,冠動脈疾患の既往は危険因子として重要であるということである.
ただし本研究の問題点を挙げるとすれば,まず対照群がないことが致命的である.このために冠動脈疾患の既往が交絡因子として浮腫の発生に関わっている可能性が否定できない(この場合,pramipexoleは浮腫の直接の原因ではないということになる).またpramipexoleが浮腫を引き起こすとした場合もその機序は全然不明である.もう一つの問題点は,浮腫を認めた患者の心機能の評価をほとんど行っていないことである(その理由として,担当したのはみな神経専門医で,pramipexoleにより浮腫が生じることを知っていたからと言っている!?).そうは言っても下腿の浮腫を見れば心機能を評価するべきではなかっただろうか.今後,使用が増えると思われるpramipexoleだけに,下腿浮腫の出現に注意して診療する必要があると思われた.
Arch Neurol 2007; 64 (published on line)