Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

Twitter @pkcdelta
https://www.facebook.com/GifuNeurology/

新しい優性遺伝性筋ジストロフィーの発見 ―zaspopathy―

2005年01月30日 | 筋疾患
 新しい常染色体優性遺伝性筋ジストロフィーが報告された.この筋ジストロフィーは筋節(sarcomere)の両端を仕切っているZ線(Z板)の構成蛋白のひとつ, ZASP (Z-band alternatively spliced PDZ motif-containing protein)をコードする遺伝子変異が原因で発症するため,この疾患はzaspopathyと命名された.
この発見の背景として重要なのはmyofibrillar myopathy(MFM)の概念である.MFMは筋病理学的にZ線の崩壊と,それに伴う筋原線維の崩壊・種々の蛋白(myotilin,接着因子,gelsolinなど)の蓄積を共通所見とするが,遺伝学的にはheterogenousな疾患群であり,これまでZ線に関連した3種類の蛋白,具体的にはdesmin, alphaB-crystallin, myotilinがその病因蛋白となることが判明している.しかし,MFMにおいてこれらの遺伝子変異が確認される頻度は低く,Mayo clinicにおける68名のcohortではそれぞれ,9%,9%,3%と報告されている.
 今回,Mayo clinicの研究者らはZASPがZ線の構成蛋白であり,またZASP欠失マウスが骨格筋,および心筋ミオパチーを来たすことに注目し,MFM患者54名におけるZASP遺伝子の変異を検索した.この結果,54人中11人のZASP遺伝子上に3種類のミスセンス変異を発見した(いずれもヘテロ).11名の発病年齢は44~77歳で,7名では優性遺伝形式の家族内発症を認めた.臨床的には心筋障害を3名で,末梢神経障害を5名で認めた.ほとんどの症例で近位筋,遠位筋のいずれにも筋萎縮を認めたが,6名は遠位筋優位であった.
 以上より,①ZASP遺伝子変異は典型的なMFM病理を示すこと,②心筋ミオパチー,遠位筋優位の四肢筋力低下,ニューロパチーがzaspopathyの表現型として生じうることが判明した.なぜ ニューロパチーが生じるかについては不明である.ZASPは脳内にも若干の発現を認めることが知られているが,末梢神経における発現については知られていない.

Ann Neurol 57; 269-276, 2005

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

多発性硬化症と性ホルモンの関係

2005年01月29日 | 脱髄疾患
 多発性硬化症(MS)では,男性のほうが女性より進行性で予後が不良であるという若干の報告があるが,これにヒントを得て性ホルモンの血中濃度とMRI上の病変の関連を調べた研究がイタリアから報告されている.対象は60名の再発寛解型MS(RRMS)で,うち35名が女性.罹病期間は6.2±5.4年.EDSS中央値は1.5で,IFNbetaなどのdisease modifying drugの使用歴がなく,かつ過去2ヶ月間において再発やステロイドの使用がない症例とした.女性については月経周期が正常で,ホルモン療法や避妊薬の使用がない者に限った.方法としては,FSH, LH, estradiol, testosterone, DHEA(dihydroepiandrosterone)を測定(女性は卵胞期と黄体期に測定),平行して1.5T MRIを施行し,造影効果のある病変数,およびT2, T1強調における病変面積を求めた.36名の対照にも同様の検査を行った.
 結果として,MS女性例の血清testosterone値は,対照と比べて卵胞期・黄体期とも有意に低いことが分かった(p=0.03およびp=0.0001).血清testosterone値の最も低い女性は,MRI上,造影効果のある病変を多数認めた.さらに血清testosterone濃度とMRI上の病変面積(T2WI; p=0.06, T1WI;p=0.006),clinical disability(EDSS; p=0.05)は正の相関を認めた.一方,男性では血清estradiol値とMRI上の病変面積が正の相関を認めた(T2WI; p=0.02, T1WI;p=0.04).
 以上の結果は,MSにおいて性ホルモンが病変の進行に影響を及ぼしている可能性を示唆する.今後,炎症から修復過程などのどのステージにおいて性ホルモンが影響を及ぼしているのか検討する必要がある.

JNNP 76; 272-275, 2005 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

心臓ペースメーカー使用者に脳深部刺激療法は可能か?

2005年01月28日 | パーキンソン病
近年,難治性パーキンソン病(PD)や本態性振戦(ET),ジストニアなどの不随意運動症に対する脳外科治療として深部脳刺激療法(deep brain stimulation; DBS)が脚光を浴びている.今後,この治療法を選択する患者は増加するものと思われる.このDBSは,一般に心臓ペースメーカーを使用している患者には適応がないと考えられてきた.すなわち,心臓ペースメーカーとDBSのpulse generatorが相互に干渉し,誤作動を起こす可能性があるためである.
今回,心臓ペースメーカーを使用している患者6名(PD 4名,ET 2名)に対し,DBSを施行し(4名がVim核,2名が視床下核刺激),術中・術後の安全性を検討した研究が報告された.手術施行年齢は平均69.5歳.心臓ペースメーカーとpulse generatorの設定については,24時間心電図モニター等により,相互の干渉が最低になるような組み合わせを検討した.結果として,心臓ペースメーカーに関してはbipolar sensing,pulse generatorに関してはbipolar stimulationが選択され,この組み合わせを行う限り,術中の有害事象は生じず,術後の24時間心電図でも相互干渉はなく,さらに平均25.3ヶ月(4-48ヶ月)の経過観察期間においても異常は認めなかった.以上の結果より,心臓ペースメーカー使用者に対してDBSを行うことは,両者の設定に注意する必要はあるものの,禁忌とはならないと結論付けた.
 今後,このようなケースは増加するものと思われ,この論文の意義は大きい.しかし,症例数が少ないことから今後の症例の蓄積が必要であろう.また,ペースメーカー使用者にDBSを施行する場合には,十分な患者教育(定期的検査の必要性)と厳重な経過観察が必要であることは言うまでもない.

J Neurosurg 102; 53-59, 2005

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ポリグルタミン病の病態機序に関する新たな視点 ―軸索輸送の障害―

2005年01月27日 | 脊髄小脳変性症
10月16日付けの本欄で,ハンチントン病(HD)をはじめとするポリグルタミン病の病理所見として特徴的な核内封入体(NII)が,ポリグルタミンによる神経細胞毒性に対して防御的に働くものであるという論文を取り上げた(Nature 43; 805-810, 2004).では核以外の部位(細胞体やニューロピル)における凝集体は神経細胞にどのような影響を及ぼすのであろうか?今回,Arch NeurolのBasic science seminarsの欄で,neuropilに形成された凝集体(neuropil aggregate)による軸索輸送の障害がポリグルタミン病の病因として重要ではないかというGoldsteinらの仮説(Howard Hughes)が大きく取り上げられている.
神経細胞における軸索輸送には順行性輸送と逆行性輸送があり,前者にはkinesin motorが,後者にはdynein motorが重要であることが知られているが,実はこれら軸索輸送に関わる蛋白の機能異常が原因である神経変性疾患は少なくない.例えばCMT type 2AはKIF1Bbeta遺伝子(kinesin family 遺伝子のひとつ)の変異が原因であり,KIF5A遺伝子変異は遺伝性痙性対麻痺を引き起こす.またAlzheimer病においても,GSK3beta(presenilin結合蛋白のひとつ)によるkinesein軽鎖のリン酸化が病態機序に関与する可能性も指摘されている.つまり,彼らが言いたいことは,neuropil,とくに直径が細く長い軸索に細かい凝集体ができれば,それにより軸索輸送が障害され,最終的に神経細胞変性が生じるのではないかということである.さらにHDを例に挙げ,Drosophila huntingtinが軸索輸送に関わっていたことや(彼らによる研究),huntingtin結合蛋白のひとつHAP1がdynactin(モーター分子であるdyneinを活性化する)に結合することなどを傍証として挙げている.
たしかにneuropil aggregateはHD以外のポリグルタミン病でも報告されてきたものの(NIIのインパクトに押され)その意義については十分検討されてこなかった.興味深い仮説であるとは言えるだろう.

Arch Neurol 62; 46-51, 2005
Comment (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

脳卒中と高ホモシステイン血症 ―メタ解析―

2005年01月26日 | 脳血管障害
 高ホモシステイン血症は脳梗塞の危険因子であるとする肯定的な報告が多いが,否定的な報告もあり必ずしもその意義は解明されていない.とくにホモシステイン濃度は喫煙,血圧などに影響を受けるため,その評価は慎重に行う必要がある.
 今回,脳卒中と高ホモシステイン血症の関係について,イギリスよりメタ解析が報告された.対象としては,ホモシステイン濃度と脳卒中のリスクを取り扱った2003年6月までMEDLINEとEMBASEに掲載された論文とした.またホモシステイン合成に関与するmethylenetetrahydrofolate reductase(MTHFR)geneの遺伝子多型(C677T多型)に関して,すでにTT genotypeはCC genotypeと比べ,ホモシステイン濃度が上昇することが知られているが,今回の研究ではgenotypeと脳卒中のリスクを検討した論文も対象にした(2003年9月までの論文).メタ解析はrandom-effectsおよびfixed-effects modelを用いて行い,オッズ比および95% CIを算出した.
 結果としては,111論文がこれらの基準を満たした.まず心疾患を有さない15635名を対象とした場合,TT genotypeはCC genotypeと比べホモシステイン濃度が1.93μmol/L高いことが分かった(95% CI; 1.38-2.47).これまでに発表された観察試験の結果を考慮すると,この濃度差による脳卒中の推定オッズ比は1.20(95% CI 1.10-1.31)と計算される.では実際に遺伝子多型に基づいてメタ解析してみると(n=13928),CC genotypeに対するTT genotypeのオッズ比は1.26(95% CI 1.14-1.40)であり,ホモシステイン濃度差から推定されるオッズ比とほぼ同程度の値であった(p=0.29).以上の結果より,ホモシステイン濃度上昇と脳卒中には因果関係があると考えられる.
すなわち,高ホモシステイン血症はやはり脳梗塞の危険因子であるということで決着したわけだが,そのオッズ比は1.2程度である.血中ホモシステイン濃度は,葉酸の摂取で下げることができるが,このオッズ比を見て,積極的に高ホモシステイン血症を治療すべきであるか否かは意見の分かれるところであろう.

Lancet 365; 224-232, 2005 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

寿命を延ばす薬の発見 ―抗痙攣薬は寿命を延長する―

2005年01月24日 | てんかん
これまでの遺伝研究から加齢を制御する機序は解明されつつあるが,加齢を遅らせる薬の同定にはほとんど進展がない.今回,神経内科医に馴染みの深い抗痙攣薬であるethosuximide,trimethadioneならびに3,3-diethyl-2-pyrrolidinone(DEABL;この薬はヒトには使用されない)が,線虫(C. elegans)の平均寿命および最長寿命を延長させることが報告された.
まずethosuximideが線虫の寿命を17%延長することが発見された(平均16.7日の寿命が19.6日に延長).この効果には至適濃度があり,高濃度ではむしろ寿命は短縮した.この血中濃度はヒトに使用する濃度とほぼ同程度であった.さらに薬剤は発生初期に有効なのではなく,成虫になってから寿命延長効果をもたらすこと,ならびに線虫のactivityが高い期間(具体的には速く動いたり,飲み込みができたりする期間らしい)が有意に延長することも判明した.
つぎにethosuximideはsmall heterocyclic ring構造をとる化合物であることから,類似の構造式を持つ化合物であるtrimethadione,DEABLならびにsuccinimideが寿命延長効果を持つか検討された.結果として,抗痙攣薬としての作用を持たないsuccinimideを除き,寿命延長効果が確認された.とくにtrimethadioneの寿命延長効果が大きく,平均および最長寿命は,それぞれ47%および57%延長した.以上の結果は,ethosuximide,trimethadione,DEABLの3剤は,抗痙攣作用機序に関連した何らかの作用によって寿命を延長させる可能性が示唆された.抗痙攣薬は脊椎動物では神経活動に影響を及ぼすことから線虫においても同様の効果を持つかの検討が行われたが,結論として,これらの薬剤は体動を制御する神経・筋間のシナプス伝導を促進することも判明した.以上を考え合わせると,これらの化合物の寿命延長作用は抗痙攣活性と関連していること,ならびに,加齢の制御に神経活動が関与していることが示唆された.
ethosuximide はT-型電位依存性Caチャネル抑制作用があるため,その辺に何か機序を解明するヒントが隠れているのかもしれない.欠神発作を呈する患者さんでethosuximideを生涯のみ続けることがあるかは分からないが,実際にヒトでも効果があるのか知りたいものである.もちろん長生きすることが本当に素晴らしいものであるかは分からないが・・・

Science 307; 258-262, 2005

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

家族性パーキンソニズムの新しい原因遺伝子の頻度 ―LRRK2遺伝子(PARK8)―

2005年01月22日 | パーキンソン病
昨年10月,米国立老化研究所とスペイン,英国の共同研究にて,スペイン・バスク地方の大家系を含む常染色体優性遺伝形式の家族性パーキンソン病家系の連鎖解析が行われ,家族性パーキンソニズムPARK8(12p11.2-q13.1)の原因遺伝子が同定された.そして原因遺伝子であるleucin-rich repeat kinase 2 (LRRK2)遺伝子の遺伝子産物はdardarinと名づけられている(dardarinはバスク語で「震え」を意味する).結果的にLRRK2遺伝子変異はバスク地方と英国に居住するパーキンソニズム5家系で発見された.
今回,LRRK2遺伝子変異のうち,既報のGly2019Ser変異の頻度を検討した研究が報告された.対象は独立した358家系に由来する767名の家族性パーキンソニズムを呈した患者.結果として20家系に由来する35名(5%;95%CI, 3.1-6.1%)においてLRRK2遺伝子変異を認めた(うち1名はホモ接合).発症年齢は61.1±13.9歳,臨床症状は特発性パーキンソン病とほとんど違いを認めず(筋強剛100%,寡動94%,振戦77%,姿勢反射障害71%),進行は比較的緩徐であった.L-DOPAは有効で72%が5年以上L-DOPAが有効.また家族内の複数発症は必ずしも高くなく(37%),未発症例の影響のみならず,不完全浸透常染色体優性遺伝である可能性が示唆された.またホモ接合であった1名と他の症例との間で発症年齢,臨床症状に違いはなく,遺伝子量効果は明らかではなかった.
今回の研究ではGly2019Ser変異のみを検討しているが,LRRK2遺伝子はそもそも51 exonにも及ぶ巨大遺伝子であり,他の部位に変異を有する家系が存在する可能性は十分考えられる.いずれにしても欧米においては,LRRK2遺伝子変異は家族性パーキンソニズムのなかで最も高頻度ということになり,今後,本邦における検討が必要と言えよう.

Lancet Jan 18, 2005 (published on line)

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

肥満にかかわるホルモンと脳梗塞の関係 

2005年01月21日 | 脳血管障害
 肥満や内分泌学の分野において,近年,leptinほどepoch makingな発見は見当たらないそうである.この理由として,脂肪細胞がホルモンを産生・分泌していたこと,ならびに脂肪組織量をコントロールする液性因子が存在したことの2点が挙げられる.Leptin遺伝子は1994年,遺伝性肥満を呈するob/ob マウスの病因遺伝子としてcloningされたが,この遺伝子産物は視床下部に作用し,強力な摂食抑制と肥満制御作用を有することが判明した.ちなみに名前の由来はギリシャ語の“leptos”(やせ)である.
 脂肪細胞が分泌するいわゆるadipocytokineとしてはleptin以外に,TGF-αやPAI-1(plasminogen activator inhibitor type1)などが知られ,インスリン抵抗性や動脈硬化に重要な役割を果たすと考えられている.一般にadipocytocaineの血中濃度はBMIと正比例するが,adiponectinだけはBMIと逆相関する.adiponectinは血管傷害時には血管壁に集積し,血管内皮細胞への単球接着抑制や単球マクロファージからのTNFα分泌や泡沫化を抑制する作用などの抗動脈硬化作用を持つことから,近年,急速にその概念が浸透しつつある「インスリン抵抗性」や「代謝症候群」の重要なkey molecule,治療ターゲットとなっている.
 今回,leptinやadiponectinが脳梗塞の危険因子となるかについてSwedenより報告があった.方法はcase-control studyで,初回脳血管障害を呈した276名(うち42名が出血;これらの症例は,脳梗塞発症前にpopulation-based health surveyに登録していた)と対照群552名.年齢,性別,地域等をマッチさせた後,血圧,糖尿病,喫煙,BMI,コレステロール,leptin,adiponectinが危険因子となるかロジスティック回帰分析により検討した.結果として,surveyから発症までの平均期間は4.9年.BMI↑,高コレステロール血症,空腹時血糖高値,糖尿病,高血圧は脳梗塞群において有意であった.Leptinは男性患者群では高値であった(p=0.004).つまりLeptin高値は男性において独立した危険因子であった(オッズ比=2.46,95%CI=1.08-5.62).一方,adiponectinは対照群との間に有意差を認めなかった.
 leptin receptorは血管内皮・平滑筋にも存在するので,leptin高値により動脈硬化の増悪が生じた可能性はある,しかし性差の影響については不明.またadiponectinが脳梗塞の発症と関連がなかったのは予想外のデータであり,今後のprospective studyの結果が待たれる.

J Internal Med 256; 128-136, 2004 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

多系統萎縮症(MSA-P)におけるparkinsonismの進行は病初期に速い

2005年01月20日 | 脊髄小脳変性症
これまでMSAにおけるparkinsonismの進行速度に関する報告はなく,その予後予測は困難であった.今回,ヨーロッパの多施設からMSA-Pの自然歴に関する研究が報告された.対象はclinically probable MSA-Pとし,初診時と一定の経過観察後の間で,Hoehn -Yahr分類,Schwab and England ADL scale(SES),UPDRS-III(運動機能の項目)を比較した.結果として,症例は38例で(年齢63.2±7.4歳,平均罹病期間4.1±3.0年),平均経過観察期間は11.8ヶ月.UPDRS-IIIの変化は10.8点(95% CI; 8.6-12.9)であり,これは年28.3%の増悪速度に相当した.また進行速度に影響を与える要因としては,初診時のmotor disabilityが軽度であること(H-Y分類やSESで評価),初診時にUPDRS-IIIの点数が低いこと(43点以下と定義),さらに罹病期間が短いこと(39か月未満と定義)であった.性別や発症年齢,初診時年齢は影響しなかった.
以上の結果はMSA-Pの進行速度が高速であること,さらにその進行速度は一定ではなく,病初期において一層急速であることを示している.いずれにしても本報告はMSA-Pの自然歴のデータとして重要であり,今後,何らかの治療介入の効果を判定するときに有用となろう.しかし,MSAに関しては本邦と欧州でその病型頻度に大きな違いがあり(本邦では圧倒的にMSA-Cが多い),その表現型には遺伝的背景の関与も示唆される.つまり,本邦でも独自にMSA-Pの自然歴を検討する必要があるだろう.

J Neurol 252; 91-96, 2005

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

パーキンソン病の診断にMIBG心筋シンチは切り札になるか?

2005年01月19日 | パーキンソン病
PDでは,黒質以外に青斑核・迷走神経背側核にも変性が生じる.青斑核ニューロンはノルアドレナリン含有細胞であることから,PDではノルアドレナリン系の機能障害も存在する.近年,心臓の交感神経機能を評価する目的で使用されている[123I] meta-iodobenzylguanidine (123I-MIBG)の心臓への集積が,PD初期から高率に低下するとの報告が相次いだ.123I-MIBGはグアネチジンの類似物質であり,交感神経末端においてノルアドレナリンと類似の分泌・取り込み・貯留を示す.つまりこのトレーサによりPDにおけるノルアドレナリン機能の障害を早期から検出しているわけである.しかしPDの早期診断に有用と考えられるものの,どれだけ特異性をもってPDの診断に有効か,すなわちこの所見はPDに特有の所見であるのかについては不明であった.
今回,日本医大らのグループによりMIBG心筋シンチのsensitivityならびにspecificityが報告された.対象は391例のパーキンソン様症状を呈した外来患者で,経過観察により正確な診断確定を行っている.これら患者以外に年齢をマッチした健常対照者10例にもMIBG心筋シンチを行った.心/縦隔取り込み比を計算し,健常対照の2SD以下を異常とした.
結果として,PD症例の87.7%で取り込み低下を認め,H-Y分類Ⅲ以上では全例で取り込み低下を認めた(ステージの進行に従い,異常者の割合が増加).PD患者におけるsensitivityならびにspecificityは,それぞれ87.7%と37.4%であった.驚いたことにPD以外の診断がついた患者の66.5%でも取り込み低下が認められた(PD以外の診断とは,MSA, DLB, PSP, SDAT, CVDのこと.このうち,DLBやSDATはPDと同程度に低下,MSAのみ低下なし).
以上の結果は,MIBG心筋シンチはPDの診断においてsensitivityは高いものの,その特異性はきわめて低く,取り込み低下を認めたからといってPDと診断することは非常に危険であることを示唆するものである.唯一,PDとMSAの鑑別には有用なのかもしれない(ただしMSA-PとMSA-Cで差があるかについては触れていなかった).

JNNP 76; 249-251, 2005

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする