CIDERが止まらない
■ このPVの破壊力!! キター、「かせきさいだぁ≡」13年ぶりのアルバム ■
高一の娘が、「何かお薦めのCD無い?」と聞いてきたので、
彼女のiTunesに「かせきさいだぁ≡」のアルバムを2枚入れてあげた。
何故2枚だけかといえば、「かせきさいだぁ≡」は過去、
2枚のアルバムしか発表していないかです。
ところが娘が何処で調べたのか、
「お父さん、9月に3rdアルバム出てるよ」と言うではありませんか!!
私、13年間待ちました。
「あみん」の「待つわ」よりも健気に待ち続けました。
早速、インターネットを検索して見つけたのが上のPV。
何なんだ、この破壊力。
サンボマスターの「ラブソング」の長澤まさみ以上の破壊力!!
■ 新鮮なレモンの香りを運んでくる「かせきさいだぁ≡」■
2ndアルバムの発表が13年前。
もう、その名の通り、「化石」になってもおかしくないアーティストだけれど、
ふとしたきっかけで、聞き返したくなるシンガーです。
そして、その度に、新鮮なレモンの香りが鼻腔をくすぐるのだ。
そのレモンとは、梶井基次郎の『檸檬』である事は言うまでもありません。
日本語でラップを歌うシンガーはあまた在れど、
日本文学でラップを歌うシンガーは、「かせきさいだぁ≡」の他には居ません。
彼の1stアルバム『べすとおぶ かせきさいだぁ』に収録されている曲
『じゃ夏なんで』の歌詞を紹介しちゃいます。(ゴメンなさい)
じゃ夏なんで
『ボクが随分素早く汽車から降りたタメ雲を焦がしたくらいさ
梶井基次郎の檸檬の中に出てくるような街の中は
埃っぽい匂いが立ち込める通り雨の後で
また鳴きだした蝉の声響く路地は駒絵と化したかのよう
遠くから聞こえる祭囃子 背筋を伸ばした 向日葵
横をすり抜ける少年の 飛び越す水溜りを跨いでから
ちょうどそこの角を曲がる 僕の視界に飛び込むのは
どこか大人びた君と モコモコと ソフトクリームのような入道雲
今までだんまりを決め込んでた風鈴達さえ 勢い騒ぎだしたのは
僕でさえはじめてみる君の浴衣姿の所為だけじゃなくて
その口元すっと引かれた紅の熱に浮かされた僕が
風をこう ドッと辺りに巻き起こしたからさ
神社への道はちょっとした賑わいを見せ ゆらゆら燃える陽炎 蝉時雨
浴衣姿薄化粧のそのほんの一寸赤い口紅の所為で
喉はカラカラさ 嗚呼 さいだあがあればこんな日は
でも君のリクエストに答えシャクシャクと 君と一緒に食べるカキ氷
夜ともなれば二人は誘蛾灯に誘い寄せられる虫たちのごとく
祭りに向かう人並みの中 ウスバカゲロウさ きみは
僕の呟き声に薄化粧を直した 君が振り向くとしたら
湯上りのシッカロールのにほいを ほんの少しだけフワっと夜風に乗せる
または"夏のFlora"
カランコロン鳥居潜り カンラカンラと笑い声響く境内に 尺玉花火も加わり
君の口紅 紅を増し浮かんだ ホラ鹿も舞う夏の夜空
帰り道の川原はコロコロと河鹿鳴き
口に寄せる リンゴアメ』
■ 日本語ラップ ■
元々アメリカの黒人の間で流行したラップ。
社会に反発する黒人達の怒りを、
大量の言葉の連打で、勢い良くリズムに乗せる
プロテストソングをルーツとしています。
言葉をリズムに乗せるために、沢山の韻を踏んだり、
似たような語感の言葉を連続したり、
さらには、ダブルミーニングやトリプルミーニングといった、
同じ発音で、異なる意味を持つ単語をトリッキーに用いる事で
単調と思える言葉の連続を、言葉の遊びに昇華している事がポイントです。
英語自体がリズミカルな言語なので、
ラップという手法に適していたとも言えます。
一方、ヒップホップの文化が日本に流入して、
日本人の若者達もラップを取り入れるようになります。
1980年代中ごろから、「いとうせいこう」らが、耳コピした英語を
試行錯誤しながら日本語に乗せ、
だんだんと日本でもラップが浸透してゆきます。
「スチャダラバー」あたりが、マッチョな黒人ラップとは一味違う
ちょっと軽くて、チャラチャラしたラップを歌い始めるのが90年代の前半。
日本のラッパー達は、リズム感に乏しい日本語を
上手にリズムに乗せる方法を、段々と編み出してゆきます。
そして、日本語ラップはJ-Popsの一つのジャンルとして確立し、
さらに、ジャニーズなどの歌謡曲にまで浸透してゆきます。
■ 日本語の魔術 ■
hiphopチーム「TONEPAYS(1990~1993)」解散後
「かせきさいだぁ≡」がソロデビューしたのが1995年。
インディーズ版を再編集した形で『べすと おぶ かせきさいだぁ≡』がリリースされたのが1996年。
このアルバムで「かせきさいだぁ≡」は、
日本語が持つ能力を最大限に発揮したラップを作り上げます。
それは、アメリカのラップを模倣する凡百のラパー達とは異なり、
日本語の持つ独特な語感や、
一連の言葉の連続の彼方に広がる文学的背景を引き寄せる
言葉の魔術とも言える独特なラップでした。
「雨」という言葉は、タプタプと響く雨音と、
ヒタヒタと肌を塗らす触感と共に、
耳孔から脳内へと這い入り、
何故だかとてつも無くエロティックな臭いを漂わせます。
さいだぁぶるーす
相合傘
この『べすと おぶ かせきさいだぁ≡』は、
私的なJ-Popsの名盤ベスト3に入っています。
■ 稀代のメリディーメーカー ■
歌詞ばかりが注目される「かせきさいだぁ≡」ですが、
彼はメロディーメーカーとしても素晴らしい才能を持っています。
2ndアルバムの『SKYNUTS』では、ラップから一転して
メロディアスな歌謡ポップスを披露します。
中国語のナレーションが曲間を繋ぐ、一見渋谷系オシャレポップスですが、
そこは「かせきさいだぁ≡」だけに、色々な仕掛けが沢山あって、楽しめるアルバムです。
Baby&CIDER≡
南佳孝を敬愛している様で、彼とのコラボレーション曲も収録されています。
ポップアート
■ ホフディランのワタナベイビーとのコラボレーション ■
2ndアルバムから13年間、オリジナルアルバムこそ発表していませんが、
その間にホフディランのワタナベイビーとのコラボレーション・アルバムも発表しています。
この『Baby&CIDER≡』(べいびい さいだあ)は遊び心溢れ作品です。
『Baby&CIDER≡』
これはワタナベイビーの世界で遊か「かせきさいだぁ≡」といった所でしょうか。
さらには木暮晋也(ヒックスヴィル)と共に『TOTEM ROCK』というユニットでアルバムを発表しています。
TOTEM ROCK
このアルバムは、「かせきさいだぁ≡」の3rdアルバムと言っても良い内容です。
さて、復習も済みました
CD屋さんにGO!!
ちょっとオマケ。
「かせきさいだぁ≡」ともコラボする「いとうせいこう」のユニット「口ロロ」(くちろろ)
こちらはこちらで、日本語ヒップホップを極めています。
こちらは「いとうせいこう」と「かせき」のコラボ。
Check Mates / いとうせいこう&POMERANIANS
<追記>
何と、9月に発売されたのは4thアルバム。
3rdアルバムは、昨年発売されていました。
最近、音楽雑誌なんて読まなくなってしまったので、私の方が化石化してます。
どうやら、最近の「かせきさいだぁ≡」は、ヒップホップでは無く、
シティー・ポップスを目指しているそうで・・・。
これって難しい路線ですよね。
昔のシティー・ポップスと何か違うの?ってなりがち。
いつも、時代の数歩先を行くので、3年くらい経った頃、
シティーポップス再ブームが到来するのかも知れません。