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経済の最新情勢から、世界の裏側、そして大人の為のアニメ紹介まで、体当たりで挑むエンタテーメント・ブログ。

読書の悦楽・・・アニメでは見たくない『新世界より』

2012-10-25 17:08:00 | 
 



■ 久し振りに寝食を忘れて読みふけってしまった ■

今期アニメの話題作である「新世界より」。

のんびりしたペースでスタートしましたが、
4話目にて、話は急展開を見せます。
平和で牧歌的な社会の裏に潜む、
恐ろしい歴史が明らかになったのです。

イヤー、ビックリです。
マッタリ系オタクアニメだと思っていた作品は、
実はメチャクチャなハードSFでした。

ところでこの「新世界より」が、何と本棚に揃っていました。
私のアニメトーク仲間の、知り合いの事務所の子が、
以前、小説を沢山貸してくれました。
その中の三冊(三巻)だったのです。

アニメの次週が待ち切れずに読み始めたら、これが面白い。
久し振りに、寝食忘れて読みふけてしまいました。

ほぼ3日で読破。
遅読の私としては、異例のスピードです。
それ程までに「新世界より」は素晴らしい小説でした。

■ 純和風SF ■

SFというジャンルは本来アメリカの文化です。
ですから、日本の多くのSF作家達は、海外のSF作品に影響を受けています。

科学というジャンル自体が西洋文明に由来するので、
SF小説は、自然と「バタ臭い」ジャンルとなります。

一方で、日本の作家達は「和風SF」を模索し続けてきました。
夢枕獏の「上限の月を食べる獅子」などは、
多少SFというジャンルから逸脱している感じはしますが、
東洋思想とSFの融合を試みた野心作です。

しかし、その源流を辿れば、「光に王」のロジャー・ゼラズニーあたりの
ニューウェイブの作家に行き当たる感じが否めません。

「新世界より」は霞ヶ浦周辺の水郷の町や、その周辺の情景が、
情緒豊に描かれています。

たなびく稲穂、山に沈む夕日。様々な小動物。
これらの、どこか郷愁を誘う、純日本的な情景の中で、
物語はゆったりと始まります。

それは、今までのどのSF小説でも味わった事の無い、
「純和風SF]という趣きを呈しています。

「呪力」という超能力で科学技術の代替をさせる事で科学文明が衰退した社会。
そんな社会設定とする事で、西洋文明の象徴とも言える「科学」を封印した事が、
この小説を、「純和風SF」として成立させているとも言えます。

■ 動物行動学、社会心理学の壮大な実権 ■

内容を書くと読む喜びが無くなってしまうので、
今回は一切ネタバレ無しにチャレンジしてみます。


このSFをジャンル訳するならば、
「動物行動学と社会心理学SF」という分野にあたるでしょう。

作者の貴志祐介は、中学生でも分かるような書き方で、
しかも、動物行動学と社会心理学の壮大な実権を、この作品の中で繰り広げています。

■ 生物学SFとして、ジェームス・デユプトリーJrに近い肌合いを感じる ■

これらのSFの先駆けとして思い浮かぶのは、
ジェームズ・ヂュプトリーJrの「汝が半数染色体の心」

御者座星系の惑星エスザア。
ここには,エスザアンというヒューマノイド種と,
フレニと呼ばれる奥地遊牧民族住んでいます。

エスザアンは地球人と似た姿をしており、文化的に暮らしています。
フレニはエスザアンに比べ小さく醜く、
狭い地域で、虐げられて生活しています。

人類認定調査の認定官イアンは、
この二つの種族の調査を開始します。
そして、彼は驚愕の事実を知るのです。

実は、エスザアンの遺伝子はフレニの半数だったのです。
エスザアンはフレニの生殖体でしか無く、
実は種として完全なのはフレニだったのです。

エスザアンは生殖の結果フレニを生み出します。
この関係において、エスザアンの男女は雄しべと雌しべの役割を担っていたのです。

ジェームス・デュプトリーJrは、当時最先端だった遺伝学を
SFの世界に見事に導入してみせます。

この同様の驚きを「新世界より」は与えてくれます。

人間の生物としての「行動原理」。
バケネズミという人間の作り出した知的動物の動物としての「行動原理」。
そして、異なる種や、異なるコロニーと相対した時、
動物が選択する行動・・・。

これらの丁寧な思考実験が、この小説の中では繰り返されてゆきます。

■ 社心理学の壮大な実権は、アーシュラ・K・ルグィウンを想起させる ■

一方で、「呪力」という人間の手に余る力を手に入れた人類はどうなるのか。
作者は社会心理学的視点から、1000年という架空の歴史を編み出しながら、
絶対的暴力と社会がどう関わっていくのかをシミュレートします。

「呪力」は時に人々の対立と戦争の原因を生み、
あるいは、「支配と被支配」という関係を生み、
さらには「独裁」を支える力となり、
さらには「独裁」を破滅させる力となります。

そして、人類が「呪力」という「絶対暴力」と折り合う為に作り出した社会は、
やがて、ほんの小さな綻びから、破綻してゆきます。

「恐怖」と人はどう関わるのか。
「力」を持った人は、それをどう使うのか?
一人の個人が社会全体を破壊する程の力を持つ社会はどう維持されるべきなのか。

作者の考察は興味が付きません。

小説を使って、社会をシミュレートする手法は、近代小説のお家芸とも言えます。
SFの流れでは、ジョージ・オーウェルの「1984」や「動物農場」が、
社会主義や、管理社会と個人の関係を、鋭く考察しています。

一方、圧倒的平等主義や男女のジェンダー的な視点は、
アーシュラ・K・ルグインの追求したテーマです。

「新世界より」の町の社会システムや、男女の関係は、
多分にルグインの描く世界とオーバーラップします。

子供達を町の財産とし育てる様は「所有せざる人々」の様ですし、
ジェンダーの垣根を曖昧にした男女関係は「闇の左手」などにも通じるものがあります。
主人公の少年少女が雪山を越えるシーンは、まさに「闇の左手」を彷彿とさせます。

「新世界より」は、アメリカのニューウェーブイSFの
2大女性作家の影響を強く感じる作品です。

■ エンタテーメントとしての魅力にも溢れている ■

さらに、未知の生物の戦闘シーンは想像力に溢れており、
おもわず手に汗を握ります。

ミステリー的な構成もしっかりしていて、
読み出したら最後、本を置く事も出来ず、
寝食を忘れ、電車を乗り過ごしてしまう程です。

■ アニメで見てしまったり、漫画で読んでは「不幸」 ■

「新世界より」は今期アニメになっています。
さらに漫画化もされている様です。

しかし、それらのビジュアルは、何か違和感を感じます。

ライトノベルは書かれた時に作者の脳内には、アニメのビジアルが展開しています。

しかし、「新世界より」の文章からは、アニメ的なビジュアルは感じません。
むしろ、アニメ的なビジュアルでは、「暴力」がソフトになりすぎて、
この小説の持つテーマが薄らいでしまします。

この作品を、アニメで見始めた方は、もし興味を持ったならば、
是非、小説を先に読んでいただきたいと思います。

漫画で読んでしまって、エッチなシーンでブヒブヒしてしまった方は・・・
残念ながら、もう手遅れかも知れません。

2008年、第29回日本SF大賞のほかに、いくつもの賞を取ったこの小説は、
SF小説とライトノベルの「差」について、深く考えさせるものがあります。

どちらが優れているという話では無く、
ライトノベルの作者達の自由な発想が、今後目指す点として、
「新世界より」は、明らかな到達点であるとも言えます。

この作品、英語で執筆されていれば、
欧米でも充分にヒットする作品だと思います。

村上春樹だけが日本の作家ではありません。
現代小説の抜け殻に様なファッション小説を読むよりは、
ガッツリとしたSF小説の方が、若者には有益ではないか・・・
ふと、そんな事まで考えてしまいました。


■ 読書の悦楽 ■


「文字」情報から、風景や地形、そして異形の生物達を想像し、
「呪力」による効果を空想する。
そこには、映像としての制約も無く、イマジネーションは無限に広がります。
これこそが「読書の悦楽」です。

最近の子供は本を読まなくなったのは、
「文字→イメージ」の変換能力が未発達だとも言えます。

ある意味、アニメや漫画の浸透が、想像力を衰退させているとも言えますが、
一方でラノベを多くの子供達が支持するなど、
アニメ的なイメージの想像力はむしろ向上しているとも言えます。

「読書の悦楽」は私達の世代とは違う形で、継承されているのかも知れません。

40代、30代は「ラノベ→アニメ変換」と「小説能→実写変換」の
両方の能力を持った世代なのかも知れません。




<追記>

アニメ版は5話で完全にアニメの限界を露呈しました。
脚本が説明不足という点を無視しても、
やはり、「死」を克明に描写しなければ、この作品のテーマが伝わりません。

4話までは、比較的丁寧に描かれていただけに、
物語が動き出し、面白くなるはずだった5話の出来に不満が残ります。
私的には、原作を読んだので、アニメ版はもういいかな・・・。










金利はリスク・・・年末に向けてイベントが目白押し

2012-10-25 03:49:00 | 時事/金融危機
 

■ デフレの時代はお金の価値が増える ■

超低金利時代が長く続く中、皆さんは資産運用で頭を痛めていることでしょう。
定期預金に預けてもほとんど金利は付かない状態です。

しかし、デフレの時代は物価が下落するので
実は、金利がゼロでも、実質的にお金の価値が増えています。
例えば、150円で買っていたジュースが、140円になれば
お金の価値は7.7%も増えた事になります。

ですから、銀行預金は増えていない様に見えて
実は増えているのと同じなのです。

■ 「金利=リスク」である ■

資産を運用するならば、少しでも金利が高い方が儲かります。
しかし「金利=リスク」である事に注意が必要です。
金利1%よりも、金利2%は2倍リスクが高いのです。

リーマンショック以前ならば、リスクは潜在的でした。

世界で最も安全と言われる米国債の金利が5%程度(10年物)でしたから、
各国国債で構成されるファンドなどでは、ある程度安定して利益が出ていました。

ところが、リーマンショックで世界の株価や債券価格は暴落します。



上のグラフはゴールドマンサックスの「毎月分配債券ファンド」の価格です。
このファンドは、各国国債、社債、MBSをそれぞれ1/3ずつブレンドしていました。
赤いグラフがファンドの価格を表します。

このファンドはリーマンショックでの損失が比較的少なかったファンドですが、
それでもリーマンショック時に20%も価格が下落し、
その後ダラダラと基準価格が低下しています。

これは、リーマンショック以降、債券市場が利益の出ない市場になっている事を示します。

■ 「毎月分配型」という詐欺商品 ■

ここで注意をしたいのが、日本の老人に人気のある「毎月分配型ファンド」。

「毎分分配型」というのは、毎月定額の分配金が配当されるという事。
これを、「毎月利益が出ている」と多くの方が勘違いしています。


分配金の実績を見てみると、リーマンショック後もそれ以前と同額です。
債券市場が暴落しているのに、分配金は同じだけ払われる・・・・。
これは、単に預けたお金を、分配金として切り崩しているだけの事です。

■ 単に長期国債を買った方が確実に儲かる ■

多くの債券ファンドには、損をする理由があります。
それは、毎月運用実績を報告する義務がある事に起因します。

上のグラフの赤い線は分配金を再投資した時の価格を仮に算定したものです。
この様に、各ファンドは運用実績を毎月集計して公表しています。

仮に、あるファンドが10年物の米国債だけで運用していたとします。
そうすると、ファンドの実績は10年物の米国債金利とほぼ一致します。
それでは10年物の米国債金利が下落する時には、
ファンドの運用実績も下がってしまいます。

そこで、色々な国の国債や、償還期限の異なる国債を売買して、
なるべく、安定した金利を確保する様にファンドマネージャーが運用します。

この運用にはコストが発生します。
これは、ファンドの管理コストとして利益から差し引かれます。

され10年物の国債を単純に購入した場合と、
ファンドマネージャがコストを掛けて10年間場合で、
結果的に金利が等しくなった場合、どちらが得をするでしょうか?
それは、管理コストの少なかった10年物の国債という事になります。

多くのファンドが、単純に月々の運用実績を良く見せる為に
結果的に無駄なコストを掛けているだけなのです。
これは、ファンドの投資者の「損失」となります。

■ 「毎月分配型」という罠 ■

さらに「毎月分配型」という罠が仕掛けられています。

本来、投資するならば、利益を再投資する事で儲けは拡大します。

しかし、「毎月分配型」では分配金を毎月分配してしまうので、
運用資金は効率的には増えません。
それどころか、運用実績が悪化すれば元本を切り崩して分配金が支払われます。

これは投資としては最も効率の悪い方法です。

■ 円高で為替差損まで発生する ■

さらに「ドル建て」の債券の場合、円高で為替差損が発生します。
1ドル120円の時代に預けたファンドは、
1ドル80円になれば、既に30%を超える損失を発生させています。

将来的に日本の財政が破綻して円安になれば、
為替差益を出す事もありますが、
逆にドルが1ドル70円を切る可能性もそれ以上に高いと言えます。

■ 普通預金で運用したほうが余程儲かる ■

結局、「毎月分配型ファンド」などで運用せずに、
単純に国内の銀行の「普通預金」に入れておいて、
毎月そこから分配金に相当する金額を引き出した方が余程損失が少ないのです。

これがリーマンショック以前の、債券金利が右肩上がりに増える時代は、
債券ファンドもある程度の利益が出ていました。(効率は悪いですが)
しかし、リーマンショック以降は、利益を出す事は難しくなっています。

その証拠に、前出のファンドのポートフォーリオは、
この半年以上、ほとんど変化していません。
これは、ファンドが所有する債権が「塩漬け」状態になっている事を意味します。

細かく運用して経費を掛けても利益が上がらないので、
何もしないで、ただ放っておかれているのです。
しかし、ファンドの運用資金はしっかり引かれます。

■ ファンドの損失が隠されているかも知れない? ■

先ごろ、年金基金の運用会社が損失を隠していた事が問題になっています。

では、一般のファンドの運用内容はどうなのでしょうか?
前出のファンドは、平均格付けAAとなっています。
ところが、実際にはA以下の債券が1/3程度含まれています。

格付け会社がいい加減に都合の良い格付けをしている事は公然の事実ですが、
これらのA以下の債券は、実際にいつ破綻してもおかしく無い債権です。

様は、金融危機が発生すれば確実に資産の1/3が吹っ飛びます。

上のグラフの青線は「分配金こ込み基準価格」と呼ばれています。
基準価格 + 今まで支払われた分配金の合計 です。

銀行は顧客にこのグラフを見せて、
「お客様の資産は、分配金を含めれば損をしていません。安心して下さい。」と言います。
しかし、損失を隠していたり、れから損失が発生する分を考慮すれば、
既にに損をしていると考える方が妥当です。

・・・これってほとんど「詐欺」と同様です。
現在、日本の多くの老人達が、銀行の窓口に薦められるままに、
この様な「詐欺金融商品」を買わされています。

■ 銀行の窓口の進める商品って? ■

「毎月分配型ファンド」を例に取って説明してきましが、
銀行の窓口の薦める「儲かりますよ」商品は、
どれも似たり寄ったりの状況です。

「儲かる」のは金融機関であって、顧客では無いのです。

同様の事は証券会社にも言える事です。
大口の顧客意外は「カモがネギを背負ってやって来た」程度にしか思われていません。

■ 世界経済は今年末に掛けて不安定化する ■

アメリカの株価が連日200ドルを超える下落を続けています。
QE3の発表で、本来値上がりするハズなのに・・・。
これは、アメリカの実体経済の指標が悪化している事を反映しています。

ユーロ危機や、東アジア情勢に緊迫とその経済的悪影響、
シリアを中心とした中東情勢の急激な悪化など、
年末にかけて、世界は不安定化してゆきます。
当然、経済指標も悪化すると予想されます。

結果的に金利は上昇しますが、同時にリスクの上昇します。

■ アメリカの大統領戦の模様眺めで小康状態 ■

アメリカでは年末に、「財政の壁」が訪れます。
これは、米国債の上限を拡大する際にアメリカの議会が決定した条件です。

「財政縮小の為にブッシュ減税を終了する」などの項目が含まれており、
アメリカ議会が、年末までにこの発動を止めなければ、
アメリカは「増税」と「財政縮小」が始まり、経済の悪化が確実です。

11月末の大統領選挙あでは、アメリカの政治は麻痺しており、
大統領戦の後の1ヶ月で、民主党が共和党から「財政の壁」を取り除く
合意が得られなければ、アメリカ経済は不況に突入すると言われています。

■ クリスマスはイスラム圏には無い ■

もう一つ恐いのは、イスラム圏にはクリスマスが無い事です。

キリスト教圏は感謝祭からクリスマスまで休暇シーズンです。
この時期、危機に対する対応が出来ません。

しかし、中東の諸国はそんな事は意に介しません。
むしろ、過去にイスラエル周辺の小競り合いは、
このシーズンに発生したりしています。

年末に掛けて、慎重にならざるを得ない状況が続くのでしょう。