■ 『たまこまーけっと』のOPにノックアウト ■
良作が少ないと嘆いていた今期ですが、思わぬ最強兵器が隠れていました。
その名は『たまこまーけっと』
京アニの新作です。
「うさぎ山商店街」の餅屋の娘「たまこ」を巡る日常アニメです。
中学生の女の子向きかなと思って、チェックしていなかったのですが、
ヤラレマシタ・・・オヤジの心は、たまこちゃんに鷲掴みされちゃいました。
もうオープニングからメロメロです。
往年のアニソンの様な安心して聞ける良質のメロディー。
歌詞やメロディーにあわせてテンポ良く動くタマコちゃんの動きの可愛らしさ。
ちょっと内股の脚、ぷっちりした手のしぐさ、
スキップするスカートの揺れ具合まで、
どうしたら、こんなに可愛らしさを表現出来るのだろうかと、
思わず何度も見入ってしまいます。
そんなのは私だけかと思ったら、結構皆さんこのOPにノックアウトみたいで、
エンドレスにした動画がニコ動にアップされていました。
■ アニメは袋小路に嵌っている ■
アニメが進歩しているのか、退化しているのか、私には良く分かりませんが、
最近の所謂「オタク系」のアニメは、形式化が極端に進んでいて、
「お約束」の中で、作り手も、受けても閉じたサークルを形成しています。
その中で、ちょっとした差異に注目したり、
予定調和からの逸脱を楽しんだりしている訳ですが、
これは、一つの文化の末期的症状とも言えます。
例えば、JAZZはハードバップの時代に最盛期を向かえ、
それかモードの時代に成熟期を向かえます。
その後はフリージャズという自己解体を経て、大衆性を喪失します。
一方、ジャズという音楽の残渣はクロスオーバーやフュージョンに引き継がれますが、
テクニックや完成度ばかりが評価される一方で、既にジャズ本来の創造性は喪失しています。
日本のアニメも同様に、デビルマンやマジンガーZといった熱い時代から、
ガンダムなどの成熟期を経て、
その後、ガイナックス(エヴァンゲリオン)などのサブカル的展開と、
オタクアニメという商業主義的分野に二分化されてゆきます。
オタクアニメはアニメに興味の無い人から見れば
どれも同じ様に見えますが、これはフュージョンがどれも同じ様に聞こえる事に似ています。
ある意味、形式がほぼ固定された表現様式になっているのです。
現在のオタクアニメは、文化の袋小路に嵌っているとも言えます。
■ 新古典主義的アニメ ■
半分死に体だったジャズは80年代後半に少し勢いを取り戻します。
昔のハードバップやモード的手法を、
現在の技術や音楽理論で再構築しようとする動きです。
ウィントン・マルサリスらが主導した「新伝承派」と呼ばれるムーブメントで、
日本でもオール・ドジャズファンが彼らの活動を支持しました。
ある意味、優等生的ジャズで、復古主義とも言えます。
『たまこまーけっと』を見ていると、アニメの新伝承派ではないかと思われてきます。
40年台には日常アニメが沢山ありました。
『ど根性カエル』『さるとびえっちゃん』『ドラエもん』などが思い浮かびますが、
どれも主人公を巡る些細な出来事を、アニメ(漫画)的にデフォルメして
笑いや、涙を誘っていました。
先般、『魔女っこメグちゃん』の記事で少し触れた『てんとう虫の歌』などは
日常アニメの最右翼で、飛行機事故で両親を失った兄弟達の日常のドタバタを描きます。
日本アニメには、主人公達の日常を普通に描くという伝統があり、
東映の魔女っ娘シリーズは、この伝統を一番濃く残したジャンルだとも言えます。
近年日本では「日常系」と呼ばれる漫画やアニメが色々と登場しています。
『みなみけ』『らきすた』『あずまんが大王』あたりを筆頭に、
『けいおん』『イカ娘』『たまゆら』『それでも街は廻っている』『みつどもえ』など
列挙したら結構な数の作品が作られて、そしてそれなりに面白い。
ただ、これらの作品は、結構現代的なエッジも効いていて、
そう言った意味では、所謂「オタク系」アニメよりも野心的な作品とも言えます。
ところが『けいおん』の京都アニメが製作する『たまこまーけっと』は
あまりエッジを効かせて感じではありません。
ごくごく日常的な商店街の、ごくごく普通の女の子の話。
『けいおん』にテーストは似ているとも言えますが、
「大人が居ない日常」という、非常に非日常的な『けいおん』の世界に比べ、
お父さんが居て、おじいちゃんが居て、妹が居て、お隣さんが居て、ご近所さんが居る
『たまこまーけっと』の世界は、まさにホームドラマそのものの世界です。
そう言った意味において、『たまこまーけっと』は非常に真面目な作品であり、
「日常系アニメ」における「新伝承派」的な立ち位置を感じずには居られません。
■ 女性作家達の細やかさ ■
脚本とシリーズ構成は、吉田玲子。『けいおん』の人ですね。
監督は山田尚子という女性コンビ。
吉田玲子はキャリアの長い脚本家の様ですが、
「お邪魔女どれみ」の脚本も担当している様なので、
東映系の日常作品の伝統を受け継ぐ人なのかも知れません。
「うさぎ山商店街」というアーケード街の餅屋の娘「たまこ」が
ある日、花屋でトリと遭遇します。
このトリ、ただのトリではありません。
なんと、話すのです。
そんなの、オームじゃないかと思われるでしょうが、
普通に人間と会話して、そして結構偉そうにしている。
トリの名前は、「デラ・モチマッヅィ」。
王様の妃を探す為に、旅に出たと語ります。
しかし、このトリ、結構女好きで、出会う女の子に直ぐ惚れる。
餅屋の「たまこ」も気に入って、彼女の家に居候を決め込みます。
なんだ、細野不二彦の『Gu-Guガンモ』じゃないかと思われるでしょうが、
「ガンモ」はバカだったのに対しえて、デラ・モチマッヅィはかなりインテリ・・・。
物語はこのデラ・モチマヅィのモノローグで進行します。
第一話は商店街の人物紹介。
第二話は、「たまこ」の親友の女子の、少女時代特有の同姓への好意を描きます。
第三話は、内気な同級生が「たまこ」の親友になる話。
この三話とも、非常に描写が細やかで安定しています。
とくに、思春期の女の子同士の微妙な関係は、男性作家には描けない内容です。
第四話はたまこの妹「あんこ」の初恋の話ですが、
すこし肌合いが違うなと思ったら、脚本は花田十輝でした。
吉田玲子、花田十輝のコンビは、モロ、『けいおん』と同じですね。
『けいおん』は、メンバーのキャラ立ち優先の作品ですが、
『たまこまーけっと』では、キャラ立ちを控え目にして、
それぞれの人間関係を丁寧に描いています。
登場人物達が、互いに相手を気遣う様に見ていて心が和みます。
■ 商店街の人気者 ■
物語は「うさぎ山商店街」の人達を中心に進行します。
明るい性格の「たまこ」は商店街の人気も者。
そこかしこから、声が掛かります。
・・・何だか、どこかで見たような・・・
なんだか『あべの橋☆魔法商店街』みたいですが、
そういえば花田十輝は、こちらでも3話程脚本を担当しています。
まあ、こちらは「新伝承派」というよりは「フリージャズ」の様な破壊的作品ですが・・。
■ サウンドトラックに耳を傾けよう ■
『あべの橋☆魔法商店街』に比べたら、『たまこまーけっと』はいささか優等生的な作品ですが、
それでもキラリと光る工夫が随所にされています。
その最たるものが「音楽」
『ひみつのアッコちゃん』や『魔法遣いサリー』の音楽は小林亜星が担当していましたが、
結構、凝ったジャズが使われていた様に記憶しています。
『たまこまーけっと』の音楽はこれらの作品に似た肌合いのジャズがBGMで使われています。
音楽担当は片岡知子という方の様ですが、
パスカル・コムナードの様なトイ・ポップスを得意としている作曲家さんの様です。
毎回、素晴しいサウンドトラックにうっとりしていますが、
特に、たまこが毎回訪れるレコード店(喫茶店)の店主が流すレコードの選曲がイイ。
聞いた事の無いフレンチ・ポップスなのですが、
これがオリジナルなのか、それとも過去の名曲なのか、興味のある所です。
OPのブリリアントなポップスも片岡知子さんが作曲していますね。
グッ・ジョブです!!
「ままっこまーーけっと♪」というジングルも彼女の作ではないでしょうか?
「ピタゴラースイッチ♪」に匹敵する、最強ジングルですね。
一日中、耳の中で鳴ってます・・・。
あまり話題作が無いと思われた今期ですが、
『たまこまーけっと』と、2期連続の良作で、結構楽しめます。
そして、今期に入ってから『ROBOTICS;NOTES』が神回を連発しています。
こちらのシリーズ構成も花田十輝。
最近の花田十輝は、『中二病でも恋がしたい!』も良かったですし、
『さくら荘のペットな彼女』でも、要所を締めるピリっとした脚本が光ます。
<追記>
早くも聖地巡礼動画が。
京都市上京区の出町桝形商店街が舞台の様ですね。