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世界は大きな変化の直前にある・・・危機の本丸はあくまでもアメリカ

2013-02-06 11:08:00 | 時事/金融危機
 


■ 不景気なのだから金利上昇の心配は無い? ■


「目下不景気でデフレなのだから、金利上昇の心配などしても仕方が無い」
アベノミクス支持者の方が、こういう発言をされる事があります。

1) 需要よりも供給力が勝っているのでインフレの心配は当面無い
2) 景気が回復しなければ、需要は回復しないので先ず需要を作らなければならない
3) インフレが発生した時は、経済が回復した時だから金利を上げても問題無い

一見、簡潔で分かり易い理論です。

■ 不景気下でもインフレは発生する ■

アベノミクスは2%のインフレを目標としています。
多くの方が「インフレ=好景気」と考えてこれを支持しています。

しかし、不景気でもインフレが発生する事があります。
社会の授業で習ったと思いますが「スタグフレーション」という経済現象です。


近年のスタグフレーションは70年代の石油ショックの時に発生しました。
OPECが原油価格を急激に引き揚げた為、世界の経済はパニック状態になりました。

石油はエネルギーや原料など全ての産業の根幹を成しています。
ですから、原油価格の急激な高騰は、急激な物価高を誘発しました。
インフレが発生したのです。

一方で原油価格の高騰は、経済活動の妨げになり、
産油国以外の全ての国の経済成長が鈍化しました。

1073年の第一次石油ショックで、
日本の経済成長率は9.1%から-0.5%に激減しています。
しかし、高度成長期のテールに当たっていた当時、経済はすぐにプラス成長に戻ります。
しかし56年から73年までの間は平均で9.1%成長していた経済は、
石油ショック以降の74年から90年の間は、平均で4.2%の成長半減します。


http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/4400.html より

一方同時期のアメリカの経済は、高いインフレと不況が同時進行します。
いわゆるスタグフレーションが発生したのです。



1970年代から1980年代初頭にかけて、
アメリカは石油ショックによる不況を克服する為に財政を拡大します。
その結果、アメリカのインフレ率は高止まりしますが、
アメリカの労働生産性は向上しなかった為に、景気は好転しませんでした。

その一方で、財政赤字、貿易赤字、経常赤字という三つ子の赤字が拡大し、
この時期、アメリカ経済は日本などの新興国に押されて低迷します。

■ 「強いドル復活」で製造業からサービス業にシフトして復活した米経済 ■

現在のアベノミクスの原典はアメリカの80年代のレーガノミクスにあります。
経済の長期低迷と、ケインズ的政策による財政赤字の拡大を止める為、
レーガン大統領は大胆な金融緩和と減税政策そして、規制緩和を実施します。

これはアメリカ経済の大転換点となります。

アメリカの政策金利の長期推移のグラフを見つけたので貼っておきます。


http://fx-imagine.cocolog-nifty.com/blog/2006/03/ff_c663.html

レーガン政権は1981年に発足しますが、
1983年あでは、ポール・ボルガーは金利を引き上げ、
通貨量を減らしてインフレ退治に専念している様です。

レーガン政権は「強いドル」を打ち出して、輸入物価インフレを抑制します。
下のグラフはドル円のレートですが、80年代前半にドルが値上がりしています。



「強いドル」を復活させる一方で、
金融引締めで減少する需要を、減税によって喚起します。
これは、財政拡大と同じ意味合いを持っていますが、
政府が税金は配分する財政政策よりも、
減税と規制緩和によって、民間で生まれる経済効果の効率が勝り、
アメリカの経済は、製造業からサービス業や金融業、
そして、IT産業などへの労働力の移動が発生して経済が活性化しました。

レーガノミクス以前のアメリカの産業は、
現在の日本と同様に製造業が中心でしたが、
日本やドイツの工業製品との競争に負け、
アメリカ国内の生産性は伸び悩んでいました。

アメリカは強いドルの力で、生産設備を海外移転させ、
安い輸入品を購入する事で、インフレを押さえ込む事に成功したのです。
その一方で、自動車産業を初め工業品の多くが
日本やドイツ製との価格競争に敗れて衰退を余儀なくされます。

アメリカは「強いドル」によって経済が回復しましたが、
それは同時に国内の製造業の衰退を意味しました。
レーガン大統領の時代は良好だった日米関係は、
その後、「日米経済戦争」と呼ばれる時代に突入します。
「日米貿易戦争」の背景には、現在の日韓、日中関係と非常に良く似た状況があったのです。

■ 実業から虚業にシフトした米経済はバブルが発生し易くなった ■

インフレを適度に抑制できる様になると、金利が低下します。
アメリカ経済は、低金利の資金を利用して拡大を続けます。
数々の新しいサービスやビジネスが生まれ、内需が拡大します。

その一方で、低金利で生まれる好景気は、
度々バブルを生成して、そして10年毎にバブルの崩壊が繰り返される様になります。

最初のバブルは、アメリカの不動産市場で発生します。
S&LはSavings and loan association(貯蓄貸付組合)の略で、
個人が預金を出し合って住宅購入の資金を融通する制度でしたが、
金融緩和の時代に合わせて、よりハイリスクな運用をする様になりました。
その結果、債権が焦げ付き、アメリカで多くの中小の銀行が破綻しました。
アメリカ版の住専危機とも言えます。
アメリカ版不動産バブルの崩壊は1991年に発生しますが、
この年から湾岸戦争が発生し、アメリカは日本から戦費を調達して復活します。


次のバブルはIT関連企業への投資で発生します。
ITバブルとか、ドット・コムバブルと呼ばれましたが、
IT起業を立ち上げると、実体を伴わない企業に対して巨額の資金が集まりました。
しかし2001年に、ITバブルはあえなく崩壊します。
そして、この年の9月11日に、NYでテロが発生し、
アメリカはイラク戦争へと突入します。


アメリカはその後、住宅バブルが膨らみ始めます。
住宅市場は明らかにバブルの様相を呈していましたが、
FRBの金利引き上げが遅れた(?)為に、
サブプライムショックが発生し、リーマンショックに発展します。

アメリカは債権金融システムを膨張させて経済を成長させてきましたが、
債権金融システムはリーマンショックによって崩壊するかに見えました。

ところが、FRBと政府が民間の不良債権を買い取る形でリスクを肩代わりし、
債権金融システムは再び、リーマンショック以前の規模に拡大しています。

この様に、アメリカではレーガノミクス以降、
金融政策によって不況を脱してきましたが、
その結果、ほぼ10年周期でバブルの崩壊が発生し、
何故か、その直後に戦争が開始されるという循環が発生しています。

これは、生産成長性が限界に達した経済では、
金融緩和が景気回復よりも、バブル生成を誘発し易く、
金利上昇のフェーズでバブル崩壊が繰り返されて来たとも言えます。

リーマンショック後に、アメリカは新たな戦争を起していませんが、
中東や北アフリカを中心に、戦争の準備は整っています。

今後発生する金融危機の規模が大きければ大きい程、
戦争によって、経済を立て直してきたアメリカの本能が強く刺激されるかも知れません。

■ ゼロ金利の解除どころか、QE3の中止は、必ず大きな変動を経済に与える ■

リーマンショック後、FRBはほぼゼロ金利で資金供給を続けています。
一方で、アメリカは足元でインフレ率が高まりつつある様です。

これは、極端に進んだドル安のデメリットで、
資源から製品に至る多くの物を輸入に頼るアメリカでは
ドルの増刷は、輸入物価の上昇に直結します。

ドルはリーマンショック以降為替的には高くなっていますが、
大増刷されたドルは商品市場にも流れ込み、
原油価格や穀物価格の上昇を引き起こしています。
リーマンショック後の世界では、円以外の
ドル、ユーロ、元などが等しく減価した為に単純にドル安とは言えませんが、
ドルに対して値上がりした円で生活する私達がインフレを実感出来ないのと相反して、
ドルにペックしている国々や、ユーロ圏や、通貨安政策を取っている国では
資源や食料品の価格の上昇が顕著になっています。

「見えないドル安」はアメリカの国内よりも、
ドルに通貨を事実上ペックしている国でインフレを加速させます。
産油国や中国、韓国の国内のインフレは、これらの国々の政情を不安定にします。

インフレに伴って、中国では賃金が上昇し、
従来の様な安価な品物の輸出が不可能になりつつあります。
これは、輸入物価を通してアメリカ国内のインフレ率を上昇させます。

アメリカは金融危機の後始末で金融緩和を止められません。
一方で、ドルの大増刷は、アメリカ国内のインフレ率を上昇させます。

アメリカではQE3の早期停止を主張する声も聞こえ始めました。
景気回復というよりは、インフレ率の上昇に警戒し始めたのです。

もし、インフレ率が高まり、FRBが金利を引き上げる事態になれば、
低い金利に支えられていた、アメリカの債権金融システムは崩壊します。

金利を引き上げる前に、QE3の終了が起こりますが、
QE3の停止は、やはり債権金融システムに大きな悪影響を与えます。

■ 最後はにっちもさっちも行かなくなって、何か大きな変化が発生する ■

アベノミクスに浮かれて、アメリカや世界で起きつつある大きな変化に日本人は関心がありません。

しかし、世界では確実に何か変化が発生しつつあります。
それが、景気回復で無い事は、明らかです。

世界的な株高、そして再燃し始めたユーロ危機、
中国政府が再び住宅市場の規制を緩める事など、
世界の危機は明らかに高まっています。

リーマンショック後、世界の金融システムやドル基軸制度の崩壊が本気で心配されました。
しかし、世界は「狂った様な金融緩和」でかろうじて崩壊を食い止めています。
しかし、危機の本質は何一つ解決していない以上、
世界は日本のい失われた20年以上の長期低迷に甘んじるか、
あるいは、一気の崩壊に向かうかの二者択一を迫られています。

再び世界に危機が訪れた時、
日本の経済と財政の本当の実力が問われるのかも知れません。


<追記>

アメリカの10年周期の景気循環の大元は、第二次世界大戦の戦時国債を償還する為、
アメリカが戦後に大量に発行した国債の償還期限に大元があるのではと疑っています。

ニクソンショックの頃が、最初の大量償還時期だと思うのですが、
金兌換を停止する事で、アメリカは大量のドルと米国債を発行出来る様になります。

これは一種のインフレ政策で、本来、ドルの信用が失われますが、
石油ショックによって、世界のドル需要は急拡大し、ドルの信用は保たれました。

一方、石油ショックによる景気低迷を脱却する為に
財政政策に頼ったため、アメリカは大量の国債を発行する事になります。

10年周期の景気悪化の原因は、国債の償還期限と関係あるのかも知れません。
国債の大量償還時期が迫ると、危機が発生して金利が下がる。
逆に言えば、国債の償還時期を前に金利がピョコンと跳ね上がり、
バブルが崩壊するシナリオが出来ているのでは無いか?

アメリカの国債償還額の年次推移データが見つからないので、
あくまでも憶測に過ぎませんが、
10年周期のバブル崩壊が自然発生するのか、
それとも何か原因が存在するのか、とても興味をそそります。


一節には、米軍の武器の在庫一掃セールの為の10年周期の戦争という説もありますが。


<追記>

経済を熱力学の様に捉えるならば、
金利の低下は、経済の活力の喪失につながります。

過剰生産性を有する世界は、インフレが適度に抑制されますが、
金利も低く抑えられる為、金利差による利益獲得が難しくなります。
その為、利益を拡大する為に大きなレバレッジを掛けた取引が増え、
金利が反転した時の被害を拡大しているとも言えます。

ゼロ金利下における金融政策は、有効需要を作り出す事は出来ず、
金融市場や商品市場に過剰流動性を提供し続ける事になります。
そして、金利の上昇局面で、バブル化した市場は容易にパニックに陥ります。

経済の活力として適切な金利は必要ですが、
最早世界は、金利上昇という手段を失っているとも言えます。

この不自然な経済が永続的とは考えられず、
いずれ、その歪みは大きく噴出する事となるのでしょう。


リーマンショック後に新興国経済が自立成長するデカップリングが期待されました。
しかし、新興国経済は好調の様に見えましたが、
結局、先進国の需要が新興国経済を支えていた事が明確になりつつあります。

デカップリングが成功する前に、世界経済は再び縮小へと向っています。
アベノミクスの描くばら色の未来とは反対方向に世界は動いている様に見えます。