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既に過剰生産設備は国内に無いという事実・・・円安で景気が悪化する?

2013-02-23 03:33:00 | 時事/金融危機
 

■ 廃業が進む中小企業 ■

ここ数年身近で聞く話題の多くに、中小零細企業の廃業があります。
私は照明関係の仕事をしていますが、
照明器具は、以前は小さな町工場で生産されていました。

デザインが多様化している分野なので、
大量生産よりも、少数ロットで生産される商品の方が多いからです。

小さな町工場で、それぞれが分業して商品は作られていました。
金型絞りの工場、メッキ工場、金属加工の工場、組み立て工場。
別のメーカが、同じ工場に発注しておるケースも多く見られました。

検品に行くと、茶の間に通され、お茶が出され、
壁には子供の書初めが貼られていたりしました。

ところがバブル崩壊以降、建築分野は大幅な縮小を余儀なくされ、
建築照明の分野でも競争が激化しました。
各社は、国内生産ではコストが見合わないので、
台湾や中国での生産に切り替えました。

最初の頃は、まともな品質の商品が出来ず、
さらには工場の経営者が突然ドロンしたりして苦労しましたが、
結局、現在では中国生産なくしては業界が成り立ちません。
大手の一部は、1990年代からタイの工場を稼動に成功しています。

その結果どうなったか・・・・。
国内の中小零細工場が次々に潰れて行きました。
それぞれの工場は、生産を縮小させながらも、
何とか短納期や特注製品の生産で経営を続けていましたが、
経営者が高齢化したり、病気で倒れた後、誰も工場を継ぐ人が居なかったのです。

こうして、私の知っているだけでも多くの工場が消えて行きました。
今では、国内で何か作ろうとしても、作れなくなってきています。

■ 国内生産は戻って来ない ■

さて、円安になったとして、これらの国内生産は戻って来るでしょうか?
多分、戻って来る事はありません。

失われた20年の間に、多くの職人さん達もリタイアしました。
工場が閉鎖されたために、技術の継承も出来ず、
腕の良い職人さんたちも減りました。

そして何よりも問題なのは、今の若い人達は、工場での労働を嫌います。
ですから、求人をしても、若い経験者を集める事が難しくなっています。
多くの若者が、貴重な若い時期をフリーターとして
コンビニのバイト程度しかしていないので、
技能の継承が断たれてしまっているのです。

自動車産業などは、輸出競争力があったので
部品産業も含めて、比較的国内の生産システムが温存されています。

その一方で、内需だけで支えられていた建築産業の、
建築金物や、照明器具や、設備関連の製造工場は軒並み海外に依存しています。
バブル崩壊以降の激しい国内でのシェア争いの結果、
国内生産が淘汰されてしまったのです。

仮に円安が1ドル125円のレベルに達したとしても、
これらの製造工場は日本に回帰する事はありません。
何故なら、1ドル125円の時代に、既に多くの生産が海外移転していたからです。

■ 現場の実体を知らない経済学者 ■

「円安になれば、国内生産が復活して景気が回復する」
多くの経済学者達がこう主張します。

ところが、円安で生産や輸出が回復するのは
高い製造技術を必要とする自動車や、電子部品、一部の特殊な素材分野です。

一方、高い製造技術を必要としない分野、
建築金物や、白物家電や、被服産業などの工場は、
仮に1ドル125円、あるいは150円になっても国内には戻って来ません。

円安によって中国生産のコストが上昇したら、
より安い生産地、例えば、ベトナムやミャンマーやラオスへと工場が移転します。

その過渡期として、これらの製品の輸入コストが増大します。
既に現場では、円安によって製品の輸入コストが増大していますが、
不況で価格転嫁出来ないので、メーカーの経営を圧迫し始めています。

■ 過剰生産性など国内に存在しているのか? ■

デフレは需給関係の悪化で発生します。
需要を供給が上回れば、価格が低下してデフレが発生します。

リフレ派の多くが、通貨を大量に発行すれば消費が拡大し、
需要が拡大する事で、過剰な供給力との差を縮小する事が出来ると主張します。
その過程で、デフレはインフレに転じると・・・。

ところが、日本のデフレの原因は海外からの安い輸入です。
もし、為替レートがあまり変わらないのであれば、
需要の拡大は、輸入の拡大という結果を招きます。

この過程において、国内の製造設備の稼働率は上がりませんし、
製造が増えないので、雇用の改善もあまり見られません。

私達がデフレの原因と考えている過剰な供給力は、
国内にあるのでは無く、国外に存在しているのです。


■ 円安で確かに物価は上昇するが・・・ ■

国内の製造業が空洞化した状態で円安が発生すると、
輸入物価の上昇により、国内物価が上昇します。
リフレ派の大好きな「インフレ」が発生するのです。

しかし、景気回復を伴わないインフレなので、
輸入物価の上昇分を全て価格転嫁する事はできません。
そこで、企業は経費を削減してコスト圧縮に勤めます。
・・・・人件費を削減するのしかありません・・・。

■ 既に日本は1980年代のアメリカの状況に似てきている ■

アベノミクスの元となっているレーガノミクスですが、
言葉は似ていますが、政策の方向性が180度異なります。

レーガノミクス      アベノミクス

インフレ脱却       デフレ脱却
高金利政策        低金利政策
強いドル政策       弱い円政策
減税           多分、増税
財政縮小         財政拡大
小さな政府        大きな政府

1980年当時、既にアメリカの製造業は衰退していました。
アメリカは当時、石油ショックの影響による物価上昇に苦しんでいました。
同時に、国内の製造業が日本やドイツに押されて衰退する時期を迎えています。

アメリカは、巨大な貿易赤字と財政赤字、経常収支の三つ子の赤字に苦しみます。
そこで、レーガンはドル高政策に切り替えて、アメリカの赤字を削減します。

日本のアベノミクスは全く逆の事をやろうとしています。

■ 日本の製造業は、新興国と同等の賃金にならなければ競争力を回復できない ■

円安でも家電産業の本格回復は起こりません。
何故なら、家電産業は既に輸入産業だからです。

白物家電に限らず、携帯電話も既に輸入に頼っています。
パナソニックの携帯電話はシンガポールで作られています(組み立て)。

日本の貿易赤字がクローズアップされていますが、
その原因は以外にも原油やガスの輸入では無く、
通信機器(携帯電話)の輸入額の拡大に大きな原因があります。

一度、海外に流出した製造設備を国内に戻す事は容易ではありません。
シャープが液晶工場を国内に戻した事で経営が悪化しました。
韓国で生産しても採算が取れない液晶を、国内で製造しても価格競争に負けるからです。

結局、国内の賃金が海外並みに下がらない限り、
工場の国内回帰は発生せず、失われた雇用も回復しません。

アメリカは製造業が空洞化した1980年代以降、
過剰な労働力をサービス産業に振り向けました。

しかし、製造業に比べ、サービス産業の労働生産性は高くありません。
ウェートレスやウォールマートの店員の給与は、
巨大メーカーの工場の従業員の給与よりも低いのです。

アメリカの工場は組合がしっかりしていますから、
いたずらに給与を下げる事はしません。
その代わり、レイオフや首切りなどの雇用の削減でコストを調整します。
ですから、大手のメーカーの従業員の給与は比較的高いのです。

■ 円高と円安のバランスポイントは95円くらいでは無いか? ■

確かに1ドル120円とか150円という極端な円安になれば、
自動車や素材などの一部の輸出企業の業績は大幅に改善します。

一方で、輸入企業の経営は悪化します。
この中には、製品を輸入して販売する家電メーカーも含まれます。

輸出と輸入のバランスを考えると1ドル95円くらいが良いのかも知れません。
あるいは、1ドル=1ユーロ=100円というのが、バランスが良いのかも。

これでも、アメリカがドルをジャンジャン刷ってドルの減価が進んでいる事を考えると
かなりの円安水準です。

ドルに不安が生じれば、又一気に80円台の円高が発生してもおかしくはありません。

■ 株価上昇も一段落 ■

ヨーロッパのヘッジファンドを中心に円安、日本株高が演出されていました。
しかし、ドル円レートが概ね適正水準に達した事で、
彼らは利益を確定する為に、円を買い戻して円高を演出し
日本株を高く売り抜けています。

海外の経済指標が軒並み低下した事も売りを誘っています。
彼らはしたたかですから、多分空売りも仕掛けているでしょう。

一方で、一度下がった相場も3月一杯は下支えされると読んでもいるでしょう。
彼らは、先物に買い注文を出して、日本株が底抜けするのを防ぎながら、
もう一儲けしようと企んでいる様に思えます。

私は2月末で、株価は一端調整されると見ていまいたが、
どうやら、今がその時期に当たっている様です。

しかし、3月までは、国内勢も株を買い支えますし、
海外のファンドももう一儲け狙うでしょうから、
株価はストンと下げては、またジリジリと上昇するパターンを繰り返します。

3月末に1万3000円は無理としても、1万2000円を伺う状況では?

ただし、そこから先はジェットコースター状態でしょう。
ここら辺は、日本の個人投資家も読んでいるでしょうから、
一気に売りが売りを呼んで、恐ろしい事が起こるかも知れません。

ここで、アベノミクスが単なるミニバブルで終わるのか、
それとも、未だ国民の支持を得られ続けるのかが決まります。

いずれにしても、当たらない事で有名な「人力予測」なので、話半分という事で・・・。