N2を見るにはこれで3度目となる。ウイングカップに3年連続で参加しているからだ。そして、その3本の作品で毎年着実に成長している。
作、演出の杉本奈月さんの中で「劇」というものがどんどん進化し変貌していくさまが、その作品からストレートに伝わってくることがとても心地よい。基本的な姿勢は全く変わらない。だが、ストーリー性をどんどん排除していく。光と音。かすかな気配。心が . . . 本文を読む
『ウルトラミラクルラブストーリー』以来6年振りとなる横浜聡子監督の長編新作。ようやく彼女の作品が見られる。それだけで心ときめく。初めて『ジャーマン+雨』を見たときの驚き。こんな映画があるのだ、と心から驚いた。主人公の顔が凄すぎた。あんな顔のヒロインを前面に押し出す。ないわぁ、と思う。ゴリラーマンと呼ばれる。16歳植木職人。そんな設定もないわぁ、である。彼女の毎日を描くだけでもうとんでもないことにな . . . 本文を読む
昔、映画は心にずっと残って忘れられないものだった。しかし、今の映画は日々消費されていくものになり下がった。こんなにもたくさんの映画が作られているのに、それが残っていかない。時代のイコンにもならない。情報の圧倒的な量の前でひとつひとつの映画はただの情報になり全く意味のないファーストフードと化していく。
1980年代に書かれた竹内銃一郎の戯曲『東京物語』は、明らかにヘクトール・バベン . . . 本文を読む
映画を見た後、すぐに原作小説を読むなんていう行為は本当に久しぶりのことだ。昔高校生だった頃なら、よくした。でも、大人になってからは、そんな子供っぽいことはしない。そこまで思い入れしなくなったのかもしれない。それに、映画になるような小説は、映画化される前に先に読んでいる場合がほとんどだし。
しかも、今回は原作というよりもノベライズかもしれない。(だが、ノベライズのよ . . . 本文を読む
山本正志監督の新作が公開された。相変わらずデンジャラスで混沌。表面的には静かな映画だが、内容はそうではない。お話自体もストレートではなく、右往左往する。その揺れ幅の大きさが彼らしい。興味の赴くままに、どんどん横滑りしていく。
新興宗教の話なのだが、あきらかに怪しい教団で、でも、そんなのに、人々はしっかり騙される。映画を見ながらこんなに簡単に人は騙さ . . . 本文を読む
ウディ・アレンの新作はとても甘く優しいファンタジー。才人なのでこんな映画もちゃんと作れてしまう。霊能力者の女性と皮肉屋の堅物マジシャン(謎の中国人という昔ながらの設定でステージに立つ)が、出会い、恋に落ちる。
彼は、霊能力なんて絶対インチキだから、その化けの皮を剥いでやろうとするのだが、彼女は実に的確にその能力を発揮して奇跡のように、彼の心の中を当てていく。人の心が見えるなんて、 . . . 本文を読む
原田ひ香なので、読んだ。それだけ。彼女がこういうタイプの作品をどう描くのか、それが楽しみだった。読み終えた感想はとりあえず納得、って感じ。実によく出来たパターン小説でお約束通りの展開の心地よさはある。でも、彼女じゃなくてはならないとは、思えないから、(こんなの誰でも書けるし、書いている)なんだか、肩すかしかも。
成海慶介は探偵ではなく、復讐屋。でも . . . 本文を読む
こういう芝居を真紅組番外公演として上演する試みが面白い。オリジナル台本ではなく、海外の既成作品を持ってきて、しかも、男たちだけで、やる。諏訪誠さんはいつも以上に気合が入っているようだ。(もちろん、いつも気合が入っているけど)今までやったことのない試みは刺激的な冒険になるからだ。 4人の役者たちも気合十分。そこで、少し空回りする、というのも、よくあるパターンではないか。軽やかなタッチで全編を駆け . . . 本文を読む
林海象監督の最新作。2013年作品だから、公開からはもう2年になる。迂闊にも、この映画の存在をつい先日まで知らなかった。少し前、ツタヤの新作コーナーでたまたま見つけたのだ。なんとなく手に取り、えっ、と思った。林海象が永瀬主演で! という驚きだ。昨年の秋にリリースされていた。地味な置き方(1本のみだし)がなされていて、見逃していたわけだ。
たまたま手に取り、気づく。 . . . 本文を読む
このタイトルで家族を扱う劇を作る。その際、下敷きにしたのが、テネシー・ウイリアムズの『ガラスの動物園』だった、というのは言われてみればさもありなん、って感じだ。 今回、FOペレイラ宏一朗が書きあげた台本は上演されなかった。その理由は問わない。台本が書けなかったわけではなく、書いたものが納得いかないものだった、というお話を聞いて、(本人からではなく、劇場のオーナーである福本さんからだけど . . . 本文を読む
サラ金の取り立て屋をしているバカな男が、かわいそうな(でも、気が強い)ひとりの女に恋して、堅気になって、彼女のためにまともな生き方をしようとするが、当然のようにうまくいかず、死んでしまう、というお話。
なんだかなぁ、である。やくざな男が堅気の女性に恋して幸せな結婚を夢見る、なんていうとんでもなく古典的なお話がハッピーエンドになるはずもない。
これは韓国映画だから、成立するけど、今の日本映画では . . . 本文を読む
2年振りのペ・ドゥナの新作映画らしい。少し大人になった『冬の小鳥』の少女キム・セロンと共演した。内容はとてもハードで、あまりに痛ましく見ているのがつらくなる。出来ることなら映画から目を背けたい。そんな気持ちにさせられる作品なのだ。でも、最後まで見る。義務というより、試練というような感じ。どうして、こんな思いまでして映画を見なくてはならないのか、と思うけど。
養父による虐待。彼から少女を守ろうと . . . 本文を読む
あと3カ月で死んでしまうと宣告された青年が、残された時間をどう生きるのか、というこれまでも何度となく描かれたようなお話。なのに、こんなにも新鮮な映画になる。大切なことは何を描くかではなく、その語り口であることを改めて思い知らされる。主人公の青年を演じた野田洋次郎がすばらしい。自分に訪れた災厄を茫洋と受け止めて、自然体で生きる。暴れたり、もがいたり、見苦しいことはしない。では、諦念からか、というと . . . 本文を読む
第10回公演となる。区切りの1作。でも、ことさらそこを前面に出さない。チラシには書かれてなかったし。(当日パンフのアンケートを見て知った)安心して見ていられる。2時間の至福の時間だ。「音楽」と「物語」。その二つの融合する世界。変わらないスタイル。その中でいつも新しい世界紡がれていく。シンプルで、ストレート。でも、だからこそ、こんなにも心に沁みる。胸に届く。石井さんが心がけるのは、バランスだ。ふた . . . 本文を読む
久々の紀行文集。雑多な原稿を並べてある。でも、そこがとてもいい。旅をするとき、系統立ててする、なんていうのはない。行くところも、時期も、メンバーも、目的も、さまざまなものだろう。もちろん、彼の場合は仕事として、ということも多々あるはず。この原稿を書くことが目的で旅に出る、というのも。でも、基本的に、書きためたものを一冊にした、だけで特にそれ以外の意図はない。そういうのも、なんだかいいなぁ、と思う。 . . . 本文を読む