『チルドレン』から12年振りの続編。あの家裁調査官陣内と部下の武藤が帰ってくる。陣内のいいかげんな対応は健在。自己中で、適当。みんなに迷惑ばかりかけている。実に困った男だ。だが、みんな彼を憎めないやつ、と思っている。彼のペースに巻込まれて嬉々としている。
ふつうなら、こういう人物は胡散臭いし、関わり合いたくない、と思うはず。確かにみんなもそうも思っている。表面では。だが、みんなは . . . 本文を読む
40代初めで、まだまだ若いのにガンに罹り、死にゆく妻を看取る夫、という図式は昔の「難病もの」映画の設定そのもの。6、70年代じゃあるまいし、今時そんな「お涙頂戴映画」はもうない。だが、山崎ナオコーラはそれに挑む。
もちろん読者の涙腺を刺激するためではない。今こんな状況にある。それを受け止めて出来ることを全力でしようとする男の姿を静かに描くだけ。介護 . . . 本文を読む
このさりげないお話の虜になる。最初はパニック映画か、と思ったほど。リゾート先で雪崩に巻き込まれた家族のお話だと思っていたから。だが、そうじゃなかった。
確かに雪崩のシーンは出てくる。しかも、映画のかなり最初の方で。そのエピソードが起点となり、お話は進行する。だが、ここで描かれるパニックは、目の見える、体験するそんな「災難」ではなく、内面的な問題なのだ。デザスター映 . . . 本文を読む
こんな話ありなのか。なんでもありの今の西加奈子には怖いものはない。ふつうやらない。西加奈子版『ET』は、スピルバーグも驚きの展開だ。もちろん、これはSFファンタジーではない。
ひとりの少年の成長物語だ。彼と不思議な転校生の少女の交流を通して、小さな田舎町で起きる奇跡の物語が始まる。そんなバカな、と思いつつも、信じたくなる。宇宙人はいる。だって、僕自身がほかならぬ宇 . . . 本文を読む
『コングレス 未来学会議』はロビン・ライトが本人役で出演する。売れなくなった女優だなんて、酷い設定を受け入れる。さすが大物女優だ。アリ・フォルマンは今回、前半を実写、後半でアニメーションというスタイルを選ぶ。
役者が自分のイメージ(外見だけではなく、内面も、である)をそのままトレースしたCG映像に身を売る。コンピュータに本人のすべての情報をインプットして、そのCG . . . 本文を読む
3年半ぶりの新作となるようだ。前作『Z』も面白かったけど、今回も気合いの入った大作仕立てで、前作に続き本作も原作者の尾田栄一郎が自らプロデュースする2作目。
「ようこそ、グラン・テゾーロへ」という何度となく聞いた予告編の冒頭の一言が、この作品を象徴する。巨大なカジノであり、船であり、国家。無法地帯の独立国。ここに君臨するテゾーロは、ここからやがて世界を支配するつも . . . 本文を読む
料理は戦いだ。そんな感じの小説なのだが、描こうとすることは、「自分に負けないように努力する」というすべてに通用することだ。その普遍性がこの小説を感動的なものとする。スポーツ小説に近い感触だ。日本最高峰のフランス料理コンクールに挑む若きシェフを主人公にしたスポ根。
おいしいものが出てくるはずなのだが、小説なので、見えないし、作るほうなので、食べる描写は少ない。しかも . . . 本文を読む
熊本県が製作した中編映画。行定勲が監督を依頼された。キャストは熊本出身の役者を集めた。こういう作品が作られるのは好ましい。行政がPRを兼ねて制作し、それが結果的に観光に寄与し、地域の活性化にも繋がればよい。今までもたくさんの地域発の映画は作られてきた。行政が積極的に誘致するパターンも多い。だが、今回のように自分たちが自ら製作する本格的なプロ仕様の作品というのはめずらしいし、期待も大 . . . 本文を読む
新しいターザン映画が誕生した。『グレイストーク』を超える映画を期待したわけではないけど、ジャングルから始まるのではなく、グレイストーク卿が再びコンゴに戻るお話、というところが興味深いと思った。監督はダークファンタジーになった『ハリーポッター』の終盤戦を担当したデイビッド・イェーツというのも心魅かれる。軽薄なトーンではなく、重くて暗いタッチで始まったのもよかった。
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今年超人予備校はなんと12年を迎える。そのイベントとしてHEPホールで、1夜限りの12周年記念公演が行われた。これは12年間の集大成である。ただのお祭り騒ぎのイベント企画ではない。
もちろん魔人ハンターミツルギさんは肩の力を入れまくることはない。いつものように穏やかで、照れたような笑顔を客席に向ける。変わらない。その変わらなさが素晴らしい。ベストか、ワーストか、と . . . 本文を読む
公開初日に見に行くはずだったのだが、仕事の都合で見れず、今日(公開4日目)になった。こんなにも期待させる映画はない。最初からゴジラが出てくるのだ。早すぎる、と心配になるほど。しかし、大丈夫だ。この映画の作り手は確信犯である。いろんなことをわかった上で、冒頭から登場させている。
すごいテンポでお話が急展開する。そうじゃなくては、この緊急事態を描けない、とでも言うかの . . . 本文を読む
このバカバカしいお話を、中途半端にふざけることなく、ちゃんと作っていて、40分というコンパクトな長さにまとめる。なんとも気持ちのいい作品だった。
役者たちがみんな適材適所で頑張っているのもいい。特に主人公である便器(失礼、洋式トイレくん)を演じた趙美恵さんがいい。彼女のさりげない爽やかさ。コミカルな芝居を無理してすることなく自然体で演じるのびやかさ。それは他のキャ . . . 本文を読む
これはあまり大人の手が入っていない作品ではないか。僕が見た今までの「咲くや」の作品には、こういう感じのものはなかったはずだ。それだけにこれは実に、意外で新鮮だった。今回見たHPFの作品の中で、一番高校生らしい取り組みだったのではないか。ここまでの5本はいずれも気合いが入りすぎて、高校生離れしたものが多く、それはそれで面白いし、HPFはコンクールとは違いそういう野心的な作品を奨励して . . . 本文を読む
アトム・エゴヤンの新作なのだが、彼はいつも同じテーマを扱い、それを様々な観点から描く。今回も9歳の少女誘拐事件。『スゥィート・ヒア・アフター』以降、子供たちの失踪というテーマを正面から描き、残された家族の苦悩を幾度となく綴ってきた。
何が起きたのかもわからないまま、戸惑い、苦しみ、現実と向き合う。でも、どうしようもない。ありえないような犯罪に巻き込まれ、幸せだった日々が一瞬で崩壊 . . . 本文を読む