劇団50周年記念公演だ。50年劇団を維持し続けるだけではなく、常に攻めの姿勢を崩さないあり方が素晴らしいと思う。演出の熊本一は、今の劇団大阪の精力的な活動をしっかり支えているのだろう。
今回の50周年作品は、公募で選んだ。これは「劇団50周年記念戯曲募集大賞受賞作」である。自分たちの今からをその先までを見据えて、その土台を築き上げる礎となる、そんな台本を広く公募で集める。常に新しい出会いを求めて . . . 本文を読む
これもまた小さな芝居だ。これが今週3本目の芝居だが、3本とも同じように小さな作品。ようやく落ち着きを取り戻しつつあるとはいえまだまだコロナ禍の今、演劇公演はどうしてもこうなるのかもしれない。だが、それは寂しいことではない。反対に今までとは少し違う贅沢がそこにはある。これは座長であり作、演出を手掛けた久保田浩が、自分が今やりたかったことをやりたいままにやりきった、そんな作品になっている(のではないか . . . 本文を読む
週末なんと5本も芝居を見た。金土の二日で、だ。こんなのはほんとに久しぶりのことだ。まるで以前の日常が戻ってきたみたいだ。でもコロナが始まる3年前まではそんなのが普通だった。でも、もうそんなふうに芝居を見ることはないかもしれない。今週末5本見たのが奇跡かもしれない。
そんな5本の1本目がこの作品だ。「空の驛舎短編集」と題された3本の短編を1プログラム2本ずつにして1日で、3番組上演。それぞれ異なる . . . 本文を読む
『話すのなら、今ここにないもののことを話たかった。今ここにないものの話ばかりをしようと思った』を改作・改題した。開場して劇場に入ると、すでに舞台には役者がいる。(青年団の芝居みたい)ごそごそと何かしている。鞄を置いて、舞台上に箱馬を運んできて並べたり、缶コーヒーを並べたり、出たり入ったりしている。開場と同時にすでに芝居は始まっている塩梅だ。もちろんたいしたことをしているわけではないから、見ないでも . . . 本文を読む
なんともシンプルなタイトルだ。フリーは「自由」の意味だと思っていたが、タイトルには「FLEE」とあるから、スペルが違う。調べたら「〔危険などから〕逃げる、逃れる 〔安全な場所に〕避難する、」とある。こちらはさらにシンプルなタイトルではないか。あまりに単純で簡単すぎて映画のタイトルだとは思えないほど。たくさんのひとたちの立姿が描かれたチラシを見たとき、これを見たいと思った。ひとりひとりの姿がとても印 . . . 本文を読む
空前絶後の不入りを記録している河瀨直美の新作。2部作で今回はアスリート編。オリンピックの公式記録映画のはずなのに、とてもミニマルな視点から全体ではなく部分だけが描かれていく。こんなのありか、と「お偉いさん」は憤慨しているのではないか。市川崑が64年の『東京オリンピック』を撮った時も、非難ごうごうだっただろうけど、あれは空前の大ヒットとなった。今回は非難さえ聞こえないくらいに悲惨な興行。公開2週目か . . . 本文を読む
11篇からなる短編集なのだが、これがとんでもなく怖い。いずれも怪異譚だ。だから特異なことを描くのが、それをとてもさらりと描くので、余計に怖い。日常に潜む「何か」が、ほんの少し肥大化したり、ずれてしまったりしたとき生じる出来事。あり得ない話ばかりなのに、ありえても仕方ないと思える。というか、ありえると思える。『雨月物語』の現代版という趣だ。
動けないし、しゃべれない病床の男が、魂になって友人である . . . 本文を読む
長谷川博己、綾瀬はるか主演の映画だ。ということは、きっとラブストーリーになる。二人が恋に落ちる、という展開ね、と誰もが思うはず。スイミングスクールのコーチとそこにやってきた泳げない40男。ボーイミーツガールの典型。でも、ここにはそんな定番の展開はまるでない。ふたりが対等にも描かれない。これはあくまでも長谷川演じる男性のお話で彼が単独主演、主人公。だから綾瀬は助演。しかも恋の相手ではない。彼の恋の相 . . . 本文を読む
今回でなんと17弾となるそうだ。毎年確実に1冊出版されている。律儀というか、なんというか。在りし日の寅さん映画のように。毎年『東京バンドワゴン』の新作を読むのが定番。(そういえば小路幸也は寅さんのノベライズもしていたなぁ)ここまでくるとその膨大な登場人物の交通整理だけでも大変な作業になるだろう。でも、小路幸也は毎回同じパターンで、1年ずつ成長していく家族の姿を描いていく。子供たちがどんどん大きくな . . . 本文を読む
2019年に芸術創造館で上演された作品の再演。FOペレイラ宏一朗の代表作。突然の大地震によって山奥にあるビルの中に閉じ込められて生き埋め状態になった人々の姿が描かれる。今回、満を持してリライトした完全版で上演される。
初演を見た時も面白いと思ったが、今回改めて見て、この作品の描く世界がさらに明確になり、完成度も高まっていたのがうれしい。ひとりひとりのキャラクターが明確で、でも、パターン化はされて . . . 本文を読む
久々の井筒和幸監督の新作だ。メジャーではなくマイナー作品なのだが、50年に及ぶ時間を描くやくざ映画である。かなりの大作映画なのだ。1956年から始まる。主人公の少年時代からスタートして彼が60歳の還暦を迎えるまでのお話。60歳を機にして彼は組長を引退する。毎日が闘いの日々だった。だが、派手な抗争は描かれない。なんだか日常のスケッチみたいな映画なのだ。エピソードは細切れで、淡々とした描き方。短いエピ . . . 本文を読む
なんだか不思議なタイトルだが、読み始めて、その内容のままのシンプルすぎるタイトルだと気づく。まだ前半までしか読んでいないから、この後の展開でこのタイトルが意味深になるのだろうか。家族を乗せた車の娘は乗っているけど、それだけでこんなタイトルにはしないよね。17歳の女の子、かんこが主人公。彼女の抱える問題が描かれる。家族のことだ。ひらがなの「くるま」とは何なのか。気になる。
お話は祖母の死から始まる . . . 本文を読む
残念だが全く乗れなかった。水谷豊監督の前作『轢き逃げ 最高の最悪な日』はとてもいい映画だったので、期待したのだが、今回は監督の優しさが裏目に出て、甘いばかりの映画になってしまったようだ。お話の作りが緩すぎて突っ込みどころ満載だ。個々のキャラクターが嘘くさいから役者たちがそれなりに頑張っていてもそれだけでは追いつかない。台本段階の問題を役者の力量でフォローできるわけもない。でも、水谷豊監督はいい人だ . . . 本文を読む
ホラーなのかと思わせるようなタイトルだが、並みのホラーよりも強烈で怖い。セクハラを描くのだが、善悪の別れ目が明確なのに、その境目は難しい。加害者被害者の立場や判断の違いで済まされない。だけど、相対するふたりの主人公を単純に善悪で色分けするのではなく、同じバランスで描いたのがいい。さらには被害者の女性からでも、加害者の男性からでもない立ち位置で描くのがいい。彼らを取り巻く様々な人々の視点からの描写が . . . 本文を読む
たった86分の映画だ。これだけのスケールの映画なのにこの上映時間。でも、この悪夢は半端じゃない。まさかの展開でいったいこれはどこに行きつくのか、想像もつかない怒濤の展開を見せる。冒頭の結婚パーティ。上流階級の贅沢な式の様子が延々と続く。『ディアハンター』ほどではないけど、結構長い。だが、徐々にそこに不穏な空気が流れ始める。7年前にやめた使用人が娘の手術のために大金を借して欲しいとやってくる。母親は . . . 本文を読む