大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・小説大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ・Vol・17『今日この頃』

2018-10-30 15:42:23 | 小説・2

小説大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ
Vol・17『今日この頃』 
 
       


※台詞は入ったんやけど

 稽古は着々……と言いたいんですけど、なかなかです。
 なかなかいい、とちごて、なかなか進まへんの「なかなか」です。日本語はむつかしい。

 配役は以下の通りです。

 咲花 かおる    三好清海 (二年:部長・演出)
 畑中 すみれ    九鬼あやめ(一年:舞台監督)
 由香・看護師    大野はるな(一年:音響・その他)

 本は『すみれの花さくころ』 ネットで、これに大橋むつおと入れると出てきます。

 えらそうや思うたら堪忍してくださいね。いわゆる高校演劇のレベルにはなりました。
 台詞も入ったし、立ち位置や、おおよそでとりあえずの動き(ミザンセーヌ)は決まりました。挿入曲も一応覚えました。文化祭のクラス劇やったら、もう完成です。

 そやけど演劇部は、ここからです(^_^;)

 泣き笑いなんかの喜怒哀楽が、まだまだ引き出し芝居です。一応役者としての基礎練習はよそよりやってるんで、普通には芝居できます。

 役者の第一条件は、自己解放です。

 自己解放とは、芝居に合わせて自分の感情が自在に操れることです。一年の時に徹底的にやらされました。やり方は簡単。過去の体験で、悲しかったことや、辛かったことを再現するんです。演じるんとちゃいます。気持ちを表現するんとちごて、その時の物理的な記憶を思い出すんです。
 うちは、お婆ちゃんが認知症になって、あたしのことを忘れた時のことを思い出しました。病院のたたずまい。病院独特の奥行きの在るエレベータ、消毒薬と、そこはかとなくしてくる病人さんらのニオイ。夏やったんで、エレベーターが開いたとたんに入ってきた冷気。それも足元やのうて、首筋で感じたこと。病室のドアが最初はちょっと重たいけどスルっと開く感覚……ほんで、お婆ちゃんが「こんにちは」と言うた時の他人行儀な響き。他人に対する愛想のよさ……この時の笑顔が、お婆ちゃんが亡くなったとき初めて見た死に顔と重なって、あたしの記憶は一気に、お婆ちゃんが死んだ日にとんでしまいました。どっと悲しみが溢れてきて、お通夜、葬式、火葬場、骨あげ、あたしはパニックになりかけました。
 この練習は、メソード演技の基礎です。ただ、レッスンの素材に使う思い出は、3年以上経過してて、感情の崩壊をおこさん程度のもん。これが原則です。うちは、お婆ちゃんが亡くなったばっかりやったんで、記憶が、そっちに引っ張られてしもて、まだ生傷のお婆ちゃんの死を思い出してしもたんです。
 そやけど、これであたしは自己解放を覚えました。

 しかし、役者は、これではあきません。役者個人が自分の感情を見せたら演技とちゃいます。
 役者は、その役に合うた感情表現ができんとあきません。たとえばAKBの高橋みなみと指原莉乃とでは、泣き方も笑い方もちがうでしょ?

 今、あたしは、この段階にさしかかってます。役の肉体化と言います。かおるというのは昭和20年に17歳やった女学生です。女と言えど人前で泣いたり笑うたりしたらあかんと言われてた時代です。ほんで宝塚を目指すほどの子ぉですから、姿勢もええし、歌もうまいし、抑えようとしても出てくる自然な明るさ……なかなかですわ。

 チェ-ホフやったかスタニスラフスキーやらが言うてました。

 本を書くのも演技するのも、例えて言うと森の中を歩くのといっしょやて。
 一回通っただけやったらあかんのんです。毎日森を歩いて、森の中の最高の場所と道を探します。最初は、毎日違う道を歩いて迷うこともあります。適当に見つけたロケーションで満足することもあります。それでも繰り返し歩いて、ほんまに、その人物や戯曲が求めてる道を探ります。

 つまりですねえ、森の中で「ここや!」という場所を見つけたら、見つけたことを喜んでるだけではあかんのです。

 何回森の中に入っても、その「ここや!」にたどり着けるように、森の中の目ぼしいとこをチェックしとかならあかんのです。朽ち果てて横倒しになった楡。根元から分かれた糸杉。谷川に露出した岩。獣道の痕跡。キノコの群落。エトセトラ……そういう目印になるようなところを発見して、いつでも「ここや!」にたどりつけんとあきません。

 それを繰り返して、脚本が要求している感動にたどり着けるようにするのが稽古です。

 また、繰り返すことによってマンネリになってくるのも稽古です。

「返してよ!」とお願いして目的のものを返してもらう演技があるとします。それがクライマックスの感動に結び付くとしたら、ええかげんにはできませんよね。

『アーニャおじさん』というロシアの芝居で、酒飲みのおじさんから姪の女の子が酒瓶を取り上げるシーンがありました。公演を重ねるにしたがって「おねがい、おじさん、酒瓶を渡して」という姪の台詞に切実さが無くなってきました。

 あたりまえですよね、台本では、このセリフで渡すことになっているのですから。役者はダンドリで台詞を言うようになってしまいます。ダンドリ芝居では観客は感動しません。

 そこで、おじさん役の男優は酒瓶を渡さないことにしました。

 姪の女優は本番の舞台で困り果てました。

 そこで困り果てた気持ちで、ほとんど役者個人にもどって「返して……」と台詞……というより、本気で哀願しました。

 男優は、そこで初めて「おまえに頼まれちゃかなわないなあ」とアドリブをかまして酒瓶を渡し、とても生きたしばいになりました。

 なんか、ええ話に聞こえますが、本当は決められた台詞と演出の中で演技できならあきません。

 それを、確かで強固にするのが稽古なんです。

 分かったようなことを言うてますけど、実際は難しいもんです。

 まあ、今は、こんなとこです。役作りは、毎回のことやけど、大変です。まあ、四か月あるから、どないかなるでしょ。こういう楽観も役者には必要です。


 文責 大阪府立真田山学院高校演劇部部長 三好清海(みよしはるみ) 

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・65『荒川事件』

2018-10-30 06:44:39 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・65
『荒川事件』
     



 捜すのにずいぶん時間がかかったよ。もっとも、こちらも、それだけに構っていられなかったけれどね。

 ホンダN360Zは、入力したコースを離れ、荒川の河川敷に停まると、そう話しかけてきた。

「油断したわ」
「いや、ここまで隠れていたんだ、大した者だと誉めておくよ」

「この声……ユースケね?」

「その名前は気に入っているよ。原体になった祐介は完全に取り込んだけど、このロボットの行動や思考の力は祐介の想いが原動力になっているからね」
「今、祐介は、どうなっているの?」
 抑えた声で優子がたずねると、ダッシュボードのモニターに赤ん坊のように丸まった祐介の姿が映った。粘膜や血管のようなものが繋がり繭のようなものの中で眠っているようだった。
「そして、これがわたし……ユースケのMCPだよ。どうせ君たちのスキャン能力じゃ分かってしまうことだろうからね。友好のシルシにお見せしておくよ」
「ホンダN360Zの擬態はやめたのね。どこにでもあるアズマの大衆車だわよ、これじゃ」
 わたしの不満にユースケは、正直に答えた。
「わたしも、あれのほうが好きなんだけど、目立つからね、山手線のガードを潜った時に変えた。ちょうど周りはアズマの同型車が四台も走っていたからね。途中、衛星の目の陰になるところでシリアスもナンバーも何度も変えたよ。見てごらん、営業の途中に自主的な休息をとっているアズマが、この河川敷に何台もいるだろう」
「なるほど、都心の道路じゃ、すぐに交通監視員のオジサンがやってくるものね」
「窓開けていい?」
「いいよ」

 オートで窓が開いた。広い荒川の川風が吹き込んできて気持ちがいい。

「子供の頃、こんなとこで、よく石投げをしたものよ。ちょっと出てやってもいい?」
「それは、話が済んでからにしてもらえないか。君たちのノスタルジーに付き合うために、ここまで来たんじゃないんだから」
「ち……」
「それに、うかつに外に出られて走り回られちゃ、擬態を解いてロボットの姿に戻らなきゃならないからね。せっかく平和に自主的休憩をとっているサラリーマン諸君の安らぎの邪魔はしたくない」
「ま、とにかく話を聞いてみようよ」
「友好的な態度に感謝する」
「で……?」
「C国が予想以上に我が国に浸透してきている。M重工の重役にハニートラップがかけられていた事でも分かるだろう?」
「ええ、あれはショックだったわ。C国の技術が、あそこまで進んでいるとは思わなかった」
「的場みたいな抜けたやつが防衛大臣をやっていたからな。今の民自党の時代に相当やられてる。それだけじゃない。君たちが多摩でクラッシュしてくれた古いロボットの他にも、相当なスリーパーが潜り込んでいるようで、対馬を中心に、周辺海域をしらみつぶしにあたっている」
「で、その間は、グノーシスの仲間割れは中断なのね」
「ああ、この国がなくなっちゃ元も子もないからね」
「だったら……」

 わたしと優子は手話に切り替えた。

――向こう岸の、ミッサンのバンに気を付けて――
――上空をノンビリ飛んでるアズマテレビのヘリコプターにもね――

 そのとき、ミッサンのバンが方向転換をしたかと思うと、ヘッドライトのところから対地ミサイルを、こちら岸のアズマの営業車に撃ち込んできた。
 二台目が吹き飛んだとき、わたしたちはドアから飛び出し、ユースケはアズマの擬態を解いてロボットの姿になり、荒川をジャンプし、ミッサンのバンの擬態を解きつつあるC国のロボットに飛びかかっていった。すると上空をノンビリ飛んでいたアズマテレビのヘリコプターが、空対地ミサイルをユースケ目がけて発射した。ユースケは予定進路を変え、同時にジャミングをかけた。
 わたしたちが義体であることに気づくのには、少し時間がかかり、わたしたちは擬態を解いたC国のロボットの後ろにまわり、至近距離から手首のグレネードを四発首筋にお見舞いし。ロボットは擱座した。真由の二発で間に合ったので、わたしは上空のアズマテレビのヘリコプターを撃ち、重力誘導で荒川の真ん中に墜落させた。

「ビックリするよね」
「あ、ユースケ、フケやがッた」

 あちこちで、アズマの車や、ロボット、ヘリの残骸が燃えている。わたしと優子は体温を地面と同じにし、衛星のサーモセンサーにかからないようにして、すぐに街中に逃げ込んだ。

 これが、C国多摩事変と呼ばれる局地戦争の始まりだった……。

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・42『ベターハーフ・5』

2018-10-30 06:34:49 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・42 
『ベターハーフ・5』 
        


 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になったん…未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……。


 アズマッチを庇った杏は、トラックに5メ-トルも撥ね飛ばされた。

「杏、大丈夫か!」
「せ……先生こそ大丈夫……」
「大丈夫や、杏が、からだ張って助けてくれたから」
「361……覚えといて」
「なんや、それ?」
「うち跳ねよった車……ナンバーの下三桁」
「す、すぐ救急車呼んだるからな!」

 公園に居た人たちや、通行人の人たちがワラワラと集まってきた。
「まかしとき、うち救急車呼んだるさかい!」
「あたし、今、警察電話したよってに」
「お家の人に電話せなら、あんたスマホは!?」

 杏は、弱々しくスマホを取りだして、オバサンに渡した。
「あ、ボクの生徒やから、ボクが……」
「先生、そばにおって……ウ」
 
 杏の鼻と口から、血が流れてきた。

「喋ったらあかん、おれはずっとそばにおるさかい!」
 杏は、アズマッチの手を取ると、自分の胸に押しつけた。
「杏……」
「……ここ止まるまで……先生と……繋がってたい」
 ゴボっと音がして、杏は大量の血を吐いた。
「杏う!」

 もう、声は出せないが、杏は、口の動きだけで言った。

――ベター……ハーフ――

「うん、杏は、おれのベターハーフや。しっかりせい!」

 杏は頬笑み、そのまま胸の動きが止まった……。

「今だよ、なんとかするの……」
 紀香が言い終わる前に、友子は、無意識に時間を止めていた。

「こうしておけば、いいよね」
 処置を終えて、友子は紀香のところへ戻ってきた。

「今だよ、なんとかするのは!」
「今、やってきた。紀香が叫んでるうちに……」
「ひょっとして、時間……止めた?」
「ちょっとだけ、無意識だったから……」
「……肝臓の破裂が半分になって、肺に刺さった肋骨も一本に減ってる」
「頭のできものは、成長を止めてきた。これで半分の確率で助かる……と、思う」

 そこまで言うと、友子と紀香は一年前の東京の公園にリープした。

「見届けなくてよかったの?」
「あれが限界だった……のか、よく分からない。最後まで見届けたかったけど」
 ちょっと悔しそうに、友子は唇を噛んだ。
「まあ、あれでいいよ。あの二人は、自分の力でベターハーフになっていくよ。友子が全部やったら、ただの奇跡になっちゃう。ちょうど半分でよかったのよ」
「うん……今度のは勉強になった」

「友子、なんか忘れてない?」
「え……?」
 汗みずくの紀香を見ても、友子はピンと来なかった。
「汗よ、汗!」

 友子は、よほど緊張していたんだろう。外気温35度の公園で汗をかくのも忘れていたのだった……。
 

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