大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・50『ねねちゃんとの同期』

2018-10-15 07:14:12 | ボクの妹

 

注意:わたしのブログを装って成人向けサイトに誘導するものがあります。URLの頭blog.goo.ne.jpを確かめて入ってください。blog.goo.ne.jpではないものはわたしのブログではありません。 閲覧の皆様へ

 

が憎たらしいのには訳がある・50
『ねねちゃんとの同期』
    



 幸子の股間からドレーンをそっと引き抜き「ディスチャージオーバー」と呟いた。

 いつもなら、これで憎たらしいニュートラルモードになるのだが、どうも様子がおかしい……。
 幸子は、脚こそ閉じたが、裸のままベッドに横になっている。表情もなく、呼吸のギミックも始まらない。

「幸子、幸子、どうした……?」
 幸子の体内から抜き出した洗浄剤は、時間のたった血液のようにどす黒かった。
「これはひどい……もう一度メンテナンスやり直そうか?」

「その必要は無い」

 幸子は、無機質に答えた。でもニクソクはなかった。なにか、とても大きな心のうねりを必死でおさえ、平静さを保とうとしているように思えた。
「幸子……」
「わたし……ニュートラルよ」
「でも、様子がおかしいよ」
「それは、耐えているから……」
 幸子の目から、一筋の涙がこぼれた。そして、堰を切ったように溢れ出した。
「幸子!」
 ボクは、慌ててタオルで拭いてやろうとした。すると急に幸子は、ボクの胸にすがりつき、嗚咽しはじめた。
 頬をすり寄せてやると、幸子の涙は、ちゃんと涙の味がした。
「わたしが、わたしを取り戻したら、二つの世界が壊れてしまう!」
「それは、ただの仮説だろ。それに、世界が壊れる気配なんか、これっぽちもしないぞ」
「違うの、これは違うの!」
「違わないよ、やっと幸子は自分を取り戻したんだよ。だから、こうして……」
「これは、優奈の前頭葉を取り込んだから……」
「優奈の……」
「わたし、優奈が狙撃されてバラバラになった直後、無意識に優奈の脳組織の断片を探したの。2秒で、ほとんど傷ついていない前頭葉と扁桃体の一部を発見して、わたしの体に取り込んだの」
「優奈を取り込んだ?」
「わたしのここ」
 幸子は、自分のオデコを指した。
「ここに、わたしの脳組織といっしょに保存してある。最初は、なんのためだか分からなかった。今は、はっきり分かる。優奈の義体が用意されれば、そこに移植して優奈を復元できる。その可能性のために、わたしは優奈の前頭葉を保存したの」
「そんな能力が幸子にあるのか!?」
「まだ、わたし自身気づいていない能力があるかもしれない……その一つが、今のわたしよ。今のわたし、憎たらしくないでしょう」
「ああ、こんな人間的な幸子を見るのは初めてだ……」
「どうやら、優奈の脳で取り戻した人間性では、世界は破滅しないみたい……よかった!」
 幸子は、ベッドから飛び出して、テーブルの上のテレビをつけて、チャンネルをいろいろ切り替えた。
「スニーカーエイジのニュースはやってるけど、他に変わったことは無さそう。パソコン見てみよう」
「幸子、ほんとにニュートラルなのか?」
「そうよ、嬉しいでしょ?」
「ああ、だったら、服を着た方が……」
「……あ、お兄ちゃんのエッチ!」
 ボクは、部屋を放り出されてしまった……。

「水元中尉を紹介しておく」

 晩ご飯のときに、里中副長が、女性将校を紹介した。軍人らしからぬ気さくなオネエサンだ。
「みなさんのお世話をさせていただきます。場所柄軍服を着用していますが、気軽にマドカって呼んでください」
「お父さん、他にも、なにか大事なことがあるわね」
 ねねちゃんが見抜いた。
「今から言うところだ。これを見てくれ……」
 モニターには、マッチョな戦闘ロボットが映っていた。
「味方のグノーシスから得た資料だ。義体ではなくロボットだという点に注目してほしい。戦闘機能と情報収集、総合指令機能も持っている。なりふり構わぬ高機能だ。攻撃能力は優奈クンを狙撃したイゾーの能力がベースになっている。そして、全体の管制機能は、ここにある」
 アップされたモニターには、ロボットに同化された祐介が写っていた。
「これは……」
「ケイオンのメンバーの倉持祐介クンだ。彼は隠していたが、優奈クンが好きだった。その優奈クンが目の前で爆殺されて、彼の心は怒りで一杯だ。それを奴らは利用した。この戦闘ロボットの本体は、こっちの世界で作られたものだ。義体では、向こうの世界が進んでいるが、こういうロボットは、こっちの方が進んでいる」
「この祐介が、敵に回るんですか?」
「今は、祐介クンとの同期に時間がかかっているが、戦力化は時間の問題だ。そこで、我々も手を打つことにした。太一、もう一度ねねに同期して、こいつを撃破してもらいたい」
「え、これで三度目ですよ」
「いいや、今までは単なるインストールだったが、今度は同期だ。意識の主体は完全なねねと、太一の同化したものになる。やってくれるね?」
「あの、わたしも参加しちゃダメなんですか?」
 幸子が手をあげた。
「幸子クンは、こっちと向こうの世界を繋ぐ大事な鍵だ。危険に晒すわけにはいかない」

 ボクが、ねねちゃんに同期する寸前に、幸子は余計なことを言った。

「優奈さん、お兄ちゃんのこと愛してるよ……」

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・トモコパラドクス・27『きかんしえん・1』

2018-10-15 07:05:55 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・27
『きかんしえん・1』
 
      

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された!



 ゲフ! ゲフ! ゲフ! と、ゲップが派手に三連続した。

 乃木坂学院高校の昼休み、梅雨の中休みと言うよりは、梅雨の神さまがサボったような晴天続き。友子は、クラスメートといっしょに中庭でお弁当を食べていた。
 メンバーは、その日によって入れ替わりはあるけど、今日は玉子焼きが美味しい麻衣、蛸ウィンナーが見事な妙子。そして、転校してきて、もう馴染んじゃった水島結衣(実は水島昭二って幽霊の義体って、みんな知ってるよね?) で、こういうことには頓着しないで混ざってきた保険委員の亮介、亮介はただの自信過剰のオッチョコチョイということが分かってきたので、もうイケメンという冠は付けない。

 で、友子と結衣を除いた三人が、食後のコーラを飲んで、いっせいに派手にゲップをしたところだ。

「まあ、行儀悪いこと」
 友子は眉をひそめ、結衣は、ハンカチで口元を隠し、品良く笑っている。
「これが、コーラの爽快感じゃないのよさ。なんか、お腹に溜まっていたものがいっぺんに解放されるって感じでいいじゃん!」
 麻衣が、口の端にコーラの泡を付けながら、爽やかに言い放った。考えたら、この三人の共通点は、コーラ愛好者であることに気づいた。
 品の良い、大佛聡(おさらぎさとし)や、資産家令嬢の長峰潤子、華僑の娘の王梨香などは、このグループにはあまり加わらない。その原因が、多分食後の大ゲップであろうかと、友子には思われた。

「トモちゃん、いつもカフェオレなんだね?」
 亮介が、ナニゲに言った、この一言がドラマの発端になるとは、友子にも想像できなかった。
「え、コーヒー牛乳だよ」
「だって、カフェオレって書いてあるよ」
「え……ほんとだ」

 友子のCPUには、この時代に生きるため。また、いざというとき本来の能力を発揮するために、無数の情報がインストールされているが、いつも意識しているわけではない。友子の元来の生活習慣にあったことなどは、ノーマルな状態では昔のままであるものもけっこう多い。

 で、このコーヒー牛乳が、そうである。

 義体になる三十年前には「コーヒー牛乳」が、当たり前の名前だった。
 それが、2003年の飲用乳の表示に関する公正競争規約により百パーセントの牛乳でなければ「牛乳」の二文字が使えなくなり、友子が飲んでいるそれは、パッケージデザインはそのままで、カフェオレに変わってしまっていたのだ。友子は検索して言葉の上書きをしようとしたが止めた。やっぱコーヒー牛乳はコーヒー牛乳だ。
「ま、わたしは、コーヒー牛乳でいいや」

 すると、後ろで拍手がした。

「あ、理事長先生!」
 亮介が気をツケした。
「ああ、そのままでいいよ。なーにコーヒー牛乳の言葉に、ちょいと感激したもんでね」
「はあ……」
「コーヒー牛乳というのは、わたしたちの子どものころから定着したものだからね。カフェオレじゃ、鈴木さんの言うようにピンとこないよ」
 理事長は、とうに九十歳を超えているが、心身共に、まだ七十歳程度であった。とくに名前を覚えるのが得意で、全生徒の名前と顔を覚えている。
「コーラは、高校生が好きなノンアルコールのナンバーワンだね」
「そうなんですか? お茶とか、コーヒーだと思ってました」
「理事長ってのはヒマでね。パソコンで、そんなことばかり見ては喜んでいる。君たちだってボクのことを理事長って呼んでくれるけど、ある日、これがゼネラルマネージャーって呼べと言われたら面食らうだろう?」
「英語では、そんな風に言うんですか!?」
「なんか、カッコイイですね!」
「AKBの秋元康みたいですね!」
 と、みんなの反応は無邪気だった。
「ハハ、君らにかかっちゃ、しょうがないなあ。鈴木さんは、どうしてコーヒー牛乳」
「あ、両親がずっとそう言ってますので、家じゃ、これが普通なんです」
「それがいいなあ、なんでも言葉が新しくなれば良いというもんじゃない。学校も、副校長や首席なんてなのが出来て、きみたちも呼び方苦労するだろう」

 友子には、分かっている。理事長先生の中では、ちゃんとカテゴライズされていて、きちんと学校経営の中では生かしていることを。そして、わざわざ、わたしたちの話の輪の中に入ってきたことも。

「そろそろ予鈴か。君たち、次の授業は柚木先生だろ?」
「はい、そうです」
「一つ頼みなんだが、君たちから自習にしてくれと頼んでみてくれないかね。六限は、君たちの苦手な英語でもあるし、ま、理由は適当でいいから」

 友子には、理由が分かった――先生にも、いろんな事情があるんだ。でも、いま頭をよぎった『きかんしえん』てなんのことだろう……疑問の残る友子であった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする