大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・『チンタラ電車と女学生』

2018-10-29 17:16:31 | ライトノベルセレクト

ライトノベルセレクト
『チンタラ電車と女学生』



「あんな血色のええ子はおらなんだなあ……」

 芝居を見てからずっと無口やったお母ちゃんが、発車待ちの近鉄電車のシルバーシートで、吐息混じりに言うた。
 うちは昭和25年の生まれやから、戦時中のことは分からへん。そやけど、今日の芝居には違和感があった。うちらが子供やった昭和30年代の初めごろでも、あんな子らはおらんかった。胴長短足で、今の子みたいにスタイルようて、顎のシュっとした子はおらんかったように思う。四角い顎して、水洟垂らして、いっつもお腹減らしてた。学校は二部授業……て、分かるやろか? 
 全校生が2000人ほどもおって、全生徒が学校に入りきらへんので、朝組と昼組に分かれて授業してた。それでも一クラス50人以上もおってすし詰めやった。そんでも一学期の始業式の時に、担任の先生は、全員の顔と名前覚えてたんで、子供心にもびっくりしたん覚えてる。

 今日は、孫の奈美が戦時中のチンチン電車の車掌の役で芝居に出る言うんで、86歳のお母ちゃんが奈美の舞台姿見たいいうのんで、午前中お医者さんに診てもろてOKもろて観にいった。
「奈美、元気に台詞しゃべって、頑張ってるなあ」
 中入りの時にお母ちゃんがもらした一言。とりあえずは、ひ孫の熱演には惜しみない拍手をしてた。
「ようやった、ようやった、かいらしい、かいらしい」
 拍手しながらお母ちゃんは喜んでた。で、上機嫌のまんま上六に着くと、榛原行の準急が出てしもうたあとで、各停にしか乗られへんかった。発車までには十分以上あるんで、お母ちゃんは頭の中で、今観た芝居を反芻してるみたいやった。
「あんな力んでたら、長い勤務時間もたへんで。適当に力抜きながらやったもんやけどなあ」

 お母ちゃんも戦時中、市電の車掌をやってた。あと一か月で運転手になれるいうとこで終戦。9月の半ばには男の職員が復員し始めて、お母ちゃんの市電勤務は半年足らずで終わったらしい。奈美への感動がおさまると、うちと同じ違和感が湧いてきたらしい。

「ポールの切り替え見せて欲しかったなあ」
「なに、ポールの切り替えて?」
「車線やら路線変更するときは、車掌が降りて、フック付の竹ざおでポール……架線から電気とるアンテナみたいなやつ。あれ切り替えるのん、お母ちゃんうまかったんやで。こうやってな、腰で……アイタタ」
「調子のって無理したらあかんで」
「ハハ、せやな」

――お客様にお伝えします。○○駅での人身事故のため、各車両とも発車時間が遅れております。おいそぎのところ申し訳ありませんが、発車まで、今しばらくお待ちください――

「こら、チンタラ電車になりそうやな」
「うまいこと言うなあ、お母ちゃん」
「大阪の客は口悪いさかいな、よう言われたわ。せやからポールの切り替え……あかん、また腰いわすわ」
 チンタラ電車いうたら、うちらが高校生やったころも市電はチンタラやった。当時は道路事情が悪いとこにもってきて、車が多て、市電はほんまにチンタラしてた。おまけに冷房なんかあらへんよって、みんな汗タラタラ……そない言うたら、今日の芝居は夏の設定のはずやけど、出てくる人は暑そうやなかったなあ……うちの感覚からもズレてる。
 まあ、孫の奈美が一生懸命やってたことだけで値打ちやけど、あれが奈美の出てへん芝居やったら……違和感やろなあ。
 うちらの世代は戦前の教育と平和教育が混在してた。
 日の丸は平気であがってたし、卒業式は『仰げば尊し』やった。芸術鑑賞は東京オリンピックの記録映画以外は反戦の映画やら芝居が多かった。正直見飽きた。ジブリの『火垂るの墓』観たときは笑ろたなあ。なんせ野坂の原作読んでたから、あんまり美しく設定かえてたんで白けた。

「歩きスマホらしい……」

 ダイヤの都合で運ちゃんが交代らしいて、代わりの運ちゃんが口にしてるのが聞こえた。人身事故いうからには亡くなったか大怪我やねんやろけど、歩きスマホではなあと思てたら、電車が動き出した。
 なんとか弥刀までは、行ったけど、そこでまた停車。

――△△駅で人身事故のため、しばらく発車を見合わせます。お急ぎのところ、まことに申し訳ございません――

 また、歩きスマホかと思たら、車内放送で歩きスマホを注意するアナウンスがした。たぶんビンゴ。

 かくして、一時間のチンタラ電車で、戦中と戦後高度経済成長の女学生はヘトヘトになって帰宅した。

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・64『オーマイガー!?』

2018-10-29 06:37:22 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・64
『オーマイガー!?』 
    


 それから、表面上は穏やかな学生生活が続いた。

 裏ではいろいろあった。

 春奈の父親は、C国のハニートラップ、それもロボットに騙され情報を流し続けたということで、他社や自社の重役や、役人達といっしょに社会的に抹殺され、今は長崎に帰って妻と少しずつ「夫婦」に戻りつつあった。春奈は、これを機に東京で、学生生活に本腰を入れた。むろん宗司のサポートがあってのことだが。
 日本政府とC国の関係は一触即発の状態になり、グノーシスの仲間割れも休戦状態で、隣の木下クンのところからも、日本とC国の腹のさぐり合い以上の情報は流れてこず、緊張を孕んだ平和が続いた。

 そんな中、W大の理工学部と自動車部の肝いりで自動車ショーが開かれた。

「足としての車 足は第二の頭脳である」

 もっともらしいコンセプトで、自動車部が持っているガラクタ同然のクラシックカーに理工学部が適当な解説をつけ、お祭り騒ぎをやろうという学生らしい企みであった。
 むろん参加料はタダだが、自動車メーカーや、玩具メーカーとタイアップし、ブースを出してもらい、一稼ぎしようという目論見。
 企画は、我らが「となりの木下クン」で、彼自身ネット上にブースを設け、中古車から、クラシックカーのパーツ販売の仲介までやって稼いでいた。宗司クンは、スーパーの知識と、料理の腕をを生かし、友人とB級グルメの店を出して楽しんでいた。宗司クンの出店は、いわば客寄せで、ほとんど儲けはないが、趣味人として楽しみ、他学生である春奈も喜々としてウェイトレスの手伝いなんかをしていた。
 
「この車かわいいね」

 優奈が一台のクラシックカーに目を付けた。ホンダN360Zと表記された車は「古典的未来の魅力」というキャプションが付いていた。
 百年前の車だけど、21世紀に対する無垢なあこがれがフォルムに現れていた。21世紀初頭を感じさせるフロントグリル、コックピットと言っていいような乗車スペース。大胆な黒縁のハッチバック。切り落としたように無い車体後部。
「これ、極東戦争の前にヒットした『オーマイガー!!』に出てくる車だよ」
「主人公のマドカが『ファルコンZ』って名前付けて、イケメンの外人講師乗せたり、過去の世界に戻って、高校生時代の母親を助けたりするんだよね」
 優子は、頭脳の元になっている幸子か優奈が好きだったんだろう、『オーマイガー!!』の映画への思い入れと知識に詳しい。
「良かったら試乗してください。オートでしか運転できませんが、時代の雰囲気は満喫していただけます」
 W大生にしては、可愛いミニスカ・キャンギャルの女の子が、にこやかにドアを開けてくれた。

「ウワー、カッチョイイ!」

 優子のその一言で、わたしは優子といっしょに「コックピット」に乗り込んだ。
「うわー、これ音声認識もしないんだ!」
「はい、三世代前の手動入力になっています」
 キャンギャルの子が、目をへの字にして、興味をそそる。
「じゃ、神楽坂に出て、渋谷……」
 優子が、山手線の内側をなぞるようにコース設定をした。
「ウウ、たまらん、このアナログ感!」
「ファルコンZ、しゅっぱーつ!」
 優子が、映画のマドカのように声を上げた。
 車が一般道に出るまで、キャンギャルの子は笑顔で手を振っ見送ってくれた。

 車が見えなくなると、キャンギャルの子は、ブースの陰でミニのコスを脱ぎ捨て、隠しておいた国防軍のレンジャーのユニホ-ムになり、迎えに来た高機動車に乗り込んだ。

 木下クンも、宗司も春奈も、会場の誰も気づかなかった……。

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・41『ベターハーフ・4』

2018-10-29 06:29:39 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・41 
『ベターハーフ・4』 
       

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になったん…未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……。

 公園に行くと、アズマッチと杏(あんず)が実体化していた……!?

「ちょっと、これ……」
 アズマッチと杏が、一人分ほどの距離を空けてベンチに座っている。
「情報が実体化したかな……わたし、自分の力がよく分かってないから」
「……いや、ちがうね。あたしたちが入り込んだんだ。そこの住居表示を見てごらんよ」
 紀香が目配せをした。
「大阪市東成区……」
「どうやら、あたしたちの方がリープしたみたいよ」
「そっちのベンチ死角だから、そこで様子を見よう」


「杏、人には発達段階いうものがあるんや」
「発達段階?」
「ああ、そこの子供ら観てみい、えらい無駄にからだを動かしているように見えるやろ」
 アズマッチは、公園の真ん中あたりで走り回っている子どもたちを示した。
「あたしも、昔は、あんな風に鬼ごっこしてたわ……」
「子どもは、あれで体の試運転をやってるんや。杏もいっしょや」
「あたしは、もうあんな遊びはせえへんよ」
「いや、人を好きになる気持ちや」
「人を好きになる気持ち?」
「そう、杏の年齢は、本当に人を好きになる心の練習期間なんや」
「どういうことですか?」
「人間いうのは、ラノベみたいなもんでさ。慣れんと、直ぐに表紙のかっこよさや、最初の一二ページの面白さに惹かれてカスをつかむ」
「うん、ラノベは分かります。そやけど人間は……」
「いっしょやで。自分から聞くのもなんやけど、オレのどこがええねん」
「それやったら、はっきり言えます。先生、水泳部の監督すすんで引き受けてくれはった」
「ああ、あれか……でも、あれは監督なんてもんやない。ただプールサイドに椅子置いて座ってただけや」
「そやかて、顧問の水瀬のオッサンが、夏の練習に一日も付き合われへん言うて、うちらの水泳部、夏に一回もプール使われへんとこ、顧問でもないのに自分で手えあげて、先生はやってくれた。うちらでも分かる。あれはスタンドプレーで、水瀬のオッサンの顔潰すことになることぐらい」
「水瀬先生は、組合の支部長で、夏は忙しい。そやけど、それで水泳部の面倒を見いひん理由にはならへん。そう思ったから、やったまでや。オレがやらんでも、他の先生がやってたで」
「おかげで、あたしも、時々来ては泳げたし……」
「あれは感心したぞ。水泳部はみんな引退したのに、真剣に泳ぎに来た三年生は杏一人だけやったもんな。観てても後輩らが励みになってるのがよう分かったよ。杏こそエライ!」

 その教師らしい誉め言葉には乗らずに杏は続けた。

「先生、一学期に中山が辞めたとき、きちんと見送ったげたでしょ。校門出て行くまで」
「あれか……」
「他の先生は、玄関で見送っただけで職員室戻ってしもて。校門で振り返ったら、先生一人ずっと見送り続けて……あれには中山も感動しとった。うちも、横で見てて……ええ先生やと思うた」
「……辞めてく奴に地元で、学校の悪口いわれたらたまらんからな。一人ぐらいは、きちんと見送ってやらんとな。そんなに尊敬することでもない、教師の手練手管のうちや」
「そんな悪ぶって言わんといてください。子どもちゃうから、百パーセントの善意があるとは思てへん。手練手管や言いながらでもやった先生はステキやと思う」

 杏のステキを持て余して、アズマッチは缶コーヒーを二つ買いにいった。

「まあ、飲めよ。カフェオレがええやろ。コーヒーとミルクのベターハーフや……」
「ベターハーフ……おおきに。温いなあ……」
 杏は、両手で缶をコロコロ慈しんでから、プルトップを開けた。
「この程度の温さは自販機でも買えるで」
「この状況で、この感覚で買うてこれるのは、先生のステキさです」
「そやから、この程度のステキは、学校卒業したら、いっぱい居るて。オレみたいなもんで手を打つことないて」
「ステキの棚卸しせんといてください」
「ごめん……」
「……うち、この夏クラブ行って泳いでたんは、後輩のためとちゃうんです」
「うん?」
「オレに惚れてか?」
「アハハ……」
「なんや、おっさんオチョクってたら、あかんがな」
「オチョクってません。先生のことも好きやった……せやけど、あたし、泳げるのは、この夏が最後かもしれへんから……」

 杏は立ち上がり、背を向けて嗚咽した。

「杏……」
「あたし、頭の中にデキモンがあるんです。今はまだハナクソほどやけど……」
「腫瘍なんか……?」
「脳幹の近くで、手術がむつかしいとこ……ようもって、後二年。来年は入院してプールにも行かれへんかもしれへん」
「杏……!」
「見んといてください、今の杏の顔は見られたないよって。うちの人生は、あと二年。この二年がうちの人生の全て。そやから、うちは全人生かけて、好きなんです先生のことが」
「杏……」
「ええんです。先生の心には、もう住んでる人がいてる……ちゃいますか?」
「それは違う。もう住んでへん……そやけどな」
「もう、ええんです。迷惑かけました。家帰ります……」

 杏は、公園の入り口に向かって歩き出した。

「あ、アパートの鍵。ちょっと待て杏!」
「……先生のアホ」
「かんにんな、アホで……」
 アズマッチは杏の顔がまともに見られず、先を歩き出した。

 そのとき、トラックが前からやってきた。運ちゃんはスマホ片手に対向でやってきた軽自動車に気を取られていた。

「先生、危ない!」

 杏は、身を投げ出して、アズマッチを庇った……。

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