大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・春夏秋冬物語・01兄〔ふってきた!・1〕

2018-10-02 14:33:45 | 小説7

物語・01兄

〔ふってきた!・1〕


 ドンガラガラガラガラガラガラガッシャーン! ドガッ! ブチュ!

 妹が降ってきた! 階段の上から! ドンガラガラガラガラガラガラガッシャーン!……というのが、その音。

 そのはずみで、妹の右膝がまともに俺の腹に決まった。ドガッ!……というのが、その音。

 そのまたはずみで、妹の唇が俺の唇にくっついた。ブチュ!……というのが、その音。

「もう、なんでニイニが、こんなとこにいるのよ!? ってか、キス……しちゃってんのよ!? バカー!!」

 そう言うと、真っ赤な顔をして美代は玄関からすっ飛んで行った。

 言い返したいことはいっぱいあったけど、腹に食らった一撃で、言葉どころか、息もできない。
「……あ……あ……あのやろー!」
 カップ麺ができるくらいの間があって、やっと言葉が出てきた。
 俺は、たったいま学校から帰って来たところだ。靴を脱いで二階の部屋に上がろうとしたところでご難に遭った。
 腹を押えながら二階に上がろうとしたらリビングのインタホンが鳴る。

「あ、はい?」

――春夏秋冬さん、宅配便で~す――
「あ……どーも」
 俺は痛む腹を押え、小引き出しから三文判を取り出して玄関に向かった。
 ガチャリ。玄関を開けると、いつもとは違って若い宅配便のオニイチャンが立っていた。
「春夏秋冬美代さんに、着払いです」
「……着払いですか?」
「はい、アマゾンさんから、3341円です」
「あ……はい」
 ズボンのポケットから財布を取り出して、千円札三枚と五百円玉を渡す。
「どうも……159円のお返しです。じゃ、まいど……」
「あ、ちょっと」
 回れ右をした宅配さんに声を掛ける。
「はい?」
「あの、うち春夏秋冬(しゅんかしゅうとう)と書いてひととせって読むんです」
「ひととせ?」
「古い言い方で一年て意味」
「あ、ああ、春夏秋冬で、一年だからね」
 宅配ニイチャンは、クイズ番組で珍問の正解を教えてもらったときのように、頭の上で電球が点いたような顔をして帰って行った。
 子どものころから、何度もこういう目に遭っているが、どうにも慣れない。
「着払いなら、一言言って金置いていけよなあ……」
 チャリ銭だけになった財布を閉める。アマゾンのニンマリマークが癪に障る。
「イテ!」
 踏み出した足が何かを蹴飛ばし、右足の親指に電気が走った。見ると美代のスマホが落ちている。それもスイッチが入ったまま。

――昇降口で待っている……――

 入っていた最新メールの半分が覗いている。どうやら、このメールを見て美代はすっ飛んで行ったようだ。
「慌てもんがー」
 でも、すぐに、バタバタバタと足音がして、ガチャッ!っとドアが開く。
 さすがに気づいて、美代がもどってきた。
「ちょ、信じらんない! なに人のスマホ見てんのさ!!」
 荒い息の美代が極悪人のように、俺を糾弾する。
「電源入ったままだから見えるんだ! ちょこっと見えただけだって! それに、だいいち、落っことしていくおまえのほうが悪いんだろーが!」
「だからって、読むことはないでしょ!この変態!」
 スマホをふんだくると、回れ右をしてドアノブに手を掛けた。

「美代、それって、明日の昼って。続きに書いてあんぞ」

「え、ええ!?」
 バグったゲームのように美代はフリーズした。
「お前って、ときどきとんでもないオッチョコチョイになるよなあ」
「ニ、ニイニになんか分かるか!!」

 そう叫んで、美代は二階に上がってしまった。

 宅配便は代引きの金額に赤線を引いて、美代の部屋の前に置いた。

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・37『まとまらない考え』

2018-10-02 06:24:42 | ボクの妹

が憎たらしいのには訳がある・37
『まとまらない考え』
         

 

 

 幸子はボクのメンテナンスしか受け付けなくなっている……。

 そんな考えが頭をよぎった。なにか大変なものが動き出している兆しのようなものを感じて、高機動車ハナちゃんに乗って大阪に帰る間、これまでのことをまとめてみた。
 メンテナンスして、幸子はもとに戻っていた。帰りは、その幸子を中心に、チサちゃん、佳子ちゃん、優子ちゃんも盛り上がっていたので、一人で集中することができた。

 この世はパラレルワールドと言って、ほとんど同じ世界が同時に存在し、そのことは両方の世界の一部の人間しか知らない。
 二つの世界の有りようについては、両方の世界に跨るグノーシスという組織がコントロールしているのだが、絶対ではない。
 グノーシス自体揺れている。

 味方であったハンスが敵になったり、敵であった美シリ三姉妹が、味方になって、向こうの世界の幸子を千草子として預けにきたり。
 そもそも向こうでは、こちらが十年以上前に終えた極東戦争を今頃やり始めている。こちらの世界も、向こうの世界の失敗を学習し、修正を加えている。向こうの世界では、広島、長崎以外に新潟にも原爆が落とされている。こちらの世界では、修正されている。
 この二つの世界の関わり方に、両方の世界が、グノーシスを中心に揺れている。

 そして、この二つの世界にとって、小学五年生から義体化している幸子は重要な存在で、幸子の周辺では、いろいろ事件が起こっているが、こっちの世界では甲殻機動隊が守ってくれている。
 幸子の頭脳の95%はCPで、普段はプログラムされた人格で暮らしている。残った5%あまりの本来の頭脳を取り戻そうと幸子は懸命だけど。それは、今のところCPのインストール能力を高めることにしか役に立っていないようで、それはAKRの小野寺潤を極限までコピーし、自分自身と区別がつかなくなるところまで適応過剰するようになってしまい、バグってしまった。

 そして、幸子はボクのメンテナンスしか受け付けなくなっている……。

 ボクも、重要な存在になりつつあ……っと思ったら、優子ちゃんが振り回したスィーツが、まともにボクの顔に当たり、ボクの思考は中断されてしまった。
「かんにん、太一にいちゃん」
 一瞬怒ったような顔になったのだろう、優子ちゃんが怯えたような顔で謝った。
「兄ちゃん、容量オーバーな考えしてると、不細工になって、いっそうモテなくなるよ!」
 幸子が、ニクソ可愛く言う。むろんプログラムされた人格で。
「ううん、考え事してるター君もなかなかやわよ」
 佳子ちゃんが、妹の不始末をティッシュで拭き取ってくれている。そのとき、ちょっとした衝撃が走り、ハナちゃんが少し揺れた。
「……ちょっと、二人、キスしちゃったでしょ!」
 チサちゃんが鋭く指摘した。
「そんなこと……」
「あった……!」
 優子ちゃんが、その瞬間をスマホで撮っていた。
「ちょ、ちょっと!」
 姉の、あらがいも虚しく、その映像は、車内のモニターに大きく映し出された。
「お、おい、ハナちゃん!」
『間違えた、こっちの映像』
 次ぎに出された映像は、強烈なパルス弾が、ハナちゃんの鼻先をかすめる瞬間になっていた。
「これ、攻撃を受けたの……?」
 お母さんが、顔を引きつらせた。
『……いいえ、流れ弾のようです』
 ハナちゃんは、佳子ちゃんたちの手前詳しく言わなかったが、ボクたちには向こうの世界からのものであると付け加えていた。
『でも、この瞬間の二人の心拍数、血圧、瞳孔の広がり、発汗などから、ラブラブになる可能性……』
「ウワー、そんなこと言わなくっていい!」
 佳子ちゃんの叫び声で、ハナちゃんの声は聞こえなかった……。


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高校ライトノベル・トモコパラドクス・14『退屈な紀香と友子』

2018-10-02 06:14:33 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・14
 『退屈な紀香と友子』  
     


 仮にも抹殺者として送り込まれてきた白石紀香だけど、カタキとしての緊張感がない。

「ねえ、そのパフェ、わたしにも一口おくれでないかい?」
 今も、そう言ってヨダレを垂らしている。
「やーねー、あげるからヨダレだけ拭いてくれない」
 紀香は、ハンカチでヨダレを拭うと「いいよ」も待たずに、スプーンでゴッソリと持っていった。
「あ、ああ~! それは無いっしょ!」
「う~ん、たまらん。わたしも、こっちにしときゃ良かった!」

 わたしは三十年前に首都高で事故に装って殺されかけた。それも未来の秘密組織によって。理由は、わたしが将来生む娘が極東戦争を起こす元凶になるために、母(になる予定)であるわたしの抹殺だ。

 反対勢力である国防軍秘密組織ミームによって助けられ、三十年の歳月を掛けて、一月前に蘇った十万馬力の義体……昔風に言うとサイボーグである。前世紀のサイボーグの概念と違うのは、骨格と動力、CPUの能力が桁違いに高いこと。そしてなにより、主にボデイーの外郭である生体組織である。人間であったころのDNAをそのまま持っているので、外見は生きていた三十年前の十五歳のまま。そして、生体組織の血管には無数のナノリペアが循環していて、傷ついたりすれば、簡単なものだと数十秒で回復する。
 そして、同じ義体である紀香との決定的な違いは、わたしには生殖能力が残されていることだった。
 わたしは特別らしい……な~んて普段は忘れて、普通の女子高生で、蛸ウィンナーの妙子と三人で冴えない演劇部をやっている。
 冴えないといっても、わたしと紀香の演技力は抜群。擬態能力が高いので、人間なら、たいがいのものには化けられる。先日も不登校と思われていた長峰純子を、それらの能力を駆使してC国の秘密組織から救ったところだ。

「あれ、どこいっちゃたんだろ!?」
「あたしシャメ撮りそこねた!」
「あれ、ぜったい小野寺潤と矢頭萌だよね!」
 店の外で女の子達が騒いでいる。
「あっち、探してみよう!」
「オレたちも行くぜ!」
 一群は、階上のテラスへ上がっていった。

「ちょっとやりすぎたかなあ……」
 口の端っこにクリームをつけたまま、紀香が言った。
「紀香って、調子こいてサインまでしちゃうんだもん」

 二人は、ついさっきまで階上のテラスでAKRの小野寺潤と矢頭萌に擬態して遊んでいた。

 最初は、ほんの数分のつもりで、買ったばかりの服を着てグラサンかけて、それなりに身を隠していたが、なんせ本物ではないので緊張感がなく、紀香がグラサンをとって汗を拭いた。
「わ、小野寺潤だ!」
 ということになり、追いかけ回されてしまい、それを楽しんでいた。

 しかし、階段を降りたところで、熱烈なファンに出会ってしまった。

「わたし、仙台から来たんです。命がけのAKRファンです。こんな目の前で出会えるなんて……きっと、こないだ瑞巌寺にお参りした御利益だわ。お願いです、サインしてください!」
 仕方なく、紀香は小野寺潤としてサインしてやった。擬態化すると、擬態した人間のスキルや、あらかたの知識もダウンロ-ドされるので、完ぺきなサインもできるし、本人の感性で行動することもできる。
 潤になりきった紀香は、潤の気持ちのまま、仙台の子をハグまでしてやった。
 そこを、視力2・0のファンの子に発見された。
「いたー!」
 そして、二人は慌てて従業員用のドア(パスキーがついていたが、二人には無いも同然)から、空き部屋に飛び込み擬態を解いて制服に着替え、パフェなど食べているのである。

 なんで、こんなことをやっているかというと、二人は退屈なのである。

 週明けの月曜からは中間テストで、部活もできない。授業内容は義体のCPUに完全に入っている。あとはセ-ブして、どのへんの点数に落ち着けるかだけで、それは、当日のみんなの出来具合に合わせるだけである。

 だから、義体の二人は退屈なのである。

「ちょっと、ほんとに見かけたのかい!?」
「はい、こうやってサインももらいましたし」
「……ほんとだ、これ、潤のサインだよ!」
 一群の人たちが、また階上のテラスに上がっていった。
 でも、今度は、このビルの上にある劇場のスタッフと、AKRのプロディユーサーまで混じっていた。
 彼らの強い不安と思念が飛び込んできた。
 まもなく、上のホールでAKRのライブが開かれる。

 そして、楽屋には、まだ本物の潤と萌が到着していない……!

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