春夏秋冬物語・01兄
〔ふってきた!・1〕
ドンガラガラガラガラガラガラガッシャーン! ドガッ! ブチュ!
妹が降ってきた! 階段の上から! ドンガラガラガラガラガラガラガッシャーン!……というのが、その音。
そのはずみで、妹の右膝がまともに俺の腹に決まった。ドガッ!……というのが、その音。
そのまたはずみで、妹の唇が俺の唇にくっついた。ブチュ!……というのが、その音。
「もう、なんでニイニが、こんなとこにいるのよ!? ってか、キス……しちゃってんのよ!? バカー!!」
そう言うと、真っ赤な顔をして美代は玄関からすっ飛んで行った。
言い返したいことはいっぱいあったけど、腹に食らった一撃で、言葉どころか、息もできない。
「……あ……あ……あのやろー!」
カップ麺ができるくらいの間があって、やっと言葉が出てきた。
俺は、たったいま学校から帰って来たところだ。靴を脱いで二階の部屋に上がろうとしたところでご難に遭った。
腹を押えながら二階に上がろうとしたらリビングのインタホンが鳴る。
「あ、はい?」
――春夏秋冬さん、宅配便で~す――
「あ……どーも」
俺は痛む腹を押え、小引き出しから三文判を取り出して玄関に向かった。
ガチャリ。玄関を開けると、いつもとは違って若い宅配便のオニイチャンが立っていた。
「春夏秋冬美代さんに、着払いです」
「……着払いですか?」
「はい、アマゾンさんから、3341円です」
「あ……はい」
ズボンのポケットから財布を取り出して、千円札三枚と五百円玉を渡す。
「どうも……159円のお返しです。じゃ、まいど……」
「あ、ちょっと」
回れ右をした宅配さんに声を掛ける。
「はい?」
「あの、うち春夏秋冬(しゅんかしゅうとう)と書いてひととせって読むんです」
「ひととせ?」
「古い言い方で一年て意味」
「あ、ああ、春夏秋冬で、一年だからね」
宅配ニイチャンは、クイズ番組で珍問の正解を教えてもらったときのように、頭の上で電球が点いたような顔をして帰って行った。
子どものころから、何度もこういう目に遭っているが、どうにも慣れない。
「着払いなら、一言言って金置いていけよなあ……」
チャリ銭だけになった財布を閉める。アマゾンのニンマリマークが癪に障る。
「イテ!」
踏み出した足が何かを蹴飛ばし、右足の親指に電気が走った。見ると美代のスマホが落ちている。それもスイッチが入ったまま。
――昇降口で待っている……――
入っていた最新メールの半分が覗いている。どうやら、このメールを見て美代はすっ飛んで行ったようだ。
「慌てもんがー」
でも、すぐに、バタバタバタと足音がして、ガチャッ!っとドアが開く。
さすがに気づいて、美代がもどってきた。
「ちょ、信じらんない! なに人のスマホ見てんのさ!!」
荒い息の美代が極悪人のように、俺を糾弾する。
「電源入ったままだから見えるんだ! ちょこっと見えただけだって! それに、だいいち、落っことしていくおまえのほうが悪いんだろーが!」
「だからって、読むことはないでしょ!この変態!」
スマホをふんだくると、回れ右をしてドアノブに手を掛けた。
「美代、それって、明日の昼って。続きに書いてあんぞ」
「え、ええ!?」
バグったゲームのように美代はフリーズした。
「お前って、ときどきとんでもないオッチョコチョイになるよなあ」
「ニ、ニイニになんか分かるか!!」
そう叫んで、美代は二階に上がってしまった。
宅配便は代引きの金額に赤線を引いて、美代の部屋の前に置いた。