大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・36『幸子の変化・2』

2018-10-01 06:51:42 | ボクの妹

が憎たらしいのには訳がある・36
『幸子の変化・2』
         


 出てきたのはAKR総監督の小野寺潤だった。

 そして、ひな壇にも小野寺潤が居た……。

 

  エーーーーーーーー!?



 スタジオのどよめきが頂点にさしかかったころ、MCの居中と角江が、さらに盛り上げにかかった。
「こりゃ大変だ、潤が二人になっちゃった!」
「い、いったいどういうことなんでしょうね!?」
 二人の潤は、それぞれ、自分が本物だと言っている。
「でも、あなたが本物なら、わたしは何なんでしょうね?」 
 二人の潤は、まだ演出の一部だろうと余裕がある。
 二人の潤を真ん中にして、メンバーのみんなが、まるでマダム・タッソーの蝋人形と本物を見比べる以上の興奮になってきた。
「蝋人形は、動かないから分かるけど、こんなに動いて喋っちゃうと分かんないよ」
 メンバー若手の矢頭萌が困った顔をした。
「じゃ、じゃあ、みんなで質問してみよう。ニセモノだったら答えられないよう質問を!」
 居中が大声で提案。二人の潤を真ん中のまま、みんなはひな壇に戻り、質問を投げかける。

「飼っている猫の名前は?」
「小学校のとき、好きだった男の子は?」
「今日のお昼ご飯は?」

 などと、質問するが、その多くはADさんがカンペで示したもので、俺たちもそんなには驚かない。
 幸子と小野寺潤は骨格や顔つきが似ていて、幸子のモノマネのオハコが小野寺潤なので、今日は、ずいぶん力が入ってるなあ……ぐらいの感触だった。
「じゃ、じゃあね、ここに小野寺さんのバッグ持ってきました。中味を御本人達って、変な言い方だけど、当ててもらいましょうか」
 角江がパッツンパッツンのバッグを持ち出した。
「公正を期すため、フリップに書きだしてもらおうよ。1分以内。用意……ドン!」
 スタジオは、照明が少し落とされ、二人の潤が際だった。

「「出来ました!」」

 二人の潤が同時に手をあげ、それがおかしくて、二人同時に吹きだし、スタジオは笑いに満ちた。
「さあ、どれどれ……」
 角江が回収して、フリップがみんなに見せられた。
「アララ……順番は多少違いますが、違いますが……書いてることはいっしょですね」
「じゃ、とりあえず、バッグの中身をみてみましょう。角江さん、よろしく」
 角江が、バッグから取りだしたものは、若干の間違いはあったが、フリップに書かれた中身と同じだった。
「まあ、これは、予想範囲内です」
「ええ~!?」スタジオ中からブーイング。
「じつは、一人は潤ちゃんのソックリさんです。あらかじめ情報も与えてあります。でも、ここまで分からないなんて予想しなかったなあ」
「どうするんですか、居中さん。このままじゃ番組終われませんよ」
「実は、このフリップはフェイクなんです。中身はソックリさんにも教えてあります。だから、同じ内容が出て当たり前。これから、このフリップを筆跡鑑定にかけます。中身はともかく、筆跡は真似できませんからね。それでは、警視庁で使っている筆跡鑑定機と同じものを用意しました!」

 ファンファーレと共に、筆跡鑑定機が現れた。

「これ、リース料高いから、いま正体現さないでね……」
 おどけながら、居中は、フリップを筆跡鑑定にかけた。二人の潤は「わたしこそ」という顔をしていた。
 三十秒ほどして、結果が出た……。
「そんなバカな……」

 鑑定機が出した答は『同一人物』だった。

「したたかだなあ、ソックリさん。筆跡まで……え、あり得ない?」
 エンジニアが、居中に耳打ちした。
「同じ筆跡は一千万分の一だってさ!」
「でも、わたしのほうが……」
 同時に声を出して、顔を見合わせて黙ってしまった。

「太一、過剰適応よ。メッセージを伝えて」
「メッセージ?」
「二人に向かって、『もういい、お前は幸子』だって気持ちを送ってやって……」
 ぼくは、機転を利かしフリップに小さく「おまえは幸子だ」と書いて気持ちを送った。

 やがて……。

「ハハ、どうもお騒がせしました。わたしがソックリの佐伯幸子で~す!」
 おどけて、幸子が化けた方の潤が立ち上がった。
「ビックリさせないでよ。予定じゃ、筆跡鑑定までに正体ばれるはずだったのに! 浜田さんも言ってくれなきゃ」
 ディレクターまで引っぱり出しての、お楽しみ大会になった。

 それから、幸子は潤とディユオをやったり、メンバーといっしょに歌ったり踊ったり。週刊メガヒットは、そのとき最高視聴率を叩きだして生放送を終えた。

「わたし、本当の自分を取り戻したくって……でも、CPのインスト-ル機能が高くなるばかりで、わたし本来の心が、なかなか蘇らない」
 潤の姿のまま、幸子は無機質に言った。感情がこもっていない分、余計無惨な感じがした。
「でも、オレのメッセージは通じたじゃないか。『おまえは幸子』だって」
「……そうだよね。それで、廊下で小野寺さんと入れ違って、ここまできたことが思い出せたのよね」
「少し、進歩したんじゃないのか」
「でも、小野寺潤が固着して、元に戻れない。メンテナンス……メンテナンス……」
 そして、電子音がして、幸子は止まってしまった。
「……さあ、またメンテナンスか……」
 そのとき、幸子の口が動いた。
「わ、わたし、自分で……」
「わたしが、シャワールームに連れていく」
 お母さんが、幸子をシャワールームに連れて行った。廊下で待っている心配顔の仲間には「幸子、ちょっと横になっているから」と説明。直後、お母さんがボクを呼んだ。

「太一じゃなきゃ、だめみたい」

 シャワールームで、幸子は裸で、背中を壁に預けて座っていた。まるで気をつけのまま座らせたリカちゃん人形のように。
「メンテナンス」
 そう呟くと、幸子はゆっくりと膝を立てて開いていった……。




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高校ライトノベル・トモコパラドクス・13『幸福の黄色いハンカチ』

2018-10-01 06:40:11 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・13
 『幸福の黄色いハンカチ』  
     


 一瞬、義体ではないかとさえ思ってしまった……。

 絶やさぬ自然な笑顔、けして饒舌とは言わないけど、人の気をそらさぬ話し方。アイドルサイボーグという言葉が頭をよぎったが、そんな人工的な言葉では表せないオーラが二人にはあった。

 二人とは、坂東はるかと仲まどかの二人である。

 はるかさんは、家庭事情で、この乃木坂学院を二年で中退している。大阪の府立高校に転校し、いろいろ苦労したようだが、そのことで、十九歳とは思えない大人びた優しさと魅力がある女優さんだった。

 まどかさんは、この春に乃木坂を卒業したばかりだが、わずか三人に減っても演劇部を立て直し、その年の都大会で最優秀を獲得、全国大会でも優秀賞を取った。で、その時の顧問が、我が担任のノッキーこと柚木先生で、事あるごとに二人の思い出話をし、わたしたち三人の演劇部員に無邪気な圧力をかけてきた。まどかという人も、はるかさんの、『春の足音』という連ドラにエキストラ出演したことがきっかけになり、まどかさんと同じNOZOMIプロに所属。全国大会で最優秀が取れなかったのは、彼女が、もうプロと見なされたからだらしい。

 二人は、我がクラスの授業見学……のはずだったが、みんなの気が散って授業どころでは無くなり、二人を囲んでのお喋り会になってしまった。

「はるかさん。どうしたら、そんなにキレイでいられるんですか!?」

 蛸ウィンナーの妙子が、まっさきに聞いた。瞬間二人の頭に、この数年間の出来事が駆けめぐったのが分かった。親の離婚、突然な転校、自然な流れの中での演劇部への入部、いろんな挫折。
 はるかさんのことは『はるか 真田山学院高校演劇部物語』 まどかさんのことは『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』に書かれている通りだと分かったが、やはり生のエモーションに接すると刺激が違う。
「う~ん、正直言って、わたしもまどかちゃんも、進んでこの道に入ったんじゃないんです」
「そう、うちの事務所には、白羽さんて人タラシが居て、二人とも、要は乗せられちゃった……かな?」
 まどかさんが、あっさり片づけようとすると、はるかさんが付け加えた。
「自分の事を言うのもなんですけど、わたしもまどかも、短くて目立たないけど、真っ直ぐだったように思います。それにオメデタイ(笑)」
「あの話なんか、いいんじゃない?」
 まどかさんが振る。
「そうね」
 そう言うと、はるかさんはペットボトルのお茶を半分飲んで、教卓の上に置いた。
「この状態をどう見るかです」

 みんな「?」であった。

「もう半分しか残っていない。と見るか、まだ半分残っているかと見るか」
「わたしたちは、共通していました」
「「まだ半分残っている!」」
 二人がハモったので、二人が笑い、そして笑いは教室中に広がった。
「あと、根拠のない自信ですね」
「最初から自信あったんですか!?」
 麻衣が手を挙げて聞いた。
「そんなもんなかったですよ」
「ただ、半分残っていると思える、お気楽さだけ」
「それを、根拠のない自信にしちゃうんだから、この世界は怖いです(笑)」

 全くの思いつきで、はるかさんは黒板に図を書いた

①  >       <

②   <     >
 

「この外向きと内向きで区切られた空間ってか、その間に線を引いたらどっちが長く見えますか。直感で!」
「はい、手を挙げて!」
 二人の呼吸は絶妙だった。圧倒的に①が多かった。ただ一人目立ちたがりの自称「イケメン」の亮介だけが②に手を挙げた。

「答は、両方とも同じなんです。ちょっと定規貸してもらえる?」
 亮介が高々と差し出したが、はるかさんは、わたしの五メートルのスケール(部活用に持っていた)を取り上げた。
「徳永君、ごめん。長い方がいいから」
 亮介のそれは三十センチしかなかった。
「まどか、そっち持って、いくら?」
「一メートル三十センチ……かな、下もいっしょ」
「ううん、下の方が二ミリ長くない?」
「ほんとだ」
「おめでとう、徳永君正解!」
 亮介が無邪気に喜んだ。
「でも、それって誤差の範囲じゃないですか」
 妙子が混ぜっ返す。
「……ともいうそうです(笑)」
「これが根拠のない自信です。プロディユーサーなんかは、こんなところを見ています。むろんプロになれば、他に役者としての勉強は必要ですけど、基本は、このカッコをいかに強力にしていくだけですね」
「じゃ、若干実験を。ちょっと教科書貸してくれる」
 はるかさんは、中島敦の『山月記』を乙女の恋する心で読んだ。
 あんなに、カクカクしてコムツカシイ漢文調の文章を、恋のラブストーリーのようにしてしまった。
 まどかさんが読むと、まるでコミックの描写のようになり、みんな大いに笑った。

 驚いたのは、この楽しい一時間はまるっきりアドリブで、その場の雰囲気で話題を進めていることだった。わたしでも、一分先の二人の心を読むことができなかった。そして、授業と違うのは、みんなが楽しかったこと。

 そのあと、講堂で、生徒全員を集めて講演会が開かれた、驚いたことに、ここでも二人の心は、ほとんど読めなかった。みんなと、その場その場での会話を楽しんでいた。

 お昼になって、迎えの車が来て、いったん乗ったはるかさんが降りてきた。
「忘れるとこだった。これ、部室に掛けといてくれる」
 渡されたのは、黄色いハンカチだった。これは読めた。二人の心の中、幸福の黄色いハンカチだった。

 で、今日は、その訳が分かっていない麻衣に、このハンカチにまつわる話をしてきかせるだけで、部活が終わってしまった。

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