小説大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ
Vol・14『加盟校活動報告・2・誠学園高校』
☆誠学園高校にお邪魔しました
誠学園高校は、大正時代から続く伝統私立高校です。顧問の織田先生は連盟の運営委員もお勤めになられ、校内では学年主任もやっておられる忙しい先生です。そんなご多忙な中、わたしらの演劇部訪問にも快く応えていただきました。
「お忙しいところ、お時間をいただいてありがとうございます」
「いや、あんたらこそ、うちみたいなとこに取材に来てもろて、ありがとう」
「先生とこは、部員いてはれへんのんですか?」
「お恥ずかしいけど、今のとこゼロ。せやけど、コンクールまでには部員入れて参加しよ思うてます。ま、連盟の役員もやってることやし、辞めるわけにいかへんさかいね」
「先生の熱意で、引っ張って行ってるんですねえ」
「半分は、なんちゅうか生き甲斐やね。連盟の仕事はえらいけど、仲間の先生がいっぱい居てるし、こない言うたらなんやけど、毎年ゼロから出発するのんはスリリングでええもんやで」
(笑)
「どんなふうにして、その都度部員を集めはるんですか?」
「一応は、新入生のオリエンテーションで演劇部の勧誘はやるんやけどね……」
「オリエンテーションとか、新入生歓迎会では、なかなか集まれへんでしょ」
「せやねん。おれが、もうちょっと若うてイケテたら、来るやつもおるんやろけどな。こんなおっさんではなあ(笑)」
「ほんなら、どんなやりかたで? 去年もたしか3人出てくる芝居やってはりましたね。なんかエチュ-ド発展させたような」
「あれは、演芸部いうのが別にあってね。あ、植物育てる園芸とちゃうほうの演芸。あそこの部員に声かけて、夏休み利用して東京までワークショップうけさせに行って、言われたように、エチュ-ドから膨らませてん」
「いっそ、その演芸部と演劇部の合併なんか考えられませんのん? 地方によっては『舞台芸術部』いうくくりかたしてるとこもあるようですけど」
「うん、一つの考え方やけど、僕は、やっぱり演劇部いうあり方にこだわりたいんや」
「なるほどね」
「それに、正直言うと、そういうくくり方したら、演劇部の方が飲み込まれてしまいそうな気ぃしてな」
「今、ああいうコント系いうか、演芸パフォーマンス系は人気も馬力もありますからね」
「ま、今年もいろんなとこに粉ふってがんばってみるわ。ところで真田山は、まだ既成脚本にこだわってんのん?」
「はい、大阪では不利やいうのは分かってるんですけど。基本は外したないんです。戯曲言うたら、吹奏楽のスコア(総譜)にあたるもんでしょ。スコアなんて、プロの作曲家でもむつかしいでしょ。吹部のコンクールなんかでも、新作は、なかなか古典を超えられません。せやから新曲に挑むとこは、作曲家の先生に自分らの演奏聞いてもろて、その長所やら特徴に合うた曲を作ってもろてるらしいです。むろん、そんな贅沢なことできるのは、一部の恵まれた吹部だけですけど。ま、とにかく自分らで作曲までやる吹部は考えられへんそうです」
「ま、せやけど、高校生やないと考えられへん芝居言うのもあるさかいなあ。僕は既成の本でプロの真似事するのは外れてるように思うねん」
「お言葉ですけど、それやったら吹部も軽音もプロの真似事になります。野球やらサッカーなんか、完全に大人と同じルールでやってますけど」
「まあ、見解の相違やね。お互い自分らのやり方でやっていこうよ」
「先生、連盟の役員してはるから、このさい聞いときたいんですけど。大阪は創作劇の方が有利やいうのはホンマですか?」
「有利いう言い方はそぐわへんなあ。借り物の既成脚本と、生徒やら顧問の先生が苦心して書いてきたもんには、それだけの評価をしたらならあかんと思うねんけど」
「コンクールに『創作脚本賞』がありますけど、『既成脚本選択賞』いうのんは考えられません?」
(笑)
「まあ、冗談でもええんですけど、既成の脚本探してきて、自分らなりに咀嚼して、舞台化するのんは、チャラけた創作劇やるよりも、大変な努力がいると思うんですけど」
「まあ、お互い、それぞれのやり方でがんばろうや。ところで真田山は、どんなんが候補にあがってるのん?」
「あ、もう絞り切って稽古に入ってます」
「もうかいな!?」
「はい、そやかて、もう一学期も後半でしょ。残り4か月いうても、定期考査やら、検定とか、個人的な理由で抜けるのん考えたら、実質の稽古は3か月切ります。一日3時間の稽古として270時間。役の肉体化には、これくらいはかかります」
「ま、一つの考え方やな」
「でもね、先生。270時間言うたら、日数で、11日にしかならへんのですよ。ま、見解の相違やからええですけど、審査基準はどないなりますのん?」
「それは、残念やけど、無しやな」
「お言葉ですけど、先生、昨年度の最後の地区総会では、連盟の運営委員会で諮ってみるて言わはったんちゃいますのん?」
「諮った結果、いらんいうことになったんや」
「そやったら、総会で報告あってもよかったんちゃいます? なんかスルーされたような気ぃするんですけど」
「まあ、君らには言えん事情もあってな」
「大人の事情……いえいえ、冗談です。一回聞いてみたかったもんですから。ほんなら、今日は、どうもありがとうございました」
ちょうど校内放送で先生を呼ぶ声。うちらは、それで失礼しました。お忙しい中、際どい質問にも答えてくれはって、感謝の一言です。
文責 大阪府立真田山学院高校演劇部部長 三好清海(みよしはるみ)
「春奈はどうして長崎から東京に来たの。N女程度の大学なら、九州にでもあるだろ?」
バカな質問をする奴だと、二つ隔てたテーブルで、わたしと優子は思った。
多摩自然公園で、スリープしていたC国のチンタオ型ロボットと戦って以来、美しい誤解で、W大の宗司とN女子の春奈は急速に仲がが良くなった。
池の中で溺れかけた春奈は、マウスツーマウスで人工呼吸をしてくれたのは宗司だと思っている。ほんの五秒ほどだけども、わたしは宗司にも人工呼吸をしてやった。で、めでたく宗司も春奈に人工呼吸したのは自分だと思いこんでいる。
――たしかに、宗司に人工呼吸してやったとき、宗司はなけなしの肺の空気を、春奈と勘違いしたわたしに送り込もうとした。その人の良さにわたしは、倍の酸素を送ってやったけど、ロボットの目をかわすために、すぐその場を離れた。で、美しい誤解が生まれた――
「春奈ちゃんの東京弁聞いても分かるジャン。長崎の匂いはあるけど、あの子は、昨日今日東京に来た子じゃないよ」
「ワケありで長崎に行っていたことぐらい想像つかないのかなあ……」
優子もため息をついた。
「宗司クンなら、話してもいいかな……」
「うん、なんでも相談に乗るぜ」
宗司は身を乗り出した。その拍子に、テーブルの下で自分の膝が、春奈の膝の間に食い込んだことにも気が付かない。春奈はミニスカだったので、さすがに身をひいたが、それでも続けた。
「わたし、去年の夏までは東京にいたの。親の都合で田舎の長崎に……宗司クン。いっしょに付いてきてくれる?」
「う、うん」
全然説明不足な春奈の説明に、オメデタイ宗司は二つ返事でOKした。
駅を降りると、春奈と宗司は、成城の街の中心に向かって歩き出した。
さすがに、春奈もポツリポツリと事情を説明する。
「お父さんとお母さんは別居してるの……で、お母さんの実家がある長崎に。わたしは生まれも育ちも東京だから……」
「やっぱり、慣れたところがいいもんな。それで東京のN女に?」
「……うん、まあ、そんなとこ」
「で、今日は久々にお父さんに会おうってか」
「うん……」
「スーパーと料理に関しては大したオタクだけども、こと女心については、小学生以下だね」
「イケてるミニスカートとチュニックの組み合わせ、ありゃ、元気に明るく女子大生やってますって背伸びだよ。無理してんね。それぐらい分かれよな、ボクネンジン!」
優子も辛辣だ。
「せめて、デートってか、彼らしく決めてこいよな。ジーンズにスニーカー……春奈の気持ちぐらい分かってやれよ」
二百メートル遅れて歩きながら、わたしと優子はぼやきっぱなしだった。
「ここ、わたしのマンション」
「え、すっげー……!」
さすがのボクネンジンでも、それが、並のマンションでないことぐらいは分かった。大スターか、一部上場企業のエライサンでなければ手の届かないシロモノだ。春奈は慣れた手つきで、エントランスの暗証番号を押して監視カメラに向かって手をふった。
――はい、川口ですが。どちらさまでしょう?――
知らない女の声がして、春奈はうろたえた。
――あ、春奈か。今エントランスを開けるから、ロビーで待っていてくれ――
しばらくすると、五十代前半のオッサンが、つまり春奈の父親が降りてきた。
「やあ、春奈。言ってくれたら迎えにいったのに。リニア東京からだとくたびれただろう」
「ううん、わたし東京のN女子に通ってんの。あ、彼、BFの高橋宗司クンW大の二年」
「高橋です。どうも、こんなナリで失礼します」
「わたしが気まぐれで、付き合わせたから、仕方ないのよ」
「W大か、なかなかだね。専攻はなんだね」
「あ、一応理工です」
「ハハ、一応ね」
二百メートル離れた道の角で、優子とわたしは、少しむかついた。ポケットの名刺のIDをチェックすると、M重工のエライサンだということが分かった。国防軍用のロボットを半分以上を請け負っている大企業だ。
「わたし、自分の部屋が見たい」
「あ、ああ、上がんなさい。君はここで少し待っていてくれたまえ」
わたしも、優子も悪い予感がした……。
トモコパラドクス・38
『ベターハーフ・1』
三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になったん…未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……。
授業中、消しゴムのカケラが飛んできて、友子の後頭部に当たりそうになったが、友子は見事に打ち返した。
「イテ!」
「「何やってんだ、亮介!」」
イケメン保険委員の亮介の叫びと、アズマッチ先生の叱責が同時に起こり、教室は軽いどよめきの後クスクスと笑いが広がった。
――へんだなあ……?――
そう感じながら、亮介は適当に返事をした。
「すみません。ニキビをさわってたら潰れてしまったんです」
なるほど、亮介のオデコには五ミリほどの赤いシミがついている。
「ニキビか……青春のシンボルだな……」
アズマッチは、それ以上叱ることもせずに、なんだか思いに耽った。みんな、少し意外だった。
「……次ぎいくぞ」
アズマッチは、板書の続きを書き始めた。
この半月余り、亮介は、友子への消しゴム投げに熱中していた。最初は授業が退屈なために消しゴムを刻んでもてあそんでいたら、大きなクシャミが出て、それが、たまたま友子の背中に当たったのが始まりだった。友子は無反応だった。友子は、そのころ娘の栞と命がけの戦いをやっていたので、こんなアホらしいことに付き合っているひまがなかった。ただ記録は自動でとっていた。
「亮介、さっきのはクシャミのまぐれだからね。今度はちゃんと狙ってごらんよ」
で、友子も了解した上で、この消しゴム投げは始まったのである。
ただし、回数は、授業一時間につき三回までと決めていた。午前中の四時間で四割を超えないと、亮介は昼ご飯を驕ることになっていた。むろん消しゴムは、休み時間に回収する。
「だめだねえ、亮介は。今日は三割二分だよ」
そう言いながら、友子は驕らせたタヌキそばをすする日々が続いた。いまでは、クラスみんなのちょっとした娯楽になっている。
それが、今日のアズマッチの時間に、友子は初めて反撃したのである。ひょいと身をかわすとシャーペンを鋭くスゥイング。消しゴムは、時速五十キロのスピードで、亮介のオデコにヒットしたのである。
「どうして、打ち返してくるんだよ」
「動かない的じゃ、つまんないでしょ」
休み時間の会話から、消しゴム投げは、打撃戦に変わっていった。
友子にとっては憩いの時間であった。栞とも和解し、不正にC国と遣り取りしていた長官は逮捕された。宇宙人アイも、何も言ってこない。幽霊の清水君も、すっかり女子高生清水結衣として生き始め、Jポップのルーキー『バニラエッセンス』としてメジャーになりかけている。
友子にとっては、またとない息抜きのキャンパスライフだ。
で、亮介とのゲームをおもしろくしてみたのである。
その日の昼休み、亮介の顔のシミは十二個に増えていた。
「まだ、続けるでしょ?」
戦利品のA定食を食べながら、友子はほくそ笑んだ。
「明日は、こんなわけには行かないからな!」
亮介は闘志満々だった。
しかし、食堂の帰り、廊下でノッキー先生に見とがめられた。
「どうしたの、徳永君、その顔の赤いブツブツ」
「あ、いえ、これは……」
そのまま、保健室に連れて行かれた。責任上、友子も付いていった。
「こりゃ、全部打撲ですわ」
保健室の先生には、あっさり見抜かれた。
「なんで、こんな打撲があるのよ!?」
「いや、実は先生……」
友子が、亮介を庇って、真実を言った。保健室の先生は笑っていたが、生真面目なノッキー先生は怒り心頭。
「授業中に、なにやってんのよ、ったく!!」
真面目なノッキー先生は、自分のところで済まさず、生徒指導部に連れていった。
「ごめん、亮介……」
「ノッキー、まっすぐだから」
「なに、しゃべってんの!?」
「こりゃ、たいした腕だ……」
生指部長は、叱る前に感心した。亮介の制球も見事だが、友子の打撃も立派だった。
「先生、叱ってやってください!」
ノッキー先生の一言で、一応叱られておしまい。
問題は、そのあとに起こった。
廊下ですれ違ったアズマッチは、ノッキー先生に普通に目礼したが、友子は気づいてしまった。
アズマッチはノッキー先生のことが好きなんだ!!!