大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルベスト〝そして 誰かいなくなった〟

2018-10-09 15:58:30 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト
〝そして 誰かいなくなった〟
 


「へへ、どの面下げてやって来ちゃった!」

「キャー、恭子!」
「来てくれたのね!」
「嬉しいわ!」
 などなど、予想に反して歓待の声があがったので、あたしはホッとした。

 正直、今朝まで同窓会に行くつもりは無かった。
 あたしは、高校時代、みんなに顔向けできないようなことをしている。

 校外学習の朝、あたしは集合場所には行かずに、そのまま家出した。
 FBで知り合った男の子と、メルアドの交換をやって、話がトントン拍子に進んで家出の実行にいたるのに二か月ほどだった。

 校外学習の朝に家出するのは彼のアイデアだった。

「なに来ていこうかな~♪」
 てな感じで服を探したり、バッグに詰め込んでも親は不審には思わない。
「帰りにお茶するの」
 そう言うと、お父さんは樋口一葉を一枚くれた。同じことを兄貴に言うと一葉が二葉になった。
「行ってきまーす!」
 そして担任の新井先生には「体調が悪いので休みます」とメールを打つ。

 これで、あたしの行動は、10時間ぐらいは自由だ。

 彼は品川まで迎えに来てくれていた。それまでに、たった二回しか会ったことはなかったけど、ホームで彼の顔を見たときは涙が流れて、思わず彼の胸に飛び込んだ。携帯は、その場で捨てて、彼が用意してくれた別の携帯に替えた。
 二人揃って山梨のペンションで働くことは決めていた。でも、一日だけ彼と二人でいたくって、甲府のホテルに泊まった。ホテルのフロントで二人共通の偽の苗字。下の名前はお互いに付け合った。あたしは美保。彼は進一。なんだか、とっても前からの恋人のような気になった。部屋に入ったときは、新婚旅行のような気分だった。

 そして、その夜は新婚旅行のようにして一晩をすごした……。

 彼の正体は一カ月で分かった。

 同じペンションで働いている女の子と親しくなり、お給料が振り込まれた夜に二人はペンションから姿を消した。
 あたしはペンションのオーナーに諭されて、一カ月ぶりに家に帰った。捜索願は出されていたが、学校の籍は残っていた。
 学校に戻ると、細部はともかく男と駆け落ちした噂は広がっていた。表面はともかく学校の名前に泥を塗ったから、駆け落ちの憧れも含めた好奇や非難の目で見られるのは辛かったが、年が変わり三学期になると、みんな、当たり前に対応してくれるようになった。

 そして、卒業して五年ぶりに同窓会の通知が来た。

 家出の件があったので、正直ためらわれたが、夕べの彼……むろん五年前のあいつとは違うけど、ちょっとこじれて「おまえみたいなヤツ存在自体ウザイんだよ!」と言われ、急に高校の同窓生たちが懐かしくなり、飛び込みでやってきた。

 来て正解だった。昔のことは、みんな懐かしい思い出に還元して記憶にとどめていてくれた。
「みんな、心の底じゃ恭子のこと羨ましかったのよ」
「あんな冒険、ティーンじゃなきゃできないもんね」
「もう、冷やかさないでよ」
 そんな会話で、済んでいた。

 そのうち、幹事の内野さんがクビをひねっているのに気づいた。

「ウッチー、どうかした?」
 委員長をやっていた杉野さんが聞いた。
「うちのクラスって、34人だったじゃない。欠席連絡が4人、出席の子が29人。で、連絡無しの恭子が来て、30人いなきゃ勘定があわないでしょ?」
「そうね……」
「会費は恭子ももらって30人分あるんだけどね」
「だったら、いいじゃない」
「でも、ここ29人しかいないのよ」
「だれか、トイレか、タバコじゃないの?」
「だれも出入りしてないわ」
「じゃ、名前呼んで確認しようか?」
「うん、気持ち悪いから、そうしてくれる」

 で、浅野さんから始まって出席表を読み上げられた。あたしを含んで全員が返事した。

「ちゃんと全員いるじゃない」
「でも、数えて。この部屋29人しかいないから」
「え……」
「名簿、きちんと見た?」
「見たわよ、きっかり30人。集めた会費も三十人分あるし」
「……もっかい、名前呼ぼう。あたし人数数えるから」

 杉野さんの提案で、もう一度名前が呼ばれた。

「うん、30人返事したわよ」
「でも、頭数は29人しかいないわよ」
「そんな……」

 今度は全員が部屋の隅に寄り、名前を呼ばれた者から、部屋の反対側に移った。
「で、あたしが入って……29人」
 内野さんが入って29人。名簿は30人。同姓の者もいないし、二度呼ばれた者もいない。

「だれか一人居なくなってる……」
 一瞬シンとなったが、すぐに明るく笑い出した。
「酔ってるのよ。あとで数え直せばいいじゃん」
 で、宴会は再び盛り上がった。

「ちょっと用足しに行ってくるわ」
 あたしは、そう行ってトイレにいった。

 そして……帰ってみると、宴会場には誰もいなかった。

「あの、ここで同窓会してるN学院なんですけど……」
 係の人に聞くと、意外な答えがかえってきた。
「N学院さまのご宴会は承っておりませんが」
「え? ええ!?」
 ホテルの玄関まで行って「本日のご宴会」と書かれたボードを見て回った。N学院の名前は、どこにもなかった。

 それどころか、自分のワンルームマンションに戻ると、マンションごと、あたしの部屋が無くなっていた。
 スマホを出して、連絡先を出すと、出した尻から、アドレスも名前も消えていく。そして連絡先のフォルダーは空になってしまった。

「そんなばかな……」

 すると、自分の手足が透け始め、下半身と手足が無くなり、やがて体全体が消えてしまった。

 こうやって、今夜も、そして誰かいなくなった……。

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・44『桃畑律子の想い』

2018-10-09 06:37:21 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある44
『桃畑律子の想い』
    


 エレベーターのドアが開いて中年の男性が出てきた。

 どこか人生に疲れた中間管理職風だ。


 男は二三歩歩いたところで、緩んだオナラをした。それが情けないのか、ため息一つついて、トボトボと廊下を歩き出した。
 突き当たりの廊下を曲がって、バンケットサービスの女の子がワゴンを押しながらやってきた。女の子は壁際に寄り男性に道を譲って一礼をする。
 そして、男性を体一つ分見送ると、ワゴンからパルス銃を取りだし、男性の背中を至近距離で撃った。男性は、また緩んだオナラをすると、前のめりに倒れ、廊下の絨毯を朱に染めていった。同時にスタッフオンリーのドアから警察官が現れ、一瞬状況の判断に迷って隙ができた。女の子は、警察官を羽交い締めすると、持っていた銃で、警察官のこめかみを撃ち抜き、パルス銃を握らせると、派手な悲鳴を上げてその場にくずおれ失禁した。

「これは……」
 優奈はじめ、ケイオンの一同は声も出なかった。
「この録画が、律子を変えたんだよ……」
 桃畑中佐が、静かに言った。

 ケイオンの選抜メンバーは《出撃 レイブン少女隊!》を、より完ぺきなものにするために、極東戦争で亡くなったアイドル桃畑律子の兄である桃畑空軍中佐の家を訪れていた。そして、見せられた映像が、これであった。
「これは、後で解析した映像なんだ、もとのダミー映像が、これだ」

 女の子が、ワゴンを押しながら壁際に寄ったところまでは、いっしょだが、そのあとが違った。警察官がスタッフオンリーのドアから現れて、いきなり男の背中を撃った後、自分のこめかみを撃って自殺している。

「我々は、この映像に三時間だまされた。警官がC国の潜入者か被洗脳者かと思い、その身辺を洗うことに時間と力を削がれた」
「殺された男性は」
 加藤先輩が、冷静に質問した。あとのメンバーは声もない……ボクも含めて。
「統合参謀本部の橘大佐。C国K国との戦争を予期して、極秘で作戦の立案をやっていた。正体が見破られないように、あちこちのホテルや、宿泊所を渡り歩いていた」
「あのオナラには、意味がありますね……」
 幸子が、ポツリと言った。
「さすがに佐伯幸子君だ。あのオナラは、参謀本部のコンピューターで解析すると、圧縮された作戦案だということが分かった。で、二回目のオナラはセキュリティーだ。自分に危害を加えたものにかます最後ッペ。ナノ粒子が、加害者の体に被爆されるようにできている。ナノ粒子なんで、服を通して肌に付着し、さらに、吸引されることによって、半月は、その痕跡が残る。C国はそこまでは気づかなかったようだ」「でも、同じ現場に居たわけだから、ナノ粒子を被爆していてもわからないんじゃないですか?」
「至近距離にいた警官よりも、離れていたバンケットサービスの女の子の被爆量が多いのは不自然じゃないかね……」
 中佐は、録画の先を回した。

「君の被爆量が多いのは不自然だね……」

 ホテルの出口を出たところで、バンケットサービスの女の子は呼び止められた。とっさに女の子は、五メートルほど飛び上がると、走っている自動車のルーフに飛び乗った。次々に車を飛び移ったあと、急に彼女は、どこからか狙撃され、道路に転げ落ち、併走していた大型トラックの前輪と後輪の間に滑り込み、無惨にも頭を轢かれてしまった。その場面は我々にも見せられるようにモザイクがかけられていた。
 幸子には辛かっただろう。幸子の目にモザイクなんかは利かない。そして、なにより自分が死んだときとそっくりな状況だったから。でも、プログラムモードの幸子は、他のメンバーと同じような反応しかしなかった。

「これを見て律子さんは……」

「亡くなった警官は、メンバーの恋人だった。そのころは公表できなかったけどね」
「そうなんだ……」
 優奈は、ショックを受けたようだ。
「でも、これはきっかけに過ぎない。律子は勘の良い子でね『同じようなこと、日本もやってるんじゃないの』と、聞いてきた」
「日本にもあるんですか?」
「当時はね、近接戦闘や策敵は、素質的には女性の方が向いている。ほら、女の人って、身の回りのささいな変化に敏感だろう」
「家のオヤジ、それで浮気がばれた!」
 ドン謙三が言って、空気が少し和んだ。
「で、この能力は15~18歳ぐらいの女の子が一番発達している。身体能力もね。そこで、空軍の幼年学校の生徒から、志願してもらって、一個大隊の特殊部隊を編成した。戦史には残っていないが、これが対馬戦争の前哨戦だよ」

 映像の続きが流れた、対馬の山中での百名規模の戦いだ。主に夜戦が多いので、画面は暗視スコープを通した緑色の画面ばかり。でも、息づかいや、押し殺した悲鳴、ちぎれ飛ぶ体などが分かった。

「これで、対馬の基地への敵の潜入が防げた」
「これって、宣戦布告前ですよね」
「ああ」
「これ、政府のトップは知っていたんですか?」
「……知ってはいたが、無視された」
 ボクは、こないだ、ねねちゃんといっしょにお仕置きした的場防衛大臣の顔が浮かんだ。
「この大隊長は、里中……」
「ん?」
「いえ、なんでもありません」
 ボクは、ねねちゃんのお母さん里中マキが隊長であったと確信した。

「律子は、これを見て《出撃 レイブン少女隊!》を書き上げて作曲し、怒りと悲しみをぶつけて平和を勝ち取ろうとしたんだよ」

 桃畑中佐は、そういうとリビングのカーテンをサッと開けた。モニターの画面は薄くなったが、みんなの心の灯はついたままだった……。  


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高校ライトノベル・トモコパラドクス・21『あの水島さんの弟!?』

2018-10-09 06:26:57 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・21
『あの水島さんの弟!?』
    

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された!


 紀香が不審げに戻ってくると、幽霊さんはホコリを払って立ち上がった……。

 幽霊さんは、戦前の旧制中学だったころの制服を着ている。起き抜けみたいに目をしばたたかせ、そしてキョロキョロした。で、友子と紀香の顔を交互に見た。

「君たち、僕のこと見えるんだ……?」


「うん、はっきりとね」
「幽霊ってのは、本人は自覚してないだろうけど、一種の残留思念なの」
 紀香は、ロマンのカケラもない話をし始めた。
「残留思念……?」
「オナラしたら、臭い残るでしょ。あれみたいなもん」
「オ、オナラ……」
「……じゃ、かわいそうか。写真撮るでしょ。ストロボ焚いてズボッって。そしたら、しばらく光が目に残るでしょ」
「もうちょっと、ロマンチックにさ……」
「むつかしいな……好きな女の子ができたとするじゃん。そしたら、寝ても覚めても、その子の姿が目について離れない……これくらいでいい? わたしの言語サーキットって、あんまり文学的にできてないの。ごめん」
「じゃ……僕って、ただの幻?」
「そういうこと」
 しょげてきた幽霊さんに、友子がフォローに入った。
「あのう、あなたの時代でも、電話ってあったじゃない。あれって不思議でしょ。何百キロって離れたところから話しても、耳元でしゃべってるみたいでしょ。それに近い」
「あ……オナラよりましかな?」
 友子は思いついて、スマホを出した。そして五目並べの無料ゲームをダウンロ-ドした。
「やってみて、ここの画面にタッチするだけでいいから」
「え……すごい。僕五目並べには自信あるんだけど……あ、負けちゃった。これ、誰かがどこかで操作してんの?」
 幽霊さんは、スマホをひっくり返したり、グッと目に近づけて見つめたりした。
「それ、中に五目並べに関する思考力が入ってるんです。これ、ちょっと近い?」
「人工頭脳?」
「まあね」
「こんなのもあるよ」

 紀香が、タブレットを取りだした。

「なんですか、この厚めの下敷きみたいなのは?」
「まあ、いいから。出会いって字にタッチしてごらんよ」
「え……うわ!」
 幽霊さんが腰を抜かした。
 タブレットの上には1/2サイズの女の子のホログラム映像が現れていた。
『わたしでよければ……お付き合いしていただけますか。名前は紀香っていいます♪』
「もっとタッチしてごらんなさいよ」
 タブレットの上には、次々と美少女が現れては幽霊さんを誘惑していく。
「紀香、キャラにお友だちの名前付けるのやめてくれる」
「ごちゃごちゃ言わないの」
「それに、紀香って子と、友子って子と、ずいぶん差があるように感じるんだけど」
「差を付けたんだもん」
 あまりの正直さに、友子はズッコケた。
「それに、それに、これって現代の技術にないもんだし!」
「まあ、いいじゃん。ほんのお遊びなんだから……え、なんで、そいつ選ぶの!?」
 幽霊さんは、友子を選んでいた。
「飾りっ気がなくて、僕と気が合いそうで……」
「あ、そ!」
 紀香はむくれたが、幽霊さんはのめり込んでいた。

「僕、水島昭二っていいます。昭和四年生まれ。兄が昭一、もう成仏しちゃったけど。あ、僕幽霊なんだけど構わないかな(#^0^#)」

「あ、わたし、幽霊さんて大好きです。生きてる人間みたいにウザイこと言わないし。いつでも、お相手してくださいそうで。あ、あの……」
「なんだい?」
 幽霊さんは、あまり身を乗り出しすぎて、ホログラムの友子と被ってしまった。まるでCGのバグだ。
「ハハ、お互い実態がないから被ってしまいますね」
「ああ、ごめん」
 幽霊の水島クンは、頬を染めて、後ずさった。
「お名前、なんて読んだらいいですか。水島さん? 昭二さん? あ、ハンドルネームでもいいですよ」
「ハンドルネーム?」
「あ、仮名のこと。バンツマとかエノケンとかさ」
「僕は、堂々と本名だ!」
「じゃ、水島さん」
「あ、それじゃ、兄貴と区別つかなくなるから、昭二で」
「じゃ、昭二さん……」

 そこで、紀香はタブレットのスイッチを切った。

「あ、友子さん……」
「分かった。原理的には、この子と、水島クンは同じなの。この友子は人工頭脳が作った残像みたいなもの。あなたはこの校舎や時代の空気に焼き付いた残留思念なの。でも、ちゃんとした自意識も判断力もあるけどね。それを世間では幽霊という。分かった!?」
「分かったよ、なんとなく……でも、君たちも人間じゃないね」

 そこからの説明は長くなったが、どうやら水島クンは分かってくれたようだ。非常に洞察力と理解力に優れている。旧制中学生は偉い!

「あなたって、ひょっとしたら『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』に出てくる水島さんの弟さんか、なにか?」
「その物語は知らないけど、水島昭一なら、一歳年上の兄貴だよ。そんな物語があるんなら読んでみたいな!」
 水島クンが目を輝かせた。
「あ、今は手許にないの。電子書籍にもなっていないし、そうだ!」
 友子は、紀香のタブレットをひったくり、アマゾンのサイトを出した。
「よかった、『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』は一部在庫有りだって、注文しとくね」
「ちょ、ちょっと」
「これも縁じゃん。半分ずつもって、水島クンにプレゼント」

 そう決めたとき、談話室のドアを開けて、三者懇談の終わった妙子が入ってきた。

「え、どうかした、二人とも?」
 どうやら、妙子には、水島クンの姿は見えないようだ。

 友子は、謎であった『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』の水島さんの名前が分かって、大満足であった。

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