小説大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ
Vol・16『臨時増刊号』
昨日のVol・14は意外に反響が大きかったので、臨時特別号です。
☆反響のコメントなど
実は、デリケートな問題なので、顧問の淀貴美先生からは書くなといわれてたんですが。概要だけでも書いておきます。学校訪問で行った誠学園や谷町高校でも話題ににはなってたんですが、あえて書かなかったことです。それほどデリケートかつ根本的な問題なんで、あえて要目だけでも書いておきます。みなさんにも考えていただけたら嬉しいです。
☆創作劇の偏重
大阪は、90%以上が、顧問や生徒などによる創作劇がコンクールに出てきます。これは創作劇が特別な扱いをされるからです。
「既成脚本と、生徒が一生懸命創作してきたもんを同列にはあつかえません」という高校演劇の先生方の公式見解による影響です。
うちらは、坂東はるか先輩のころから、この風潮には反対してきました。谷町の先生なんか「上演本探してはいてんねんけど、どうせ落とされることが分かってると気がなえてしもてね……」と、苦笑いされながら言うてはりました。
前号を読んだ人には分かると思うんですが、谷町の先生は「野村萬斎のマクベスなんかええな」と言うてはりました。やっぱり手に合うたものを探してはいてはるんです。これを、実際の上演にまでいかさへんのは『創作至上主義』からです。
うちらは既成の『すみれの花さくころ』をやります。まっとうな芝居を、高校生にやらせるためには、創作優遇主義、どないかせんとあかんと思いました。
☆審査基準
二校ともそうでしたが、審査には不信感を持ってはりました。コンクールの2回に1回は「あれ?」と思わはるそうです。むろんうちらもそうです。創作劇の偏重との相乗効果で、コンクールの審査に疑問を抱かせてる大きな問題になってます。審査基準がないと、極端な場合「裏で、なにかあるんちゃうか?」と勘繰られてしまいます。実際学校訪問で行った学校の先生は「一つの地区で、同じ学校が四半世紀に渡って、地区で最優秀とんのはおかしいで」とおっしゃってました。やっぱり審査基準を作って、透明性のある審査が望まれています。
☆今年の審査員
本選審査員のお一人は、三年前に真田山を「作品に血が通っていない、思考回路・行動原理が高校生ではない」いうわけ分からへん理由で落としておきながら、合同合評会では、レジメで、その審査を撤回した人です。この人を再び使うんやったら、それ相当の説明が必要です。
三年前は落とされましたが、東京のNOZOMIプロのディレクターは、ちゃんとDVDの記録を観てくれはって、坂東先輩がプロの女優になるきっかけになりました。その結果から見ても、審査はおかしいです。個人名はひかえますが、この疑問と、三年前の誤審については釈明し、審査員の人選を再考すべきやと思います。
では、もう学校に行く時間なんで、失礼します。
文責 大阪府立真田山学院高校演劇部部長 三好清海(みよしはるみ)
ボクの妹がこんなにニクソイわけがない・63
『ボクの勘』
「ボクの勘だけど、あの女の人はロボットのような気がする」
マンションに戻る途中、春奈と宗司がマンションを出て駅に向かって居ることがGPSで分かった。
そして、最初に飛び込んできたのが、宗司のこの言葉だった。
しばらく、二人は無言だった。
春奈が涙をこらえ、宗司が、今の言葉を後悔しながら、春奈の気持ちを引き立てようとしていることが、無言の息づかいや、足音などから分かった。
「言葉なんか無くても、通じるものってあるんだね……」
優子が、優しく言った。
「始め言葉ありき……と、聖書にはあるけどね」
「新約聖書「ヨハネによる福音書」第1章ね……わたしはクリスチャンじゃないから、この言葉は信じない」
「そうだね。今、宗司は無言で春奈に寄り添ってるよ。だから、春奈も崩れずに、駅に向かって、ちゃんと歩いている、歩けてる」
駅の改札を潜ると、まるでシェルターにでも入ったように、春奈は、ベンチに腰を下ろし、ため息をついた。
電車が来ても春奈は、ベンチを立とうとはしなかった。
宗司は、寄り添ってベンチに座り続けた。
場馴れしない宗司は、無意味に立ち上がり、自販機でコーヒー牛乳を買って、一つを春奈に渡した。
「プ、よりによって、コーヒー牛乳……」
「あ、ボク、何にも考えてなくて……よかったら、別の買ってくる」
「いいの、こういう子供じみた飲み物がちょうどいいの」
「そ、それはよかった」
そう言いながら、宗司自信は、コーヒー牛乳を持て余していた。
春奈は、付属のストローを、さっさと差し込んで、最初の一口を口にした。
「おいしい、宗司クンも飲んでみそ」
「う、うん」
宗司は、音を立てて、半分ほども飲んでしまった。
「子供みたい」
「あ、ボクって、気が回らないから……ごめん」
「謝ることなんかないわよ」
「ロボットみたいだって、いいかげんな慰め言ってごめん」
「ううん、心がこもっているもの。でも、どうしてロボットだって思ったの?」
「……ただの勘。エントランスですれ違ったときに、なんてのかな……人間て、不完全てか不器用だから、たいてい複数のオーラを感じるんだけど、あの人からは美しいってオーラしか感じなかった。むろん表情が硬かったり、適度に足早だったり……でも、ボクには、プログラムされた動きのように思われた……いや、ドジなボクの勘だから」
「残念ながら、あの女の人は人間。これも勘だけど、当たり」
「そうなんだ……」
「中学の頃に、お父さんのゴミホリ手伝ってたら、紐が切れて、古い本やら手紙がばらけちゃって」
「アナログなんだね」
「エンジニアって、そんなとこあるでしょ。その手紙の中に、経年劣化すると隠れた写真が浮かび出てくるものがあったの。その写真、さっきの女の人にそっくりだった」
「女の人からの手紙?」
「ううん、お父さんの友だち。きれいな人だなって思った。手紙には『20年後に、この手紙を見ろ』って書いてあった。元は風景写真みたいだったけど、女の人の姿と二重になっていて、お日さまに当てると、あっと言う間に、女の人だけになった」
「その女の人、お父さんの彼女だった人?」
「うん……不思議そうに見ているお父さんが、後ろから言った『お母さんと知り合う前に付き合っていた。向こうの親が反対らしくてね、お父さんのメールや手紙は全部ブロックされていた。で、数か月後に街で会ったら、こう言われた』 彼女は、こう言った『なんで、しっかり掴まえていてくれなかったの』。それで、お父さんは、手紙やメールがブロックされていたことを悟った。で、なにも言わずに別れたって……『人を愛することは、その人が一番幸せになることを望むことで、けして押しつけるもんじゃない』って。そして『いま、お父さんが一番大切な人は、お母さんと春奈だ』って」
「……そうなんだ」
「その女の人によく似てるんだもん。ロボットだったら、いくらなんでも分かるわよ……でしょ。その……スキンシップとかがあれば分かる事よ」
「そ、そうだよね……」
「電車が来た。もう、この街から離れよう」
「うん」
「これ、やっぱり放っておけないよ」
反対側のホームで、優子が言った。
「予定変更、ただちに実行」
わたしは、あの女に送り込んだプログラムを書き加えた『迅速な活動停止』と……。
「あなた、ただ今。どうだった、春奈ちゃん?」
「あ、ああ、少し傷つけてしまったようだけどね……」
「ごめんなさいね、わたしが……」
そのまま女は倒れて、呼吸が止まった。
救急車で女は救急病院に運ばれ、蘇生措置が行われたが息を引き取った。
そして、病理解剖されて、初めてロボットであることが分かった。同時に全国で二十体の活動を停止したロボットが発見された。わたしが発見したより十五体多い。C国のトラップは、思いの外進んでいた。
事態は、わたしたちの予測を超えて進み始めている……。
トモコパラドクス・40
『ベターハーフ・3』
三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になったん…未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……。
「え、アズマッチ、退職願出してんの!?」
ちょっと寄り道して、友子と紀香は途中の駅で降り、紅茶のおいしいお店に寄った。
「うん、却下されたけどね。この夏には、大阪の採用試験受けるみたい」
「自分から身をひくんだ……あの先生に、そんなとこが有ったなんてね……ただの口やかましい若年寄かと思ってた」
紀香は、無意識にカップの中のレモンをスプーンで四つ折りにして、ギュっと絞った。
「……う、酸っぱい選択だね」
義体でも、酸っぱい物は酸っぱい。当たり前の感性をしている。
「この夏の採用試験に合格して、アズマッチは、ある府立高校に赴任するんだ……」
友子は、アイスティーのストローをもてあそびながら、言った。
「リープしたの?」
「意識だけね。やっぱ、あとは情報送るから、自分で判断して」
「OK……」
アズマッチは、半分眠ったままで夢を見ていた。
台所で、小気味良いまな板の音がする。懐かしいオカンのみそ汁の香り、玉子の焼ける音と匂いもした。
――そうか、これは子どものころの夢やねんなあ――
大阪出身のアズマッチは、素直にそう思った。だが、おかしい、気配が妙にリアルだ。だいたい夢というのは、しだいにオボロになっていくのに、この夢は、ますますはっきりしてくる。
気づくと、枕許に人が座る気配。オカンなら、襖を開けてこう言う。
「こら、いつまで寝とんじゃ、お日さんとうに起きてはんぞ!」
で、季節に関係なく、カーテンと窓を開ける。そして、そのオカンは、乃木坂に就職した年に交通事故で死んだ。
枕許の気配は、若い女のそれであった。
「おはよう、東先生!」
アズマッチは、百万ボルトの電気にうたれたように、飛び起きた。
「お、おまえは……中村杏(あんず)!」
三年二組の中村杏が、甲斐甲斐しいエプロン姿で、枕許でニコニコしていた。今日は久々の完全オフの日曜日。悪夢なら、さっさと覚めろ! しかし、これは現実であった。
「なんで、中村がいてんねん!?」
アズマッチは、古里の大阪に戻ってすっかり、大阪弁に戻っていた。
「先生のこと愛してるからです」
「なんだ、そうか……て、説明になってないし、飛躍のしすぎやろ!?」
「ほんなら、説明は二つ」
「二つ?」
「はい、昨日、先生、相談室の前でキーホルダー落とさはったでしょ?」
「ああ、そやけど、沼田先生が見つけてすぐに届けてくれはった」
「最初に見つけたんは、あたし。連れの美由紀が進路相談終わるの待ってたんです」
「あ……相談室の前におったん、杏か!?」
「その時に、先生、相談室閉めよとして、キーホルダー落とした。で、家の鍵は直ぐ分かったよって、駅前で、直ぐに合い鍵こさえて、沼田先生がきはる前に廊下に落としといたんです。よかったですね、ネームプレート付いてなかったら、分からんとこやった」
「で、もう一つの説明は?」
「そら、朝ご飯食べてからにしましょ。先生、夕べは無精してお風呂入ってないでしょ。とにかくシャワー浴びて、着替えだけはしてくださいね。はい、パンツとシャツはサラ出しときましたから」
完全に、杏のペースに巻き込まれた。
「で、第二の説明は?」
「先生、薮心療内科に通うてるでしょ?」
「なんで知ってんねん!?」
「そやかて、あそこ杏の家やもん」
「え……そやかて、苗字が?」
「薮は、実家の苗字。お母さんは、お父さんと別居中。で、あたしはお母さんと実家に転がり込んでるいうわけです。ほんで、先生がお祖父ちゃんに診てもろてるの分かって、カルテ見たんです」
「それて、杏なあ……!」
「未来の夫の健康状態を知るのは、妻の勤めです!」
アズマッチは、みそ汁を噴き出しそうになって、むせかえった。すかさず杏は背中をさすりながら答えた。
「ピーゼットシー4mg エスタゾラム2mg プロチゾラム2.5mg アクゼパム15mg だいたいの睡眠時間は分かります」
「でも、寝た時間は分からんやろ?」
「うちの二階から、先生の部屋見えるんです。望遠鏡使わならあかんけど」
「杏なあ……」
アズマッチは、箸を置いた。
「あきませんよ。おみそ汁はちゃんと飲まなら」
「みそ汁どころとちゃうで!」
「しかたないなあ……」
杏は、飲み残しのみそ汁を、美味しそうに飲んだ。
「へへ、間接キスしてしもた」
「おい、おまえなあ……」
杏は、椅子を寄せて、アズマッチの直ぐ横に張り付いて、潤んだ目でささやいた。
「あたし、今日は安全な日なんです……」
今度は、紀香がむせかえる番だった。
「こ、これ、バーチャルなんじゃないんだよね!?」
「まだまだ、話はこれから……」
二人は、紅茶屋を出て公園に向かった……。