小説大阪府立真田山学院高校演劇部
公式ブログ・Vol・13『加盟校活動報告・1』
☆本年度加盟校確定
本年度加盟校が、連盟から発表されました。昨年は111校でしたが、今年は113校です。一昨年が112校でしたから、ほぼ横ばい状態と言えると思います……というのが、常識的な見方ですけど、あたしらは、統計資料いうのを、そのまま鵜呑みにはしません。
加盟したということは、学校のパソコンに送られてきた書類に数字や必要事項を打ち込んで連盟にメールで送信、あとは加盟費の12000円を振り込んだ学校の総数ということで、実際演劇部としての実態があるかどうかというのは別問題やし、連盟も、その実態の検証はしてません。
そやさかいに、コンクール参加校が、加盟校数と一致したことはありません。去年は111校の加盟校で、コンクールに参加したのは89校で80%の参加率です。実数では21校の学校が加盟しながら、コンクールに参加してません。
これは、何を意味してるんでしょうか?
加盟時から、あるいはコンクールの時期にクラブの実態がないクラブがあるということやと思てます。東京の演劇部仲間に言うと「最初から、コンクールに参加する意思のない学校があるんじゃない?」と言われました。
東京と大阪は、文化が違うなあと実感しました。
余談ですけど、東京は外国です。タヌキうどん言うたら、大阪ではきつねうどんの蕎麦バージョンのことですけど、東京は素うどん(東京ではカケうどん)に天かすがはいってるもんで、大阪ではハイカラうどんて言います。冷たいコーヒーはコールコーヒー、アイスコーヒーで、けしてレーコとはいいません。東京の喫茶店で「レーコ」て言うたら「あたし愛子ですけど」いう返事が返って来たいうウソみたいな話があります。
エスカレーターは右側を空けるので、大阪の人間は戸惑います。
ささいなとこでは「チャリンコ」が通じません。「チャリ」です。ついでに名古屋は「ケッタ」で、もう完全に外国。それから東京の人間が相槌に使う「そうなんだ」は、あたしらには冷たく感じます。逆に、大阪の「うっそー!」いうのはちょっときつく感じるとか。
「直す」は完全に通じません。クラブが終わって「机なおしとくように」て言われたら、東京の9割は「机壊れてませんけど」になる。
二人称の「あんた」はとても見下した言い方に聞こえるようで、あたしは東京の子ぉには使いません。
ま、とにかく、大阪で連盟に加盟して、コンクール目指せへん学校なんか考えられません。ちゃいます?
ちなみに、東京の加盟費は7000円です。大阪は12000円。知ってました!? 大阪の人間がほとんど東京の倍ちかい加盟日払うて、コンクール参加を目指さへんいうようなモッタイナイことはしません。
なにが言いたいかというと、連盟に幽霊加盟校があるいうことです。クラブに幽霊部員が居てるのといっしょです。
ほんなら、なんで幽霊加盟校があるのかというと、顧問の先生の熱い気持ちと都合からです。ちょっと信じられませんけど、役員やってはる学校の演劇部が部員ゼロいうとこもあります。連盟で重責を担ってはって、連盟に加盟せんわけにはいきません。先生もしんどいもんです。
それから、コンクールの時には、なんとしても部員を、たとえ兼業部員でもええから、かき集めて創作劇でっち上げて……すんません、工夫してお書きになって参加しはります。ほんで、コンクールが終わったら、元の部員ゼロに戻りはります。
そういう学校を含めて113校。分かりました、数字のマジック?
ま、オオヤケの数字の113校を信じたとしても、大阪は261校の高校があります。これで割ったら、加盟率は43%、コンクール参加89校で勘定したら35%という寂しい数字が出てきます。
うちらの真田山も、やっと部員3人。裏方入れても4人は獲得せんと、コンクールに参加できません。頑張ります!!
☆学校探訪
これは予告です。最近他の学校のブログでよその学校紹介が流行ってます。たいてい部員の数も多くて、活発に活動してる学校です。そんな学校は、実は少ないんです。いや、ほんま。
そこで、あたしらは、ごく普通の小規模、あるいは幽霊加盟校の取材に力を入れることにしました。
これは、ただのイチビリとちゃうんです。
アメリカで年収一億円以上の人ばっかり取材して「これがアメリカだ!」いう番組作ったらウソになるでしょ? アメリカ人の平均年収は350万円で、日本とほとんど差がありません。そこに日本ほど充実してない社会保障やら、一世帯あたりの家族数を考えたら、けして日本より豊かやとは言えません。ちなみに、あたしは国際科なんで、言うことがヒネこびてます。ほんなら次回からの学校探訪、お楽しみにね。
文責 大阪府立真田山学院高校演劇部部長 三好清海(みよしはるみ)
赤さびたロボットは右足を引きずるようにして近づいてきた。木々をなぎ倒し、岩を踏み砕きながら……。
携帯武器は持っていないようだが、搭載武器が生きているかも知れない。わたしたちは必死で逃げた。ロボットは二世代前のチンタオ型で、半ば故障しているとは言え、生身の人間には十分過ぎる驚異だ。
わたしと優子は義体なので、その気になれば後ろに回り込み、メンテナンスハッチを解錠し、動力サーキットを切ってしまえば、ものの数秒で無力化はできるが、それでは、仲間達に義体であることを知られてしまう。
とにかく逃げることだ。
「こいつは、チンタオのアナライザータイプだ。攻撃能力は知れているが、探査能力が高い……」
頭上の岩が爆発した。近接戦闘用の搭載兵器、多分ショックガンを使ったんだろう。
「キャー!」
春奈が悲鳴をあげた。優子は、春奈の口を塞ぎ、次の岩場の陰に隠れた。
「やっつけちゃ、ダメ?」
わたしは、春奈に聞かれないように早口で優子に言った。優子は素早い手話で答えた。
――ダメ、義体であることがばれる。ばれたとたんに、C国に情報が送られる――
――三ヶ日じゃ、うまくいったじゃない――
――ダメ、他の三人に知られる。わたしたちは「人間」なのよ。
ドーン!
今度は木下と宗司が隠れていた岩場がやられた。
ただ、ロボットの動きが鈍重なので、あらかじめ察知して、次の隠れ場所に移動する余裕は、なんとかありそうだ。でも、この先隠れ場所になりそうな岩場や、大木がない。大きな池があるだけの背水の陣だ。追いつめられるのは時間の問題だ。
宗司が飛び込んできた。
「なんで、あんたが!?」
「木下クンが、あいつのCPのハッキングをやるって。その時間稼ぎに、二組に分かれて逃げ回ってくれって」
「そんなこと……」
「危ない!」
不満はあったけど、結果的に、わたしは優子と、宗司は春奈ちゃんとの二組に分かれて逃げ回った。
そして、池の水辺にまで追い込まれた。
「これ以上、どうしろって言うのよ!?」
「水にに飛び込むんだ、あいつの生体センサーは一メートルも潜れば感知できなくなる」
「まだ、泳ぐには早すぎるわよ! 水着もないし!」
真由がど抗議したが、この言い方には余裕がありそうだ。実際次のショックガンがくるまでに、注意を引きつけて、宗司と春奈ちゃんが水に飛び込む時間を稼いだ。
池に飛び込むと同時に、岩が吹き飛ばされた。池に潜ったわたしたちは二メートルほど潜ったが、五メートルほど先でパニックになりかけている春奈ちゃんを持て余している宗司が目に付いた。
――優子、あっちを助けて。わたしはここであいつを引きつける。
わたしは、シンクロスイミングのように水面に姿を晒すと、池の深みを目指して泳いだ。次々に撃ち込まれるショックガンで、水面は泡だった。
優子は春奈に口移しで空気を送ってやった。しかしパニクっている春奈は、半分も、その息を吸うことができなかった。
三十秒が限界だった。これ以上やっては春奈を溺れさせてしまう。優子はそう判断すると、春奈を水面に放り上げ、自分も高々と水上に姿をあらわした。
ショックガン……来ない。
立ち泳ぎで、ロボットを見ると、ショックガン発射寸前の赤いアラームが肩で点滅していた。で、動きが止まっていた。
「やったー!」
木下クンが、ジャンプして、ガッツポーズをした。
「木下クンなら、甲殻機動隊のサイバー部隊でもやっていけるわね」
「そうね、後始末もお見事」
木下は、ハッキングの痕跡をきれいに消しただけでなく、ロボットが興味を示したものの記録も、一切合切消した。その中には、違法に改造された彼のCPの他に、わたしたちが義体の疑いがあるという情報も入っていた。
「お二人とも、とても泳ぎがお上手なんですね!」
この春奈ちゃんの記憶は消せなかった。で……。
「宗司クン、水中で人工呼吸してくれて……ありがとう」
と、宗司にお礼を言った。宗司も半ばパニックだったので、そのへんの記憶があいまいで、
「とっさのこととは言え、ごめん」
と、美しく誤解していた。
で、麗しくも切ない青春ドラマの横道へと、物語は展開の気配……。
トモコパラドクス・37
『50年後 友子の決着・2』
三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になったん…未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された!
「よし、確認できた。友子を破壊しろ」
長官が静かに命じた……。
「はい、ただちに破壊します」
栞が応えると、栞の二体の義体の瞳がブラウンから赤に変わり始めた。ショートの準備が始まったサインである。
「待て、今の指令には主語が欠けて……」
長官の秘書は、そこまで言うとフリーズしてしまった。同時にラボの動力が全て落ちてしまった。
「これは、どういうことだ……!?」
長官はうろたえて、オロオロするばかりだ。
「もうちょっと優秀な秘書を配置すべきですね、長官」
その声は、もう栞ではなかった。二体の義体も、元の友子の姿に戻っていた。そしてストレッチャーの上の友子は栞の姿に……。
「命令承伏順位は長官を優先にしてあります、長官のご指示通りです。だから、アナライズもすんなり通れました」
「じゃ、どうして……」
「この子たちは『友子』という言葉と『ラボ』という言葉を入れ替えてあります」
「じゃ……」
「お分かりいただけたようですね。わたしが指令から主語を抜いたのはフェイクです。瞬間ラボのセキュリティーはわたしに集中し、ガードが十パーセント落ちました。それでセキュリティーを突破して、ラボの動力を破壊し、ここのCPUを支配下に置きました」
「く、くそ!」
長官は、ラボの出口に向かったが、戦術核にも耐えるドアはビクともしない。
「長官とC国との不適切な関係は、ラボのCPUから、マスメディアはもちろん、一般のネットにも流れています。海外逃亡もできません。カビの生えかけた友子クライシスに火を付け、C国は内政の安泰を図り、長官は次の総裁選挙に勝利する。そういうシナリオでしたよね」
「あの、シリアルは、どうコピーした?」
「もう一万倍拡大してみましょう。むろんこのラボでは、そこまでの拡大解析はできないから、わたしのCPUを使います」
モニターが点き、一万倍のシリアルの部分が映し出された。
「オオー!?」
一目瞭然だった。本物のシリアルは一本一本のバーが、友子の顔でできており、その一つ一つが、怒ったり笑ったり、常に変化している。そしてその変化は乱数で管理されていて、この二十一世紀の技術では解析不能だった。
「これで、友子クライシスは、過去の遺物になるんだな……君たち母子を祝福するよ」
「わたしたちを、こんな義体にしておいて……友子クライシスは、まだ続くわ。C国と、日本のエライサンがまだ必要としているから。でも、あなたのように騒ぎ立てる人はいなくなる。当分は緊張を保ちつつ続くでしょう」
「お母さん、ありがとう……」
長官を乗せたパトカーが去りゆくのを見ながら、栞が友子の顔を見た。初めて母として見る目であった。
「これで、栞の任務も形式的なものになるわ。よかったね、マインドコントロールも解けて」
「この現実を見れば、自然に解けるわ……お母さん」
「ん……なに?」
栞は、夕陽に向かってそっぽを向き、不器用に言った。
「……生んでくれて、ありがとう」
「よしよし。でも、一つ注文」
「え、なに?」
「お母さんてのは止してくれないかな。お互い、見かけも感受性も十六歳なんだからさ」
「そうね……じゃトモ……」
「ん……?」
「トモさん!」
友子はカックンとして、二体の義体が笑い出し、義体と母子の笑いは、十六歳の少女らしく、止まらない爆笑になった……。