大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・42『幸子失格』

2018-10-07 06:45:04 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある42
『幸子失格』
    

 

 我が家には、ささやかなこだわりがある。

 二十一世紀も半ば過ぎだというのに、いまだに紙の新聞をとっているのだ。

 新聞を開いたときに、アナログな情報の山が、紙とインクの匂いをさせながら目に飛び込んでくるのは、脳の活性化に役に立つと、2020年だったかに、28人目の日本人ノーベル賞受賞者のナントカさんが提唱して以来、右肩下がりだった新聞購読が増えるようになり、今でも世帯の25%は新聞を購読している。

  しかし、この紙の新聞で弁当を包むという前世紀の習慣を維持しているのはウチぐらいのものだろう。
 
 この習慣は、意外にお袋の習慣だ。

 編集という特殊な仕事柄なのかもしれないが、去年、親父とのヨリが戻り、家族の復活をしみじみ感じたのは、この新聞紙に包んだ弁当を学校で開いたときかもしれない。
 お袋は早起きで、朝の支度をしながら新聞を読み、必要なものは、その場で切り抜き、残ったもので弁当をくるむ。何ヶ月も新聞を溜め込むようなことはしない。やはりニュースは新鮮さが第一というのは、今の人間である。

 その日はテスト終了後の短縮授業。

 学校は昼までなんだけど、部活があるので弁当を持ってきた。何気なく広げっぱなしにしていた新聞紙に幸子は注目した。
「へえ、先月の極東事変の裏は、甲殻機動隊が……」
「あ、あの防衛大臣の首が飛んだやつ」
「あれ、軍が大臣に内緒で攻撃準備してたんでしょ。あれ勝ったんで戦争にならずに済んだって。戦争やってたら、スニーカーエイジどころじゃないもんね」
 優奈が、食後のお茶を飲みながら言った。
「押さえた記事になってるけど、仕掛けたのは甲殻機動隊だって……」

 ちがう。

 俺は、一カ月前、ねねちゃんにインストールされて、ねねちゃんのママの死に立ち会ったことや、そのあとDepartureして防衛省に潜入したことを思い出した。あれは、義体であるねねちゃんの判断だった。ねねちゃんは、あれからも急速にねねちゃんらしさを取り戻している。それに比べて、わが妹の幸子はあいかわらず。義体として他人になりきる技術は完ぺきだ。小野寺潤を始め、骨格の似ているアイドルには完ぺきにコピーできる。もうレパートリーは20を超え、いくつかを合成して、オリジナルな佐伯幸子としてもアルバムを出すようになった。
 ただ、幸子は、あくまで終末放課後アイドルに徹しており、高校生活に穴を開けるようなことはしなかった。

「さ、お兄ちゃん、練習だよ」
「はいはい」
 幸子は、ケイオンの選抜メンバーに選ばれても、昼や休憩時間の半分以上は、もとの仲間と時間を過ごすようにしている。妹ながら気配りのできた奴だ。もっとも、それはプログラムモードのときだけで、ナチュラルモードのときは、相変わらずのニクソサである。

 それから一週間、スニーカーエイジのプロディユーサーが学校にやってきた。

 顧問の蟹江先生立ち会いの下で、選抜メンバーはプロデユーサーに会った。
「やあ、プロデューサーの的場です。大事な話なんで、ぼく自身で来ました」
 初対面なんだけど、どこかで会ったような気がした。
「あ……兄貴が、こないだまで国防大臣。でもナイショね。かっこ悪いし、兄貴は兄貴、ぼくは、ぼくだから」
 そう言うと、的場さんは頭を掻いた。でも、兄貴がドジな国防大臣であったのとは違う緊張感がした。
「なんでしょう、もし編成に関わるようなことならハッキリ言うてください。わたしらも対応せんとあきませんから」
 加藤先輩が促した。的場さんは、メンバーの顔を見渡してから口を開いた。
「申し訳ないが、佐伯幸子さんの出場が認められなくなりました」

 一瞬、みんなが凍り付いた。

「理由はなんですか」
「佐伯さんの芸能活動です」
「それは、登録するときに問題ないて、言わはったやないですか!」
 ギターの田原さんが広義した。
「登録時はセミプロだったが、今はヒットチャートの常連だ。立派なプロだよ」
「そんな……」
 みんなの口から同じ言葉が漏れた。
「しかし、それは殺生だっせ」
 いつも口出しをしない、蟹江先生が平家蟹のようになって言った。
「規約では、出場者は、学校や、エージェントが不良行為と認めた場合に出場をとりけすことがある……としか書いてまへんけど」
「あと、もう一点、プロと認定された者は出場できないとあります」
「待ってください。わたしがプロなのは週末だけです。それ以外は普通の高校生です」
「スニーカーエイジの本選は週末に行われる……週末の君はプロなんだ」

 外の蝉の声が、ひときわ大きく耳障りに聞こえてきた……。  

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・19『……お母さん!』

2018-10-07 06:31:53 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・19

『……お母さん!』       

三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された!


「もう、また、こんなに散らかしっぱなしで!」

 お母さんの声で目が覚めた。
 友子は、なるべくリアル女子高生に見えるように調整している。パンケーキ屋の新装開店にも並ぶし、休日は、なかなか目が覚めないようにしている。この感度は、クラスメートでもあり、同じ演劇部員でもある妙子に合わせてある。だから、ハンパなことでは目覚めないんだけど、友子の頭には危機感知モードというのがあって、声の大小にかかわらず、そういう事態には目が覚める。今のクライシスレベルは夫婦の危機レベルであった。

「どうしたの、お母さん?」
 とりあえず、ハーパンにTシャツというナリで歯ブラシくわえながら、リビングに行った。
「おはよう、トモちゃん。見てよ、このざま!」
「ああ、なーる……」
 リビングは、夕べお父さん(実は弟)が、仕事のために出した資料や、サンプル、予備のパソコンや周辺機器で一杯だった。

「研究職って、これだからヤなのよね。商品開発のためなら、なんでも許されると思ってるんだから!」
 そう言いながら、お母さんはテキパキと片づけ始めた。 
「顔洗ったら、わたしも手伝うわね」
「ごめん、トモちゃん。テスト明けの日曜だっていうのに……よかったら、この大事なモノを分かるように、お父さんの部屋かたしといてくれる」
「はーい」

 一見して、ガラクタだと思った。

 一郎(お父さん)は昔からそうだった。部屋は八畳の部屋を姉弟二人で使っていた。とくに仕切なんかなかったもんだから、読みかけのマンガ雑誌なんかが、いつの間にかわたしのテリトリーに進入してきては泣くまで叱ってやった。でも、それは一郎の長所でもあった。探求心が強い子で、なにかに熱中すると、他のことは目に入らない。わたしは部屋の片隅に畳半分ぐらいのスペースを空けてやり、その分のガラクタは棚の上に上げた。

「あ……」

 思いがけない物を見つけた。弟が三年生の夏休みのとき、なんとかって科学雑誌に熱中し、図工の宿題を忘れてしまった。工作が苦手な一郎は途方にくれて、わたしに泣きついてきた。わたしは自分の宿題の分の紙粘土が残っていたので、それでガンダム型の貯金箱を作ってやった。そのずんぐりむっくりな姿と、機能性を評価され、いつにない成績をもらった。不覚にもこみ上げて来る物があった。

「あ、それ亡くなったお姉さんが作ったもんだって、初めてあの人が自分の部屋に呼んでくれたときに見せてくれたのよ。お姉さんには想いがあったみたい」
「そうなの……」
「研究職の資料だから、勝手に整理できないし……でも、このスペースじゃ、収まりきれないわね。よーし……」
 お母さんは、腕まくりをして、床が見えなくなるほどのガラクタを片づけはじめた。

「アチャー!」

 お母さんは、スカイツリーほどに積み上げたガラクタの山を崩してしまった。そして、その中に自分たちの結婚写真帳が混ざっていることに怒った。
「もう、こんな大事なものまで、あ~あ、角が折れちゃったよ……ん?」
 お母さんは、結婚写真を収めた白い写真帳のノリが剥がれて、中にもう一枚の写真が入っていることに気づいた。
「あれ……」
 と、お母さんが言ったときには、もう遅かった。それは、わたしが児童劇団を受けようとして撮った、とびきりの写真だ。私の義体化が長引くこと分かったときに当局からの指示で、わたしに関する物は全て処分された。戸籍から、学校の在学記録まで、全て……でも、弟は処分しきれなかったのだろう。この写真一枚大事にしてとっておき、自分の結婚写真の裏に封じ込めた。しかし、もともと不器用なこととノリの劣化、そして、さっきの衝撃で口が開いてしまった。

「これって……トモちゃんよね?」

 写真の裏には、生年月日や略歴、そして名前まで書いてある……。

「お母さん、聞いて……」

 わたしは観念して、義理の妹にあたるお母さんに全てを話した。

「そう……トモちゃんて、わたしの義姉さんだったの……」
 わたしは、その後に来るパニックを恐れた。
「アハハハ……ああ、おかしい」
 お母さんは、涙を拭きながら笑った。友子は後悔した。
「トモちゃんは、やっぱトモちゃんだわよ。どう見ても十六歳の高校生。ほら、そんなに涙ぐんじゃって。どう見ても思春期の女の子。今まで通りの母子でいきましょう。たとえこれから、なにが起こるか分からないけど、トモちゃんはわたしの娘だって、決めちゃったんだから!」
「お、お母さん!」

 わたしは、なんの抵抗もなくお母さんの胸に飛び込んだ。それが、わたしのプログラムされた能力なのか、自然なわたしの心なのか分からなかった。でも、実感としてはお母さん。それだけでいい……。
 

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