小説大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ
Vol・15『加盟校活動報告・3・大阪府立谷町高校』
☆近所の府立谷町高校にお邪魔しました
旧制女学校が、戦後の学制改革で新制高校になった由緒ある高校で、昔は府大会で優勝したり、近畿大会にも出場経験のある伝統校でした。それが今では、兼業部員が一人だけ。で、この部員は帰宅部と兼業。
そう言って笑わせてくれたのは、顧問の矢部先生。
先生自体、正式には放送部の顧問で、演劇部は副業。連盟には演劇部として登録してるけど、校内の扱いは同好会やそうです。
むろん好き好んで二つの顔を持ってるわけやないんで、演劇同好会がクラブとして、三人以上の部員は必要という実態を失って長いからです。
「コンクールは、三年に一回ぐらいかなあ……」
寂しそうに先生は言わはります。
「今年は出ますよってに」
帰宅部兼業のH君がいう。
「まあ、あてにせんと待ってるわ」
「一緒にやってくれる奴が、もう二人ほどおったらね」
「そんな言い方せんでもええがな。芝居いうのは、舞台は一人でも、やっぱり照明やら音響のスタッフはいるさかいな」
「まるっきり一人で演れる芝居もありますよ」
「知ってます。そやけど、稽古場にいっつも一人いうのは、やっぱりね……」
H君は俯きながら、そない言うた。
「こいつだけが悪いんやないねんわ。やっぱり、条件整備いうのは顧問の仕事やからね。昔はほっといても演劇部は人が集まったけど、今はこっちから声かけてもあかんあらね」
「中学校で、演劇部が無いようなってしまいましたからね」
「この四月はHもがんばってくれたんですわ。入学者の名簿から演劇部出身の子ぉ探したんやけど、どうもね、今年は見事に一人もいてなかった」
高校演劇だけとちごて、中学校の演劇部が壊滅状態いうのを改めて実感。
「もし、何人か居てたら、やってみたい芝居とか無いんですか?」
「うん、野村萬斎がやってた5人だけでやる『マクベス』なんかよかったね」
「先生、5人なんか、絶対不可能。それに、あれマクベス以外は、みんな一人で何役もやらならあかんさかい、宇宙的規模で無理」
そこで一回話題が途絶えてしもた。わざわざ来た甲斐ないので、他のことに話題をふってみる。
「ラノベなんか読まはります?」
「うん、多少はね。『はがない』とか『おにあい』とかね。映画も観に行ったし。
ちょっと解説『はがない』とは「僕には友達がすくない」の略。『おにあい』は「お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ」の略。
けっきょく、後半はほとんどラノベの話で盛り上がっておしまい。あたしらはラノベみたいな芝居でもええと思う。とにかく、面白いと思う着想を芝居にする力。それが必要。
「近所やねんさかい、コンクールなんか二校合同で出られたらええのにな」
矢部先生の苦し紛れは、可能性やと思いました。管理やら責任の問題はあるけど、野球部なんかでは複数校が合同で試合に出ることもあるらしい。連盟の規約を変えならでけへんけど、一つの可能性やと思うて帰ってきました。
ちなみに、このブログは朝の5時から起きて打ってます。昨夜のうちにやっといたらよかったんやけど、台本読んでたら寝てしまいました。次は、うちらのクラブのこと書きたいと思います。
文責 大阪府立真田山学院高校演劇部部長 三好清海(みよしはるみ)
トモコパラドクス・39
『ベターハーフ・2』
三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になったん…未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……。
アズマッチはノッキー先生のことが好きなんだ!!!
「で、どうなのよ、二人の関係というか、可能性は?」
駅前のパンケーキをかじりながら紀香が聞いてきた。今日は期末テストで二時間でおしまいなのだ。
「ま、ノッキー先生の記憶から取った情報……見てくれる」
「やっぱ、氷川丸は外せませんね」
「ふふ、乗せてしまえば、管理もしやすいですしね。でしょ、東先生?」
「違いますよ!」
「あら、ごめんなさい」
二人は、遠足の下見に横浜の山下公園にやってきていた。去年の春のようだ。
「氷川丸は、昭和五年に造られた大型貨客船で、横浜とシアトルを何度も往復……あ、チャップリンも、この船で日本に来たんですよ」
「まあ、あのチャップリンが?」
「ええ、柔道の嘉納治五郎も東京オリンピック招致の会議のあと、この船で帰国中に肺炎で亡くなってます」
「嘉納治五郎って、東京オリンピックの前まで生きてたんですか!?」
「ハハ、昭和十六年の幻のオリンピックですよ」
「へえ、そうなんだ……」
「戦時中は、病院船になって、船体を白く塗って、緑の帯に赤十字が映えましてね。海の白鳥って呼ばれたもんです」
「へえ……この船、きっと白が似合ったでしょうね」
「戦後は、引き揚げ船やったり、もとの太平洋航路にももどって、その後は展示船になって、ユースホステルになったり、船上結婚式に使われたり……」
「え、ここで結婚式!?」
ノッキーは、思わず身を乗り出した。
「白い船体に、白いウェディングドレス……素敵だわ!」
「あ、そのころはエメラルドグリーンに塗られてました」
「エメラルドグリーン、もっと素敵。そのころの氷川丸見て見たかったわね!」
「あ、じゃ、そこ立ってみてください!」
「え、この白黒じゃイメージちがうなあ……」
「あ、パソコンで処理して、船はエメラルドグリーンにしときますよ」
「ついでに、ウェディングドレスにしてもらおうかなあ」
「あ、それいいなあ、やっときますよ!」
「ハハ、冗談よ。このままでいい」
スマホでシャメって、アズマッチは、ノッキー先生に見せた。
「あ、思い出した。このアングル!」
「ハハ、分かりました?」
「『コクリコ坂』で、海と俊がアベックで歩いたとこだ!」
「そう、お互い好きなんだけど……」
「その時は、お互い兄妹だと思いこんでいて、なんだか、とってもせつないのよね!」
「そういう、歴史的な背景を説明してやってから、生徒たちを、ここに連れてきてやりたいんですよ」
「うん、とってもいいアイデアだわ!」
「そして、帰りは、ここで集合写真撮ってやりたいんです。母港に落ち着いた氷川丸の前で!」
「うんうん!」
そのとき、いたずらなカモメが、ノッキー先生の頬をかすめた。
「きゃ!」
思わず、ノッキー先生はアズマッチの胸に飛び込んでしまった。
「柚木さんが、ボクの母港になってくれたら、どんなにいいだろ……」
ノッキー先生は、優しく顔を上げた。
「……わたしみたいな小さな港には、東先生みたいな大きな船は入りきらないわ」
そして、自然にアズマッチの胸から離れた。
「もう、入港させる船は……決まってるの?」
「……まだ、一度も入港してくれたことはないけど……さ、次ぎ行きましょうか」
「そ、そうですね、柚木先生!」
それから、アズマッチは、彼女のことを、かならず「先生」をつけて呼ぶようになった。
「いい話だけど、切ないね。アズマッチは諦めちゃったの?」
「ううん、今でも好きだよ。でも、アズマッチはエライよ」
「え、あのボクネンジンが?」
「ほんとうに人を愛することは、その人が、一番幸せになることを願うことだって……」
「アズマッチの心覗いたの?」
「うん、でね……」
そこで、地下鉄の到着を知らせる着メロがした。
「続きがあるんだね……」
「うん」
「それは、圧縮した情報のインストールじゃなくて、アナログに会話でしようか」
「うん、ちょっと応援もしてあげたいしね」
発メロがして、二人を乗せた地下鉄は、ゆっくりと走り出した……。
妹が憎たらしいのには訳がある・62
『春奈の秘密・2』
春奈の父の部屋から三十がらみの女がエレベーターで降りてくる。
女がマンションから出てくると、優子とわたしは道を分かれて追跡した。
わたしたち義体にはGPS機能が付いているので相手に気づかれない。道の分かれ目で合流し、追跡を交代すれば、よほど慣れたスパイや、アナライザーロボットや義体でも、二回まではごまかせる。
女は野川沿いの緑地帯に入っていった。顔見知りなんだろう、犬を散歩させているオバサンに声を掛けて、犬とじゃれ合った後、ベンチに座った。
少し離れたベンチで、女のパッシブスキャンをやる。
体から出てくる体温、水蒸気、呼気、脳波、電波などから、相手が人間かロボットか義体なのかを見分けるのだ。
「……人間?」
「確かめよう」
ベンチに座ったまま優子と石の投げっこをする。
優子が軽く投げた石ころを、わたしが別の石で当てるという無邪気な遊びである。ほんの数メートルの距離だけど、女子高生がじゃれているぐらいにしか見えない。他にもキャッチボールをやったり、フリスビーで遊んでいる家族連れがいるので目立たないのだ。
「真由、いくよ」
優子が、小さく呟く。
「OK……」
わたしは二百キロのスピードで小石を投げ、優子の小石をはじき飛ばした。はじかれた石は、まっすぐに女の顔に向かい、女は二百キロで飛んできた小石を軽々とかわすと、アクティブレーダー波を発した。
――義体か、ロボットだ――
優子は、すぐにジャミングをかけ、わたしは小石をキャッチボールをしている親子のボールに当て、ボールを緩く女の足もとに転がした。
「どうも、すみません」
「いいえ、ボク、投げるわよ」
女は、正確に、少年のグロ-ブに投げてやった。
その隙に、わたしと優子は女の後ろに回り、アクティブスキャンをかけた。
――ロボットだ!――
女が行動を起こす前に、耳の後ろのコネクターに手を当てると、CPをブロックし、アイホンに見せかけたケーブルを繋いだ。
「C国の、最新型ね。並のスキャンじゃ人間と区別つかない」
「メモリーにロックされてるのがある」
「……待って、下手に解除したら自爆するわ」
「そんなドジはしない……わたしの勘に狂いがなければ……ほら、ロックが解けた」
「どうやったの?」
「ダミーのM重工の情報を流した……大当たり。M重工のロボット技術の機密でいっぱい」
「産業スパイ?」
「兼秘密工作員。奥にまだロックのかかったのがある。このキーは軍事用だわ」
「いっそ、破壊する?」
「もっと、いい手がある……」
「なにしてんの?」
「こいつのCPにウィルスを送り込んだ。掴んだ情報に微妙な係数がかかるようにね。C国が気づくのに半年、解析に三ヵ月はかかる」
「でも、八か月で、バレちゃうじゃん」
「解析したらね……多摩で出会った二世代前のロボットのスペックが出るようにしといた」
「真由って、優秀!」
「優子にも同じスキルがあるんだけど、優奈の脳細胞生かすのにCPに負担かけられないからね……」
「ごめん」
「それよりも、M重工の技師やらエライサンの秘書やら愛人に五体、同じのが送り込まれてる」
「機密情報垂れ流しじゃん!」
「ハニートラップに特化したロボット……意外と間が抜けてる。五体でネットワークしてる。このウィルスは自動的に、他のにも感染するね」
そこで、わたしたちはロボットを解放した。ロボットは浮気相手の娘が来たので、避難した記憶しか残っていない。
この間、わずかに二秒。緑地帯に居る人たちは、ちょっと貧血を越した女性を女子高生が労わったとしか見えていないだろう。
春奈には悪いけど、もう少し親の不倫に悩んでもらわなければならない。春奈のフォローのためにマンションに戻った……。