春夏秋冬物語・04妹
〔ふってきた!・4〕
学校のホームページに、制服見本とかあるじゃやない。
たいてい清楚・真面目・明朗を絵にかいたような男女がカッコよく立って、ニッコリだかニンマリだかしている。
その女生徒の見本みたいなのが、ブティックのガラスに映っていて、あたしを見ている。
見ているはずで、映っているのはあたし自身。
でも、ナルシストってわけじゃない。
自分が、いまどんな風なのかくらいは、ガラスに映してみなくても分かる。いつもなら、ガラス見たりはしない。
今日は特別。なんといっても、言い寄って来たモブの竹内に引導を渡す。
でも、制服見本、いえ、それ以上のセレブリティーたる春夏秋冬(ひととせ)美代はムゲな振り方はしない。してはいけない。
だから、ガラスに映る自分を見て、自分を落ち着かせる。
ちょっと目と口の端に力が入り過ぎている。
立ち止まってニッコリしてみる……うん、善良で可愛い女子高生だ。
ん……目のピントを変えると、ブティック店内のオッサンと目が合った。
変な誤解をされないために、しおらしくドギマギしておく。
ほんとうに、家の中以外では気を使いまくり。
二つ目の角を曲がったときに、遠回りになるけど、一本道を外した。
ちょっと遠回りだけど、竹内に追いつかれることは無い。
追いつかれ、横に並ばれて話すなんてごめんだし、並んでるところを人に見られるのもヤダ。
公園の入り口に、竹内は立っていた。
カバンは持っているけどペッタンコ。シャツは第二ボタンまで外し、ゾロッと裾を出している。短い脚が余計に短く見える。
髪の裾は野球部みたく刈り上げてんのに、その上を伸ばしている。前髪なんか、垂らしたら鼻の上まで届きそう。
靴は、学校指定のだけども、縁が薄汚れてる。そして、腰パンを連想させるようなスニーカーソックス。なんでローファーにスニーカーソックスなんだ! もう、この姿だけでゲロが出そう。
「ごめん、待たせちゃったみたいね」
そう言いながら、ポケットからハンカチを出す……ついでに防犯ブザーを落としておく。
「ごめんなさい、そそっかしくて……あ、ありがとう」
竹内に防犯ブザーを拾わせた。
「歩きながら話していい? ゆっくりと」
「あ、うん……」
目を合わすことなく、無言で2分ほど歩く。全身でごめんなさいオーラを発しておく。
「嬉しかったわ、告白してくれて」
「う……うん」
緊張してんだろう、しきりに汗を拭く。せめてタオルハンカチとかで拭けよ……ウ、なんで美装堂のイチゴシャンプーの匂いがするわけ? それってJC御用達じゃんよ、マジキモイんだけど。
「あたし、器用じゃないから……飾らずに言うわね。いい?」
「う……うん」
一歩前に出て立ち止まる、竹内の方を向いてね。
「あたし恋愛モードには入れないの。高校に入って、まだ3か月たらずでしょ。あたしってば、まだ自分の居場所がはっきりしない、部活には入り損ねちゃったけど、勉強以外に打ち込めるものとか、そんなの探してるの。高校生活って3年間でしょ、大事にしたいし、竹内君も大事に……と思うの。竹内君に不足なんてないのよ……出会う時期が早すぎた……のかな? だから、竹内君がどうのこうのってことじゃなく、だれとも、そいうモードにはなれないの。分かってくれるかな……」
ここで目線をそらしちゃいけない。
がまんして竹内のドーナツの穴みたいな目を見つめる。
で、信じられないことに、竹内の目が潤んできやがる!
めんどくさいけど、涙を貯めてみる。その涙を手で拭い、涙に濡れた手で竹内の右手を握ってやる。
「ごめん、これだけしか言えない。ごめん……」
あたし、ほどよく声が震えてる。
「ほんとに、告白してくれてありがとう……じゃ、じゃあね!」
クルリと回れ右。そのまま、小走りで家に帰った。
「今夜は冷製ブタシャブと茄子のポン酢かけ」
家に帰ると、ニイニが夕飯メニューを言う。
「うん」
我ながら無愛想に返事。2階へ上がるあたしに、ニイニの声が追いかけてくる。
「雨降ってたか?」
「うん、ふってきた」
「ん……?」
ふってきたのアクセントを間違ってしまった。