春夏秋冬物語・02妹
〔ふってきた!・2〕
グソッ! ファーストキスが実の兄貴だなんて!
最悪だと思うでしょ!? 最悪過ぎて、ショックがくるのには10分もかかってしまったんだから!!
気が付いてから思い切りアルコール消毒、消毒しすぎてくちびるがヒカヒカ……やってらんねー!!
「おまえなあ、いやみったらしくマスクなんかしてんじゃねーよ!」
アマゾン代引きの立て替え金を返しにいったら、ニイニが不足そうに言う。
言っとくけど、あたしは貸し借りはキチンとしておく。
貸して不仲になるよりも、いつもニコニコ……ちがったけ? ま、兄妹でも、そこんとこはキッチリしておく。そーゆう性分。
「事故なんだからな、ファーストキスなんて思うなよ」
「ふぉもうなっれいっれも!」
「あん?」
「ムー……(しゃべれないんで、マスクをずらす) りっさいやっちゃんらんらから!」
あれ? マスクずらしても変わらない?
「ウ、ウハハハハハ……おまえ、く、くちびるタラコみたく!?」
「ウッ、みゅなー!!!」
代引きの3341円を叩きつけると、あたしは自分の部屋に駆け戻った。
制服のままなのに気づき、ノロノロと部屋着に着替える。
いつもなら、帰宅したらすぐに着替える。だけど今日は、家の前で竹内からのメールが入った。あの「昇降口で待ってる」ってやつ。
あれで頭に血が上って、カバンだけ置いてガッコに戻ろうとしたら、階段踏み外して落ちてしまった。
で、ちょうど帰って来たばかりのニイニと激突して、その……くちびるが重なってしまった!
で、消毒のしすぎでタラコくちびるに。
これは、もう呪われているにちがいない。
いっそ仕事をやろう!……と、思い立つが止める。すんなり仕事をやるには、心が折れすぎている。
えと……あたしは高校生だけど仕事を持っている。
これでもプロのイラストレーターだったりする。そのことは、いずれ話す。
そんな気にならないから、アマゾンの箱を開ける。
アマゾンの梱包はカンペキだ。
横っちょのテープの貼り始めんとこに、ボスッと指を突っ込んで、ビシャーっと引っ張ると直ぐに開く。
無駄な梱包材なんかは入っていない。商品は箱の底と同じ大きさの段ボール板に載せた状態でパックされている。で、段ボール板は底に二の字にひかれた接着剤で適度に固定され、それをペキペキっと剥がすと商品が手に取れる。
ジャーン!
手に取ったそれは、TO HEAT 2のルーシー・マリア・ミソラの1/8フィギャ!
今から12年も前のフィギャだけど、クニっと右足に重心を置いたポーズとアイプリの表情がいい!
なんか、昭和の表情なんだよね。
もち昭和なんて、生まれるずっと昔。知るわけなんかないいだけどね、あたしのイメージの中の昭和にピッタリ!
で、これは仕事のイラストのタネであったりするんだけど、ま、好きなのよね。
「お、キャストオフになってるじゃん!」
キャストオフってのは、服の一部が着脱できるってこと。
一体のフィギャで二体分楽しめる。
そろっとルーシーのスカートを外そうとした。慎重にやらないと色移りの心配がある。
「そっか……プニっと捻ってから……」
「おーい、美代、ふってきたー!」
「うん、わかったー」
ルーシーと遊ぶのは後回しにして庭に向かう。
洗濯物の取り込みは、あたしの任務だ。
ちなみに、料理と掃除なんかはニイニの任務。この四月からそーゆーことになっている。
この四月から、うちに両親はいない。ニイニと二人だけの夏がやってきた。
チョーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー不本意なんだけどねヽ(`Д´)ノプンプン!