アンドロイド アン・23
『アンの感動』
春画に興味を持ちやがった
日本史の先生に『浮世絵が盛んにんったのは春画が売れたからだ』と教えてもらいやがった。
教科書と言うのはタブーがあるようで、春画などは教えてないけないことになっている。
教えてはいけないということすら教えない。
だから、江戸の人間と言うのは、役者絵とか東海道五十三次みたいなインスタ栄えしそうな風景画を買いまくって、百万の江戸市民が芸術的使命にかられて浮世絵師を育んだという、日本は世界一のアート国家だったという理解だ。
いや、理解さえしていない。暗記科目の日本史、その中でも場合によっては「教科書読んどけ」の指示だけですっ飛ばされる江戸文化に興味を持つやつなんていねえよ。
ちょっと変わったアンドロイドだとは思っていたけど、再認識したかっこうだ。
ウ~~~~~~~~~~~~~ン
リビングのソファーで腕組みしたままアンが唸る。目は虚空を睨み据えている。
「ちょ、ちょっとキモいぞ」
「喋りかけないで」
「だって、コンロの……」
虚空を見つめたまま、組んだままの右手の指をチョイと動かす。
すると、ガスが弱火になっただけでなく、シンクの上の調味料各種が勝手に動いて料理を仕上げていくではないか!
人が見たら幽霊のお手伝いさんか何かがいると思ってしまうに違いない。同居して四カ月目の俺も、アンの、こういうズボラテクニックを目にするのは初めてだ。
「お、おい、こんなの町田夫人にでも見られたら……」
俺は慌ててキッチンに向かい、人間が料理しているようなポーズをとる。
「え……なんだ?」
目の前にインタフェイスが現れて、右から左へと文字が流れる。
――弱火のまま二分かき回し、終わったらお皿を並べて……――
なんと、目の前に夕食準備のダンドリが流れていく。オートでやってはまずいと思って俺にやらせようと瞬時に変更しやがった。
「……という具合にね、一見デッサンの崩れた稚拙な絵に見えるんだけどね。読者が見たいところを一枚の絵に凝縮するって、現代の3D効果と同じ狙いのテクニックで」
「飯食いながら春画の説明するんじゃねー!」
「だって、これが浮世絵の優れた表現でさ。いっそ、バーチャルモニター出して見せればいいんだけどね、なんせ18禁だしね……そうだ、ポーズだけでも見せたら……」
箸をおいて何をするのかと思ったら、テーブルの上に載って、なんともアクロバット的なポーズをとりやがる。
「な、なんだ!? 首が、そんな具合に曲がるワケないだろが!」
「だって、こうやると女の表情と○○してるとこが同時に見られるって二次元的な工夫。ピカソだって同じテク使ってるんだよ」
「お、俺は、まだ食ってるんだ!」
「ごめん。でもね、このエロ表現のあくなき追及は感動ものなんだよ、やっぱ、こういう感動をこそ授業で伝えなくっちゃね」
「い、いい加減にしろ!」
「ごめん……」
いっぱつ怒鳴って、やっとエロの伝道師であることを止めた。
でも、まるで戦国時代にやって来たイエズス会の宣教師のように、自分の感動を伝えたくて仕方がないアンだ。
夕食後は普通にしてくれたんだけど……ちょっと悪い予感がした。
☆主な登場人物
新一 一人暮らしの高校二年生だったが、アンドロイドのアンがやってきてイレギュラーな生活が始まった
アン 新一の祖父新之助のところからやってきたアンドロイド、二百年未来からやってきたらしいが詳細は不明
町田夫人 町内の放送局と異名を持つおばさん
町田老人 町会長 息子の嫁が町田夫人
玲奈 アンと同じ三組の女生徒
小金沢灯里 新一憧れの女生徒
赤沢 新一の遅刻仲間
早乙女采女 学校一の美少女