大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・春夏秋冬物語・03妹〔ふってきた!・3〕

2018-10-04 16:34:37 | 小説7

物語・03妹

〔ふってきた!・3〕

 あたしが洗濯担当なのにはワケがある。

 この四月から、両親がそろってアメリカに行くことになって、それまでやったことのない家のあれこれを自分たちでやらなきゃならなくなった。
「えーーー! そんなのできないよ!!」と叫んだところ「じゃ、俺がやるよ」とニイニが手を上げた。
「トーゼンね、あたしはニイニとちがって仕事もってるんだからね」

 そう言ってパスしたあくる日の朝。

「フワ~~~~~~~~~~~~~(´Д`)」
 起き抜けに窓際で大あくびしていたら、庭でニイニが洗濯ものを干しているのが目に入った。
「ウ!…………ちょ、な、なにしてんのよ!?」
 あたしは、その足で庭にダッシュして、ニイニの手からあたしの下着をひったくった。

 時々だけど、あたしには世俗的な想像力が欠如してしまう。

 ま、それは、あたしが色々と才能に恵まれていて、ニイニがやるような下僕の仕事をしちゃいけないってことなんだけど。
 家のあれこれの中に洗濯が入っているということに考えが及ばなかった。
 だって、着るものなんか、洗面所の脱衣かごの中に入れておけば、あくる日の夕方にはタンスやクローゼットの中に収まっていたからね……これまではね。

 その脱衣かごとタンス・クローゼットの間に洗濯という奴隷労働が介在しているということに思いが至らなかった。

 で、その後のニイニとの言い争いの結果、洗濯はあたしの担当になった。
 思えば、あの時「あたしのはあたしが洗うから!」とだけ宣言すればよかったんだけど、言い争いがヘタッピーなあたしは、洗濯全般を引き受けることになってしまった。
 まあ。こういうヘタッピさは、おいおい語ることにする。

 ぜんぶ聞きたいって?

 全部言ってしまったら……お、おもしろくないでしょ!?

 それに、今日の主題は竹内のことなんだからね。

 そ、あたしに――放課後昇降口で待ってるから――とメールをよこしてきた同級の変なオトコ!
 昇降口で待ってるをバカみたいにフォントを大きくして、肝心の日時を一行空けのイレギュラーで打ってくるんだもん!
 慌ててガッコに戻ろうとして、家の階段踏み外して、ニイニにファーストキスを奪われてしまった!

 その竹内が昇降口の真ん前に突っ立っている。

 バカかあいつは!!??

 下校時間の昇降口って、人でいっぱい。そんなとこで待ち合わせたら、ただでも目立つ。
 あたしは思っていた。
 昇降口ってことは、靴を履き替えて、何気なく外に出る。視野の端っこに相手をとらえて、自然に歩き、校門を出たあたりで偶然を装って話しかける。そういうもんだと思っていた。
 だから、あたしは二度も忘れ物したフリして昇降口を離れた。竹内の姿が見えなかったから。
 三度目の忘れ物は、さすがに無理があると思って、そのまま校門に向かった。

 でも、今日かたづけておかなければ、こじれて祟られるような気がして振り返ったんだよね。

 そしたら、昇降口の真ん前で立っているヤツが目に飛び込んできたというわけよ!
「おーー! 春夏秋冬(ひととせ)さーん!!」
 バカヤローが、テレビドラマみたく手を振って爽やかに呼びかけてきやがった!
 あたしは、ほとんど逃げかけていた。ってか、反射的にポケットの防犯ブザーに手を掛けるくらいにヤだった!

「な、なんだ、竹内くんじゃない。奇遇だね💦」

 こういうときに自然に振る舞えるってのは才能だろーと自分でも思う。
 あくまでも竹内とは、ちょっと知り合いなだけのクラスメートでなきゃいけない。

「中町公園で待ってる。遅れて付いて来て」

 小さく、でもキッパリと言って、早足で中町公園に向かったんだよね。
 

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・39『里中ミッション・4』

2018-10-04 07:09:04 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある39
『里中ミッション・4』
    


 里中副長は複雑な表情で俺の顔を覗き込んだ……。

「もう一度、ねねにインストールされてやってくれないか」
「え、また青木のやつが?」
「彼は、もうねねの崇拝者だよ。こんどは、ちょっと厄介だ……」

 というわけで、ボクは再びねねちゃんのPCに入り込んで里中ミッションを遂行することになった。

 土曜日だったので、午前中は私学である大阪フェリペに通わなくてはならない。

 家には、ハナちゃんの修理に手間取っていると伝えてフェリペの校門をくぐる。

 やっぱり女子校というのは慣れない。

 まず制服。前は緊張していて、スカートの中で内股が擦れ合う違和感しか感じなかったが、フェリペの制服は、ジャンパースカートの上から、一つボタンの上着を着るだけである。体を動かすたびに、自分の……今はねねちゃんの体の香りが、服の中を伝って香ってくる。この年齢の女の子のそれは独特だ。幸子で慣れてはいるんだけども、のべつ幕無しであるのにはまいった。

 チサちゃんが、完全にクラスに馴染んでいるのは嬉しかった。

 チサちゃんは、向こうの世界の幸子だけど、向こうの世界は極東戦争の真っ最中であったりグノーシスの中でも意見が分かれ、状況が不安定なため、こちらに来ている。
 記憶はボクの従姉妹ということになっている。CPではなく、生身の頭脳に書き込まれているのが痛ましかった。でも、見た限り、高校生活を楽しんでいるようなので安心。

「ねねちゃん、ナプキン持ってる?」

 二時間目が、終わって、チサちゃんが耳打ちしてきた。ボクはドッキリしたけど、プログラムされたねねちゃんは素直に反応する。
「はい、どうぞ」
 むき出しで、それを渡す自分に驚いた。チサちゃんはマジックのように受け取ると、見えないようにして背後のヨッチャンという子に渡した。
「サンキュー」
 ヨッチャンがチラッと視線を送って、行ってしまった。ボクは、ドギマギしながら曖昧な笑顔を返した。
「ねねちゃん、偉いね」
「え、どうして?」
「こういうのって、変にポーカーフェイスでやったりするじゃない。それをサリゲニ『ドンマイ』顔してあげるんだもん。そういうの自然には、なかなかできないものよ」
 俺は、ただ戸惑っただけなんだけど、プログラムされたねねちゃんの感情表現といっしょになると微妙な表情になるようだった。

 放課後、駅まで行くと、拓磨が待っていた。

 一瞬「あ」と思ったけど、朝自分でメールしたことを思い出した。
「駅の向こうに回してあるから」
 拓磨は、そう言うと、地下道を通って駅の裏に行き、わたしは少し遅れて後に付いていった。

「お母さん、大事にな……」

 自走モードの運転席から、拓磨が遠慮気味に声を掛けてきた。自走モードだから、ドライバーの気持ちや、気遣いがモロに伝わってくる。拓磨は、心から心配してくれて、控えめに励ましてくれている。さすがに青木財閥の御曹司、病院の名前を伝えただけで、事情は飲み込んでくれたようだ。

 警察病院S病棟……表面は放射線治療病棟。内実は、極東戦争で重傷を負った……有り体に言えば、回復不能者のホスピスだ。

 この情報は、今度ねねちゃんのPCにダイブして初めて分かったこと。
 ねねちゃんのお母さんは優秀な甲殻機動隊のオフィサーだった。対馬戦争の初期、カビの生えたような武器使用三原則に縛られて、打撃力の強い武器の先制使用ができなかった。敵は、違法な超小型戦術核砲弾を装填してきたとアナライザーが警告していた。

「みんな、逃げて!」

「でも、中尉は!?」
「わたしは、敵を引きつける」
 お母さんは、そう言うとデコイを三発打ち上げた。
「あんなデコイが有効だなんて考えてるのは、政府のエライサンだけですよ」
「だからよ。敵もデコイの真下にあなた達がいるとは思わない。認識票を置いてさっさと行きなさい!」
「それじゃ、中尉一人がターゲットになってしまう」
「大丈夫、着弾する前に逃げる。まだ、かわいい娘がいるの、その付録の亭主もね。大丈夫、正気よ」
「中尉……」
「早く!」
「はっ!」
 部下は無事に逃げた。お母さんも、居所を二度変えたあと、居場所を特定される認識票や、武器を全部捨てて逃げた……それで間に合うはずだった。敵は国際条約に違反した弾頭を使っていた。そして、お母さんは、大量の放射線を浴びてしまった。

 わたしは、今までここに来ることは禁じられていた。情報さえインストールされていなかった。鍛え上げたお母さんの感覚では、わたしが義体であることなんか直ぐに見破ってしまうからだ。

 でも、お母さんには、もう時間は無かった。だからお父さんは太一さんをインストールした状態で、わたしを寄こしたんだ。太一さんといっしょなら、オリジナルのねねが表現できるから……。



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高校ライトノベル・トモコパラドクス・16『妙子の中間テスト』

2018-10-04 06:59:13 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・16
 『妙子の中間テスト』
     


 妙子が唸っていた。

「う~ん……頭に入んない!」
「なに、テンパッテんのよさ?」
 玉子焼き名人の麻衣が、妙子の机の横に寄ってきた。
「この現社の予想問題よ」
「妙子、社会科苦手だもんね」
「でも、これ、予想問題ってか、サービス問題じゃん」
 現社の先生も、出来の悪さを予想して、サービス問題を出してくれている。先生にも事情がある。一学期の期末テストでは、教務内規によって、平均点を五十五点から六十五点の間に収めなければならない。
 こういうことの積み重ねが、学校の偏差値に影響してくる。
 乃木坂学院は、偏差値六十八ほどで、まあ上の部類である。これを維持するために、周辺教科と業界で言われている社会科。その中でも一年のときに二単位しかない現社などは、ついでのようなものだ。

 中間まではエスノセントリズム(自民族中心主義)などという、名前だけコムツカシいことをやっていた。

 要は、自分とこの国がどこよりも優れているという感覚で、たいていの民族が、これを持っている。

 しかし、現社のアズマッチは、授業がヘタクソで話がちっとも分からない。いきおい暗記モノの代表のような教科になってしまい、生徒たちには人気がない。中でも妙子は、ものの覚え方が理論的かつ、感覚的であるという両面を持っている。
 国語で『矛盾』という話がでた。いわゆるホコタテの問題なんだけど、先生はありきたりで、実演販売みたいな矛と盾の話なんかしなかった。

「この矢は必ず的を射抜く。しかし、わたしに当たることは絶対にない。それを証明してみせよう」
「どうして、そんなことが出来るんだ!?」
 そいつは言った。
「この矢が放たれて、わたしに当たるのに一秒かかる」
「うん、そんなもんだろう」
「一秒の半分はいくらかね?」
「0・五秒だ」
「その通り。そして、その半分は0・二五秒だ。つまり、時間は無限に半分にできる。その無限を超えることなど、だれにも出来やしない!」
 その時、みんなは笑ってしまったが、妙子一人頭を抱えていた。
「その理論は間違ってません。時間は無限に半分に出来るし、無限を超えるなんて理論的に不可能です」
 蛸ウィンナーの妙子は、蛸壺の理論の中に落ち込んでいるんだけど、気が付かない。
 先生も、説明に困ったようなので、わたしが手を挙げた。
「妙子、そこに立ってごらんよ」
 わたしは、エアー弓を出して、エアーの矢をつがえて妙子を狙った。無対象演技の練習なんかにはまりやすい妙子は、本当に弓で狙われているような気になって、脂汗を流した。
「わ、分かった、分かったよ!」
 震えながら、妙子は感覚的に理解した。ま、そういう子である。

 友子や、紀香の義体や、その味方や敵は時空を超えてやってくるので、この『当たらない矢』の理屈は未来においては破綻している。でも二十一世紀の今は現役の理屈であるのだが……。

 現社のサービス問題は、憲法の前文の一部と、第九条を覚えて書きなさいという、しごく簡単なものだった。

 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。

1.日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

2.前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 たった、これだけのことであるが、妙子は矛盾を感じて覚えられない。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」そんなもの現実には存在しないことを授業の断片や、バラエティー番組の話からでさえ分かる。
 交戦権を認めないで、どうやったら自衛権が行使できるのか。両方とも戦争に間違いはない。


 かくして、現社のテスト中、妙子は過呼吸になり倒れてしまった。

 救急車に同乗はできなかったが、空飛ぶ女子高生で救急車より先に病院についた。途中で連絡をとったので、紀香も来てくれていた。二人でステルス化して病室に入った。
「こりゃ、ナノリペアでも治せないね」
「精神的なことだからね……」
「仕方ない……」
 友子は、妙子の額に手を当て、憲法を含む戦後の歴史を、妙子の前頭葉にインスト-ルしてやった。
 妙子は、少し熱を出したが、なんとかインスト-ルに成功し、その日のうちに退院することができた。

 しかし、二十数年後、このために妙子が高名な政治学者になり、内閣参与になることまでは分からなかった……。

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