春夏秋冬物語・03妹
〔ふってきた!・3〕
あたしが洗濯担当なのにはワケがある。
この四月から、両親がそろってアメリカに行くことになって、それまでやったことのない家のあれこれを自分たちでやらなきゃならなくなった。
「えーーー! そんなのできないよ!!」と叫んだところ「じゃ、俺がやるよ」とニイニが手を上げた。
「トーゼンね、あたしはニイニとちがって仕事もってるんだからね」
そう言ってパスしたあくる日の朝。
「フワ~~~~~~~~~~~~~(´Д`)」
起き抜けに窓際で大あくびしていたら、庭でニイニが洗濯ものを干しているのが目に入った。
「ウ!…………ちょ、な、なにしてんのよ!?」
あたしは、その足で庭にダッシュして、ニイニの手からあたしの下着をひったくった。
時々だけど、あたしには世俗的な想像力が欠如してしまう。
ま、それは、あたしが色々と才能に恵まれていて、ニイニがやるような下僕の仕事をしちゃいけないってことなんだけど。
家のあれこれの中に洗濯が入っているということに考えが及ばなかった。
だって、着るものなんか、洗面所の脱衣かごの中に入れておけば、あくる日の夕方にはタンスやクローゼットの中に収まっていたからね……これまではね。
その脱衣かごとタンス・クローゼットの間に洗濯という奴隷労働が介在しているということに思いが至らなかった。
で、その後のニイニとの言い争いの結果、洗濯はあたしの担当になった。
思えば、あの時「あたしのはあたしが洗うから!」とだけ宣言すればよかったんだけど、言い争いがヘタッピーなあたしは、洗濯全般を引き受けることになってしまった。
まあ。こういうヘタッピさは、おいおい語ることにする。
ぜんぶ聞きたいって?
全部言ってしまったら……お、おもしろくないでしょ!?
それに、今日の主題は竹内のことなんだからね。
そ、あたしに――放課後昇降口で待ってるから――とメールをよこしてきた同級の変なオトコ!
昇降口で待ってるをバカみたいにフォントを大きくして、肝心の日時を一行空けのイレギュラーで打ってくるんだもん!
慌ててガッコに戻ろうとして、家の階段踏み外して、ニイニにファーストキスを奪われてしまった!
その竹内が昇降口の真ん前に突っ立っている。
バカかあいつは!!??
下校時間の昇降口って、人でいっぱい。そんなとこで待ち合わせたら、ただでも目立つ。
あたしは思っていた。
昇降口ってことは、靴を履き替えて、何気なく外に出る。視野の端っこに相手をとらえて、自然に歩き、校門を出たあたりで偶然を装って話しかける。そういうもんだと思っていた。
だから、あたしは二度も忘れ物したフリして昇降口を離れた。竹内の姿が見えなかったから。
三度目の忘れ物は、さすがに無理があると思って、そのまま校門に向かった。
でも、今日かたづけておかなければ、こじれて祟られるような気がして振り返ったんだよね。
そしたら、昇降口の真ん前で立っているヤツが目に飛び込んできたというわけよ!
「おーー! 春夏秋冬(ひととせ)さーん!!」
バカヤローが、テレビドラマみたく手を振って爽やかに呼びかけてきやがった!
あたしは、ほとんど逃げかけていた。ってか、反射的にポケットの防犯ブザーに手を掛けるくらいにヤだった!
「な、なんだ、竹内くんじゃない。奇遇だね💦」
こういうときに自然に振る舞えるってのは才能だろーと自分でも思う。
あくまでも竹内とは、ちょっと知り合いなだけのクラスメートでなきゃいけない。
「中町公園で待ってる。遅れて付いて来て」
小さく、でもキッパリと言って、早足で中町公園に向かったんだよね。