大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・45『栄光へのダッシュ・1』

2018-10-10 06:48:32 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・45
『栄光へのダッシュ・1』
    


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 優奈は懸命に練習した。

 桃畑中佐に見せてもらった初代オモクロの桃畑律子の想いが分かったからだ。

 自分たちが生まれる前に、自分たちと同じ年頃の少女たちが人に知られることもなく、対馬の山中で戦い、死んでいった。そして、それは軍や政府の一部の人間しか知らず、なんの評価も、存在さえ認知されていないことを。

 優奈は知ってしまった。

 あの少女部隊のことは公表することはできないが、その想いは伝えたいと思った。

「だめよ、優奈。声で歌うんじゃない、体で歌うんだ。体が弾けて、その結果想いが歌になるんだ!」
 加藤先輩の指摘は厳しかった。そして、加藤先輩自身も壁にぶつかってしまった。叱咤激励はできてもイメージを伝える段階で自分イメージもエモーションも希薄になっていく。
「これじゃ、ただのサバゲーだ。もっとビビットにならなきゃ!」

 俺たちは国防軍のシュミレーションを受けることにした。 

「謙三、祐介、左翼から陽動。太一はここを動かないで。真希、優奈は、わたしに続いて!」

 しかし、その動きは読まれていた。

 敵は謙三たちの陽動にひっかかったフリをして、圧力かけてきた。

「ハハ、大丈夫、陽動のまんま敵のど真ん中に突っ込めますよ!」
「余計なことはするな、おまえたちはあくまで陽動なんだ。太一、ブラフで指揮をとって!」
「了解」
 加藤先輩は、上手くいきすぎているような気がした。でも、それは、すでに真希と優奈に突撃を指示した後だった。「あ!」と思った時には、真希と優奈がパルス機関砲にロックされていることが分かった。
 閃光が走り、真希と、優奈は、粉みじんの肉片になって飛び散ってしまった。二人の血を全身に浴びた加藤先輩は、それでも冷静だった。

「総員合流、撤収す……」

 先輩の意識は、そこまでだった。

 敵は劣化パルス弾を撃ってきた。

 瞬間の判断で、先輩は身をかわしたが、パルス弾は至近距離で炸裂した。

 炸裂の勢いがハンパではないために、先輩はグニャリと曲がったかと思うと、衝撃を受けた反対側の体が裂けて、体液や内臓が吹き出していった。ボクたちの分隊は壊滅してしまった……。

「これが、対馬の前哨戦だよ」

 桃畑中佐の声がした。

 訓練用の筐体から出てくるのには、みんな時間がかかった。あらかじめ衝撃緩和剤を服用していたが、それでも、今の戦闘のショックはハンパではなかった。

「緩和剤無しでは、発狂してしまうこともある」
「……これ、実戦記録がもとになってるんですよね」
「そうだよ、この分隊は運良く生き残った。分隊員一人だけだけどね。その記録を元に作った訓練用シュミレーションだよ……ようし、全員心身共に影響なし」
 アナライザーの記録を見ながら、桃畑中佐が笑顔で告げた。
「この戦闘で、彼女たちは今のように……?」
「あの程度のブラフは簡単に読める。この戦闘では死傷者はいない。分隊がたった一人になったのは次の戦闘だ。ただ民間人の君たちにシュミレートしてもらえるのは、ここまでだ。むろん現役の部隊には最後までやらせている。失敗するものはいない。だから先日の防衛省への攻撃を陽動とした敵の侵攻は100%防ぐことができた」
 俺は、それを防いだのは、ねねちゃんにインスト-ルされた里中マキ中尉のおかげだと知っていたが、話さなかった。ねねちゃんも、お母さんのマキ中尉もそれを望んでいないことを知っていたから……。

 国防省で、シュミレートの体験をしてから、ボクたちは変わった。

 プロの軍人から見れば遊びのようなものかもしれないが。毎日1000メートルの全力疾走と、バク転の練習を始めた。顧問の蟹江先生が、たえず脈拍や、心拍数を計測している。1000メートルの全力疾走というのは、古武道の言い方では死域に入るということに近い。死んだ肉体を精神力でもたせ、その能力を最大限に引き出す。ボクたちは、それで限界の力を出そうとした。バク転は、恐怖心の克服である。短期間で、成果を出すのには、一番手っ取り早い。
 それをみっちり一時間やったあと、やっと演奏の練習。最初の三日間ほどは、全力疾走とバク転の練習でへげへげになり、とても演奏どころではなかったが、四日目には変わった!

 

《出撃 レイブン少女隊!》 

 GO A HED! GO A HED! For The People! For The World! みんなのために

 放課後、校舎の陰 スマホの#ボタン押したらレイブンさ

 世界が見放してしまった 平和と愛とを守るため わたし達はレイブンリクルート

 エンプロイヤー それは世界の平和願う君たちさ 一人一人の愛の力 夢見る力

 手にする武器は 愛する心 籠める弾丸 それは愛と正義と 胸にあふれる勇気と 頬を濡らす涙と汗さ!

 邪悪なデーモン倒すため 巨悪のサタンを倒すため

 わたし達 ここに立ち上がる その名は終末傭兵 レイブン少女隊

 GO A HED! GO A HED! For The People! For The World! For The Love!

 ああ ああ レイブン レイブン レイブン 傭兵少女隊……ただ今参上!


 あきらかに歌にも演奏にも厚みと奥行きがでた。ボクはいけると思った。

「あかん、真剣すぎる。この厚みと奥行きを持ったまま、楽しいやらなあかん。うちらのは音楽で、演説やないねんさかい」

 ボクたちは、加藤先輩の意見に、進んで手をあげることができた……。


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高校ライトノベル・トモコパラドクス・22『水島クンのアドベンチャー・1』

2018-10-10 06:36:28 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・22
『水島クンのアドベンチャー・1』
         

注意:わたしのブログを騙って成人向けサイトに誘導するものがあります。URLの頭blog.goo.ne.jpを確かめて入ってください。blog.goo.ne.jpではないものはわたしのブログではありません。 閲覧の皆様へ

       

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された!


 妙子が、ヨダレを垂らして眠っている……かわいそうなぐらいだらしなく。

 しかし、妙子は悪くない。紀香と友子によって眠らされているのだ。

 水島クンが現れて三日目。
 土曜なので、しっかり時間をとって部活ができるんだけど、今日は、そうはいかない。
 水島クンがサゲサゲなのである。水島クン自身は、ダクトの中で満足していた。
 彼は、ほかの幽霊さんと同様に、昭和二十年三月の大空襲で死んだ。でも、他の幽霊のようには、この世に未練は無かった。空襲で、みんなが死んでいくのは辛かった。B29も憎くて怖かったけど、自分一人に関しては自業自得だと思っていた。三年ちょっと前には、神国日本は必ず勝つと思っていた。ミッドウエー海戦が終わって半年ぐらいから変だと思い始めた。山本連合艦隊司令長官が戦死して、もう日本は負けるなあと思った。でも、自分も熱烈に賛成した戦争なので、恨みの行き場所も無かった。
 父や『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』で、名脇役を果たした兄は、この戦争には、最初から反対だった。だから、日本もアメリカも等しく恨むことができた。また、自分の命と引き替えに助けてやりたいと思う人間も居た。
 兄は、麻布高女の池島潤子という女生徒を愛していた。通学途中にすれ違うだけの仲だった。昭二は、そんな兄がまどろっこしくって通学途中、友だちに頼んで潤子さんにわざとぶつかり本を落とさせたことがある。

「あ、本落ちましたよ」
「ど、どうもありがとうございます」

 兄は、これで池島潤子さんの名前を確認はしたが、それ以上には、いっこうに進まなかった。そのくせ自分が死ぬときには、潤子さんのことを思い続けた。せめて、君は助かってくれと……。
 そして、潤子さんが、まともな幽霊にも成れないほど焼き尽くされたことを知った兄は、戦後六十余年にわたって、潤子さんが成仏するのを待ち続け『はるか 真田山学院高校演劇部物語』の終盤に成仏するのを見届けて、やっと先年、逝くべきところに逝った。それまでに、解体寸前の乃木坂学院の演劇部を立て直すのに、大いに力を発揮し、坂東はるかや仲まどかが俳優として身を立てる手助けもし、最後は消えゆく姿のまま『仰げば尊し』を、みんなと共に渾身から歌い上げ、ドラマチックに昇天していった。

 この弟の方の水島クンは、そんなに心を寄せた人もおらず、他の幽霊のテンションにもついていけず、一人ダクトの中でくすぶっていた。と、いうのが実際である。

「そうだ、芝居の手伝いをしようか?」

 昭二も兄に負けず、浅草などに通っていたので、芝居は、かなり詳しい。
「あたしたち、義体だからさ、演技なんてお手の物なのよねえ、友子……」
「うん、いざとなれば、世界中のCPUにもアクセスできるし、有名無名を問わず演劇関係者の頭脳も覗き込めるしね」
「道具とか、力仕事は!?」
「わたし、こう見えても十万馬力なの」
「そうか……」
「ごめんね、せっかくダクトの中で、ほどよくタソガレテいたのに」
「いや、いいんだ……」
 水島クンはうなだれてしまった。

 そのとき談話室がノックされた。

「どうぞ」

 と言ってみたものの、相手の正体が見抜けない。

 一応の外見は分かる。乃木坂学院の女生徒のナリはしているが、テンプラだ。全クラスの生徒の情報を検索しても、こいつは分からない。
「だれなの?」
「分からない、初めての気配……」
 紀香と友子は、念のため戦闘モードに切り替えた。
「ああ、ごめんごめん。この気配なら分かるでしょ?」
「……ああ、なんだ、あの時の宇宙人さん」

 そいつは、駅前のパンケーキ屋でいっしょになり、富士の樹海にテレポートしてバトルを繰り広げた宇宙人であった。

「これ、お土産」
「わ、駅前のパンケーキ!」
「レシピ分かったから、レプリケーターで合成したものだけどね。あ、その眠っている妙子ちゃんには、これね。保温になってるの。それから清水クンには、こっち。幽霊さんでも食べられる、特別制」
 水島クンは、恐る恐る手を伸ばして口に入れた。
「う……美味い! ほんとうに食べられるものなんて六十何年ぶりだ!」
 涙さえ浮かべて喜ぶので、三人は女子高生らしくコロコロと笑った。
「ダクトから出てきて正解だった!」
「ハハ、今の今まで落ち込んでたのに」
「エヘヘ」
 初めて、年相応に水島クンは笑った。
「でもね、水島クン。食べ物食べて楽しいのは、ほんのしばらくよ。どうちょっとしたアドベンチャーに出てみない?」
「アドベンチャー?」

 水島クンの目が輝き、宇宙人が微笑んだ。前田敦子が居なくなったAKB選抜メンバーの本心のように……。

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