大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・連載戯曲『あすかのマンダラ池奮戦記①』

2019-06-16 06:57:31 | 戯曲
連載戯曲・あすかのマンダラ池奮戦記①

 作:大橋むつお       「汚い沼」の画像検索結果



 

 

時: ある年の、暖かい秋
所: マンダラ池のほとり ミズホノサト

人物: 元宮あすか  女子高生
    イケスミ   マンダラ池の神
    フチスミ   イケスミの旧友の神
    桔梗     伴部村の女子高生(フチスミと一人二役)


 軽快なテーマ曲流れ幕が開く。通称まんだら池のほとり。ドタバタと猫の走る音がして、あすかが駆けてくる。背中にリュック式のかばん。手には、壊れたラクロスのスティック。頬にひっかき傷。

あすか: こらああああああ! まてええええ! 恩知らずネコおおおお! 逃げ足の早い奴だ。たすけてもらっといて、ひっかいてくことはないだろ、イテテ……命の恩人だぞ、あたしは……せめて、ニャーとかミャーとか、お礼の一言ぐらい……(池の水面に顔を映す)あーあ顔に二本も赤線……赤は成績だけで十分だっつうの。アニメだったらドラマが始まるとこだぞ「なんとかの恩返し」とかなんとかさ(壊れたスティックを見て)高かったんだぞ……出来心で入ったクラブだけどさ……イケ面の真田コーチも辞めちまうし……ラクロスなんて場合じゃないのよねえ(成績票を見る)……ああ、英・数・国の欠点三姉妹! あわせて物理と化学も四十点のかつかつじゃん!?……終わっちゃったよ、あたしの人生……こりゃ、お母さん思うつぼの轟塾かあ……やだよ、あそこ。成績はのびるけど、変態坊主の宗教団体系ってうわさだよ。冬なんか褌一丁の坊主といっしょに座禅とかで、偏差値の前に変態値が上がってるっつーの!

 うしろ手に手をつき、足を投げ出す。

あすか: ……雨、ザーッと降ればいいのに。壊れたシャワーみたいにさ。そしたら、そのシャワーで溶けて、流れて……ウジウジ悩んだり、あせったりしなくて……そんなふうに思って雨に打たれたら、ドラマのヒロインみたい……冬のソナタ……秋のヌレタ……濡れた女子高生……なんかやらしい……だめだ(降らない)変なことばっかり言ってるから、猫も雨も、みんなあたしを見かぎる……ん……うそ!? 成績票が(池=観客席、に落ちてる)

 池に落ちた成績票を壊れたスティックで、たぐりよせようとするが、あせってかきまわすばかり。とうとう池に沈んでしまう。

あすか: あっちゃー……って、おっさんか、あたしは。コーヒーのシミつけただけでネチネチ三十分。なくしたなんて言ったら、どれだけ嫌み言われて、しぼられることか。「通知票を粗末にする奴は、二学期に絶対欠点!」……とっちゃったもんなあ……「池に落としてなくしちゃいました」「じゃ、あすかも消えて無くなればァ……」うかぶよ、担任の顔が……秋深し……って言っても例年にないこの暖かさ。くよくよしても仕方ないか……よし、走って帰るぞ!……って、空元気つけてどうすんだよ……ウ!……ウンコ踏んじゃった。

 雑草やティッシュで、ウンコを拭き取り、ぶつぶつ言いながら、池の水で靴を洗う。ややあって、そのあすかの目の前の池の中から、イケスミ(池の神)があらわれる(観客席の一番前に座らせて隠しておく)

あすか: ……ワッ?!
イケスミ: こんにちは……(チェシャ猫のように油断のならない笑み)
あすか: オ、オド、オド……
イケスミ: そんなにオドオドすることないからね。
あすか: オドロイてんの! 急に池の中からあらわれるんだもん。
イケスミ: ヌハハハ……
あすか: やっぱ、気持ちわるーい……
イケスミ: ここは、あたしの家なんだからね! そして、あんたがしゃがんでんのが、そのあたしの家の玄関先……ほら、そこに鳥居の跡があるでしょーが?
あすか: ……この切り株みたいなの?
イケスミ: 昔は、お社(やしろ)とかもあったんだけどね……
あすか: ……ごめんなさい、靴洗っちゃった……ウンコつきの……怒ってる?
イケスミ: まあな。でも、いちいち怒ってたらきりがない。
あすか: ほんとにごめんなさい(居ずまいを正して頭を下げる)
イケスミ: おっと、手の先十センチ、おっさんがリバースしたゲロ!
あすか: ワッ!
イケスミ: ……気をつけな。
あすか: は、はい。
イケスミ: ところで、あすか……
あすか: あたしのこと知ってるの?
イケスミ: 神さまだよ、あたし。もうこの池に三百年も住んでる。
あすか: 三百年……神さま?
イケスミ: トヨアシハライケスミノミコトと申す……オッホン。
あすか: ト、トヨアシ……
イケスミ: イケスミ……イケスミさんでいいよ。ところであすか、落し物したでしょ?
あすか: え、はい……
イケスミ: 成績票。
あすか: 拾ってくれたんですか?
イケスミ: はい、あすかが落とした成績票(二つの成績票を出す)
あすか: それ……?
イケスミ: 金の成績票と、紙の成績票と、どっちがあすかさんのかしらぁ?
あすか: (ひとり言)昔話にあったよね。正直に言ったら金の方までもらえるって……フフフ、やっぱ猫の恩返しか!?
イケスミ: さあ、どっち。どっちがあすかの成績票?
あすか: はい、もちろん紙の方です! そのコーヒーのしみがついているのが何よりの証拠。紙の方があたしの成績票です!
イケスミ: はいどうぞ。まちがいないわね。
あすか: ……英数国が欠点、物理と化学がおなさけの四十点。まちがいありません、あたしの成績票です!
イケスミ: それはよかった。あなたって、正直者ね。
あすか: いえ、それほどでも(正直に照れる)
イケスミ: 「正直者の頭(こうべ)に神宿る」って、昔からいうのよ。
あすか: 神戸? ひょっとして阪神ファン? どうしよう、わたしって巨人ファンだよ……
イケスミ: バカ、頭のことだわよ。神さまは正直者が大好きって意味。
あすか: それって、正直者をおたすけになるってことなんですよね!?
イケスミ: まーね……
あすか: ウフフ……やっぱ恩返し!
イケスミ: ん?
あすか: いえ、なんでも……
イケスミ: というわけで、その正直さを愛(め)で、特別にこの金の成績票もさずけましょう。
あすか: やったあ!……いえ、こっちのことです。ありがとうございます。
イケスミ: それでは、これからも、神をあがめたてまつり、自然をいつくしみ正直に生きますように。
あすか: はは!(ひれふす)
イケスミ: ヌフフ……
あすか: ?
イケスミ: いえ、なんでも……めでたしめでたし……
あすか: めでたしめでたし……

 池の中(客席)に消える神さま。ひれふすあすか。 
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高校ライトノベル・時かける少女BETA・30《コスモス坂から・3》

2019-06-16 06:35:54 | 時かける少女
時かける少女BETA・30
《コスモス坂から・3》


 
 芳子たちの高校は、まだ6年にしかならない新設校だ。

 隣のK高校は戦前からの女学校が共学の新制高校になったもので、良くも悪くも昔の伝統が残っていて、戦後民主主義の気風の中から生まれた芳子たちの高校はK高校と人気を二分していた。
 学校の名前を『県立七倉(しちくら)高校』という。七里ヶ浜と鎌倉を足して二で割った名前で、民主主義的な名前と言えなくもないが、地元の人たちは『ななくら』と呼ぶ。K高校のような気風を尊ぶ人たちからは『なまくら』と揶揄される。

 伝統が無く自由だけがあるので、設立当初から、良く言えば生徒の自主性が尊重され、あたりまえに言えば野放しであった。
 それでも学校としては高い学力と、それなりの秩序を維持している。例えば生徒集会で政治的なことが話題や議題になることは珍しくなかったが、授業はきちんと受けていたし、先輩後輩の区別も厳しかった。
「まあ、入れ物が新しいだけでもましとは言えるか」
 と、外交官の父は、兄の勲が、なまくら……いや七倉を選んだ時にも文句は言わなかった。芳子と久美子も自然な成り行きで七倉に入っている。

「へへ、A定食ゴチになっちゃった!」

 朝の追突事件で、久美子は白根たち3年生に昼ご飯をおごってもらった。
「A定食、頭に乗りすぎよ!」
「だって、お弁当ワヤクチャにしたのは、あの人たちだもん。それに、あたしからおねだりしたわけじゃないしね。ねえ、モンローたちだってそう思うわよね?」
 と、三匹の猫を味方につけてヘッチャラ。
「でも、まさか交換にへんなこと頼まれなかったでしょうね。あの3年生たち、ずっと安保問題のことばっかし話してたから」
「どってことないよ、お兄ちゃんの写真があったら欲しいって。一枚20円。サイン入りなら30円で買ってくれるって……」
 久美子は、モンローを引き連れて、兄の勲の部屋に向かった。
「お兄ちゃんの部屋に猫連れてっちゃだめじゃないの!」
「平気平気、モンローは上品な子だから……あった、これこれ」

 久美子は、写真のネガを持ってきた。こないだの安保改定反対全学集会で、演壇で演説ぶっていたときのネガだ。

「だめじゃない、勝手にそんなの持ち出して!」
「大丈夫。明日お兄ちゃん帰ってくるから、そのときサインもらっちゃうから」
「え、お兄ちゃん帰ってくるの?」
「うん、お父さんとかち合っちゃうんで、ちょっと心配なんだけどね……」
 母の国子が他人事みたいに言って、猫たちに餌をやっていた。

 これはただ事では済まない……芳子は、そう思った。
 庭のコスモスたちも心なしざわめいているように感じる芳子であった。
 
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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・064『外郎売……なんと読む?』

2019-06-16 06:24:10 | ノベル2
時空戦艦カワチ・064   
『外郎売……なんと読む?
 
 
 
 芝居の演目は『外郎売』だった。
 
「これは、なんと読むのですか?」
 芝居には疎い奈何はとっさには読めなかった。
「ういろううりと読むんです」
 中入りの弁当を広げて来輔が答える。
「ういろうり……でございますか?」
 お茶を注ぎながら奈何。婚礼から初めての夫婦そろっての芝居見物、いや、外出に奈何はウキウキしていて、そのウキウキを悟られるのが気恥ずかしく、なにくれなく弁当を広げたりお茶を淹れたり、それでも間が持たず、中入りまでの筋などほとんど覚えても居ない芝居の事を聞いたりしている。朴念仁の来輔も、そんな奈何の風情が面白く、役目意外にはほとんど口を利かないのに、しきりと奈何の相手をしている。
「いや外郎売と書いて(ノートを出して鉛筆で「ういろううり」と読み仮名を書く)……と読むんですよ」
 けして新しもの好きというのではないが、フランス渡りのノートと鉛筆の便利さに持ち歩いている。
「ういろうううり……?」
「いや、中のうは二つだけです。ういろううり」
「ちょっと分かり辛うございます」
「でも真名の『外郎売』では読めないのでしょ?」
 互いに、言外に平仮名と漢字の欠点を含ませているのだが、まあ、新婚のじゃれ合いである。
「玉子焼きはお嫌いですか?」
 来輔は幕の内弁当の玉子焼きと漬物だけを残している。
「あ、いや……出が越後の田舎ですので甘い玉子焼きは……」
「そうですか、ではわたしが苦手を退治してさしあげましょう」
 奈何は、玉子焼きをかっさらうと、さっさと食べてしまう。
「あ、あ~~~~~~~~~」
「あら、ひょっとして最後のお楽しみにとっておかれたのですか?」
「え、あ、いや……」
 
 三幕目には団十郎が外郎売の出で立ちで日の本一の早口言葉で並み居る観客を沸かせた。
 
 拙者親方と申すは、お立ち会いの中に御存知のお方も御座りましょうが、 御江戸を発って二十里上方相州小田原一色町をお過ぎなされて青物町を登りへおいでなさるれば、 欄干橋虎屋藤衛門、 只今は剃髪致して、円斎となのりまする。
元朝より大晦日までお手に入れまする此の薬は、 昔ちんの国の唐人外郎という人、我が朝へ来たり帝へ参内の折から、 この薬を深く籠め置き用ゆる時は一粒ずつ冠のすき間より取り出す。 依ってその名を帝よりとうちんこうと賜る……
 
 立て板に水の滑舌に桟敷はやんややんやの大喝采。
 朴念仁の来輔もすっかり感心した。
「いや玄人とはいえすごいものです! 後学の為に、あの口上は書き留めておきたいものです」
「それなら、お教えしますよ。よろしければお武家様の帳面に書かせていただきますが」
 大店の番頭風が声をかけてきた。番頭風はノートと鉛筆が珍しく、見せてもらうキッカケをつくりたかったのだ。
「じゃ、よろしくこれに」
「拝借いたします……これは小さく字が書けまするなあ……並の帳面の十倍は書けてしまいそうです……はい、こんなところで」
 
 せっしゃおやかたとまおすはおたちあいのうち(なか)にごぞんじのおかたもござりましゃうがおえどをたってにじゅうりかみがたそうしゅうおだわらいっしきまちをおすぎなされてあおものちゃうをのぼりへおいでなさるればらんかんばしとらやとうえもんただいまはていはついたしてえんさいとなのりまする……
 
「……うう(読みづらい)」
 
「これは失礼を申し上げました、音訓を読み違えてはと思い仮名ばかりに書いてしまいました」
「いやいや、十分に分かりやすい、参考にさせていただく」
 四幕が始まるので、見栄半分にノートを閉じたが、読みづらいことに変わりはない。
 
「はい、お前様、これが真名で記したものです」
 芝居がはねると、どこで用意したのか自分で書いたのか、奈何は漢字表記の『外郎売』を来輔に渡した。
「ま、参った……」
 このことがあって来輔は漢字の廃止をいうことはなくなった。
 
 開けて明治元年、来輔は前島密と奈何は仲子と名をあらためた。
 
 そして改まるのは名前ばかりではなかった……
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・37』

2019-06-16 06:16:45 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・37 


『第四章 転7』

「ほんなら……」

 先生はもみ手して、パソコンのキーを二つほど叩いた。
『作品集』というファイルが開かれた。
 ファイルには四五十本のタイトルが並んでいる。
 すごい……。
 二三分でそのいくつかを開いたあと、USBをパソコンに付けながら宣言した。
「ほんなら、これでいくぞ!」
 パソコンの画面には、かわいいタイトルが咲いていた。
『すみれの花さくころ 宝塚に入りたい物語』
 手早く、操作を終える。
「乙女さん、これB4で袋とじの印刷。四十部お願いします」
「うん、分かった」
「印刷できるまでに『すみれ』の解説しとくわな」

 先生の解説によると、こうだ。

 ある年の春、スミレという高校二年の女の子が、学校の帰り道、宿題をやろうとして図書館に寄る。
 元々読書好きのスミレは、宿題をやる前に一冊の本に目を奪われる。
『この町の女たち』
 結局、宿題なんかちっともやらずに、その本を借りて新川の土手道をトボトボ歩いて帰る。だって、肝心の 宿題は何一つできなかったんだから。
 土手のあちこちには、自分と同じ名前の花が咲いている。
 それをボンヤリ見ながら歩いていると前方に人の気配。
 セーラー服に、ダブっとしたモンペ。胸には大きな名札のようなもの、肩から斜めのズタ袋に防空ずきん……一見して変。
「こんにちは」すれ違いざまに声をかけられた。
「こんちは」と、思わず返事をしてしまった。
 それが幽霊のカオルとの出会いだった。

 カオルは、昭和二十年三月の大空襲で死んでしまった。

 一度は避難したんだけど、宝塚を受験するための課題曲の譜面を忘れ、取りにもどったのが運の尽きだった。
 カオルは、スミレにこう説明した。
「わたしはスミレちゃんと霊波動が合うの。だから、スミレちゃんが生まれたときから目をつけていた。でも、霊波動が合っても、二人の間を結びつけてくれるアイテムがないと、姿も見えないし、声も聞こえないの。そして、今、ラッキーアイテムの『この町の女たち』の本で二人は結びつけられた! お願い、わたしにのりうつらせて! わたしもう一度宝塚を受けたい。あ、のりうつるっていっても、スミレちゃんは、ちゃんとスミレちゃんなんだよ。ただ、試験とかここ一番て時に助けてあげるの。どうだろ、ダメかな宝塚は……」

 カオルに同情するスミレであったが、なかなか宝塚を受ける気にはならない。

 カオルは、仕方なくあきらめるが、いつしか二人の間には友情が芽生えていた。
 おりから始まった、アラブの戦争の号外を紙ヒコーキにする二人。
「新川の土手に飛ばしに行こう!」
 二人は新川の土手に(わたし、お父さん……元チチのことを思い出しちゃった)駆け上がる。
「いくよ!」
 風に乗って、紙ヒコーキは視界没に……。
 そのとき、カオルの身体が透け始める。
 幽霊は、生まれ変わるか、人に憑くかしないとやがては消えてしまう。

 そして今。

 カオルに、その運命の時がやってきた! スミレは叫ぶ。心の底から!
「おねがい、わたしに取り憑いて、わたし宝塚受けるんだからさ!」
「だめだよ、それは。スミレちゃんが心から望んでいることじゃないんだから」
 そうして、川の中で消えていくカオル……。
 でも、そこで奇跡がおこった……!

 この話、わたしのことだ……ひそかに感動した。
「できたよ!」
 乙女先生が、刷り上がったばかりのページの束を抱えて入ってきた。
 みんなで、製本にかかる。できあがったところで大橋先生が叫んだ。
「キャストの発表するぞ!」
 え、まだ読みもしてないのに。

 でも、その熱気の中では自然な飛躍だった。

 ついさっきまでは、絶望の底に沈んでいた集団とは思えない活気が三人の生徒と二人の先生の中に沸き始めていた。

「カオルは、はるか。スミレは、タマちゃん。ユカは……進一、男の子にしてタロくん」
 みんなで読みながら、ユカの台詞を男言葉に書き換えた。
 由香といっしょにできたらなあ、と思った。
「これ歌が入るねん。当てレコでもかめへんけど、できたら自分らで唄ぅてほしいねんけど」
 歌、少しはいける。堺筋を由香と二人で唄ってOLさんに拍手してもらった。
「わたしやります!」
 すぐに返事をした。
「また、わたしも!」
 タマちゃん先輩も絶好調。
「歌は二曲。すみれが唄う『宝塚風の歌』と、かおるが川の中で消えていくときに二人で唄う『おわかれれだけど、さよならじゃない』や」
「なんですのん、その『おわかれれだけど……』いうのは?」
「この本は以前N音大がミュージカルにしてくれたんですわ。その時の曲がええから使用許可とりますわ」
 
 大橋先生は、N音大の先生にメールを打ち出した。
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