大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・037『千駄木女学院・1』

2019-06-28 13:55:55 | 小説
魔法少女マヂカ・037  
 
『千駄木女学院・1』語り手:マヂカ  
 
 
 
 
 日ごろは東口で事足りる日暮里駅を西口から出る。  「日暮里駅西口」の画像検索結果
 
 ガーゴイルに頼まれ神田明神の巫女さんに念を押されて千駄木女学院にブリンダを訪ねるためだ。
 用件そのものはウザったいのだが、風景は懐かしい。
 夏目漱石、森鴎外、樋口一葉、石川啄木、若山牧水……二葉亭四迷なんてのもいたっけ。
 みんな、わたしの散歩仲間だった。気まぐれに話したことがヒントになって、みんなイッチョマエの文学者になった。
 しょせん、あんたは坊ちゃんだと言ってやったら、それをまんまタイトルにして『坊ちゃん』をものにした漱石。
 軍人なら、そのテーマは止せと忠告してやったが『ヰタ・セクスアリス』を書いてしまった森鴎外。
 早く医者に掛かれと忠告したのに二十四で結核で逝ってしまった樋口一葉。むろん魔法で治してやる事もできたんだが「魔法みたいに治っちまったんじゃ、面白みがね……」。一葉、いや、夏子はわたしが魔法少女だということを知っていたのかもしれない。もう十年生きていれば五千円札では終わらなかっただろう。
 生意気で泣き虫だった石川啄木を思い出したところで谷中銀座に差しかかる。
 全国に、なんちゃら銀座という商店街は多いが、谷中銀座ほどしっくりくるところはないだろう。しかし、谷中銀座は終戦後できたものだ、それを懐かしく思うのは、ここが質のいいノスタルジーを醸し出しているからだろう。
 
 谷中銀座を突っ切るとよみせ通りに差しかかる。
 南に折れて電柱二本分で西へ、不忍通りを超えると日暮里から数えて三つ目の坂道、上がったところが大聖寺藩の屋敷……いや、今は須藤公園、どうも新旧の記憶がごっちゃになる。
 公園脇の坂を上がると千駄木女学院のはずだ。
 そう思って角を曲がると、女子高生が下りてくる。坂の上が千駄木女学院なのだから不思議は無いのだが、制服が違う。なにより気配が人ではない。
 物の怪、妖(あやかし)の類なのだが、害意はまるで無いのでシカトする。
 物の怪、妖にしてはションボリして生彩がないのだが……いやいや、関わってろくなことはない。
 
 校門を入ると、特別教室棟の美術教室から気配がする。むろんブリンダの気配だ。
 以前のような挑戦的なものではなく、わたしが道に迷わないように標(しるべ)として発したオーラだ。
 
「こんにちは」
 
 穏やかに挨拶すると「すまん、呼び立てて」と、少し気弱そうな返礼。
 ひょっとしてブラフか!?
 思わず尻を押えてしまった。前回は、すれ違いざまにパンツを抜き取られたからな。
「よせよ、ほんとに困ってるんだ。わたしのところにも来栖一佐が来たんだ」
「え……特務師団の?」
「あ、そこで妖の女子高生に会わなかったか?」
 
 話が、あちこちに飛びそうなブリンダだった……。
 
 
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・連載戯曲『梅さん④』

2019-06-28 06:35:07 | 戯曲
連載戯曲『梅さん④』     
 


: やしゃご?
: 孫の孫……その梅をくれた源七はわたしの孫よ。
: ……って、源七じいちゃんのおばあちゃん!?
: 知らなかったでしょ、四代前に梅って若死にした娘がいたことなんか。
 女学校卒業と同時にお見合い、そして二月ちょっとで結婚。一年後に雪が生まれて……
: 知ってる。雪ってひいばあちゃんの名前、あたしが三歳の時まで生きてたんだ。
: 雪は難産でねえ……色の白い、それはそれは可愛い赤ちゃんだった。
 でも産後の肥立ちが悪くて、わたし産後三月で死んじゃったんだ……
 亭主はすぐ後添え、再婚しちゃったから、早かった早かった忘れられちゃうのが……
: ねえねえ、だったらひいひい婆ちゃん……
: ひいひい婆ちゃんてのはよしてくれる。わたし、渚と変わらない年齢で死んじゃったんだから。
: じゃあ、なんて呼んだら?
: 名前でいいわよ。
: ウメちゃん。
: ん……梅さんくらいにしとこう。
: じゃ、梅さん。お願い! 助けて! そのピストルみたいなので撃たれて消されたり、初期化とかされんのは……
: 渚さん、ほんとうに人の話聞いてないわね。
: え?
: あなたは特別にこの懐剣で……
: 痛いよそんなの、あたし痛いのダメなの。今でも自分の腕に注射されんの見れない人なんだから。
 ね、だから……
: 話をお聞きなさい!
: はい……
: これは、あなたの魂と身体を切り離すために使うの。こんなふうに
 (渚の目の前で懐剣を一振りする。ぐにゃりとくずおれる渚。梅、切り離された魂に向かって話しかける)
 ね、痛くもなんともないでしょ……まあ、そんなに怒らないで。今のは実験、すぐにもどしてあげるから。
(目に見えない魂と、体の端を結びつける)
: ……ああ、びっくりした! 
: わかった?
: わかんないよ、切れちゃった心と体はどうなるのよ?!
: 心は初期化する。
: え、あたしがあたしでなくなっちゃって、どこかで生まれなおすわけ?
: そう、そして体はわたしがあずかる。
: あずかる?
: わたしが明日から、良い子の渚になって一生懸命生きてあげるから安心して。
: それはどうもありがとう……って安心なんかできないよ! だって、あたしの体だよ! 
 お願い、明日っからいい子で生きていくから。
: その歳じゃ矯正のしようがないのよ。元締めの最終チェックも済んだし。
: そこをなんとか……お願いお願い、お願ーい!
: ……何をどう言えばいいんだろう……渚さん。
: はい。
: たとえば、その親からもらった体を、いわば我々御先祖さまからもらった体を、
 いわばわれわれ御先祖さまから命とひきかえみたいにしてもらった体を、渚たちはどうしてんの? 
 髪はブリ-チと染髪の繰り返し、耳やらおへそに穴を開けるのはまだしも、不摂生な生活はもう限界。
 まともに生きても五十代で、シミとシワとうすら禿。
: ハゲ!?
: いじりすぎると、女でも禿になるのよ。体もガタきちゃってるし、六十代の半ばでくたばっちまう状態なんだよ。
 渚、もう五人と男性経験があるでしょ。
: え、あたしって、そっちの病気?
: さあね、……でも、わたしが渚になったら一番にお医者さんにいくわ。
: トホホ……
: だいたい渚、あんた人生に夢持ってないでしょ? 
 いいこと、これが一番の問題なんだよ。夢のもてない人間は、自分で自分の躾ができない……親の責任もあるけどね。
 人間は夢があるから、夢のために勉強し、勉強の中で自らを躾け、友達を増やし、大人になっていくんだよ。
 二十歳にもなったら、心の芯のところではわかってなくっちゃ……
: だって……


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・高安女子高生物語・9〔布施の残り福〕

2019-06-28 06:21:40 | 小説・2
高安女子高生物語・9
〔布施の残り福〕
       


 
 休みの日に家に居てるのは好きやない。
 
 住まいとしての家には不足はあらへん。二十五坪の三階建てで、三階にあたしの六畳の部屋がある。
 
 お母さんは、学校辞めてから、テレビドラマをレコーダーに録って、まとめて観るのが趣味。半沢直樹やら相棒やら映画を録り溜めしたのを家事の合間に観てばっかり。で、家事のほとんどは洗濯を除いて二階のリビングダイニング。
 
 お父さんは自称作家。
 
 ある程度名前は通ってるけど、本が売れて食べられるほどやない。共著こみで十何冊本出してるけど、みんな初版第一刷でお終い。印税は第二刷から10%。印税の割合だけは一流作家やけど、初版で終わってたら、いつまでたっても印税は入ってけえへん。劇作もやってるから上演料が、たまに入ってくるけど、たいてい高校の演劇部やさかい、高校の先生辞めてから、やっと五十万あったかどうか。で、毎日一階の和室に籠もって小説書いてはブログで流してる。どうせお金になれへんねんやったら、この方が読者が付く言うて。
 
 お父さんは、去年還暦やった。
 
 見果てぬ夢いうたらかっこええけど、どことなく人生からエスケープしてるような気ぃがする。せやから、先生辞めてから五年にもなるいうのに、精神科通うて薬もろてる。まあ、両親のことは他でも言うとこあるさかい、あたしに関わるとこだけ言う。
 あたしは、たった三人の家族がバラバラなんがシンキクサイ。まさか家庭崩壊するとこまではいけへんやろけど、家庭としての空気が希薄や。
 で、あたしは用事を作っては外に出る。明日と明後日はクラブの稽古がある。取りあえず今日一日や……で、布施のエベッサンに行くことにした。
 
 大阪のエベッサン言うたら今宮戎やけど、あそこは定期では行かれへん。よう知らんし、知らんとこいうのは怖いとこと同じ意味。あたしは、基本的には臆病な子。
 
 それに、もう一つ目的がある。けど、今は、まだナイショ。
 
 休日ダイヤの電車て、あんまり乗れへんよって、高安で準急に乗り損ねて各停。山本で一本、弥刀で二本通過待ちして二十分かかって布施へ。
 
 八尾よりショボイけど、布施も堂々たる都会。まあ、高安を基準に考えたら、たいていのとこが都会。
 で、今日は人出がハンパやない。駅の階段降りたとたんにベビーカステラやらタコ焼きの匂いがしてくる。露店に沿って歩いてみたかったけど、いったん別のとこにハマってしまうと、本来の道に戻られへん性格。せやから、脇目もふらんと布施のエベッサンを目指す。
 
 商売繁盛で笹持ってこい 日本一のエベッサン 買うて、買うて福買うて~
 
 招き歌に釣られて商店街の中へ、小さな宝石店のところで東に曲がると布施のエベッサン。
 まずは、手水舎(ちょうずや)で作法通り左手から洗い、右手、口をすすいで拝殿へ。気ぃつくとたいがいの人が、手ぇも洗わんと行ってしまう。あたしはお母さんから躾られてるんで、そのへんは意外に律儀。お賽銭投げて、まずは感謝。いろいろ不満はあるけど感謝。これもお母さんからの伝授。それから願い事。芸文祭の芝居が上手いこといきますように、それから……あとはナイショ。
 それから、熊手は高いんで千円の鏑矢を買う。これがあとで……フフフ、ナイショ!
 福娘のネエチャンは三人いてるけど、みんなそれぞれちゃう個性で、美人から可愛いまで揃ってる。こんなふうに生まれついたら人生楽しいやろなあと思う。
 ふと、馬場さんに「モデルになってくれないか」言われたんを思い出す。あたしも捨てたもんやないと思う。同時に宝石店のウィンドに写る自分が見える。ふと岸田 劉生の麗子像を思い浮かぶ。
 
――モデルはベッピンとは限らんなあ……――
 
 そう思って落ち込む。
 
 北に向かって歩いていると、ベビーカステラの露店の中で座ってるS君に気づく。学校休んで、こんなことしてんねんや……目ぇが死んでる。
 
「佐渡君……」
 
 後先考えんと声をかけてしもた。
「佐藤……」
 こんな時に「学校おいで」は逆効果や。
「元気そうやん……思たより」
 佐渡君は、なに言うたらわからんようで、目を泳がせた。あとの言葉が出てこうへん。濁った後悔が胸にせきあがってきた。
「これ、あげる。佐渡君に運が来るように!」
 買うたばっかりの鏑矢を佐渡君に渡すと、あたしは駆け出した。近鉄の高架をくぐって北へ。あとは足が覚えてた。
 
「ええやんか、たまには他人様に福分けたげんのも」
 
 事情を説明したら、お婆ちゃんは、そない言うてくれた。
 
「かんにん、お婆ちゃん」
「なんや世も末いうような顔してたから明日香になにかあったんちゃうかと心配になったで」
「たまにしか来えへんのに、世も末でかんにん」
「まあ、ええがな。明日香、案外商売人に向いてるかもしれへんで」
「なんで?」
「ここやいうときに、人に情けかけられるのは、商売人の条件や」
 お婆ちゃんは、お祖父ちゃんが生きてる頃までは、仏壇屋で商売してた。子どもがうちのお母さんと伯母ちゃんの二人で、結婚が遅かったから、店はたたんでしもたけど、根性は商売人。
 
「ほら、お婆ちゃんからの福笹や」
 
 お婆ちゃんは諭吉を一枚くれた。
 
「なんで……」
「顔見せてくれたし、ええ話聞かせてくれたさかいな」
 
 年寄りの気持ちは、よう分からへんけど、今日のあたしは、結果的にはええことしたみたい。
 
 チンチンチン
 
「これ」
 
 景気づけにお仏壇の鈴(りん)三回叩いたら、怒られた。
 
 ものには程というもんがあることを覚えた一日やった。
 
 
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・里奈の物語・8『空飛ぶ鉄瓶・2』

2019-06-28 06:09:34 | 小説3
里奈の物語・8『空飛ぶ鉄瓶・2』


 日本で一番狭いのは香川県。

 でも、本当は大阪府。

 海を埋め立てて関空ができて香川を抜いた。だから、デフォルトの面積では大阪が最狭。

 その最狭が眼下に広がっている。なんだか超大型の観覧者に乗って、遊園地を見下ろしているぐらいに可愛い狭さ。

「わー、広い!」
 その子が、真逆に感動した。
「え、広いの?」
「うん、広いよ。今までいたところが狭すぎるってこともあるけど」
「あなたって……」
「さあ、行くよ!」
「うわ!」

 はてなの鉄瓶は、急降下して大川に、大川の上空を遡って淀川に、そして淀川を北東に遡っていく。
 
「うわー、すごいすごい!」       「生駒山系」の画像検索結果

 その子に聞きたかったことも忘れて景色に見とれた。
 北摂の山々が左側に、生駒山系が右側に迫ってきて、二つの山並みの隙間、その向こうに京都の街並みが見える。
「うわっ!」
 京都に突っ込む寸前で、はてなは90度以上右に急旋回! 左にこぼれそうになったあたしを、その子が支えてくれる。
 はてなは生駒山系の頂上をなぞるように飛んでいく。

「わたし、空を飛ぶのは初めてなの」
「え……もう何回も飛んでるみたいに見えるけど?」
「こうして飛べるのは、里奈ちゃんのおかげ」
「あたしの……?」
「一人ぼっちでいるのを助けてくれた。だから、こんな広い世界を見ることができる。わたしがいた場所は、こんなに広い世界に繋がっているんだ」
「あたしが助けたの?」
「とっても……とっても……」
「とっても……?」

 その子は、とっても感動している。でも「とっても」のあとは言葉にしてくれない。
 あたしは、人が、こんなに感動しているところを見たことが無い。あたしは、その感動に感動した。
「そっか、素直に感動していればいいんだよね」
 その子が小さく頷いた。あたしも頷く。
 頷いた分だけ、視界が揺れる……え、揺れが止まらない……グラっときた!

「痛ったーーーーーーーーーー!」

 ベッドから落ちて目が覚めた。
 伯父さんに植え替えてもらった菊が、机の上、はてなの鉄瓶の横で萎れきっていた……。 


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・時かける少女BETA・42≪国変え物語・3・五右衛門見参・1≫

2019-06-28 05:59:59 | 時かける少女
時かける少女BETA・42
≪国変え物語・3・五右衛門見参・1≫ 


 美奈は道頓のもとで大坂城外堀作事のお抱え医師になった。

 道頓は物事の緩急を心得た男で、けして急いだ工事はやらせなかった。
 この天正十二年(1584年)という年は、九州や四国、関東以北が、まだ秀吉になびいておらず、徳川家康も臣従していない、小牧長久手の戦いが引きわけに終わる年である。
 秀吉は、まだ天下の半分ほどしか手にしていないわけで、そのためにも秀吉の威を示す大坂城の普請は急がれた。普請場は大名や近在の大商人たちに請け負わされたが、事情を承知していたので、どの作事場も灰神楽が立つような賑わいと急ぎようであった。
 そんな中で、道頓の持ち場だけは、朝五つから宵五つまでの作業と時間を限っていた。また十日に一度は有給の休みを取らせ、けして無理はさせなかった。それでも、道頓の作事場は、他に比べて進捗が早く、文句を言う作事方の役人もいなかった。

 そのくせ道頓自身は明け六つには作事場に来ている。

 特に、監督するという風ではなく、親方衆や人足たちと、談笑しながら朝飯を食っている。
――なるほど、こうやって働く者の様子を見ながら、作業の段取りを決めて、作事場の空気を読んでいるんだ――
 美奈は感心した。相談されれば親方衆も発言し、相談の上決まったことなら、やる気も出る。
 そのくせ内心ではせいている。
 けして言動に出るようなことはなかったが、半月も付き合っていれば分かるようになった。「自分なら、こうやる」という観念が強いし、また洞察力もあるのだが、けして表には出さない。ただ、作業の安全ともめ事には気を配りすぎるほど配っていた。先月櫓から落ちたのも、そういう気配りの最中のことであった。

「早う羽柴様に天下を平らげていただかんとなあ……わしらの商いは天下が収まらんと進まんでのう」

 昼餉の休みに、道頓は親方たちと握り飯に焼き味噌を塗ったものを頬張りながら世間話をしていた。
「徳川さまさえ、なんとかお味方になれば、あとは早いやろになあ」
「まあ、羽柴さまにもお考えがあってのことやろ、せいだい気長に明るう待ってるこっちゃろなあ」
「道頓さん、さっきの気ぜわしさと反対じゃの」
「アハハ、儂も人の子や、悟ったことを言いながら、気持ちはせきますわ。なんや若いころ女子のケツ追い掛け回してた時のようや」
「したり、したり、その若い女医師殿は、医学の腕だけではおまへんやろ」
「いやいや、わしが手ぇ出したら一服盛ってええいうことになってますのじゃ」
 これには美奈も笑った。
 道頓には、久宝寺と高安に女が二人いることを美奈も知っていた。親方衆も薄々知っているようで、一座はどっと沸いた。
「しかし、羽柴さまがお留守なことを知ってか、京や大坂では、五右衛門とかいう盗賊が出始めとるようでんな」
「え、それは初耳、どないな盗賊だんねん?」
 道頓は知っていながら、子供のように質問する。聞いた方が人の評判や受け止め方が良く分かるからである。

 五右衛門は、正しくは石川五右衛門といい、伊勢長嶋の一揆の生き残りという噂であるが、定かではない。
 ただ襲われる商人たちが信長の時代に、その政権に食い込み身代を大きくした者ばかりだというから根のない話ではないであろう。

 その年の四月、秀次が二万の軍勢を迂回させ、家康の本拠地三河を叩こうとして、逆に待ち伏せをくらい大敗を喫するということがおこった。世に言う小牧長久手の戦いである。一説に、その秀次中入(なかいり)の報を家康にもたらしたのは五右衛門という説もあった。

 五右衛門とは、近々出会いそうな予感がした美奈である……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・49』

2019-06-28 05:43:58 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・49



『第五章 ピノキオホールまで・10』


「お、やっぱり役者は形(なり)からやなあ」
「ヘヘ」

 ちょっと照れくさい。

「一つ聞いていいですか?」
「なんや?」
「昨日観た芝居なんですけど、こんな風に衣装とかはしっかりしてたんですけど、『結婚の申し込み』がドヘタだったんです。『熊』の方は断然よかったのに」
「台詞しゃべってない役者見てきたか?」
 昨日の芝居について、言えるだけの言葉を使って説明した。
「リアクションの問題やな。きちんとリアクションでけへん役者と、それを見逃してる演出の問題や」
「なるほど……」
「簡単にうなずくなよ。演る方は大変やねんぞ」
「はい」
「ためしに、最初のとこやっとこか。カオルとスミレが初めて通じ合うとこ」
「スミレは?」
「オレが演る」

カオル: こんにちは……。
スミレ: ……え……。
カオル: こんにちは……!
スミレ: こ、こんちは……。
カオル: 嬉しい、通じた!……わたしのことが分かるんだ!

「どうですか?」
「昨日の『結婚の申込み』も、こんな感じやったんやろなあ」
「どういう意味ですか」
 あのドヘタといっしょと言われてはたまらない。
「最初の『こんにちは……』で、もうスミレが反応すんのん予感してるやろ」
「そんなことないです」
「ほんなら、『こんにちは……』のあと、何を見て、何を聞いてる?」
「それは……」
「いつも通りスミレには通じひん思てたら、次の何かを見て、何かを……何かが聞こえてるはずや」
「ええと……」
「たとえば、土手の菫とか、桜、空の雲かも知れへん。鳥の声が聞こえてるかもしれへん……やろ?」
「もう一回やらせてください」

 で、なんとか最初の「通じた喜び」はできるようになった。

 問題は次の「嬉しい、通じた!」に移った。
「嬉しいようには見えへん。六十何年かぶりで、生きてる人間に言葉が通じてんで」
「うーーーーーーーーん……」
 先生は「喜び」が湧き上がるメソードを教えてくれた。
 演ってみた。「ダメ」だった。
「それは、せいぜい三日ぶりぐらいに会うた友だちや。もっと大きい喜び……『置き換え』やってみよ」
目玉オヤジが、頭に浮かんだ。
「ジュニア文芸にノミネートされたときのメモ残してるか?」
「はい」

 部活ノートを広げた。

 あの日、駅前の本屋さんで見つけた『ジュニア文芸』 時刻、天気から始まり、タイ焼きを買おうかなと思ったけど、梅雨の蒸し暑さとタイ焼きの熱さを計りにかけて、タイ焼き屋さんをシカトして流した目線の先に見えた親子連れ。お母さんが熱心に本を探し、赤いカッパを着た女の子がぐずっていた……そして『ジュニア文芸』を見つけた。

 ときめきが蘇ってきた。

 先生はさらに細かいところを質問してきた。
 メモの行間からさらに蘇ってくる感覚……。
 本を持ち上げたのは左手だった。だから意外に重かった。
 右手を添えて、しばらく見つめた表紙はAKB48たちの笑顔。
 開いてみると、新刊雑誌特有の紙とインクの匂い。
 そして開いた運命のページ!
「そや、その顔や。すごい嬉しいやろ」
「はい背中に電気が走りました!」
「な、感情は飛びついても出てけえへん。物理的な記憶の積み重ねから湧き出てくる。さっきのカオルの喜びの何倍もすごいやろ」
「はい……」
「どないした?」

 わたしは、あの後由香にメールをタキさんに電話をした。タキさんのガハハハ笑いの奥で気づいたお母さんへの想い「ヤナヤツ、ヤナヤツ、ヤナヤツ」が蘇ってきた。先生に正直に言った。
「それは記憶の堆積や。ある記憶を蘇らせると思いもせんかった記憶が蘇ってくることがある。はるか東京を離れてきたことに何か深い想いがあるな。玉串川で見た、あの思い詰めたような顔に繋がってる何かが……」
「それは……」
 なにかモドカシイものが胸にわだかまっているのだけど、うまく言えない。
「またにしょう。そろそろみんなが……」
「おはようございまーす!」
 
 タマちゃん先輩が入ってきた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする