大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・連載戯曲 ダウンロード(改訂版⑤)

2019-06-11 08:00:30 | 戯曲
連載戯曲 
ダウンロード(改訂版➄)





ノラ:窓辺のリビングで、ほら、ミンゴル2で勝負したのよ、憶えてる?
 お父さん十八番ホールでボギーたたいて、わたしが勝っちゃったの!
 ……あの時代にプレイステーションはまだなかった……?
 ……わたし……!?
 ……シュミレーションした架空の家族。
 ……うそ!?……一度も結婚なんかしたこと……ない!? 
 うそ! うそよ!!
 わたし、ちゃんと憶えているもの。小さいときのことも、お母さんのことも……
 この坂道も、この柔らかい木漏れ日も、角のケーキ屋さんも、ちゃんと記憶にあるよ。
 わたし、この道を、死ぬ二日前まで歩いていたんだから……
 それ……全部、お父さんが、コンピューターで立ち上げたバーチャルファミリー……フィクション……
 それを社員の人たちが本物と思った……お父さんへのプレゼントに。
 ……それをダウンロードされたわたしが本当と思った……お父さん……こっちむいて……
 それ、ほんと? ほんとのほんと?
 ……こっちむいて……(父の正面に行く。父、顔をそむける。チャンネルが変わったようにノラの表情が変わる)
 ……おもちゃじゃないのよ、ロボットは……
 特に、わたしみたいな人材派遣用ロボットは、その時その時、いろんなパーソナリテイーや、スキルをダウンロードされて……
 でも、その一回一回のパーソナリテイーは、わたしにとっては本物なんです。
 生身の本物として生きているんです……だから、だから、そうでないと言われたら……意識の居場所がありません。
 パーソナリテイーのダウンロードは、CPUにも、ボデイーにも、大きな負担になるんです……
 ふつうロボットは、生まれたときに、その役割にあったパーソナリテイーを一度だけダウンロードされます。
 わたしたち人材派遣ロボットは、それを毎日くりかえすので、劣化が激しく、ひどく寿命が短いんです。
 わたし、もともと中古で、下取りの時に、元のメモリーとパーソナリテイーをブロックされているんです。
 いっそメモリーごと消去されていれば……
 むろん消去されていたら、こんな人間的な動きや、感情表現はできません……
 お父さん、お願いこっちを向いて……わたし、あの地震で死んだときのような気持ちよ……
 激しい揺れに足をとられ、民宿のドアに手をかけた、そのとたんに、壁が崩れて……
 お母さんと二人下敷きになり、早回しのビデオのように短い一生が思い出され……思い出しながら遠のいていく意識……
 最後に憶えているのは、握ったお母さんの手のぬくもり……その……手のぬくもりさえ、本物じゃなかったのね……
 みんな、お父さんがこさえた戯れのバーチャル……

 ノラ一人に照明がのこり、モーツアルト、フェードインする。気づくと、もとのノラのハンガー。

ノラ:  ……ありがとう、連れて帰ってくれたのね……憶えてない……暴走しかけて、フリ-ズしてしまったの……
 お母さんは? ああ、バグと認識して最初から動いてない……さすが大手のモリプロね……
 ごめん?……もういいわよ。早く消してくれる、この子のパーソナリテイー(ノロノロと柱のマシンへ)
 え……メモリーに焼き付いて、消去できないの……
 もうそろそろ寿命かな……ねえ、オーナー。オーナーはどうしてこんな仕事してんの?
 ……男一人食うのにちょうどいい……
 自分で働いたら?
 ……え、マネージメントやメンテナンスで、けっこう働いている?……ほんとかな……
 ね、このマシンの中にもブロックされたメモリーがあるんだけど……このハンガーのシステムメモリー?
 ……え、わたしが勝手にいじって、キッチンなんかつくってしまわないようにブロックしてあるって……
 え、オーナーにもわからない?
 ああ、奥さんが使ってた中古。これも?
 ……ん、次の仕事!?
 だめよ、わたしまだ幸子のパーソナリテイーのままなんだから。
 今日はもう休ませて、お願い……(マシンから衣装が転がり出てくる)
 もう……わたしはね……
 これ、「ローマの休日」のオードリーのコスチューム……
 新作ゲームのCMの依頼……「ローマの休日をもう一度」
 ……チープなギャルゲーね……わたしのこと、すりきれるまで使うつもりね……
 いいわ! このブルーな気持ちを少しでも紛らすことができるなら……
 もともとオードリー似だものね、幸子は(間、着替えの動きとまる)
 ……え、あ、ごめんなさい。ちょっと考え事……
 しかたないでしょ。わたしのメモリーは幸子のままなの。その幸子がオードリーを演じるの!
 よいしょっと……ハハハ、お婆さんみたいね……え、いつも言ってる? 中古だものね……さ、行くわよ……
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高校ライトノベル・真夏ダイアリー・64『映画化決定 二本の桜』

2019-06-11 06:40:42 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・64
『映画化決定 二本の桜』
        



 わたしは、タイムリープによる事件解決のむつかしさを痛感した……。

 スポミチの記者には気の毒だったけど、あんなスクープをやるほうもやるほう。もう放っておくことにした。
 
 でも、一抹の不安が頭をよぎる。

 あの戦争のことは、どうなるんだろう。いままで、いろんなことが試された。わたしも、リープして、日本の最後通牒が間に合うようにして、そのための証拠をいくつも残してきた。でも、やっぱり、真珠湾攻撃は日本のスネークアッタック(だまし討ち)ということにされ、証人のジョージは口封じに消されてしまった。
 省吾が、死を決して、ニューヨークに原爆を落とすというフライングゲットをやろうとしたが、これは、ジェシカが時空の狭間に行方不明になるという結果を生み出しただけ……おかげで、省吾は一気に老けてしまい(彼のタイムリープの能力は、2013年に遡ることが限界で、それ以上過去にリープすると、ひずみで老化が進行する)もう、高校生として、この2013年には戻れなくなってしまった……残ったのは、未来人である省吾への気持ちが、友情というレベルではなかったという、愛しく、悲しい自覚だけ。

 リアルな現実では、嬉しい展開があった。

《二本の桜》が発表以来、ヒットチャートを駆け上り、三週連続のオリコン一位。卒業式に、この歌を歌うことに決めましたという学校が続出。山畑洋二監督が、このプロモーションビデオを観て「映画化させて欲しい」という申し出まで。詳しく言うと、それまで、山畑監督の中にあった「東京大空襲」にまつわるストーリーが、この曲にぴったり。山畑監督は、光会長の古い友だちでもあり、苦笑いしながらOKを出した。
「山畑、どうして、あの曲からインスピレーションなんか受けたんだよ」
「あのプロモには、お前の思いを超えたメッセージがあるよ。仁和さんの監修も見事だった」
「あれって、ただの感傷なんだけどなあ……」
「これからは、映画のイメージで、歌ってもらえるとありがたいんだけどな」
「乗りかかった舟だ。オーイ、黒羽、ちょっと山畑と相談ぶってくれよ」
 黒羽ディレクターが呼ばれ、歌の振りと演出に手が加えられることになった。
「そのかわり、うちの子達にもチャンスくれよ。むろん、ちゃんとオーディションやった上でいいから」

 その日のうちに、簡単な振りの変更が行われた。衣装も、それまでの、桜のイメージのものから、ひざ丈のセーラー服に替わった。

「いやあ、懐かしいわ。それって、あたしたちが女学生だったころの制服じゃない!」
 そう言って、そのオバアチャンは、光会長の肩を叩いた。
「別に、オフクロ喜ばせるためにやったんじゃねえんだから」
「素直じゃないね光は、死んだお父さんに似てきたね」
「よせやい!」
 光会長のお母さんは、メンバー全員の制服の着こなし、お下げや、オカッパというショートヘアの形まで口を出し、メイクやスタイリストさんを困らせた。
「まあ、好きなようにやらせてやって。後先短いバアサンだから」
「なんか言ったかい!?」
「いや、なんにも……」
 会長親子の会話にメンバーのみんなが笑った。気がついたら、楽屋の隅で仁和さんと会長のお母さんが、仲良くお茶をすすっていた。

《二本の桜》
 
 春色の空の下 ぼくたちが植えた桜 二本の桜
 ぼく達の卒業記念
 ぼく達は 涙こらえて植えたんだ その日が最後の日だったから 
 ぼく達の そして思い出が丘の学校の

 あれから 幾つの季節がめぐったことだろう
 
 どれだけ くじけそうになっただろう
 どれだけ 涙を流しただろう 
 
 ぼくがくじけそうになったとき キミが押してくれたぼくの背中
 キミが泣きだしそうになったとき ぎこちなく出したぼくの右手
 キミはつかんだ 遠慮がちに まるで寄り添う二本の桜

 それから何年たっただろう
 訪れた学校は 生徒のいない校舎は抜け殻のよう 校庭は一面の草原のよう 
 それはぼく達が積み重ねた年月のローテーション
 
 校庭の隅 二本の桜は寄り添い支え合い 友情の奇跡 愛の証(あかし)
 二本の桜は 互いにい抱き合い 一本の桜になっていた 咲いていた
 まるで ここにたどり着いたぼく達のよう 一本の桜になっていた

 空を見上げれば あの日と同じ 春色の空 ああ 春色の空 その下に精一杯広げた両手のように
 枝を広げた繋がり桜

 ああ 二本の桜 二本の桜 二本の桜 春色の空の下

 イメチェンの《二本の桜》は、若い人には新鮮に、年輩の方達からは、懐かしさだけじゃなく「力をもらった」というようなコメントが寄せられ、イメチェンの二日後には売り上げを50万枚も増やした。

 それは、習慣歌謡曲の収録のときだった。仁和さんが、スタジオの隅に目をやって呟いた。
「あら、あの子たちが見に来てる」
「あの子たちって?」
「プロモ撮ったときに出てきた、乃木坂女学校の子たち」
「え……幽霊さん!?」
「これは、もうお供養だわね。しっかりお勤めしてらっしゃい!」

 仁和さんに背中を押され、程よい緊張感で歌うことができた……。
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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・059『奈何の不思議な手鏡』

2019-06-11 06:30:22 | ノベル2

時空戦艦カワチ・059   

『奈何の不思議な手鏡』

 

 

 奈何は不思議な手鏡を持っている。

 

 手鏡とは言えないかもしれないが、手鏡と言う以外に形容の仕様が無いのでそう思っている。

 縦四寸、横二寸、厚みは奈何の華奢な小指ほどもない。縁と裏側は桃色の漆塗りのようで、肝心の鏡面は漆黒。

 漆黒では鏡の用は為さないのだが、明鏡止水と呼びたくなるほどの艶が有り、照らし方によっては鏡のように顔が映るので手鏡ということにしてある。

 

 この手鏡は突然やって来た。

 

 隅田川の土手道を伯父の家に向かっていると立ちくらみがしてしゃがんでしまった。

 目の前がほとんど真っ暗になり、一瞬気を失ったような気がしたが、慌てずに五つほど呼吸すると収まった。

 立ち上がると胸元に違和感があり、手をやると、この手鏡が帯の間に挟まっていた。

 

 以来、人に見せることもせずに大事にしている。

 

 大事にすると言っても文箱の中に仕舞い込むようなことはせず、肌身離さず持ち歩いている。

 なぜかは分からないが、そうするものと思っている自分がいるのだ。

 

 奈何の家は小なりとは言え直参旗本である。

 旗本ではあるが、幕末の今日、家の台所事情は良いわけはない。

 旗本どころか徳川家そのものの先行きが怪しい。雄藩たちは朝廷に接近し、都では尊攘派の浪人たちが壬生浪と呼ばれる新選組と対峙している。都の治安は元来所司代の役割であるが、とても間に合わず会津藩に押しつけ、その会津藩も新選組に丸投げしているような有様だ。

 伯父が所司代に出仕しているので、その辺の事情は並の幕臣の子よりも肌に感じている。

 

「奈何、着替えを手伝え」

 

 具足蔵番という閑職から戻って来た父が、玄関で出迎えた奈何の前を通過しながら言った。

 言われなくても父の着替えの手伝いは奈何の仕事だ。

 わざわざ言ったということは、特別な用件があるということで、ここのところの父の様子から察すると縁談である。

 母の時代はまだ良かった。

 身分的にも釣り合った旗本や身代の大きい御家人と決まっていたが、直参たちの零落ぶりは身分相応の婚礼をするのも難しく、股者(またもの)と蔑まれた大名家の家臣との婚礼も珍しくはない。

「勝様のお声がかりで……」

 父の一言で――やっぱり――と思う。

 勝安房守(かつあわのかみ)は祖父の代に御家人株を買った成り上がりで、出自は越後の水呑と言っていい貧乏百姓だ。

 その貧乏百姓の次男だったか三男だったかが目が不自由で、江戸に出て按摩や門付けで財を成した。

 勝安房守の家は、その俄か御家人の、さらに分家で、文字通り傘貼りで糊口をしのいでいた。

 その勝安房守の肝煎。

 下手をすると士分でさえないかもしれない。

 勝の懐刀と言われる坂本龍馬などは股者とさえ言えない。外様の土佐藩の家臣の末、郷士の身分である。

「心配いたすな、御家人前島家の来輔というお方じゃ。お上の憶え目出度いお方と聞き及んでおる。日取りは儂の方で決めておくゆえ安心いたせ」

「はい、もとより父上のお決めになったこと、よい縁談に決まっておりますとも」

 

 その夜、奈何は件の手鏡を取り出した。

 

「どうなるんだろう……」

 いつしか手鏡を包むようにして摩っていた。

 するよ、漆黒の鏡面に知らない女が現れた。

――よかった! やっと通じた!――

 その女は、自分の事をこう名乗った。

 時空戦艦副長 楠千早……と。

 

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高校ライトノベル・時かける少女BETA・25《大和と信濃と・10》

2019-06-11 06:17:53 | 時かける少女
時かける少女BETA・25
《大和と信濃と・10》                   


 米軍捕虜たちは二度に分けて焼け残った帝国劇場に集められた。

 なぜ二度か? 

 一度に2500もの捕虜を集められる施設が無かったことと、空いた時間で東京大空襲のあとをしっかり目に焼き付けさせるためである。捕虜たちの多くは、一面の焼野原や、まだ片付けられずにいる無数の犠牲者を見て動揺を隠せない者もいた。

「あの焼死体は兵隊ではない。普通の市民だ。あれを見ろ……」
 細井中佐が指差した先には、黒焦げの大人と子供の焼死体があった。
「避難中に亡くなった母と子だ。あの二人になんの罪があったのかね……」
「戦争だ、しかたのないことだ」
 一人の捕虜が呟いた。
「自分の家族が、ああなって、君は同じことが言えるかね」
「こんなものを見せるために我々を歩かせるのか?」
「君たちを乗せられる自動車は、夕べの爆撃で、みんな焼けてしまった。周りの兵隊たちも君たちを守るために付けている。大人しい日本人だが、少ない護衛で歩かせたら、かれらは黙って君たちを見てはいない」

 確かに、街じゅうから感じる無数の視線は刺すように厳しかった。

 帝劇に着くと、ラムネ一本ずつが配られた。
「朝食を用意してあげたかったが、空襲で、この様だ。各自持っている携行食で適当にやってくれたまえ。じゃ、客席の明かりを半分に落とす。食べながら見てくれたまえ」
 10分ほどで、捕虜たちは朝食を終えた。あちこちでラムネのゲップが聞こえた。
「こんなラムネでも、日本の子供たちは何年も飲んでいない。我々の精一杯のもてなしだ……では小磯総理、お願いします」
 陸軍大将の軍装で小磯首相が現れた。大佐の階級章を付けた捕虜が立ち上がって発言した。
「閣下は、朝鮮総督のころ、朝鮮のトラと呼ばれている。トラは侵略的ないきものである。その理由をお答え願いたい」
「たぶん、歴代の朝鮮総督のうち、ご覧のとおり私が一番の醜男だ。この顔がトラに似ているからではないかね」
 捕虜たちの中から笑い声が起こった。
「お聞きの通り、わたしの英語はすこぶる下手だ。一つだけ約束をして海軍大臣の米内君に替わる。我々には戦時国際法に準じた待遇をしているだけの余裕がない。この一週間あまりで釈放するつもりである」
「また、油と交換にか?」
「嫌なら、国際法に則り、捕虜の交換になる。数か月我慢するかい?」

 捕虜は黙ってしまった。そして代わりに米内光正海軍大臣が演壇に立った。

「これから、ハル国務長官とルーズベルト大統領の映像をみてもらう。判断は君たちでやってくれたまえ」
 スクリーンに鮮やかな3D映像が現れた。
――最初の一撃は日本にやらせよう。アメリカ人を奮起させるのには絶対必要な出発点だ――
――しかし大統領。日本が12月7日に真珠湾を攻撃するのは分かっています。太平洋艦隊のキンメルに伝えてやらなくてもいいんですか?――
――日本軍の攻撃は正確だ。一般市民に被害が及ぶことはほとんどないだろ。キンメルの名誉はあとで回復してやればいい――
「これが真相なんだ。あとは……」
 細井中佐がウェンライト中佐に説明したのと、ほぼ同じ説明をした。捕虜の多くは半信半疑だったが、確実に動揺し始めている。
「ちなみに、夕べなんとかテニアンか硫黄島にたどり着けたのは、50機。実に5/6の喪失だ。君たちが相手にしているのは、今までの日本とは、ちょっと違う。釈放後は君たちの自由だが、戦時国際法では、釈放後の捕虜は、その後の戦闘行為には参加できない。この中には二度目の捕虜になった者もいるだろうが、三度目の釈放は無いと思ってくれたまえ。油との交換を良しとしない者は残ってもらう。行先はアメリカが原子爆弾の投下地に選んでいる街だ」

 捕虜たちの動揺は、さらに広がって行った……。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・32』

2019-06-11 06:09:50 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・32 

 
 
『第四章 二転三転・3』

 このままじゃ、クラブがバラバラになり脱落する者が出てくる。

 みんな口に出しては言わないけど、大橋、乙女両先生に頼り切っている。
「わたしと、タロくんの責任や」
 タマちゃん先輩は、ハンバーガー屋さんでくり返していた。
「先輩、膝が……」
 と、わたしもくり返していた。
「また二人でクラブを引き締めよ」
 そうタロくん先輩にも話したそうだ。
「分かってる。オレがなんとかする」
 返事はいいらしい。
 しかし「今日部活休みます」とルリちゃんからメールがきても、「今日、ルリちゃん休みです」人ごとのように先生達に報告するだけのタロくん先輩。
「言わなあかんやんか!」
 タマちゃん先輩はタロくん先輩に迫る。
「言い方を考えてんねん!」
 タロくん先輩は、いつも、そう答えるだけだそうだ。
 分からないでもない、言い方によっては……。
「ほんなら、あたし辞めるから」
 こうなりかねない。
「わたしが言うてもええねんけど……」
 タマちゃん先輩のため息混じりの語尾には「もう言うてしもた……」の後悔がうかがえた。
 結果は、かんばしくなかったのだろう。
 それ以上は、部長であるタロくん先輩の顔を潰す……。
 というより、クラブの秩序を崩してしまう。タマちゃん先輩はそう心配しているようだった。
 二人の気持ちは、どちらもよく分かる。入部届も出していない新参者のわたしが、あまりしゃしゃり出ることではないような気がする……そこまで思い至ったとき、ポツリポツリと雨。

 手紙を濡らさないようにかばいながら校舎へ。
 そのとき、中庭の対角線の方向に吉川先輩と由香の姿が見えた。
 今まで、大きな蘇鉄にさえぎられて見えなかったんだ。
 瞬間、吉川先輩と目が合った……。

 それから二日。

 由香は、未提出の課題があるので、教室に残っている。待っていても、かえって邪魔になるだろうと思い、先に帰ることにした。
 上履きを、下足のローファーに履き替えて、頭を上げると、吉川先輩が立っていた。
「テスト前日で悪いんだけどサ、ちょっとつき合ってくれないかなあ」
「ええ……いいですよ」

 と、答えた二十分後。わたしたちは天王寺公園に来ていた。
 正確には、天王寺公園の奥にある市立美術館のさらに裏にある「慶沢園」

「ウワアー……こんなところがあるんだ!」

 広大な回遊式日本庭園であることぐらいは、わたしの知識でも分かった。
 つい二三分前まで、天王寺駅前の、ロータリーや空中回廊のような歩道橋。そこに繋がる、JRや私鉄、地下鉄の出入り口、アベノハルカス、ファストフードなどから吐き出されてくる群衆と、その喧噪の中にいたとは思えない。
 東京でいえば、渋谷の駅前から、いきなり明治神宮の御苑に来たようなもんだ。

「もう一週間も早ければ、花菖蒲がきれいに咲いていたんだけどサ。今は、クチナシとか睡蓮くらいのもんかな」
「なんで、こんな所があるんですか?」
 直球すぎて、間の抜けた質問。
「ここは、元は住友財閥の本宅があって、この庭園は付属の庭」
「これが付属……」
「昭和になって、住友家から大阪市に寄贈されたんだ」
「へー……」
 間の抜けたまま、ため息をついた。
「オレ、そういう間の抜けた感動するはるかって好きだぜ」
 誉め言葉なんだろうけど、「感動」の前の修飾語は余計だ。
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