大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・031『特務師団』

2019-06-07 14:02:19 | 小説
魔法少女マヂカ・031  
 
『特務師団』語り手:マヂカ   

 

 

 特務師団は対霊障戦に備え、日露戦争中に創設された闇の師団だ。

 

 魔法少女は、その特務師団の中核だった。

 同様の霊能部隊は他の列強の国々も持っていて、戦争の裏舞台で攻守さまざまな局面で活躍した。

 戦場において、信じられない勝利や敗北の陰には、魔法少女たちの働きがあったと言っていい。

 203高地の戦いが膠着した時に、日本軍はロシアに霊能部隊がいることに初めて気づいた。その中核はロシアの帝室特務師団の魔法少女達であった。彼女たちは様々な妖(あやかし)や魔力を使って、日本軍の行く手を阻んだ。

 乃木の第三軍が旅順、特に203高地において甚大な被害を被ったのはロシア特務師団の働きが大きい。旅順港閉塞において、日本海軍の戦艦三隻が触雷して沈没したのもロ特(ロシア特務師団)の働きだ。

 ロ特の存在に気づいた日本は、ようやく霊能少女を集めて特務師団を編成し戦場に送り、ロ特との戦いに投入した。

 主な任務は、ロ特の魔法少女たちを排除することで、日ロ双方が軍の実力だけで勝負できるようにすることだった。

 ロシアは、ロ特を軍の作戦や戦闘に関与させて勝利を得ると言う禁じ手を使っていたのだ。

 日本の特務師団は専守防衛に徹し、けして人間の戦闘行動に手を貸すようなことはしなかった。それが日本の矜持でもあったし、列強が日本の特務師団設置を承認した条件でもあったのだ。

 日特(日本特務師団)は日露戦後も様々な戦場や災害において活動したが、第二次大戦の終焉と共に幕を閉じた。

 終戦直前に結成された国連が特務師団の廃絶を謳っていたのだ。

 もう、魔法少女の霊力を借りなくても、いや、魔法少女の霊力以上の破壊力を持つ核兵器を手に入れたことで、戦略的な勝利を得ることができると確信したからだ。

 それに、魔法少女達は疲労の極にあった。人道的見地からも特務の解散は避けて通れなかった。

 なにより、日本の魔法少女はマヂカ一人を残して全滅していて、マヂカも早急な休眠を必要としていた。

 最後の特務師団長は来栖種臣中将であった。

 

「孫にあたる来栖種次一佐だ、よろしく」

 

 そう名乗ると、穏やかに信号が青になったことを示した。

 二人は、街中で邂逅した伯父と姪のように横断歩道を渡った……。

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高校ライトノベル・連載戯曲『ダウンロード(改訂版)①』

2019-06-07 06:30:36 | 戯曲
連載戯曲
ダウンロード(改訂版) 「大橋むつお」の画像検索結果






 時  二十一世紀末
 所  日本のある都市
 人物 ノラ(中古アンドロイド)他に黒子二人ほど。

 モーツアルトのBGMが流れている。中央上手寄りに、人の背丈ほどの高さと座卓ほどの高さの柱。大きい柱にはいくつかの大きさの違う端子やランプがついている。今は緑のランプが鼓動のように点滅している。ややあって、派手な動作音をたてながらノラが帰ってくる。SFの宇宙服のような姿で、いかにもロボットめかしく動いている。ドアを開ける動作をして(実際のドアはない)入室し、柱の端子に手の人差し指を入れる。スパークと同時に体がコミカルに振動する。振動が停まると、とっても長いため息とともにロボットらしさが消え、長い残業を終えてワンルームマンションにもどってきたOLのようになる。ジロっと半眼の目を上げ、客席側にある(という設定)モニターに話しかける。

ノラ: ……買い換えたほうがいいよ。ロードする時ショックが大きすぎる。イカレかけてる証拠だよ。
 ……言ってみただけ。その気もないよね(ロボットの衣装を脱ぎ始める)
 でもさ、オーナー。
 ひとつだけ、今日みたいな仕事はもうよしてくれない。
 ギッコンギッコンして、おとぎ話のロボットみたいな動きは疲れんのよ。
 これでもアンドロイドなんだからさ。
 今日みたいな、レトロロボット博の客寄せなんて……
 うん、プライドあんのよこれでも。 
「美少女アンドロイドでーす」ってポーズつくって、MCのヨシモトに頭をはられて。
「ロボット博のオモロイドでーす!」
 ……百年前のギャグでしょ、わたしってお笑い系じゃないのよ。
 それと、このモーツアルトのBGM……これも百年前の癒し系でしょ。もう耳にタコ。
 わたしには嫌系なの。
 ……通じないのよね、あなたにはこういうギャグ。
 ま、いっか。

 鼻歌交じりに柱の後ろにまわって、トレーの食事を取りだし、小さい柱をテーブルにして食事をはじめる。

ノラ: 食事もね、悪かないんだけど……昔のレトルトと違って、よくできてるけどさ。
 作る手間がね、多少はあった方がね。
 たしか、お料理……動詞「料理」するっていうのよね。
 ……したほうが、よりおいしく……
 おかしい? 人間くさい?
 ハハハ、人間がそう作っちゃったのよ、わたしたちのこと。
 中身はチタン合金の骨とマシンだけど、皮とか肉はバイオだからね。
 ちゃんと気持ちよく食事しないと、すぐ肌荒れとかになっちゃうの。
 ターミネーターの映画監督恨むわ。絶対あれがヒントになってんのよ。
 へへ、個人的にはシュワちゃん好きだけどね。
 ……ああ、やっぱ食欲な~い。
 キッチンつくってよ、キッチン。大昔はワンルームマンションだったんだからさ、ここ。
 ……消防署の許可?……だろうね……登録は、ここ倉庫だもんね。
 本火はつかえないってか……そこをなんとか。
 ……その分稼いだら考えてやる。
 ……あ、そ。
 ……で、もう次の仕事。
 ……はいはい……

 柱のところへ行き、出てきたクエスト(任務情報)をとる。

ノラ: これだけは気にいってるのよ。モニターじゃなく、プリントアウトしてくれるの。
 わたし、全部残してんのよ。時々読み返しては……
 なによ、笑うことないでしょ。そういうことを懐かしめるほどよくできたアンドロイドなのよ、わたしは。
 もっとも、あなたに拾われる前のメモリーはブロックされててわかんないけどね。
 いっそ消去しときゃよかったのにね。なまじブロックされてるだけだから気になるのよ。
 元々のわたしはなんだったんだろうって……
 わかってる。わたし、なにか特別なロボットのプロトタイプ(実用原型)だったのよね。
 ヘヘ、それくらいわかる。とても具合のいいとこと、なんでー!? ってとこがあるもん。
 きっとメモリー消しちゃったら、わたしのアビリティーに関する情報も消えちゃうんでしょうね。
 ……どのアビリティーかって?……そりゃあ、もちろん魅力に関する……あ、また笑った!
 ……はいはい読ませてもらいますよ……

 クエストを読む。

ノラ: え!? うっそー……百歳のおばあちゃんになるの!? 
 無理だよ。わたしのナイスバデイーは二十五歳、プラスマイナス十歳だよ。
 ……え、よく読め?……あ、なーる……婆ちゃんの誕生日に、若いときの婆ちゃんの姿を見せてあげる……。
 よしよし……八十年前の高校生ね。
 オッケー……チョイチョイ、チョイっと(柱のボタンをいくつか押してから、中から衣装などをとりだす)
 ええ!? なに、このチョッキ。スカートの丈も。
 ……やっぱ、このマシン壊れてるよ。サイズおっかしいよ!
 そっちでもチェック……してんの? フフフ、慌ててるあなたって、かわいいわよ。心臓の音モニターしてみよっかな……うそうそ。
 ……え、壊れてない。本当にこれ着るの? 
 いいけどね……なんか違和感……(器用に着替える)よいしょっと……こうやって……うんこらしょっと……靴下はいいけど……サイズ大きい……スカート短すぎ!
 パンツ見える……見えてもいいの?「見せパン」……変なの。
 ……でもさ、この婆ちゃん、どうして十九歳で高校生やってたの?
 ……あ、落第……よし、じゃあ、ダウンロード……
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・28』

2019-06-07 06:21:26 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・28  



『第三章 はるかは、やなやつ!6』


 家に帰って、風呂上がり。

 お母さん言うところの「ダルマサンガコロンダ」の練習のあと、あの憎ったらしいウィンクを思い出した。
 とりあえず広辞苑をひいてみる。
「大明神と、大権現に差なんてあるのかなあ……〈様〉と〈殿〉の違いぐらいのもんじゃ……」なかった。

「明神」は、神さま一般への尊称。

「権現」は、「仏・菩薩が衆生を救うために、種々の身や物を権(かり)に現すこと」とあった。
 あのお地蔵さんの前でのことが思い出された。

「大権現」「置き換え」という言葉が浮かんだ。

 梅雨独特のどんよりした夜空の高安山に、そいつは静もっていた。
 なにやら神さびて見えないこともない……。
 でもね……。
「やっぱ、寝よう」
 振り返ると、サッシのガラスに映っていた。
 
 ベランダの手すりに立って、目玉オヤジに手を合わせているマサカドクンが。
「勝手にしなさいよ!」
 ピシャリとサッシを閉める。
「どうかしたぁ?」
 間延びしたお母さんの声。
 それもシカトして、頭から夏布団をひき被るはるかであった。


 それからの三週間は、文字通りの梅雨のような部活だった。

 部員がそろわないのだ。

 一応オキテ通り連絡はしてくるのだけど、たいがいがメール。それも部活直前の連絡が多くなり、中旬以降は連絡無しのお休みもチラホラ出始めた。
 むろん検定やら補習やらのやむを得ないお休みもあるのだけど、兼業部員がホイホイと他の部活に行ってしまう。
 中には入部後、新たに漫研と生徒会の執行部に入っちゃうねねちゃんのような子もいた。
 かわいいふりして、あの子、わりとやるもんだね……って、お父さんが昔、そんな歌を唄っていたっけ。
 ルリちゃんは、放送部の他に軽音を兼ねていたが、演劇部を含めて、どの部活も休みがちなようだ。
 そして、家庭事情もあるようで、親からは「部活をやるくらいなら、バイトでもやって家計を助けろ」とも言われている様子。
 それなら、いっそ、部活を整理して、部活一つとバイトってことにすればいいのに。

 もち、部活は演劇部一本にして欲しいけど。

 栄恵ちゃんは梅雨空のようにドンヨリだ。
 むろん部活に来るときは、オキテ通り「おはようございまーす!」と、高いモチベーションでプレゼンのドアを開けて入ってくる。
 稽古も熱心で、いつも何か工夫をして稽古にのぞみ、与えられたチャコという役に命を吹き込んでいた。
 ただ、週に二度ほど「すみません、早引きさせてください」とうつむきながら帰っていく。部活以外で見かける栄恵ちゃんは梅雨空のようにドンヨリなんだ。
 どうやら、自宅近くのコンビニでバイトを始めたようだ。

 以上の情報は、親友の聞き耳ずきん、由香の情報。

 由香は同じ放送部のよしみで、ねねちゃんについては生徒会室まで出向いて、生徒会長の吉川先輩とも話をしてくれた(ねねちゃんがいなかったため)
 吉川先輩は、こう言ったそうだ。
「そうやったんか、オレからも一回話しとくわ。尻が落ち着かんいうのは、はた迷惑やし、本人のためにもならんさかいな。そやけど、言うとくけど、それだけ能力も高いし、意欲もある子やねんで。ただ、的が絞り切れへんねやろなあ……」
 遠くを見つめるような横顔が、いま売り出し中のイケメン俳優向井ヒトシのようにステキだった(カギカッコ以下は由香の感想)

 大橋先生は器用な人で、休んだキャストの代役を一人でこなす。

 タロくんの進一役を除いて女ばかりなんだけど、違和感がない。っていうか稽古のモチベーションは高くなる。表現も大きく、表情も豊かで的確。本役の子がやるよりもリアクションがしやすくなったりする。
 でも、さすがに、廊下を通る生徒たちは、先生の女役にクスクス笑っていく。

 先生は、これだけ休みが多いのに叱るということをしない。

 ただ、無届けで休んだ者には
「昨日は、どないしたん……あ、そう。せやけどタロくんには言うといてな」
 それだけ、コンニャク顔で聞く。
 出席簿だけは毎回チェックして、一言二言指示をする。
 乙女先生も、陰ながら見ているようで、ときには根城にしている司書室に呼び出し、カミナリを落としている。暗黙の内に二人の先生の間には役割分担ができているようだ。

 
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高校ライトノベル・真夏ダイアリー・60『あいつのいない世界』

2019-06-07 06:10:58 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・60
『あいつのいない世界』
   


 ショックだった。

 学校に行ったら、省吾がいなかった。早く来ていた玉男に聞いてみた。
「省吾は?」
「……だれ、それ?」
 わたしは、あわてて省吾の席をチェックした。机の中にオキッパにしている教科書を見て、息が止まった。

 井上孝之助という名前が書いてあった……。

 教卓の上の座席表もチェック……省吾の席は「井上」になっており、座席表のどこを見ても省吾の苗字である「春夏秋冬(ひととせ)」は無かった。
「どうかした?」
 玉男が、ドギマギしながら声を掛けてきた。
「ううん、なんでも」
 友だち同士でも、これは聞いちゃいけないような気がしてきた。
「な、なにかお手伝いできることがあったら言ってね」
「うん、その時は。友だちだもんね」
 そう返事して、下足室に行ってみた。
 
 やはり、そこは「井上」に変わっていた。諦めきれずに、学年全部の下足ロッカーを見て回ったが、あの一目で分かる「春夏秋冬」の四文字はなかった。
 そのうち視線を感じた。必死な顔で、下足のロッカーを見て回っているわたしが異様に見えるようで、チラホラ登校し始めた生徒達が変な目で見ている。
――真夏、なにかあったのかな――
――アイドルだから、いろいろあるんじゃない――
 そんな声が、ヒソヒソと聞こえた。
 そうだ、わたしはアイドルグループのAKRの一員なんだ……そう思って、平静を装って教室に戻った。
 玉男からも、変な視線を感じた。友だちなんだから、言いたいことがあれば直接言えばいいのに。そう思っていると、後ろの穂波がコソっと言った。
「真夏、玉男に『友だち』だって言ったの?」
「え……うん」
「どうして、あんな変わり者に……本気にしちゃってるわよ」

――まさか!?

 悪い予感がして、C組に行ってみた。
「うららちゃん、誰かと付き合ってる?」
 由香(中学からの友だち)は妙な顔をした。
「真夏、うららのこと知ってんの?」
「え……なんでもない。人違い」
「気をつけなさいよ。下足でも、あんた変だったって。アイドルなんだから、なに書かれるか分からないわよ」
「う、うん、ありがとう。ちょっと寝不足でボケてんの」
 その日は、自分から人に声をかけることは、ひかえた。どうも省吾は、この乃木坂高校には進学していないことになっているようだった。そして、もう一つ悪い予感がしたけど、怖くて、共通の友だちである由香にも聞けなかった。

 放課後、省吾の家に行ってみた。用心してニット帽にマフラーを口のあたりまでしておいた。

 で、もう一つの悪い予感が当たった。省吾の家があった場所には似ても似つかぬ家があった。むろん表札も違う。
 省吾は、この世界では、存在していない……。
 
 気がつくと、公園のベンチに座って泣いていた。わたしは、自分の中で、省吾の存在がどんなに大きかったか、初めて気づいた。
 中学からいっしょだったけど、こんな気持ちになったのは初めてだ。どこか心の底で分かっていたのかもしれない。あいつは未来人で、どうにもならない距離があることを。でも、でも……。
「好いていてくれたんだね、省吾のことを」
 後ろのベンチから声がした。
「……(省吾の)お父さん!?」
「振り向かないで……今朝の下足室のことを動画サイトに投稿しようとした奴がいるけど、アップロ-ドする前にデータごと消去しときました。省吾は、もう高校生で通用するような年齢ではなくなってしまったので、この世界には存在しないことにしました」
「もう会えないんですか……」
「高校生の省吾にはね……でも、いつか、あいつの力になってもらわなきゃならなければならない時が来る。その時は、また力になってやってください。今度は、あんな無茶はしないはずです。それまで、真夏さんは、ここで、アイドルとして夢を紡いでいてください」
「お父さん……」
「じゃ、わたしは、これで」
 立ち上がる気配がしたので、わたしは振り返った……そこには八十歳ほど、白髪になり、腰の曲がった老人の後ろ姿があった。
「わたしも、省吾のタイムリープのジャンプ台になっているんで影響がね……じゃあ」
 
 後ろ姿はモザイクになり、数秒で消えてしまった……。
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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・055『偽りの葬列』

2019-06-07 06:04:04 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・055
『偽りの葬列』




 小栗栖中尉の妹さんですか!

 明るく驚いているけど、とうに承知しているんだ。

 航技士官というのは、そんなに多くは無い。それに同じ中尉だし。

 だいいち、アメリカ人との混血の軍人というのはめったに居るもんじゃない。
 兄の雄は、父が駐米全権大使であったことも併せて有名人だ。
 その兄に二人の妹が居ることも、兄の友人知人ならみんな知っている。

 ヨッチンがいっしょに居ることもあってシラバクレているんだ。

「九段までご一緒しませんか」

 幅広のトランクから、なんと骨箱を取り出すと気楽に言いだした。
「申し遅れました、自分は小栗栖中尉と同じ航空隊の佐伯です、こいつ(骨箱を示す)を連れて靖国に行く途中なんです」
「「ご苦労様です!」」
 ヨッチンと二人骨箱に最敬礼する。
「シャイなやつなんで、靖国に着くまではトランクに入れておくつもりでしたが、貴女たちと一緒なら喜ぶでしょう」
「お身内の方なんですか?」
「戦友です、先月の空襲で身内が全滅してしまったので、自分が引き受けております」
「そうだったんですか……」
 文学少女のヨッチンは、それだけで想像力が弾けてしまい、眼鏡を外して涙を拭っている。
「ぜひご一緒させていただきます」

 にわか仕立ての三人の葬列はゆるゆると九段の靖国神社を目指した。

 佐伯中尉の機転と優しさだと思った。

 この非常時、昼日中に若い男女がいっしょに歩くことは憚られる。たとえ同伴者が陸軍士官であっても世間は良い顔をしない。憲兵にでも見られたら、けん責されないまでも事情ぐらいは質されてしまう。
 佐伯中尉は、それを避けるために戦友の御霊をカモフラージュにしてくださったんだ。

 骨箱の効き目は顕著で、通りすがりの人たちがお辞儀をしてくれる。

 わたしたちも野辺送りには慣れているので、ごく自然なしめやかさで居られる。
「憲兵さんたちが不動の姿勢で敬礼してる」
 ヨッチンが真面目な顔で面白がる。
 御霊には悪いけど、すごく自由な気持ちで歩けるのは嬉しい。

 九段まで歩く人は結構いる。路面電車の連絡がままならないし、どの電車も混みあっていて、互いに気を遣うことが多いから。
 そんな徒歩参詣者のために大日本婦人会の小母さんたちがお茶の接待をしている。

「まあ、そうなんでございますか」
 そんな休憩所の一つで小母さんたちが涙してくれた。
 御霊さまは本物だし、佐伯中尉にとっては実の親友だったわけだし。ただ、わたしとヨッチンが偽物。
「自分は英霊の戦友ですが、この二人は妹と、その友人です」
 佐伯中尉は、シレっとハッタリをかます。
「妹さんなら、並んで行かれるのがいい。靖国に行かれるのなら遠慮は無用でしょう」
 同席した退役陸軍大佐が言ってくれる。
「それでは」
 
 佐伯中尉は、わたしに骨箱を持たせ、自分は横に並んだ。

「妹だなんて、すごいハッタリですね」
「ハッタリじゃありません、照代さんは雄の妹でしょ、所有格を省略しただけです」
 後ろにも聞こえたんだろう、ヨッチンまでクスクスと笑っている。
「お願いがあるんです」
 横に並んだのをいいことに、わたしは佐伯さんに切り出した。
「なんでしょう」
 雄は、次の出撃で死ぬ。
 戦死ではない、弾の補給に地上に降りて、交代で飛び立つ戦闘機の前に飛び出してプロペラに叩かれて命を落とす。
 わたしの中に居る千早さんが言っている。
 千早さんは、それを伝えるために、どこか遠い世界からやってきたんだ。
 そのことを伝えるのに、この三日ヤキモキしていた。
 こんなことを言ったらまともに取り合ってもらえないんじゃないかと思ったけど、佐伯さんはコクンと首肯した。
「そういう事故はたまに起こるんです。雄とは同じ中隊です。きっと気を付けておきます」

 佐伯さんは、不審にも思わず引き受けてくださった。

 靖国神社の大鳥居が見え始める九段坂、午後の日差しはうららかだった。
 
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高校ライトノベル・時かける少女BETA・21《大和と信濃と・6》

2019-06-07 05:54:16 | 時かける少女
時かける少女BETA・21
《大和と信濃と・6》                  


 
 ウェンライト少佐は、不覚にも細井中佐と仲良くなってしまった。

 細井中佐は多忙な中、少佐たち捕虜の面倒をよくみた。半分を市民に供給することを条件に畑を作らせてくれ、アイダホの農家出身の部下が、ジャガイモづくりを始め、鶏や豚も飼い始めた。少佐は100人に増えた捕虜のまとめ役になった。

「少佐、喜べ。アメリカに電話ができるぞ!」
 中佐が子供のような顔をして収容所にやってきた。
「本当かい!?」
「ああ、ただし、一度に五人までだがな。どこにかけても、だれと喋っても自由だ」
 そう言って、細井中佐は板チョコのようなものを五つ机に並べた。
「これが、電話なのか?」
「ああ、新型の無線機を改良したものだ。詳しくは言えんがアーチャーフィッシュを撃沈した時に使った無線中継器の性能が向上したんでな。使える回線が大幅に増えた。カミさんにでも大統領でも好きな相手に電話していい」
 ウェンライト少佐は、半信半疑で、ニューヨークの自分の家に電話してみた。

「……ジョ-だ、ケティか?」

「え……ジョー? いつ復員したのよ!? いまどこからなの、シスコ? サンディエゴ?」
「残念ながら、日本だ。先週船が沈められて捕虜になってる。広島の収容所からかけてる」
「収容所? そんなところから電話できるわけないじゃないの。誰だかしらないけどいたずら電話はよして!」
「切られちまった……でも、今の本当にケティなのか? オレも信じられない」
「何度も繰り返しかけてみるんだな。お互い同士しか知らないことを言えば信じてもらえるさ」
 三度目の電話で、ケティのホクロの位置を言って、やっと亭主であることを信じてもらえた。他の乗組員も交代で携帯電話に飛びついた。

 収容所は、勤労動員のために事実上空き家になった中学校の校舎があてがわれていた。市内の外れにある学校で、遠くに岸壁に繋がれ艤装工事中の大和と信濃が見える。信じられないことに、細井中佐は高倍率の双眼鏡まで置いていった。
「自由に街の中を歩いてもらってもいいんだが、市民感情が厳しい。しばらくは無理だ。その代りの双眼鏡だ。公共施設や軍事施設なら、どこを見てもらってもいいが、民家は覗かんでくれ。ただでも悪い対米感情が、さらに悪くなる」
 ウェンライトと、部下たちは、家庭連絡が一通り終わると、双眼鏡で見える港と船舶の動きを太平洋艦隊に直接連絡した。不思議なことに、日本側は盗聴も監視もしなかった。細井中佐にいたっては「双眼鏡では分かりづらいだろう」と、大和や信濃の図面まで持ってきた。

 アメリカ軍は、ウェンライトの情報をもとに偵察機を飛ばし、航空写真を何枚も撮って行った。で、あれだけの精度のある対空火器は、ほどほどの命中率になり、あれから10人ほどの捕虜が増えた。

 そんなある日、異様な飛行機を見た。
「艦長、ヘルキャットの編隊です!」
 部下が叫んだので、双眼鏡で確認した。なるほど遠目にはF6Fヘルキャットに似ているが、それは真っ黒なジョージ(紫電改)の六機編隊だった。
「夜間戦闘機……」
 それが常識的な答えだったが、少佐には違和感が残った……。


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