魔法少女マヂカ・036
三橋先生の数学が自習になった。
家庭事情らしいんだが、詮索はしない。
下手に関わると友里の時のようになる。継母との関係を円滑にしてやるために江の島弁天の助けを借りて、その貸しを返すために蝦蟇退治までやるはめになり、説明するのも面倒だけど、わたしの姉に擬態したケルベロスと東池袋で生活するハメになった。
わたしは、この令和の御代に休息にきているのだ。
だから、自習課題を一瞬で仕上げた後は、机に突っ伏して昼寝を決め込んでいる。
なんせ、窓際の席だ。指をクルリと回して、カーテン越しのお日様とエアコンの冷気をカクテルにして、心地よい微睡みに身を任せる。
コツコツ コツコツ
窓ガラスを遠慮気味につつく音で、二割がた目が覚める。
思念だけで、カーテンを五センチほどひらく。たとえ指先でも動かしてしまうと、完全に目が覚めてしまうからだ。
ん、カラス?
窓の外にカラスが居て、わたしのことを見ているのだ。
おまえ……ガーゴイル?
――お休みのところ済まない。放課後、ちょっと千駄木女学院まで来て欲しい。用件は女学院に来てから主に聞くといい。じゃな――
それだけを思念で伝えるとガーゴイルはさっさと飛んで行ってしまった。
ガーゴイルは因縁のライバル、ブリンダの使い魔だ。
関わるとろくなことは無い。なんせ、ブリンダとは神田明神の言いつけで休戦状態。直に来ないでガーゴイルを寄越してきたのは神田明神にも内緒と言うことだろう。面倒はごめん、無視に限る。
無視に決めた、無視だ無視無視。
「放課後、フェットチーネパスタのステーキ載せ作るよ(^▽^)/」
自習が終わると、嬉しそうに友里が寄ってきた。
「え、材料とかは?」
「安倍先生が気に入っちゃってさ、食材用意しとくって」
「ほんと? そりゃ楽しみだ!」
こないだの自衛隊メシはどれも美味しかったけど、フェットチーネパスタのステーキ載せは調理研向きだと思った。基本はパスタなので、放課後の短い時間でも十分作れる。ネックはステーキだけど、それを安倍先生が用意してくれるならラッキーこの上ない。
昼休み、ジャンケンに負けてしまってジュースを買いに行くことになった。
こういうささやかなイベントが心を和ませてくれる。
ジャンケンホイ! アイコデショ! ヤッター! ごくろーさん! リクエストのメモ! へいへい……。
階段を下りて一階の廊下、倉庫の前に差し掛かる。
トントン トントン
ドアの内側からノックの音。
うっかり立ち止まってしまう……ドアが静々と開いて、アルカイックスマイルの巫女さんが現れた。
神田明神の巫女さん。
「ブリンダさんのお願いをブッチしそうなので、神田からまいりました」
「え? なんで神田明神さんがブリンダの用事で?」
「日米同盟は、かつてないほど緊密なのです。人間界でもG20が開かれます。世界平和のためにもブリンダに協力してやれとの明神様の思し召しです。いいですね、くれぐれもブッチなどなさいませんように。あなかしこあなかしこ……」
放課後のフェットチーネパスタのステーキ載せはオアズケになりそうだ……。