大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・036『数学の自習時間』

2019-06-25 13:04:12 | 小説
魔法少女マヂカ・036  
 
『数学の自習時間』語り手:マヂカ  

 

  三橋先生の数学が自習になった。

  家庭事情らしいんだが、詮索はしない。
 
 下手に関わると友里の時のようになる。継母との関係を円滑にしてやるために江の島弁天の助けを借りて、その貸しを返すために蝦蟇退治までやるはめになり、説明するのも面倒だけど、わたしの姉に擬態したケルベロスと東池袋で生活するハメになった。
 わたしは、この令和の御代に休息にきているのだ。
 だから、自習課題を一瞬で仕上げた後は、机に突っ伏して昼寝を決め込んでいる。
 なんせ、窓際の席だ。指をクルリと回して、カーテン越しのお日様とエアコンの冷気をカクテルにして、心地よい微睡みに身を任せる。
 
 コツコツ コツコツ
 
 窓ガラスを遠慮気味につつく音で、二割がた目が覚める。
 思念だけで、カーテンを五センチほどひらく。たとえ指先でも動かしてしまうと、完全に目が覚めてしまうからだ。
 ん、カラス?
 窓の外にカラスが居て、わたしのことを見ているのだ。
 
 おまえ……ガーゴイル?
 
――お休みのところ済まない。放課後、ちょっと千駄木女学院まで来て欲しい。用件は女学院に来てから主に聞くといい。じゃな――
 
 それだけを思念で伝えるとガーゴイルはさっさと飛んで行ってしまった。
 ガーゴイルは因縁のライバル、ブリンダの使い魔だ。
 関わるとろくなことは無い。なんせ、ブリンダとは神田明神の言いつけで休戦状態。直に来ないでガーゴイルを寄越してきたのは神田明神にも内緒と言うことだろう。面倒はごめん、無視に限る。
 無視に決めた、無視だ無視無視。
 
「放課後、フェットチーネパスタのステーキ載せ作るよ(^▽^)/」
 
 自習が終わると、嬉しそうに友里が寄ってきた。
「え、材料とかは?」
「安倍先生が気に入っちゃってさ、食材用意しとくって」
「ほんと? そりゃ楽しみだ!」
 こないだの自衛隊メシはどれも美味しかったけど、フェットチーネパスタのステーキ載せは調理研向きだと思った。基本はパスタなので、放課後の短い時間でも十分作れる。ネックはステーキだけど、それを安倍先生が用意してくれるならラッキーこの上ない。
 
 昼休み、ジャンケンに負けてしまってジュースを買いに行くことになった。
 
 こういうささやかなイベントが心を和ませてくれる。
 ジャンケンホイ! アイコデショ! ヤッター! ごくろーさん! リクエストのメモ! へいへい……。
 階段を下りて一階の廊下、倉庫の前に差し掛かる。
 トントン トントン
 ドアの内側からノックの音。
 うっかり立ち止まってしまう……ドアが静々と開いて、アルカイックスマイルの巫女さんが現れた。
 
 神田明神の巫女さん。
 
「ブリンダさんのお願いをブッチしそうなので、神田からまいりました」
「え? なんで神田明神さんがブリンダの用事で?」
「日米同盟は、かつてないほど緊密なのです。人間界でもG20が開かれます。世界平和のためにもブリンダに協力してやれとの明神様の思し召しです。いいですね、くれぐれもブッチなどなさいませんように。あなかしこあなかしこ……」
 
 放課後のフェットチーネパスタのステーキ載せはオアズケになりそうだ……。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・連載戯曲『梅さん①』

2019-06-25 07:00:56 | 戯曲
連載戯曲『梅さん①』  


 
 
時 ある年の初春

所 水野家と、その周辺

人物 母(水野美智子 渚の母)
   渚(卒業間近の短大生)
   梅(貸衣裳屋、実は……)
   福田ふく(梅の友人、実は……)水野美智子と二役可




 幕開くと、水野家の玄関脇の庭。母の美智子が鼻歌まじりで洗濯物をとりこんでいる。明るい性格だが、子育てには失敗したようで、娘の渚は、わがままで刹那的な性格。生まれもった人の良さを、ほとんど損なっている。ややあって、家の前の四メートル巾の道路に見立てた花道(客席通路)を渚がキャリーバッグを引きずり盆栽のビニール袋をぶら下げ早足でやってくる。母の鼻歌が聞こえるやいなや……


: お母さああああああああああん!
: あら、お帰り。さっそくで悪いけど、洗濯物たたんどいてくれる。
 五時から町会の寄り合いがあんの。短時間だっていうけど、夕食前の五時なんてねえ、婦人部長だから仕方ないけど……町会長も考えてくれなきゃ……悪いけど夕飯は、お父さんと適当に食べといてね。
: お母さんっヽ(#`Д´#)ノ!!        
: なによお、怖い顔して、卒業旅行の帰りって顔じゃないわよ。
: これ!(スーパーの袋に入った梅の盆栽を、母の顔の前につきつける)
: あら、かわいい盆栽じゃない。白梅ね……おじいちゃんにもらったんでしょう? 
 やっぱり親類の家を利用するのが一番よね。伊豆の一等地で、宿泊代もただでお土産までもらって。
 盆栽のお土産って気が利いてるじゃないの、じいちゃんも増やしすぎてもてあましちゃったんだろうね。
 まだ蕾だから、水やりに注意して家の中に入れといたら四五日で開くわよ。玄関に置く? それともリビングの出窓にでも……
: あの!
: あ、飛行船が飛んでたでしょ! ツエッペリンての、ニュースでやってた。なんかの宣伝らしいけど、伊豆の海と山の上をゆーっくりと飛んでるの。見たかったなあ……渚は見たんでしょ!? 
: 人の話を聞かないで一方的にしゃべるのは、水野家の伝統のようね?
: あ、そう?
: 娘がこんな顔して帰ってきたら、理由聞くのが先でしょ!?
: ごめん、卒業旅行が羨ましくってさ。
 伊豆の海と空と飛行船、おまけにあんまりかわいい盆栽だからさ……どうかした? 
 ひょっとして盆栽きらい? だったらお母さんが……(手を出す)
: (さっとひっこめて)これは、あたしがくれって言ってもらったものなの!
: はあ……
: だから……
: だったら怒ることなんかないじゃない。
: だから聞いてよ! この梅はね、昨日まで、葉っぱや蕾がいっぱいついててゴージャスだったの、
 だからちょうだいって言ったの。卒業式も控えてるし、白梅学園て学校の名前にもピッタリだったし。
: おやおや、麗しい愛校心ね。そうだ、卒業式の衣裳決めてなかったでしょ、もう間に合わないから決めといたわよ。
 縁側にパンフ置いといたから見といて、今日明日くらいには配達してもらえる手はずになっているから。
: またそうやって勝手に事を……盆栽よ……盆栽!
 いつしょに行ったトコとかサチはきれいに散髪しといてくれって言ってたけど、あたしの梅はボサボサのまんまがいいって、
 じいちゃんちっとも話聞いてないんだから!
: じいちゃんらしいねえ。
: そのくせ、湯かげんはどうかって、お風呂入ってる時に覗きに来るし。
: アハハ……
: アハハじゃないわよ。就職したら、カチコチのスーツ、髪だって眉のとこまで切るんだよ、チョンチョンにさ。
 ミッションスクールじゃあるまいし……そんなみじめな自分の姿とも重なるってことも考えないで、こんなに散髪しちゃって……
: 剪定っていうのよ。花が開いたときにちょうど良い姿にするために、開花するちょっと前にも……(自分でパンフをとりにいく)
: あたしはボサボサがいいの!
: ほら、卒業式の衣裳。やっぱ紺の袴に矢絣、これにしといたよ。
 まあ、モデルさんほど清楚なべっぴんてわけにはいかないだろうけど、馬子にもなんとかっていうから……
: もう、そうやってみんななにもかも勝手に……
: 勝手なことばっかり言うんじゃないわよ! 
 文句があんなら、どうして旅行の前に決めとかないの、
 前から言ってるでしょ。盆栽だって、じいちゃんが善意でしてくれたことでしょうに。
 それをそんなに悪く言うもんじゃないわよ!
: 勝手がしたいの! 
 もう大人になって、社会人になって、着るものから髪型までうるさく言われる会社に入って、
 三月半ばから、もう研修とかでしばられっぱなしで、この半年一年は、息もつけないんだよ。
 それを、その直前ほんのちょっとわがまま言ったり、勝手言ったりしちゃいけないの!? 衣裳だってスマホで送るなり……  
: おじいちゃんちは圏外なの、知ってんでしょ。裏山で電波届かないって!
: 電話で話してくれるだけでもいいじゃない!
: 電話でイメージなんか伝わらないでしょ。だいいち、旅先に電話なんかしてくんなって行ったのは渚の方なんだよ!



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・高安女子高生物語・6〔我が家の事情&初稽古〕

2019-06-25 06:47:58 | 小説・2
高安女子高生物語・6
〔我が家の事情&初稽古〕  


 我が家には定期収入が無い。

 お父さんもお母さんも、もとは学校の先生やったけど、二人とも早期退職してしもた。
 お父さんは、あたしが中学上がるときに。
 お母さんは……多分小学校の三年のときに。

 なにから話したらええんやろ……。

 お父さんは、高校の先生やった。けどいわゆるドサマワリいうやつで、要は困難校専門の先生。
 校内暴力やら喫煙は当たり前で、強盗傷害やらシャブやってるような子ぉまでおった。当然勉強はでけへん。240人入学して、卒業すんのは100人もおらへん。たいていの子ぉが一年のうちに辞めていきよる。せやから学校で一番しんどい仕事は一年生の担任。運が良うても、クラスの1/3は辞めていく。人数で12人から18人くらい。それを無事に退学させんのが担任の仕事。それも学校に恨みを残すような辞めさせかたはあかん。
「ありがとうございました。お世話になりました」
 と、学校には感謝の気持ちを持たせて辞めさせる。専門用語では『進路変更』というらしい。辞めるまでに、電話やら家庭訪問やら何十編もやる。お父さんは『営業』や言うて割り切ってたけど、ほんま日曜も、よう出かけてた。
 そんな最中にお婆ちゃんが認知症になっておかしなりはじめた。放っとけんようになって、お父さんは、初めて担任を断った。子供心にも「当たり前や」思うた。
 せやけど、えげつない学校で、お父さんをムリクリ担任にしよった。最後は職員会議で「佐藤先生を担任にする動議」に掛けられ賛成多数で担任に。お父さんは四月一日から落第で落ちてきた生徒の家庭訪問に行ってた。土曜は祖父ちゃん婆ちゃんの面倒見にいって、日曜の半分は家庭訪問やらの仕事して、月に二回くらいは早朝に祖父ちゃんから電話で呼び出される。
「救急車ぐらい、自分で呼べよなあ……」
 そうグチりながらも、茨木の実家まで行って世話してた。ほんで五月に婆ちゃんが認知症のまま骨折で入院してしもた。介護休暇とって世話してたけど、復帰したらクラスはムチャクチャ。
 こんなんが、二年続いて、お父さんは鬱病になってしもた。
 で、二年休職したけど治らへんで辞めざるをえんかった。

 お母さんも似てる。お祖父ちゃん(お母さんのオトン)が腎臓障害から、ほとんど失明した上に、心臓疾患と脳内出血で長期入院。お婆ちゃんは脚が不自由で、世話はお母さんと伯母ちゃんでやってた。
 そこへ、いきなり六年生の担任やれと校長のオバハンに言われた。お母さんの学校は情に厚い人がおって「佐藤先生の代わりにボクがやります」いう人まで現れた。
「わたしが、校長としていっぺん判断したことやから、変えられません!」
 意固地な女校長で、お母さんも頭にきてしもて、三月の末に辞表を出しよった。
 お母さんは、それから講師登録して講師でしばらく続けてたけど、あたしが高校いく直前に、それも辞めてしもた。

 子供心にも、どないなんねんやろ思うたけど……どないかなってるみたい。

 お父さんもお母さんも、万一のために、わりと貯金してたみたい。それと個人年金でなんとかなってるみたい。
 ついでに、あたしが生まれたんは、お父さんが43歳、お母さんが41歳のとき。二人とも歳よりは若う見える。
「あたしのことが生き甲斐になってんねんで」
 と言うけど、どうも夫婦そろて生来の楽天家みたい……言いながら、お父さんの鬱病はまだ完治せえへん。月一回の通院と眠剤が欠かされへん。

 で、家の事情を長々と説明したんは……もう分かってると思うけど。

 今日から学校で稽古が始まる。芝居の事なんか考えたないもん。
 
 やっぱり一人芝居の主役はしんどいねん!!


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・里奈の物語・5『野生の菊』

2019-06-25 06:36:36 | 小説3
里奈の物語・5『野生の菊』



 テロのニュースばっかり。

 先月は大学ラグビーとマンションの杭打ち偽装だった。
 嫌なニュースばっかり……え、ラグビーはいいニュースだろうって?

 水を差すようで悪いけど、あたしはかなわない。

 なぜって?

 説明が難しい……。あたしには、パリの同時多発テロもラグビーの熱狂も同じ。

 言わなきゃよかった、もう変な奴と思ってるでしょ?


 伯父さんちは、表が『アンティーク葛城』、裏が別棟の住居。
 住居側の前は、幅5メートルほどの生活道路、で、道を挟んで町工場の裏手に面している。
 伯父さんたちは、この生活道路を裏道と呼ぶ。たしかにお店の有る方が表で、車も人の通りも多い。

 でも、そっち側は人も車も景色の一部。生活には関りのないVRゲームの映像のようなもの。リアルの姿をしていてもPCのアルゴリズムで動いてるNPC。

 こっち側は違う。通る人も自転車も「地域のそれ」だ。予想していたより「地域のそれ」だ。目を合わしたりすると挨拶、挨拶ですめばいいが、踏み込んだ会話を吹っ掛けられて、ゲロが出そうになる。
 朝からハイテンションで挨拶を交わす声や、ご近所同士の話し声、登校する子どもたちのさんざめきがする。

 うっかり外に出ると、この「地域のそれ」に襲われる。

 けども、「地域のそれ」には波がある。八時半を過ぎると、それこそ波が引くように静かになる。
 子どもたちは学校だし、男たちは通勤電車の中、奥さんたちはパートに出かけたり、それぞれの家で掃除や洗濯。

 その隙を狙って表に出る。

 昨日は手ぶらだったけど、今日は、はてなの鉄瓶をぶら下げている。
 鉄瓶には水が入っている。はてなの鉄瓶なので「はてな」という、なんだか女の子の名前。
 漢字にしたら「果奈」とかね。
 水漏れとかするんだけど、短時間なら問題ない。

「アッ…………!」

 出かけた悲鳴を飲み込んだ。
 昨日見つけた野生の菊が、無残に踏みしだかれている。

 菊は、町工場の塀と道路の間の僅かな隙間から生えている。
 スコップを持ってきて移し替えてやることができない。
 引っぱれば、プツンと切れてしまうだろう。だから、こうやって鉄瓶に水を入れて世話をすることにしたんだ。
 それが二日目で無残なことになってしまった。

 どうしていいか分からなくて、はてなをぶら下げたまま立ちつくした。

 はてなから、ポタリと水がしたたり落ちる。まるで涙を流しているみたい。
 不登校とはいえ高校生。あたしは泣くわけにはいかない。

 泣いたっていいのに、へんなプライド。

「里奈ちゃん、どうした?」
 後ろで伯父さんの声がした。
「ううん、なんでも……」
 なんでもないわけはない。大きなドンガラをした女の子(といっても150センチ)が鉄瓶をぶら下げてションボリしているんだ。
「ああ、菊か」
 伯父さんは事態を飲み込んで、事態を収拾してくれた。

 一筋向こうへ回って、町工場に話しを付け、丁寧に塀の向こうから掘り起こして小さな植木鉢に移し替えてくれる。
 その間、わたしは家に駆け戻って心臓バックンバックン。
 伯父さんと町工場の人の会話が切れ切れに聞こえる。「うちの姪が……」「ああ、そういえば……」とかの内容が耳につくと、マジで朝ごはんが逆流してくる。

 ウップ……。

 トイレに駆け込んで水を流す。
 それを待っていたように雨が降ってきて、水を流す音はかき消される……。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・時かける少女BETA・39《コスモス坂から・12》

2019-06-25 06:25:55 | 時かける少女
時かける少女BETA・39 
《コスモス坂から・12》 


 どうして北C国の犯行が予見できたのか?

 マスコミの質問を要約すると、この一つになった。
「わたしは、小説を書くために資料を集め、情報のネットワークを持っています。そこからの情報としか申し上げられません」
「で、その情報源は?」
「申し上げられません」
 おおむね、この会話で終始した。
 
 芳子自身、実のところ勘とか閃きとしか言いようが無かった。でも、秘密めかしくしておくことで、有りもしない組織を感じさせ、これからの自分の言動を大きく意味のあるものにすることができた。

「芳子と付き合ってると、CIAのエージェントと思われちまった」
 というアメリカの軍人や外交官も少なからずいた。芳子の交友関係は、8か国数十人にのぼったが、実際は単なる軍人や企業家、外交官などの趣味を通じてのお友だちにしかすぎなかった。しかし、政治家を含め日本の権威と言われる組織や個人をけむに巻くには十分だった。芳子の外人の友人たちも「この中に、本物の諜報関係者がいるに違いない」と思わせたほどである。

「芳子のおかげで、うちの日日新聞の人事が一掃されたぜ」
「でも、実売部数は増えたでしょ。お兄ちゃんも出世したんじゃないの?」
「そういう話は、全部断った。オレは一生現場の記者だ。しかし、今度のことで日日新聞は変われたよ。礼を言う」
 勲は、J国倭国版と揶揄された姿勢を180度転換。取材と資料に基づく公正な新聞へと変貌していった。
 妹久美子の亭主、真一も、やがて党の議員となり、空想的社会主義者と言われていた井土玉子らの勢力を一掃し、S党を地に足の着いた健全な野党として再建していった。

 そして、なにより北C国の拉致を初期段階で止められたことである。すでに拉致されていた十数名もC国の幹部に回りまわって影響を及ぼす。つまり不正蓄財や、権力行使の尻尾を掴むことによって、北C国に釈放させたのである。

「よっちゃん、オレ総理大臣になっちまった!」

 喜びと驚き半々で、真一が芳子に電話してきたのは、94年の秋のことであった。衆参同時選挙でJ党は大敗を喫したが、政敵であったS党と連立を組むという離れ業で政権に残り、なんとS党の党首になっていた真一が総理に担ぎ上げられた。
「ちょっと外国人の口から、日本のことを言ってもらうよ。まあ、お楽しみに」
 真一は、アジアを中心に精力的に外国を回り、いかに世界が日本に期待しているかを外国の元首の口を通して言わしめた
 真一は、アジアはご近所の三か国だけではないことを日本人に印象付けた。真一は自分の代では無理でも、のちのち憲法を改正できるように布石をうちつつあった。

 そんな真一の政権が、ようやく軌道に乗り始めた、95年1月17日に阪神淡路方面で巨大な地震が起こった。

 内閣が発足したときに作っておいた内閣危機管理体制が有効に働いた。
 地震発生5分後には阪神地区の自衛隊に災害出動を命ずると共に、実質的な指揮権を危機管理室次長に一元化した。米軍から海上輸送基地としての空母派遣の打診があり、真一は次長の意見に従い打診を受け、空母はあくる日には神戸沖に達し救助や支援物資の中継基地として、その役割を果たせた。
 自衛隊の初期活動が早かったので、二次火災も最低に抑えられた。

 死者は1500人に抑えられた。大半が建物の倒壊による犠牲者で、火災による死者は僅かだった。それでも、野党やマスコミから叩かれたが、国外の専門家から、この規模の地震なら1万人近い犠牲者が出ても不思議ではない。そう言われて国内の世論は、批判から賞賛へと変わっていったのだ。

 震災復興が一段落した秋、ようやく一日の休暇が取れ、真一夫妻と勲はコスモス坂にやってきた。

「お姉ちゃん、ただいま!」
 久美子の声に応えはなかった。
「あれ……」
 30分ほど芳子を探した。でも、ついに見つからなかった。

 コスモス坂は、名前の通り坂一杯のコスモス。それが夕凪の時間だというのに一斉にそよいだのが小さな異変ではあった。


※:この話はフィクションであり、現実に存在する組織個人とは無関係です 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・46』

2019-06-25 06:10:47 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・46  

 

『第五章 ピノキオホールまで・7』

「あら、映画行ったんじゃないの?」

 皿洗いの手を止めて、お母さんが聞いた。

「映画だと着替えて行かなきゃなんないし。たまにはお客さんで来ようって。ね、由香」
「こんにちは、おじゃまします」
 わたしは映画をやめて、由香を誘って、志忠屋へ初めてお客としてやってきた。
「シチューは、もう切れてるけど日替わりやったらあるで。はい、おまち。本日のラストシチュー」

「ごめんなさいね、わたしがラストのオーダーしてしもたから」

 キャリアっぽい女の人が、すまなさそうに言った。

「いいえ、わたしたち日替わりでいいですから」
「はい」
「アフターで、アイスミルクティーお願いします」
「このオバチャンやったら気ぃ使わんでええから」
「気ぃも、オバチャンも使わんといてくれます」
 と、キャリアさん。
「紹介しとくわ、これがさっき噂してた文学賞のホンワカはるか」
「トモちゃんの娘さん? 作品読ませてもろてたとこよ」
 もう、お母さんたら。ただの佳作なんだよ、佳作ゥ!
「で、ポニーテールのかいらしい子が、友だちの由香ちゃん。黒門市場の魚屋さんの子ぉ」
「ども……」
 コクンと二人そろって頭を下げる。
 もっと、きちんと挨拶しなきゃいけないんだけど、このキャリアさんはオーラがあって気後れしてしまう。カウンターの中から「よろしく」って感じで、お母さんがキャリアさんに目配せ。
「この、オ……ネエサンは、大橋の教え子で叶豊子、さん」
「トコでええよ」
「大橋先生に習ってらっしゃったんですか?」
「うん、三年間クラブの顧問」
「昔から、あんなコンニャクだったんですか!?」

「コンニャク!?」

 それから、しばらく大橋先生をサカナにして、五人はしゃべりまくった。
 昔は怖い先生だったようだ。部活中に引退した男子部員とケンカして二十八人いた部員が、ケンカし終わったら三人に減ってしまい、やけくそで書いた作品が近畿の二位までいったこと。気合いの入っていない稽古ではスリッパを飛ばしていたこと。字は今よりもヘタクソだったこと……など。いずれも今の先生からは「ヘー!?」と「ナルホド」であった。

「先生のヤンキースのスタジャンは?」
「あれ、なかなかシブイですよね」
 お母さんが合いの手。
「あいつは、野球がキライやねん」
「ええ!?」
 と、トコさんを除いた女三人
「阪神が優勝したときにね、この店でみんなで盛り上がって、先生一人ハミゴになってしもて」
トコさんがクスクス笑いながら言った。
「ハミゴってなんですか?」
「ハミダシッ子いう意味」
 トコさんが、自ら翻訳してくれた。
「で、次来たときにはあれ着とった。シニカルなやっちゃ」
「ヤンキースファンなんて、まずいないでしょうからね」
 と、お母さん。しばらく、大橋先生の棚卸しは、終わらなかった。
 トコさんは、話しているうちに高校生みたくなってきて、というか、わたしたちが慣れちゃって、ちょっと上の先輩と話しているような気になって、アドレスの交換までしちゃった。
「うちの店で、買うてもろたら、サービスさせてもらいますよ」
 由香は、ちゃっかりお店の宣伝。店の写メまで見せてる。

「わ、大きなお店!」

「……の、隣です」
「ハハ、今度寄らせてもらうわ」
「まいど!」
「はるかちゃん、台本見せてくれる」
「はい、これです」
「わあ、ワープロや! 昔は先生の手書きやった」
「そら、読みにくかったやろ」
 タキさんが、チャチャを入れる。
「慣れたら、味のある字ぃですよ。わ、香盤表と付け帳は昔のまんま」
「大橋、エクセルよう使わんもんなあ」
 後ろで、お母さんが笑ってる(お母さんもできないもんね)
「あ、はるかちゃんの、カオル役はお下げ髪やねんね」
「はい。それが?」
「先生、お下げにしとくように言わへんかった?」
「いいえ」
「昔、メガネかける役やったんやけど、一月前から度なしのメガネかけさせられたよ。役はカタチから入っていかなあかん言われて」
「そうや、はるか、お下げにしよ!」
 由香が調子づいた。
「うん、やってみよう。お下げなんて、小学校入学以来だもん!」
 お母さんまで、はしゃぎだした。
 あーあ、わたしはリカちゃん人形かよ……。
「はい、できあがり」

 と、お下げができたとき、トコさんのケータイが鳴った。

「……はい、分かりました。木村さんですね。すぐ行きます。ううん、ええんですよ。こういう仕事やねんから。ほんなら、また。あたし木曜日が公休で、月に二回ぐらい、ここにきてるさかい、また会いましょね」

 トコさんはキャリアの顔に戻って店を出て行った。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする