大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・連載戯曲『あすかのマンダラ池奮戦記⑦』

2019-06-22 06:54:27 | 戯曲
連載戯曲
『あすかのマンダラ池奮戦記⑦イケスミ危機一髪!』




フチスミ: 近いわ!
イケスミ: あすかは無事に!?
フチスミ: 無事に道を見つけた。向こうはまだ安全だ!
イケスミ: それはよかった。でも、その分、こっちに集中しまくってるぞ!
フチスミ: 数が多い……
イケスミ: よく用意しといてくれた。これだけの禍つ神にいちいち手づくりの気を飛ばしていたら、体がもたんからな!
フチスミ: 封じ込めてあった鬼の気を、枝や竹の切れ端にこめておいたの!
イケスミ: それで鬼岩の気が弱くなっていたのか!
フチスミ: その奇数番号の太い竹を撃ってみて。オートの百連発だから……!
イケスミ: よっしゃああああああああ!
   
 三番のオートを撃ちまくるイケスミ、花火大会のクライマックスのように盛大に盛り上がり、急速に静寂がおとずれる。二人とも、ざんばら髪に制服姿も痛々しげに乱れている。やがて、イケスミが腰を抑えてくずおれる。

フチスミ: なんとか、やっつけたみたいね……
イケスミ: この百連発は腰にくるよ……
フチスミ: うん、だからイケスミさんにまかせたの。
イケスミ: あのなあ……(^_^;)
フチスミ: わたしの華奢な体じゃ、扱えないもの。
イケスミ: だって、依代についてんだろ。多少の無理は……
フチスミ: 桔梗に負担はかけたくないの。
イケスミ: そのために依代についてんだよ。依代につくから、このサトから出ることもできるし、サト中じゃ依代につくことで何十倍もの力を発揮できるんだぞ。
フチスミ: でも、依代にも負担がかかるんだよ。
イケスミ: そこはギブアンドテイク。だからあすかだって……
フチスミ: 桔梗は、今度の地震で天涯孤独の身。危ない目に遭わせたくない……それに桔梗って、おとなしそうに見えて、けっこう戦闘的な子なの、そんなの持たせたら、どこまでやるかわからない。奇数番号のオート持てるだけ持って自爆さえしかねない子よ。ほら……もうわたしの支配から離れて、勝手に動こうとしている……ダメよ桔梗、全てをわたしにゆだねなければ……ゆだねなければ……桔梗! き、き、桔梗……!(桔梗を封じ込めるように身もだえする)
イケスミ: あすかの半分も要領かませれば、もっと気楽に世の中渡っていけるのにな……
フチスミ: 桔梗も好きだけど。あすかって子のハッキリしたところも好きよ。
イケスミ: イケメンコーチと同じ大学うけられてルンルンだろうな。でも、頭はともかく、あの器量だから、いずれふられるだろうがな。でも、あすかはそうやって成長……(何気なく自分の手を見て愕然とする)
フチスミ: ……どうしたの?

イケスミ: 手が……体が透けてきた。結界がほころび始めているんだ。今日一日ももたないぞ……二、三時間で消えてしまうかもしれない……!

フチスミ: しっかりして! 
イケスミ: もう少し……
フチスミ: もう少し?
イケスミ: もう少し、あすかを足止めしておくべきだった、依代さえいれば……そうだ、ふんぱつして惚れ薬で彼氏の心をとりこにするぐらいのことを……
フチスミ: バカ!(イケスミをはりたおす)
イケスミ: ……なにすんだ!?
フチスミ: あなたに欠けているのは信じる心よ。必ずオオミカミさまはおもどりになる! けして、この里をトヨアシハラミズホノサトをお見すてになったりはしない!
イケスミ: だって、だってなあ……!
フチスミ: 霜月を過ぎて、まだたったの三週間あまり……きっとおもどりになる。あなたもさっきそう言ってたじゃない。だから、あの禍つ神達も恐れてる。一気に力攻めにはしてこない、ゲリラのように小攻めに……
イケスミ: 今のが小攻め?
フチスミ: ……威力偵察ね。ちょっと強めにあたって、相手の強さを知る。
イケスミ: 思い知っただろう、ほとんど全滅にしてやったから。
フチスミ: しばらくは攻めてこないわ。
イケスミ: そして今度攻めてこられたら、こっちが思い知る番だな(自分の透け始めた体を見て)わるいけど、やっぱニ三時間……それも無理かも……
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高校ライトノベル・里奈の物語・2『従姉の妙子ちゃん』

2019-06-22 06:38:49 | 小説3
里奈の物語・2
『従姉の妙子ちゃん』


 里奈ちゃん……?

 声をかけられたのは、アンティーク葛城の前で四時間近く待ってからだった。
「あ…………」
 顔を上げたそこには、リクルート姿のひっつめ頭が立っていた。
「分からへんか?」
 そう言うと、リクルートはひっつめ頭を崩して眼鏡をかけ、口をωにしたた。
「え……妙子ちゃん?」
 互いの正体が分かると同時に晩秋の雨が降ってきた。

 七年ぶりのアンティーク葛城はなにも変わっていない、妙子ちゃんがドアを開けた瞬間に分かった。
 店内の様子ではなくて、空気の匂いで分かる。
「あいかわらず、骨董品の臭いでしょ」
「好きよ、この匂い」
「ふふ、そうなんや。そやけど住居部分はちゃうねんよ」
 妙子ちゃんが、壁際の紐を引っぱるとタペストリーが巻きあがり、ドアが出現。
「こんなところにドア!?」
「へへ、どこでもドア」

 なんと、裏の家が売りに出たので、五年前に買って、元の店舗兼住宅と繋いだのだ……妙子ちゃんの説明。

「ここ使って。兄貴の部屋やったけど、半年も居てへんかったからサラ同然」
「うわ……こんなにいい部屋」
 妙子ちゃんは、三階の六畳の部屋を提供してくれた。妙子ちゃんの部屋は廊下を挟んだ向かいだ。
「近いうちに片付けるから、辛抱してね。里奈ちゃん、お腹空いたでしょ、用意するから待っててね」
 そう言うと、妙子ちゃんはリクルート姿のまま二階に下りて行った。

 七年前の妙子ちゃんは、いまのあたしと同じ高校生だった。それがもうリクルートで就活。
 七年の開きがあるんだから、当たり前っちゃ当たり前。でも、いまのあたしには天と地ほどの違いで、チョー眩しい。

 あたしには……未来が無い。

「里奈ちゃ~ん! ごはんできたよ!」
 妙子ちゃんの声にびっくりした、わずかの間に眠ってしまったようだ。
 13日の金曜日にひっかけて、軽い気持ちで出てきたけど、やっぱり自分は騙せない。あたしがここに居るのは大変なことなんだ。
「無難なとこでブタ鍋。これやと料理下手なのごまかせるから」
「そんなこと……ブタ鍋は、お祖父ちゃんも大好きだったでしょ。あたしも好きよ」
「お父さんもお母さんもごめんね。里奈ちゃんが今日くるとは思うてなかったみたいで」
「いいよ……あたしってオオカミ少女だったから」

 あたしは、この伯父さんちに行く行くって百回ほども言いながら、そのたんびにすっぽかしてきた。

 だから、お母さんが連絡しないのは当たり前なんだ。でも、自分の事をオオカミ少女って言うと……そんなつもりじゃなかったけど、凹んでしまう。
 そんなあたしを気遣って、妙子ちゃんは「ほい、できたよ!」と土鍋の蓋を取った。
 湯気がかかったふりして涙を拭いた。

「妙子ちゃん、もう就活なんだね」
 薬味をポン酢に入れながら、話題を変えた。
「いややわ、あたし、この三月に就職したわよ」
「え……?」
「あ、さっきの格好? ハハ、実は、今日から関連会社に出向。今日は顔見せ、初日やからね。改まったナリいうたら、ああなってしまう」

 出向……その大変さは、よく分かっている。

 うちの親が離婚したのは、そもそもお父さんの出向が原因だった。
 それを、妙子ちゃんは、就職半年で体験したんだ……それも、ニコニコとωの笑顔で。

 妙子ちゃんが、とても偉く思えた……。


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高校ライトノベル・高安女子高生物語・3〔おこもりの元旦〕

2019-06-22 06:28:20 | 小説・2
高安女子高生物語・3
〔おこもりの元旦〕        
 
 
 良くも悪くも忘れっぽい。
 
 友だちとケンカしても、たいてい明くる日には忘れてしまう……ちゅうか、怒りの感情がもたへん。宿題を三つも出されたら一つは忘れてしまう。まあ、忘れへんのはコンクールの浦島の審査ぐらい。昨日も言うた? ええかげんひつこい。あたしには珍しい。
 で、忘れたらあかんもんを忘れてた。
 去年の七月にお婆ちゃんが亡くなったこと……。
 夕べお母さんに言われて、仏壇に手え合わせた。
 納骨は、この春にやる予定なんで、お婆ちゃんのお骨は、まだ仏壇の前に置いてある。毎朝水とお線香をあげるのは、お父さんの仕事。実の母親やねんから、当たり前言うたら当たり前。
 お母さんは、お仏壇になんにもせえへん。むろんお葬式やら法事のときはするけど、それ以外は無関心。
 佐藤家の嫁としては、いかがなもんか……と思わんこともないけど、そのお母さんに「喪中にしめ縄買うてきて、どないすんねん!」と言われたから、あたしも五十歩百歩。
 お婆ちゃんは、あたしが小さい頃に認知症になってしもて、小学三年のときには、あたしのことも、お父さんのことも分からんようになってしもた。
 それまでは、盆と正月には茨木市のお婆ちゃんとこ行ってたけど、行かんようになった。
 
 最後に行ったんは……施設で寝たきりになってたお婆ちゃんの足が壊死してきて、寝屋川の病院に入院したとき。
「もう、あかんかもしれん……」
 お父さんの言葉でお母さんと三人で行った。
 そのときは、JRの電車の中で、お婆ちゃんのことが思い出されて泣きそうになった……。
 保育所のときに、お婆ちゃんの家で熱出してしもうて、お婆ちゃんは脚の悪いのも忘れて小児科のお医者さんのとこまで連れて行ってくれた。
 無論オンブしてくれたんはお父さんやけど、あたしのためにセッセカ歩くお婆ちゃんが、お父さんの肩越しに見えて嬉しかったん覚えてる。
 粉薬が苦手なあたしのために指先に薬を付けて舐めさせてくれたんも覚えてる。その後、お母さんが飛んできて、一晩お婆ちゃんとこに泊まった。お布団にダニがいっぱいおって、朝になったら体中痒いかったんも、お婆ちゃんの泣き顔みたいな笑顔といっしょに覚えてる。
 それから、お婆ちゃんは脳内出血やら、骨盤骨折やら大腿骨折やらやって、そのたんびに認知症がひどなってしもた。
 お祖父ちゃんも認知症の初期で、お婆ちゃんのボケが分からんくて放っておけへんようになった。
 最初は介護士やってる伯母ちゃんが両方を引き取り……この間にもドラマがいっぱいあんねんけど、それは、またいずれ。
 
 伯母ちゃんも面倒みきれんようになって、介護付き老人ホームに。ほんで、お婆ちゃんは自分の顔も分からんようになって「お早うございます」と鏡の自分に挨拶し始めた。
「しっかりせえ!」
 お婆ちゃんの認知症の進行が理解でけへんお祖父ちゃんは、お婆ちゃんにDVするようになってしもて、脚の骨折を機に、お婆ちゃんだけ特養(特別養護老人ホーム)に行くことになった。
 それが三年のとき。お父さんは介護休暇を取って、毎日お祖父ちゃんとお婆ちゃんの両方を看てた。
 
 お祖父ちゃんの老人ホームと、お婆ちゃんの特養は二キロほど離れてた。お祖父ちゃんを車椅子に乗せて、緩い上り坂のお婆ちゃんの特養まで押していった。むろんあたしはチッコイのんで、手を沿えてるだけで、主に押してるのはお父さん。
 せやけど、道行く人らは、とてもケナゲで美しく見えるらしく、みんな笑顔を向けてくれた。お祖父ちゃんもあたしも気分よかった。
 その日は、たまたまお母さんが職場の日直に当たってて、あたし一人家に置いとくことがでけへんので、お父さんが連れて行ってくれたんと分かったのは、もうちょっと大きなってから。
 お父さんは、三か月の介護休暇中毎日、これをやっていた。
 お祖父ちゃんは11月11日という覚えやすい日に突然死んだ。中一の秋やった。
 あたしはお婆ちゃんが先に死ぬ思てた。
「お祖父さんが亡くなられた、お父さんから電話」
 先生にそう言われたときも、お婆ちゃんの間違いかと思った。
 そして、二年近くたった、去年の七月にお婆ちゃんが一週間の患いで亡くなった。
 見舞いは行かへんかった。お父さんと伯母ちゃんが相談して延命治療はせんことになってたので、亡くなるまで特養の個室に入ってた。お父さんは見舞いに行きたそうにしてたけど、お父さんは鬱病が完全に治ってない(このことも、チャンスがあったら言います)こともあって、伯母ちゃんから言われてた。
「あんたは来たらあかん」
 
 で、七月の終わりにドタバタとお葬式。それなりの想いはあったんやけど、昨日は完全にとんでしもてた。我ながら自己嫌悪。
 
 で、お仏壇に手ぇ合わせて二階のリビングに。で、観てしもた。
 テレビ朝日「あの名曲を方言で熱唱 新春全日本なまりうたトーナメント」
 
 東京で見る雪は こっでしまいとね🎵
 とごえ過ぎた季節んあとで🎵
 去年より だっご よか女子になっだ🎵
 
 普通に歌うてたら、どういうこともないねんけど、方言で歌われるとグッとくる。熊本弁の『名残雪』なんか涙が止まらへんかった。
「なんでやろ……」
 呟くと、お父さんが独り言のように言った。
「方言には二千年の歴史がある。標準語とは背たろうてる重さがちゃう……」
 背たろうてる……
 なるほどと思った。方言は普段着の言葉で、人の心に馴染んで手垢にまみれてる。歴史を超えた日本人の喜怒哀楽が籠もっている。そうなんや……。
 そう納得した瞬間に、お婆ちゃんのことも、読まんとあかん台本も飛んでしもた。
 かくして、おこもりの元旦は日が暮れていった……。

 
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高校ライトノベル・時かける少女BETA・36《コスモス坂から・9》

2019-06-22 06:14:48 | 時かける少女
時かける少女BETA・36
《コスモス坂から・9》


『ワカメからサザエへ』

「ダメだ、描けない!」

 真一は鉛筆をスケッチブックごと投げ出した。
「もう、今日は、これで三度目よ」
 芳子は辛抱強くスケッチブックと鉛筆を拾い上げ、ベッドの真一の膝元に返してやった。
「今日は、もういい……」
「そんなこと言ってたら一生絵なんか描けなくなるわよ。さ、鉛筆持って、太平洋の水平線を見るのよ!」
「こんな手じゃ、水平線なんて描けない。もう絵なんか描けないよ……」
「そんなの覚悟でデモに参加したんでしょ。なによ、右手に障害が残ったぐらいで投げ出して。世の中には左利きの絵描きさんだってたくさんいるわ。ダヴィンチもピカソも左利きよ」
「それは、みんな生まれながらの左利きだ。この歳で利き腕を変えて、まともな絵なんか描けないよ……」
「そう。じゃあ、そうやってめそめそ嘆いていなさいよ。弱虫の真一なんか大嫌いだから!」
「君が、そんなにシンパシーのない女だとは思わなかったよ!」
「じゃ、もう勝手になさいよ!」
 鞄を掴むと、芳子はさっさと、病室を後にした。

 湘南の海に向かう坂道は近所ほどではなかったが、あちこち咲いているコスモスが涙で滲む。

 それから三月、芳子は真一に会うことはなかった。
 情けなかった。兄の勲は日和って新聞記者になるし。真一は拗ねてめそめそするばかり。
 安保条約と、その体制が100%正しいとは思わない。でも今の日本が取りうる一番ベターな道だったと思う。これをやり遂げた大人たちは偉いと思った。戦時中の生まれではあるけど、直接戦争を知っている者と、戦後のおとぎ話のような平和主義を教えられた若者の差……日本の若者を、そんな風にしてしまったものを芳子は憎んだ。

 年が明けた三学期。小春日和に、芳子は久々に七里ヶ浜で降りて海岸に向かった。

 駅から海岸に向かう緩い斜面で、それは目に入った。
 真一と久美子が肩を並べて波打ち際を歩いていたのだ。
 二人の距離は、自分の時より近いように感じた。瞬間嫉妬心かと思ったが、心の底を探っても、そんな暗くて熱い感情は無かった。ただ、マンガの一ページをめくったら見開き一杯が大どんでん返しのドアップであったような驚きだった。

「真一くん元気になったんだ」

 タイミングが悪かったんだろう、久美子は飲みかけのフルーツ牛乳にむせ返った。家の風呂が故障したので、姉妹で坂下の銭湯に来ている。久美子は銭湯が珍しく、番台のオバサンに入浴料を余分に渡すやいなや、フルーツ牛乳に飛びついた。
「そういうのって、風呂上りに飲むもんじゃないの?」
「いいの、上がってからはコーヒー牛乳飲むんだから」
 そう言った直後に話をふったのが悪かったのかもしれない。
「お姉ちゃん!?」
「ずっと前から分かってた。いいよ、久美子がワカメやれば。あたしはサザエさんになるから」
「お姉ちゃん……」
「さあ、さっさと脱いでお湯につかりましょう!」
 久美子の服の脱ぎ方が子供の頃とちっとも変っていないのが微笑ましく気恥ずかしくもあった。
「もう少し、女の子らしくしなさいよ」
「え、あ、そう」
 そう言って、改めて恥ずかしそうに浴室にいく久美子の体は、大人びてはいるが芯のところで、まだ子供だった。
「白根さんね、また絵を書きはじめた。左手でね……お姉ちゃんに感謝してたよ」
「気を遣わなくてもいいわよ。あのボンボンをそこまでしたのなら、久美子の手柄だわよ……本気で真一のこと好きなんだ」
「うん……」

 久美子は湯あたりではなくて頬を染めた。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・43』

2019-06-22 06:02:00 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・43 

『第五章 ピノキオホールまで・4』


 グラウンドは無対象のトスバレー以来だ。懐かしい。で、暑い……!

「なにするんですか?」
 早くも汗をにじませて、タロくん先輩が言う。
「実況中継をやる」
「え?」
「手ぇにマイク持ったつもりで、目ぇに見えたもんを解説する。まず見本やるから、よう見とけ」
 と、先生は実況中継を始めた。
「晴れ渡った空に、むくむくと入道雲。積乱雲と表現するより、ずっと夏を感じさせる言葉ではあります。ここに蚊取り線香。ヒエヒエのスイカ。風鈴なんかがチリンと音を響かせますと、立派に夏の道具立てが揃い、あっぱれ『ああ、日本の夏』の風情であります。目をおもむろに下ろしますと、一面のグラウンドに、部活に励む生徒諸君の姿が(長いので割愛します)……と、Y高校、真夏のグラウンドからの実況でありました」
 なんと十分間も。思わず拍手! 休憩中の女子バレーの子たちもいっしょになっていた。
「どうもありがとう(女バレの子たちにお愛想)いいかい君たち……あかん、標準語のままや。オホン、ええか。観察しながら、見たこと、感じたことを言葉に置き換えて、同時に話す。テンポとか聞いてる視聴者、ここでは君らやけどな。その反応も見ながら話題を変えていく。簡単に言うたら、演る自分と、それを観察してコントロールする自分と二人要る。基本的にはアナウンサーの練習やけど、役者の練習にもなる。今の自分らの芝居はコントロールができてない。ほな、はるかからいこか」
「え、わたしですか?」
「ほかに、はるかはおらん」
 一分はもった、目をグラウンドから校舎に向けたところで、詰まってしまった。二階の窓に吉川先輩「あとで……」と口パク。
 先輩二人も、二分と持たなかった。
「栄恵ちゃんおったら、このレッスン喜んでやったやろねえ、アナウンサー志望やさかいに」
 タマちゃん先輩が、まぶしそうに空を見上げた。
「お母さん、早よようなったらええのにな」
 時刻表のように精密な出欠表を見ながら、タロくん先輩がため息をついた。
 吉川先輩の口パクが無ければ、もう二三分はもったのに、とわたしは負け惜しみ。

 午後の稽古では「感情に飛びつくな」と注意された。笑うところで、笑ったら「笑うな!」と言われた。

「人間、笑おと思て笑うんは『お愛想笑い』だけや。そんなんシラコイやろ。はるか、おまえはカオルや、スミレがシンパシー(共感てな意味)感じて、呼吸がいっしょになる。ほんで初めて喜びやら、はしゃぎに繋がって笑いになる。出会いのとこは六十何年ぶりに生きた人間と話して、それも、狙い付けてたスミレと話せたことでびっくりして笑いになるんや」
「どうしたら……」
「とりあえず、自分の台詞は忘れろ(せっかく覚えたのにー)。そんでスミレの言葉を聞け。そしたら自然に笑いがこみ上げてくる」
 雲をつかむような話。よくわからなかった。
「それから、香盤表と付け帳。舞台で使う衣装やら小道具を書く。一応必要なもんはプリントにしといた。これ参考に書いといで」
これはよく分かった。
「それから、はるか」
「はい?」
「……もうええわ」
 先生は、わたしの顔を見て、何か言おうとしてやめた。

「先生、ありがとうございました。みなさんお疲れ様でした」
 お決まりの挨拶をして、帰り支度をしていると、先生が思い出したように言った。
「今日、ドラマフェスタの最終日やな。だれか行ってこいよ小屋はPホールや近鉄沿線のもんが行きやすいぞ」
「ボク今日は、家族と出かけますねん」
 U駅近くのタロくん先輩が予防線を張った。
「じゃ、わたし行きます。近所のホールだし」
 これで五本目。クラブの中でも一番たくさん観ている。だから気軽に手が上がった。
「はるか、観るんやったら、台詞をしゃべってない役者見とけ。オレの言うてることが、ちょっとはわかる」
「はい……?」 
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