大塚駅のホームで友里と分かれる。
恥ずかしそうに「お母さんと池袋いくんだ」と呟く。笑いそうになる。
「プ、それなら、降りちゃダメじゃん」
友里は、いつものように電車を降りてしまったいるのだ。
「え、あ……うん。次の電車に乗るから」
「そうだよね、じゃ、ここで」
「うん、また明日」
「じゃね」
真っ赤な顔して恥ずかしそうに返事。まるで恋愛真っ最中の女の子だ。
まあ、それだけお母さんとうまくいっているということなんだ。うまくいっていることが照れくさいんだ。
ちょっと冷やかしてやりたくなったけど、こそばゆそうにウィンク一つしてエスカレーターに向かう。
都電沿いの坂道を大塚台公園の緑を仰ぎながら上る。
都電の軌道を含んでる分道幅は皇居前くらいに広いんだけど、交通量が少なく、道沿いには昭和の雰囲気満載の商店や会社、喫茶店、神社。タイミングよく都電がゴトンゴトンと走ったりすると、とても雰囲気だ。
不可抗力で済むことになった東池袋だけど、これは当たりだと思う。
走ったら間に合うタイミングで信号が赤。
公園の西北交差点に佇む。
日も長くなった、このまま散歩しようかなあと思う。
その気になれば、一瞬で私服になることもできるけど、いったん家に帰って着替えるのもいい。そういうアナログな行動が楽しいかもしれない。なんの予備知識も持たずに夕方まで街をぶらぶら。素敵で贅沢な時間になるぞ。
ガラにもなくウキウキして、信号が青になるのが待ち遠しくなってきた。
「だったら、ちょっと付き合ってくれませんか」
真横で声がした。
サラリーマン風がいつの間にか横に立って、視界の隅で私を捉えている。
フラリと力はぬいているが、どこにも隙が無い。おそらく人間なのだろうが、特殊な能力を持っている。うかつな対応はできない。
「驚かしたのなら申し訳ない。わたしは特務師団のものです」
!?
そいつは、七十四年前に縁の切れた組織の名前を口にした……。