大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・030『真横で声がした』

2019-06-04 14:26:25 | 小説
魔法少女マヂカ・030  
 
『真横で声がした』語り手:マヂカ   

 

 

 大塚駅のホームで友里と分かれる。

 

 恥ずかしそうに「お母さんと池袋いくんだ」と呟く。笑いそうになる。

「プ、それなら、降りちゃダメじゃん」

 友里は、いつものように電車を降りてしまったいるのだ。

「え、あ……うん。次の電車に乗るから」

「そうだよね、じゃ、ここで」

「うん、また明日」

「じゃね」

 真っ赤な顔して恥ずかしそうに返事。まるで恋愛真っ最中の女の子だ。

 まあ、それだけお母さんとうまくいっているということなんだ。うまくいっていることが照れくさいんだ。

 ちょっと冷やかしてやりたくなったけど、こそばゆそうにウィンク一つしてエスカレーターに向かう。

 

 都電沿いの坂道を大塚台公園の緑を仰ぎながら上る。

 

 都電の軌道を含んでる分道幅は皇居前くらいに広いんだけど、交通量が少なく、道沿いには昭和の雰囲気満載の商店や会社、喫茶店、神社。タイミングよく都電がゴトンゴトンと走ったりすると、とても雰囲気だ。

 不可抗力で済むことになった東池袋だけど、これは当たりだと思う。

 走ったら間に合うタイミングで信号が赤。

 公園の西北交差点に佇む。

 日も長くなった、このまま散歩しようかなあと思う。

 その気になれば、一瞬で私服になることもできるけど、いったん家に帰って着替えるのもいい。そういうアナログな行動が楽しいかもしれない。なんの予備知識も持たずに夕方まで街をぶらぶら。素敵で贅沢な時間になるぞ。

 ガラにもなくウキウキして、信号が青になるのが待ち遠しくなってきた。

「だったら、ちょっと付き合ってくれませんか」

 真横で声がした。

 サラリーマン風がいつの間にか横に立って、視界の隅で私を捉えている。

 フラリと力はぬいているが、どこにも隙が無い。おそらく人間なのだろうが、特殊な能力を持っている。うかつな対応はできない。

「驚かしたのなら申し訳ない。わたしは特務師団のものです」

 !?

 そいつは、七十四年前に縁の切れた組織の名前を口にした……。

 

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高校ライトノベル・連載戯曲・すみれの花さくころ(宝塚に入りたい物語)7

2019-06-04 06:33:14 | 戯曲
連載戯曲
すみれの花さくころ(宝塚に入りたい物語)7
 
 
 

※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください  最終回に連絡先を記します

時  ある年のすみれの花のさくころ
所  春川町のあたり
 
人物 

すみれ  高校生                        
かおる  すみれと同年輩の幽霊
ユカ   高校生、すみれの友人
看護師  ユカと二役でもよい
赤ちゃん かおると二役


すみれ: ごめんね。やっぱり宝塚はピンとこないや……。
かおる: うん……いいよ(去りゆく飛行機から、すみれに視線をうつす)その本ね、あたしのことも載ってるんだよ。
すみれ: え、ほんと?
かおる: 戦争中のところを見て。「戦時下の女性たち」ってとこ。
すみれ: ええと……ここ? 「……戦争で沢山の女性が犠牲になりました。特に三月十日の空襲では……」
かおる: ほら、この写真。
すみれ: なに、これ……?
かおる: まっ黒に焦げてつっぱらかってる……たぶん右から三番目があたし。
すみれ: うそ!?
かおる: 死んでしばらくはね、納得がいかなくって、このまっ黒の焼け焦げが自分だって信じられなかった。
 でも、さっきの石田さんみたいな幽霊さんがいらっしゃって、時間をかけて分からせてくださったの。      
すみれ: この黒焦げが……。
かおる: あたしね、最初はちゃんと避難したんだよ。でもね、宝塚の譜面を忘れちゃって、とりに戻ったのが運のつきだった。
すみれ: そうなんだ……。
かおる: あたしって忘れものの名人だから。
すみれ: ごめんなさい、力になれなくて。
かおる: いいよ、きっとまたいいことが……ほら。
すみれ: メール?
かおる: 小林さんからだ……霊波動の適う人が見つかったって!
すみれ: それそれ、それこそが運命の人よ!
かおる: 「適合者の氏名は八千草ひとみ。詳細は不明なるも、宝塚ファンでRHマイナスの霊波動。
 至急こられたし、霊界宝塚ファンクラブ会長小林一三(こばやしいちぞう)」
すみれ: やったー!
かおる: やったー、やったー、やったー! ちょっと行ってくる。ちゃんともどって報告するからね。
すみれ: うん。友だちだもんね。
かおる: そのあいだ退屈だろうから、宝塚の体験版でもやってて。一曲だけだけど、あたしがアシストしてるみたいに歌えるわ。

 すみれに向けて、スマホのスイッチを入れ、かおるは消える。

すみれ: かおるちゃん!……え、なにこの音楽……勝手に体が……。

 宝塚風の歌を一曲、明るく元気に歌いあげる(できれば、コーラスラインなど入り宝塚風になるといい)
 歌い終わって呆然とするすみれ。ユカが拍手しながらもどってくる。


ユカ: すみれ、すごいよ! さっきは照れてあんな言い方したのね……しぶいよ。 いつの間に練習したのさ!?
すみれ: これはね、つまり……ユカこそどうしたの、学校行ったんじゃないの?
ユカ: うん、表通りまで行ったら号外配っててさ。
 なんか分かんないけど、アラブとかの方で戦争始まっちゃったみたい。
 日本のタンカーが巻き添えくって燃えてるらしいよ(無対象の号外を渡す)
すみれ: さっきの……(飛行機が去った方を見る)
ユカ: かもね(すみれにならう)すみれの歌といい、戦争といい、世の中何がおこるかわかんないね。
すみれ: 学校行く?
ユカ: ううん。きっとうちの担任まいあがっちゃってるよ。
 あの先生、口では平和とか命の大切さとか言ってるけど、人の不幸にはワクワクしちゃうほうだから、
 今は進路相談どころじゃないよ。駅前の本屋さんでも行ってくるわ、志望校の本とか見に。
すみれ: とかなんとか言って映画とか行っちゃうんじゃない? ジブリの新作やってるから。
ユカ: かもね、アハハ……すみれも、宝塚とか、本気で考えていいんじゃない? ほんといいセンいってると思うよ!(去る)
すみれ: そんなんじゃないってば! そうじゃないんだから。
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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・052『特命全権大使の娘』

2019-06-04 06:20:41 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・052
『特命全権大使の娘』




 この時代の女学生は上だけセーラー服で下はダボダボのモンペだ。

 そのイモ丸出しの格好で勤労動員に駆り出されていた。
 きつくて食事も満足に摂れない毎日だが勤労動員に出されると、粗末ながら昼ご飯の支給がある。
 昨日までは痩せたサツマイモ一本だったが、今日は、それにスイトンが付いている。ちょっとした驚き。

「これって、課業がきつくなるってことじゃないかしら」

 カヨさんが眉をひそめて呟く。
 居並ぶ女学生たちの列にも声にならない驚きがさざ波のように広がる。育ち盛りの女学生たちなので、正直スイトンが付いていることが嬉しい。それが半分と、もう半分はカヨさん同様に課業のきつさを予見してのこと。
「かかれ!」
 班長の号令がかかると、示し合わせたように、みんなスイトンの丼に取りつく。
 二月も半ば、暖房のない作業所は南向きの教室とは言え寒い。やはり、暖を取れるスイトンに食らいつく。
 薄いだし汁の中に小麦粉の団子が三つばかり浮いているだけなのだが、暖かい汁物は嬉しい。
 丼を抱えると、課業のことは忘れる。

 帝都女学院は、他校がモンペに切り替える前に胸当てズボンと呼ばれたオーバーオールに切り替えた。

 学校が生誕祭行事にとっていた布地を生徒に頒布し、家政科の授業で作らせたのだ。
 他校のモンペよりは十倍かっこいい。カッコいいだけでは無くて機能的だ。
 胸とズボンの前と後ろに大容量のポケットが四つついていて、右太ももには金槌などが収められるタブが付いている。
 配属将校の橘少佐は驚いた顔をしていたが、合理性や機能性を理解できる人で文句は言わなかった。

 
「さあ、スイトンの分、なにやらされるんだろ」

 短い休憩時間になると、教室に一つだけの火鉢に集まる。火鉢は教室で一番冷える廊下側の子たちが優先。
 カヨさんもわたしも廊下側(公平を期すために日替わりにしている)なので、しばしの暖を取る。
「なんでも陸軍の飛行服とか事業服とかつくるらしいよ」
 新聞記者の娘だけあってヨッチンは情報が早く、丸眼鏡をクイと押し上げて軍事機密のように言う。
「え、帝都って海軍専門じゃ?」
「あ、え、諸般の事情らしいよ」
 事情なら分かってる。この時期海軍はほとんどの艦艇を失い、活動範囲も本土沿岸や港湾内に限られてきた。
 必要性から言うと、密かに本土決戦を志向している陸軍だ。
「でもさ、陸軍となると仕様変更とか、一から覚え直しじゃない」
 カヨさんが眉を顰める。

 日本の悪弊で、陸軍と海軍では兵器から装備に至るまで仕様が異なる。
 外交官の父も軍人の兄もこぼしていた。
「戦闘機なんか共同開発して互換性を持たせりゃいいんだ、ただでも生産力が低いんだからな」
「無理だよ父さん、例えばスロットルにしても、陸軍じゃ前に倒すが海軍じゃ手前に引くんだ。そんなもの統一なんかできっこないよ」
 アメリカは、あんなに豊かな国なのに、軍隊の装備は陸・海・海兵でベーシックには統一している。だから部品の融通も利くし、一部の仕様変更だけで、生産工場も切り替えが効く。
 小栗栖家はアメリカでの生活が長かったので、その辺の矛盾や不合理には敏感なのだ。

 昨日、荒川の河川敷で紙飛行機を飛ばした。
 めったに出会えない兄妹の休暇が重なったのだ。で、子どものころミシガン湖のほとりでよくやった遊びだ。
 雄の紙飛行機はよく飛ぶ、昨日も最後の一機が視界没(飛び過ぎて見えなくなる)になりそうだったので必死で追いかけて転んでしまった。その紙飛行機もアメリカ風で、日本に来た頃は母親譲りのほとんど外人に見える風貌と相まってイジメられたものだ。イジメが下火になったのは、父が特命全権大使でアメリカとの戦争に火ぶたを切る役目を果たしたから、皮肉なもんだ。

「というわけで、本日午後より陸軍の改正五式飛行服を生産する。この見本をよく見て、本日中に試作三十着を仕上げる」

 陸軍の被服科中佐がわざわざ試作指導にやってきた。ヨッチンの諜報能力は大したものだ。
 しかし、仕様の異なる飛行服を半日で三十着、無理な相談だ。
 無理な相談なんだけど、そんな顔はできない。これでスイトン一杯では合わない。
「まずは手に取って仕様を確認。作業手順を決め報告せよ。時間は三十分とする」

 三十分……無理だ。

 気配を感じたんだろう、前川という中佐は「かかれ!」の号令で封殺してしまった。
 こういう男は融通が利かない。わたしたちは班ごとに回された見本と仕様書とにらめっこした……。

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高校ライトノベル・時かける少女BETA・18《大和と信濃と・3》

2019-06-04 06:09:10 | 時かける少女
 時かける少女BETA・18
《大和と信濃と・3》               


「亡くなったアーチャーフィッシュの乗員に哀悼の意をささげる」

 阿部艦長が収容されたアーチャーフィッシュの乗員52名に最初に声を掛けた。
「世界最大の空母信濃にようこそ!」
 細井中佐が言った時には、阿部艦長以外の幹部将校は顔色を変えた。信濃の存在は海軍部内でも機密事項に属する。阿部艦長は細井中佐という見かけとやることが真逆な将校を信頼しはじめていたので平静な顔でいる。
「もう夜が明けてきたんで、君たちにも飛行甲板の全容が見えると思うが、この信濃は世界一でかくて高性能な空母だ。ご覧のとおり、まだ艤装の真っ最中で、固有の艦載機も兵装も未搭載だ。まあ、スポンソンの数や規模を見ればどの程度の兵装になるかは見当がつくと思うがね」
「自分たちは、その世界一のデカブツにやられたことを誇りにでも思わなきゃならんのですか、中佐?」
 艦長のジョセフ・F・エンライト少佐が聞いた。
「エンライト少佐、少し違う。わたしは軍令部の細井という。英語ではスレンダー(細い)という意味だ」
 潜水艦の乗組員たちが笑った。細井中佐もいっしょになって笑った。あまりの屈託のなさに、なんだか和やかになってしまった。
「わたしは空気を吸っても太るたちでね、この食糧難に肩身が狭い。まあ、人は見かけによらんと思ってくれたまえ」
「兵装はまだのようだが、発砲の光は、このシナノからした。一体何を使って攻撃したんですか?」
「わたしは、こう見えても学生時代はピッチャーで鳴らした。この手で120ミリの榴弾を投げたんだ。良い腕してるだろう」
 体に似合わぬいいモーションで投球の真似をした。米潜側から口笛が鳴った。
「さすがに、野球に詳しいのがいるようだな。わたしは日本以外ではレッドソックスのファンだ。君らはヤンキースか?」
「ジョ-クのうまい中佐殿だ。まあ、秘密兵器なんだろうが、よくあの距離で一撃でヒットさせたもんだ」
「レーダーも対潜兵器も、今までの日本とは違う。詳しく言えなくて残念だが、君たちには知っておいてもらいたいことがある。格納甲板に降りてもらおう」

 一同は、後部のエレベーターで、格納甲板に降りた。

「一層式の格納庫なんだな」
「そう、君らを真似て飛行甲板の装甲を厚くした。重量がかさむんで二層式にはできない。格納庫も君たちを見習って開放式にした。これで万一格納庫が被弾しても致命傷にはならない」
「猿真似も、ここまでくれば大したもんだ」
 米水兵が減らず口をたたいた。
「その猿真似に救助されたことは感謝してもらいたいがね。それと、君らの艦を仕留めたのは猿真似じゃない。君らの技術では、あの条件では沈められん。そうじゃないかい少佐」
 ジョセフ・F・エンライト少佐は、とっさに受け流すジョークも浮かばなかった。

 格納庫で、米兵たちは信じられないほど鮮明な映像を見せられた。映写機も無いのに壁の大きな額縁のような画面である。驚いたのはその鮮明さだけではなかった。
「おお、これはホワイトハウス!」
 少佐が声を上げた。画面は拡大されルーズベルト大統領が車いすに座ってポーチにいるのが分かった。
「これは、昨日とった映像だがね。大統領閣下は、かなり無理をされている。ほら、これがご尊顔のアップだ」
 彼らが、そこに見たのは、ニュース映像で見る快活な大統領ではなかった。目に光のない病んだ老人の姿だった。
「二重の意味でショックだろうね。ほぐしていこう……ルーズベルトは春には亡くなる。副大統領のトルーマンが昇格して大統領になる。真面目な男だが独創性が無い。5月にはドイツが無条件降伏する。なにもしなければ日本も8月には無条件降伏する」
 また米兵から口笛が鳴った。
「そして、それまでに君たちのアメリカは醜い国になる。それをこれから説明する」

 細井中佐は、天気予報のような気楽さで話し始めた……。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・25』

2019-06-04 06:00:49 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・25  



『第三章 はるかは、やなやつ!7』

「どういうことなんですか!?」

 終礼が終わるのももどかしく、わたしは通用門で大橋先生をつかまえた。
「どうしたんや、はるか?」
「どうしたも、こうしたもないですよ……あの目玉オヤジがレーダーだったなんて!」
「ああ、あれか……」
「あれかはないでしょ。わたしホントだと思って、ずっと願掛けしてたのに!」
「純情やなあ、はるかは」
「純情を踏みにじったのは、先生じゃないですか。ただの気象レーダーを目玉オヤジだなんて。人をおちょくるのも程がありますよ!」
「おちょくってへん。あれは目玉オヤジ大権現や」
「まだ、そんなことを!」
「まあ、聞けよ」
「もういい、もういいです……演劇部だってもう辞めるんだから!」
 
 駅へ向かって駆けだした。

 二つ目の角を曲がったら、大橋先生が立っていた……。
「なんで……」
「おれは、目玉オヤジ大権現のお使いや」
 シカトしてふたたび駆けだした。

 次の角を曲がったら……また、大橋先生が立っていた……。
「どうして……」
「そこにあるもんを見てみぃ」
 先生は道ばたのお地蔵さまを指さした。
「あれは、何や?」
「……お地蔵さま」
「だれが決めたんや」
「だれって……」
「よう見てみい」
 祠(ほこら)を覗いてみた。ラグビーボールほどの石に、赤いよだれかけがしてある。

「ただの石ころやろ」

「だって……」

「江戸時代、ひょっとしてもっと前かもしれへん。だれかがこれをお地蔵さまやいうことにした。ここらへんは、大坂の陣で戦場になったとこや、その時に討ち死にした人の首塚かもしれへん」
「え……」
「そういうもんや。だれかが、ある日、石とか山とか木ぃとか首塚を見て、神さんや、仏さんやという。そんで信心するもんが現れる」
「だって、あの高安山は……」
「現に、子どもの中には目玉オヤジと思てる子ぉもおる。お年寄りで、あれに毎朝手ぇ合わせてる人もいてはる。はるかかて手ぇ合わせてたんやろ」
「でも先生は、市制何年だかの記念だって……」
「あれは、ちょっとした修飾語や」
「それに願いが叶うって……そう言った」
「宝くじ当てよったんは、ほんまの話、四等賞やけどな。ま、偶然やいうたらそれまでや。けどな、はるか、玉串川で会うた時の……覚えてるか、あの時の自分の顔」
「うん……」
「救いのない顔しとった。そやけど、あの顔がはるかの素顔やと思た……人の心の中には、キザに言うたら、ファンタジーが要る。信仰とか、情熱とか、愛情とかいうファンタジーが。それがあるから、人間はがんばれる。この子にはファンタジーが要ると思た。はるかも、なんかがんばってんねやろ?」
「は、はい……」
「そしたら、いつか願いはかなう。一筋縄ではいかんかもしれんけども、いつかは、きっと……な」
「はい」

「それから、演劇的には、こういうのを〈置き換え〉という」

「置き換え?」

「見立てともいう。特別なことやない。跨ったホウキを馬や思たり、傘をゴルフのクラブや思たり、座布団丸めて赤ちゃんや思たり、気象レーダーを目玉オヤジや思たり」
「ふーん……」
「でや、勉強になったやろ」

「……一つ聞いていいですか?」

「なんや?」
「どうして、あんなにわたしの先回りできたんですか」
「そら、オレは目玉オヤジ大権現のお使いやからや」
「もう、種明かししてくださいよ」
「夢のない奴っちゃなあ」
「探求心が強いんです」
「他のやつらには内緒やぞ」
「はい……」
「ゴミ捨て場のシャッターから出て一筋かせいで、あとは駐車場斜めに通り抜けた。だてに教師三十年もやってへんぞ」
「昔とった、なんとかですね(って、ただのショートカットじゃない)」
「そうや……はい、到着」
「あ……」

 魔法にかかったように、わたしはプレゼンの前に立っていた……。

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