大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・連載戯曲・すみれの花さくころ(宝塚に入りたい物語)8

2019-06-05 06:51:20 | 戯曲
連載戯曲
すみれの花さくころ(宝塚に入りたい物語)8
   
   
 
※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください  最終回に連絡先を記します

時  ある年のすみれの花のさくころ
所  春川町のあたり

  
人物 

すみれ  高校生                        
かおる  すみれと同年輩の幽霊
ユカ   高校生、すみれの友人
看護師  ユカと二役でもよい
赤ちゃん かおると二役



 かおるが戻ってきている。

かおる: ほんと、いいセンいってるわよ。
すみれ: かおるちゃん!
かおる: 本人に素質がなければ、体験版でもぎこちなくなるものよ。
すみれ: もう! で、八千草ひとみさんは?
かおる: ……九十五才のおばあちゃんだった。
すみれ: やっぱ、むつかしいのね。
かおる: プレッシャーかけるつもりじゃないけど。ほんと、すみれちゃん素質あるわよ。
すみれ: ありがとう……。
かおる: やっぱ宝塚は……だめ?
すみれ: ごめんね。
かおる: そうよ、そうだよね。でも、宝塚はともかく、なにか、その素質生かせる、音楽の先生とか……。
すみれ: うん……あたし、進路のこと思うと考えがまとまらなくなる。
 これかな……と思った尻から違うって気持ちになってしまう。苦手なモグラ叩きみたいで、ゲームそのものから逃げ出したくなる。
 そのくせ夏の夕立みたいに突然やってくるおもしろいことには、後先考えずにとびついて……。
かおる: 放送部とか、ソフトボールとか、演劇部とか、一人文芸部とか?
すみれ: 言わないでよ。これでも自己嫌悪。
 それって進路と何の関係もなくって、人生の無駄になっちゃうんだよね。
 ユカなんか、うらやましい。さっさと、志望校とか決めちゃって。
かおる: あたしもね、無駄って言われたんだよ、宝塚うけたいって言ったとき。
 その宝塚の譜面とりにもどって死んじゃったから……親にとっちゃ無駄中の無駄だったんだろうね宝塚なんて。
 ……あ、これってよかった?(無対象の号外で紙飛行機を折っていた)
すみれ: え、いいんじゃない。ユカが持ってきた号外だから。
かおる: 号外……(紙面を見て)どこかで戦争がおこったのね。
すみれ: 関係ないよ、そんな戦争。
かおる: アハハハ……。
すみれ: なに?
かおる: わたし、だいとうあせんそう大東亜戦争の号外も紙飛行機にして叱られたんだ。
 宝塚のことばっかり考えていて、お父さんが持って帰ってきた号外。
 叱られながら思った「関係ないよ、そんな戦争」エヘヘ、でも、その関係ない戦争で死んでちゃ世話ないけどね。
 ……すみれちゃんもやってみな。号外の紙飛行機って、よく飛ぶんだよ。
すみれ: うん。
かおる: ……無駄って大事だと思うんだ。無駄の中から本物が現れる。
 無駄かなって思う気持ちが、いつか自分にとっての本物を生むんだ。気にすることないよ。
すみれ: ありがとう……。
かおる: あたしもね、最初から宝塚だったんじゃないんだよ。
すみれ: え?
かおる: 最初は看護婦さん。今は看護師だっけ。盲腸で入院したときに憧れちゃって。
すみれ: それがどうして?
かおる: ちがう。ここはこう折るんだよ……よし! 飛ばしに行こう、春川の土手に!
すみれ: うん。

 二人、無対象の紙飛行機を持って、春川の土手へ。

すみれ:看護師さんが、どうして宝塚に?
かおる: 昭和十六年に東京にオリンピックがくるはずだったんだよ。
すみれ: ほんと?
かおる: うん。で、あたし、陸上の選手に憧れたんだ。
 でもね、戦争でオリンピックが中止になって、むくれてたらね、叔父さんがかわいそうに思って、帝国劇場に連れて行ってくれたの。
すみれ: 帝国劇場?
かおる: あのころは、宝塚の大劇場は閉鎖されてたから、そんなとこでやってたの。
すみれ: そこで宝塚に出くわしたんだ!?
かおる: うん、そこでビビっときたの。あたしの人生はこれだって!
すみれ: 運命の出会いだったのね!  
かおる: うん。いくよ。いち、に、さん!
すみれ: えい!

 手をかざし、紙飛行機の行方を追う二人。

すみれ: すごい、あんなに遠くまで……!
かおる: まぶしい……。
すみれ: 幽霊さんでもまぶしいんだ。
かおる: ……。
すみれ: かおるちゃん、色が白ーい……手なんか透けて見えそうだ(歌う)手のひらを太陽に、すかして見ればー♪
 ……どうかした?
かおる: ……始まっちゃった。
すみれ: え?
かおる: 消え始めてる……。
すみれ: 消える……!?
かおる: 幽霊はね、生まれかわるか、人につく憑くかしないかぎり……やがては消えてしまうの。
 ……早い人で死後数年、遅い人で千年……思ったより早くきたな……。
すみれ: かおるちゃん……。
かおる: これって、成仏するともいうのよ。だから、そんなに悲しむようなことじゃない……。
すみれ: いやだよそんなの。かおるちゃんがこのまま消えてしまうなんて!
かおる: 大丈夫だよ、すみれちゃんにも会えたし……。
すみれ: いや! そんなのいやだ! ぜったいいやだ!
かおる: すみれちゃん……。
すみれ: ね、あたしにのりうつって憑依って! あたしに取り憑いて!あたし宝塚うけるからさ!
かおる: だめだよそれは。そうしないって決めたんだから。
すみれ: あたし、素質あるんでしょ? あたし宝塚に入りたいんだからさ。ね、お願い!
かおる: 自分のことは自分で決める。そう言ったじゃない。
 すみれちゃんは、まだ運命の出会いをしてないんだから、本心から望んでるわけじゃないんだから、そんなことするべきじゃないよ。
すみれ: おねがい、わたしに取り憑いて! FOR YOU 愛信じて……。
かおる: ありがとう、そこまで思ってくれて。温かい気持ちのまま消えていけるわ……動かないで! 
 消えていく幽霊のそばにいちゃあ、すみれちゃんまで影響をうけてしまう。
すみれ: かおるちゃん……。
かおる: あたし、川の中で消えていく……そうしたら海に流れて、いつか雨か風になって戻ってこられるかもしれないから。
 ……さようならすみれちゃん。あなたに会えてよかった……嬉しかったよ。
すみれ: かおるちゃん、かおるちゃん……!  
 
 
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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・053『見本品の欠陥』

2019-06-05 06:38:09 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・053
『見本品の欠陥』




 見本はよくできているように思えた。


 さすがは東京陸軍被服支廠、袖や襟ぐりの縫製などは丈夫であるだけでは無くて美しい。
 ぐし縫いやいせ込みは、慣れていないと縫合部がモッサリしてしまって、不細工なだけではなく、着用して操縦席に収まると違和感がある。
「操縦桿を引いて急速な運動をしたときとか、射撃をするときなど、この微かな違和感が勘を狂わせることがあるんだ」
 勤労動員で飛行服を作っていると言った時、雄はそんなことを言っていた。
 普通に聞けば、まあ、しっかりやれよということなんだけど、雄は、こと飛行機のことに関しては適当は言わない。
 なんせ、陸軍に入るまでは中島飛行機のテストパイロットだったんだ、そのへんはシビアだ。

「あ、ちょっと見て」

 ヨッチンが顔を寄せて仕様書を見せる。
「いせ込みとぐし縫いのとこ……」
「どれどれ……あ」
 わたしも気づいた。
 襟ぐりや袖ぐりなどの力のかかる部分の折り返しが一重になっている。
 普通は二重にして強度を確保する。
 たしかに二重にすると縫製は大変だけど、いざという時に破れてしまう。

「中佐殿、質問があります」

 中佐は嫌な顔をした。

 わたしは外形的には母の血を多く受け継いでいて、ほとんど西欧人。
 顔を合わした日本人はたいてい驚く。戦争が始まってからは、ほとんどスパイを見るような目で見られている。
 中でも軍人はむき出しの鬼畜米英という顔をする。
 ほんの子どものころは、こういう場合笑顔を返して済んだが、戦時中の今は逆効果だ。
 真面目な顔で見本品の欠点を指摘した。
「陸軍被服廠の技官が製作したものである、間違いはない! 素人の女学生が口を挟むんじゃない!」
「わたしの兄は陸軍の航技士官です。常々飛行機や航空装具について聞かされております。この縫製では度重なる訓練や戦闘には耐えられません。ここ一番という時に操縦士の勘を狂わせます」
 雄の名前を出すことは嫌だったけど、この手のオッサンは女学生が何を言っても、それが正論であればあるほど否定するし、感情的に反発するだけだ。だから雄の所属だけを言って反論する。
 でも、その効果もないくらい中佐は激高してきた。

「貴様ーーーー!」

 中佐にまでなっていてチンピラのように気の短い男だ。これは張り倒されると覚悟した。

  
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高校ライトノベル・時かける少女BETA・19《大和と信濃と・4》

2019-06-05 06:31:58 | 時かける少女
時かける少女BETA・19
《大和と信濃と・4》                           


 細井中佐は、天気予報のような気楽さで話し始めた……。

「君たちは、サイパン、グァムと侵攻してきた。年が明ければ、硫黄島、テニアンを手に入れ日本本土への攻撃を活発化させる。これを見給え。来年ドレスデンに対して行う君たちの爆撃だ。戦略的には何の意味もない。大勢の一般市民を虐殺するだけだ……そして、これが来年梅の咲くころに東京に行う爆撃だ。一晩で10万人が焼き殺される。一度の作戦行動で最多の人間を……それも一般市民を殺した最悪の攻撃として記憶される」
「嘘だ、よくできたシミレーションだが、アメリカはそんなに無慈悲なことはしない」
「この男を見てくれ」
「カーチ・スルメイ少将だな」
「そう、先月大村第21海軍航空廠を目視で爆撃させその大半を破壊した。この男が来年日本の諸都市の爆撃の企画立案者になる。これが、その最大規模の東京大空襲だ」
「ありうる話だな。彼の功績と実力なら、そういう展開になる」
 ジョセフ・F・エンライト少佐は話半分に聞いていた。どうやって作ったのかは分からないが細井中佐の見せる爆撃の様子はひどくリアルだった。大勢の市民が一瞬の火焔で焼き殺され、女子供が爆風で吹き飛ばされ千切れ飛んでいく。それがアメリカでも見たことのないような鮮明な画像で、どういう仕組みなのか画面が3Dの立体画像になっていて、血しぶきやがれき、断片が飛び出してくるようで、乗組員の中には顔をしかめる者もいた。
「そして、君たちは、来年沖縄に侵攻してくる。うちの上層部じゃ台湾への侵攻が先と思っている者が多いが。君たちの将軍は、この道を選ぶ。それも4月1日。なかなかのジョ-クだ」
「台湾は、放っておいても立ち枯れる。飛び石に侵攻するのは良い手だ。中佐、あんたのプロパガンダ映像は大したものだが、そろそろ朝飯にしていただけないだろうか。昨夜の戦闘と撃沈されたので、参っている奴も多いんだ」
「もう少し辛抱してくれ。わたしも、こんな映像何度も見せたくはない。上を観給え」
 アーチャーフィッシュの乗組員たちの上を小さなB29が飛んで画面の中に入って行った。そして一発の大きな爆弾が投下されたところで映像が止まった。
「こいつはエノラゲイって名前のB29だ。マザコンの機長が自分の母親の名前を付けた。で、このデカイ爆弾がリトルボーイだ。まあ、ネーミングの良しあしは、君らが自由に感じればいい。こいつは原子爆弾といって、ロスアラモスの高原で秘密裡に開発されている。来年の7月には完成する。じゃ、続きを見てくれ」
 
 爆弾は、空中で爆発し、画面を通してさえ熱線と衝撃を感じた。それからあとの映像は東京大空襲の比ではなかった。一発の爆弾で、一都市の建物の大半が人間もろとも蒸発、あるいは吹き飛ばされていく。衝撃的だったのは、その爆撃直後の映像だった。焼けただれた大勢の市民たちが、ひん死で寝転がり、水を求めてさまよい、あるいは体の半分を焼かれてなお歩き続ける。それがカットバックでこれでもかと写される。
「これは広島だ。君たちもご存じのとおり、我が海軍最大の根拠地がある。しかし狙われるのは、そこから外れた市の中心部だ。この一発で7万人が即死する。放射能という厄介なものが残って、その後十万以上が亡くなる。これが君たちのアメリカがやることだ」
「すべてフィクションだ」
「予想だよ。放っておけばこうなる。そうならないために、これを観てもらっている。じゃ、フィナーレだ」
 画面には、ちょっと中年太りの進んだルメイが写っていた。
「もし、アメリカが負けていたら、わたしは間違いなく戦争犯罪人として裁かれただろう。しかし、これは戦争を早く終わらせるためには必要なことだったんだ」
 次に出てきたのはマッカーサーだった。ひどく老け込んでいる。
「日本が負けた後、アメリカはソ連と対立し、その影響で中国が共産化する。そして、その衝突は朝鮮半島で行われる。1950年から足かけ4年の戦争になる。アメリカは45000人の戦死者を出し、業を煮やしたマッカーサーは原爆を使おうとして解任される。これは、その後上院で証言するマッカーサーだ」
「ジェネラル、太平洋戦争は日本の侵略戦争だったんだね?」
 議長が聞くと、マッカーサーは静かに即答した。

「いいや、あれは日本にとっては自衛戦争だった」

 映像は唐突に終わった。観ていた日米の将兵は声も無かった。

「放っておけば、こうなる。マッカーサーが有能で、勇敢な指揮官であるということは共通理解でいいと思う。じゃ、待たせた朝飯にしよう。艦長お願いします」
 ドラム缶を並べた上に板を載せただけの食卓が作られた。
「なんせ艤装中の船なんで、こんな食卓で申し訳ない。くれぐれも捕虜虐待だとは思わんように。周りを見てくれたまえ」
 乗組員や工員たちは、格納庫の床に直に座りながら、自分たちと同じものを食べていた。
「このライスボール(おにぎり)は、ともかく、この木の根はなんですか?」
「GOBOU、ゴボウという、ニンジンと同じ根菜類だ。将来釈放されても木の根を食わされたなんて言わんでくれよ」
「しかし、食文化が違うんだ。今はともかく、次からは考慮していただきたい」
「少佐、気持ちは分かるが、こんなものしか出せなくなったのは君のお国のせいだ。文句があるのなら手紙を大統領に書いてくれ。赤十字を通じて届けるから」
「ああ、そうさせてもらいますよ」
「差出の住所は広島になる。きちんと書いておいてくれ」

 アーチャーフィッシュの乗組員たちは、息をのんで沈黙してしまった。信濃は紀伊水道を走っていた……。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・26』

2019-06-05 06:21:44 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・26 



『第三章 はるかは、やなやつ!4』

 その日から稽古は荒立ち(台本持ちながらの立ち稽古)に入った。

 ほとんど台詞が入っていたので、台本を持たずにやった。
 先生は、登場、退場を指示するだけで、ほとんど何も言わずに一本通した。
「まあ、こんなもんかな。最初は」
「先生、ダメ出しは?」
 汗を垂らして、タロくん先輩が聞いた。
「言うてほしいか」
「は、はい」

「ダメ!」

「え?」
「ダメ出せて言うたやろ……」
「は?」
「ギャグや。ここで笑わなんだら、どこで笑うねん」
 クスっとみんなが釣られて笑う。この先生のおやじギャグにも、慣れてきた。
 おやじギャグってのは、白けるもんなんだけど、この先生のおやじギャグは失笑と紙一重くらいのところで笑ってしまう。
 大阪では、こういう人のことを「イチビリ」という。乙女先生に教えてもらった。

「もっかい通すぞ」

 二度目は半分のところで止められた。
「台本持ってるせいもあるけど身体が硬い。みんな前屈してみい」
 タマちゃん先輩が一番柔らかく、床に手のひらがペタっと着く。
 タロくん先輩が一番硬く、足の甲にやっと届く程度。
 あとのみんなは、その中間(わたしは、指先が届くぐらい。ちょっと硬い)
「オレがやるから、よう見とけ」
 さぞや……と、思ったら、先生の手はスネの半分くらいのところでブルブル震えて、ウーンと唸って、顔まで赤くなった。
 みんながクスクス笑う。
 ようやく赤い顔を起こして、先生はこう言った。
「演劇でいう柔らかさは、こういうことやない」

 負け惜しみかと思った。

「女子は、下だけジャージ履いといで」
 女子五人は、プレゼンの狭い準備室でジャージに履き替えた。
 二三分で戻ると、先生がコンニャクのように(顔はいつもコンニャクだけどね)上を向いて寝転がっていた。
「よう見とけよ。タロくん、おれの両足そろえて持って、十センチほど上げてくれるか」
「はい」
「ほんなら、等身大のコンニャク揺する感じで、左右に揺すってくれるか」
「こうですか……」
 おお……!
 なんということ、先生の身体はタロくん先輩の「揺すり」をうけて、足から、頭へとプルンと揺れる……ってか、「揺すり」が足から頭へウェーブのように抜けていく。
「もっと小刻みに激しく」
「はい」
 先生の身体は、もう人間じゃなかった。人の形をした袋に水を入れたみたいに、プルンプルン、グニャグニャと揺れている……。

「さあ、今度は、自分らの番や」

 二人一組になってやりはじめる。女子は五人なので三人と二人でやろうってことになったとき、乙女先生が来た。
「わあ、懐かしいことやってるやん。わたしも寄せてえな」
 で、わたしの相棒は乙女先生になった。

 あちこちで、ウフフ、アハハになった。
「笑たら、あかんで、笑たら身体が緊張してもて、でけんようになる」
 たしかに笑うと、とたんに身体が液体から固体になってしまう。
「でけへんもんは、身体のどこかに緊張が残ってるさかいや。よう点検して緊張ほぐしていき。太もも、肩、首筋、案外腕とかもなあ」
 わたしは比較的、早くコツが飲み込め、我が身体の七十パーセント(だったと思う)が水であることを認識できた。
 乙女先生が揺すれるサマは……伏せ字とさせていただきます。

 次に先生は立ち上がり……ただ、立っていた?

 キョトンとしているわたしたちを尻目に、乙女先生はニヤニヤ。
「立ってるんや」
 そりゃ分かってるけどさ……。

 次の瞬間、先生の身体がそよいだ!

 なんて言ったらいいんだろう、海底にワカメかなんかがあって、そこに波がやってきて、ユラリとしたような。
 コンニャクを縦に置いて、下からプルンと揺すったように……そよいだ。
 そよぎは、さまざまに変化していった。ワカメのように、コンニャクのように、柔らかいバネのように、硬いバネのように、タンポポのように……。
「これ、宴会でやったら、ちょっとした芸になる……と、思たら拍手せんかい」
 パチパチと、みんなで拍手! 先生は王様の前で芸をやり終えた宮廷芸人のようにインギンなお辞儀をした。
「それ、また、なんて言うんですか?」
 と、タマちゃん先輩。
「言い方はいろいろある。いろんな人が、言い方はちゃうけど、似たようなことをやっとる。とりあえず〈立つ〉と言うとこ」

 まんまだよ……。

「とにかく、立つのに必要な、最低の力だけで立つ。誤解すんなよ。ダラーと立ったらあかんで、ダラーと立ったら、こないなる……」
 先生が一回り小さくなった! てか、急に四十歳も歳をとったみたいな。
「なんに見える?」
「百歳のおじいちゃん!」
「砂漠で倒れかけの旅人!」
「定年の直前に、リストラ言い渡されてガックリきたおっさん!」
「そら身につまされるなあ……」
 と、先生。
「教師辞めたころ、そんな感じやったね。オオハッサン」
 これは、乙女先生。
「ああ、それトラウマ、言わんといてくれる」
 コンニャク先生にもトラウマがあるんだ……。
「ええか、どこの筋肉の力を抜いたらこないなるか。首、肩、背中、太もも、細かいとこは他にもあるけど、も一つ大きいとこは。ねねちゃん」
 少しぼんやりしていた、ねねちゃん(一年、栗本ねね)を指名した。
「ええと……」
 ねねちゃんは困った顔になった。
「腰とちゃいますか?」
 フェミニストのタロくん先輩が助け船。
「腰がどないなるねん?」
「曲がってる……」
「曲げたら、こないなる」
 とたんに、ニセモノの年寄りになった。
「腰はな、曲がるんとちゃう。落ちるねん」
 また本物の年寄りになった。
……なるほど。腰が曲がるってのは、骨盤が後ろに傾く。で、そのためバランスをとるために、背中が曲がり、膝が前に出るんだ。
 だから、単に腰を曲げただけでは年齢感は出ないんだ。
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