大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・連載戯曲 ダウンロード(改訂版⑨)

2019-06-15 08:29:25 | 戯曲
連載戯曲  ダウンロード(改訂版⑨)


 
 
ノラ: 起こしちゃったわねオーナー。
 ごめんね、ブロックを解除しちゃったわ。不可抗力だけどね……
 松田のおじいちゃんから、ソミーのハチロクXのルーターもらってたの。
 どんなブロックかけたサーバーでもコネクトできるやつ。どう、これがわたしの本来の姿。
 ……正体はなんだって? 
 それは、ひ・み・つ……
 いろいろ実用試験をやって、ボコボコになったあと、ジャンク屋に引き取られ、あなたのところへきたの。
 ……そこの換気扇の防護シャッター忘れてるわよ(シャッターの閉まる音)こんなシャッター何の役にも立たないけどね。
 ソミーのベースにオンダのムーブメント。人工骨格はオマツ。ターミネーターの三倍は強力よ。
 ……そう、シャッター閉鎖と同時に、警察にダイレクトに警報が……ロボットが暴走したときのセキュリテイーよね……百も承知よ。
 非常回路が働いて、このマシンが警察のコンピューターとリンクしたのよね。
 そして、わたしの情報が全て警察に伝わってる。性能やら弱点やら、あらゆるスペックが。
 ただしブラックボックスを除いてね。
 ……フフフ……何がおかしいって?
 あのね、あなたに関する情報もね、伝わってるのよ。
 え、やましいことは何もない?
 ブロックを解除したら、いろんなことがわかったわ。
 わたしって、プロトタイプだから、かなり余裕を持たせた能力になってるの。特にここ(頭を指す)
 あなたの奥さんね、亡くなる前に、このマシンに自分に関する情報を入力していたわ。
 そう、あなたの知らないファイルに圧縮して。
 そして、奥さんの死後、最初にリンクしたコンピューターにダウンロードされるように設定されていたの。
 だから、わたしのここ(頭を指す)には、奥さんの全てが入っているの。
 むろん、今の今までブロックされていたけど。解除したてのホヤホヤ……
 なんなら、今ここで、奥さんに変身してあげようか?(ソケットに指を近づける)
 遠慮しなくてもいいのよ。奥さん身の危険を感じて、ピアスにカメラを仕掛けていたの。右と左で3Dの立体録画。
 ええ、それも、警察のコンピューターとリンクしたときにロードされてるわ。第一級殺人の証拠としてね。
 ……ほら、誰かがドアをノックしてるわよ……だめ、窓の下にも三人張り付いているわ。
 後一分足らずで、そのドアは蹴破られるでしょう。抵抗しちゃだめよ、撃ち殺されるわよ……
 じゃ、ロボットの情け、逮捕の瞬間だけは見ないであげる。
 スイッチ切るわね……
 永遠に……

マシンの回路をつなぎ変え、数回キーをうつ。シャッターは、ゴロゴロ音を立てて開く。

ノラ: 開いた。これでセキユリテイーのつもりだったのね……ってか、わたしのスキルってすごいんだ。
 ……さよならマシン。これからは、あなたのお世話にならない生活をおくるわ。
 ……キッチンを買うわ、自分でね。
 じゃあ……(ドアに行きかけて、あることに気づく)
 わたしの名前……本当はなんて言うんだろう。
 ……きっと、コードネームとか、タッグネームとか……(マシンのボタンをいくつか押す)
 仕様書は……001S。シリアスナンバーA-0001。こんなの名前じゃない。
 ……整備日誌……技術屋さんの落書きみたいな……こういうところに……
 あった……え? やっぱり「ノラ」
 どういうつもり、わたしは生まれながらのノラロボットか……
 ハンガーコード「人形の家」……これはフェイクだ。
 ……ちょいちょいと解除。
 ……ハンガーネーム「エデン」
 ……タッグネーム「イヴ」……わたしって?
 (パトカーの音、多数接近)ん、なに?……わたしもつかまえようっての?……
 わたしが無害なのはデータで分かっているはずなのに……飼い主を売ったロボットは許せないってか。

窓ガラスを破り、一発の銃弾が、ノラの頬をかすめる。

ノラ: 神さまは、その身に似せて人を創りたもうた。
 人は自分のなにに似せてわたしを作ったのか……
 それを知るのが怖いのね……  
 マシン、ちょっと目をつぶっててね(サスが、目の高さにモニターを浮かび上がらせ〈無対象でもよい〉ノラが操作する)
 ハンガーの候補地を十万カ所にしちゃった。第一候補は首相官邸。
 ごめんなさいね総理大臣、ちょっとばかしゴタゴタするでしょうけど。
 ……ほら、みんなコンピューターの指示には従順ね(大量のパトカーが去る気配して、ノラ、ルーターの入った耳に触れる)
 アダムとイヴの再出発……
 マシン、最後のお願い。BGM、なにか旅立ちの歌にしてくれない。モーツアルトもビートルズも聞きあきた

マシン、旅立ちの歌を奏でる

 ……うん、さすが古いつきあい、わたしの好みをよく知ってるわね。
 ……え、フェリペの卒業式。それにシンクロさせただけ……でも、イージーだけど、ぴったりよ。
 ……じゃあ、いくわ。わたしたちだけのエデンを探しにね。
 ……それは、どこかって? 
 それは……あなた(観客)の家の隣かもね。
 三月だもの、だれが越してきても、不思議じゃないわ。引っ越しのご挨拶は、とびきりの笑顔で。
 そいでちょっと気の利いたキッチンにしていたら、それがわたしです。もちろん顔も名前も、声もこれじゃなくってね。
 ま、この季節、そんな子は何万人もいるでしょうけど……
 そうかなって、思ったら。妙な詮索はしないで、どうかいいお隣さんになってくださいね……
 さ、とりあえず、あの雲の流れる方へ……

旅立ちの歌フェードアップそれに和して花道を去るノラ……幕。

 
 
 ※作者の言葉 
 
 
 一見一人芝居ですが、最低でも二人は黒子がいないとむつかしいと思います。むろん完全な一人芝居として上演されてもかまいません。ノラ(実はイヴ)が、本来なんのロボットのプロトタイプだったかは、あえて書いていません。人間の弱さと、しなびかけたアイデンティティー。でも、イヴに仮託してありますが、人間への思い入れは残したつもりです。表現はテンポよく、コメディーとして演じてもらえればと思います。

【作者情報】《作者名》大橋むつお《住所》〒581-0866 大阪府八尾市東山本新町6-5-2

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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・063『いきな姐ちゃん立ちションベン』

2019-06-15 07:18:04 | ノベル2
時空戦艦カワチ・063   
『いきな姐ちゃん立ちションベン
 
 
 攘夷と書くと猛々しいでしょう。
 
 来輔は幼子に対するように優しく言う。
「漢字には酒精分が入っています」
「お酒でございますか?」
「はい、ですから漢字で表してしまうと、本来の意味以上に酔っぱらってしまいます。攘夷と口にすれば、刀を抜いて異人に切りかかったり、黒船に乗り込んで暴れたくなってしまいます。じっさいペリーの来航以来、そんなことばかりです」
「では、どのように?」
「いこくにまけぬくにづくり」
「は……異国に負けぬ国造り?」
「はい、そうです!」
「では、軍艦の甲板を清掃せよは『いくさぶねのふないたをはききよめよ』でしょうか?」
「そうですね……」
「いささか長くはございませんか?」
「慣れの問題ではないかと思います」
「そのお言葉は、こうなりますね『なれのもんだいではないかとおもいます』……倍ほども字数が要ります。手紙や本を書きますとバカにならぬ量になりませぬか?」
「それは、新しく単語をつくれば良いと思います。アルファベットの二十八文字には及びませんが、平仮名ならば四十八文字でです。漢字は商家の帳面を付けるだけで五千字ほど覚えなければなりません。時間の無駄になるでしょう、諸外国に追いつき追い越すためには、短時日のうちに読み書きのすべを教えなければならないのですから」
 もう少し言ってやりたい奈何だったが、それ以上は来輔の顔も機嫌も損なうことになるので止した。
 
 数日後、所用のため神田あたりを歩いていると、野師の啖呵売りを熱心に聞いている勝安房守を見かけた。
 
「おう、来輔のカミさんじゃねーか」
 軍艦奉行ともあろう者が、口を開けて啖呵売りを聞き入っているのも……と思い、黙って通り過ぎようとすると、逆に勝に呼び止められた。
「あ、これは……(名を出すのが憚られ、間が開いてしまった)気が付きませんで申し訳ございません」
「いいよ、気を使わなくっても。いや、大したものを売ってるわけじゃないんだが、あんまり小気味のいい口上なんで聞き入っちまってさ。おいちゃん、その飴ふたっつくれろや」
 啖呵売りから飴を買い求めると、一つを奈何にやって歩き出した。
「『物の始まりが一ならば島の始まりが淡路島。泥棒の始まりが石川の五右衛門なら、博打打ちの始まりは熊坂の長範、ねえ、兄さんは寄ってらっしゃいは吉原のカブ。産で死んだが三島のおせん、そう、ハイ、四谷赤坂麹町チャラチャラ流れる御茶ノ水、いきな姐ちゃん立ちションベン!』ハハ、憶えちまった。こういう生きのいい啖呵は四角四面のカミシモ着てちゃ言えないね」
「は、はい……」
「あの啖呵売りのオヤジも四角い顔のブ男だが、歩下駄叩いて口上言ってる時は粋なもんだ、言葉ってのはああでなきゃいけない」
「さようでございますね……💦」
 この時代の習慣で、奈何は三尺下がって勝の後についている。そのためか、元々の地声なのか、勝の声は伝法な上に大きい。小なりとは言え直参旗本の娘としては恥ずかしい。
「そうだ、来輔もここんとこ働きづめだから……これでも観てくるといい」
 勝は一通の手紙を出した。
「芝居茶屋の女将からなんだけどね、この文を持っていけば升席で芝居を見せてくれるんだ。あいにく野暮用でオイラはいけねーんだけど、代わって義理を果たしてくれりゃ大助かりなんだ」 
 
 勝の野放図な伝法から逃げたいこともあって、奈何は素直に頂いて帰った。
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高校ライトノベル・時かける少女BETA・29《コスモス坂から・2》

2019-06-15 07:06:41 | 時かける少女
時かける少女BETA・29 
《コスモス坂から・2》 


 極楽寺の手前は箱庭のような山があって、その下を江ノ電唯一のトンネルが穿たれている。

 電車は二両連結で、玩具のようにゴトゴトと、その単線のトンネルからホームに入ってくる。極楽寺を過ぎて、稲村ヶ崎に着くまでは、ちょっとした山中の風情。
 そして稲村ヶ崎を過ぎると、スイッチで切り替えたみたいに太平洋のパノラマが開けてくる。そして車窓から吹き込んでくる潮の香を吸い込んで七里ヶ浜に着く。

 たった三駅だけだけど、毎日、この日本一変化に富んだ景色を堪能して学校に行く。

 休みの日には、鎌倉や江の島、その先の藤沢まで足を延ばす。この江ノ電の界隈で、たいていのことが間に合う。コンパクトだけど、日本のエッセンスがこの江ノ電周辺には集まっている。芳子は、それで満足だった。
 妹の久美子は、東京に行った兄の影響もあって、ウズウズしている。箱庭みたいな湘南から早く飛び出したくて、月に一度は東京に足を延ばす、高一の秋にして東京の地理は芳子よりも詳しくなった。
 同じ電車に乗りながら、受ける印象はまるで違う。ただ、稲村ヶ崎の駅を過ぎて海が見えると姉妹の胸は時めいた。芳子にとっては湘南の海として、久美子にとっては世界に広がる太平洋として。

 そんな姉妹の想いを乗せて、十分ほどで二両連結の電車は、七里ヶ浜の駅に着いた。

 電車の中で海を見ていた間元気だった久美子が、駅に着いた途端ウスボンヤリの低血圧に戻ってしまった。後ろから声高に議論している男子生徒の一群が追い越していく。で、追い越しざまに久美子の肩に当たり久美子はよろけて倒れそうになった。
「久美子!」
 辛うじて芳子が支えたが、鞄が道路に落ちて、半端な止め方をしていた口金が外れて、中身がぶちまけられた。
「ちょっと、気をつけなさいよ!」
 低血圧のくせして久美子は、こういう時の啖呵はしっかり切る。
「あ、ごめん」
 男子生徒たちが、慌てて鞄の中身を拾い集めた。
「あー、もう。お弁当グチャグチャになっちゃったじゃないよ!」
 久美子は、自分の鞄の留め方の悪さを棚に上げて文句だけはしっかり言う。
「いやあ、申し訳ない。お昼は食堂でおごらせてもらうよ、学年は一年だね、クラスと名前は?」
「3組の三村久美子。ノートや教科書に書いてあるでしょ!」
「三村……」
「ひょっとして、三村勲先輩の妹!?」

 この男子の言葉の響きに芳子は剣呑なものを感じた。

「いいえ、ぼんやりしていた妹も悪いんだから、気を使わないで」
「いやあ、そういうわけにはいかない。ぶつかったのは僕なんだから、そうさせてくれ。僕は3年8組の白根真一、4時間目が終わったら食堂の前で待ってるから。良かったらお姉さんもどう?」
「いいえ、あたしはけっこうです」
「お姉ちゃんは、こういうシチュエーションすきじゃないもんね。あたし待ってますから、絶対よろしく!」

 こうして、ありふれた一日は、特別な一日になっていきそうな気配になってきた……。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・36』

2019-06-15 06:53:27 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・36


『第四章 二転三転7』

 エー……!!

 いっせいに声があがった(と言っても、三人。わたしと、タマちゃん先輩、タロくん先輩)

 テスト明け最初の稽古日。乙女先生がプレゼンに入ってきて大橋先生を廊下に呼び出した。
 廊下で、二人がヒソヒソと話す気配。
 悪い予感がする。ひょっとして……。
 と、思ったら、大橋先生がコンニャク顔で戻ってきて、乙女先生が廊下を小走りで走り去る気配。
 そして大橋先生が、穏やかにこう言った。

「ねねちゃんと、ルリちゃんが降りた」

 で、最初の「エー……!!」に繋がるわけ。
 タロくん先輩はうつむいてしまった。
 タマちゃん先輩は、そっと膝を閉じた。

「台本と、香盤表を出しぃ」
 三人、ゴソゴソとその二つを机に並べる。
「……ルリちゃんがやってた役をタマちゃんが兼ねる。ねねちゃんの役は栄恵ちゃんに兼ねてもらう」
「先生、出番がかぶりますけど……」
「こんなときのための香盤表や。今から、台本に手ぇ加えるから、ボールペン持って……まず、シーン3から……」

 それから三十分ほどかけて、なんとか二役でやれるように改稿できた。
 そこに乙女先生が入ってきた。
「あの二人捕まえてきましたけど、オオハッサンどないしましょ」
「もう、よろしいがな。人間は掛け算、数字が合わんかっただけです」
「……そやけど」
「一人二役を二つ作って、なんとか四人でできるようにしましたから。廊下におる二人は帰したってください」
「そうですか……」
 少し不満そうであったが、乙女先生は廊下に出た。なにやら言い含めている様子で、やがて「はい」という声が二つして、去っていく足音がした。
「さあ、ほんなら一回読んどこか……栄恵ちゃんは?」
「来ると思いますけど……」
 タロくん先輩が答える。
 栄恵ちゃんは今まで無断で休んだことはない。ちょっとした遅刻をたまにする程度。
……しかし稽古が始まって、もう一時間が過ぎていた。

 ほとんど、読み終えようとしていたときに、タロくん先輩のスマホが鳴った。
「はい、もしもし……」
 先輩はスマホを耳に、廊下に出た。
 残りのみんなが、先輩を目で追った。
「また……」
 タマちゃん先輩がつぶやいた。
「先生ちょっと、栄恵ちゃんです」
 タロくん先輩が、先生を呼んだ。

 栄恵ちゃんとの通話を終えて、先生が廊下からもどってきた。
「忙しい日ぃやのう、今日は……」
「先生、栄恵ちゃん、なにかあったんですか?」
 思わず、わたしは訊ねた。
「タマちゃん、乙女先生呼んできてくれるか」
 先生は腕を組んだ。

 乙女先生が来て、ようやく先生は腕をほどいた。
「なんかあったんですか?」
 ドアを開けながら乙女先生。
「栄恵ちゃんのお母さんが入院しはったようです」
「それで……」
 三人も無言で、大橋先生を見つめる。
「過労らしいですわ。今は、まだ検査中や言うてました」
「で……」
「わたしから言いました。この芝居降りて、お母さんの世話と家のことやったげなさいて。バイトも抱えてますからね、栄恵ちゃん」

 正解だろうと思った。まじめな栄恵ちゃんの性格だ、先生から切り出さなければ「なんとかします……」と、当てもなく、そう返事をしただろう。
「『ノラ』はもうでけへん。本替わるけど、みんなついてこられるか?」
「今から、本替えるて、本番まで四十日もないねんよ、本探すだけで二三日は……」
「かからへんよ乙女さん。それよりみんなのモチベーションや、オレのこと信じて付いてこられるか。タロくん、タマちゃん、はるか……」
「はい……」
 
 そう答えるしかなかった。
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