大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・028『田中さん!?』

2019-06-24 14:29:41 | ノベル
せやさかい・028
『田中さん!?』 

 

 

 もう三日ですけど。

 それだけで通じた。

「分かってる、先生らにも考えがあるんや」

 目ぇも合わせんと、吐き捨てるように言うて、菅ちゃんは職員室に入ってしもた。

 鈍感で無神経な担任やけど、田中さんの事はヤバイと思てるんや。

 ハーーー

 ため息一つついて回れ右、階段の陰から留美ちゃんの顔が半分だけ覗いてる。

「頼りない先生だね……」

 階段のとこまでいくと全身を現わした留美ちゃんがこぼす。留美ちゃんが、こんなにハッキリと人を、それも先生を、それも担任をけなすのは初めてや。

 それだけ、菅ちゃんも学校もドンクサイいうことやねんけど。それ以上の事を言うたりやったりする頭は自分にもない。田中さんの家まで行ってみよいう気ぃはあんねんけど、行ってどないすんねん? 会えたら何を言うたげんねん? そない思うと、菅ちゃんに――どないなってますのん?――と聞くしか才覚のないことに気づく。

「今日は25メートルだよ」

「ゲ!?」

 切り替えた留美ちゃんの一言で差し迫った現実に引き戻される。

 

 三時間目はプールや。

 

 実は、今日から中学初めてのプールなんやけど、体育の磯野先生はこない言うた。

「まず、25メートル泳いでもらう。25メートルの泳ぎっぷりで三つの班に分ける。うまい班と苦手班と金槌班や。金槌班は泳げるようになるまで先生が教える。うまいと苦手は、とりあえず指示だけ。学期末には記録をとるから、せいだい励め」

 磯野先生の指導は手取り足取りだよ。 

 卒業生である詩(ことは)ちゃんは、そういうて眉をひそめた。

 

 水泳は苦手や。

 

 25メートルなんて無理無理無理! だいたい水着なんて裸も同然。なんで、学校の授業で裸を晒さなあかんねん!

「わたしらのころは、プールに遅刻したら水着のままグラウンド走らされたなあ」

 めずらしく晩御飯を一緒に食べたお母さんが言う。

「お母さん、水着で走ったん!?」

「うん、一回だけ」

 ズボラなお母さんにしては少ない。

「いやあ、わたしが水着で走ると、校舎の窓に男子が鈴なりになってねえ。これでは授業になれへんと先生らから文句が出て、中止になったんよ。アハハハ」

 ただのオチョクリやねんけど、思春期の女子中学生をブルーにするのには十分すぎる。

「酒井、おまえは金槌班!」

 磯野先生に宣告されてしもた。

 それからは、ひたすらブルーの酒井さくら。申し訳ないけど、田中さんの事も頭から飛んでしもた。

 

 そして、今日は朝の一時間目から水泳の授業おおおおおおおおおお!

 休まんと学校行っただけで、国民栄誉賞もろてもええと思う!

 そんで仮病もつかわんと水泳の授業受けたんはノーベル賞や!

 

 その水泳の授業に、田中さんが出てる!

 

 もともと体育系女子の田中さんは、スク水着せると中一とは思えんくらいにイカシテル!

「金槌組が多すぎ(二クラスで十八人)て、先生の手ぇが回らへん。今から言う泳げる班はアシストしてやってくれ」

 先生は、水泳部のAさんと田中さんを指名した。金槌組には特にドンクサイのが三人おって、一人は見学してるんで、残る二人をAさんと田中さんがもつことになった。

「じゃ、みっちりやるからね!」

 ビビりまくりのあたしの前に立って、田中さんは宣言するのであった。

 げ、元気そうでええねんけど、あの、外階段から飛び降りようとした田中さんは、どこに行った~~ん!!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公 安泰中学一年 
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主
  • 酒井 詩        さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
  • 榊原留美        さくらの同級生
  • 夕陽丘・スミス・頼子  文芸部部長
  • 瀬田と田中(男)       クラスメート
  • 田中さん(女)        クラスメート
  • 菅井先生        担任
  • 春日先生        学年主任
  • 米屋のお婆ちゃん

 

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高校ライトノベル・連載戯曲『あすかのマンダラ池奮戦記⑨』

2019-06-24 06:58:56 | 戯曲

連載戯曲
あすかのマンダラ池奮戦記⑨』


 
 

 戦闘音が土木機械の音に置き換わって明るくなる。もとのマンダラ池のほとり。手前にあすか、奥に桔梗が倒れている。

あすか: ……ん……マンダラ池……埋立て工事が始まってる……夢おち?(桔梗に気づく)フチスミさん!? フチスミさん、しっかりしてフチスミさん!
桔梗: ん……あすかさん……ここは?
あすか: マンダラ池ってか万代池、イケスミさんが住んでいたところ。大丈夫? 大丈夫だよね、神さまなんだからフチスミさんは。
桔梗: わたし、桔梗だよ。
あすか: 桔梗さん? どうして?

 ガードマンのオバサンの姿をしたイケスミがホイッスルをふきながら上手からくる。

イケスミ: ダンプは北から、むこうの方! ユンボこっち! 土ゆるいからそこで停めといて。(二人に)そこあぶないから、こっちの方で話してくれる。ごめんね。今日から工事始まっちゃうから……
桔梗: すみません。
あすか: ども……

 舞台中央で、ガードマンのイケスミと二人、交差。二人はイケスミに気づかない。

桔梗: オオミカミさまももどられたし、フチスミさん、あそこを離れられないと思うの……
あすか: そうか。ミズホノサトは廃村というか……沈んだまんまだし。桔梗さん、あそこに住むわけにもいかないんだ。
桔梗: 万代池も、ひどいことになってしまってるのね……
あすか: 時代の流れというのかね。あたしも長年……と言っても十数年だけど、万代池だなんて由来知らなかったからさ、マンダラ池だと思って、昨日なんか、ウンコふんづけちゃって、靴洗ってたりしたんだ。
桔梗: 靴洗っちゃたの、神さまの池で!?
あすか: 知らなかったんだもん……ごめんなさいって……ちゃんと謝ったんだよ……言っちゃあなんだけど、やっぱイケスミさんて、すねた神さまだよね、それで、あたしをひっかけて依代にしちゃうんだから……今ごろはオオミカミさまのスネしゃぶりつくしてんだろうね。ま、いいか、頭もよくしてもらったことだし……
桔梗: どっちもどっち、二人ともたくましい都会の神さまと人間。
あすか: 桔梗さん。しばらくあたしの家にいなよ。3LDKだけど、三人家族だからもぐりこめるよ。
桔梗: そんなの悪いよ。わたしも子供じゃないんだから……
あすか: そうしなって、ここへそろって送ってこられたのも、そういうおぼしめしだと思うの。
桔梗: だって……
イケスミ: だってもあさってもなーい!
二人: え……!?
イケスミ: まだ気がつかない?
二人: ……?
イケスミ: あ・た・し(ヘルメットとタオルをとる)
あすか: イケスミさん!
桔梗: どうかしたんですか!?
あすか: てっきりスネかじってると思ってたのに……その姿?
桔梗: 神さま廃業ですか?
あすか: だったらお父さんに頼んでもっと時給のいいパート紹介してもらったのに。
桔梗: おいたわしい……
イケスミ: うるせー!
桔梗: だって……
あすか: その姿……
イケスミ: これは、池の最後を見届けるための方便だよ。
あすか: ホーベン?
桔梗: ということは、まだ神さまでいらっしゃるんですね。
イケスミ: オオミカミさまに叱られてな。
あすか: キャッチセールスみたいなことするからだろ?
イケスミ: それもあるけどさ、ここを見捨てたことな……あすかも言ってただろ?
あすか: あれ、売り言葉に買い言葉。気にしないでくれる?
イケスミ: 池があろうとなかろうと、そこに人が住んでいるかぎり逃げてきちゃいけないって。
あすか: でも、人がいたって信者がいなきゃ。
イケスミ: いるよ。あすか、おまえが信者一号、桔梗が信者二号だ、よろしくな。
桔梗: アハハ……でもフチスミさんは……
イケスミ: あたしが兼任、元をたどればオオミカミさまにたどりつくんだから、どっちの信者になっても同じさ。フチスミさんは、しばらくはオオミカミさまと地元の復興……それに、あんたたちも、たどっていけば同じ一族なんだよ。
あすか: え、親類!? あたしたちが!?
イケスミ: あすかの元宮というのは、元宮司って意味で、天児一族の分家、三百年前にあたしといっしょにやってきた家系さ。
桔梗: でも、一族とは思いませんでした。
イケスミ: さすがの桔梗にもわからなかったか?
あすか: でも、親類だと思うとなんか嬉しいね。
桔梗: はい……でもお世話になるのは……
あすか: 硬いこと言うなよ。
イケスミ: あんたたちは双子の姉妹、二卵性の。そういうことにしといた。
二人: ええ!?
イケスミ: 役所の書類もそうしといたし、親も友だちも、みんなそういうふうに思ってる。
あすか: ええ、そんな……
イケスミ: ミズホノサトは必ず人がもどってくる。少しずつ水もひいて、もとの生活がね……でも、それには何十年もかかるだろう。それまで桔梗を天涯孤独の身の上にしておくのはかわいそうだ……これはオオミカミさまのおぼしめしでもある……それとも、桔梗と姉妹じゃ不足かあ?
あすか: ないない。ねえ?
桔梗: え、ええ。
イケスミ: そうときまれば、やることは一つだけ。
あすか: え、なんかすんの?
イケスミ: 双子でも、姉と妹の区別がいる。
あすか: そりゃ、誕生日の早いほうが……
イケスミ: バカ、双子の誕生日はいっしょにきまってるじゃないか。
桔梗: 何をするんですか?
イケスミ: ここから、自分の家まで、ヨーイドンで走る。先についた方がお姉ちゃんだ。いいな。
あすか: ようし、足には自信が……
桔梗: わたしだって!
イケスミ: それじゃ……(競技用のピストルを出す)ヨーイ……
あすか: っと、その前に一つ聞いていい?
イケスミ: なんだい、ずっこけるだろーが!
あすか: オオミカミさまたちの出雲会議がさ……あんなに長引いた理由ってのは? よっぽど大事な議題なんでしょ?
イケスミ: ああ、人と自然の将来に関わる大切な話をされていたのさ、ずいぶんもめたみたいだけどね。
あすか: で、結論は?
桔梗: それは……
イケスミ: こうして、あんたたちとわたしがいる。それが結論……と、いうことで納得しろ。
あすか: こうして、あたしたちがいることが……
イケスミ: それじゃいくよ、ヨーイ……っとその前に。
あすか: なによ、ずっこけるじゃないよ!?
桔梗: アハハハ……
あすか: なによ!?
イケスミ: 実は、あのオール五の成績票ね。
あすか: そうそう、ごほうびの……(ポケットに手をやる)ない……ポケットのどこにもない!?
イケスミ: 戦いの最中に、おっことしたんだよ。
あすか: え?
イケスミ: フチスミさんが拾ってくれた。そうだよね?
桔梗: え、ええ。
イケスミ: それをあずかったのがこれ……
あすか: ありが……とうに破れてるじゃん!?
イケスミ: 戦いの最中だもん……
あすか: じゃ、もとのあたしにもどったってわけ!? せっかく真田コーチと同じ学校いけると思ったのに……
桔梗: いいじゃない、受験までにはまだ間がある。今度は自分の力で。わたしも応援するから。
イケスミ: じゃ、今度こそいくぞ。待ったなし……ヨーイ……ドン(本物の競技用がいい)

 花道(通路)を本気で駆ける二人、見送るイケスミ。

イケスミ: ……どっちが勝つにしろ、着いたころには、本当の姉妹と思い込んでいるはず、そういう魔法がかけてあるんだから……さあ、またせたな! 埋め立てるよ、ユンボはむこうから、ブルドーザーこっち、ダンプも前に進んで……(観客に)じっと観てないで拍手! おしまいだから幕はおろして……

 イケスミ、まるで現場監督のようにホイッスルを吹き、埋め立ての指揮をとるうちに幕。(余裕があれば、キャスト、スタッフが出てきて、鳴り物入りでフィナーレにしてもいい。ラストのイケスミの台詞「じっと観てないで拍手」のあたりで)


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高校ライトノベル・里奈の物語・4『はてなの鉄瓶』

2019-06-24 06:21:36 | 小説3

里奈の物語・4『はてなの鉄瓶』


 伯父さんちに行くと言いだして三回もすっぽかしている。

 だから四回目を信用してもらえなくて、当たり前。
 だいたい、伯父さんちに行ったって、あたしの不登校が治る保証はない。

 何もしないで引きこもっているよりは、希望があるような気になれる。お母さんもあたしも。
 
 本当は『西の魔女が死んだ』とか『思い出のマーニー』みたく、田舎に行くのが正当なんだろうな。

 でも田舎はいやだ。

 自然の中でノビノビなんかできない、三日も居たら、あたしなんか飲み込まれて消えてしまいそう。
 人も少ない分だけ距離が近いに違いない、縁側にとなりのお婆ちゃんとかが来て「おはようさん」とか、想像しただけでダメ。
 おはよう、こんちは、さようなら、程度の挨拶で済む人間がワヤワヤと居た方がいい。
 好きな海老センが無くなったら、ジャージとかで買いにいけるコンビニがなければだめだ。

 大阪市の東のはしっこの今里はうってつけ。

 うってつけと言っても、三回すっぽかした。
 13日の金曜日に、やっと実行できた。
 13日の金曜日なら、状況が悪くなっても「あんな日だったから」と言い訳ができる。
 13日の金曜日だったら、なんか悪魔的な力が働いて、結果的にグッドになるかもしれない。
 あたしは引きこもりのマイナス少女。13日の金曜日は年に一二回しかこないマイナス日。

 マイナスとマイナスを掛ければプラスになる……………かも。

 それに、伯父さんちが『アンティーク葛城』という骨董屋というのもいい。
 由緒やイワクとかがありそうなアンティークたちは、それだけで、あたしの周りに結界を張ってくれそう。

「うわー……鉄瓶がいっぱい!」

 お店のバックヤードには、鉄瓶が棚いっぱいに並んでいる。伯父さんが京都で仕入れてきた鉄瓶たち。
「伏見の町屋から出てきたんや、昔は茶道具屋さんやったようでな、明治時代の売れ残り……」
 そう言いながら、伯父さんは、バケツの上で鉄瓶を逆さにする。ドボドボと鉄瓶の口から水が吐き出される。
「おとうちゃん、この二つあかんわ」
 おばさんが指し示した鉄瓶の下はジットリと水で濡れていた。
「わしの方も二つあかんわ。4/90、まあまあの歩留まりやな」
 そう言うと、伯父さんは水漏れ鉄瓶を金づちで叩いた。
「キャ!」
 鉄瓶はあっけなく割れてしまった。びっくりして声が出てしまった。
「良品と紛れるとあかんからな」
 そう言って、もう一つの不良品をムンズと掴んだ。
「あ、壊すんだったら、もらえませんか!?」
「え、こんな水漏れをか?」
「う、うん……筆指しに……いいかなって」
「そうか、ほんなら……」
 伯父さんは、修正ペンを持つと、鉄瓶と蓋に小さく印を入れた。良品に紛れないようにしたようだ。

 四つあった水漏れは、おばさんも金づちを持っていたので、あたしがもらったものだけが助かった。

 あたしは、すぐに部屋に持ってかえり、机の上に置いてみた。
 ここに来て、まだ二日目の机は殺風景。その机の上で頼もしい存在感。
 鉄瓶は、お湯を入れて、お茶に出来なきゃ存在意味がない。でも、この鉄瓶は、それができない。なんだか親近感。
 だから、他の水漏れは金づちで叩き壊された。よくぞ生き残った。

 あたしは、この存在感だけでいい。

 で……どこから漏れたんだろう?

 漏れたところは、ジメっとシミになっているので、ティッシュで拭いてみる。
「あれ……?」
 穴もヒビも入っていない。引き出しにルーペが入っているのを思い出し、それで拡大してみる。

 やっぱ、分からない。

 あたしは、好きな落語にひっかけて『はてなの鉄瓶』と名付けた。

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高校ライトノベル・時かける少女BETA・38《コスモス坂から・11》

2019-06-24 06:12:04 | 時かける少女

時かける少女BETA・38
《コスモス坂から・11》



 出来たばかりの関越自動車道を通って、芳子は兄の勲と妹の亭主の真一を乗せて新潟に向かっていた。

「新潟くんだりでスクープなんて、ほんとにとれんのかよ?」
「請け合うわよ。それよりカメラはちゃんと写るんでしょうね?」
「三度目だぜ、その質問」
「三度も、同じこと聞くからよ」
 真一は、そんな兄妹の言い合いを微笑ましく聞いていた。

 70年安保は不発に終わり、世の中は万博の余韻も冷めて、オイルショック直前の好況に沸いていた。

 芳子も確信があってのことではないが、ひと月ほど前から胸騒ぎが強くなり、編集者のつてで、ここまでの段取りをつけ、いよいよアクションドラマの山の感である。
 新潟には午後3時ころに着き、東京で会っておいた元自衛隊の特殊部隊の男二人といっしょになった。
「では、ここからの指揮は田中さんにお任せします」
 田中と呼ばれた男は黙ってうなづき、勲と真一に行動のサインを教えてくれた。複雑なものは覚えられないので「隠れろ」「走れ」「逃げろ」の三つだけである。
 新潟で車を乗り換えるとS市の海辺沿いの道で降り。指定された海沿いの藪の中に入った。驚いたことに田中の仲間がすでに三人いて、田中が目配せすると、四人の男は別々に散っていく。

 藪の中の人間は、芳子と田中と真一に勲の四人になった。

 晩夏の日差しがやっと西の海に沈みかけたころ、三人の男が、それぞれ別方向から海岸にやってくるのが分かった。
 一見近所のオッサンが夕涼みにきたような気楽な風情だ。
 一人の男がタバコに火を点け、なにやら数回、その火を不規則にかばう。
 すると、岬の向こうから一隻の漁船が無灯火でゆっくりやってくるではないか……漁船には二人の男の影が見えたが、一人だけ降りて、丘の三人と話し始める……短い言葉だが日本語でないことは分かった。

 三人の男が漁船に乗り込もうと海に足をつけたとき、海岸沿いに人の気配がする。藪の木葉越しに見ると、どうやら学校帰りの女子高生のようだった。女子高生は、なにか男たちを不審に思ったのか、じっと男たちを見つめている……瞬間男の一人と目が合い、男の目の鋭さにたじろぐ。四人の男たちは一斉に女子高生に向かって走り出し、手馴れた手つきで、口を塞ぎ、手足の自由を奪った!
 勲は高感度のカメラで、一連の動きを連写。真一は、小型のテープレコーダーで録音をしていた。

 男たちが、女子高生をかついで海に向かったところで、田中は鳥の声に似た合図をし、自分は海辺の漁船にまっしぐらに走る。驚いたことに芳子自身も体が動き、田中と息を合わせて漁船に向かう。
 膝まで浸かって漁船に近づくと、漁船の男は自動小銃を構えた。田中が斜めに漁船に飛び移った後を追いかけるように、乾いた連射音とともに海面に小さな水柱が立っていく。芳子は反対の舷側に飛び乗り自動小銃の男に回し蹴りを食らわせる。田中と男は無言で争ったが、十秒もかからずに男の肩の関節を外し確保した。
 芳子がブリッジに駆け上がると、男が一人エンジンを動かそうとしていたが、芳子はキーを抜き、男の顔面に頭突きを食らわせ、習いもしないのに、あっという間にそばのロープで男を縛り上げた。

 丘の戦いもあっという間に終わり、女子高生は助けられ、男たちは船の男と同様に肩の関節を外され、手足を縛ったうえに舌を噛み切らないように猿ぐつわをかまされた。

 芳子は、漁船の明かりをすべて点け、大音量で北C国の国歌を流した。

 やがて人だかりができ始め、たった5分で警察。10分後には海保の巡視艇がやってきた。30分後には、ヘリコプターやら報道各局の記者を乗せた車も集まり始め、潜入後国外に逃走しようとしていた北C国の工作員たちは一網打尽になった。
「えらく手回しがいいですね」
 芳子が言うと、田中は当たり前のように言った。
「電話線に送話機をかまして、警察と、海保に連絡しました。マスコミは知りませんが」
「空振り覚悟で、事前に連絡しといたの。こういう時作家の名前は便利ね」

 一時間後には、テレビカメラも入り、事件は日本全国に生中継された……。
 

※:この話はフィクションであり、現実に存在する組織個人とは無関係です

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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・45』

2019-06-24 05:57:50 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・45 

 

『第五章 ピノキオホールまで・6』

 その日の公演は、チェーホフの『熊』と『結婚の申し込み』の二本立てだった。

『熊』はすごかった。
「すごかった」なんて感想は小学生並み。
 でも、一言で言えといわれれば「すごかった」になる。
 主役の最初の台詞で、ドーンときた。
「自分は退役砲兵中尉、地主のグレゴリー・スチュ-パノヴィチ・スミノーロフであります」
 存在感がある。ドアノブ一つ開けるのにも、ムンズって感じ。歩いても、いかにも「熊」一歩踏み出すごとに、確実に床をとらえているってか、体重を載せていく。けして仕草は大きくないけど、キャラの意思が、台詞だけじゃなく全身から出てくる。
 話は、このスミルーノフのオッサンが、未亡人のポポーワのところにきて借金の取り立て。そこに従僕のルカーなんかが、絡んで、意外な結末になる。
 面白かった。今時のゲビゲビのギャグなんか無いんだけど、とにかく笑わせてくれる。
 途中で、大橋先生が言った「台詞をしゃべっていない役者を見ろ」を思い出し、苦労してやってみた。だって、ついしゃべっている役者さんを見ちゃうんだもん。
 発見した。しゃべっていないときの役者の表情や動き……!
 ポポーワのおしゃべりの間に何か言おうとして、息をのむ。でもポポーワのおしゃべりに割り込めずに、息を吐く。同時に腕が前に出る。台詞ではないけど「オレにもしゃべらせろ」と、身体が言っている。
 これで、ポポーワの台詞や動きが、スミルーノフとの駆け引きになって、会話ってか、コミュニケーションのボルテージが、上がる。
 こころなしか、しゃべっていないときの演技が、質量共に多くて、大きいような気がした。

 二本目の『結婚の申し込み』は退屈だった。
 話は、隣の家の娘さんをお嫁さんにしようと、訪ねてきて、肝心の話ができなくなっちゃう。土地の所有権や、犬の善し悪しに話がとんで、口論になってしまうって喜劇。
 なのに面白くない……パワーはあるんだけど滑ってしまってる。
 そこで、台詞をしゃべっていない役者に注目……。
 あ、そうか……分かっちゃった。
 相手が、怒らせるような台詞を言う前に、もう怒った顔になっている。
 我慢して聞いている言葉の間に息が乱れていない。
 はっきり言って、台詞を聞いていない。動きも大きいんだけど、気持ちが出来ていないから、ただ大げさなだけ。
 なんで、あんなに出来の違う作品を並べたんだろう。まるで金賞と佳作の違いみたいに……と思ったら、自分の佳作が思い出された。

 吉川先輩は喜んでくれた。わたしも喜んだふりをした。
 わたしは、銀賞が欲しかった。あの二十万円が。
 佳作は、二万円。二万円では、わたしのタクラミには届かない!

 お母さんは、どんな手を使ったのか、もう作品のコピーを持っていた。
「どうして……まさかわたしのパソコン!?」
「見るわけないでしょ。ロックもしてあるし。A書房に電話してね、まあ、その程度には、わたしの名前も通ってるわけよ。ちょっと散文的で、抑制しすぎて甘くなってるけど、まあその甘さに合わせたお祝い」
 駅前のコンビニで買ったシュートケーキに、ロウソクを一本立てて。
「金賞だったら、焼き肉。お腹一杯食べにいくつもりだったんだけどね」
 わたしは、ショートケーキを焼き肉に見立てて、お箸ではさんで、フーフーしてロウソクの火を消した。ささやかな皮肉。
「なに、それ?」
「焼き肉、フーフーしたつもり。置き換えっていうんだよ、演劇的には」
「ハハハ、はるか、そのうちに『女ハムレット』になるよ」
「なに、それ?」
「芝居も、文学も、永遠のオイデオイデの悪魔だからね」
「それ、太宰の言葉だね」
「オイデオイデは二つも持てないよ」
「三つ目があるかもよ」
「よしてよ、眉間にシワ寄せるのは、わたしだけで……あ、流れ星!」
 お母さんが、ベランダを指さした。
「え、どこ?」
「ヘッヘ、願い事、間に合っちゃった」
 お母さんだけ間に合うってか(くそ!)
「どうせ、原稿料上がりますように、でしょ」
「違うわよ。傑作が書けますようにってね……」
「プ……」
「笑うんじゃないわよ。文学ってね、佳作から始まんの。佳作の次はなんだか分かる?」
「名作……?」
「ううん、奇作。で、その次が苦作。今のわたしのレベル。そんで次が傑作」
「ハハハ、で、最後は骨作?」
「なに、それ?」
「死ぬ間際、骨になってでも書く作品」
「もう、親をお茶にして」
「お茶入れるね」

 ティーポットにお湯を入れているとカレンダーが目に止まった。

「あ、明日稽古休みだ」
 振り返ると、テーブルの上に千円札が二枚乗っていた。
「ワーナーの新作。いいらしいから観といでよ」
 スランプ中なのに、娘の佳作に、お母さんの自然な気遣い。
 ありがたく手刀を切る(お相撲さんがやるやつよ)娘でありました。
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