もう三日ですけど。
それだけで通じた。
「分かってる、先生らにも考えがあるんや」
目ぇも合わせんと、吐き捨てるように言うて、菅ちゃんは職員室に入ってしもた。
鈍感で無神経な担任やけど、田中さんの事はヤバイと思てるんや。
ハーーー
ため息一つついて回れ右、階段の陰から留美ちゃんの顔が半分だけ覗いてる。
「頼りない先生だね……」
階段のとこまでいくと全身を現わした留美ちゃんがこぼす。留美ちゃんが、こんなにハッキリと人を、それも先生を、それも担任をけなすのは初めてや。
それだけ、菅ちゃんも学校もドンクサイいうことやねんけど。それ以上の事を言うたりやったりする頭は自分にもない。田中さんの家まで行ってみよいう気ぃはあんねんけど、行ってどないすんねん? 会えたら何を言うたげんねん? そない思うと、菅ちゃんに――どないなってますのん?――と聞くしか才覚のないことに気づく。
「今日は25メートルだよ」
「ゲ!?」
切り替えた留美ちゃんの一言で差し迫った現実に引き戻される。
三時間目はプールや。
実は、今日から中学初めてのプールなんやけど、体育の磯野先生はこない言うた。
「まず、25メートル泳いでもらう。25メートルの泳ぎっぷりで三つの班に分ける。うまい班と苦手班と金槌班や。金槌班は泳げるようになるまで先生が教える。うまいと苦手は、とりあえず指示だけ。学期末には記録をとるから、せいだい励め」
磯野先生の指導は手取り足取りだよ。
卒業生である詩(ことは)ちゃんは、そういうて眉をひそめた。
水泳は苦手や。
25メートルなんて無理無理無理! だいたい水着なんて裸も同然。なんで、学校の授業で裸を晒さなあかんねん!
「わたしらのころは、プールに遅刻したら水着のままグラウンド走らされたなあ」
めずらしく晩御飯を一緒に食べたお母さんが言う。
「お母さん、水着で走ったん!?」
「うん、一回だけ」
ズボラなお母さんにしては少ない。
「いやあ、わたしが水着で走ると、校舎の窓に男子が鈴なりになってねえ。これでは授業になれへんと先生らから文句が出て、中止になったんよ。アハハハ」
ただのオチョクリやねんけど、思春期の女子中学生をブルーにするのには十分すぎる。
「酒井、おまえは金槌班!」
磯野先生に宣告されてしもた。
それからは、ひたすらブルーの酒井さくら。申し訳ないけど、田中さんの事も頭から飛んでしもた。
そして、今日は朝の一時間目から水泳の授業おおおおおおおおおお!
休まんと学校行っただけで、国民栄誉賞もろてもええと思う!
そんで仮病もつかわんと水泳の授業受けたんはノーベル賞や!
その水泳の授業に、田中さんが出てる!
もともと体育系女子の田中さんは、スク水着せると中一とは思えんくらいにイカシテル!
「金槌組が多すぎ(二クラスで十八人)て、先生の手ぇが回らへん。今から言う泳げる班はアシストしてやってくれ」
先生は、水泳部のAさんと田中さんを指名した。金槌組には特にドンクサイのが三人おって、一人は見学してるんで、残る二人をAさんと田中さんがもつことになった。
「じゃ、みっちりやるからね!」
ビビりまくりのあたしの前に立って、田中さんは宣言するのであった。
げ、元気そうでええねんけど、あの、外階段から飛び降りようとした田中さんは、どこに行った~~ん!!
☆・・主な登場人物・・☆
- 酒井 さくら この物語の主人公 安泰中学一年
- 酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
- 酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
- 酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主
- 酒井 詩 さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
- 酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
- 榊原留美 さくらの同級生
- 夕陽丘・スミス・頼子 文芸部部長
- 瀬田と田中(男) クラスメート
- 田中さん(女) クラスメート
- 菅井先生 担任
- 春日先生 学年主任
- 米屋のお婆ちゃん