アサケタニ?
ノンコがボケをかます。
それも正面ゲートの真ん前で。
リックンランドに向かう家族連れやオタクさんたちが笑ったり呆れたりしている。
わたしたちはリックンランドではなくて隊員食堂に向かうので、安倍先生が受付で手続きをしているのだ。そのために、調理研の四人は初めての自衛隊基地にキョロキョロしている。
「阿佐ヶ谷って読むんだよ」
清美が指導を入れる。
「あさがやちゅう……?」
「とんち!」
「ああ、とんちか!」
「このトンチンカン!」
「恥ずかしいから、離れてくれる」
三人が漫才をしている横で、わたしはシミジミしている。
初めて来たのは昭和五年だったか……帝都近傍のゴルフ場だった。オープンの日には森小路宮に付き添って、前月に代替わりしたばかりの若宮に三番ホールでイーグルを取らせてやったっけ。あいつ、戦死するまで自慢にしてやがった。十年足らずで軍用地になって予科士官学校、振武台って命名されたのは十六年だったっけ……特務の五人が、ここの出身だったな。
「手続き終わったから行くぞ」
安倍先生の声で我に返る。
「今日は無理言ってごめんね、そのかわり、今日は食べ放題だから、しっかり食べて言ってね。あ、わたし、青雲社の森っていいます。あ、晴美、いや、安倍先生とは大学の同期。よろしくお願いします」
「「「「よろしくお願いしま~す!」」」」
雑誌社の女性。先生の友だちで、今日の取材を企画した張本人だ。顔合わせの挨拶をしている間に広報の隊員が控えてくれ、挨拶のキリが付いたところで案内してくれる。
「ウワーー! おっきい!」
ノンコが感激のバンザイをする。気持ちは分かる、学食の三倍はあろうかという食堂は壮観だ。森さんと広報さんの話では、こういう大食堂が基地内には三つもあるらしい。
「バンザイだけにしとけ!」
興奮のあまり走り出しそうなノンコの襟首を捕まえる清美、友里は行儀よく立っているが、隊員たちの控え目な注目が集まっているのを分かっているようだ。学校に居る分には1/800の生徒に過ぎないが、若い男性ばかりの駐屯地ではやっぱ注目される。むろん無遠慮にジロジロ見られることは無いが、視野の端に捉えられたり、ガラスに映る姿を見られているのは分かる。
ただ、個人差があるようで、ノンコと清美は分かっていない。清美がノンコを叱るのは、清美の常識から外れているからだ。渋谷や原宿に居ても、同じようにしているだろう。
「さあ、さっそくですけど、こっちのテーブルへ!」
「「「「うわーー!」」」」
全員が感嘆の声をあげた。テーブルの上には人数の七倍分のランチが並べられていたのだ!